第23話 1915年 『第一次世界大戦2』
ドイツ軍にとって、セーヌ川戦線は、イギリス・フランス軍の攻勢を防ぐのに
十分な防衛線になっていた。
そして、東部戦線のロシア軍は、戦意が低く後退していた。
イタリアの中立化によって、
オーストリア軍とセルビア軍の間で決定的な戦力差となってしまう。
冬季になると東部戦線からドイツ軍二個師団がギリシャ戦線に投入され、
さらにブルガリアが同盟国側で参戦すると、
セルビア・イギリス軍は撤退するしかなく。
イギリス軍は、一時、テッサロニキで踏み止まったものの、
しかし、すぐに総崩れとなり、
ペロポネソス半島とクレタ島を除いたギリシャがドイツ軍に占領され、
欧州南部戦線は、崩壊してしまう。
第一次世界大戦は、機関銃の配備によって、膠着状態となっていく。
北ドイツのヤーデ湾ヴィルヘルムスハーフェン港
ドイツ艦隊が閉じ篭っていた。
イギリス海軍は、ドイツ艦隊の大西洋への出口を封鎖しようと計画し、
ドーバー海峡、オークニー諸島、ノルウェー間に機雷敷設するため出撃する。
世界最大最強のイギリス海軍が、機雷敷設を姑息と思う者もいたが、
イギリス海軍は、
23400トン級キング・ジョージ5世型戦艦オーディシャスが機雷により沈没。
機雷の運用と効果は、計り知れないものがあった。
ドッカーバンク海戦が行われたのは、封鎖作戦に対するドイツ海軍の反応だった。
ドイツ艦隊は、巡洋戦艦4隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦19隻 + 飛行船1隻
イギリス艦隊、
機雷敷設艦隊 巡洋戦艦3隻、軽巡洋艦3隻、駆逐艦10隻、機雷敷設艦5隻
護衛艦隊 巡洋戦艦4隻、軽巡洋艦2隻、駆逐艦9隻
ヒッパー中将は、飛行船の偵察でイギリス艦隊の大まかな配置を知ると大きく迂回した。
そして、脆弱な敷設支援艦隊に突撃し、海戦が始まる。
ドッカーバンク海戦 | ||||||||||
ドイツ巡洋戦艦艦隊 | イギリス巡洋戦艦艦隊 (敷設支援艦隊) |
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巡洋戦艦 | 建造 | ノット | トン | 兵装 | 巡洋戦艦 | 建造 | ノット | トン | 兵装 | |
フォン・デア・タン | 1910 | 27 | 19000 | 283mm連装×4 | インヴィンシブル | 1908 | 25.5 | 17000 | 305mm連装×4 | |
モルトケ | 1911 | 28 | 22000 | 283mm連装×5 | インドミタブル | 1908 | 25.5 | 17000 | 305mm連装×4 | |
ザイドリッツ | 1913 | 29 | 24000 | 283mm連装×5 | インフレクシブル | 1908 | 25.5 | 17000 | 305mm連装×4 | |
デアフリンガー | 1914 | 27 | 26000 | 305mm連装×4 | ||||||
軽巡洋艦 |
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軽巡洋艦 |
カリオペ、コンスタンス、キャロライン | |||||||||
シュテティーン、ミュンヘン、ハンブルグ、フラウエンロープ、シュトゥットガルト |
駆逐艦 |
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駆逐艦 |
ティペラリー、アカスター、アシャーテス、エンバスカード、アルデント | |||||||||
(G101、G102、B112、B97、B109、B110、B111、G103、G104) | ブロック、クリストファー、コンテスト、フォーチュン、ガーランド | |||||||||
(B98、G41、V44、G87、G86、V69、V45、V46、S50、G37) | ||||||||||
イギリス巡洋戦艦艦隊 (護衛作戦艦隊) |
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ライオン | 1912 | 27 | 26000 | 343mm連装×4 | ||||||
プリンセス・ロイヤル | 1912 | 27 | 26000 | 343mm連装×4 | ||||||
クイーン・メリー | 1913 | 27 | 26000 | 343mm連装×4 | ||||||
タイガー | 1914 | 28 | 28000 | 343mm連装×4 | ||||||
軽巡洋艦 |
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ロイヤリスト、コウムス | ||||||||||
駆逐艦 |
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ハーディ、ミッジ、オフィリア、オウル、ポーパス、シャーク | ||||||||||
スパローホーク、スピットファイア、ユニティ | ||||||||||
イギリス敷設支援艦隊に緊張感が漂う。
「北方よりドイツ巡洋戦艦部隊!」
ドイツ艦隊は思いもしない方向から現れた。
インヴィンシブル艦橋
「フッド少将・・・」
