★ バビロニアのソーサラー

 初期国産ゲームブックの名作『ドルアーガ』三部作には、元となったゲームがある。1984年にナムコ社が発表したビデオゲーム『ドルアーガの塔』。主人公キャラクターである黄金の騎士ギルガメスを操り、60階(ステージ)からなる塔へ挑む。襲ってくる敵を倒し、隠された宝を見つけ出しながらゲームを進めていくアクションゲームだ。主人公が騎士ということで、登場する敵キャラクターもスライム、ナイト、マジシャン、ゴースト、ドラゴンなどとなっている。『ドルアーガの塔』にはこの時代としてはめずらしく、背景となるストーリーがしっかりと設定されていた。なればこそゲームブックへのアレンジも可能だったと自分は考えているわけだが……後に背景世界を同じくとするゲームがいくつか発表され、『バビロニアン・キャッスル・サーガ』と銘されるシリーズとなっている。
 先に挙げた敵キャラクターの中にマジシャンなる名前があるのだが、これは手品師ではなく魔術師で、呪文を飛び道具として放ってくるタイプの敵となっている。呪文の飛ぶスピードはかなり速く、初心者プレーヤーにとって壁となる。しかも普段は姿を見せず、いきなり現れたかと思うと呪文を放って消えていくという、なかなかに個性的な敵であった。このマジシャンというタイプの敵の中に、「ソーサラー」というキャラクターがいる。4種類の色違いのマジシャンたちは、それぞれ放つ呪文の性能が異なるのだが、この緑の衣に身を包んだソーサラーの呪文は、ファイアーエレメントとなってしばらくフィールドに残るのだ。普通に触れれば死んでしまうので、ファイアーエレメントが消えるまでの間、こっちには行動に制限がかかるということになる。ステージごとにタイム制限があるゲームということもあり、翻弄されることもしばしばである……

 さてさて。このソーサラーを知っていただきたく長々と『ドルアーガの塔』について紹介してきたわけであるが……もちろんソーサラーとは SORCERER であり、SORCERY を行使する者のことである。SORCERY はご存じの通り、48の魔法を駆使して旅する我らが四部作の『ソーサリー!』のシリーズタイトルそのものだ。それはすなわちアナランドの魔法をも指す。
『ドルアーガの塔』に登場するソーサラーは、はたしてアナランドの魔法使いだろうか? あるいはAFF2における妖術師たりえるかどうか見てみよう! ソーサラーの行動パターンは次の通りだ。「姿を現す→呪文を放つ→姿を消す」そして次に現れるまでにはインターバルがある。呪文の性能は先に述べたとおりだ。
 まずわかりやすい炎の呪文についてだが、これは HOT で説明がつく。熟達した術師であれば、炎を器用に操ることが可能だからだ。ファイアーエレメントなどと大仰に言っているが、まやかしとみて間違いあるまい。実際『ドルアーガの塔』におけるファイアーエレメントは動かず攻撃せず、単に炎の壁として存在するだけだ。そして時間が来れば勝手に消えるのである。細かい操作テクニックの話をするならば、至近距離で剣を振って扇いでやると消すことすらできる。「炎の精霊」と言うにはいささか脆弱という感は否めない。
 瞬間移動のほうはどうだろう。思いつくのは ZIP だが、魔導書によれば「金属や石を越えることはできない」とある。魔導書を調べる前は ZIP で別のフロアに行っているのではないかと考えていたのだが、ちょっと無理があるように思えてきた。となると、それらしく見える挙動としては YAZ で透明化して移動している可能性がありそうだ。しかし、ソーサラーが姿を消している間にどれだけ闇雲に攻撃してもヒットすることはない。透明になったマジシャンが全力で逃げているという想像は面白くもあるが、いまいち考察としては締まらない。やはりワープの術である ZIP で説明づけられるのが一番綺麗に収まるので、もう少し考えてみようじゃありませんか。
 改めて魔導書を読んでみたところ、「木や粘土のような柔らかい物質は越えられる」とあった。『ドルアーガの塔』の舞台となっている世界は、史実のバビロニアではないが、シリーズ名に冠されている通り、モデルとしていることは確実だ。なれば、メソポタミア文明の特色は継承していると考えて構わないだろう。そう、 日干しの粘土レンガだ! そしてゲーム画面を見るに、塔の各フロアの床はレンガで出来ている。これなら ZIP での移動が阻まれることはあるまい。

 問題は解決された。『ドルアーガの塔』のソーサラーは、ZIP→HOT→ZIP を繰り返している。必要な体力点は、1、4、1で合計6だ。ただ、この工程を延々繰り返すので、6だとすぐに自滅してしまう。『ドルアーガの塔』のマジシャンは一撃で倒せる敵なので、無限の体力を持っているとすることはできない。ここは別フロアに逃げている間に DOC を挟んでいると考えるのがよいだろう。DOCの分の消費体力点1と、そこで死なないために必要なの根性の1点を足して、ソーサラーの体力点は8と考えることができる。ソーサラーが持っている触媒は ZIP に必要な「緑の金属の指輪」と、DOCと併用する「薬、あるいはブリム苺のしぼり汁」だ。後者は消耗品なので山ほど必要になる……あの緑のローブの下に、薬瓶がいっぱい詰まっているというわけだ。

