「先輩には、報告しておきます」
「ホント。頼むわよ」
第44話 『カヲル来襲』
402号室
シンジ、レイ
「ねえ、綾波。学校でマナとなにを話してたの?」
「碇君とわたしのこと」
「なにを?」
「二人でいるとき、なにしているのか」
「そう」
「マナも、碇君とキスしたいのね」
「ぼ、僕は、綾波とキスしているのが良いよ」
レイが微笑み、シンジの腕に手を乗せる
「そう・・・碇君、筋肉付いてきた」
「そう?」
「もう少し筋肉が付いたら、碇君の方が強くなる」
「ほんとう。今でも僕の方が筋肉あるのに力で負けるから、情けなくて・・・」
「そんなこと無い。こうして碇君の腕に手を乗せていると安心する」
シンジがレイにキスをする
「自分と自分がキスしているような気もする」
レイがシンジにキスする
「わたしも・・・・・」
404号室
マナは、テーブルに寝そべって、ふて腐れる。
アスカは、コーヒーを片手に呆れたようにお菓子を頬張る。
「今頃、シンジ君とレイは、あんなことやこんなことを・・・・・・」
「あのね・・・さっさと寝たら」
「眠れない〜」
「わたしにどうしろっていうの?」
「ちょっと付き合ってよ・・・・はあ〜」
「テレビゲームでもする?」
マナは、力なく首を振る
「二人が、何をしているか、なんて聞くからよ」
「だってぇ〜」
「他の男を捜したらいいでしょう・・・」
「あの久坂とかいうのは、あいつの方がシンジより、カッコいいじゃない」
「顔も体格も良いし、性格も前向きで明るいし、話題も豊富で意識も高いし、視野も広いわね・・・」
「人気投票だと男子で・・・学園3位・・・だったかな」
「シンジ君の方が強くて頭が良い。使徒もたくさんやっつけているもの。中佐だし」
「それは、先に訓練したからでしょう。実戦参加も早かったし」
「ビール無いの?」
「あるか!」
「シンジ君〜」
「女々しいわね」
「女だもの、女々しいわよ」
「レイに頼んでシンジを貸してもらえば」
「あ〜ん」 マナ。泣き
「じゃ 奪い取れ」
「だって、割り込めないんだもの・・・婚約しているし・・・」
「レイ。ずる〜い。シンジ君を独り占めするなんて、ずる〜い」
「わたしなら保安員狩りで、暇潰しするんだけどね」
「わたしも、保安員側だもの、そんなことできないよ・・・」
「シンジ君〜・・・そんな風にレイにキスしちゃ駄目・・・・」
「バカ・・・」 アスカ、呆れ
「アスカも、シンジ君にキスされたい?」
「けっ!」
「レイが言ってた。碇君は、アスカのこと “とても強くて前向きで、綺麗で頭が良いと思っているって、とても好きで。尊敬もしている” って」
「と、当然でしょう。わたしの下僕だったんだから」
「ふっ アスカが相手なら楽勝ね」 ぼやく
「何ですって〜!」
「いえ、シンジ君の言う通り、アスカは、とても強くで前向きで、綺麗で、頭が良くて素敵だなって」
「ったく」
「ああ、あの・・・壁の向こうで・・・・・」
マナが壁の向こう403号室を見る
アスカがムッとしながら、お菓子を頬張り、コーヒーを飲む
「女々しいやつ。また、男狩りに行ってこい!」
「いや、自分の心に嘘をつくのはいや。シンジ君が好きなの・・・」
「もう、自分の心を傷付けたくないの」 泣き
「マナ。そういう、キャラだったっけ」 呆れる
「レイのやつ。ムラムラときて、シンジ君を・・・」 妄想 1
「それは、逆」
「シンジ君がムラムラときて、レイのやつを・・・もっといや〜」 妄想 2
「もう帰れ」
マナ、イヤイヤ
「アスカ・・・一人にしないで〜」
「話しを聞いて欲しいだけなのね」
「うん」
最初の項に戻る
学校へ
シンジはレイとマナに挟まれて歩く。
アスカは、少し後ろにいた。
正面から一人の少年が微笑み、鼻歌を混じりに向かってくる。
灰色髪、赤眼でアスカより背が高い。
マナは、極度に警戒感を現し、シンジの前に出る。
「歌は良いね」
少年は、シンジを見詰める
「えっ!」
「歌は、心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」
