月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

   

第08話 1900年 『装甲巡洋艦6隻たい! 国産たい!』

 01/02 初の電気バスがニューヨーク市で開業

 

 01/15 東京市がペスト予防でネズミの買上げを開始(1匹あたり5銭)

 

 01/27 各国公使団が清国に義和団の鎮圧を要求

 「最近、義和団が大きくなってるぞ」

 「ドイツが戦艦を売るからだ」

 「中国に戦艦を売ったのは、ロシアの南下を防ぐためだよ」

 「口は便利だな。我々は、中国の中にいるんだぞ」

 

 

 東京

 「列強が急いで兵隊を北京に送って欲しいらしいよ」

 「余分な戦力はないから無理」

 「装甲列車で移動か、要塞防衛が原則だからね」

 「ネズミを買うからだ。バカが」

 「さすがにペストは嫌だろう、国防の一環だ」

 「無計画に東京を大きくしていくからだ」

 「もっと沿道と公園を増やすべきだろうな」

 「集客が減るとブツクサいう商店が多い」

 「集客距離は、何km?」

 「さぁ 1km以上は歩きたくないね」

 「逆に言うと必要なサービスが1km以内で全部揃わせればいいわけだ」

 

 

 ロシアが戦艦を極東に配備した後、

 日本も、ようやく装甲巡洋艦を建造する。

装甲巡洋艦

出雲、八雲、磐手、浅間、常盤、吾妻

排水量

全長×全幅×吃水(m)

石炭焚

石炭(t)

直立型往復動蒸気機関

(4気筒3段膨張式)

馬力

最大速力

航続距離

乗員
10000 123×21×7.3 12基 1500 2基2軸推進 14500 20.75 7000浬 600
45口径203mm連装砲2基 40口径152mm単装砲20基

 国家予算350,317,000。軍事費40,536,000。11.5パーセント。

 日本は、それまで累積させていた予算も含め、

 国産装甲巡洋艦6隻を建造。

 清国も、ドイツから12000トン級戦艦(頤和、徳和)戦艦を購入。

 極東・東アジア域での軍事バランスを保とうと対抗する、

 横須賀港に並べられた国産の装甲巡洋艦艦隊の完成を祝って、

 日本中がどんちゃん騒ぎしていた。

  

 神戸 観艦式

 初めての軍艦マーチが流れていた。

 「・・・勝てんでごわす」

 「だから、戦艦を建造しちょろうが。軍事費も国家予算の1割も超えたやろう」

 「うぬぬぅ・・・」

 「維新の火を消す下衆どもが良いように予算を動かしやがる」

 「ええい、しぇからしか。言われんでも頭にきとうわ!!」

 「じゃどん」

 「わかっとるっちゃ」

 「冶金技術で、こんなに負けてると思わなかった」

 「軍艦をイギリスから買えば良かったかの」

 「長い目で見れば、冶金技術で欧米に近付いたと思うちゃ」

 「そんな先の話より、目先の軍艦じゃ」

 「女々しいこと言うな」

 「勝てん」

 「まともに戦おうとするな」

 「正々堂々が男ぞ」

 「堂々と戦えるほど国力はないわ」

 「しかし・・・」

 「国民を餓死させるつもりか」

 「女工がどんな生活をしてるか、一度、紡績工場を見学してこい」

 「・・・・」

 「日本は義和団を利用してでも優位に立てばいい」

 日本の装甲巡洋艦は、イギリス装甲巡洋艦の設計図を元に。

 ドイツ装甲巡洋艦の設計図を参考に建造されていた。

 装甲巡洋艦の艦隊決戦投入は、英独の戦術にないものだった。

 砲口部や機関部は輸入に頼り。

 冶金技術で8〜10パーセントも装甲が劣る。

 英独装甲巡洋艦の良いとこ取り設計でデットコピーであり、

 まともに撃ち合えば “負け” だった。

 