「T字戦で迎え撃つ。機雷の敷設作業は中断、各戦隊ごと反撃せよ」
「了解です」
フッド少将は忌々しげに水平線上に浮かぶドイツ飛行船を見詰め、
向かってくるドイツ巡洋戦艦4隻に備える。
旧型イギリス巡洋戦艦3隻(25ノット)は、
新型ドイツ巡洋戦艦4隻(27ノット)を振り切れない。
機雷敷設中の敷設艦隊を見捨てるわけにも行かず。
封鎖作戦艦隊23隻を巻き込んで、砲撃戦になってしまう。
彼我の艦艇の性質と敵将の気質、練度。
敵艦隊の作戦計画と動き。
天候、気温、潮の流れ、風向き、
相対速度と艦首の波など計算していく。
過去の実弾演習や図上演習を参考にしつつ、
艦隊の戦術機動を決めていく。
イギリス巡洋戦艦部隊はT字戦で、
雁行陣形で突進してくるドイツ巡洋戦艦部隊を迎え撃った。
ドイツ艦隊とイギリス艦隊の間を互いの砲弾が飛び交い、
艦隊の周囲に水柱が立ち昇り、修正され、峡叉し始める。
水柱が瀑布となって艦体を洗い流し、
艦隊運動を修正していく。
最初、T字戦で優勢に砲撃していたイギリス巡洋戦艦だった。
しかし、ドイツ巡洋戦艦が同航戦に移ると情勢が一変する。
インヴィンシブルの第2砲塔の天蓋が撃ち抜かれた。
さらに艦尾にも砲弾が命中、上甲板を撃ち抜いた。
砲弾の炸薬が爆発して艦内を破砕し、
誘爆が艦体を揺るがす。
砲弾が命中するたびに戦闘力が削ぎ落とされ、
火災が起こると戦意さえも保てなくなる。
そして、側舷に開いた穴から浸水が進むと、
浮力を失って巡洋戦艦が傾いていく。
イギリス水雷戦隊がドイツ巡洋戦艦に向かっていく、
しかし、高速で動く巡洋戦艦に攻撃が成功せず。
逆に陽動で動くドイツ巡洋艦隊と水雷戦隊が遅ればせながら参戦し、
イギリス水雷戦隊を牽制してしまう。
ドイツ巡洋戦艦は力押しでイギリス巡洋戦艦部隊を撃破。
ドイツ水雷戦隊は、
砲撃戦でボロボロになったインヴィンシブル、インドミタブル、インフレクシブルを雷撃していく。
元々、1908年製のイギリス巡洋戦艦3隻が、
1910年以降に建造されたドイツ巡洋戦艦4隻と撃ち合うことが無謀に近く。
さらにザイドリッツ、デアフリンガーは、
13年、14年に完成した最新鋭巡洋戦艦だった。
そして、壊滅的な状態の敷設支援艦隊を救出する為、
もう一つのイギリス巡洋戦艦部隊が突入してきた。
イギリス巡洋戦艦
ライオン、プリンセス・ロイヤル、クイーン・メリー、タイガー
ドイツ巡洋戦艦4隻とイギリス巡洋戦艦4隻、
どちらも新型艦隊だった。
しかし、ドイツ巡洋戦艦部隊は、先の砲撃戦で少なからず
損害を受けていた。
ドイツ巡洋戦艦部隊。
ザイドリッツ艦橋
「提督・・・」
「T字戦で戦闘を継続する」
ドイツ艦隊は、損傷を受けていた。
しかし、ほぼ同速度の艦隊に後ろを取られるのは、あまりにも危険過ぎた。
「退くことができそうにないな」
「ええ」
そして、ドイツ巡洋戦艦部隊は、T字戦で迎え撃つことが出来た。
さらにイギリス海軍には、巡洋戦艦があと3隻、別に存在する。
ここで退けば、次にぶつかるときは、巡洋戦艦4隻で7隻と戦うことになる。
いまなら損傷していても4対4で数的に互角。
ヒッパー中将は、不利な戦局でも現状で戦うのが最善とあきらめる。
イギリス巡洋戦艦
インヴィンシブル、インドミタブル、インフレクシブル3隻は、
ドイツ駆逐艦の雷撃で沈みつつあった。
英独の補助艦艇は、互いに鍔迫り合いを繰り広げていたが、ほぼ互角。
ドイツ戦艦部隊は、出撃準備をしていたが間に合わない。
イギリス本土の戦艦部隊も間に合わないと予測できた。
互いの砲弾が海面を吹き飛ばし、
水柱は、艦橋を越える高さにまで昇り海水を降り注がせた。
至近弾が艦を揺るがし、
砲弾が命中した衝撃で倒れそうになる。
神に祈るというのは、こういう時で、
敵も、味方も、一生分の祈りをする。
「提督。イギリス艦隊は同航戦に移行していきます」
「本格的な砲撃戦か」
その時、
ドイツ巡洋戦艦部隊は、既に疲労しており、苦戦していた。
しかし、イギリス巡洋戦艦で先頭を進んでいたクィーンメリーが弾薬庫を撃ち抜かれ、
数分で轟沈。
これで、数的優勢を確保したドイツ巡洋戦艦4隻と、
質的な優勢なイギリス巡洋戦艦3隻の砲撃戦になっていく。
しかし、ドイツ巡洋戦艦は、4隻とも大破している状態。
さらにイギリス水雷戦隊がドイツ巡洋艦隊の迎撃を突破。
雷撃コースに入ろうとしていた。
そして、フォン・デア・タンが機関室を撃ち抜かれ、
傾き、戦闘不能と無線が入る。
残ったモルトケ、ザイドリッツ、デアフリンガーも
343mm砲弾を受けてボロボロの状態だった。
「ヒッパー提督。このままでは・・・・」
「このままでは、何だね。副官」
「攻撃・・・続行ですか?」
「ここでドイツ巡洋戦艦4隻とイギリス巡洋戦艦7隻が相撃ち」
「ドイツ海軍に不都合なことでもあるのかね」
「いえ・・・・」
クィーンメリー座乗のビーティ中将は、旗艦の沈没とともに瞬時に戦死。
代わりに先頭に立ったのは、最新鋭巡洋戦艦タイガー。
ドイツ巡洋戦艦は、発射速度が速く、
命中率の良い50口径305mm砲を使っていた。
タイガーも損傷していたがイギリスの45口径343mm砲弾は、
ドイツ巡洋戦艦に致命的な損害を与える。
そして、ドイツ巡洋戦艦4隻は、致命的な損害を与える砲弾が命中していた。
タイガー 艦橋
「・・・艦長、味方の水雷戦隊がフォン・デア・タンを撃沈しました」
「そうか・・・・・」