「そう思わないか? 碇シンジ君」
マナを中心にレイとアスカがシンジの前に出ていく、
「どうして、僕の名前を?」
「知らない者はいないよ。君は自分の立場というものを少しは知っておくべきだ」
「あなた、誰よ」
「渚カヲル」
「何の用?」
「碇君と少し話し合いたいと思ってね」
「シンジ君は、これから私達と学校に行くの、邪魔しないで」
「君は、可憐な女の子3人から護衛されている。実に羨ましいね」
「でも、不用意すぎる。碇君と・・・僕と少し似た彼女以外はね」
カヲルは、チラリとレイを見る
「君は僕と同じだね」 カヲル
「あなたは、誰・・・・」
「分かった。一緒に行くよ。渚君」
「駄目よ。危険よ」
「カヲルで良いよ。碇君」
「ぼ、僕も、シンジで、良いよ」
シンジとカヲルが並んで歩く。
その後ろからレイ、マナ、アスカが付いて行く
「・・・なんなのよ。あの男は」
「シンジの交友関係は、調べているんじゃないの」
「あんなのいない。シンジ君。名前、聞いてたじゃない」
マナが携帯を見る
「マギのデーターベースで、同姓同名の該当者を見つけたわ」
「渚カヲル、14歳、京都出身。官僚で資産家の一人息子」
「筋萎縮性側索硬化症で5年間の車椅子生活。3ヶ月前、自宅で行方不明」
「カルテと姿形からマギは、正体不明と判断」
「ゼーレ系から16のマネーロンダリングを経て資産5億を確認」
レイが携帯を見ながら話す。
「ゼーレって、元スポンサーじゃない。保安部はなにやってたの?」
「見ていたでしょう。催眠針を何本も命中させているのに効いていない」
「強行策を取るには近すぎる。非常事態よ」
「麻酔針の弾道が分かる動体視力を持つのは、マナ。あんただけよ・・・どうする?」
「離れて、手を出すなって」
マナ携帯を見て話す。
「保安部は、何やっているわけ」
「あんな正体不明がフラフラと近付くなんて、監視してたんじゃないの」
「パイロットの1km以圏内に入った時点で身元を調べているし、職務質問だってするわよ」
「じゃ 何であんなところにいるのよ」
「突然、現れたのよ。あ・そ・こ・に」
「なんなのよ」
「・・・・・・・」 レイ
シンジとカヲル
「カヲル君は、僕に何か用があるの?」
「シンジ君と話しがしたくて・・・というより、話しを聞きたくて」
「そう・・・・」
「シンジ君は、趣味とかあるの?」
「ぼ、僕は、趣味は、無いな」
「楽しいこととか、あるのかい?」
「みんなといると楽しいよ」
「本当に? 秘密を隠してかい」
「・・・・・・・・」
「僕が何者か、分かるだろう?」
「うん」
「僕は、先に老人達に会いに行ったよ」
「実に楽しい人たちだった。リリンの主流だね」
「僕も、話したことがあるよ」
「遊園地に行って見ないか?」
「良いよ」
「何年ぶりだろう。楽しみだな」
カヲル、鼻歌
「カヲル君は、何がしたいの?」
「遊園地に行って見たいのさ。シンジ君とね」
「そう」
シンジとカヲルは、電車に乗って遊園地へ。
カヲルは、たこ焼きとコーラを買って、シンジに一つ渡し、テーブルに座る。
レイ、アスカ、マナも少し離れた場所に座る。
「ありがとう、カヲル君・・・お金とか使うんだ」
「くすっ 老人達に貰ったんだ。カードとかも、あるけど・・・これでも、お金もちなんだよ」
「カヲル君・・・それ・・・食べるの?」
カヲルは、たこ焼きを食べる、
「面白いこと聞くね。シンジ君・・・美味しいじゃないか。そう思わないかい?」
「うん、美味しいよ」
「音楽の次に気に入ったよ」
「どんな音楽が好きなの?」
「ベートーベン、モーツアルトかな・・・シンジ君、音楽は?」
「す、好きだけど・・・ロックとかの方・・・かな」
「あれに乗ってみないか?」
カヲルがジェットコースターを指差す。
「うん」
シンジは、カヲルが使徒であると直感する。
カヲルは、ATフィールドを発しておらず脅威と感じられなかった。
例え銃を持っていても撃つ気持ちがない人間は、恐ろしいという範疇に入らない。
しかし、仮に戦いになれば、どうなるだろうか
