月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

   

第13話 1905年 『おまえ! 世界地図を見てから云え』

 01/16

 ロシア、ペテルスブルグの工場でストライキ。

 

 01/22

 ロシア、血の日曜日事件。

 サンクト・ペテルブルクのデモ行進に対し軍隊が発砲。

 死者1000人以上。負傷者2000人以上。

 

 清露(露清)戦争は、極東バランスを完全に狂わせていた。

 欧米列強は、世界最後の殖民地である中国大陸で覇を競うため、

 清国に武器弾薬を供給。

 清国はロシアの侵攻を食い止めるべく、欧米各国から武器弾薬を購入。

 対価で国益を売り渡していく。

 ロシア軍は、冬季明けを待って大攻勢を行うと準備中だった。

 清国は、アメリカ、イギリス、日本から武器弾薬を大量に購入し、

 ロシア軍に準じた装備で四平に展開する。

 しかし、前年より近代的な装備になっていたものの、

 清国社会は、腐敗しており、

 収集された清国兵士の士気は低くかった。

 

 

 03/31

 ドイツ皇帝ウィルヘルム2世がモロッコのタンジール港を訪問

 モロッコの領土保全と

 門戸開放を主張しフランス権益を脅かす、(タンジール事件)

  

 

 台湾の台北に入港する日本商船隊。

 「土地の接収が終わったら、すぐに鉄道を施設するそうだ」

 「日本から水飲み百姓がいなくなるな・・・」

 大農主は小作人を失って解体しつつあった。

 仕方なく、財力のある企業系農業で再構築されていく。

 「台湾の方が企業系農業が入り込み易いし、農作物で有利だ」

 「まぁ 機械化や法整備でいうと目が届きやすくなるし」

 「農閑期での職種も都合が付き易くなる」

 「口減らしで遊郭行きの娘も減るやろうな」

 「その企業が信用できればね」

 「いまの日本は、人権を問うような余裕がないやろう」

 「しかし、企業は、儲け中だな」

 「アメリカ、イギリス、ドイツは、日本の工場で生産したものを」

 「中国大陸に持って行く方が良いと思っている」

 「日本は、欧米から工作機械と資源を購入して生産すれば良いだけか・・・」

 「台湾も工場を建設しなければならんな」

 「それには水力発電所を建設しないとな」

 「それより、台湾なら、二毛作、二期作が当たり前に出来る」

 「熱帯作物もいけるぞ。こちらの方が需要と利益が大きいだろう」

 「石炭は?」

 「石炭は、少し取れるそうだが、鉄は乏しいらしい」

 「・・・日本の大陸依存は変わらないか」

 「アメリカ、イギリス、ドイツに大陸を抑えられるのは、面白くない」

 「ロシア一国に日本の生殺与奪を抑えられて、生皮で絞められるより、マシだ」

 「冬季開けになれば、ロシア軍の南進が始まる」

 「清国軍が抑えられるかどうか」

 「山海関を最終防衛線にするらしい」

 「満州を放棄か、冗談じゃない。四平で抑えろ」

 「清国軍に言うんだな」

 「義和団も一部が参戦しているようだが、どうも内部刷新の意識が強いようだ」

 「権威と宦官と世襲制度で作られた封建制は、実力も能力も排除してしまう」

 「清国軍の士気は著しく低い」

 「儒教は統制が良いが近代戦に向かないな」

 「そういえば膠州湾の清国海軍の修復も満足に進んでいないな」

 「技術者と職人の価値が低いのだろう」

 「というか、宦官が技術者や職人より偉いのがおかしい」

 「欧米艦隊が膠州湾に派遣されていなければ」

 「清国艦隊は、ロシア艦隊に収されていたよ」

 「清国軍には、武器弾薬を十分に供給しているはずだ」

 「清国は、もっと、武器弾薬をよこさないと」

 「ロシアに清国を占領させると嘯いているらしい」

 「自分自身を人質に欧米諸国に譲歩を強いるなよ」

 「天は、自ら助けるものを助ける。西洋のことわざだな」

