月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

第17話 1909年 『貧乏だから仕方がないだろう』

 ロシア帝国が満州・朝鮮を開発し、

 国力を増強するまで間があると判断されていた。

 イギリスで開発されたドレッドノート型戦艦は、欧米各国で建造されつつあり、

 必賞必罰の原則に従うなら、

 日露戦争の功績で海軍は、軍事費増大だった。

 「こんなに軍備を減らして、国が守れるか」

 「戦争は終わったから」

 「つ、次は、アメリカだろう」

 「いまは大丈夫だろう」

 「ホワイトフリートが来ただろう」

 「無事に帰ったじゃないか」

 「必賞必罰はどうした!」

 「生せは生る 成さねは生らぬ 何事も 生らぬは人の 生さぬ生けり」

 「な、なんじゃそりゃ!」

 「藩のため上杉家恩顧の家臣6000人を生活苦にした。上杉鷹山の言葉じゃ」

 ぶちっ!

 軍人たちも、中興の祖の言葉は、幼少のころから叩き込まれていた。

 

 

 03/08

  度量衡法改正公布

  尺貫法・メートル法に加えてヤード・ポンド法も公認

 

 

 日本政府は、膨大な負債をやりくりするため、

 軍事費を大幅削減してしまう。

 煽りを受けた日本海軍は、現用戦艦の修理改装でお茶を濁した。

 新造艦では、とても試せないような、

 品質的な試行錯誤が繰り返され、

 のちに冶金技術を飛躍させる結果にもなった。

 重油燃焼機関への換装。

 重量を削減するため副砲を剥がし、

 衝角を剥がし全長を伸ばし艦橋を後退。

 第2砲塔を背負い式に配置。

 揚弾筒システムは、イギリス製式、

 しかし、大砲はドイツ製50口径283mm砲身を購入して配置。

 副砲が無くても主砲を50パーセント増加すれば、埋め合わせが利く、

 そういう計算だった。

 デブ系の艦型だった戦艦群は、改装が終わると、

 わずかにスマートになっていた。

 戦艦総数は、17隻に達し、

 さらに砲数5割増しで改装されていく。

 捕獲した戦艦から各国の造艦技術を学び、取り入れていく。

   (三笠、初瀬、敷島、朝日、八島、富士)6隻

    140m×23m×8m。18000馬力、24ノット

    16000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

  (ボロディノ、アレクサンドル3世、アリヨール、スワロフ、スラヴァ)5隻

    140m×23m×8m。18000馬力、24ノット

    16000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

  (ツェザレウィッチ、レトヴィザン)2隻

    130m×22m×8m。18000馬力、24ノット

    15000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

  (ペレスウェート、オスラビア)2隻

    130m×22m×8。16000馬力、20ノット

    15000トン、50口径245mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

  (ペトロパブロフスク、ポルタワ)2隻

    120m×22m×8。16000馬力、20ノット

    14000トン、50口径305mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

 そして、修理改装は、戦艦だけに留まらず、

 装甲巡洋艦12隻も同様の修理改装が行われ、

 連装砲3基となっていく。

    八雲、吾妻、浅間、常盤、出雲、磐手、春日、日進、

    ロシア、グロムボイ、リューリック、バヤーン

 

 07/31 

 大阪市北区で大火

  (キタの大火/天満焼け 焼失戸数11365戸 罹災地面積1.2平方キロ)

 「随分と焼け出されたじゃないか」

 「北方領土移民で丁度良いよ。人手も欲しかったし」

 「北方領の家付きの土地と交換かな」

 「良いねぇ」

 「これからも大火待ちかな」

 「だいたい、道幅が狭過ぎるんだよ」

 「そうそう」

 

 

 赤レンガの住人

 「ペトロパブロフスクとポルタワの2隻を河川砲艦として、売却するのか」

 「装甲がハービィー鋼でな」

 「防御力で当てに出来ない」

 「しかし、アメリカが中国支配で使いたいらしい」

 「上層部は、反対なしか」

 「どうせ拾い物の戦艦なら金になる方が良いそうだ」

 「海軍も、戦艦が減れば新造戦艦が建造できると踏んでいるらしい」

 「17隻が15隻になるだけか」

 「軍事的には、まだ余裕があるだろう」

 「そうは思わないがね」

 「仕方ないと?」

 「仕方がないか・・・」

 「便利な言葉だな」

 「だが、欧米諸国は、中国を本格的に食い散らかす気でいるようだ」

 「それと、膠州湾の清国艦隊だが日本で解体することになりそうだ」

 「もう、役にはたたんだろう」

 「それでも鉄材になるな」

 「鉄は欲しいからね」

 

 

 三笠 艦橋

 「クルップ製50口径283mm連装3基は悪くない」 長官

 「かなり無理のある改装じゃないですか」

 「英独技術の混載というのは?」 副官

 「ドレッドノート型と同じ砲塔と揚弾装置だからな」

 「アームストロング製とヴィッカース製も良し悪しあるようだ」

 「どちらも、世界最高峰ですがね」

 「どこまで模倣できるかわからん」

 「ただ単に技術の蓄積のための改装だろうな」

 「でぶ艦型の艦首に無理やり砲塔を配置」

 「機関部が狭くなったから重油燃焼機関ですからね」

 「増長させた艦首と艦尾側に直接戦闘に関係ないものを持っていた」

 「いろいろ、不都合があるな」

 「だから、技術の蓄積だろう」

 「この艦隊では戦争しないだろう」

 「できないことも無いが特に戦う相手もいない」

 「次はアメリカだと思いますが」

 「ロシア陸軍の圧力は強まっている」

 「欧米列強は日本に発注するしかない」

 「財界は、お得意様だと思っているよ」

 「そうでしょうが・・」

 「貧乏だから仕方ないだろう」

 

