月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

第19話 1911 『ちょっとは、鼻が高く』

 日本海軍は、第2次南極遠征艦隊が、

 第2次越冬隊と物資を送り届け、

 第1次越冬部隊を乗せて帰還。

 

 野口秀雄が、梅毒病原菌スピロヘータ・パリダの純粋培養に成功、

 日本人の評価を上げる。

 

 清王朝は、中国の統治能力を失い列強に利権を収奪されていた。

 さらに清国官僚と列強の商人が結託、私腹を肥やしていた。

 絶望的な状況、

 中国民衆の怒りの矛先は、狡猾な列強諸国から無能な清王朝に向かっていく。

 

 

 イギリス大型河川砲艦が長江を登る

 元ロシア12500トン級戦艦(ペレスウェート、オスラビア)、

 元ロシア10000トン級戦艦(ウェリーキー、ナワーリン、ニコライ一世)

 元ロシア5000トン級装甲海防艦(アプラクシン、セニャーウイン、ウシャーコフ)。

 長江を航行する砲艦で最強の艦隊だった。

 そこに、アメリカの河川砲艦が通過していく、

 元ロシア11000トン級戦艦(ペトロパブロフスク、ポルタワ、セヴアストーポリ)。

 ドイツの河川砲艦で元ロシア12500トン級戦艦(ポビエダ)が遊弋する。

 これらの艦隊は、欧米列強の支配の象徴であり。

 白色人種の中国大陸と黄色人種に対する意思でもある。

  

 これら河川砲艦を日本から購入した事が、

 単純な人種問題と片付けられないものにしていた。

 多くの有色人種は、日本人が白人の手下になったと思い・・・

 それは、事実であり、

 そうしなければ、日本の発展は著しく後退する。

 何しろ、借款の返済代わりに輸出されたものであり、

 対価で中国の資源が日本に入ってくることになっていた。

 これも残念ながら事実だった。

 これをしないと日本の経済再建は、さらに遅れると予想された。

  

 

 揚子江

 日本商船が石炭を積み込み、

 その様子を日本商人とイギリス商人が見ていた。

 「・・・随分、この川もにぎやかになったな」 日本商人

 「中国民衆の怒りの矛先が清王朝に向けられている」

 「もうすぐ滅びるな」 イギリス商人

 「清王朝が他のものに変わっても状況は変わらない。同じだよ」

 「本当は、既に滅んでいるのさ」

 「しかし、誰が権力者になってもすぐに打倒される」

 「様子見か・・・」

 「だから軍閥は離反しても清王朝を名目上立てているだけだ」

 「しかし、それも限界だな」

 「滅んだ方が良いと?」

 「別に、日本からの荷が届けば、どうでも良いことだ」

 「助かるよ」

 「空船で長江まで来るのは勿体無いからね」

 「贅沢な白人が長江流域で増えたからな」

 「おかげで儲かる」

 「日本の牛肉とチーズは美味いよ」

 「長江流域は、バラバラなんだろう」

 「まあな。河川砲艦のおかげだろうな」

 「これだけ大きい軍艦が並ぶと、中国人も我々と戦う意欲すら消失する」

 「・・・・」

 「そういえば、日本海軍は、戦艦と装甲巡洋艦を連装砲3基に改装したと聞いたが」

 「建造する金が無くてね」

 「何も、ドイツ製の砲身を使うことも無いだろう」

 「305mmのままで砲数を増やそうとすると、船が傾くし、作戦能力が低下する」

 「283mmなら重量はそれほど変わらず」

 「威力が減るが射程は、変わらないのに投射速度、砲数、命中率が上がる」

 「たぶん、そんなところだろうな」

 「日本は、新型艦を建造しないのか?」

 「帝国議会がウンと言わないようだ」

 「他人事みたいに」

 「まあ、軍事費が増えると増税になるし」

 「助かっている部分もあるがね」

  

 日本海軍、戦艦13隻、装甲巡洋艦12隻、巡洋艦40隻

   (三笠、初瀬、敷島、朝日、八島、富士)6隻

     150m×23m×8m。18000馬力、25ノット

     16000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

 

   (ボロディノ、アレクサンドル3世、アリヨール、スワロフ、スラヴァ)5隻

     140m×23m×8m。18000馬力、24ノット

     15000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

 

   (ツェザレウィッチ、レトヴィザン)2隻

     140m×22m×8m。18000馬力、25ノット

     16000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

 

 そして、日本海軍の修理改装は、戦艦だけに留まらず、

 装甲巡洋艦12隻も同様の修理改装で、50口径203mm連装砲3基となった。

   (八雲、吾妻、浅間、常盤、出雲、磐手、春日、日進)、

   (ロシア、グロムボイ、リューリック)、(バヤーン)

 日本の改装艦隊は、重油燃焼機関を装備。

 資質的な古さを感じさせながらも煤煙が少なく、作戦能力も向上する。

 名目上は、ドレッドノート型戦艦に準ずる艦艇であり続けた。

  

