月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

第18話   1910 『国際社会では・・・』

 欧米諸国は、中国植民地化に力を入れるあまり、

 必要な生活物資を日本に発注していた。

 日本経済は、欧米諸国の需要にこたえるため、急速に大きくなっていく。

 日英同盟と日露戦争の戦いで日本の地位は、列強の末席にまで押し上げられ、

 日本は、関税自主権を回復する。

 

 04/15 帝国海軍第6号潜水艇が潜航演習中に沈没、

 

 04/23 ブリュッセル万国博覧会開催(〜11月7日)

 

 05/03 青森市で大火7500戸焼失

 「中枢部から全滅か、どうやったからこんなに燃やせるんだ」

 「木で作ってるからだろう」

 「そうなのか、やろうと思っても難しいと思うぞ」

 「そういう風が吹いたんだろう」

 「石で造ろうぜ」

 「石作りの家なんて住みたくないのが日本人だよ」

 「公園を作って道を広げる方がいいな」

 「買い物で不便」

 「じゃ石作り」

 「やだ」

 「ったくぅ せっかく、産業の比重を北日本に移そうと思っていたのに・・・」

 「なんか恨みでもあるのか」

 「きっと、寒いから暖を取りたいんだよ」

 「暖を取らなくていいほど、壁を厚くするしかないかな」

 「そんな金ないよ」

 「ちっ」

 

 05/19 地球がハレー彗星の尾の中を通過(欧米では18日)

 

 05/31 英自治領として南アフリカ連邦成立

 

 この年

 日本の南極基地建設が話題になっていた。

 西洋世界が世界中を回って友人を捜し求めてきたとしたら、

 それは、日本人といえる。

 ロシア海軍の脅威が去っても、

 ロシア陸軍がアジア最強である事に変わりなく。

 イギリス、アメリカ、ドイツは、対露共同戦線で黄河流域に取り付こうとしていた。

 欧米列強は中国の資源を日本へ供給。

 代償として、日本は列強が必要とする製品・商品を中国大陸の租借地・租界地へ供給。

 清国は、近代化を画策するが、

 宦官・科挙制度が弊害となって手遅れの感があり、

 清王朝の求心力は、見る影もなく胡散霧消し、

 支配力は、北京周辺しか残されていなかった。

 北京

 日本人たち

 「科挙は、資格制度で日本でも取り入れている、悪くないはずだがな」

 「日本は、キャリアより、民間で成功した人間を登用するときがあるよ」

 「ケースバイケースだろう」

 「制度というより、モラルの問題じゃないか」

 「腐敗は日本の10倍くらいありそうだな」

 「いや、もっと・・・」

 

 07/04 第二次日露協約調印

 