 

 03/29

 衆議院議員選挙法改正

 選挙権が直接国税15円以上から10円以上に引き下げ

 「税金で選挙権はどうなのよ?」

 「貧乏人に選挙権を与えるなは、悪くないよ」

 「税金を社会福祉で使われると困るし」

 「短絡でアフォな日本人が多いから衆愚政になるよ」

 「だよな」

 「でも社会基盤は必要だろう」

 「選挙権のない人間の愛国心や忠誠心が期待できるものか」

 「それに特権階級が貧民層を無視して暴走する場合もあるからね」

 「でも10円以上支払える人間は、かなり増えたよ」

 「最低限、社会に貢献して欲しいね」

 「1円以上でも良くないか」

 「んん・・・」

 

 

 04/08 山陽鉄道が一等寝台車を導入(初の寝台車)

 

 04/15 パリ万国博覧会開催(〜11月15日)

 

 04/22 北京に義和団が現れ扶清滅洋 (清朝を助け、西洋を滅ぼせ)を喧伝。

 大阪

 工作機械がやかましいほど動いていた。

 義和団の脅威と中国民衆の多さに機関銃の重要性が高まり、

 大量の弾薬・部品製造が日本に発注される。

 マキシム1885 (7.62mm×54R)

 コルト・ブローニングM1895 (6mm×56)

 Mle1897重機関銃 (8mm×50R)・・・

 まだ過渡期の代物だったが中国派遣部隊は少なく、

 一人に対して火力増強が求められた。

 そして、機関銃は小銃より広範囲の敵に対応でき、

 “ライフル100丁分の価値がある”

 と手前味噌に売り込むだけの価値があったことを証明する。

 義和団の、むかしながらの剣、槍、弓には機関銃で事足りたのだった。

 そして・・・

 日本 22年式村田銃 (8mm×50)

 日本 30年式小銃 (6.5mm×50)

 イギリス リー・エンフィールドMk1 (7.7mm×56R)

 ドイツ モーゼルGew98 (7.92mm×57)

 フランス ルベルM1886ライフル (8mm×50R)

 アメリカ ウィンチェスターM1895 (7.62mm×54R)