シンジは、アダムとゼルエルの二つのATフィールドを展開する。
難しくはなかった。
二種のATフィールドを同時展開すれば、浸透も、中和も、困難なはず。
その後、勝ち負けはともかく。
シンジは、使徒としてNERVに処理される可能性が高い。
シンジとカヲルがジェットコースターに乗ると。
レイ、マナ、アスカも離れた場所に座る。
もし戦闘になれば、三人とも邪魔。
レイは、自分で気付いていないがATフィールドを張れる。
しかし、バックボーンがアダムの複製。零号機のコアだけで、まだ弱い。
上っていくジェットコースター
アスカ、マナ、レイも後ろに乗っていた。
レイ、アスカ、マナ
「武器とか持ってないでしょうね」 アスカ
「それらしいものはないけど。人を殺すのに武器なんかいらないもの」
「でも、成功したとしても・・・・普通、自分が生き残ることを考えるんじゃないの?」
「普通は、生き残るより、逃げることを考えるの・・・」
「でも、どういう訓練を受けているかによるけど、体に爆弾を仕込んでいたり」
「人造人間という可能性もある」 マナ
「人造人間?」
「カーボンナノチューブとバイオテクノロジーの集大成・・・」
「NERVの前身ゲヒルンは、むかし、老人達のために、それを作る民間研究所だった」 レイ
「だとしたら対人用の武器弾薬は通用しない。対戦車ロケットが要るわね」 マナ
「もうすぐ、ミサトも来るわ」
「シンジ君・・・逃げて」
「あのバカシンジ。せっかく、護衛していたのにヒョコヒョコ付いていくから・・・」
「無防備に笑うな・・・男同士で気持ち悪い」
東洋一怖いと評判のジェットコースターが下り始める。
シンジ、カヲル。アスカ、マナ、レイの悲鳴が上がる。
リニア式 ループ反転切り替えし地中突入型ジェットコースター。
自殺志願者が自殺をやめると評判だった。
「こ、怖かったよ」
「死、死ぬかと思った」
「シンジ君。次は、何に乗ろうか・・・・・・」
「何でも良いよ」
「君は、繊細だね」
「そ、そうかな」
「好意に値するよ」
「こ、好意って・・・・」
「好きってことさ」
「・・・・・・・・・・・」
「あれにしよう」
カヲルが回るコーヒーカップを指差した。
「もう・・・なんなのよ・・・あのオカマ男」 アスカ
「なんか、本当に遊んでいるみたいね・・・・仲良くなっているし」 マナ
「実は狙っているとか」
「もし、それだけなら・・・・・ふふふ・・・殺してやるわ」
「レイ、あんたは、どう思っているの?」
「・・・・あなた達二人は、帰った方がいいわ」
「な、何ですって!」
「二号機に乗っていた方が安全」
「なによ、それ。あいつが使徒だとでも言うわけ?」
「・・・・・・」
「シンジが殺されるかもしれないって言うのに・・・」
シンジとカヲルは、焼肉レストランで食事をする
「・・・美味しいね。シンジ君」
「うん」
アスカ、マナ、レイ
「ううぅ・・・男同士で焼肉屋なんて、その気よ・・・やっぱり変態よ」
「あの渚とかいうやつ。名前からしてオカマよ」
ミサトと日向が入ってくるとアスカ、マナ、レイの席に座る。
「様子は?」
「あれが、渚カヲル。オカマよ」
「それだけなら、いいけど」
「良いもんか、シンジ君に触ったら。殺すわ」
「無理でしょうね」
「彼は、マギの哨戒圏を飛び越えて直接シンジ君の前に現れたのよ・・・たぶん、使徒よ」
「・・・・・」 一同
冷水を被せられたような。感触が広がる。
「ATフィールドは?」 レイ
「ATフィールドは、確認されていない。もし確認されれば、すぐに警報が入るわ」
「アスカ、レイ。すぐに本部に戻って」
アスカが立ち上がる
「わたしは、残るわ」
「なに行っているのレイ、ここにいても、あなたにできることなんてないのよ」
「指揮系統が違う。わたしは、ここにいる」
「なに馬鹿なことを行っているの、生身で何とかできることじゃないのよ」
「レイ。わたしが、あなたの代わりにがんばるから」 マナ
「駄目」
レイは立ち上がるとシンジとカヲルのところに行くとシンジの隣に座る。
「あのバカ!」
「どうするのよ? ミサト」
