第22話 1914年 『第一次世界大戦1』
欧州の軍事力増大は、危機的な状況になっていた。
ドイツ皇帝は、中国経済の大きさに引き摺られ、
経済成長する植民地の防衛を検討する。
そして、海外植民地に前ド級戦艦19隻、装甲巡洋艦7隻の緊急展開を決定する。
南西アフリカ・南大西洋方面 | ||||
リューデリッツ要塞 | ||||
装甲巡洋艦2隻 | プリンツ・アダルベルト | フリードリヒ・カール1世 | ||
9000トン、210mm連装×2、20ノット、 | ||||
前ド級戦艦4隻 | ブランデンブルグ | クルフュルスト・フリードリヒ・ウィルヘルム | ワイゼンベルグ | バルト |
10000トン、283mm連装3基 |
東アフリカ・インド洋方面 | |||||
ダルエスサラーム要塞 | |||||
装甲巡洋艦2隻 | ローン | ヨルク | |||
10000トン、210mm連装×2、21ノット、 | |||||
前ド級戦艦5隻 |
カイザー・ フリードリヒ3世 |
カイザー・ ウィルヘルム2世 |
カイザー・ウィルヘルム・ デア・グローセ |
カイザー・カール ・デア・グローセ |
カイザー・ バルバロッサ |
11000トン、240mm連装2基 |
太平洋方面 | |||||
装甲巡洋艦3隻 | ブルッヒャー | シャルンホルスト | グナイゼナウ | ||
15000トン、210mm連装×6 24.8 | 12000トン、210mm連装×2 210mm×4 22.5 | ||||
軽巡洋艦(ライプツィヒ、ニュルンベルク、ドレスデン、エムデン)4隻 | |||||
仮装巡洋艦 (ヴォルフ、メーヴェ)2隻 | |||||
ポナペ要塞 | |||||
前ド級戦艦5隻 | ヴィッテルスバッハ | ウェッティン | ツェーリンゲン | シュヴァーベン | メッケレンベルグ |
11000トン、240mm連装2基 | |||||
ラバウル要塞 | |||||
前ド級戦艦5隻 | ブラウンシュバイク | エルザス | ヘッセン | プロイセン | ロートリンゲン |
13000トン、283mm連装3基 |
イギリス海軍は、ドイツ海軍が艦隊を海外に派遣しても運用できないと判断し、
静観する。
しかし、前ド級戦艦が埋め立てられ、
要塞として運用されると状況が一変する。
費用がかかったとしても前ド級戦艦として運用する試算だった。
その前提となる戦艦でなくなるなら、維持費用は根底から狂ってしまう。
観測兵、砲兵など、適当な指揮系統と僅かな燃料。
武器弾薬さえあれば要塞として機能した。
さらに戦艦を埋め立てた場合の堅固さは、新型戦艦の防御力を上回る。
艦隊として運用されるのは、装甲巡洋艦7隻と軽巡部隊だけだった。
こうなると事情が違ってくる。
無敵の要塞砲台を持ったドイツ海軍軍港が
インド・太平洋・南大西洋に出現してしまう。
戦艦は、要塞と戦わず。
これは、クリミア戦争以来の鉄則になっていた。
そして、日本も中途半端な準ド級モドキ艦しか持っておらず、
軍事恐慌となった。
太平洋に出現したドイツ海軍要塞軍港と装甲巡洋艦艦隊。
日本政府は、ドイツ艦隊の脅威に直面し、
欧州情勢が気になるのか、
諜報部員を欧州各地に送り込む。
01/05
フォード・モーターが従業員の8時間労働と日給5ドルの最低賃金導入を発表
01/12 桜島が大噴火
赤レンガの住人
「やはり、南極航路に関して言うと」
「燃費の良いディーゼル電気推進だが・・・」
「電気推進はアメリカ。ディーゼルはドイツだろうか?」
「まぁ〜」
「カタログは、あまり当てに出来ないが、そう言えなくもないな・・・」
「確認された内容ではそうだ。後は実地で慣れろだな」
「輸送ルートの経済性も考えると大型砕氷艦1隻、大型補給艦3隻は必要だな」
資料を見比べる。
「随分、南極大陸に、のめり込むな」
「他に無地主の土地がないからだろう」
「それに海軍にすれば予算獲得の名目になっている」
「ローカルパワーはイヤか」
「確かに日本はローカルパワーだ」
「しかし、陸軍と鉄道省の進める計画が成功すれば、生存圏、安全圏を確保できる」
「生存圏?」
「北東シベリア開発計画か」
「随分、豪勢な計画だな」
「北東シベリアで鉄鉱石と石炭が発見されたから製鉄所を建設」
「熱を港湾に流しアイオン湾を不凍港化」
「北東シベリアからカムチャッカ半島の南端まで地下鉄を建設」
「言うは安いが、凍土が溶けた場合の検証が足りなすぎないか」
「鉄道省のごり押しだろう」
「成功すれば、成功したらで態度がでかくなるだろうし」
「ったくだ」
「鉄道省は日本を支配している気でいる」
「いい気になりやがって」
「んん・・・」
「軍艦は、庶民の感覚から切り離されやすい」
「そういう点で弱いな・・・」
「しかし、欧州情勢は極めて悪い」
「3国同盟と3国協商の対立は、年毎、強まっている」
「戦争が始まれば儲かると聞いたが?」
「そういう風に言う者もいるが沈むのが軍艦だけなら、そうだな」
「国民は税金を絞りとられて」
「徴兵で命の危険に晒され」
「蓄積した軍需品を使い切るんだぞ」
「儲かるのは軍需産業だけだろう」
「赤字でも造るのなら構わんがね」
「それに商船が沈められたら、目も当てられん」
「それも、そうだな」
「資本の再分配なら戦争に拘る事もないし」
「それにガソリンエンジンとディーゼルエンジンを発明したのはドイツだ」
「イギリスが勝てるとは限らないだろう」
「基礎の技術力と工業力の差は大きいからな」
「しかし、イギリスと組めば資源は難しくない」
「仮に戦争が始まっても中国は、そのまま、中立地帯にしてもらいたいね」
「うん、あそこから上がる輸出入収益は大きい」
日本は、南極開発するため、
小笠原諸島、硫黄島の基地の拡充を行っていた。
硫黄島
「何で、こんな小さい島を埋め立てなければならないんだ」
「まともな水もないのに」
「南極開発だろう。海軍の意地だな」
「南極なんて・・・」