 「精神論を振りかざすつもりはないけどね」

 「同等の戦力なら戦略と戦意は、重要な要になる」

 「日本軍も不安だな」

 「西南戦争が1877年」

 「いまは、1905年で、最後に戦って28年になる」

 「当時の兵士は、引退だよ」

 「単純に47歳以下で戦闘に参加したことのある人間はいないということか」

 「・・・訓練だけでは得られないものがある厳しいな」

 「最悪でも指揮官が戦闘を経験していれば、何とかなるだろう」

 「抜刀で突撃しなければいいがな」

 「ははは、まさか・・・・」

 「・・・・おい。ロシアの装甲巡洋艦だ」

 水平線上に軍艦が浮かぶ。

 「・・・釜山港に配備されたロシア太平洋艦隊か」

 「釜山港も日本が取ればよかったんだ」

 「陸軍戦力が少なくてロシアと事を構えたくなかったんだろう」

 「小さな島と半島なら護りやすい」

 「ロシア太平洋艦隊とも、ことを構えたくないね」

 「しかし、台湾沖までロシア艦が現れるとなると」

 「清国に対する輸送が不安になるな」

 「それが目的で遊弋させているんだろう」

 「日本と欧米諸国商船が武器弾薬を満載し」

 「清国に入港していることは知られている」

 「欧米諸国も上海に軍艦を派遣しているから」

 「バランスだけは取れているがね」

 「欧米諸国も地球最後の植民地。中国大陸の総取り戦で必死なんだろう」

 「日本は含まれてないのか、幸せだな」

 「まぁ 日本は、内部崩壊していなければ何とかなるだろう」

 「清国は崩壊か」

 「軍閥も勢力が増して中国民衆はバラバラ」

 「欧米列強は中国官僚と結託して権益を増大させている」

 「中国の次は、日本だな」

 「政府は、欧米列強の清国植民地化を助けて日銭を稼ぐつもりらしい」

 「本当に?」

 「ロシアの南下を防ぐためイギリスと同盟を結ぶ動きもある」

 「あと清国が欧米諸国に支配されている方が良いと計算したようだ」

 「げっ! アジアに対する裏切りだよ」

 「政府は、アジアを裏切っても、日本民族を裏切りたくないんだろう」

 「それなら、妥協できなくもない」

 「日本政府は、中国に取り付いた欧米列強の権益を保障する代わりに」

 「資源の輸入を確実にするのが本音らしい」

 「バカな。政府は何を考えているんだ」

 「欧米諸国に生殺与奪権を握られて喜んでいるんなんて、狂っているとしか思えん」

 「金だよ。日本の近代化だな」

 「バカな。陣取り合戦で末期的な状態にあるのがわからんのか」

  

  

 冬季明け、ロシア軍の南進が始まる。

 清国軍は、四平を中心に戦線を構築していた。

 ロシア軍の攻勢が始まると清国の戦線が切り崩されていく。

 清国軍は、ズタズタに寸断されて孤立していく。

 逃亡が増えるとロシア軍は前進し、

 各所で包囲され、四平戦線は崩壊していく。

 清国軍は、ロシア軍の圧倒的な攻勢に雪崩を打って逃亡。

 清国軍が戦線を立て直したのは山海関防衛線だった。

 そして、清国王朝は、ロシア帝国に対し屈服した。

  

 山海関で露清講和条約が調印

 清国は、朝鮮半島の放棄。

 ロシア満州支配を容認。

 しかし、清国艦隊の引渡しは、日欧米列強の圧力でロシア側が妥協する。

 清王朝は、弱体化し、

 急速に求心力を失って中央集権が崩壊していく。

 そして、中国民衆の間で、くすぶり続けていた義和団が台頭する。

 キリスト教排斥と扶清滅洋を叫んで中国各地で蜂起。

 駐留する欧米諸国軍によって鎮圧されていく。

 そして、欧米列強軍が義和団を鎮圧した武器弾薬は、

 日本で生産されたものだった。

 

  ※青はドイツ帝国領です。

 

 07/29 桂・タフト協定

 日本の台湾支配と米国のフィリピン支配を相互承認

 

 日英同盟調印。

 

 08/20 孫文が東京で中国同盟会を結成

 

 09/02 清が科挙を廃止

 

