月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

   

   

第09話 1901年 『四面外患やぞ』

 国家予算390,317,000。

 軍事費50,536,000。12.9パーセント

 

 旅順

 「レトヴィザン」 

  排水量12900トン、(全長118m×幅22m)、

  出力17000馬力、速力18ノット、(航続距離10ノット×8000浬)、

  主砲305mm連装砲塔2基、副砲152mm単装砲12基、

  他75mm単装砲20基、47mm単装砲24基、37mm機関砲8基。

  457mm水雷水上発射管4門・同水中発射管2門。

  装甲喫水線部分228mm、甲板76mm、

  砲塔228mm、指令塔254mm。

 

 

 この時期

 欧米列強は、互いに競合しながらアジアの利権を拡大し、日清を蝕みつつあった。

 しかし、ロシア帝国がシベリア鉄道を完成させてしまうと状況は変わる。

 ロシア帝国は、欧米列強よりアジア侵食で有利であり、

 列強は、日清両国の弱体化とロシア帝国の東アジア支配を恐れた。

 欧米諸国は、武器弾薬の輸出でロシア帝国の南下を防ぐ政策を執り出した。

 「このままでは、中国大陸は、ロシアに征服されますよ」

 「それは困るある」

 「それなら我々の便宜を図り、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカの中国権益を増やすべきでしょう」

 ロシア帝国と欧米列強の軍事的圧力は日増しに強くなり、

 清国は、豊富な財源で艦隊を揃え、形ばかりの威容を保とうとしていた。

 しかし、欧米列強と結びつきを強めて清国封建社会から脱し

 近代化を目指す勢力が国内に台頭する。

 清国の宦官たちは、近代化で既得権が奪われることを恐れ、

 科挙を軸にした封建社会の破壊を恐れ、

 洋学を排斥、

 また、地方軍閥が欧米諸国と組むことを恐れ、

 中華思想を強めて開明派を潰し、

 清国近代化を逆行させてしまう。

 欧米列強は清国の旧態依然とした封建社会と、遅れた技術を好都合と考え、

 さらに浸食を強めていく、

 

 一方、日本は、外圧に萎縮しつつ、

 島国である利点から仮想敵国の船舶トン数を逆算して、輸送能力を割り出し、

 鉄道を利用した国土防衛と、海軍の整備を進めていた。

 日本の西洋技術の導入と吸収力は、圧倒的に早く、

 欧米諸国が警戒するほどの成果を上げていた。

 

 

 

 東アジアは、アジアに忍び寄る欧米列強の覇権と、

 ロシア帝国のシベリア鉄道完成で受ける軍事的脅威に直面していた。

 さらに清国艦隊の重圧で、日本全体が焦燥感に駆られていた。

 某 大臣宅

 「鉄道省は、予算を盗り過ぎじゃ」

 「軍事費は、一割超えたやないか」

 「鉄道省は、4割いっとうやないか」

 「ロシア海軍は、戦艦やど、305mm砲やど」

 「だから造っとろうが」

 「・・・・清国は、負けるぞ。ロシアに滅ぼされる」

 「それも、わかっちょう」

 「半島を取るか、独立させんと、日本は、独立を失う」

 「それも、わかっちょう」

 「わかっちょらん。植民地にされてからでは、おそか!」

 「鉄道省も似たようなことを言っちょう」

 「日本の鉄道を一流にせな、植民地にされる、とな」

 「ふん、なんとでも言うて、予算を取ろうと、しとるだけじゃ。保身に決まっとう」

 「それも、わかっちょうが・・・」

 「それに朝鮮は、入国禁止じゃ いまさら朝鮮半島の利権なんぞないわ」

 「んんん・・・事大党に凝り固まって日本人をコケにしやがって臆病もんが」

 「清国と陸続きになれば臆病にもなるわい」

 「ぽんぽん、戦艦を買える国じゃ」

 「んんん・・・」

 「清遠、華遠、頤和、徳和にも頭にくるわい」

 「これ見よがしに日本の沿岸を遊弋させやがって」

 「そのくせ欧米に尻尾振りやがる」

 「ソコソコ大きい港湾の高台に要塞砲台を並べとる」

 「もう、港には、入いらんやろう。その気になれば、一発や」

 「このままじゃ ロシアと欧米列強にアジアは支配されてしまうぞ」

 「戦艦が建造できるまで待てや」

 「・・・・・・・」

  