「北東シベリアに比べたら、たいしたことあるまい」
「鉄道省と陸軍は、海軍大綱と南極と、どっちかにしろと騒いでいるが」
「海軍も、わかっていても、止められないんだろう」
「まったく。予算配分を考えれば、どっちか、というのが正解なんだがな」
「燃料庫、港湾施設、淡水化装置が完成すれば、なんとかなるさ」
「町が大きくなれば負担も減る」
「こんな島を使わなくても」
「日英同盟があるんだから英連邦で補給が出来る」
「戦艦の建造は、ようやく軌道に乗ったばかり」
「本当は集中して投入すべきだろうな」
ウラジオラード(ソウル)
唐津ミツオは、ロシア人商人と一緒に商用で町を歩いていた。
ロシア風の建物が立ち並び、
歩いている者はロシア人ばかり。
朝鮮人がいても奴隷のような扱いを受けている。
噂では、半分近くが中央アジアに強制的に入植させられたらしい。
近代化の速度は、早いように実感できる。
日本の北東シベリア、カムチャッカ半島の開発より、
ロシアの満州・朝鮮の方が発展が早い。
気候の差が、開発速度の差になっていた。
朝鮮・満州域の極東ロシア軍将兵100万は、圧倒的な戦力だった。
対する日本陸軍将兵24万は少ないといえる。
少ない兵力を有機的に運用するため、
要衝の要塞化と鉄道輸送による緊急展開構想。
そして、火力重視で言うと世界でも突出していた。
「なあ、ウラジミール」
「なんだい。唐津」
「毎年、市が発展していくな」
「ロシアに比べると、朝鮮・満州は、少し暑いが気候が良い」
「欧州ロシア側に並ぶほど潜在能力と可能性をもっている」
「あと20年もすれば、ここだけで、日本を追い抜くだろう」
朝鮮・満州を暑いと思うのは、ロシア人だけの感覚に思えた。
「・・・なるほど、日露貿易も増えるわけだ」
「だがロシア側の方が貿易で赤字だ」
「ロシア人は、ウォッカの飲み過ぎだろう?」
「いや、奴隷にシベリアの資源を掘らせるだけで良いからだろうな」
「朝鮮人に?」
「俺たちを戦争させた張本人だ」
「良い気味だろう」
『良く言うよ』
「・・・仁川のロシア海軍工廠は小さいようだが」
「ロシアは、戦艦の建造はしないのか?」
「さて、今のところ考えていないと思うがね」
「本当に?」
「澎湖島から樺太までの列島に要塞砲台を配備されたら?」
「どんな戦艦でも太平洋に出る前に撃沈される。そうだろう」
「・・・・」
「それにコリマ域の開発は日本側が進んでいる」
「ロシアは北東シベリアで大きく後退する」
「日本との戦争は割に合わんよ」
「潜水艦では?」
「防潜網や機雷で封鎖されたら。どうしようもないだろう」
「それにロシア人は空の見えないところで死ぬのは気が進まんよ」
「そうだな。普通の感情だ」
「しかし、日露同盟ならアメリカとも戦えるだろうな」 にやり
「ロシアは、安易に中国大陸を狙う方が合理的じゃないのか?」
「いくらロシアでも山海関の米英仏独4カ国連合軍を抜くのは困難だ」
「兵力差ではなく。国際政治力学の差だがね」
「バルカンの危機でも?」
「さあ、中国大陸の利権は、バルカン半島よりはるかに大きい」
「欧州戦争が始まっても中国大陸は、現状が凍結される可能性もある」
「まさか」
「それだけ安価で大きな労働力と資源があるということだ」
「戦後保険にもなる」
「確かに割が良さそうだね」
「イギリスはインド人」
「アメリカは黒人とフィリピン人」
「フランスも黒人、インドシナ人を中国支配のため送り込んでる」
「そして、異種族で中間管理層を構築させているだろう」
「たぶん、長江、黄河を境に中国人を3分割するつもりだろうな」
「日本も、その方が良いだろう」
「おこぼれに預かっている日本は、それでも、良いけどね」
「本音は、中国大陸がバラバラの方が良いのだろう」
「それは、ロシアもだろう」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
唐津とウラジミールは、互いにニヤリとする。
戦艦三笠
艦橋
「提督、艦底は、どうでした?」
「報告通りだ」
「機関、艦砲は、試行錯誤の換装で問題ありな上に」
「これだけ装甲が錆びていては・・・」
「欧州の状況から厳しいですね」
「ナットにも隙間がある」
「手を打たないと大変なことになるな」
「代艦建造まで持ちますか?」
「新造戦艦の建造と同時に解体だな」
「無駄な改装だったんじゃないのか」
「さあ、前任者は、過渡期的な機関、大砲を慣らして規格を揃えるのだけ、役に立ったと」
「まあ、言えなくもないが、言い訳じみているな」
「しかし、欧州は、きな臭いようですが・・・」
「政府に戦闘不能だと報告している」
「ロクに訓練も出来ないのでは話しにならんよ」
「はぁ〜 クルップ砲に換装したのも、命中率を補うためだったな」
「ええ、訓練不足を大砲の性能で補えですから、普通は逆でしょう」
「海軍予算を増やしたくない勢力の陰謀だよ」
「技術的にクリアするまで予算を後回しに出来るだろう」
「そんな、随分、汚いじゃないですか」
「そういうものだ」
「まあ、朝鮮南岸でロシア・朝鮮軍と接している陸軍なら、わからなくもないがね」
「はぁ〜」
「ため息をつきたいことは、もっとある」
「ドイツ艦隊だ」
「太平洋の装甲巡洋艦3隻でさえ、日本海軍にとって脅威」
「そして、根拠地は前ド級戦艦を埋め立てて要塞化して攻撃不能だな」
「では、戦争になれば・・・・」
「装甲巡洋艦3隻を撃沈すれば終わる」
「植民地の即席軍港なら、大破でも修理できないだろう」
「しかし、軍港に引き籠もられては、お手上げだな」
「・・・・・・・」
これらの艦艇を建造した頃の日本の造船技術、冶金技術は、欧米より劣っていた。
日本の軍艦の方が当然、寿命が短かった。
06/28
ボスニア 首都サラエボ
セルビア人青年プリンツィプが愛国に燃えて、銃を握っていた。
銃声がサラエボで響き渡り、
一つの命が地上から掻き消されていく。
オーストリア・ハンガリー帝位継承者フランツ・フェルディナント大公が暗殺された。
俗にサラエボ事件が起きた。
