第02話 1894年 『貧乏が悪いのさ』
朝鮮李王朝末期。
李氏朝鮮は、文禄・慶長の役と後金の侵攻を
“両班(貴族)” をばらまく事で国土を防衛する。
驚く事に荒廃のうねりは、この頃から始まり、
是正されることなく肥大化していく。
小中華思想は、朝鮮民族を中華の正当継承者であると尊大にさせ、
現実の国力差で惰弱である矛盾を自己調整するため、
事大主義が横行し、
強者に媚びへつらい、弱者に高圧的になっていく。
この時期、李王朝は、朝鮮朱子学が絶対であり、
一人が両班になれば、
一族郎党は、地域住民から略取の限りを尽くし、
人口が増えていく、
問題は、両班が働いてならないことであり、
農民は田畑を耕しても、全て持って行かれるため
働かなくなり逃亡していく、
田畑はますます荒れ、野盗の類が出没し始める。
両班を支える民衆の税は重くのしかかり、
野盗に脅える農民の生活は悪化し、
政治腐敗と天災で、社会不安は増大していた。
列強の進出で絶対と考えられていた儒教・朱子学が揺らぎ、
支配層は、洋学を禁止するものの、
既に両班/民衆の比率は、限界に達しており、
既に屋台骨は腐り、社会規範は朽ちて瓦解していた。
農民たちは、地方官の過酷な取り立てに堪えかね、
各地で不穏な動きを見せ、一揆が断続的に起きていた。
列強の現れは、庶民の暴発の切っ掛けに過ぎなかった。
全羅道古阜郡の農民一揆が起きると、急速に拡大していく。
東学信者の地方幹部、全琫準(ぜん ほうじゅん)と
結びつくと全国規模の一揆に拡大していく。
腐敗した官吏の罷免、租税の減免、米流出の防止などを要求。
両班は、要求を呑めば明日をも知れない農民になるほかなく拒否、
農民軍は両班一族私兵を各地で破り、
反乱は半島全土に広がっていく。
この農民の反乱が甲午農民(こうごのうみん)戦争と呼ばれた。
5月
農民軍は、全州を占領。
親清派の朝鮮閔氏は、清朝に援軍を要請。
清国軍の派兵により、東学農民軍の上京は阻止され押し潰されていく。
朝鮮半島が清国軍に支配されると慌てた閔氏は慌てて官軍と農民軍の和議を進めた。
しかし、後の祭り、清国軍は、朝鮮半島に居座り続ける。
清国の定遠、鎮遠、(7335トン 305mm連装×1基 14・5ノット)は、この時期、東洋最強の戦艦だった。
もっとも欧米列強の戦艦に比べれば、弱い部類に入る。
鎮遠
予算不足の日本は、半島で兵站を維持できず、身動きがとれないでいた。
清国軍が東学農民の蜂起を鎮圧すると、事大党勢力が朝鮮の実権を握ってしまう。
事大党は朝鮮が清国に次ぐ東アジア第二位の地位を得たかのように振舞い。
清国の虎の威を借りた両班は、日本商人にあらゆる税をかけ始める。
日本の対中・対朝政策は険悪になっても戦争するだけの、お金が捻出できず。
抗議として朝鮮人の日本入国が禁止されただけで済まされてしまう。
この時期の日本。
鉄道省と陸軍省が組み、地場勢力の利権を抑え、
広軌鉄道の施設を強行、利権構造が拡大していく。
日本軍は、仮に中国軍が日本に上陸しても
大部隊を上陸地点へ移動して撃退する計画が着々と進む。
日本の制海権は危機的と言えたが救いもあった。
西太后が頤和園の造園を命じる事で清国海軍の予算が削られてしまう。
この時代。日本の国家予算は、貧しく。
国家予算9700万円の内、圧倒的に多かったのが鉄道省の予算2500万円。
軍事費は約8分、776万円弱でしかなかった。
そして、予算は製鉄所、炭鉱、発電所、造船所、医療、土木建設機械、工作機械、農業機械、
教育、通信、郵便、軍需工廠、住宅、福祉に使われ、
あっという間に消えていく。
国内事情優先で、ご都合主義に国際情勢を推し量る者が多く。
日本の状況を国際情勢で推し量れる有識者は少数派。
日本の現状を憂うしかなかった。
赤レンガの住人
役人たちが新聞を見ていた。
事情を知っていても活字で確認したりする。
「・・・定遠と鎮遠の船員が横須賀でも暴れたらしい」
「いい気になりやがって」
「元老院は、予算を効率よく使うため」
「陸軍省と海軍省を統合して国防省を創設するしかないとのことだ」