「このまま、戦闘を続行ですか?」
「見敵必戦は、イギリス海軍の伝統だよ」
「ブロック少将も、そのつもりだろう」
「確かに・・・」
英独巡洋戦艦部隊は、
同航戦のまま、距離を離すことなく互いに撃ち合い、
英独巡洋戦艦は、互いに不幸な一発を受けて戦闘不能。
さらに、致命的な一発を受け、航行不能。
水雷戦隊の魚雷で、
とどめを刺されて次々に沈んでいく。
イギリス巡洋戦艦部隊は全滅。
ドイツ巡洋戦艦部隊は、モルトケのみ生き残り、
イギリス水雷戦隊から逃げ、
沈没寸前にドックに滑り込んだ。
このドッカーバンク海戦は、双方の旗艦が沈没。
指揮官が失われた後、
戦闘が継続されるほど激しいものだった。
ドイツ巡洋戦艦
フォン・デア・タン、ザイドリッツ、デアフリンガー
巡洋艦
シュテティーン、ミュンヘン、
駆逐艦
G41、V44、G87、B98、G101、G102が沈没。
イギリス巡洋戦艦
インヴィンシブル、インドミタブル、インフレクシブル、
イギリス巡洋戦艦
ライオン、プリンセス・ロイヤル、クイーン・メリー、タイガー、
巡洋艦
カリオペ、コンスタンス、キャロライン
駆逐艦
ティペラリー、アカスター、アシャーテス、エンバスカード、
ハーディ、ミッジ、オフィリア、オウル)が沈没。
双方の残存艦隊は大破で帰還し、
その戦訓は、イギリスとドイツ両国に深刻な影響を与え、
新型戦艦を建造中の日本海軍にも影響を与えた。
イギリス海軍は、生き残った巡洋戦艦モルトケを沈没と変わらない、
と言い訳する。
それでも損失率7対4で敗色は拭えず、
ドイツ海軍は勝利宣言する。
ドイツは、イギリスの判断通りモルトケ解体が合理的だった。
しかし、戦意高揚の為、修理改装に決まる。
そして、イギリス海軍に、もう一つ訃報がもたらされた。
地中海で作戦中の
14685トン級戦艦イレジスティブル、
12950トン級戦艦オーシャンを相次いで機雷で失う、
その犯行が
トルコ海軍の380トン級機雷敷設艦ヌスレットによって、なされたものだった。
日本 首相官邸
「総理。イギリスは、参戦要請をしてこないようです」
「ドッカーバンク海戦は、イギリス海軍にとって大きい事でない、ということか」
「イギリスは、巡洋戦艦インディファティガブル、ニュージーランド」
「太平洋の巡洋戦艦オーストラリアの3隻で巡洋戦艦部隊を編成できます」
「しかし、ドイツの巡洋戦艦部隊は、現状ゼロです」
「なるほど、残るは戦艦同士の決戦だな」
「日本は、引き続き中国大陸とインドの利権を守って欲しいようです」
「ここで参戦すれば中国大陸の利権はアメリカ任せで完全に利権を失うか」
「さらに日本が予想以上に弱かった場合、アメリカの出方も怪しくなる」
「いまのところ、ドイツは、無制限潜水艦作戦を行っていません」
「アメリカ参戦を極度に嫌っているように思われます」
「中立国やイタリア経由で必要な資源を得られているドイツは思ったより余裕があるか」
「そのようです」
「実のところ、日本海軍は、どうだろうな」
「止めた方が良いとの事です」
「“大きな衝撃を受けると、バラバラになって沈没の恐れがあり”」
「だそうですから」
「どの程度の衝撃かね」
「日露戦争の損傷なら既に癒えているはずだが」
「運用上の不都合にあわせて、耐久年数や減価償却がありますから」
「ドイツの283mm砲弾なら数発で沈没です、運が悪ければ1発で・・・」
「装甲巡洋艦の210mm砲弾でも怪しいそうです」
「酷いな」
「さらに訓練不足の上に交戦距離は増大して、体当たりも不可能です」
「そうか潜水艦は?」
「それと、ドッカーバンク海戦は、飛行船の誘導があったな」
「潜水艦と飛行機は、将来的に有望になると思われます」
「・・・そちらに力を入れるか」
「では、次期海軍大綱は?」
「戦艦8隻とアイオン湾からカムチャッカ半島南端までの地下鉄」
「どっちが良いかね」
「無論、地下鉄です」
「まぁ〜 軍事的空白は作れないが、それでも手抜きをしたくなる」
「左様です」
「しかし、惜しいな」
「英独合わせて、巡洋戦艦10隻が海の底か、それだけの金があれば・・・・」
「地下鉄も、随分。伸ばせたはずですね」
「新型高速戦艦8隻、旧型高速戦艦8隻の海軍大綱は、難しいだろうな」
「日本の身の丈を超えていると考えて良いと思います」
「せめて、性能を落とすか、数を減らさないとな」
「新型高速戦艦6隻、旧型高速戦艦6隻に削減して」
「替わりに航空機と潜水艦の割合を増やすべきかと」
「んん、それでも多いくらいだが妥当な、線引きだろうな」
「ですが助かりましたね」
「戦争のおかげで税収が増えて」
「なんとか、戦艦建造を支障なく進められそうですから」
「流用がばれずに済んだな」
「ふっ」
「しかし、ドッカーバンク海戦の戦訓は入れなくても良いのか」
「そうですね」
「防御力の不足があるかもしれません」
「もう少し、検討できるかもしれませんね」
「しかし、あまり長く船台に載せて置くのも無駄だな」
「どうせ、海軍工廠ですから」
「まだ、南極開発用の砕氷艦の方が重要性が高いのだがな」
「世界中が欧州戦争に目が向いている今は、チャンスです」
「だが予算を振り分けるにも限度がある」
「やはり、北東シベリア開発を優先する方が良い」
「南極は、海軍向けのリップサービスだな」
執務室のドアが叩かれ、秘書が文書を手渡した。