オーストリア・ハンガリー政府は、事件をセルビアの陰謀と断定。
07/23
オーストリア・ハンガリー帝国がセルビアに最後通牒を送り付ける。
そして・・・
07/28
オーストリアがセルビアに宣戦布告し、第一次大戦が始まる。
オーストリア・ハンガリーのセルビア攻撃は、セルビアを支援するロシアが介入する。
07/30
ロシア帝国が総動員を発令
ロシアの介入は、ドイツのオーストリア・ハンガリー支援を決定させた。
その結果、欧州諸国は2大陣営にわかれ対決する。
戦争への恐れが現実のものとなっていく。
この頃は、まだ、帝国主義の世界だった。
国益の為なら、暗殺事件の是非。
暗殺した国と国民の側に付くことも躊躇しない。
善悪以上に国益が優先される時代だった。
赤レンガの住人
「どういうことだ?」
「戦争になったぞ。諜報は、何をしていた」
「聞いてないじゃないか」
「バルカン半島が危険だと報告は受けていたさ」
「しかし、暗殺が前もってわかるような諜報でもない、偶発的なものだろう」
「政府は、どうするって?」
「第一次バルカン戦争の経緯から一人勝ちしたセルビア」
「そして、セルビアに嫌がらせしていたオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子が暗殺された」
「情勢からするとイギリスは、セルビア側だ」
「しかし、中国大陸は、現状維持で停戦状態とは・・・」
「ロシア軍の南下が怖いのさ」
「確かにロシアの南下は日本も望まない」
「しかし、中国人の暴動は、毎年、増大している」
「いや、中国人の暴動は、むかしからで増減は、ほとんどないそうだ」
「本当に?」
「ああ、広いのは事実だがね」
「耕作面積と人口の比率は、かなり厳しい」
「歴代王朝の抑圧や搾取、腐敗が酷くて勤労意欲は、元々、低かったそうだ」
「じゃ いまと変わらず。か?」
「孫文が東京で中華革命党を結成したが、もっとマシな事を言ってたぞ」
「もう孫文はいいよ。追放しちゃえ」
「悪い人間じゃないんだけどねぇ」
「確かに袁世凱よりは好きだよ」
「だけど国益とそれは、別じゃないの」
「どっちが酷い扱いかの違いだろうな」
「対して変わらないと思うがね」
「少なくとも欧米人の支配なら宦官は必要ないだろう」
「そ、そうだな」
オーストリアがセルビアに最後通牒を通告して、一気に戦雲が高まる。
日本はドイツ極東艦隊の情報を集め始めていた。
ドイツ極東艦隊 装甲巡洋艦 | |||
ブルッヒャー | シャルンホルスト | グナイゼナウ | |
建造 | 1909年 | 1906年3月22日進水 | 1906年6月14日進水 |
排水量 | 15000トン | 12781トン | 12781トン |
兵装 | 210mm×6 | 210mm砲8門 | 210mm砲8門 |
兵装 | 150mm砲6門 | 150mm砲6門 | |
ノット | 24.8 | 23.5 | 23.5 |
装甲巡洋艦(ブルッヒャー、シャルンホルスト、グナイゼナウ)3隻。
軽巡洋艦(ライプツィヒ、ニュルンベルク、ドレスデン、エムデン)4隻
仮装巡洋艦 (ヴォルフ、メーヴェ、ゼーアドラー)3隻
12500トン級河川元ロシア戦艦(ポビエダ)
日本海軍
戦艦13隻、装甲巡洋艦12隻、巡洋艦40隻
(三笠、初瀬、敷島、朝日、八島、富士)6隻
150m×23m×8m。18000馬力、25ノット
16000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門
(ボロディノ、アレクサンドル3世、アリヨール、スワロフ、スラヴァ)5隻
140m×23m×8m。18000馬力、24ノット
15000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門
(ツェザレウィッチ、レトヴィザン)2隻
140m×22m×8m。18000馬力、25ノット
14000トン、50口径283mm連装砲3基、50口径80mm砲16門
装甲巡洋艦
(八雲、吾妻、浅間、常盤、出雲、磐手、春日、日進)、
(ロシア、グロムボイ、リューリック)、(バヤーン)
50口径203mm連装砲4基
日本艦隊は、改装されて、準ド級戦艦と呼ばれ、
見かけこそ、堂々としていた。
しかし、当たり所が悪ければ、一発で、そのまま沈没という場合もあり。
実戦に堪えられるような軍艦は少なかった。
08/01 ドイツ帝国がロシアに宣戦布告
08/03 ドイツがフランスに宣戦布告
08/04
ドイツ軍が中立国ベルギーに侵入。
イギリスがドイツに宣戦布告する。
08/12 英国が日本の対独参戦に同意
08/15 パナマ運河開通式
日本
首相官邸。
「日英同盟に従ってドイツに宣戦布告すべきだ」
「しかし、戦力的に厳しいはずだ」
「そうか?」
「戦艦13隻、装甲巡洋艦12隻なら勝てるのではないか」
「ドイツは装甲巡洋艦3隻だろう」
「装甲が錆びてボロボロの戦艦が何隻あっても」
「ブルッヒャー、シャルンホルスト、グナイゼナウに勝てんぞ」
「だが相手は210mm砲」
「こちらは、283mm砲だ」
「初弾を命中させることが出来れば勝てるだろう」
「訓練すらまともにやっていないのに初弾から当たるものか」
「だから、国防費を増やせばよかったんだ」
「だから、新型戦艦8隻を建造しているだろう」
「戦争に間に合わなければ、どうにもならんわ」
「しかし、アメリカがどう出るか」
「・・・・・・・」
「パナマ運河も完成したそうだから、太平洋にも戦艦を送ってくるだろうな」
「・・・・・・・」
喧々諤々のまま時間だけが浪費されていく。
08/23
日本・米国は、第一次大戦に中立を表明。
利権の大きな中国市場経済と
ロシアの中国介入を防ぎたいという欧米各国の思惑が絡み、
中国大陸は、中立国の日本とアメリカが
中国大陸での監視を行うことで決着がついて中立地帯にされてしまう。
揚子江は、英独の艦船が並んで中国支配を維持。
