第6回

「ダイハード」DIE HARD(1988)

− 今回は、アクション映画の傑作「ダイハード」を紹介しましょう。私はこの映画を観たとき、10年に1度のアクション映画だと興奮しまくったのですが、10年たった今もこの映画を超えるアクション映画は現れていません。それほどこの映画はそれまでアクション映画のパターンを打ち破り、その流れを変え、超えることが難しい傑作アクションだったのです。

− それまでのアクション映画といえば、弾丸や爆発の数の多さばかりを競い、それが多いほど面白くなるのだといった間違った考えが主流でした。さらにそのスピード感を出すために、車や、飛行機等を使い、文字どおり「スピード」を速めることばかりが考えられていたのです。数多くの人たちがアクション映画の面白さを模索しながら、ついには袋小路に陥ってしまっていたのです。そんな状況に風穴を開けたのがこの「ダイハード」でした。

− 主人公、ジョン マクレーン(ブルース ウィリス)は離婚の危機に直面したしがない警官です。クリスマスの夜に妻の働く事務所を訪れ、そこで発生した事件に巻き込まれるのです。それまでのアクション映画は前述のとおり大量の爆発やカーチェイスが必要だったため、その舞台は横へ横へと広がっていました。ところが本作では事務所のビルという制限された空間の中で見事なアクションが繰り広げられます。この舞台設定が、この映画がそれまでのアクション映画の常識を覆した一番大きなポイントです。閉ざされた空間からの脱出というのは従来パニック物の定番ではありますが、事故や災害の代わりに強盗団、救世主に刑事を配した事で、アクション映画に上手く昇華させたのです。このアイデアは後の数多くの映画に利用されました。「スピード」シリーズのバス、地下鉄、船、「沈黙の戦艦」の船、最近では「エアフォースワン」の飛行機等、もともと「ダイハード」の続編として考えられていたアイデアの盗作とも言えるような設定も含め数多くの映画に影響を与えたのです。それらのお陰で、この映画の続編が作りにくくなり、2、3と続く続編が失敗作になってしまった一因にもなったといえるでしょう。ファンとしては、それらの舞台でマクレーンが暴れまくる姿をぜひ観たかったのですが、ここで愚痴をこぼしても仕方がないので、この映画に話を戻しましょう。

ダイハード

− 第2のポイントは、巻き込まれ型の展開でありること。大体巻き込まれ型の主人公は弱々しい人物が普通で、サスペンス物や、コメディなどに良く使われていた展開です。主人公が問題児的な刑事であるというのはアクション映画としては特段新しいものではありませんが、大体の場合、正義感にあふれた超人的な警官が、凶悪犯人を追いながらアクションが展開されるというのが、お決まりのパターンでした。この舞台設定の場合にも、刑事の主人公が外からビル内に潜り込んでいって、仲間と連携をとりながら事件を解決するというのが簡単に考えつくストーリーでしょう。ところが、本作の主人公は、非番にたまたま現場に居合わせた管轄外の刑事です。刑事という設定は、腕力があり、銃を持っていて、正義感と推理力があるといった要素を説明抜きに主人公に与えられるという役割に過ぎないのです。その結果、ビルの内部と外部は完全に遮断され、緊迫した展開が繰り広げられました。

− 次に、主人公が決して超人的なキャラクターでないこと。それまで、アクションヒーローは数多くの敵と戦うに足る腕力と武器を持ち合わせており、どれだけ戦っても体力が落ちない超人的な人物が普通でした。それはそれで悪いというわけではありませんが、長い間、そういった主人公ばかりが続いてしまったために、明らかに見る側は飽きていたのです。そこに、ちょっと暴れん坊ではあるものの極めて普通の(妻がいて、子供がいて、普通に働いている)人物が悪と戦う羽目になってしまうという非常に新鮮な主人公が登場したのです。しかも彼はろくな武器も持たず、Tシャツに裸足という、丸裸同然の姿で戦わざるを得なくなり、戦うごとにぼろぼろになっていき、うろたえたり、弱音を吐いたりするのです。

− それに加えて、これらの真新しい設定を生かす、すばらしい脚本があるのも間違いありません。どんな映画もそうですが脚本が悪ければすべてはぶち壊しになってしまいます。1作目というのは、主人公や周辺の人物の説明のための描写が多いのが普通で、そのおかげで大体のシリーズ映画は1作目が面白くなるのですが、まず、マクレーンと妻ホリー(ボニーベデリア)の関係を説明する描写が実に良いのです。それも、夫婦は最初と最後以外、一度も顔を合わせないのに、二人の心が近づいていく様子が上手く描かれています。仕事しか見えなかった妻とそれを理解してあげられなかった夫が事件を通して、互いの心が近づいて行き、最後にホリーが会社からもらった名誉の象徴であるロレックスを犯人から逃れるためにはずされることで、本当の夫婦仲を取り戻すというさりげない脚本もとてもしゃれています。もう一つは、パウエル刑事(レジナルド ベルジョンソン)との友情物語。彼らは事件中に知り合い、徐々に中を深めていくのですが、それはすべて、無線で行われる会話によるものです。この互いに顔の見えない二人の友情物語が実にすばらしいのです。最後に初めて互いの顔を見たときの二人の表情がすごく良くて、きっと新鮮な感動を受けることでしょう。最後に、パウエルが銃を撃てるようになったというおまけもついています。

ブルース・ウィリス

− その他の人物についても話を面白くさせるために実に上手く配置されていて、脚本の良さが光ります。本当によくできた脚本です。人物設定も、強盗団にドイツ人、狙われる側に日本人、それを救うアメリカ人とそれを助ける黒人アメリカ人と世相を反映してなかなか考えられています。変な日本人描写が多い中、この映画で出てきた日本人、高木社長(ジェームス シゲタ)は毅然として格好良く、なんかうれしかったものです。同じような舞台のパニック映画の名作「タワーリングインフェルノ」へのオマージュ的なシーンもあったり、小道具の使い方もいちいち上手ったり、そういった細かい配慮が行き届いた映画を見ると本当に気分がいいです。FBIの描き方などはちょっとふざけてるとは思いますけどね。

− 好きな映画を誉めだすときりがなくて、また文章が長くなってしまいましたが、そんなわけで、いまだにこの「ダイハード」は私のアクション映画ベスト1なのです。

− 最後にスタッフの紹介をしましょう。主人公はご存知ブルース ウィリス。彼はこの作品で一躍大スターになりました。その後しばらくは、調子に乗って失敗しかけましたが、最近では、「パルプフィクション」や「12モンキーズ」など、味のある役で復活しました。妻ホリーはボニー ベデリア、本シリーズ以外では「推定無罪」等に出演しています。強盗団にはアラン リックマン、アレキサンダー ゴドノフ。ゴドノフは「目撃者」での善人から一転、極悪人を演じてびっくりでした。監督はジョン マクティアナン。「プレデター」で注目され、本作に抜擢、「レッドオクトーバーを追え!」でも骨太な演出をしています。その他はぱっとしませんが、脚本が良ければ、いい演出すると思うんですけどね。音楽は第九等、クラシックを上手く使って盛り上げています。一部「エイリアン2」の音楽が使われていて、ちょっと問題にもなったりしましたけど、まあ良しとしましょう。(1998.4?)

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