月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

第20話 1912年 『いやな予感はするけれど』

 01/01

  孫文が中華民国を宣言、南京臨時政府(中華民国)成立。臨時大総統に就任

 

 01/17

  スコット隊が南極点に到達

 

 01/28

  白瀬隊が南極点到達を断念

 

 中国大陸沿岸を欧州列強の艦隊が遊弋していた。

 中華思想に凝り固まった宦官と官僚は腐敗しており、

 不正蓄財に明け暮れていた。

 清王朝内は、権謀術数が渦巻き、

 旧態依然の科挙制度と世襲化した封建社会が続いていた。

 民衆は、実力より従順、媚びへつらいを求められた。

 官僚より有能であると危険視され、

 能力を発揮できず潰される。

 失望した者たちはアヘンに向かい。

 民衆の気持ちは清王朝から離れていく、

 内憂外患に国家と国民が蝕まれ、

 信頼の絆が断ち切られ、

 社会生活そのものが崩壊寸前だった。

 宦官と官僚は己の保身に固執し、

 財欲に目が眩んだ結果・・・

 02/12

 愛新覚羅溥儀(ふぎ)が清朝皇帝を退位(清の滅亡)

 中国大陸は、軍閥がバラバラの状態のまま戦国時代と化していた。

 欧米列強は、取り付いた権益を守ろうと、

 中国を解体して植民地化を画策し、

 それぞれの軍閥に肩入れしていく。

 中国の地方有力者で愛国心の強い者もいる、

 しかし、欧米諸国と組むことで莫大な利益を得る者もいた。

 欧米列強と組む豪族は、武器弾薬を入手しやすく強くなっていく、

 野望と欲望に従う者は少なくなく、

 中国人の敵は、中国人という構図が常にあった。

 イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、ロシア・・・

 列強各国は、中国人の代理人を使い、

 中国民衆を食い荒らしていく。

 

 一方、日本の直接の取引相手は、欧米列強であり、

 中国の資源の多くは、欧米諸国を経由して得ることになっていた。

  

 ノルウェーの探検家アムンゼン帰還。

 イギリスの探検家ロバート・スコットは、日本越冬隊に救助される。

 

 03/10

  袁世凱が孫文に代わり臨時大総統に就任

 

 05/05

  ストックホルム・オリンピック。日本はオリンピックに初参加。

 

 赤レンガの住人

 新型戦艦の設計図がテーブルに載せられていた。

 数十枚の設計図が計画されるだけで保管され埋もれていった。

 しかし、今度は違った。

 海軍への鋼材配分は、決まっている。

 イギリス製オライオン型。ドイツ製モルトケ型の設計図を購入。

 日本海軍が独自技術で融合し、

 さらに進化させた設計だった。

 戦艦改造による試行錯誤によって、品質は向上し、

 列強の鋼材と遜色のないモノが造られようとしていた。

 海軍大綱が制約されていく中で考案されたのが “高速戦艦” だった。

 8年以内の高速戦艦8隻を基幹にした高速戦艦部隊。

 16年以内の旧高速戦艦8隻の旧高速戦艦部隊。

 新旧の高速戦艦で編成される八八艦隊がそれだった。

 初の高速戦艦

  扶桑、山城、伊勢、日向、長門、陸奥、土佐、加賀、

 の建造が決まる。

 35000トン級扶桑型戦艦(240m×32m×12m)

 50口径360mm3連装3基。50口径120mm連装20基。

 ディーゼル機関電気推進12万馬力、30ノット。

 世界最速の戦艦部隊と言って良い性能だった。

 冶金技術はイギリスやドイツに並びつつあり。

 強靭な防御力と抗湛性を有し、

 航続力の関係で作戦能力も高かった。

 そして、10000トン級青葉型巡洋艦8隻

  青葉、加古、古鷹、衣笠、十勝、釧路、斐伊、馬淵、

 1500トン級峰風型駆逐艦40隻と、

 潜水艦 40隻の補助艦艇が基本建造計画構想もあった。

 日本は、日露戦争で勝ち過ぎたせいで、

 仕方なく、既存の艦艇を大事にしていた。

 しかし、ようやく、まともな艦艇に乗り換えることができそうだった。

 そして、30000トン級砕氷艦2隻の建造が計画されていた。

  