そして、日本は、太平洋における同盟軍と協商軍の力関係から
参戦出来ないまま、時が流れた。
欧州戦争は史実と違っていく。
欧州主要各国は、宣戦布告ラッシュ。
ドイツ、オーストリア、トルコとイギリス、フランス、ロシアの戦争になっていく。
ドイツ軍主力5個軍団は、中立国ベルギーを侵犯し、
そのまま、防備の手薄なフランス北東部に侵攻。
イギリス・フランス連合軍は、中立国側に十分な戦力を割いておらず、
戦力差で戦線が崩壊していく。
イギリス・フランス軍は戦線を構築することもできず後退し、
ドイツ軍、第1軍(クルック将軍)は、パリまで50kmに迫り、
途上のフランス要塞と、フランス・イギリス軍の一部は包囲され、取り残されてしまう。
そして、フランス・イギリス軍は、混乱しつつ、
パリ前方のマルヌ川まで後退していく。
1914年8月28日 マルヌ会戦。
ドイツ軍(クルック将軍)の猛攻で、
フランス軍(ジョッフル将軍)の戦線は切り崩され崩壊していく。
そして、ドイツ軍は、マルヌ川とセーヌ川にまで達した。
早期決戦にかけたドイツ皇帝の思惑は、成功したかに見えた。
しかし、ロシア軍の東部侵攻の知らせが全戦線に伝わり、
協商側の戦意を挫くことが出来なくなる。
ドイツ軍は、セーヌ川を盾に西部防衛線を塹壕を構築。
軍団を東部戦線へ転進させ、
侵攻するロシア軍をタンネンベルグ包囲殲滅戦で打ち破っていく。
パリの北半分を占領したドイツ軍は、
攻勢から攻勢防御へと切り替わっていく。
フランス軍とイギリス軍は、
強固なドイツ軍陣地に無謀な攻勢を繰り返し消耗してしまう。
フランス軍は、セーヌ川という大動脈を使えず、
補給線で苦心惨憺することになり。
ドイツ軍は、セーヌ川の橋という橋を破壊。
河川を盾に優位に戦いを進めることが出来た。
ドイツの潜水艦基地は、ルアーブルにまで進出し、
イギリス海運は大打撃を受けた。
日本で生産した武器弾薬は、多くの場合、ロシアに売られるか、
中立国を介して、イギリス、フランスへ輸出されていく。
日本は、イギリスの同盟国でありながらイギリスの中国大陸権益保全、
また、インドなどイギリス植民地の警備に当たる。
そしてアメリカの監視と、中立維持を要請されていた。
大連港
唐津ミツオは、大連港に降ろした積荷をロシア側に渡すため、
手続きをしていた。
新型38式小銃も旧式の武器弾薬もすぐに売れていく。
二人の男が積荷とリストを確認する。
「ミハイル。派遣武官の話しだと東部戦線は、かんばしくないようだが?」
「ああ、酷い」
「ドイツ軍は、そんなに強いのか?」
「フランス軍がバカやったからだ」
「どうせなら、ドイツじゃなくて中国大陸に侵攻すれば良かっただろう」
「ははは、そうしていたら俺たちは敵同士だ」
「日本だけでなく、たぶん、アメリカとも戦争になっていた」
「ふっ」
「中国大陸の利権は大きいからな」
「欧州戦争も終わってロシアは、世界中から総攻撃されていたさ」
「まあ、中国は、日本とアメリカで維持するさ」
「だから、安心して戦争してくれか。良いな日本は儲かって」
「ああ、日本軍の装備を一新できるほど儲かっているがね」
「日本は、参戦しないのか?」
「いや、イギリスに止められたらしい」
「中国大陸やインド。ギリス植民地の利権を維持するだけで良いそうだ」
「イギリス海運は大打撃で、それも長くなさそうだがね」
「日本も、イギリス向けに商船の発注を受けている」
「建造するのか?」
「するだろう。儲かるらしいし」
「東南アジアの資源もたくさん得られる」
「オランダは大陸封鎖でやられているらしい」
「どちらかと組んだ方が良かったのではないか」
「ドイツに本土を占領されるか」
「イギリスにインドネシアを占領されるかだ」
「オランダにとっては、どちらも死活問題だな」
セーヌ川上流 サンス
日本軍武官
真田少尉は、戦局を眺めていた。
セーヌ川が天然の要害になって
北のドイツ軍、南の英仏軍に戦線を分けていた、
ドイツ軍が対岸に布陣して塹壕が構築され、
機関銃が並べられて突破不能になり、
渡河可能な上流が同盟軍と協商軍の主要な戦線になっていた。
サンスも、ヨンヌ川という支流があったが、十分、渡河可能だった。
時折、イギリス・フランス軍が渡河越えで攻勢を繰り返すが
ドイツ軍の戦線を突破できず、いたずらに消耗していた。
互いに塹壕を何重にも掘り、塹壕を連結させた戦線が厚みを増して広がり、
戦線を膠着させていく。
上空は、ドイツ軍機とイギリス軍機が空中戦のようなことをしていた。
拳銃を撃っても当たるまい。
両軍の将兵は、ぼんやりと空を見上げ、面白がった。
日本は、どう考えても航空機で遅れをとっていた。
そして、気付いたことをメモにとっていく。
この報告が将来の軍事組織と軍事費の比率を左右することもあった。
「・・・よう、真田少尉。早いな」
「ウィリアム中尉。攻勢準備のやり方も勉強になるよ」
彼は、アメリカの外交武官だった。
「勉強熱心だな」
「次の戦争で役に立つかもしれないだろう」
「これで戦争を終わりにしたいものだ」
「軍人がそんなことを言ったら生活できなくなるじゃないか」
「まあ、とうもろこし畑を継ぐさ」
「とうもろこし畑か、アメリカは土地が広くて良いな」
「日本は、土地が狭い」
「どうしても、次男、三男は、食いっぱぐれが出てしまうんだ」
「それで、南極大陸か、とうもろこしは無理だな」
「北東シベリアがメインだよ」
「南極大陸は、海軍が意地になっているだけだ」
「意地ね」
「北東シベリアでも、とうもろこしは無理だろう」
「だが、石炭と鉄鉱石は、いけそうだ」
「輸送は?」
「大戦で稼いだお金で何とかするんじゃないのか」
「何とかするのは新型戦艦だろう」
「新型戦艦か・・・・」
「なんだ」
「建造しているだろう。各国でも噂になっているぞ」
「海軍が強くなるは、陸軍に回ってくる金が減るということだからな」
「なるほど」
「それにドイツの潜水艦は戦果をあげている」
「戦艦より潜水艦の方が役に立ちそうだな」