「総理。南中国の孫文大統領が、今後の中国大陸について会談したいと」
「・・・南中国のことなら、いくらでも話しても良いがね」
「中国統一に関してなら、NOだな」
「欧州大戦で列強の威信が弱まれば、日本の助けを借り」
「中国の再統一をしたがっているようです」
「当然だろうな」
「しかし、日本は、中国が南北に分断している方が好都合だ」
「出来れば3つに分断して欲しいほどだな」
「北京の袁世凱大統領、広州の孫文大統領の他にですか」
「黄河を南北に分断はしないだろうか」
「袁世凱は、元々、列強の力を借りて中国民衆を抑えに入っていますから」
「黄河を列強に渡してでも保身を貫くはずです」
「列強も利権の安定のため袁世凱を支持していますし」
「・・・二つでも我慢できるよ」
「孫文からの書簡。どうされますか?」
「とりあえず。事務レベルでのすり合わせをしてからだろう」
「適当にお茶を濁して有耶無耶にしよう」
「北と南中国が対立していれば日本の安寧も少しは確保できるだろう」
ウラジオラード (ソウル)
町は、一見、発展しつつあったが戦争色が濃くなっていた。
東部戦線の敗北によって、満州・朝鮮から若い男子が次々に出兵していく。
そして、最初、弾除けで姿を消していくのが、
朝鮮人や漢民族、満州民族、回族だった。
100万の極東ロシア軍は、30万にまで減少。
そして、極東ロシア軍の作戦計画は、攻勢から守勢へと切り替わっていく。
唐津ミツオは、気配をなんとなく察していた。
若者が減少すれば、どんなに巨大な帝国も国家体制を支えられない。
日本もいずれ参戦させられるとしたら・・・
海から行くより、シベリア鉄道でユーラシア大陸を西進。
東部戦線から参戦が合理的といえる。
もっとも、日本陸軍将兵30万では役に立ちそうにない。
日露戦争が終結して7年が過ぎ。
予備役を引っ張り出せば、まだ現役でやれるだろうか。
しかし、日露戦争でも、拠点防衛か、隙を突いての拠点攻撃に終始。
日本軍は、まともな戦闘をしたことがない。
欧州大陸は、平地戦で正面からぶつかる戦闘が多く、
役に立つか疑問だった。
遊撃戦や陣地戦の教本こそあっても、
まともな訓練は日本陸軍もしていない。
それが悪いかどうか。
アメリカの軍隊も、1865年の南北戦争以来、まともな戦争を経験していない。
それに比べれば、少し有利といえる。
日本も、アメリカと同様に軍事費を減らし、
産業への設備投資を繰り返していた。
資本主義、自由民主主義でもない日本で、
急激な経済成長と発展があるのは、世界でも、稀な例だろうか。
それも良いことか、悪いことか。
ほとんどの産業で労働者が必要不可欠となり、
大規模な徴兵をされては困るという勢力ばかり。
当然、唐津ミツオも徴兵されると困る人種だった。
国家は、戦争も出来るだけの余力。
つまり貧民層や失業者が多い方が良いに決まっている。
しかし、それも限度がある。
日本の失業者は少なく、失業者を養える社会ではない。
もちろん、非生産の上に、さらに金のかかる軍人を大量に養える国力もない。
また国力を富ませ、生産力を増大させるため、
貧民層も有能な生産者でなければ困るのだった。
働き手を引き抜かれては困る。
さらに戦傷で帰還されると生活保障で、
人材、資材、予算が取られる。
これまた、困るのだ。
欧州戦線
日本の6.5mm38式歩兵銃は、携帯できる弾丸の多さで人気があった。
そして、揚子江のイギリス守備隊に払い下げている6.5mm38式小銃は10発込め。
不恰好でも、対中国民衆に有効だった。
数回の改良型を経て10連発になり、
日本陸軍も不恰好で敬遠されながらも、一部で採用される。
さらにロシア軍にも輸出されて好評らしい。
戦争が小銃のかっこ良さでなく。
“生き残る”
が優先するという例だろう。
第一次世界大戦、
緒戦、ロシア軍の動員の遅れが
西部戦線のドイツ軍の大勝に繋がり、
セーヌ川戦線の構築という結果を招く。
その後、ドイツ軍の半分が東部戦線へ転戦。
タンネンベルクの戦いでロシア軍を撃破し戦線を崩壊させる。
これらは、極東ロシア軍の規模が大き過ぎたという批判もある。
しかし、極東ロシアは欧州ロシアを上回るような潜在能力があり、
事の功罪。是非は、ともかく。
東部戦線のロシア軍は、崩壊し撤退していく。
そして、直接指揮を取るニコライ二世も
連敗がかさめば威信も威光も落ちていく。
トルコ参戦
カフカス侵攻は、一時的に成功したものの、
ロシア軍の反撃で、こう着状態となった。
そして、ドイツ軍は、セーヌ川防衛線で消耗戦を避けることに成功し、
余剰部隊を南部戦線、トルコ戦線へと派遣。
大攻勢を掛けられなくても
同盟全体の戦線は安定していた。
イギリス軍は、トルコ参戦に対し、ガリポリ半島上陸を意図した。
しかし、実質的に困難であるとされ、
ANZAC(アンザック)オーストラリア・ニュージーランド連合軍団33万人は、対トルコでなく、
西部戦線へ送られていく。
イギリス・フランス軍が失地回復のため突撃を繰り返し、
西部戦線で大損害を被っていた。
そして、トルコ軍50万は、カフカスを制圧し、
ロシア帝国への侵攻ルートを確保するに至った。
クレムリン宮殿は巨大な建物だった。
ロシア皇帝の家族
ニコライ二世45歳。アレクサンドラ皇后41歳。
アレクセイ皇太子7歳。
オリガ皇女20歳。タチアナ皇女18歳。
マリア皇女16歳。アナスタシア皇女14歳
庭園