「藩閥政治は、どうなる?」
「露骨に言うな」
「しかし・・・」
「明治維新は、天皇を人質に徳川幕府を打倒して政府を打ち立てたようなものだ」
「確かに維新を正当化するには藩閥政治は終わらせるべき、だけどね」
「それくらい言われんでもわかる。わかっとうちゅうが、もっと予算があれば」
「ないものはない」
「やむえんか。んん、板垣のやつめ」
「自由民権運動を後3年遅らせてくれれば、良いものを・・・・」
「だいたい、大隈なんぞ、学者風情が国政に口出しするからだ」
「陸軍省は良かろう。鉄道族と組んで安泰。海軍は苦しい」
「そういえば、下関海峡トンネルの建設を進めているようだが」
「予算を得るための口実だよ。陸軍省と鉄道省の陰謀に決まっている」
「いつまでたっても海軍は、陸軍の従属じゃないか」
「人間はね。一度、権益を握ったら手放せなくなるよ」
「日本もそうならなきゃいいけどな」
「政官財で利権塗れで国民から搾取しまくるようになると、朝鮮や中国のようになるだろうな」
「しかしな・・・予算がないとな・・・軍艦作れないよ・・・」
「西太后が中国国内の権力抗争に明け暮れているのなら助かるよ」
「だと良いけどね」
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月夜裏 野々香です。
従来、東学党の乱ともいわれてましたが実は農民の蜂起。
タイトル通り、日清戦争は起きませんでした。
そして、朝鮮半島で起きた東学党の乱。
明治維新の元老院、薩長幕藩政府は、
日本の国防の延長、生命線を守ろうと朝鮮半島へ介入しようと画策。
しかし、予算が・・・・
「・・・・・・つ、使いすぎた」 I・H (T・T)
政府の朝鮮介入案は、予算がなくて腰砕け。
“鹿児島や山口は、朝鮮に近いけどね・・・”
と・・・・・・勢いが削がれて議会でも相手にされません。
みんな、自分の権益と生活圏を守るため、
臨時増税も、国債増発も、反対、軍票も却下します。
明治維新以来の元老、藩閥志士の勢力が圧力をかけます、
しかし、ない袖は触れず。
明治は始まったばかり。
勢い付いた財界は、言うことを聞きません。
というより収賄工作で切り崩され、でしょうか?
日本の藩閥政府は、軍隊で朝鮮半島に介入できず。
清国軍が東学党を鎮圧していくのを歯噛みしながら見守ります。
日本経済は、設備投資で職場が増えたのか、上向き基調。
財界勢力は、維新志士の子弟を囲い込み、次第に発言力を増していきます。
軍事予算の占める割合は減少。
日本軍は、とほほ状態で軍艦建造も、ままならなくなります。
日本政府は、次第に商魂たくましくなり、
志士達は、影が薄く、ソロバンを弾くようになります。
主役は、赤レンガの住人たちです。官僚たちの宴ですね。
1875年、
日本は、江華島事件を起こして日朝修好条規を結び、半島に足場を築いていました。
1)日本は、朝鮮を自主の国(文明国)と認める。(万国公法の主権尊重)
2)日本は、ソウルに公使館を置き、朝鮮も東京に外交官を駐留させる。
3)日本は、開港した港に領事を置く
釜山及び後に開港する2港。
1880年(元山)、1883年(仁川)で、
駐留する日本人に対し土地及び家屋の賃貸・建設の承認。
4)日本の朝鮮沿岸での測量権
5)日韓相互の領事裁判権
6)開港場における日本貨幣の使用を認める(条規付録による)
7)関税自主権が無く、無関税(後、協定関税)(条規付録による)
日本政府が意図していた、清朝冊封(ふうさつ)体制の打破。
甲午農民(こうごのうみん)戦争と清国軍の武力介入。
しかし、日本は、予算不足で介入できず。
朝鮮の事大党が勢力を拡大。日朝修好条規を一方的に破棄。
日本は、初めて主導的に結ぼうとした日朝修好条規が反故させられ、利権を失い。
陰に篭っていく事になります。
※冊封(さくほう)体制
周辺国の君主が中国皇帝と主従関係を結ぶことで、作られる国際秩序。
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