第11回
「シックス・センス」The Sixth Sense(1999)
− この映画には大きな秘密があるということはひとつの宣伝文句にもなっていますから、ご存知の方も多いことでしょう。実際、その秘密の部分はこの作品を魅力的にする上で事前に知るべきではないのは間違いないことなので、その内容については触れることなく紹介したいと思うのですが、その部分に触れることなしにしてこの作品のよさを伝えるのは非常に困難なことでもあります。ひとつだけ言えることは、その宣伝方法によって私が勘違いしていたように、多くの人がこの作品がサスペンスホラーの娯楽大作だと思っているとしたら、それは大きな間違いだということです。超常的な題材を扱ってはいるものの、この映画の本当の姿は、家族愛や夫婦愛をテーマにした暖かい愛情と切なさを持った魅力的な小品なのです。
− 小児精神科医の名医である主人公は以前治療にあたった患者が自殺をしてしまったことに責任を感じ、同様な症状の少年を救うことで償いをしようと考えます。その少年は死者の霊を見ることができ、それらに絶えずおびえ、精神的に不安定になっているのですが、父親と別れた母親はそんな息子を理解してあげることができず、母子関係は最悪な状態でした。主人公もその少年は両親の離婚による精神障害だと信じ治療にあたるのですが、あまりに真剣になりすぎたために、自分の妻との関係が悪化してしまいます。このような壊れかけたお互いの家族関係が主人公と少年の交流を通して修復され、最後には家族の心が通じ合っていくというのが大まかなストーリーです。
− 家族関係が希薄になった最近では、家族愛をテーマにした映画は少なくないのですが、大抵の場合は相手を信じなさいとか、会話をしなさいとかいう定番の結論になるのは仕方のないことで、この作品も例外ではありません。逆にいえば、その他には考え得ないその結論をいかに観客に印象的に訴えかけられるかが作品の成否に関わってくるのだと思います。そういった点でこの作品はその秘密となるストーリーの魅力のおかげで、十分に成功しているといえるでしょう。その秘密が明きらかになった瞬間、親子の絆、夫婦の愛情、献身と寛容の物語はつよく観客の心に染み込んでくることと思います。すくなくとも私はその瞬間大きな感動に包まれてしまいました。
− 監督・脚本はインド出身のM・ナイト・シャマラン。彼はハリウッドに新しい風を吹き込んだといってもよいでしょう。彼の物語は今までのハリウッドにはない新しい感動を与えてくれました。主演はご存知ブルース ウィリス。最近の彼は本当に映画の選び方が上手いですね。脚本を読んで気に入ったとはいえ、内容的には決して大俳優が出演するような題材ではないと思うのですが、惚れ込んで出演を希望したそうです。ますます彼を好きになりました。
− 最初にも紹介したとおり、この映画は決して大作ではなく、どちらかというと地味な映画であるにもかかわらずアメリカでは記録的な興行収入となったようです。口コミでも広がったようなので、単なる宣伝効果だけではないようなのですが、地味で一種マニアックな展開のこの作品が広く受け入れられるというのは、もうひとつ理由がはっきり分かりません。単にアメリカの一般客の目が肥えてるというところなのでしょうか。大スターが主演するホラー大作を思わせる宣伝がどれだけ効果をあげられるかどうか分かりませんが、アメリカの勢いを受けても内容的に日本でこの映画を大ヒットさせる要素は少ないような気がします。少しでも多くの人がこの映画で感動してくれることは望むのですが・・(1999.11.3)
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