月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

   

   

第05話 1897年 『神も仏も助けてくれない』

 八幡製鉄所完成。

 日本は、イギリスとドイツから最新の製鉄技術を購入し、近代化を加速させていく、

 八幡製鉄所は、赤字の上に失敗を繰り返しながら

 ニッケル鋼、ハーヴィー鋼、クルップ鋼の製造技術を蓄積しつつ製鋼法を習得していた。

 そして、八幡製鉄所の製鉄量は増大し、日本の基幹産業になっていく、

 常に国内の石炭と鉄鉱石は不足し、

 そのため、アメリカと中国から購入するよりなく、

 軽量・強靭・耐食性の強い特殊鋼と、構造力学の研究が進められた。

  

  

 この頃、欧米諸国は東アジアの植民地化を画策していた。

 白人国家以外で独立している国は少なく。

 アジアでは清国、日本、タイ王国・・・

 地球は、白人の支配する星になっていく。

  

 

 赤レンガの住人たち

 「・・・もっと鉄と石炭が必要だ」

 「イギリスとドイツから戦艦の設計図を購入しても軍艦の建造に回せないのであれば無駄だな」

 「鉄鉱石と石炭がないのは近代国家で、神も、仏も、ないというのに等しいよ」

 「日本は近代国家になり得ないかもしれないな」

 「日本は外国から鉄鉱石と石炭を購入するにしても外貨が少ない」

 「輸出できるものといえば日本の伝統工芸品か生糸ばかりだ」

 「そういえば日本の生糸の評判は極めて悪いな」

 「もっと高く売れるモノが必要だよ」

 「そうだな・・・」

 「「「「・・・・・・・・・」」」」

 なかった。

 「・・・国産で巡洋艦を建造するのか」

 「4000トン級だ。材料だけは、なんとかなりそうだ」

 「時化でバラバラにならなければ買うより安いだろうな」

 「厳しく検査しているだろう」

 「本当は、戦艦を建造したい」

 「造船所だけは、なんとか、やってみるがね」

 「駄目なら商船でも建造するさ」

 「どちらかというと商船が役に立つ、金を作れるからな。軍艦は金を浪費するだけだ」

 「中国が12000トン級の戦艦二隻を購入した。厄介だと思えよ」

 「長崎の訪問でも大丈夫だろう」

 「清遠と華遠は、要塞砲に睨まれて大人しくしていただけだ」

 「要衝に305mm要塞砲台だからね」

 「しかし、清国は欧米に対するより、日本に示威行動をとっている。なに考えているんだ」

 「清国は、欧米に対する脅威はないのか?」

 「それで、大アジア主義者を黙らせてくれるのなら、かまわないさ」

 「中国人は、アジア人としての覚醒はない」

 「あるのは、中華思想だけ」

 「だが、日本の国家予算は、2億7000万になっているんだ」

 「もっと予算が欲しいな」

 「軍事費は、2200万だけだそうだ。ケチが!」

 「他の部署でもそう思っているさ」

 「国体を守る軍事費が、全体の7分5厘。鉄道省の一人勝ちだ」

 「下関海峡トンネルは、戦艦10隻分だそうだ」

 「津軽海峡トンネルは戦艦40隻分。独りよがりな計算しやがって」

 「言ったもん勝ちの宣伝決まっているだろう」

 「鉄道省は、装甲列車を造って宣伝しているから有利だ」

 「陸軍は、庶民に小銃を撃たせて歓心を買っている」

 「軍艦より身近に感じるから」

 「鉄道省の人気は大きい」

 「実利を兼ねた勢力は強いな」

 「やはり、海峡トンネルで予算増加を狙っているか」

 「あちらさんの言い分は、東京、名古屋、京都、大阪を結んだ沿線経済圏の確立。だそうだ」

 「そういえば、電化も検討していたな」

 「次から次へと・・・・海軍は冷や飯ぐらいだな」

 「海軍あっての外交だ。そうだろう」

 「まあな」

 「欧米列強は、日本に戦艦を送って砲艦外交をして欲しいものだ」

 「危機感を煽ってくれた方が軍艦を造りやすいのはたしかだな」

 「宣伝費をケチることが出来る」

 「だいたいが威圧を利用しないと国内世論をまとめられない、というのが、どうかしている」

 「まともな、海軍戦略を考えるべきだ」

  

