第11回

「レナードの朝」 Awakenings(1990)

− 私の知るかぎり、ペニー・マーシャル監督は人間に対して深い愛情と、女性らしい優しさを持った美しく純粋な映画を作る人だと思います。「ビッグ」では、大人の世界にあこがれた子供と女性との恋愛ファンタジー、 「プリティ・リーグ」では女性だけの野球リーグで活躍する女性たちの友情や家族愛の物語を描きながら、いずれの作品においても現代社会の抱える心の問題を取り上げ、現代人の忘れかけた心を優しく甦らせようとする温かい愛情に満ちたメッセージを投げかけています。今回紹介する「レナードの朝」もそんな彼女の魅力がたっぷりつまった名作といえるでしょう。

ロバート・デニーロ ペニー・マーシャル ロビン・ウィリアムス

− この作品の大きなテーマは「生きる」ということです。人間は何のために生きているのか。生きる喜びとは何か。そういった問題に対するこの映画の答えは実に簡単で、分かり切ったことではあります。その答えは、呼吸をし、散歩をし、人と話し、人を助け、そして何よりも恋をする、即ちただ生きることなのですから。落ち込んだり、悩んだりしたときには、誰もが考えたり、慰めの言葉として使ったりすることですが、それを納得させるための方法として、この作品は「眠り病」という難病にかかった患者と一時的に治療に成功した医師との実話をもとにした物語を選びました。30年近く植物状態おかれていた患者が再び命を与えられたほんの短い間にいかに生き、何を与え、何を受けたのか。ペニー・マーシャル監督は、その患者と家族、医師たちの物語を決して大げさに描いたり、派手に描いたりすることなく、丁寧に、そして丹念に作り上げ、人生について、家族愛、男女愛、ひろげて人類愛について静かにメッセージを投げかけ、感動を与えてくれます。もちろん、セイヤー医師を演じたロビン・ウィリアムスと患者のレナードを演じたロバート・デニーロのすばらしい演技を抜きにしてその感動はあり得ないでしょう。ウィリアムスは医師とか教師とか演じることが多いですが、私の観た中ではこの作品がもっとも良かったと思います。デニーロは評価を受けやすい役柄だとは思いますが、やはり演技の巧さには脱帽です。この二人の演技があってこそ感動が生まれたのは間違いのないところでしょうが、映画の中に二人をしっくりと溶け込ませたマーシャル監督の手腕もまた一級品だと思います。

− 私にとって今までこの作品ほど感動し、涙が止まらなかった映画はありません。詳しい内容を紹介するのは避けますが、患者のレナードの純粋で献身的な行動によって医師たちが得たものと、逆にレナードが受けた愛情のエピソードに涙を抑えることはできないと思います。個人的には、レナードと恋心を抱く女性とのエピソード、レナードの仲間を思う献身的な行動、セイヤー医師と看護婦との恋物語、そして切なすぎるラストシーンに顔が崩れるほど涙が溢れてきました。それと同時に、人生に前向きな気持ちで臨めるよう勇気づけられたのです。

− このすばらしい映画を作り上げた監督と出演者、スタッフに心から拍手を送りたい、そんな気持ちになれる、ぜひご覧になっていただきたい珠玉の一編です。(1999.8.29)

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