 

 北大西洋

 タイタニック号

 04/14日深夜。

 氷山に接触、翌日未明に沈没。

 乗員乗客1513(異説1522〜23)人が失われた。

 当時世界最悪の海難事故。

 

 07/29 明治天皇崩御

 

 07/30

 元号が明治(1868年 - 1912年)から大正(1912年 - 1926年)に改元

 

 長江 白人の館

 招待される日本商人。

 インド兵が完全武装で小銃を構えていた。

 「ようこそ。伊達」 イギリス人

 「お招きいただいて嬉しいです。伯爵」 伊達

 「いや、同胞が危ないところを助けてもらったからには御礼をしたい」

 「私では、ないのですがね」

 「せめてもの気持ちですよ」

 「河川砲艦の話しだと思っていましたが」

 「ははは、単刀直入ですな」

 伊達がほくそえむ。

 「日本が、南極に基地を造るだけでなく」

 「南極点到達を目指さなかったのは、どうしてです?」

 「実利を取ったからじゃないですか」

 「本気で南極を?」

 「さあ・・・」

 「港も建設できないような大陸を占領しても大変なだけだ」

 「確かに」

 「ところで・・・・」

 「売るのは、やぶさかではありませんよ」

 「出来るだけ早めにお願いしたいですな」

 「この辺も、少し物騒になりましたからね」

 「まったくだ。武装しているが中国民衆の数に圧倒されていてね」

 「日本が河川砲艦を売ってくれるのなら助かるよ」

 「ご理解していただいていると思いますが・・・」

 「わかっているよ。日英同盟は、日本を護るという点で遜色ないものだ」

 「いまの河川砲艦の整備状況はどうですか?」

 「ああ、やはり、日本に整備してもらう方がいいようだ」

 「仕事が丁寧だからね」

 「それは、もう喜んで」

 「多少、材質が古くても中国人には圧倒的だ」

 「特に大きさが彼らにとって最大の圧力になる」

 「河川砲艦が増えれば長江流域の治安も安定する」

 「ええ、わかっています」

 「中国は万国博覧会が開けるほど多様になりましたからね」

 「黄河流域にも河川砲艦を輸出しているようですが?」

 「あちらは、1000トン以下の小型砲艦のものです」

 「水害が多いですからね」

 「こちらも欲しいですな。1000トン級砲艦」

 「何とか都合が付くと思います」

 「それと工場船も」

 「大きい船は、少しばかり問題ありですな」

 「日本が建造するという大型戦艦ですかな?」

 「造船所くらい建設してはどうです」

 「鉄鉱石も、石炭も送っているはずです」

 「・・・まあ、そうでしょうが」

 「工期の方は、どうですかな」

 「資材は、前倒しで製造していましたから」

 「あとは集中して建造しているので意外と早いかもしれませんね」

 「もう一期遅らせても良いと思いませんか、資材を組み立てるだけなら早い」

 「ははは、今度ばかりは、無理でしょう」

 「造船所と工廠の建設はあるかもしれませんが」

 「そういえば38式小銃は良いですな」

 「そうですか?」

 「中国人は数が多い」

 「6.5mmで命中率がよく、弾数を多く携行できると使いたがる」

 「エンフィールド小銃は?」

 「経済的な理由もあるからね」

 「ただし、5連発では、少な過ぎる10連発から12連発は欲しい」

 「そちらの方は何とかなると思います」

 「検討してみますよ」

 「よろしく、頼むよ」

 「ところで、インド人が随分増えているようですが?」

 「ああ、インド人の移民を進めている」

 「長江を境に中国人をインド人で分断するつもりだよ」

 「なるほど」

 「日本も、都合が良いだろう」

 「ははは」

 「アメリカは黒人とフィリピン人を、フランスも黒人を揚子江に送っている」

 「考えていることは同じだろうな」

 「悪くありませんね・・」

 「ところでバルカン半島が、きな臭いようですが」

 「確かに欧州での戦雲は困る」

 「中国大陸の権益は、どうしても守りたいのだが・・・」

 「こちらとしては、中国は現状で保全していただけるのなら助かりますが」

 「地球の裏側で、こうやって大きな顔をしていられるのも日本のおかげだ」

 「日本は選択の余地がありませんよ」

 「石炭と鉄がないのですから」

 