  

 北海道

 厚岸港湾

 ズワイガニとタラバガニが七輪で焼かれていた。

 「はぁ〜」

 「ため息が氷になって落ちやがる」

 「日本人は温暖な気候に住んでいたから」

 「こういうところには、住みにくい」

 「しかし、随分、人口が増えた」

 「これだけ立派な家を揃えたら。住むやろう」

 「二重壁で風も入らんし、保温もしっかりしている」

 「北欧の建築技術は使えるな」

 「それに海産物は豪勢じゃないか。本州では食べられんぞ」

 ズワイガニを頬張る。

 「工場は、動いているのか?」

 「ああ、魚肉工場は、フル稼働だ」

 「本州と鉄道で、結ばれれば良いんだがな」

 「ふっ そうだな。択捉に行った弟もそういってたな」

 「択捉か、遠いな」

 「冬だとそうだな」

 「しかし、政府が町ごと建設する気でいる」

 「軍艦は?」

 「軍艦も必要だがな。生活も必要だ」

 「独立した町を建設して、あとは、勝手にやってくれというものらしいが・・・・」

 「それでも助かるさ。町に行けば必要なものが揃う」

 「後ろ盾になる町があるのと無いのとでは、守備隊も随分違う」

 「本州との予算の取り合いもあるからな」

 「簡単ではないが地域で核になりそうな都市に予算を配分するようだ」

 「しかし、あまり、生活が優遇されると戦争が出来なくなりそうだな」

 「無理に戦争することも無かろう。攻めてきたわけじゃない」

 「・・・・そうだろうが」

 

 

 上海

 三井物産の倉庫

 「・・・鉄鉱石と石炭の集積が遅いな」

 「やはり、イギリスのルートを使うべきだろうな」

 「欧米諸国が、大陸から日本資本を追い出したいのだろう。見え見えだな」

 「そして、清国人も日本資本を追い出すことを良しと思っているようだ」

 「日本に鉄鉱石と石炭を輸出すると軍艦を建造するから、困るのだろうな」

 「それとも、欧米諸国に良いようにこき使われている清国人を見せたくないのでは?」

 上海で貴族風の生活をしているのは、欧米人ばかりだった。

 そして、欧米人と手を組んでいる一部の清国人。

 しかし、ほとんどの中国民衆は、虐げられた生活をしている。

 日本商人は、日本で生産した消費財を持ってきて売買するか。

 中国の資源を日本へと輸入するかで、もっとも必要なのは、鉄鉱石と石炭だった。

 「本国は、大型貨物船でアメリカから鉄鉱石を輸入する方がいいと思っている」

 「それか、東南アジアのシンガポールだ。あそこも資源が多い」

 「まあ、輸入できる国が多いほうが助かるが・・・・日本の行く末は厳しいな」

 「清国艦隊は、増強されている。いまのところ。建造する力は無いが・・・」

 「日本の工業機械と鉄鉱石、石炭との交換か」

 「そうだ。日本が売らなくてもほかの国から買うだろう」

 「しかし、売って資源を購入できれば日本産業は維持できる」

 「出来れば、現物だけにしたい」

 「清国海軍の動きを見れば、日本を仮想敵国としている」

 「大アジア主義という幻想を抱いているのは日本だけか」

 「日本人が、お人よしなんだろう」

 「しかし、鉄も石炭も必要なものは手に入れなければならんな」

 「そうだな」

  

  