そこに人が求める最上の地位と空間があった。
ニコライ二世、ミハイル大公(弟)、
リヴォフ公爵、ドミートリー大公(従弟)、長女オリガ。
表層面的には幸福な情景だった。
しかし、皇帝ニコライ二世は、地図を見て憂う。
戦意を保っているのは、貴族上がりの将校ばかり。
ロシア民衆の多くは戦意を低下させていた。
皇帝の威信も威光も地に落ちていた。
ロシア人は、ロシア皇帝を不信し、見限ろうとしていた。
ロシア帝国の貴族も崩れつつある帝国の貴族を捨てきれず、
しがみ付いていた。
「・・・オリガ。アナスタシアと一緒に日本へ行ってくれないか」
父であり、皇帝の命令だった。
「はい。目的は?」
「日本がロシア正教の寺院を造ったそうだ」
「例のバルチック8教会で、国際外交上の社交辞令のようなものだ」
「ロシアの皇族が見ておくものだろう」
「少し褒めてやれば、日本との関係も良くなるだろう」
「父上、日本との関係が、それほど重要なのですか?」
「ロシア正教の信徒もいるのだ、無碍に出来まい」
「それと極東ロシアは、今後、重要な地域になって大きく発展していくはずだ」
「これ以上、極東の兵を割く事が出来ない現状で、日本との交流は意義がある」
「はい、わかりました」
「ドミートリー大公(従弟)も一緒に送る。のんびり回ってくるが良い」
「はい」
ロシア帝国は、日露戦争を敗戦として認識していない。
満州・朝鮮半島とカムチャッカ・樺太・北東シベリアの交換比なら単純にプラスといえる。
もちろん、朝鮮も、満州も、日本の領土ではなく。
日本の腹が痛むわけでもなかった。
しかし、名目的にでも交換にしないと、ロシア帝国は格好がつかない。
ヨンヌ川攻防戦
イギリス・フランス軍は、120万の将兵を投入し、
ヨンヌ川を突破するために大攻勢をかけた。
しかし、ドイツ軍80万の塹壕や保塁。防衛線によって阻まれる。
アメリカ東海岸
マンハッタンのカフェテラス。
数人の男たちが盛り合わせられた牡蠣(カキ)を食べながら、
世界情勢について談笑していた。
「・・・ドイツ軍の損害は、少ないようだ」
「緒戦で30万を失って、60万が負傷しているだけだ」
「フランス軍は、100万を失って、負傷者230万」
「イギリス軍が40万失って、90万が負傷」
「ロシア軍は130万を失って、280万が負傷で、目を覆うばかりだ」
「この損失比は、大きすぎるな」
「緒戦でセーヌ川まで侵攻されたからだろう」
「中立国ベルギーに侵攻しやがって」
「ドイツは、全力で攻めたからな」
「兵力差で、あっという間だった」
「しかし、イギリス参戦は、痛かったがな」
「オーストリアとトルコは?」
「オーストリア軍は、60万を失って、130万が負傷」
「トルコが10万を失って、23万が負傷だったかな」
「オーストリア軍とトルコ軍も、今後は、ロシア向けに兵力を割くはずだ」
「欧州各国がバルカン半島の支配権るため、国の命運を賭けるとはね」
「バルカン半島に、そんな価値があったかな?」
「何か宝でも眠ってるのか?」
「まさか、欧州の人口が増え過ぎて人減らしじゃないだろうな」
「今後、ドイツ軍は、どこに向かうんだ」
「西部戦線?」
「東部戦線?」
「今のところ、同盟全体の戦線に分派されている」
「攻勢をかける気はないようだ」
「東部戦線は、進撃している」
「ロシア帝国が弱すぎるな」
「・・・・・」
「東部戦線のドイツ軍は進撃が緩い」
「ロシア軍の崩壊は、それほど酷くないと思う」
「進撃が緩いと武器弾薬の輸送も間に合う」
「それは、それで、かまわないのだろう」
「この戦争で、一番の負けは、フランスだな」
「パリの北半分がドイツに取られて、格好がつかんだろう」
「シャンゼリゼ通りは、どっちだったかな」
「好きな通りだったんだが」
「確か、セーヌ川の北側の凱旋門から東に向かう道だろう」
「ルーブル美術館も北側だった」
「エッフェル塔は、南側だったぞ」
「良かったな、エッフェル塔が、南側で」
「・・・・・・・」
「砲撃されて、上半分が圧し折れてなかったか」
「勿体無いな」
「そうでもないだろう」
「パリっ子はエッフェル塔反対運動をしていたから喜んでいるさ」
「本当に?」
「パリ万博の目玉だったんだが文化人と知識人は反対していたな」
「あはは」
「・・・・・・・」
「シテ島のノートルダム寺院は、フランス軍ががんばっていた」
「ああ、だが南に向かう橋も砲撃で破壊されて孤立しているらしい」
「補給するたびに被害がでているそうだ」
「なぜ、無防備都市宣言して、撤退しなかったんだ」
「文化的に惜しい建物が多かった」
「一応、美術品だけは、避難させたらしい」
「それでも町並み自体が、美術品だったな・・・」
「・・・・・・」
「クレマンソーが馬鹿だったからだろう」
「いや、ジョッフル将軍が間抜けだった」
「要塞も取り残されて自然消滅だからな・・・」
「んっ 落ちたんだっけ?」
「最近な」
「ところでアメリカは、どうするんだ」
「どうって?」
「参戦はしないのか?」
「欧州大戦で儲けて、中国市場で儲けているのに、なんで、血を流さなければならないんだ」
「危ないし、弾が当たったら痛いだろう」
「「「「・・・・・・」」」」
「そういえば、日本も、儲けているだろう」
「日英同盟があるのに何で、参戦しないんだ」
「・・・・・・・・」
「参戦しても良いと思うけど。まだ準備不足でね」