 

 日本政府は外貨を稼ぐため、

 中国大陸を植民地化しようとする欧米諸国との貿易を維持した。

 日本経済の著しい増大に比べ。

 日露戦争の借款と北方領土開発。

 新規艦隊建造の負担も大きく、

 国民生活そのものは、苦しかった。

 当然といえる。

 外国から鉄と石炭を買うために働き。

 さらに日本に運び込み、

 国内でそれを加工し、

 さらに海外に輸出し、

 薄利を得て、国内に還元する。

 日本と日本人は、馬車馬の様に働かなければ、

 近代国家を維持できない国だった。

  

 

 

 北東シベリア

 日露国境線は、コリマ川を境にしてあっさりと分けられていた。

 日露砕氷艦が互いに水利権協定を守りながら航行している。

 北東シベリア、北極海側、チャウン湾で大規模な工事が行われていた。

 「こんな場所に製鉄所を建設とはね」

 「鉱山と炭鉱が発見されたからね」

 「寒いのに・・・」

 「ここで欲しいのは熱源だ」

 「炭鉱地に小型の製鉄所を建設して」

 「鉱山から鉱石を運んで製鉄し、鋼材を加工して夏季に日本へ運ぶ」

 「こいつを循環させて鉱山と炭鉱を常時、採掘」

 「チャウン湾を不凍港化させれば開拓も進むだろう」

 「凍土を溶かすのは、問題ありではないか?」

 「不自然か?」

 「まあな」

 「北東シベリアで、そんなこと言っていると凍死だぞ」

 「確かに、冬季が近付いて寒くなった」

 「ここが成功すれば、北極圏側を飛躍的に開発できる」

 「それなのに鋼材をケチりやがって」

 「海軍だろう」

 「あのバカどもが80万トンも鋼材を使うつもりでいる」

 「要塞砲だけでも十分に国は守れる。そうだろう」

 「既に305mm連装要塞砲台は、40基」

 「要塞は、10ヵ所に達している」

 「新型の360mm連装要塞砲台にしていたら正味3000トンだと3基で、9000トン」

 「仮に1ヵ所に10000トンだと、80万トンもあれば、80ヵ所を要塞化することが出来る」

 「陸軍は、そう考えるだろうな・・・」

 「鉄道省もかなり使っているようだが」

 「パラムシル島か、占守島から」

 「ここまで地下鉄を引っ張ってくれれば助かるさ」

 「地下鉄か、しかし、いくらなんでも、2400kmの地下鉄は・・・ないな」

 「1km辺りの鋼材を2500トンとすれば、600万トンか」

 「コンクリートは、その10倍で6000万トン」

 「日本の財政は、完全に破綻するな」

 「海底トンネルじゃないのだから、そんなに使わないだろう」

 「概算で、それくらい見積もってた方が良いのさ」

 「資源が仮に北東シベリアにあったとしても発見も、採掘も、難しいからな」

 「しかし、穴蔵暮らしは不満が多い」

 「オーロラは綺麗だがな」

 「ここに住み続けると、日本人では、なくなるような気がしないか?」

 「そうだな・・・」

  

  

 10/18 伊土戦争(1912/09/29〜)終決

 赤レンガの住人たち

 「ほら見ろ、イタリア王国がリビアを取った。日本もそうなるんじゃ」

 「中国大陸という餌があるのに日本なんか来んわ」

 「石炭か鉄鉱石が出るのなら別だがね」

 「せ、石炭なら、ちょっと出るワイ」

 「ちょっとじゃ全然足りんわい」

 「日本なんか占領したら大赤字じゃ」

 「東北シベリアで石炭が一杯出るかもしれんやろう」

 「一杯出てからだろう、あんな凍土、自分で掘るやつはバカだね」

 「アホな日本人が列強に媚び売って、売国したらどうする」

 「貧民層が多いと売国したくなるかもしれんな」

 「だから軍事力を」

 「そういうの軍国貧乏って言うんじゃ」

 「戦艦1隻で何を作れるか考えてみぃ」

 「せめて夢をみたいの・・・」

 

 

