★ 鎖師

 カーカバードにおけるマンオーク(オークと人の混血種族)はスヴィンと呼ばれ、彼ら独自の集落を作って暮らしている。とはいえ普通に会話も成立するし、食文化に大きく違いがあるでもなし、酋長の娘はヒロイン要素満載だ。
 スヴィンたちの住むトレパニは農村であり、周りには畑が広がっていて自給自足の暮らしをしているようだ。だが、そんな彼らの中にもはぐれ者はいるのかもしれない。カレーでは、鎖師として働いているスヴィンと出会うイベントが存在する。

 この鎖師の出身がトレパニなのか、それとも他の土地から流れてきたスヴィンなのかは不明だが、トレパニとカレーは極めて近い。おそらくはトレパニ生まれなのではないだろうか。『ソーサリー!』全四巻を通じ、他にスヴィンは登場しないことを考えても、トレパニ以外のスヴィン集落は無いものと考えてよさそうな気がする。
 となると、彼は故郷を離れてカレーに来て鎖師として大成していることになる。鎖を作る職人ということは、きっと鍛冶の技術を修めているに違いない。トレパニが農村であることを考えると、当初は鍬などを造る修行をするためにカレーに出たのではないだろうか。しかし、住人たちがこぞって罠を用意するというカレーでは鎖は売れ筋の商品らしい。彼は故郷に戻って村人たちのために腕を振るうことよりも、ここで金もうけする道を選んだのかもしれない。それもまた人生であろう。

 ところで彼から買うことができる鎖はただの鎖ではない。これがなんと魔法の鎖なのだ。弱った敵に自動的に絡みつき、身動きできなくしてしまうという品で、どう考えてもただの鍛冶屋に造れるとは思えない。スヴィンは基本的に他種族からは避けられているらしいが、ここはカレーだ。腕のいい鎖職人である彼には多くのお得意様がいるだろう。その中には、鎖に魔法を施すことができる術師の一人や二人はいても不思議ではない。何しろカレーは呪術都市でもあるのだから。
 しかし、スヴィンという種族も決して魔法と縁がないわけでない。第一巻のラストではスヴィンの祈祷師が主人公を祝福してくれるのだが、ステータスの回復のみならず、あのジャンを追っ払うことすらやってのけるのだ。アンチマジックオーラを持つ豆人すら遠ざけるとは、これは並大抵の魔法ではない。鎖師自身が魔法の鎖を造りだしている可能性もゼロではないのかもしれない。

(9/17/22)

【追記】  
 農村トレパニのスヴィンが祈祷で豆人を追い払うというのは、農作物に被害を与える害虫を取り除く祈りなどと近しい効果だったのかも?

(9/17/22)

★ ケシャブさん

 この聞きなれない名前、どなたであろう。『ソーサリー・キャンペーン』におけるダンパスの交易商である。『ソーサリー!』本編では特に名前の出てこなかった御仁であるが、TRPGナイズされた際に名前が付いたということだ。TRPGではPLとGMが対話を重ねながらゲームが進行していくので、こういった人物にも名前がついているほうがよかったりするのだ。個人的にはカントパーニの交易所の男にも名前が欲しかったところではあるが、こちらは残念ながら「とても太った男で、油じみたチュニックを着ている」とだけになっている。カントパーニは盗賊の集落である可能性が高いので、あえて名を伏せているということかもしれない。

 ところでケシャブさんであるが、これまたエキゾチックな響きの名前だ。『ソーサリー・キャンペーン』の英語原本では Keshav と綴られている。ちょいと調べてみると、これはインドの男性名で、クリシュナ神にちなむ名前らしい。やはりシャムタンティは東方なのだった。

(9/23/22)

★ Beastman


 衛兵隊長のカルトゥームは、書類に覆われた机に向かっている。他の衛兵と異なり、意外にも獣人ではないとわかる。(第四巻 パラグラフ33)

 注目すべきは「獣人」という表現だ。はっきりと言い切ってしまっている。確かに砦の衛兵たちは毛むくじゃらで、肌も黒いとされている。しかし、個人的には(もちろんもっさりとはしているのだが)人間の範疇だと思っていたのだ。何しろ第四巻には女サチュロスや鳥人らがわんさか出てくるので、彼らを差し置いて「獣人」と言われても、ちっとも獣人らしくないじゃないかと感じてしまうのである。改めて彼らが描かれたイラストを見てみると、確かにまあ牙が目立つ絵もあるとは思う。でも獣人というほどじゃない。「十あがり」のイラストなんかは明らかに人間にしか見えない。まあ先に紹介した記述はあくまでカルトゥームと比べた時の表現なので、衛兵たちの野性味が強調されているという解釈もできなくはないか……?

 ここで基本に立ち戻り、この「獣人」というワードを調べてみよう。旧訳では「黒い毛むくじゃらの生き物」と意訳されていたが、英語原文では Beastman となっている。Bは大文字だ。こいつはもしやと Titannica を参照してみたところ、見事マンパンの衛兵たちの種族名とする記事が存在していた。今のところ邦訳されていない三冊目のモンスター事典『Return to the Pit』に収録されているようだ。カタカナ化でビーストマンとなるか、あるいは別の訳語が当てられるのか……いずれにせよ「獣人」ではあるまい。これでは狼男などと混同してしまう。

 これで砦の人間率はぐんと低くなった。先のカルトゥームにジャヴィンヌ、ファレン・ワイドあたりは確実として、残るはナイロック、ヴァリーニャぐらいしか思い当たらない。これでは我らがアナランダーはさぞ目立っていたに違いない。よくも正体を隠したまま大魔法使いの塔まで到達できたものだ……

(9/24/22)

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