「もっとも工場の出荷が遅れても良いのなら動員するのも、やぶさかじゃないがね」
「工場ならアメリカの方が効率がいいから、日本は、参戦しても良いぞ」
「好きなだけ、欲しいだけ売ってやる」
「どっちに売るんだ」
「・・・買ってくれる方」
「借金してまで戦争したくないな」
「もう懲りたよ」
「まったくだ」
「何百万という若者が死んでいるんだぞ」
「この戦争に、そんな価値があるのかね」
「しかし、ドッカーバンク海戦のイギリス艦隊も酷かったな」
「封鎖作戦は良いとしても普通、機雷敷設は、戦艦と巡洋戦艦で相互支援するんじゃないのか」
「確かに巡洋戦艦で機雷敷設を支援させるのは、合理的とはいえないな」
「低速の戦艦に支援させていたら巡洋戦艦部隊の到達まで持ち堪えた」
「運が良ければ、返り討ちできただろう」
「あ、いや、その時は、たまたま、そういう組み合わせだったらしい」
「じゃ そこにたまたま、ドイツ飛行船がやってきて」
「ドイツ巡洋戦艦部隊を誘導したわけか」
「端的に言うと、そういう事らしい」
「不運だな。それも」
「しかし、巡洋戦艦の有用性は疑問が残るな」
「本当に巡洋戦艦は役に立つのか」
「役に立っただろう」
「ドイツ側はな」
「しかし、ドイツも巡洋戦艦を外洋に出していたら良かったんじゃないのか」
「装甲巡洋艦よりも役に立つ」
「巡洋戦艦の補給や維持管理だと」
「ドイツ植民地は力不足だろう。装甲巡洋艦が限界だよ」
「そういえばゲーベンはトルコ参戦に貢献したことを思えば意外と有用だな」
「いっそ、逃げ回っている太平洋の装甲巡洋艦を日本に回航させて、引き渡したらどうだ」
「まさか、装甲巡洋艦を貰ったぐらいで、参戦しないだろう」
「戦艦を建造中だから、いらんよ」
「戦艦といえば、日本の新型戦艦は、高速戦艦だそうじゃないか」
「クイーン・エリザベス型の模倣か」
「いや、クイーン・エリザベス型は、381mm連装砲4基」
「扶桑型は、356mm連装砲4基で模倣とは言えないよ」
「むしろ、デアフリンガー型巡洋戦艦の拡大改良型に近いのでは?」
「雰囲気としては、そうかもしれないが・・・・」
「なかなか、建造にいたらなくてね」
「南極大陸を占領しようとするからだろう」
「・・・・・・」
「いや、北東シベリア開発が足を引っ張っているんじゃないのか」
「・・・・・・」
「だいたい、何で海底トンネルなんか掘っているんだ」
「島がいくつも連なって国が構成されているからだろう」
「好きで、やっているわけじゃない」
「しかし、日本は満州・朝鮮半島をロシアにやったままで弱兵のままとはな」
「意外と日本人も豪胆というか、危機管理がない国だな」
「いや、元々、半島は、日本の領土ではないし・・・・」
「ロシアが軍艦を建造する暇がないのが救いだな」
「いや、逆転していたはずだぞ」
「ド級戦艦だとガングート型4隻」
「インペラトリーツァ・マリーヤ型2隻の6隻」
「前ド級戦艦スウィアトイ・エフスタフィ型2隻」
「インペラトール・パベル1世型2隻の4隻」
「日本は海峡砲台がなければ勝てないはずだ」
「確か、太平洋側に配備されていなかったな」
「バルト海と白海。黒海に配備されていたはずだ」
「どの道、ドイツ戦艦部隊には勝てんよ」
「ロシアはガングート型4隻を日本に売って武器弾薬を購入して、東部戦線で使ったらどうだ」
「既に日本に借金して武器弾薬を購入している」
「足りないんじゃないのか」
「そういえば、ロシア軍は、東部戦線で後退していたな」
「・・・・・・・」
「戦略的後退だろう」
「後退して、ドイツの補給線を延ばすだけ伸ばして」
「攻勢の限界を超えたところで叩く」
「戦略の初歩だ。戦術教本にも載ってる」
「しかし、失地回復のため遮二無二攻めるフランスはともかく」
「タンネンベルク戦から、まともに戦わず、撤退しているロシアの死傷者の数、多過ぎないか」
「死傷者を水増ししてないだろうな」
「というより、戦争を少数民族減らしに利用しているだろう」
「満州と朝鮮半島から黄色人が消えているという噂じゃないか」
「敵国の弾薬を使って国内の不良民族を虐殺するのは、ハーグ平和条約違反だろう」
数人が苦笑いする。
ニコライ二世に対する嫌味で、
そんな構文はなかった。
北中国 重慶
列強の2000トン級艦船が揚子江を行き来していく。
ここで幅を利かせているのが非交戦国の日本、アメリカ。
そして、イタリア、オランダ、スペイン、ポルトガル、スウェーデン。
欧州戦争が始まって中国の利権に食い込んだ欧州諸国も少なくない。
欧米列強の警察能力は、中国民衆の反発を抑えるほど強く。
中国民衆を統制できるほど強くなかった。
北中国、南中国に分割されても
漢民族の強さは本物で不完全な半植民地に近い。
中国最西の重慶は、揚子江の両岸の要地が租界地として要塞化。
中国内陸に対する欧米諸国最大の拠点だった。
さらに揚子江の中州も要塞化。
欧米列強が国の威信を見せ付けるような西洋風建築物が並ぶ。
そして、欧米列強が要衝で同居し、
利権の大きさから交戦不能という状態になっていた。
人口、資源など、潜在能力だけならアメリカ合衆国に匹敵していた。
中国が揚子江を奪い返せば、第一級の大国に回復できる見込みもある。
工業地帯が拡張建設されるにつれ、
揚子江の価値は日増しに高くなり、
油断できない状態になっていく。
南京の停泊地
イギリス河川砲艦。
12500トン級 元ロシア戦艦ペレスウェート、オスラビア。
