第1回

「尾 道 〜大林宣彦のふるさと〜」(1998.6)

− 大林宣彦は、その土地の匂いを感じる映画を作る事のできる数少ない日本映画監督の一人でしょう。彼は、その独特な暖かい表現と語り口で、舞台をより一層魅力的なものにする力を持っています。彼の舞台の中心は、彼のふるさと広島県尾道市の小さな町です。

尾道

− 「転校生」、「時をかける少女」、「さびしんぼう」、いわゆる尾道3部作で大林宣彦の世界に魅せられ、いつかは尾道を訪れたいと思い続けて何年になるでしょう。先日ついに念願かなって、憧れの土地を訪ねることができたので紹介します。

− 尾道は海に面した、丘に広がる小さな町で、そこに数多くのちいさな寺があります。大林映画の主人公に寺の息子が多いのも当然でしょう。舞台の中心となる駅北は数多くの寺があり、日本的な家屋が並んでいますが、細い石畳の路地が入り組み、所せましと家が並んでいるあたり、さながらヨーロッパの風景のようです。このあたりが尾道の魅力の一つにもなっているのでしょう。丘の上には千光寺があり、尾道の町を見下ろしています。そこにはロープウェイで上ることができます。私が行ったのは連休だったこともあるのか、観光客でいっぱいでした。ロープウェイで上がると、小さな公園があり、そこから尾道の町を一望できます。町を眺めていると、前記の映画達や、その他の大林作品がしみじみと思い出されて、感慨ひとしおです。公園から、文学のこみちを通って、千光寺に行くことができます。公園と文学のこみちは「転校生」のロケ地となりました。文学のこみちは志賀直哉や林芙美子等の句碑が点在するこみちです。撮影は志賀直哉の碑の前で行われたそうです。一周して公園に戻ってきたら、下へ降りる前に、名物のかりんとうを買って帰りましょう。映画とは関係ありませんが美味しかったので紹介しておきます。

文学のこみち

− ロープウェイで下りると乗り場のすぐ前にはワッフル専門店「こもん」があります。おそらく尾道で一番オシャレな店で、映画にもたびたび登場しています。朝から混んでいて、私たちは朝一番に行ったのですが、店を出るときには、もう何人か並んでいました。ここで、大林監修のガイドブックa movie book[尾道]を買うとよいでしょう。観光の手助けになってくれるはずです。ワッフルは美味しいですが、忙しいので作り置きみたいでした。駐車場も尾道には珍しく広いのですが、こっそり置いて観光しようものならご主人に呼び止められるので、悪いことを考えるのはよしましょう。駐車場は国道2号線にでて右手に有料駐車場があるのでそこに停めておきましょう。前述のとおり、道は2号線を除いては全部狭く、車を使うにはとても不便なところですが、その分、時間がゆったり流れている感じがするので、のんびりできることでしょう。

− さて、そこから北東に10分くらい、雰囲気のよい軽い上り坂の石畳の路地を行くと、「転校生」の主人公2人が石段から落ちて入れ替わってしまった、御袖天満宮があります。学問の神様が奉られているらしく、撮影時には、「転げ落ちるとは何ごとだ」と怒られたエピソードもあるそうです。石段を登ると左手にはトトロが出てきそうな楠の木があります。この周りでメイよろしく飛び跳ねてから、左手にある鐘を鳴らして戻りましょう。階段を降りてしばらく行って、左手に数分行くと「時をかける少女」のロケ地となったタイル小路があります。一見すると何ていうことのないどこかのおじさんがタイルを埋め込んだだけの道ですが、映画の力の凄さでしょうか、とてもいい雰囲気です。ファンが持ってきて集まったと思われるタイルのほかに、便所の落書きのようなタイルもありました。そこを通り過ぎて坂を登っていくと、福善寺があります。こちらは「転校生」のロケ地です。尾道は本当に坂の多い町で、観光で行った私たちにはそれもいい雰囲気を感じる要因にもなっていると思うのですが、住んでる人、特にお年寄りにとっては、深刻な問題のようです。前述のとおり車も使えませんしね。

御袖天満宮

− 福善寺の脇の墓地を通ってさらに坂を登ると、古寺巡りもできますが時間もなかったので、文学記念館へと向かいました。そこには「さびしんぼう」の富田靖子の人形が置いてあるので、それだけで見に行ったようなもんです。文学記念館は2号線に戻って10分ぐらい西に向かうと看板が出ているので、すぐに分かるでしょう。線路をくぐってまた坂を登っていくと、地形を利用した小さな公園があり、その公園の一番高いところにあります。志賀直哉の旧家の一部を利用した小ぢんまりとした建物です。入り口から尾道にまつわる映画のスペース、林芙美子のスペース、志賀直哉のスペースとなっています。映画のスペースには大林を中心に「東京物語」等古いものまでありますが、尾道が舞台となった映画って以外に多いのですね。ここでは黄色のジャンバーを着た、2人のおじいさんが親切に説明をしてくれます。また来館者全員に丁寧にもおいしい昆布茶を出してくれます。さびしんぼうの横に座って、景色でも眺めながら、御茶をすすりましょう。入館料は200円です。

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