 日露戦争後

 満州・朝鮮半島のロシア軍の圧力は、年を追うごとに大きくなっていく。

 アメリカ、ドイツ、イギリス、日本は、連合して山海関の防衛線を支援してた。

 毎年、国民総生産の記録を更新する日本は頼りにされていく。

 ハルピン

 ロシアが支配する満州・半島全域で、ロシア風建築物が建てられていた。

 そして、満州と朝鮮半島を開発するため、

 日本との交易を利用する。

 日本の商人が台湾産の熱帯食物の売れ行きを確認するためハルピン駅を降りる。

 ロシア軍兵士が駅周辺を警備。

 ロシア人は大手を振って行き来しており、

 中国人・満州人は、荷物を運んでいた。

 ロシア兵に声を掛けられ、適当な受け答えをする。

 こっちが日本人と知ると、ロシア兵は少しばかり丁寧になる。

 何年か前には死力を尽くして殺し合っていた間柄。

 互いに思うところがあっても

 同じレベルで戦った相手を卑しめると、自分の値打ちを下げる。

 ホテルの場所を聞くと丁寧に教えてくれた。

 お礼にミカンを渡す。

 こっちでは、珍しいもので兵士の表情が変わる。

 「・・・南国の物を売りに来たんだ」 商人

 そして、物品の授受で、躊躇するか、躊躇しないかで、

 ロシア帝国警察のモラルも図ることができた。

 「・・・・」 にや

 ロシア風町の並みが広がり、整然としており。

 ホテルに着くまでに町の様子がわかってくる。

 ロシア人は主人であり、

 黄色人は顔色が悪く従者・下僕の社会が作られていた。

 奴隷のような生活がなじんでいる気もする。

 時折、イギリス人、アメリカ人、フランス人、イタリア人、ドイツ人を見かける。

 日本や中国の物をシベリア鉄道で欧州まで運べば金にもなるだろう。

 この地にロシアが投資しているのを利用し、

 一旗上げようとしてる輩だ。

 それぞれ、目的を持ち、

 満州・朝鮮の発展の様子を調べているのは、わかる。

 そして、いくつかの伝を頼りに交渉し、

 南国果物の行き先が決まる。

 高級将校やロシア貴族たちは、南国の果物を食べることに躊躇しない。

 彼らは、こういった食物を仕入れることで優越感を得て、渉外でも利用する。

 台湾は、南国の作物が作られ、

 安定して供給することが出来た。

 そして、諜報機関を組織しようと画策する、

 これといった人材が見つからない。

 その後、売春宿の様子を見に行く。

 ここにくれば、誰が犠牲になっているのか、即わかる、

 国情も、わかりやすい。

 売春宿を回ると、やはり黄色人が圧倒的に多い。

 朝鮮人の女が父親も、兄も、弟も、日本人に殺されたと訴える。

 朝鮮人男性が半島南岸要塞の戦いに無理やり投入されたことは知られていた。

 逃げればロシア兵に撃たれ、

 進んでも日本兵に撃たれる。

 かわいそうな民族といえるが日本人も、明日は我が身と感じる。

 国際情勢は、白人が支配する星で日本だけが抗っている。

 日本がアメリカに押し付けられた不平等条約を撤回させたのも、

 関税自主権を撤廃させることが出来たのも日露戦争で勝っただけ、

 それが無ければ、永遠と続いていた。

 日本には、鉄も無ければ石炭も無い。

 生殺与奪は白人世界の思いのまま。

 それが日本の現状だった。

  

 役所

 貿易に関する交渉を始める。

 少しばかりウォッカの香りがする。

 売春宿と並んで国情を知るのに適当な場所。

 貿易事務所の開設と倉庫の購入、

 列車の定期的な搬送に関する外国人登録を進める。

 役所の働き一つでロシア人のモラル。

 組織の動きと考え方も伝わってくる。

 仮に各国の市役所で同じ書類を求め、

 時間、費用、収賄の有無で差が出てくる。

 役所仕事と売春宿を見ただけで国の優劣を予測できたりもする。

 相手が日本人と知ると、

 少なからず緊張するが法律に従って動いた。

 日本人に敵意を持つ者も少なからずいる。

 しかし、殺傷沙汰にまで至らないようだ。

 既に戦争が終わり講和条約も結ばれていた。

 いかに怪しくても・・・・

 事実、諜報目的の貿易だが、いきなり刑務所は無いらしい。

 ハルピンの町は軍人も多く、交通上の要で発展する要素は多い。

 ここが極東ロシアの中心都市になるのだろうと、ぼんやりとわかってくる

 ロシア正教の教会も、建設され、満州のロシア化が進んでいく。

  

 酒場

 ここも売春宿、役所と並んで国情を調べるとき重要な場所で、

 酒を飲めば口が滑りやすくなり、

 庶民の本音も聞きやすい。

 ロシア人の様子を見ると、

 士官の多くは貴族の系統で、なんとなく鼻持ちならない。

 そういう気分になるのは貴族と侍の違い。

 日本の華族にも似たような節があるが、まだつつましい気がする。

 ロシア正教のせいだろうか。

 「・・・あんた・・・日本人だろう」 高級士官

 「ええ、そうです」 商人

 「朝鮮人と背丈が変わらないじゃないか、信じられん」

 高級士官は、商人より頭二つも高かった。

 「引き金を引くのに背丈は関係ありませんからね」

 「それに、大きい方が当たりやすい」

 「ふっ そりゃそうだ。奢らせてくれ」

 「それは、ありがたい」

 「おい。ウォッカだ」

 友情が始まるのも切っ掛けが必要なのだろう。

 それが興味本位であってもだ。

 それをアルコール度数の強いウォッカが助けたかもしれない。

 その大柄な高級士官が近くにいるだけで、

 矮小な日本人にチョッカイをかけようという者もいない。

 深夜、

 二人ともソコソコに酔い潰れる。

 「日本は、サツマイモで酒を作る “焼酎” というんだ」 商人

 「ウォッカが世界一に決まっているだろう」

 「ウォッカ酒は、ライ麦か、ジャガイモで作るんだ」 高級士官

 「よ〜し。今度、日本から持ってきてやろう」

 「米で作る “清酒” “泡盛” “焼酎” に、サツマイモで作る “焼酎”」

 「それは楽しみだ」

 「三浦。もう一杯奢らせてくれ」

 諜報合戦の始まりだった。

 

 

 12/19 代々木錬兵場

 徳川好敏工兵大尉がアンリ・ファルマン機で日本初飛行に成功

 

 

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第17話 1909年 『貧乏だから仕方がないだろう』

第18話 1910年 『国際社会では・・・・・・』

第19話 1911年 『ちょっとは鼻が高く』

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