 

 ドイツ商館

 「・・・・よう。ワグネル」 商人

 「やぁ」

 「どうだ。日本の様子は?」

 「日本人は、産業革命を着実に堅実に吸収しているよ」

 「尊大なだけの清国人とは、まったく違う」

 「程々にしてくれよ」

 「日本人が、あまり強くなると、後々面倒になるかもしれない」

 「ほう、ドイツ政府と随分言うことが違うな」

 「実力があれば伸び。無ければ滅ぶ。自然に任せるんじゃなかったかな」

 「日本が強国にならなければな」

 「おや、日本が強国になれば、イギリスやフランスの海軍力を割けて、ドイツは得だろう」

 「バランス的にはそうだけどね」

 「日本政府から給金をもらっているから、言うことも違うな」

 「精一杯やって、この国の歴史書に名前を残すつもりだよ」

 「きちんと歴史が残ると、そういう効果もあるのか」

 「少なくとも悪さをすれば、それが残るよ」

 「それより、また、ヤクザな商売をたくらんでいないか?」

 「ふっ」

 「程々にしてくれよ。この国でドイツ人の評価を落とされると迷惑だ」

 「・・・・そうだな。ところで日本の鉱山や炭鉱は?」

 「少ないな。大ドイツのような工業力は得られないだろう」

 「そうか?」

 「鉄道を広軌に切り替えたと聞いてな。もしや、と思ったがね」

 「それが心配事か?」

 「鉄が国家だろう。大問題だよ」

 「いまのところ心配ない。近代化に必要な鉄と石炭を輸入しなければならない国だ」

 「そうか。たとえ、近代化しても資源がなければ砂上の楼閣。ハリボテだ」

 「まあ、いいさ。軍艦は、清国に輸出すれば、済むことだ」

 「軍艦か?」

 「ああ、イギリスと競っている」

 「日本が造艦技術で独立しても、清国は造船で独立できまい」

 「清国人の近代化は、難しいかもしれないな」

 「日本が国産で海軍力を独立保持できるなら、清国に軍艦を売ってバランスを保つ」

 「俺たちは儲けられる」

 「清国の方が金持ちだからね」

 「少しくらいボロ舟でも儲けられそうだな」

 「そういうこと」

 「上海の会議は、それだったのか?」

 「ああ、ちょっとした調整だ」

 「本国同士が誤解で戦争するより、いいだろう」

 「ドイツは助かるね」

 「イギリスに制海権を握られて対立するのは損だ」

 「欧米諸国は共同歩調で清国に食い込んでいくよ」

 「日本は?」

 「日本は、うまみが小さいから通商条約の特権と治外法権の確保で、いいだろう」

 「アメリカのおかげで良い思いが出来た」

 「しかし、日本の国力が増していけば、条約改正もありだな」

 「日本の植民化は難しいか?」

 「明治政府と対立している国内勢力はない」

 「維新も、西南戦争も、国内問題で処理しようとしていた」

 「外国の介入を望まずか」

 「当時も今も対立勢力への支援は難しいと判断している」

 「そりゃ 欧州の軍艦に槍や弓でなく大砲を撃ちかけてくるような国だ」

 「少しくらい敬意を払うべきだろうね」

 「日本の軍事力は?」

 「低迷中かな」

 「一時、増大していたが基礎工業力の予算配分が増えている」

 「おかげで欧米諸国は、直接、朝鮮半島に介入できて助かるよ」

 「しかし、日本は、鉄道網を利用した内陸国防構想のレベルが高いようだ」

 「それが大規模高速模輸送を可能にする広軌道鉄道になったわけか・・・」

 「大砲を載せた鉄道車両もあるようだ」

 「上陸するのは厳しいな」

 「ニューギニアやミクロネシアのようにいかないな」

 「ふっ 戦争など考えてはいないよ。一民間企業が未開地を占領できる時代は終わった」