 最初は銃弾を作っていたのが、小銃と機関銃の部品が増え、

 電力供給が増え、工場増築に伴い生産量が増え・・・

 「コルト・ブローニングM1895 (6mm×56)は、日本で諦めた6mmを使っているのか」

 「やはり、工作能力は隔絶してるな」

 「まぁ いずれは追いつくだろう」

 「だと良いがね・・・」

 「しかし、まるで万国博じゃないか」

 「義和団様々だな」

 「義和神社でも建てるか」

 「おおー 陰ながら応援しないとな」

 「夜勤は、ちゃんと来るんだろうな」

 「臨時列車と臨時バスを出して貰ったわい」

 「あ、来ましたよ」

 アメリカ人将校たち

 「ヘイッ! 小さい工場だな」

 「もっと大きくしないと駄目でしょう」

 「と、土地の収用は、まだ・・・」

 「回りは農地なんだから周りの土地を買って」

 「出入り口を封鎖して安く根こそぎ奪いなさい」

 「し、しかし、それだと・・・世間体とか・・・」

 「そんなの無視、無視。土地の収用は資本主義の常識。日本は遅れてま〜す」

 「はぁ」

 「それと汎用工作機械は駄目でしょう」

 「熟練工は替わりがいないと我が儘になりま〜す」

 「保身で後塵を潰しま〜す」

 「多少、面倒な工程でも単能工作機械をたくさん並べなさい」

 「し、しかし、工場が狭いですし」

 「電力供給とか、余剰人員が多いと賃金とか、交通機関とか・・・」

 「そんな、消極的は駄目駄目です」

 「周りの土地を収用して、工場を広げる」

 「公共バスを通しなさい」

 「そして、誰でも出来る単純作業で大量生産です」

 「はぁ・・・」

 「こんなでは、とても間に合いませ〜ん」

 「今は、夜勤で対応してますが・・・」

 「おー のー アンリビーバヴォー!」

 「日本人。世界、なめてま〜す」

 「今月中に十倍発注です。このままじゃ、間に合いませ〜ん」

 「十、十倍・・・」

 「さっさと土地収用しなさい」

 「アメリカから中古工作機械持ってきま〜す」

 「電力用の発電機も必要で〜す」

 「し、しかし・・・」

 「このままだと北京でアメリカの同胞が義和団に殺されてしまいま〜す」

 「そうなったら日本人の責任で〜す」

 「そんな無茶な」

 

  

 05/19

  国防大臣は、退役の大将・中将が勤める退役武官制が敷かれる。

  

 新潟平野

 鉄道が敷設され、水田が開拓されていく。

 「ヨイっと巻け〜!!!」

 「「「「「おー!!!!!」」」」」

 縄が一斉に曳かれると同時に槌が引き上がり、

 槌が落とされる。

 地盤の弱い土地は、基礎杭を作り構造物を建築する。

 「もっと深くまで基礎杭を入れんと鉄橋は走らせられないぞ」

 「1676mmで造るからだ。1067mmで作ってりゃよかったのに・・・」

 「海軍がショボイからな、陸兵を運ぶため大きいのを作らんとな」

 「やれやれ、基礎杭を打ち付ける機械でも作ってくれんかの」

 「まぁ 探して貰うたい」

 政府の肝いりで土地が売られ、

 人海戦術で大規模な開発が進められていく。

 男たちは、地図を見ながら区画ごと、行程を組み立てていく。

 「水田は、まずいやろう」

 「寒冷地は、ジャガイモ、とうもろこし、麦が、強いやろう」

 「研究中だ」

 「無理に金かけて、研究することないやろう。自然に逆らうもんじゃない」

 「そりゃ うどん、そば、パン食は、悪くない」

 「そうやろう」

 「それでも、飯は、食べたい」

 「まあな」

 「そういうもんだ。駄目元でも、米ば作りたい」

 「開拓予算は、当面、大丈夫だが、急いでくれ」

 「軍が、せっついているのか」

 「ああ」

 「ったく、弾をいくら造っても食えんばい。強盗でもする気かのう」

  

  

 06/20

 紫禁城

 清国の支配者が贅を尽くした満漢全席を前に座っていた。

 「頤和園(ていわえん)の修復で忙しいというのに・・・」

 「しかし、このままでも中国民衆は列強と・・・」

 「義和団は、清国と欧米列強を戦わせて清国を弱体化させようとしている」

 「反洋も反清も、わらわを滅ぼそうとしているのじゃ」

 「御意」

 「裏切り者どもめ、清朝の許しもなく、勝手な妄動をするなと、民衆に伝えるが良い」

 「はっ!」

 「あ、いや、もう少し様子を見よう」

 「強気に出た方が白人どもに効果があるやもしれん」

 「清国の威信は朝鮮占領で高まっております」

 「うむ」

 この日、数人のロシア人が義和団に殺害される。

 

 