 鉄道施設

 日本海側の安酒屋

 「・・・・どうしたんだい。しょげ返っちゃって」

 「はぁ〜 鉄道建設で商売上がったりだ」

 「荷受かい」

 「ああ、荷馬車業は、落ち目だな」

 「大変だね。文明開化も」

 「何が文明開化だ。けっ!」

 「・・・食っていけなきゃ こんな国、滅んでしまえばいいんだ」

 「我慢していたら、そのうち、仕事も増えるさ」

 「ふん。我慢していたら・・・」

 「最近は、3輪自転車が小荷物程度ならさっさと運んでしまうご時世だ」

 「ああ、あの後輪が二つある自転車かい。便利だね」

 「タンスを運べるやつもあるんだろう」

 「そうだろうよ。軍隊も使っている」

 「最近は給金が減っちまって、やっていけないよ」

 「・・・・荷受仕事が欲しいなら。東北か、北海道に行くといい」

 隣の羽振りのよさそうな男が声を掛けた。

 「・・・・あんた誰だ?」

 「あそこは、雪が厳しくてな、自転車じゃ、よう運べんそうだ」

 「女房も子供もいるんだよ」

 「国の予算が、そっちに回ってな。家も安く買えるし、借りるのも安い」

 「・・・・・」

 「馬もいる。というより、日本の馬や牛の多くは北海道で育てている」

 「・・・・」

 「わたしは北海道で牛肉の卸をやっている。営業の帰りでな」

 「今ある家財を売って来るのもいいだろう。寒いかもしれないがな」

 「・・・」

 「最初は、あんただけ来て様子を見るのも良いだろう」

 「・・・・・」

 「国の予算がそっちに流れていることを知らないのか?」

 「いや・・・」

 「若い連中が北に行けば仕事があると言ってたのを聞いている」

 「そうだな。出来れば若い方が良いか」

 「なに、若いのを引っ張って行ってもらってもかまわんさ」

 「そうすれば、こっちの仕事が増える」

 「では、そうするか」

 低層の庶民は、生かさず殺さずで生活している。

 彼らは、愛国心など、どうでもいいことだった。

 少なくとも敵軍が上陸してこない限り、愛国心も意識しない。

 しかし、一旦、生活が国に保障されれば保身から愛国心も育ってくる。

 生活も保障されず働かされれば、裏切られる可能性も高くなる。

 多くの場合、愛国心を叫ぶ輩は国から生活を保障されている人間であり、

 一般人の多くは冷めていた。

 つまり、国が与えられる保障以上の愛国心を求めるのは無理がある。

 不正腐敗を可能な限り抑えても、

 愛国教育で補っても限界がある。

 帝国議会が公共投資に予算を分配しているのも、そういった国民の声といえた。

 清国が内部から崩れているのも清国の体質、不正腐敗の不信任が根底にあり。

 生活苦があった。

  

  

 大臣宅

 「・・・・こういった予算編成は、やりにくいな」

 「安定して予算を分配する方が助かるんだが」

 「そして、官僚を太らせるのか」

 「おいおい。政党が変わる度に線路を変更されては、無駄な工事も多いだろう」

 「もっと予算を確実に使うべきだろう」

 「だから、短期に集中して予算を使っているだろう」

 「そして、軌道に乗ったら。ハイ、さよならか。悪くは無いがね・・・・」

 「政治家としても、そっちが助かる」

 「短期にさっさとやってしまうと選挙受けが良くてな」

 「過疎地への投資もか」

 「軍に使われてしまうより鉄道で使うほうがいい」

 「そういえなくも無いが・・・」

 「結局な」

 「国が国民に何かをしてやるのではなく」

 「国民が国に何かをしてやる気構えが無ければ」

 「今の政策も限界になってくる」

 「公共投資はそういうものだ」

 「自立させたら手を引く。天下りも無しだ」

 「政治家が自らを律することが出来るのなら、我々も考えるがね」

 「考えてもらおう」

  

  

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第08話 1900年 『装甲巡洋艦6隻たい!国産たい!』

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第10話 1902年 『戦艦を建造したいんだよ。戦艦を』

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