ドイツの河川砲艦
12500トン級 元ロシア戦艦ポビエダ、
アメリカの河川砲艦
11000トン級 元ロシア戦艦ペトロパブロフスク、ポルタワ、セヴアストーポリ、
の6隻が停泊している。
交戦国の艦船は、大砲に蓋をされ、
日米の監視員が乗っていた。
一発でも撃てば中立違反で国際的な信用は、がた落ち。
どうなるかわからない状況だった。
イギリス河川砲艦 ペレスウェート艦橋
「艦長。一発で良いですから、ドイツのポビエダに向けて撃ちたいですね」
「そうだな・・・・」
「「・・・・・」」
「しかし、中国大陸で最大の収入を上げている手前。そうも行きませんか」
「そうだな」
「「・・・・・」」
「本国に戻って戦いたいです」
「わたしもだ」
「アメリカが揚子江から大官湖に向けて運河を掘りたがっているようです」
「3つの大型湖が連なっているからな」
「当然、租界地も増やせる」
「どちらかというと、ダムを建設するか」
「重慶までの河川を浚渫(しんせつ)して」
「もっと大型船を通したいですね」
「この中国市場の利権に目が眩んでイギリスの戦争遂行を困難にしている」
「日本を参戦させれば、もう少しマシに戦えるのだ」
「日本の改装戦艦は日露戦争時代のものですよ」
「だいたい、耐久年数や減価償却を考えれば」
「そんな旧式戦艦に新型砲や新型機関を載せても無駄になるのでは?」
「さあな、実験的な要素の強い大砲や機関ならありだろう」
「アームストロング砲とクルップ砲の良い所取りなど、やっているところは少ない」
「それでは、まるで実験艦隊を配備しているようなものでは?」
「そういう事だろうな」
「アメリカがパナマ運河を開通させて一番弱っているのが日本だな」
「日本海軍や日本陸軍は、本当に頼りになると思いで?」
「いや、弾除けには使えるだろう」
「・・・弾除けが来ますよ」
日本人とアメリカ人が大砲が使用されていないか
確認しながら艦橋に向かって歩いてくる。
日本人も、アメリカ人も、近代戦を経験していない点で同レベルだった。
日露戦争など欧州大戦の戦場に比べれば、規模ではるかに劣る。
平野戦で戦訓を求めるなら
プロイセン・フランス戦争、アメリカ南北戦争、クリミア戦争まで遡らないとない。
「日本が中立国でなくなれば、アメリカが揚子江の管理人になってしまいますね」
「それだけは不味い」
「揚子江に投資した。資産を失うのは惜しい」
「中国は回収率が良かったですから、つい、投資したんですよね」
「インドも、そうだがな」
ドイツ河川砲艦 ポビエダ 艦橋
主砲は、陸地に向けられていた、
艦長と副長は、対岸のイギリス河川砲艦ペレスウェート、オスラビアを双眼鏡で睨んでいる。
「・・・艦長、本国の戦況は悪くないようです」
「悪くないだけだろう」
「しかし、モルトケは、実質的に駄目だろう」
「ドイツ巡洋戦艦は、全滅だ」
「あとは、戦艦同士の決戦になりますね」
「そっちも、分が悪いな」
「ええ」
「日本の工作船は、まだか?」
「明日には到着するようです」
「日本に修復を頼むことになるとはな」
「中立地帯は、なんでもありですね」
「爆弾を仕掛けられないように監視しといてくれ」
「まさか」
「中国大陸の利権の大きさからすれば、ここで戦争を始める」
「というのは、ないが、一応な」
「しかし、海軍同士で決着が付けば、ここも・・・」
「戦争が終われば揚子江のドイツ利権は失われるな」
「それどころか海外の植民地は全て失うだろう」
「残念です」
「そうでもなかろう」
「今の戦線を維持できれば高く売りつけることは出来る」
「フランスは、そのままオルレアンを首都にするかも知れませんね」
「ふっ オルレアンならイギリスと仲違いして良いがね」
「しかし、プロイセン・フランス戦争の様には行きませんね」
「あの時は、オルレアンも占領したそうですから」
「ナポレオン3世の時代か」
「あの時は、1対1だったからな。皇帝も捕虜に出来た」
「今回は苦戦ですね」
「そうだな」
「しかし、むかしのような、牧歌的な戦争ではなくなってきている」
「確かに冷たいですね」
「皇帝同士の戦争は自らの権威を落とさない為、相手の権威に対しても敬意を払う」
「牧歌的で表面的な側面もある」
「威厳が貶められると辛いですからね」
「しかし、民主主義同士の戦争は、違う・・・」
「総力戦だよ。国家の根幹すら破壊しかねない」
「・・・恐ろしい時代です」
「イギリス海軍が巡洋戦艦3隻を外洋に出しているのは、どこまで本当だろうか」
「インディファティガブル、ニュージーランド、オーストラリアは、確実だそうです」
「装甲巡洋艦7隻を退治させるため」
「前ド級戦艦3隻、巡洋戦艦3隻、装甲巡洋艦12隻なら、費用対効果で悪くないですね」
「悪くないどころか、大儲けだろう」
「要塞に引っ籠もれば何もできんさ」
「日本やアメリカから補給が受けられるのは助かりますね」
「日本の南極向けの物資の一部が洋上補給で手に入るのは助かる」
「日本の南極大陸への投資。どこまで本気なのでしょうか」
「わからんが本気なら北東シベリアの20倍の投資が必要だろうな」
「それでも輸送航路は不安定だろうが」
「ええ、今のところ欧州戦争で、オーストラリアも気前が良いようです」
「しかし、戦争が終われば、態度が変わるはずです」
「それに南極だと、アルゼンチンやチリも黙っていないはず」
「しかし、日英同盟が継続するのなら」