 日本 下町の自転車生産工場

 「自動車より自転車か」

 「自動車を買える人間は少ないが自転車なら買える」

 「だいたい道が悪すぎて自動車は駄目だ」

 「次の予算で道路を一部舗装するかもしれないそうだ」

 「発電所じゃなかったのか」

 「あっちも、こっちも、予算を欲しがってな」

 「そりゃそうだ」

 「しかし、集中して投資するほうが良い」

 「発電所は、ある程度、軌道に乗っているから自己資金でやるだろう」

 「助かるね」

 「しかし、あまり政府の金を頼られては困る」

 「それに自己資金でやるほうが口出しされずポケットに入れることが出来るだろう」

 「そうだろうが・・・」

 「軍が自転車を配備したいそうだ。軍用自転車を頼むよ」

 「ほう。騎馬隊じゃないのか・・・」

 「予算が1割超えて豪儀になったらしい」

 「移動用だよ。なるべく軽く、丈夫で壊れないもの」

 「装備一式載せて手が塞がらないようにしたいそうだ」

 「民間に売っても良いんだよな」

 「それは価格しだいだな」

 「どの程度安く出来るかにもよる。軍も予算が厳しい」

 「それが、一部、道路舗装と関係があるのか」

 「基本的に鉄道で移動させることになるが」

 「展開と連絡を急がせるなら自転車は使える」

 「なるほど。うちとしては、良い傾向だな」

 「兵士、一人当たりの鉄量が増えるから」

 「その点は考慮してくれ。全軍配備じゃないがね」

 「いいとも」

 「それと、東北や北海道も工場を作りたい」

 「おいおい」

 「政府の方針でな。助成金は出るそうだ」

 「飴と・・・鞭か・・・・・」

 

 07/19

 パリ万国博覧会会期中にパリの地下鉄が開通

 

 

 長崎造船所

 大型貨物船が建造されていた。

 「定期貨物船就航が決まったよ」

 「そうか、一時は、どうなるかと思ったが」

 「定期船なら大型が良いさ」

 「中小企業でオンボロ商船をバラバラで使われるよりもね」

 「あとは鉄道との連結か」

 「荷揚げ作業は時間と手間がかかるからな」

 「それで手間取ったようなものだ」

 「大型クレーンの建設が進めば荷揚げの件は、だいたい、済むが軍が煩かった」

 「予算を寄こせってか」

 「ああ、ロシアのシベリア鉄道建設で朝野とも軍事費増大に傾いている」

 「まだ、余裕があるだろう」

 「・・・訓練期間を含めるとギリギリだらしい」

 「それに清国海軍の増強は気持ちが悪い」

 「軍は地震、津波があるから、あんなもの建てても無駄だとか騒ぐし」

 大型クレーンを見上げる。 

 「それを言うなら何もするな、というのと同じじゃないか」

 「そうだろうが。軍自身は、地震や津波の被害に遭わないと思っているところがすごい」

 「ふっ バカばっかだ」

  


 09/13 米比戦争、プラン・ルパの戦い

 

 09/17 米比戦争、マビタクの戦い

 

 10/18 義和団ロシア人殺人事件、北京列国公使会議開催

 「義和団を取り締まって欲しい」

 「そうでなければ、我々は、強硬な態度と取るよりない」

 「ロシア人の賠償していただきたいですな」

 「「「・・・・」」」

 「誠意がない場合は・・・」

 

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 月夜裏 野々香です。

 義和団の乱が起きた時期ですが、日清戦争回避により。

 清国海軍は、現存。

 また、清国陸軍もそれなりです。

 義和団は、民衆のエネルギー不足で失速。

 「扶清滅洋」(清朝を助け、西洋を滅ぼせ)は、くすぶっています。

 

 日本の装甲巡洋艦は少し怪しい性能です、

 基幹となる砲身部と機関は、イギリス製ですので、比較的しっかりしています。

 日本の冶金技術は、それなりで工業化の段階でへたれのようです。

 

 史実では、軍部大臣の現役武官制でした。

 しかし、日清不戦は、戦争していないので国防大臣の退役武官制になってしまいました。

 鉄道省、財界、議会の圧力です。

 端的にいうと大臣になりたければ軍を辞めろです。

 OBは、権限無し。

 それなりに古い知識があるので弊害になるか、なんとかなるかも、です。

 

 

 

 

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第07話 1899年 『一度傾いた振り子は、簡単にもどらんぎゃ』

第08話 1900年 『装甲巡洋艦6隻たい!国産たい!』

第09話 1901年 『四面外患やぞ』

海軍力

 

 各国軍艦状況