「・・・飛行機もな」
両軍の機体が弾が切れたのか、去っていく。
「飛行機か、確かに役に立ちそうだ」
「日本は、ドイツ軍陣地にも武官を派遣しているのか?」
「いや、公式的には商人のはずだが」
「商人ね」
「クルップ砲を買って人脈を広げたみたいだな」
「・・・・」
「まあ、アメリカもそうしているがね」
「しかし、塹壕戦というのは、面白みがないな」
「確かに」
シュペ艦隊
装甲巡洋艦(ブルッヒャー、シャンホルスト、グナイゼナウ)は、
ポナペに配備されていた。
しかし、開戦と同時に通商破壊作戦を開始する。
太平洋でドイツ装甲巡洋艦が恐れる艦艇は少ない。
速度と戦力で勝る巡洋戦艦オーストラリアだけであり、
シュペ艦隊は、果敢に南太平洋へと乗り出した。
そして、ドイツ装甲巡洋艦に合わせてイギリス艦隊も出撃する。
しかし、通商破壊に走るドイツ艦隊を捕捉するのは困難だった。
シュペ艦隊は、オーストラリアの艦隊を発見。
北東ニューギニアとビスマルクへの上陸作戦部隊を乗せた船団に襲い掛かった。
護衛をしていた装甲巡洋艦グットホープとモンマスが撃沈され、
急報を聞いて、駆け付けた装甲巡洋艦コーンウォール、ランカスターも逆襲され撃沈される。
上陸作戦の船団も4隻が捕獲され、4隻が撃沈される。
慌てたイギリス海軍は、巡洋戦艦オーストラリアの同型艦。
第2巡洋戦艦戦隊(パケナム少将)
巡洋戦艦 (ニュー・ジーランド、インディファティガブル)の派遣を決める。
南西アフリカ リューデリッツ港に配備されている
装甲巡洋艦
(プリンツ・アダルベルト、フリードリヒ・カール1世)が出撃。
ドイツ南西アフリカ艦隊に対応するように派遣されていた。
イギリス装甲巡洋艦
(ドレイク、キング・アルフレッド、リヴァイアサン、ユーライアラス)が捜索を開始。
そして、東アフリカ。
ドイツ装甲巡洋艦(ローン、ヨルク)も通商破壊作戦を開始する。
そして、対応するように派遣していた
イギリス装甲巡洋艦(エセックス、ケント、ベドフォード、ベリック)が捜索を開始した。
ここで気になるのは、イギリス前ド級戦艦の活躍が目立たないことだった。
ドイツ装甲巡洋艦を追撃するには、速度が遅く。
埋め立てられたドイツ前ド級戦艦と撃ち合うのは、自殺行為。
それでは、と、
前ド級戦艦を護衛に付け、
ドイツの要塞砲から離れた場所への上陸作戦は有効だった。
しかし、欧州戦線の急がそれを許さなかった。
中立国ベルギーから進入したドイツ軍の大部隊に英仏軍は対応できず。
緒戦でフランス・イギリス軍の戦線は崩壊し、
セーヌ川以北がドイツ軍に占領されていた。
上陸部隊の編成は、より深刻な戦線。
欧州の西部戦線へと向けられる。
しかし、オーストラリアが欲を出し、
一部の部隊を北東ニューギニア、ビスマルク諸島の占領に向ける。
この船団が全滅させられ、
オーストラリアは、対応に窮するのみだった。
イギリス
三好中尉は、カフェテラスからテムズ川に居並ぶイギリス艦隊の陣容を見ていた。
イギリスの主力艦隊は、スカパプローに配備されている。
しかし、ここにいるだけの陣容でさえ、日本海軍より、はるかに強力だった。
もちろん、日本海軍もカタログ上は、立派に見える。
13隻とも、艦首側に連装2基。艦尾に連装1基。
最新の50口径283mmクルップ砲が装備され、
比較的新しい機関が換装されていた。
しかし、基礎になる艦体は、日露戦争以前の前ド級艦であり、
多少、弄ったに過ぎず。
もっとも、時折、装甲版を張り替えているらしい。
それも新型戦艦建造のため、
試験的に造ってみた装甲版を試しに付けてみるか。
というものだった。
さらに悪いことに訓練費用までケチられ、
たまに撃つ弾も当たらないほど。
実態を知る者は、イギリス戦艦を羨望の眼差しで見つめるしかなかった。
しかし、戦況は、ドイツ潜水艦の活躍によりイギリスが窮地に陥っていた。
必要なのは戦艦でなく、船舶を守るための護衛艦だった。
それも大量に・・・
そして、23400トン級キング・ジョージ5世型戦艦オーディシャスが機雷により沈没。
13年に建造されたばかりの最新鋭戦艦であり、
戦艦最強という常識が覆されつつあった。
「三好中尉」
後ろから声をかけた将校が正面の席に座る。
「イギリス海運局の連中が日本に発注した輸送船と護衛艦は、まだかと騒いでいたぞ」
「アントニィー中尉。俺が受注したわけじゃないだろう」
「それに先進国のイギリスと違って簡単に建造できないよ」
「ペラペラの鉄板と小さな機関と制御機械じゃないか」
「そんなに時間がかかるものじゃあるまいよ」
「あのなぁ〜」
「20年前まで木造船しか作っていなかったのに」
「鉄鋼船をポンポン造れるわけがなかろう」
「本当か〜」
「1570年代に将軍ノブナガが鉄船を建造したと聞いたぞ」
「信長は将軍になっていない」
「それに鉄船は、とうのむかしに錆びて沈んでる」
「なんだ。一回使ったら終わりか」
「戦国時代で、しょうがなくて造ったんだよ」
「それで外洋に出ようとは思わなかったのか」
「ノブナガは片腕に殺されたからな」
「それにすぐに沈みそうだな」
「そうか」
「どうでも良いが日本は参戦しないのか?」
「どうでも良いが参戦して欲しいのなら言ってくれよ」
「俺の方から本国に伝えるよ」
「・・・・」
「どっちなんだ?」
「・・・・難しいところだな」
「苦戦しているんだろう?」
「戦線が膠着しているだけで苦戦というわけじゃないさ」
「・・・ドイツ艦隊とぶつかるな」
「日本の似非戦艦には頼まんよ」
「中国大陸を保全するだけで良い」
「そして、必要な物資を運んでくれるだけでな」
「我が国は、商船を何隻か沈められている」
「桁が違うな、沈められている桁が」
「参戦すれば、もう一桁から二桁、上がるだろう」
「それでも、我が国とは、桁が違う」
「イギリスは、太平洋のドイツ艦隊を片付けてくれないのか」
「日本は、装甲巡洋艦3隻を恐れているのか?」
「参戦して捕まえれば沈めることは出来るさ。捕まえればな」