 赤レンガの住人

 「305mm要塞砲の配備状況が遅れているようだが」

 「予算上の問題だよ」

 「タイミングが合わないと余計に予算が食われる」

 「どうせ、民間が融通利かせなかったからだろう」

 「むか〜 あいつら、腹立つな〜」

 「どうせ。あれこれ理由をつけて国防費を後回しにしている」

 「ドレッドノート型戦艦の建造を急がせているのに・・・」

 「同盟国のイギリスはともかく、アメリカとドイツもだ」

 「日本だけが置いてけぼりだな」

 「フランスやロシアもド級戦艦を建造している」

 「日本も、20000トン級戦艦の計画だけはしているがね」

 「だけど、予算の都合が付きそうに無いね」

 「というより鋼材を民間に取られて、どうにもならんよ」

 「鉄道ばかりヒイキにしやがって」

 「イギリスが343mm砲搭載艦を建造しているのに」

 「下関海峡海底トンネルの建設は鋼材を使うからな」

 「海水で錆びたらどうするつもりだ」

 「だいたい、日露戦争で勝敗を分けたのは海軍だろう」

 「それなのに、どうして、民間向けの鋼材になるんだ?」

 「いくら欲に目が眩んだからって、よく断行できたものだ」

 「なんで、海軍が河川砲艦として売却しているのに」

 「基礎になる総トン数を維持できないんだ」

 「国防大綱と言ってひとまとめにしているからだろう」

 「鋼材を鉄道に回しやがって。納得いかん」

 「財界がセクト主義反対とか、わけのわからん横文字使って煙に巻くからじゃないか」

 「アメリカのデモクラシー何とか、というのも人気があるし」

 「陸軍が向こうの味方だよ」

 「大火整備復興で国防をって、どこのキャッチフレーズだ」

 「借款分の関係もあるからな〜」

 「アレだよ」

 「国で作って、庶民に税を押し付けてるんだよ」

 「ちっ 海軍が独自に作った海軍大綱に難癖つけて後回しにしやがって」

 「次期主力艦は、重油専焼じゃなければならないとか」

 「電気推進にしろとか」

 「やっぱり、ディーゼル機関にしろとか」

 「タービンを変えろとか」

 「ドイツの砲身にイギリスの砲塔と揚弾筒にさせたのも」

 「機関を換装させたのも。結局は、時間稼ぎだな」

  

  

 鉄道省の建物

 「鉄が足りないな」

 「海底トンネルで余計に使うからな・・・・・」

 「軍艦と違って恒久的な建造物だ」

 「どうしてもきちんとしたものが必要だよ」

 「バルチック教会に金を使い過ぎているんじゃないのか」

 「あれで日露関係が安定するのなら悪くないだろう」

 「世界情勢が安定すると軍事費が減るとぶつくさ言ってるのがいたぞ」

 「そんなアフォは窓際に追い込んでしまえ」

 「やはり海軍に玩具を持たせたくない、河川砲艦を売ってもらうか」

 「不味いだろう」

 「本当に軍事クーデターを起こしたらどうするんだ」

 「最近は、海軍のモラルが低下しているとかいうし」

 「海軍大綱には、反対していないだろう」

 「建造の条件は、欧米諸国の最新技術レベルじゃないか」

 「北方に工業の重心を移すのに鋼材が必要でな」

 「では、下関海峡トンネルだけでなく。津軽海峡トンネルを・・・」

 「それどころか、宗谷海峡トンネルもだ」

 「もっとも財界は、採算性で浦賀水道トンネル、淡路・鳴門・友ガ島海峡トンネルかな」

 「あと豊後水道トンネルも経済波及効果が高いと検討されている」

 「それじゃ 予算があっても鋼材が海軍に流れないわけだ」

 「陸軍も半島南岸の防衛で島と半島を海底トンネルを連結したがっている」

 「巨済島、南海島、麗水半島、高興半島か・・・」

 「それに、トンネルは、海底だけじゃない」

 「太平洋側と日本海側の山岳地帯をつなぐトンネルも重要でね」

 「広軌になると車両も大きいからそのまま通すとなれば、鋼材の量も多い」

 「小型の車両を使うと載せ替えで不経済だ」

 「広軌用の車両の方が載せられる量も多い」

 「それにトンネルが長くなると電気推進にしないとな」

 「海軍予算を減らして、というのが悪党だな」

 「ははは」

 

 

 カムチャッカ半島 港湾

 「寒くなってきたな」

 「ああ、霧が晴れないと船が港に入って来れないな」

 「人間の住むところじゃないな」

 「そういうな。資源の山だ」

 「北東シベリア側に物資を取られ過ぎた」

 「今頃、越冬用の資材を持ってきてもらってもな」

 「町が大きくなれば、十分に自給自足が出来るんだがな」

 「しばらくは、国の予算でやっていけるさ」

 「それまで自立できなければアウトだ」

 「自立は問題ないさ。森林を伐採すれば良い」

 「あまり気が進まないがね」

 「林業は、計画的にしないとな」

 「しかし、海産物は、多いな」

 「保存も氷の中なら問題ない」

 「問題は凍土だな」

 「ああ」

 

 

 09/29 伊土戦争(〜1912/10/18)

 オスマン帝国で憲政政治を望む青年トルコ人革命が起こり、

 その混乱に乗じたイタリアがリビアのイタリア人の擁護で宣戦布告。

 この戦争で注目されたのは、航空機と飛行船が戦場で使われたことだった。

 そして、列強は、力関係で優位になれば他国を侵略できるという事を内外に示した。

 

 赤レンガの住人たち

 「ほら見ろ、帝国主義に友好関係などというものはない」

 「隙を見せれば列強は強盗の様に現れる」

 「日本本土に上陸するのは、不可能だと思うよ」

 「日本縦断鉄道は広がっている」

 「どこの国の陸軍が上陸しても簡単に殲滅できる」

 「引き籠りか! 打って出るのが男たい」

 「引き摺り込んで殲滅してやる方が、楽だと思うよ」

 「ちっ しぇからしかぁ」

 「もう、民需主導で予算は動かんわい」

 「国防計画は、国内の力関係で決まるからな」

 「・・・・」 ぶっすぅうう〜

 

 

 10/10日

 スーチョワン(四川)で農民が武装蜂起。

 鎮圧で派遣された湖北新軍の革命派が、反乱を起こして武昌で挙兵。

 革命はまたたくまに全国に波及し、

 各地に独立政権が誕生していく。

 

 

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第18話 1910年 『国際社会では・・・』

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