「挑発しちゃ駄目。あなたは、本部の二号機で待機よ」
シンジ、レイ、カヲル
「やあ、綾波レイ。君も、シンジ君と一緒にいたいのかい」
「ええ」
「もてるんだね。シンジ君」
「あ、綾波は、こ、婚約者なんだ」
「婚約・・・二人は結婚するのかい」
「うん」
「ええ」
「そう・・・老人達は、教えてくれなかったよ・・・」
「僕の入り込む余地は無いんだね」 寂しげ
「・・・・・・」 シンジ
「・・・・・・」 レイ
「君は、綾波レイは、食べないのかい」 カヲル
「いらないわ」
「なかなか、楽しいところだね。遊園地は・・・他にも、お勧めの場所とかあるかい」
「んん、あまり遊ぶ暇が無くて。ボーリングとか、動物園とか、ゲームセンターとか、楽しいかな」
「そう、ほかにも楽しめるところがあるんだね・・・・」
「あなたは・・・ゼーレとは、どういう関係なの?」
「まあ、遠い従兄弟かな」
「興味を持って会いに行ったら。驚いていたけど、面白い話しをしてくれたね」
「いろんなものを見せてくれて、カードとお金もくれたよ。楽しい人たちだった」
「・・・・・・」 シンジ、レイ
「こちらの人たちも、似たような反応だね」
カヲルは、周りを見渡して微笑む。
焼肉屋の客の8割が保安部員関係者になっている。
「何をたくらんでいるの?」 レイ
「何も・・・僕にとっては、生も死も等価値なんだ」
「ほら、イエスキリストが言ってただろう」
「一粒の種が落ちて死ななければ、次の麦は、生まれ育たない」
「僕も、そうなのさ」
「渚カヲルという名前はどういう経緯で付いたの?」
「彼の家の庭には、大きな岩があってね」
「・・・その日、這うように近付いてきた彼に興味を持って選んだのさ」
「その・・・彼は、どこにいるの?」
「ここにいるだろう。話しているじゃないか。君とは、少し違うけど似たもの同士だよ」
「彼の意思はあるの?」
「あるよ」
「本当に?」
「シンジ君は、本当にシンジ君の意思なのか、不安を持たないのかい?」
「使徒とシンクロしているのに、自分本来の意思があると?」
「・・・わからない」
「くすっ 君は、面白いよ。実に面白い反応をする」
「・・・・・・・」
「4ヶ月間。僕は、随分、遠回りしている」
「アメリカ、ヨーロッパ、南半球にも行ったよ。それが答えさ」
「彼の意思なの?」
「どうだろう。彼の意思でもあり、僕の意思でもあり、どちらの意思でもないような気もする」
「そう」
「・・・・・・」 カヲル
「カヲル君は、どこに住んでいるの?」
「僕かい。今はないね・・・・野宿が多いんだ。君の部屋に泊めてくれないか」
「いいよ」
「・・・・・・・」 レイ
「さあ、そろそろ行こう」
「どこに?」
「他の物にも乗りたいんだ」
発令所
3D映像で比較的裕福な邸宅が映されていた。
「これが、渚カヲルの実家の庭にある岩?」 リツコ
「一番大きいものが、全長8m、全幅7m、全高7m。楕円形の花崗岩でコアが入る大きさです」
「光学的には、これが限度です。X線、超音波。試しますか?」 マヤ
「まだよ・・・」
「種子が、この中でコアを形成」
「その後、モデルを探したところ、たまたま近付いてきた子供を利用したという事かしら」
「では、この石を破壊すれば」
「たぶん、空洞。ディラックの海に入っているはず。でも危険を冒すことはないわ」
二号機が出撃して待機状態になる
「アスカ、ハルカ。良い、今回は、あなた達だけが頼りよ。分かっている?」
ミサト
『どうするの? ミサト』
「見つからないように接近して」
「シンジ君と使徒が少しでも離れたら、ATフィールドを全開で割り込んで」
「ミサト。少しくらい離れてもATフィールドを全開にしたらシンジ君も、レイも、死ぬ」
「割り込む合図は、わたしがするわ」
「リツコ。レイが命令拒否して、シンジ君と一緒にいるのよ」
「命令拒否? 命令は出来ないでしょう。要請でしょう」
「そういう、杓子定規を言っている場合! 初号機が使えないのよ!」
「レイ一人で初号機に乗れなくなったでしょう。乗れるのは、零号機か4号機」
「はぁ〜」