「巡洋戦艦オーストラリアを派遣しているはずだ」
「捕捉さえ出来れば撃沈出来るさ」
「先週、オーストラリアとニュージーランドの陸戦隊が」
「船団10隻ごと沈められたそうじゃないか」
「これは密だが装甲巡洋艦2隻が追加で太平洋に派遣される」
「心強いね・・・」
「日本は、イギリスから正式に参戦要請があれば、参戦するそうだ」
「イギリスの本音は、どうなんだ?」
「中国大陸の利権の方が重要だよ」
「中国大陸で欧米各国が足並みを乱せば」
「中国民衆に中国大陸から叩き出される」
「中立国が大陸の監視をして大陸の利権が保全されるなら」
「それがアメリカ一国になってしまうのは、危険だ」
「アメリカに参戦して欲しかったんだろう」
「アメリカには参戦して欲しいさ」
「そうなれば、中国大陸の監視役は同盟国の日本一国になる・・・」
「言っている意味はわかるだろう」
「インド・太平洋域のイギリスの番犬役で?」
「そういうことだ」
「もちろん、揚子江のイギリス利権も守ってもらいたい」
「相手が中国民衆なら、列強の守備隊だけで、どうにでもなるだろうよ」
「それでもよろしくな」
「揚子江を失うのは惜しい」
「中国大陸のドイツ利権は?」
「そんなもの戦争が終わった後なら、どうにでもなる」
「しかし、海外のドイツ領土。思ったより占領が遅れているようだが」
「前ド級戦艦を要塞代わりに埋め立てられたら、お手上げだな」
「それに、中国市場のおかげでドイツ植民地も防御力が強化されたのだろう」
「装甲巡洋艦7隻を太平洋、大西洋、インド洋に派遣しているのもそれだな」
「日本がドイツ産業に貢献したおかげかもしれないがね」
「クルップ砲の採用は、選択の余地が少なかった」
「新規に建造する戦艦もない」
「副砲を廃し、新規の砲台を強化しようと思っても」
「口径の大きいアームストロング砲は、艦の重心を悪くするから、載せられない」
「仕方がなく。クルップ砲になる」
「機関の換装も比較的、機関の小さいドイツ製になってしまっただけだ」
「日本海軍のおかげで、日露戦争に勝ったのにどうして」
「そんなに海軍予算が苦しいんだ?」
「生憎、日本は小国でね」
「そうだったな」
「世界地図を見ていると気付かなくてな」
「北東シベリアは、入れないでくれ」
「あの土地が海軍予算の足を引っ張っているんだ」
「日本人は、本当にカムチャッカ半島から極地にまで地下鉄を引っ張るつもりか?」
「まあ、鋼材だけでも700万トン弱は使うだろうな」
「セメントは、3倍から4倍は多い」
「その鋼材をよこせよ」
「戦争が終わったら倍にして返してやるよ」
「ははは・・・そっちの方が元が取れそうだな」
「当然だろう。世界最大の大英帝国だ」
日本は、イギリスの工場になりつつあった。
日本の製鉄所はフル回転で産業基盤の増設と欧州戦線向けの鉄鋼を量産。
イギリス、フランスも日本への発注と技術供与を増加させる。
某大臣宅
老人と貧乏ゆすりの軍人が向かい合って座っていた。
「・・・札束で頬叩かれて、それでも、日本人か! きしゃん!!」
「そげん、言うてもな〜」
「おまえじゃ、話しにならん!!」
「じゃから、内閣で決まったもんは、しょうがなかろうが」
「なっ!」
「なんか〜 そげんこつ、言うてから。ひとん、せいにしてから」
「おまえが “うん” 言うたから、決まったんじゃなかか〜」
「じゃから多数決やけんが、俺がいくら反対してもどうにもならんわ」
「何も、戦争せい! とは、言うとらんやなかか」
「決まっとった予算ば、よこせ言うとう、だけやなかか!!」
バンッッ!!
軍人が思いっきり畳を叩く。
「・・・じゃから、戦艦の方は何とかなるけん」
「バカ言うな!」
「戦艦建造は決まっとうやなかか。補助艦艇ば言うとったい!」
「訓練費用は? 弾薬の納入は、どうなっとうとか!」
「新兵の教育費は? ごっそり削ってから、なんば言うとっとか、きしゃん」
「わかっとるって、ちょっとまてや。なっ」
「もう、待てん! もう、待てん!」
「世界中が戦争しようとに軍事費ば減らしてからどうするつもりか?」
「減らしとらんやろう」
「新型戦艦8隻。こりゃ 大増強やなかか」
「それも世界最強の高速戦艦やろう。無敵やなかか」
「せ、戦艦だけで戦争が出来るか!」
「防潜網は、どうした! 港でボカチン食らうだけじゃ」
「だから、それも予算に組みこんどろうが」
「造れんなら話しにならんやろうも」
「どげんも、そげんも、後回しにしてからくさ」
「それは、こっちやなかろうも」
「ペラペラの鋼板やら、チンケな機関ばっかり、先に造ってから」
「国防ば、なんと思いようとか」
「お、おまえ、それは、俺んところやなか」
「何が ”俺んとこやなか” か!」
「グルになってからくさ。いつも、そうやけん」
「ま、待てや、きしゃん」
「なんでんかんでん。こっちでやれるか」
「どげん思いで、戦艦8隻ば、通したか。わからんとか」
「おう、わからんわい」
「いい加減頭にきた。今度の選挙の時ば覚えとけ」
「お、おまえ、いままで、同郷のよしみで助けとったとに」
「おまえ、そげんこつ言うとか」
「やかましい。同郷のよしみで票集めしとったばってん、ほかを当たるたい」
軍人が立つ
「おまえ、他の人間が、やっても上手くいくと思いようとか?」
「やってみんとわからんわい!」
軍人がドタドタと出て行く。
「あの・・・バカたれが・・・」
地下鉄を都市交通の手段でなく。
国家経済基盤にしたというのが日本と、他の列強との違いといえる。
5つの島が連なって本土を成している点も大きい。
それでも経済性や採算性を優先させたのか。
先に山を刳り貫いて海底トンネルは後回し、
そして、トンネル掘削技術は、
極地における唯一の交通機関で資源開発も兼ねていた。
欧州大戦中であっても、
日本の鉄道建設は、各産業、官庁、企業体を有機的に繋ぎ、
優先的に進められていた。
北極海、アイオン湾
大型の製鉄所が創業していた。
電熱管が堤防からアイオン湾へと送られ、
氷海を一部融かしていた。