 バルカン半島諸国は、伊土戦争の推移でオスマン帝国の弱体化を知る。

 そして、バルカン同盟はオスマン帝国に宣戦布告、

 バルカン戦争が起こる。

 

 

 南極

 越冬隊は、小型ディーゼル発電機によって暖房を得ていた。

 大型のドーム状の建造物の中に小型のドームがあり、

 越冬隊は、そこに住んでいた。

 「もっと燃料消費の良いディーゼル発電機が欲しいな」

 「温室栽培も何とか成功するようになったが温度が低すぎると厳しい」

 「しかし、南極でも穴掘りか」

 「地下が一番、気温が安定しているからだろう」

 「することも無いし」

 「布団被って寝ていたいがね」

 「ははは、そうだな。寒すぎる」

 「しかし、自給自足するまで、がんばるのも、どういうつもりだ」

 「南極大陸を占領するつもりかな」

 「ははは、どうだろう」

 「大型の砕氷艦も建造するらしいから本気かもしれないな」

 

 

 中国大陸

 租界地は、治外法権であり長江流域に外国人居住区が広がっていた。

 日本で生産された消費財の多くは、外貨を求めて上海。

 そして、外国人居住区、中国軍閥、有力者へと供給されていく。

 代価として、日本商船が中国大陸の資源を満載して日本へと戻っていく。

 この繰り返しで日本の近代化がようやく進んでいく。

 赤レンガの住人

 「イギリスが大型河川砲艦を売って欲しいそうだ」

 「日本を丸裸にするつもりか」

 「清国が滅んで安全性が脅かされているらしい」

 「イギリスの戦艦を使えばいいだろう。腐るほど持っているだろう」

 「それが、バルカン戦争で欧州諸国の緊張が増している」

 「旧オスマントルコの領土争いか」

 「戦争するに適当な理由だな」

 「ドイツは、地中海側にルートを求めているし」

 「オーストリア帝国もバルカン半島に支配権を持ちたがっている」

 「ロシアもバルカン半島から地中海への道を模索している」

 「イタリアもバルカン半島の領土には関心があるはずだ」

 「イギリスも地中海航路は、生命線といって良い」

 「しかし、国防の観点から売れないだろう」

 「が・・・・入ってくる資源も膨大だらしい」

 「そんなに戦争が起こりそうなのか」

 「イギリスは、そう思っているらしい」

 「やれやれ」

 「財界も高く買ってくれる間に売りたいというのが本音だな」

 「はぁ〜 金の亡者どもが」

 「借款が多いからな・・・」

 「それに北方開発に金が必要だ」

 「軍事費を犠牲にすることも無いだろう」

 「散々、冷や飯食らわされてきたからな」

 「当面は旧式の巡洋艦あたりを改造して、河川砲艦でだそう」

 「そうだな」

 「しかし、新型艦でなく改装でも、それなりに建艦技術は維持できるようだな」

 「あまり、表立って言わないほうが良い」

 「新造艦のほうが費用対効果で優れているのだから」

  

 

三笠

 日本海軍、戦艦13隻、装甲巡洋艦12隻、巡洋艦40隻。

 戦後、日本海軍は、敵性国家不在で少しばかり、お座成りな海軍と言えた。

   (三笠、初瀬、敷島、朝日、八島、富士)6隻

     150m×23m×8m。18000馬力、25ノット

     16000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

 

 (ボロディノ、アレクサンドル3世、アリヨール、スワロフ、スラヴァ)5隻

     140m×23m×8m。18000馬力、24ノット

     15000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門

 

 (ツェザレウィッチ、レトヴィザン)2隻

     140m×22m×8m。18000馬力、25ノット

     16000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門 

 日本海軍の修理改装は、戦艦だけに留まらず。

 装甲巡洋艦12隻も修理改装で50口径203mm連装砲4基となっていた。

   (八雲、吾妻、浅間、常盤、出雲、磐手、春日、日進)、

   (ロシア、グロムボイ、リューリック)、(バヤーン)

 日本の改装艦隊は、重油燃焼機関に換装されており、

 資質的な古さを感じさせながらも煤煙が少なく、作戦能力を向上させていた。

  

 

 

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第19話 1911 『ちょっとは、鼻が高く』

第20話 1912 『いやな予感はするけれど』

第21話 1913 『前途は、ぼちぼち』

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