 「今度は、アジアに目をつけたわけか」

 「そういうこと。ロシアのシベリア鉄道が建設されれば南下が始まる」

 「標的は清国の北東部だ」

 「そうなると清国向け、日本向けの武器弾薬が売れるわけか・・・」

 「いまのうちに軍事関連株でも買っておくか」

 「1900年代になって。だろうな」

 「世紀末か、世界が滅びなければな」

 「裁かれるのに十分な罪を犯した」

 「出来れば審判は避けたいね」

 「いまからでも節制したらどうだ」

 「ふ・・・ははは・・・」

  

 

 11/01

 山東省西部の鉅野県(きょやけん)で、ドイツ人宣教師二人が殺される。

 この鉅野事件は、ドイツ帝国と清国だけの問題にとどまらなかった。

 ドイツ、イギリス、ロシア、アメリカ、フランスは連合して宣教師保護を要求する。

 欧米列強は協調しつつ中国に圧力を加え・・・

 北京

 各国公館代表たち

 「最近、出没している義和団の無法には困ったな」

 「日本だと攘夷派って言うんだろう」

 「ええ・・・」

 「いくらロシアの南進を牽制するためとはいえ、中国に肩入れし過ぎたのではないか」

 「まっとうな取引だよ。損はしていない」

 「それに軍事力を増やしても上っ面でモラルは低い」

 「それは、どこかの国に証明してもらいたいものだ」

 「ロシアは?」

 「ロシアでは、中国が占領されてしまう」

 「外敵に頼らずとも清国は内部の不正腐敗で自壊するよ」

 「反洋の漢民族もいるけど反清の漢民族もいる」

 「義和団だけが清国の民意じゃないからね」

 「租借地の件は?」

 「・・・我々の取り分を認めて欲しいある」

 「わかってる。今後とも協力を頼むよ」

 「何でもするある」

 「とりあえず租借地だ」

 「あとは、ロシアの南進を防いで義和団を大人しくさせて欲しいな」

 「金と武器は供給しよう」

 「やってみるある」

 清朝封建社会が崩れれば浮かぶ瀬のある中国人が列強に味方していた。

 中国人は、義和団の扶清滅洋(清朝を助け、西洋を滅ぼせ)だけではなく、

 北狄(ほくてき)清国を見限った漢民族もいた。

 彼らは、自らの勢力拡大のため欧米列強と組みし、

 扶洋滅清(西洋を助け、清朝を滅ぼせ)も辞さなかった。

 北方のロシア帝国は、次第に勢力を強め、

 アメリカ、イギリス、フランス、ドイツは、対露戦略上、ロシアの独り勝ちを認めず。

 日本は、中国海軍と敵対したくないのか、消極的だった。

 

 

 造船所で建造していたのは貨物船だった。

 海軍将校が建造の様子を見ていた。

 「海軍さんが来ているな」 工員A

 「軍艦を建造できるか、確認しているんだろう」 工員B

 「それで特殊鋼か」

 「しかし、この薄さで、この頑丈さは驚きだな」

 「この薄さなら溶接も悪くなさそうだがな」

 「一応、軍艦用だよ」

 「しかし、軍艦を溶接で建造できるか、試しにやるかも知れんな」

 「その試しで沈むのは、民間人か」

 「ははは・・・」

 「しかし、上質の素材で作れるのなら、悪くないさ」

 「補助金を出せば、良いというもんでもないがな」

 

 

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第04話 1896年 『もう良いよ、好きにして』

第05話 1897年 『神も仏も助けてくれない』

第06話 1898年 『造らなくちゃ』

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