そして、解けた海域に日本の船舶が何隻も集まっていた。
鉱山、炭鉱、
そして、製鉄所が地下鉄によって結ばれ、
さらに一部は、オイルシェールや金鉱とも連結され、
凍土の下に地下鉄が掘り進められていた。
「やれやれ、この鉄が、日本で使えないというのは、残念だな」
「出来れば、北東シベリアの鉄鉱石を使い切ってしまう前に」
「カムチャッカ半島にまで行きたいね」
「支線も地下鉄だからな・・・・」
「ところで、あの、でかい風車は、なんだ」
「風力発電だっただろう」
「この寒いのに・・・凍らないのか?」
「さあ、どうなんだろうな」
「デンマークにあったのを模倣したとか言ってたが」
「戦争中じゃなかったのか?」
「さあ、どうだろう。ここにいるとどうでも良くなるがな」
オーロラが輝いていた。
「日本本土より、戦場に近いんだがな・・・」
「しかし、寒いな」
「地下の方が暖かいか」
「そうだな。潜るか」
「ああ」
「しかし、あの船は、なんだ?」
「ああ、スウェーデン鉄を積んでるとか言ってたな」
「北極海周りで来て砕氷船待ちだそうだ」
「スウェーデン鉄?」
「ああ、戦艦を建造するのに一番良い、鉄らしい」
「ほう〜」
「コリマ鉄は、どうかな」
「さぁ〜 わからんが、この前、持っていったじゃないか」
イタリア
イタリアは、連合国との秘密会議で
“全領土を回復できる” という協定を信じられず、
会談が流れ、中立のまま取り残される。
セーヌ川戦線で防衛に成功したドイツ軍は、
東部戦線でもロシア軍に大打撃を与えて進撃していたためでもある。
そして、そのことがイタリア参戦を挫かせ、
欧州大戦の天秤をさらにドイツ側に傾けていた。
スペアリブ |
仔牛とたっぷり野菜のボッコンチーニ |
ピッツァ マルゲリータ |
ベネチアの水路沿いにあるカフェテラス
数人の多国籍経済人が昼食を取っていた。
「・・・イタリア参戦は流れそうだな」
「同盟国だが、一応、連合国側なんだろう」
「物流で判断すれば、7対3で連合国側」
「イタリアは、領土問題でオーストリアと仲違いしていると、思ったがね」
「ドイツは、パリの北半分を占領してセーヌ川防衛線を強化している」
「イギリス・フランスは、失地の回復は不能」
「ロシア軍も東部戦線で負けている」
「さらにオーストリア・トルコの戦線も、膠着状態。イタリアも参戦を渋るよ」
「後は、イギリス海軍とドイツ海軍が雌雄を決すれば、それで決まるか」
「たぶんな」
「アメリカは、参戦しないのか?」
「・・・どっち側で?」
「・・・常識的な方で」
「常識的な方か・・・」
「確かにイギリス側に付く方が常識的だろうな」
「ドイツ側に付くのは野心的か?」
「魅力あるだろう」
「アメリカは、ド級戦艦10隻。前ド級戦艦25隻。装甲巡洋艦15隻」
「野心を果たすのに十分な戦力だな」
「日本の海軍戦力は、どのくらいだったかな?」
「・・・・戦艦13隻、装甲巡洋艦12隻」
「戦艦は、前ド級? それともド級?」
「・・・軍事機密だ」
「ふっ・・・」
数人がほくそえむ。
日本の改装前ド級モドキ戦艦を単純に古い巡洋戦艦としてみる国は多い。
「アメリカも、日本も揚子江の番人の方が金になるよ」
「イギリスがド級戦艦33隻。前ド級戦艦40隻。装甲巡洋艦32隻」
「ドイツがド級戦艦18隻」
「前ド級戦艦19隻を埋め立ているから、いま前ド級戦艦は5隻」
「あと装甲巡洋艦7隻」
「まともにぶつかれば、どうなるか、わかりやすいな」
「フランスは?」
「ド級戦艦4隻。前ド級戦艦24隻。装甲巡洋艦19隻だったかな」
「ドレッドノート型戦艦誕生で最大の被害者は、フランス海軍だな」
「話しにならんな」
「フランスの海軍に対する冷たさは日本並みだ」
「それでも、フランス海軍は、失地回復でドイツ海軍に挑まないのか?」
「まさか、戦力差で、なぶり殺しに遭うだけだ」
「せいぜい」
「オーストリア海軍やトルコ海軍を相手をするだけで、精一杯だろう」
「しかし、ドイツの潜水艦は予想外じゃないか」
「だが、中立船まで沈められるのは困る」
「そうだ。それは困る」
揚子江は、中立地帯であり。
イギリス、ドイツ、フランスの河川砲艦は撃ち合う事もなく停泊。
艦砲は、常に中国民衆へと向けられ、
イギリス人も、ドイツ人も、並んで商売をしていた。
こういったことは、中立国で珍しいことではない。
例え本国同士で戦っていても
中立地域では商業上の分業さえ行われている。
そして、ここで船に積み込まれていく物資は、
ポルトガルの港で、連合国側と同盟側へと分けられる。
中には、日本で生産されたものが
呉越同舟で両軍向けの船に乗せられることもあった。
その方が潜水艦に撃沈されず、都合の良いことも事実だ。
上海租界地
世界大戦のさなかであっても、
中国大陸は、中立地帯として列強の権益が保護されていた。
アメリカ海軍 ド級戦艦サウス・カロライナー、ミシガンは、305mm連装4基装備。
日本海軍のド級モドキ戦艦ツェザレウィッチ、レトヴィザン283mm連装3基装備。
日本側は、まともに戦えば、絶対に負けるという戦力差。
ツェザレウィッチ艦橋
「やれやれ、この状況を日本全国に知らせたいね」
「イギリスも日本海軍の脆弱ぶりに新型戦艦の建造だけは、目を瞑っているようですが」
「日本の新型戦艦の実態を知れば、そうも言ってられないと思うがな」
「まだ、正味で信じられないのでは?」
「それは、あるな」
「日本はド級戦艦を建造したことがない」
「どちらかというと水雷戦隊の方が好きです」
「日露戦争の帰趨を決定付けたのは戦艦ではない」
「緒戦の水雷戦隊突入で巨済沖のロシア極東艦隊を無力化できたからです」
「ロシア海軍は、艦隊の使い方を間違ったのだろう」
「まあ、水雷戦隊は、頼りにしている」
「しかし、日本の水雷戦隊は自殺兵器だと評判になっている」
「水雷艇の艦首に火薬を積み込んでいるからですか?」
「そんな国は、ないだろう」
「そういう、艦艇があるから、この上海でアメリカド級戦艦と張り合えるんですよ」