「互いに植民地を支援するという協定は成り立つ」
「日本の参戦は、本当にないのでしょうか」
「さあな」
「イギリスが中国大陸の管理をアメリカに任せても良いというのなら」
「日本に参戦を要求する」
「そして、日本が参戦しても戦果があるのか不安だな」
「せめて、高速戦艦8隻が建造されていれば参戦要求もあっただろう」
「イギリスは、アメリカを参戦に引っ張り込みたいのさ」
「でしょうね」
キール軍港。
大破して沈みかけたモルトケが帰還。
最大の利益は、戦訓を取り入れ、
他の艦艇の不沈性を増すことが出来た。
ドッカーバンク海戦では、高速の巡洋戦艦でさえ、水中発射魚雷が使えず。
有用性が疑問視されて廃止。
防御力を増すための処置がされていく。
「魚雷は、Uボートに持って行くのか」
「はい、艦長。そのはずです」
「なくなったら、なくなったで、寂しいな」
「戦艦で雷撃するほど敵艦に近付くことはないでしょう」
「そうだろうな。少なくとも誘爆を恐れずに済む」
朝鮮半島南岸
高興半島
日本軍は、対峙するロシア・朝鮮の国境線を監視していた。
しかし、安穏とした空気が漂う。
「保坂少尉。今度、ロシア皇帝の皇女が来られるそうですよ」
「新城軍曹か・・・」
「相変わらず。早耳だな」
「噂の的中率は、怪しいですがね」
「7割当たれば悪くないさ・・・」
「どうりでロシア側がのんびりしていると思ったよ」
「欧州戦争が始まってから、向こう側の空気が違いますからね」
「対日戦は、どこへやらか」
「一時は、朝鮮人の言うことを真に受けて、第2次日露戦争の場合もあったからな」
「ロシア海軍の増強の時は、冷や冷やしましたからね」
「だいたい。朝鮮人は、日本を陥れようとする度に不幸になっていることに気付かないらしい」
「いまでは東部戦線で弾除けに使われているそうですよ」
「欧州戦争がなければ半島南岸要塞を相手に、もう一度、弾除けだったかもな」
「あはは・・・」
「どの道、この要塞砲ならロシア戦艦も近付けまい」
「朝鮮人は、欧州戦争でも、第2次日露戦争でも、弾除けに使われるのは、同じ」
「いい加減に懲りれば良いのに・・・・」
「どっちがですか、朝鮮人? ロシア人?」
「どっちもだ。軍事費が削減されているのに攻めて来られたら迷惑だ」
「本当に軍事費が削減されているんですか?」
「日本は、新型戦艦8隻を建造しているそうじゃないですか」
「前倒しじゃなくて、後回しされてようやく建造だからな」
「俺だって戦艦を建造してもらうより」
「高興半島と麗水半島の連結トンネルを建設して欲しいよ」
「そういえば、完島、高興、麗水、南海島、巨済島を海底トンネルで連結するんでしたね」
「まったく、経済効率とかわけのわからない御託を述べて、後回しにしやがって」
「遊兵を作らないのは、戦略の基本だろう」
「確かに南岸要塞が地下鉄で連結されれば防衛も容易ですね」
「ったく。金がないの問題じゃないだろう」
「半島南岸は、軍人ばかりですからね」
「本土に理解されていないのでは?」
「かも知れなんな」
呉海軍工廠
4つのドックに4隻の戦艦が建造されていた。
そして、横須賀の海軍工廠でも
4隻の戦艦が建造されているはずだった。
一度に建造した方が割安というのは、ある正しかった。
しかし、同型艦8隻、同時建造は、世界でも稀だった。
「随分大きいな」
「世界最大最強の戦艦のはずだ」
「356mm連装4基で最強なのか」
「イギリスのクイーン・エリザベス型5隻」
「リベンジ型5隻は、381mm連装4基だろう」
「大砲だけで決まるものじゃないさ」
「50口径356mm砲で長砲身。さらに発射速度」
「そして、艦体の防御力と作戦能力を含めた総合力で最強だよ」
「それにドッカーバンクの戦訓も取り入れている」
「しかし、列強は、いずれ、400mm砲を装備するようになるぞ」
「そうだろうな。それでも当面は、これでいけるさ」
「自信過剰だな」
「少なくとも既存の戦艦と次元が違う」
「だと良いがね」
「少なくとも、まともに訓練していない日本海軍でも」
「何とか使える程度には、優秀だよ」
「出来れば、補助艦艇も、まともに揃えたいものだ」
「そうだな」
イギリス 11000トン級前ド級戦艦スイフトシュアー、トライアンフ、(254mm連装2基)
そして、軽巡2隻は、ポナペ島沖合いに遊弋。
「艦長。現在、距離16000mです」
「要塞砲は、撃ってこないな」
「やはり、15000mで撃ってくるようです」
「命数と砲弾をケチりやがって」
「要塞に砲身の換えは、ないということでしょうね」
「だろうな、この距離だと運が悪ければ当たる」
「15000mだと、運が良くなければ、当たるな」
「微妙ですね」
「ほかの要塞砲も似たような傾向だそうです」
「こっちから撃てば撃ち返すだろうか」
「前回は、それで、戦艦アルベマール、モンターギュが中破しましたよ」
「はぁ〜 少し離れるか」
「対策が立てようがないが、やはり、機雷の敷設か、潜水艦の配備だろうな」
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アイルランド独立の志士・マイケル・コリンズ
情熱と波乱に満ち溢れた半生を描いた傑作
第23話 1915年 『第一次世界大戦 2』 |
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