 北海道東部。厚岸湾

 官僚たちが建設されている港湾施設と国防工廠を見上げる。

 「・・・・大きいな」

 「ああ、北海道は、穀倉地帯として寒い」

 「しかし、工業地帯なら都合が良い」

 「工業化は、南が良かったんじゃないのか」

 「雪が降ったら大変だぞ」

 「ロシアに対抗する為、北海道の底上げが必要でな」

 「北海道、本州、九州、四国、台湾の基礎工業力を自立させるつもりらしい」

 「それで穀倉地帯は南に任せて、工業を北側に割り振ったのか」

 「移民は簡単にいかないだろう」

 「そうでもないさ。注ぎ込まれる予算は大きい」

 「総領息子が残れば、次男以下は土地があればそこに行く」

 「じゃ、政府は、ルートと土地の分配を考えれば良いのか」

 「後は、勝手にやってくれるだろう」

 「デモクラシーか・・・」

 「国が豊かになれるのなら民主主義、自由主義で都合のいいものを輸入すれば良い」

 「躊躇して、清国や朝鮮なると国が滅ぶ」

 「清国もそうだが、朝鮮も酷い状況らしい」

 「ロシア人の半島移民が始まっているようだな」

 「中央アジアに強制移民されている朝鮮人は悲惨らしいな」

 「ロシア人は、気候が良く不凍港のある朝鮮半島に根付いたら手放さないだろうな」

 「そして、ロシアの次の狙いは、日本か」

 「ロシアに対抗するための日英同盟だろう」

 「ロシア海軍が、東太平洋にはびこることを面白く思わない国は多い」

 「イギリスだけでなく、アメリカもだな」

 「だが、ドイツ、フランス、イタリアは、そう思っていないぞ」

 「連中は、ロシア海軍を増強させてイギリス海軍を相殺させたいはずだ」

 「そうでもなかろう」

 「欧米諸国は、ロシアの南下を防ぎつつ、清国の植民地化で一致している」

 「良いねぇ 国内政治も、権謀術数も、国際情勢も良く似ている」

 「利己主義とご都合主義のごり押しで離合集散のバトルロイヤルだな」

 「日本は、国際間の隙間を利用して近代化しているから悪くはないよ」

 「舵取りは大変だがね」

 「日本人にそんなバランス感覚はないよ」

 「短絡バカの方が多い」

 「のらりくらりやってる人間向きだな」

 「この僻地が根室を抜いて、函館並みの規模になるのも時間の問題だ」

 「しかし、近代化に必要な石炭と鉄が足りない」

 「石炭の変わりに油田でもいいがね」

 「本当は、5島に基礎工業力を分割するより」

 「集中させたほうが良かったのでは?」

 「人口を増やすには食糧の増産が必要でな」

 「南側の水田を増やしたいという狙いがあってな」

 「北側に人口を誘導して工業化を進めたいらしい」

 「北海道は、地元勢力の影響が少ないから、政府が好きなように設計が出来る」

 「そういうことね」

 「しかし、国防省は、うるさいぞ。軍事費を増やせとな」

 「いまのところ、海軍戦力は拮抗している」

 「バルチック艦隊が来たら?」

 「膠州湾の清国艦隊がロシアに接収されたら」

 「膠州湾の清国艦隊は、艦底に爆弾を仕掛けられている」

 「接収されるなら爆沈だそうだ」

 「山海関で防衛できるだろうな」

 「あそこを突破されたら防ぐ手段がないぞ」

 「そうだな」

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 血の日曜日事件、起きてしまいました。

 露清戦争での勝利で気分のいいロシア皇帝に水をさしたからでしょうか。

 それとも側近の報告に問題ありだったのでしょうか。

 宮廷内の権謀術数でしょうか。

 権力の集中した皇帝も国民の空気を読めなくなると・・・・・・・

 やれやれです。

 

 ドイツ領、山東半島について説明です。

 少しドイツ領山東半島の説明を・・・・

 1897/11/01日

 山東省で、スタイル派のドイツ宣教師2名が殺害される。

 1905年、露清戦争で清国が敗北。

 “あの時、殺害された宣教師2人”

 に対する言い掛かりで、ドイツ軍が膠州湾を占拠。

 山東半島ドイツ領 租借地7100ku。

 その後、ドイツは、あれこれと難癖を付け、

 租借地は、45000kuまで拡大(予定)。(九州:36730ku)

 

  

史実では、この年です。

戦艦ポチョムキンの反乱

 

 

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第12話 1904年 『清露戦争だぎゃ』

第13話 1905年 『おまえ! 世界地図見てから、云え』

第14話 1906年 『・・・・日露戦争じゃ』

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