第13回

さびしんぼう (1985)

大林宣彦

− 大林宣彦は、その作品の中で、恥ずかしさと切なさの間のぎりぎりのところで語りかけることが多く、もう少しでも台詞がわざとらしくなったり、演出が偏ったりすれば、私自身もこれほど魅了されたかどうか分かりません。それは彼自身にもいえることで、ややもすると自分の世界に入り込みすぎた言動には苦笑してしまうことさえあるのですが、私にとってそんな彼から生まれる微妙なバランスをもった映画の世界は、言い表せない切なさとなって心にしみ込んで来ます。そんな彼の持つ独特の世界には嫌悪感を抱く方も中にはいると思いますし、誰もが感銘を受けるかどうかは疑問です。ですから誰にでも推薦できるとは思いませんし、推薦したところで同じ感動を持っていただけるかどうか不安ではあります。しかし、大林宣彦に触れ、のめり込むきっかけとしてお役に立てたらとても嬉しく思います。

さびしんぼう

− このような微妙なバランスを持った彼の世界、いわゆる大林ワールドの魅力が最も現れた作品は、彼の故郷「尾道」を舞台とした、「転校生」、「時をかける少女」、「さびしんぼう」の3作品、いわゆる「尾道3部作」といって良いでしょう。どの作品もそれぞれ魅力的で大好きな作品なのですが、そのなかでも私が最も好きな作品が今回紹介する「さびしんぼう」です。この作品は3部作の中で最も彼の様々な思いが強く注がれているといっても良い作品で、彼の世界が十分堪能できると思います。しかし、逆にいえば、初めての方にとって、この作品から大林の世界に足を踏み入れることは危険な賭けかもしれません。

− この作品は母と息子の愛情をテーマとし、「さびしんぼう」という不思議な少女を登場させることで母子それぞれの青春時代の初恋物語を同一時間上で展開させながら、互いに対する微妙な愛情を確認していくというファンタジー物語です。母親を最も理想の女性像としていた幼い頃の気持ちを残す少年時代と少年時代に過ごした故郷への思い、そして大人になって忘れてしまった子供時代の夢や理想を巧みに重ね合せた、切なく、ノスタルジックな佳編だと思います。

尾見としのり

− 主人公は寺の息子で、カメラ好きな高校生。近くの女子高に通う女子高生に恋心を寄せています。とはいっても告白できずにファインダー越しに見つめるだけの日々。ある日から時々現れる、妙な仮装をした不思議な女の子「さびしんぼう」と母親の物語がこの二人の淡い恋物語と絡み合い映画は進んでいきます。その内容は、特に今のような時代にとっては誤った解釈をも許してしまうような微妙な内容で、もはや主人公の恋心やら恋物語、親子間の感情は理解不可能な時代になってしまっているかもしれないという不安は若干あるのですが、一種の理想の夢の世界として受け入れ、その中に切なさを感じとっていただけたら、と思います。少なくともそういう要素をもった、そしてほんの15年程前(えらく昔ですねえ)には多くの人に受け入れられた物語なのです。

− 私がこの作品をはじめて観たのは、初公開より何年も後、「転校生」をたまたまテレビか何かで観て大林に興味を持ってからなのですが、この「さびしんぼう」を観てから、つい最近(といってももう8年近く前・・)まで、「新・尾道シリーズ」が始まり、映像や起用される俳優、作曲家に違和感を感じるまでは、大林ワールドの虜となり、全ての公開作品を観に行っていました。そのきっかけとなったのが、この「さびしんぼう」なのです。もし、この作品を観て、思わず赤面してしまうような台詞やナレーション、どこかチープで手作り的なSFXに魅力を感じ、10代の俳優に平気で20代後半の役をやらせてしまうというような強引な演出をすんなり受け入れられるようになったらもうあなたも大林ワールドの一員ですね。

− 主演は大林映画には欠かせない尾身としのり。さびしんぼうに富田靖子。常連の小林聡美もゲスト出演のような形で登場します。お父さん役にはまだメジャーになる前の小林稔二が出ています。 (2000.9.16)

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