 

 ハルピン

 “戦争は、一部の利権構造が国家政策を誘導し”

 “国家と国民全体に負担を強いるのであり”

 “特定産業が、国民に借金を背負わせて富むのであり”

 “国家と国民全体の利益になることはない”

 伊藤博文のスピーチは日露両国で歓迎された。

 10/26

  伊藤博文が哈爾浜駅で暗殺さる(犯人安重根)

 

 11/11 米海軍が真珠湾に基地を建設

 

 バルチック教会

 日本の主要9都市で教会が建設されていた。

 ボロジノ教会(東京)、スワロフ教会(大阪)、スラヴァ教会(名古屋)、

 オスラビア教会(京都)、シソイウェリキー(広島)、アリョール教会(福岡)、

 ナワーリン教会(仙台)、アレクサンドル3世教会(札幌)、ニコライ1世教会(神戸)

 ロシア戦艦の艦名を付けられた教会が建設されていた。

 それぞれの戦艦から舵輪や備品が外され、取付けられる。

 日本人の建設技師がクレムリンのワシーリー大聖堂を真似て建設する。

 予算は、日本側が出し、

 ロシア正教の海外教会として最大規模。

 勝った日本戦艦部隊は、いずれ朽ちていく。

 しかし、負けたはずのバルチック艦隊は名称を変え、

 日本の大都市の一等地で不滅の姿を残そうとしていた。

 ロシア人の司祭が日本人の職人が建設している教会を見つめていた。

 「・・・素晴らしい」

 ボロジノ教会司祭が設計図を見て呟く、

 「今後の日露両国の関係が友好的であれば良いと願ってのことです」 外務省の役人

 「ワシーリー大聖堂と少し違いますが素晴らしい教会です」

 「日本人の教会設計は素晴らしい」 ボロジノ教会司祭

 「建築家は、ワシーリー大聖堂を見て日本にも似たようなものがあると気付いたそうです」

 「ほ、本当ですか?」

 「日本にワシーリー大聖堂と同じ建造物があるんですか?」

 「建造物じゃありません “いけばな” です」

 「いけばな?」

 「花を器に添える様式です。今度、案内しますよ」

 「日本の文化ですか?」

 「ええ」

 「ロシア皇帝から日本の文化を吸収するように命じられています」

 「是非お願いしたいですね」

 

 

 

 ドイツ帝国は、列強トップの座にいるイギリスを追い上げていた。

 高い規範と優れた知性が土台となっていた。

 国内の豊富な石炭と鉄鉱石が、それを可能にさせたのであり・・・

 中国大陸にも足場を気付いていた。

 日本は、日露戦争後も資源を買い求めなくてはならない国だった。

 日本で作った商品がドイツ領に送られ、

 ドイツが中国軍閥から購入した石炭、鉄鉱石が日本へ輸出される。

 日本にすれば石炭、鉄鉱石、希少金属であればよく。

 売主は華僑、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカなど安いところ買う。

 欧米列強も日本製品を中国人に売却することで利益を上げていた。

 ドイツ帝国領 青島 租借地 総督府官邸

 「おや、日本は、もう武器はいらないので?」

 「もう、結構です」

 「こちらが武器輸出しますよ」

 「切り替えが早いですな」

 「多少抵抗はありましたがね」

 「民需産業の方が大きいようです」

 「なるほど、大陸に足掛かりがないと、そういうものですか」

 「採算は厳しいですが日本国内を掘り尽くすしか、なさそうですよ」

 「ドイツは、日本市場のおかげで植民地への投資が進みそうです」

 「ドイツの工作機械のおかげですよ」

 「工業製品を作りやすいですからね」

 「日本が軍事的冒険をしないと思えばこその売却ですよ」

 日本産業は、軍需主導から民需主導へと移行していく。

 軍事費は5パーセント以下に削減。

 多くの予算が公共投資に使われていく、

 特に樺太、カムチャッカ半島の北方開発と投資は、断続的に行われていた。

 

 そして、全く違う場所にも予算が浪費される。

 装甲巡洋艦、日進、春日。給炭艦4隻、給水艦4隻、補給艦8隻

 日本艦隊が南氷洋を越えて南極大陸に到達する。

 大規模な上陸作戦が行われ、

 越冬用の基地が建設される。

 運び込む物資は多いのに港が無く、人力で荷揚げ。

 北東シベリアで事前に訓練されていただけあって、

 死亡者無しで上陸。

 数キロの氷原を犬ソリで突き進み、

 冬が来る前に越冬用の建物を建設する。

 日本海軍の南極基地建設は、予算獲得を目的としたものだった。

 そして、その苦労は、南極開拓費として計上され、一部、報われる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ 

第16話 1908年 『ホワイトフリート来襲』

第17話 1909年 『貧乏だから仕方がないだろう』

第18話 1910年 『国際社会では・・・』

海軍力

 

 各国軍艦状況