「人間型の使徒か。シンジ君と仲良くしているみたいね」
リツコは、談笑している映像を見つめて呟く。
「リツコ。人質にされているのよ・・・・一瞬で、二人とも殺されるわ」
「さあ、ただ、珍しいから遊んでいるだけかもしれないけど。レイは、気付いていたみたいね」
「そう、もう・・・どうしたら・・・」
「対人の狙撃銃に例のエヴァ光質を埋め込んだ銃弾を装備させているけど・・・」
「ATフィールドで覆えないから、気休めにしかならないわね」
「それでも、ないよりマシよ」
「そうね・・・・シンジ君。笑っているわね」
「もう・・・シンジ君・・・状況が分かっているの〜」
ミサト、髪を掻き毟る
「誰か、狙撃した?」
「保安部が催眠針を何本か撃ち込んだそうよ」
「極細の液体、普通の人間なら一瞬で眠らされるけど、彼はご覧の通り」
「催眠針。作ったのは、わたし。威力なら知っているわ」
「そう、対人兵器を撃ち込もうとしたけど、マギの報告を聞いて中止させたわ」
「何かして、ATフィールドを張るのが怖くて出来ない?」
「・・・・・・・」 ミサト
「分からなければ、使徒で無いかもしれないという淡い期待がもてる?」 リツコ
「本当のところ。どうなのよ」 ミサト
「突然、哨戒圏を飛び越えて、現れたのは、興味深いわね」
「ゼーレの資本のお金を持っている “使徒” か」
大観覧車のシンジ、レイ、カヲル
「・・・綺麗な夕陽だね」
カヲルが窓から外を見て呟く
「うん」
「シンジ君は、僕のことをどう思う」
「・・・わからない」
「怖がっている。それは、僕が強いからじゃなく、人間の姿で君に話しかけているから」
「ず、ずるいよ・・・・カヲル君。ずるいよ」
「そして、他の使徒が、どうだったか、思うのが怖い」
「カヲル君・・・」
「碇君は、悪くないわ」
レイがやさしくシンジの手に手を添える。
「綾波」
「君達は、愛し合っているんだね」
「ええ」
「うん」
「そう・・・君達を見ているのも面白いね。君達の未来がどうなるのか、興味が出てくるよ」
「・・・・」 シンジ、レイ
「綾波レイ。そんな風に睨まないでくれないか、怖いよ」
「・・・・」 レイ
「あれは、二号機だね。ケーブルがビルの陰から見えている」
「ゼーレは白いエヴァだったよ、自分の心臓で動いていて、ケーブルが無いんだ」
「カヲル君。南半球は、どんなだったの?」
「オーロラが見えるんだ。気持ち悪そうな色合いだった。美しくない」
「美しいとか、美しくないとかいう、感性は、あるんだ」
「基本的には、君達と同じだよ・・・」
「人が・・・人みたいな人が地下に住んでいた。動植物は変わっていた」
「いずれ絶滅するか」
「本格的に突然変異化して。まったく、生態系が違う、異質な生物になってしまう」
「・・・・・」 シンジ、レイ
「生存競争は、種の強靭さを保つのに必要だけど、第18使徒リリンは、やりすぎた」
「リリンの性かな。個体間のアレルギーが強いのかもしれない」
「降りよう」
カヲルが降りると、シンジとレイも続く
「エヴァは、ATフィールドを全開にすると、サードインパクトの後でも」
「まっさらに浄化された世界で生き残ることが出来る」
「僕は、いなくなるけど、君達は、新しい世界の主人になれるよ」
「新人種と一緒にね。こういう、灰色の髪と赤い眼をした人種と・・・・」
カヲルは、自分の髪に触れる
「・・・カヲル君」
「リリンは、ファーストインパクトのときに何か事故があったのかもしれない」
「理知的でなかった時代が長すぎる」
「初期の家族で何か。生き残る上で致命的なことがあったかもしれない・・・」
「カヲル君は、いなくなるの?」
「多分ね・・・サードインパクト・・・ボンッ! って感じかな」
カヲルは、合わせた掌をパッと広げた。
「カヲル君は、それでもいいの?」
「言っただろう。僕にとっては、生も、死も、等価値なんだ」
「わ、分からないよ、カヲル君」
「いいさ、時間はあるから・・・・今日は泊めてくれるんだろう。シンジ君」
「うん」
発令所
ヨシキ、冬月、リツコ、ミサト、伊吹、日向、青葉