「そうだろうが・・・」
ツェザレウィッチ、レトヴィザンのそばに8隻の水雷艇が遊弋していた。
艦首に火薬が積み込まれ、
命令があれば、アメリカ戦艦に向かって突入していく。
魚雷も4本積んでいるが艦艇そのものが魚雷だった。
成功すれば、十分に刺し違えることが出来る。
もっとも、日米とも装甲巡洋艦を2隻ずつ配備しており、
単純に成功するとは限らない。
それでも、アメリカの野心を牽制することができた。
港ではインド人、黒人、フィリピン人など
多彩な人種が中国人労働者を使って、荷揚げ、荷降ろしをしている。
列強の租界地は、急速に拡大していた。
中国民衆は、奴隷の様に扱われていたが
列強に与して莫大な利益を上げる中国人富裕層も着実に増大していた。
もっとも、単純な方法は田舎から娘を買うか、さらい。
列強の人間に売りつける方法だった。
中国民衆にすれば、腹も立つだろう。
しかし、別段、真新しい商売ではなく。
売りつける相手で列強の人間の比率が増えただけであり、
高く買ってくれるのなら誰でも良かった・・・・
漢民族の列強や中国政府に対する敵愾心は、年々、強くなってくる。
そして、中華民国 大統領 袁世凱の独裁。
列強は、袁世凱の保身を容認し、
さらに利権を増大させることが出来た。
たとえ、孫文の志しが高くても、低くても、
国家間の国益とエゴの追求の前では関係なく、
列強は、中国大陸で、うまみが、あれば良かった。
孫文は、漢民族による。
単一大陸国家をあきらめ、
揚子江の南側で中華合衆国を建国。
列強の思惑通り、
中国大陸は、南北に分かれて分離独立。
揚子江の利権は、さらに大きくなり、
インド人、黒人、フィリピン人中間管理層は、片言の中国語を覚えてしまうと、
中国人をさらに酷使していく。
台湾人の中間管理層は、日本人にとって都合がよく。
日本の国策でも、台湾人の揚子江への移民を増大させ、
台湾を日本の国領にしていく。
加工工場があった。
そこで生産するのが便利な上に
比較的安全に目的地まで送ることが出来た。
重要なのは、積荷の比率だけだった。
イギリスとドイツとも労働力、資源が豊富で土地の広い中国大陸で生産する方が良いと気付く。
それでも本国から生産設備を持ってくるのは困難で日本に発注。
日本政府は、中国の近代化を渋っていた。
しかし、載せられていく札束と、資源の量、技術供与。
債務処理(日露戦争時の借金棒引き)の誘惑に勝てず。
一部制限しながらも工作機械を中国へ売り渡し、
揚子江流域の工業化が進む。
中国人が仕事を求めて揚子江流域に集まり、
中国人がマージンを取って仲介、人身売買の如く売り渡していく。
東部戦線
砲声が響き、銃声の音が聞こえ、
砲弾の震動が足元から伝わってくる。
経験と感覚で敵の距離が、なんとなくわかってくる。
粉雪の降る地平線上。
汚れた服装の男たちの集団があった。
そして、その集団より薄汚れ、
背の低い男たちの群れが集まってくる。
「・・・・こいつらは、何だ?」
ロシア軍の中隊長が怒鳴る
「朝鮮人だ。中央アジアで農地開拓していたのを連れてきた」
業者の人間らしい男が応える。
「朝鮮人? 役に立つのか?」
「日露戦争では弾除けに使った」
「弾除けか・・・日本人に似ているな」
「外見はな」
「言葉は、わかるのか?」
「一部、わかる者はいる」
「まあいい、言葉のわからない者に銃を持たせてドイツ軍の正面に立たせろ」
「わかる連中は連絡用に連れて後退するぞ」
「おい、引き上げか」
「ああ、こいつらに時間稼ぎをしてもらう。後方の陣地は、見てきたか?」
「・・・・なんか、土を盛っていたが一段だけだったぞ」
「何だと! どういうことだ!」
「そんなこと知るか」
「伝令兵。砲兵に援護射撃を頼んでくれ」
「くそったれが、冬将軍に頼るしかないな・・・・」
「撤退だ!!」
ロシア皇帝(ツァーリ)は、血の日曜日事件以降、
ロシア民衆から見放され、
子飼いの貴族によって辛うじて命脈を保っていた。
これは、法王と皇帝が同一視されているロシア正教において威信失墜は致命的だった。
ロシア民衆のロシア皇帝に対する親愛の崩壊は、帝国の崩壊に繋がっていく。
そして、第4議会(ドゥーマ)は、
ニコライ二世皇帝の気まぐれに左右されない勢力へと変貌していく。
11/11 オスマン帝国が同盟国側で参戦
12/18 英国がエジプトを正式に保護国化
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です
第一次世界大戦。
日本の参戦・不参戦で悩みました。
結果的には、不参戦でも、いいのではないかと・・・・・
それでは、面白くないので、
欧州戦争を中心に書いていこうと思っています。
ここで重要なのは、ロシアの軍事力が100万ほど、極東にシフトされ、
対独戦争の緒戦に間に合わないこと。
これは、ドイツの戦争計画の成功を意味します。
もちろん、各国とも中国大陸に軍事力を派遣した結果、中国市場も大きく。
史実より国際政治力のうず渦は大きく。
ドイツの艦隊派遣にも繋がります。
中国市場がバルカン半島よりも大きいということでしょう。
こんな感じです。
ロシア帝国が怖すぎです。
極東の重心が大き過ぎて、
東部戦線への動員が遅れたのも理解しやすいと思います。
濃い緑は、ドイツ領で1905年露清戦争で清国が負けた後。
1897年に殺された宣教師2人のことで、因縁をつけて、租借地にしてしまいました。
さて、日本に鉄材100万トンあったら?
政治家ならどう使うでしょうか?
軍人ならどう使うでしょうか?
軍人に使われてしまったのが史実で、
今回は、政治家に使わせてみましょう。
仮想戦記なのに、仮想政史のような・・・・です。
とりあえず、この頃、事と。ゲームです。
リアルタイムストラテジーゲーム
「ヴィクトリア」
完全日本語版
第22話 1914年 『第一次世界大戦 1』 |
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