マンパン砦の中庭で出会う物乞いの老婆ジャヴィンヌ。視力を失い、物見たちに虐め抜かれている彼女であるが、以前はマンパンで羽振りのいい暮らしをしていたという。腕のいい治療師だったのだが、とある理由で罰を受け、今の境遇へと落ちたのだ。
さぞ悲惨な日々を送っていると思しき彼女であるが、実はそうでもないのかもしれないと思えてきた。なぜならば、このマンパンという場所で、どうにかして生きているからだ。物見のような輩もいるとはいえ、砦の連中が彼女に「お恵み」を与えているのは間違いがない。懐にパン一斤を持っているぐらいなのだ。
彼女は大魔導への抵抗勢力である「シンの篤志家たち」と繋がりを持っている。つまり、鳥人たちは日頃彼女と話したり、銅貨を恵んだりしている可能性が高い。篤志家たちが目立つ行動を取るとは思えないので、少なくともジャヴィンヌと話していても不審に思われない程度には、彼女と鳥人たちの間にはやり取りが繰り返されているはずだ。先に述べた通り、彼女は以前は治療師だった。砦の外敵と戦うことも多い鳥人たちの中には、お世話になった者も多いのではないだろうか。かつては贅沢な生活をしていたというからには、払うものさえ払えば誰であろうとも癒してやっていてもおかしくはあるまい。
他の連中はどうだろう? この中庭には衛兵たちや赤目らもいるが、ジャヴィンヌが恨みを抱いているのは三人の物見たちだけだ。赤目なんぞはいかにも盲目の老婆を虐めてそうだが、そんなことはないらしい。となると、彼らもジャヴィンヌの癒しを受けたことがあったのかもしれない。
ジャヴィンヌ自身の言によれば、物見たちは大魔導に忠誠を誓っており、アナランドに領土を約束されているという。そもそも物見とはアナランドに住む種族だ。砦にいる三人は裏切り者なのである。以前物見たちが冠強奪に手を貸したのではないかと考察したことがあるが、もしそうなら彼らはマンパンに来てまだ日が浅いことになる。ジャヴィンヌは既に物乞いに落ちていただろう……彼女に対して恩も敬意も持っていなくても不思議ではない。
よほど人望がなかったと見え、我らがアナランダーが件の物見たちを殺してしまっても中庭の連中は騒ぎ一つ起こさない。しかし同時に、物見たちがどれだけジャヴィンヌを虐めようとも、同じく咎めはしなかった。これは彼女が罰せられた罪人だからだろう。
【追記】
ところで、この中庭にいるレッドアイたちだが、彼らは半年前にマンパンへやってきたと語っている。先の考察によれば、サイトマスターたちはレッドアイよりも新参者であるほうが辻褄が合う……レッドアイたちはジャビニー(★ジャヴィンヌ)を虐めていないからだ。もしも既にサイトマスターに虐められている老女を後から知ったのなら、レッドアイたちが加担しないとは思えない。
しかしだ。Titannica - the Fighting Fantasy Wiki に「283AC: The Crown of Kings was stolen from Analand by Birdmen from Mampang on Stormsday 16th of Watching.」とあるのは無視できない。アナランドの項である。Watching というのはアランシア歴における第八の月、季節は夏とのことで、つまりは8月だと思えばよい。8/16日がブラックムーンの夜であり、アナランドから王の冠が失われたその日なのだ。そして、我らがアナランダーが旅立ったのが6月上旬なので、実に8ヶ月もの間、アナランド人の勇者は訓練を重ねていたことになる。これでは、レッドアイたちのほうがサイトマスターたちよりも後からマンパンにやってきたことになってしまう。困ったぞ……
先の考察を捨て、裏切り者のサイトマスターたちは冠強奪には関係がなく、砦に居ついたのも最近のことだと考えてみよう。そうなると彼らはアナランドが冠奪還の準備をしている間、それに気づいていなかったことになる。もしも知っていたのなら、七匹の大蛇を全て倒していたとしても、例の特典は得られなかったはずだ。ジャビニー曰く、サイトマスターたちの大魔導への忠誠は確かなものなのだから。となると、やはり彼らはアナランドの動きを知らなかったことは確かだ……大まぬけなのだろうか? いやいや、さすがにそれはどうか。どうにか辻褄の合う可能性を探してみようじゃないか。
先ずはサイトマスターたちがブラックムーンの夜、つまり昨年8月よりも前にアナランドを裏切り出奔していたケースが考えられる。砦に着いたのはレッドアイよりも後、つまりここ半年以内のことするとして、少なくとも3か月強をかけてマンパンにたどり着いているわけだ。カーレの北門を如何に超えるかが問題となるが、それだけ時間があれば何とかできたとしておこう……だが、そもそもサイトマスターにカーカバードを超える旅ができるだろうか? 彼ら3人の技術点は平均して6.33...、体力点は4.33...だ。正直これは厳しいと言わざるを得ない。旅路の途中でクラッタマンの餌食にでもなって野垂れ死んでいるほうが自然ではないか。
やはりサイトマスターたちは冠とともにマンパンへやってきたはずとするのであれば、レッドアイたちが老女虐めに加担していない理由が欲しいところだ。ちょいと思い返してみると……彼らはスラング教徒である可能性があった。もしもジャビニーが同じスラングの信徒であれば、いかにレッドアイであっても彼女に手を出さないのではないか? 残る問題は癒し手であるジャビニーが悪意の神を信奉しているかどうかだが……まあ、よりによってマンパンで一旗あげようと考えたぐらいだ。無いとは言えなくもあるまい。
チャクラム。これはインドの投擲武器で、手裏剣のようなものだ。鋭い刃が外側についた薄い輪の形をしていて、指にひっかけるようにして回し、遠心力でもって飛ばす。自由自在に狙いを定めるには熟練の技が必要だが、達人の手にかかれば恐るべき凶器となる。このチャクラムが『ソーサリー!』にも登場している。第三巻に登場するレンフレンからもらうことができるのだが、先に述べた通りこいつはインド由来のアイテムであり、自説である「カーカバードのモデルはアジア」を裏付ける根拠の一つとなっているわけだ。
ところで、チャクラムとはそう簡単に扱える代物ではないと思われるのだが、我らがアナランダーは実に器用に使いこなしているようだ。入手時の説明によれば、2D6の判定で技術点以下を出せば命中して2点のダメージをあたえることができるとある。これはなかなかの手練れではないか。本文中には「鋭い刃のついた円盤」と書かれており、円環状とは明記されていない。ただの円盤なら扱いも少しは簡単なのかもと思われるが、持ち主であったレンフレンがチャクラムを使ってこなかったことからして、誰にでも扱えるものでもないと考えられる。レンフレンも誰かから奪ったに違いない。彼は幻術を使って旅人を襲う追剥ぎの輩だからだ。
幻術といえば、カーカバードの魔法使いたちの使う術はアナランドのそれと類似点があることが散見される。カレーの絵描きがKINに似た複製魔法を使う際には、鏡の代わりに肖像画を触媒としていた。フェネストラやアリアンナ、そして商人ナイロックは、術の触媒となるアイテムをそうと理解したうえで扱っている。レンフレンの幻術にも、アナランドの幻影魔法KIDとの類似点があるのではないか?