シンジとカヲルの会話が、レイの携帯を中継して発令所に流れる
「どう思う。ミサト」
「シンジ君より、カヲル君が、おりこうさんね。随分、知的よ・・・」
「というより、シンジ君が幼稚なのね」
「シンジ君が、わざと幼稚に振舞っていなければね」
「シンジ君、相手が何者か、知ってて一緒にいるわけ?」
「何で平然と話せるわけ? 使徒なのよ」
「相手が好意を寄せているから断れないんでしょう。シンジ君らしいわね」
「そういう問題! 相手は使徒なのよ!」
「だったら、さっさとパイロットを皆殺しにして、本部に向かって来たら良かったでしょう」
「それで、サードインパクト」
「レイも、アスカも、一緒にいたのに、この子が興味を持ったのは、碇シンジだけ」
「なんなのよ。この戦いは、気が狂いそうになる」
「戦いじゃないのかも・・・・・」
「じゃ なに?」
「碇シンジという人間に興味を持った使徒。ただたんに一緒にいて、話したかっただけ・・・・」
「呆れた・・・・こっちは、国家予算の3割も使って準備して待っているというのに」
「待っていたら」
「使う可能性もある。彼は、サードインパクトを起こすことに躊躇していない。知りたいだけ」
「なにを?」
「シンジ君を・・・そして、シンジ君を通して人間を・・・第18使徒系リリン人種を・・・・・」
「随分、感傷的ね」
「渚カヲル。筋萎縮性側索硬化症で車椅子生活か・・・マヤ。発病したのは、いつ?」
「・・・・カルテでは・・・・9歳です」
「・・・不治の病。死に向かって行く5年間の生活か、長生きしたほうね・・・」
「あと少しで死ぬところだったのを使徒のおかげで九死に一生を得たわけね」
「彼の履歴とカルテメモリー」
「そして、プロフィールです」
「それと彼の使ったストローと爪楊枝。箸から遺伝子情報が得られました」
伊吹が書類をリツコに渡す
「・・・髪の毛と目の色が変わっている。面影があるのに雰囲気がかなり違う・・・」
「二つの意識が融合しているのかしら」
リツコが、パラパラと書類に眼を通す。
「マギは、融合、競合、共闘、共生、共有、補完、支配、主従、連立の判断を保留しています」
「遺伝子上は、渚カヲル本人を基にしているのは確かね」
「声紋で京都出身かどうか確認できる?」
「両親に確認を取ってもらう方法もあるけど・・・親権を出されて、介入されると面倒になる」
「音声認識では、京都の発音が、わずかにみられるようです」
「身体的にも人種が違うのに、本人との共通性が多く見られます」
「リツコ。対使徒用のライフルは?」
「7.62mm、12.7mm、20mm、25mm、40mmの5種類を揃えたわ」
「でも、ATフィールドで覆えなければ、たいした効果はない」
「エヴァの狙撃だと見つからないよう小口径の長射程になるから当たらない」
「当たるように口径を大きくすればシンジ君とレイは死ぬわね」
「とりあえず、保安部に配布していいわね」
「ええ、アスカとハルカ。降ろしても良いわよ」
「・・・日向君。アスカとハルカを休憩室に」
「了解」
「それと、青葉君」
「すぐにシンジ君の部屋とレイの部屋に監視カメラを設置して、分からないようにね」
「了解」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です
第17使徒タブリス。渚カオル登場しました。
渚カオルの背景は、原作に支障ない枠内で、オリジナルという感じです。
違うのは、NERVとゼーレが敵対関係になってしまったので、ゼーレ側が送り込めなくなった。
というところでしょうか。
“勝手に来たよ” ですが、原作同様。好奇心が打ち勝ったようです。
原作と違って、アスカ健在、プラスアルファあり。で。
NERV + 日本(戦自) VS 第17使徒タブリス、渚カオル VS ゼーレ(世界)。
というところでしょうか。
人間関係も、シンジ・レイがラブラブで、影響がありそうです。
第43話 『婚 約』 |
第44話 『カヲル来襲』 |
短編 『渚カヲル物語』 |
第45話 『折 衝』 |
登場人物 | |||