 ……となると、その体力点8を一撃で奪っていくギルガメスは恐るべき戦士ということになる。しかも初期装備でだ。こんなの『ソーサリー!』はおろか、タイタン世界でも類を見ないのではないか。もっとも、ゲーム『ドルアーガの塔』ではギルガメスは天上神アヌから「勇気を力に変える鎧」なる神具を授かっているし、元ネタであろう『ギルガメッシュ叙事詩』においては3分の2が神、3分の1が人間という半神である。そりゃあ我らがアナランダーとはちょっとレベルが違っても変ではないというものだろう。
 しかしリブラ様も、もっとボーナスつけてくれてもよいのにね。それこそ「念を骰子運に変える杖」みたいな。

(1/23/24)

★ 無尽の宝

 ナイロックの店で売っている銀貨。こいつは罠的なアイテムで、購入した場合、背嚢に焦げ穴を作って勝手になくなってしまう。焦げ穴ということは、銀貨自体が熱くなっていくと考えられるが……これを防げるのはナイロックが決して手放さない袋だけだ。この悪賢い商人は普段銀貨を袋に入れた状態で店に並べており、買い手には中身のみを渡すというわけだ。しかもこの袋は銀貨を産み出す魔法の力を持っていて、ナイロックはいくらでも銀貨を補充できる。ズルい。ズルすぎる。

 ところで、この銀貨が売り物になっているということは哀れなアナランダーの他にも被害者がいるはずである……つまり、マンパン砦のあちこちに熱を持った銀貨が落ちていなければおかしい。しかし、第四巻の冒険においては一切そのような拾い物はなかった。ということは、このペテンは砦の連中には知られており、今更引っかかるような奴はもういないということになるだろうか。ナイロックもアナランダーが見慣れない新顔であったからこそ、銀貨を売りつけてきたのだろう。
 さてナイロックが機会ある毎に銀貨を売っていたと思われる以上、過去砦の床に落ちた銀貨の枚数は相当数ということになる。銀貨は背嚢に穴をあけて失われると説明されているが、その存在が時間とともに消え失せるとはどこにも書かれていない。これは、誰かが拾い集めているに違いない。金貨よりも価値の劣る銀貨ではあるが、ちょっとした財産であることは確かだ。銀貨を拾う輩はその熱さに驚くだろうが、何とかしてしまい込むだろう。そう、壺にでも放り込んでおけばいい。

 ……まあ誰が拾っているにせよ、最終的にはヴァリーニャのもとに集まっていきそうな気がする。あの守銭奴なら、この不思議な銀貨の出所を調べているに違いない。銀貨の数だけナイロックの詐欺に引っかかった者がいるわけで、ちょいと本腰入れて聞き込みをすれば、比較的簡単にナイロックにたどり着けそうな気がする。ヴァリーニャが虎視眈々と「無尽の宝」を狙っているのは確実であろう。

(1/24/24)

★ Hill Dwellers

『ソーサリー!』の第一巻の舞台であるシャムタンティ丘陵。この地のモデルはネパールのポカラ地方であるとスティーブ・ジャクソン氏自身が語っている。ポカラはヒマラヤ山脈の近くにあり、当然丘陵なんてものではない。『The Shamutanti Hills』のタイトルにもある Hill とは小山や丘を指し、山に比べるとなだらかであるわけだが、本文中の描写を読むと半日登りっぱなしなど中々に高低差があるようだ。過酷なタイタン世界ということで、丘陵とはいえ現実世界における一般的な Hill よりはダイナミックで大仰な地形であると思われる。

 創土版ではクリスタタンティの住人たちは「山の民」とされている。これは原文では Hill Dwellers と書かれていて、つまりは「丘の民」というわけだが、日本語だと確かに「山の民」のニュアンスになる気がする。ちなみに Hill Dwellers という語がでてくるのはクリスタタンティだけのようだ。クリスタタンティの者は例の髪形をしていたり、別の地でも話題に上がったりするなど、他の集落とは明らかに区別されている。この Hill Dwellers には未開人という意味合いが少なからず含まれているに違いない。Beastman などの例から、これが人間とは別の亜人種族だとされてもおかしくはない程度には感じてしまっている自分がいます。

 以下余談。創元版第一巻パラグラフ28における「ヤング・ヒルの住人」は「Young Hill Dwellers」の訳となっていて、実は「丘の民の若い衆」というわけですが、まあ原文における大文字のせいではないかと思うところであります。パラグラフ266にも Hill Dwellers というワードがありますが、こちらは単に「村人」と意訳されていますね。創土訳は「山国の若者達」及び「山の民」となっております。

(1/29/24)

【追記】 
 ダンパスの住人もまた、 Hill Dwellers となっていました。とは言え、あの髪型はクリスタタンティ独特の風習のようであります。

(2/19/24)

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