KIDの触媒は「真鍮の振り子」だ。だがレンフレンはそれらしい品は所持していない。彼が持っている触媒は「黄色い粉末」だけだ……魔法使いならこれはどうだと出してくるあたり、レンフレンがもつ魔術の知識もアナランドのそれに近いようだ。彼の幻術とKIDの間に何か繋がりがあるほうが自然に思える。
そこでチャクラムである。チャクラムがインド式であったのなら、円環状のはず……つまり、糸を通して振り子にすることができたに違いない。五円玉を使って催眠術の道具にするなんてイメージは日本人なら誰でも持っているだろう。五円玉もそうだが、振り子は真鍮でできている必要がある。このチャクラム、きっと真鍮製だと思われるが、いかがであろうか?
「歯」を蒔くことで、その生き物を召喚する GOB と YOB。元ネタはギリシャ神話のカドモスの話およびイアソンの冒険譚に出てくるスパルトイと、後者がモチーフの映画『アルゴ探検隊の大冒険』であることは疑いがない。特に『アルゴ探検隊の大冒険』では骸骨兵が生まれてくるわけで、所謂「竜牙兵」にダイレクトにつながっている。『ソーサリー!』においてはスケルトンではなく、生きているゴブリンと巨人というところが元々のスパルトイに近い。基本的には戦わせるための術だが、時には曲芸をさせたりもする。このあたりの応用描写は如何にも伝承的な「魔法使い」という感じがでていて面白い。
GOB と YOB の触媒は「歯」なのだが、日本語版AFF2『ソーサリー・キャンペーン』の付録である『ソーサリースペルブック』においては、YOB には「巨人の奥歯」が必要とされている。単なる歯ではなく、奥歯なのだ。『ソーサリー!』の「アナランドの魔導書」においては、過去の創元版・創土版いずれも「巨人の歯」となっている。英語原文でも「tooth」だ。何故「奥歯」になっているのだろうかと思いつつも、自分も何となく奥歯のイメージがあったのも事実……不思議に思いつつ、ちょっと調べてみた。
結論を言うと、本文中の描写によって奥歯という印象がついていたと、こういうわけであった。カントパーニで買い物をすると、生き物の歯の詰め合わせの中に、巨人の「臼歯」が入っている。同じく「巨人の歯」が入手できるのカレーの交換屋だが、ここでは単に「歯」となっていて、特に奥歯とは書かれていない。あとはリー・キで巨人の死体から直接採取できるのと、フェネストラと触媒の物々交換による入手経路があるが、いずれも奥歯とは明記されていない。カントパーニは序盤の序盤だけあって、印象に強く残ったということだろう。
ちなみに魔導書における BIG のイラストには、魔法の巨人が触媒である「歯」から現れ出でる様子が描かれている。ここに見える「歯」は明らかに牙だ。臼歯ではない。
【追記】
この『ソーサリースペルブック』はかつての英語版初版に付いていたものではなく、あくまでTRPGであるAFF2用の『ソーサリー・キャンペーン』の付録だという事実は考慮する余地があるように思う。というのは、行動を選択肢という形で制御できるゲームブックとは違い、会話のゲームであるTRPGでは人間の想像によってありとあらゆる結果が生まれうるからだ。
例えば、巨人を倒した後、歯を全部抜いていくなんてことも普通にありうるわけで、これが YOB を習得している妖術師と組み合わされば一気にバランスが壊れることは想像できるだろう。だが、「奥歯」と限定しておけば、抜いて持って行けても4本とすることもできるし、なんなら「この巨人は過去に歯を食いしばって力を振るっていたらしく、奥歯が数本欠けていた」なんて形で、入手できる本数をGMがコントロールすることも可能なわけだ。
タイタン世界における巨人は強力な種族である。それが故に、こういった「調整」可能な部分を作ってやる必要があるのは確かと自分には思える。
【追追記】
同じくグループSNEによる邦訳、FFコレクション版でも「巨人の奥歯」となっていますね。FFコレクション版においてはアイテム名は【】で括られており、すべてのシーンで「奥歯」になっているようです。