月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

 

 

第24話 1916年 『第一次世界大戦3』

 ドイツ植民地艦隊は、備蓄が減り、

 補給も減少していくと作戦能力が低下し、

 次第に要塞に引き篭もるようになっていく。

 イギリス海軍第2巡洋戦艦戦隊

   ニュー・ジーランド、インディファティガブル、オーストラリア、

 パケナム少将の艦隊は、ドイツ植民地艦隊狩りに投入される。

 

 南西アフリカ リューデリッツ沖

 ドイツ装甲巡洋艦プリンツ・アダルベルト、フリードリヒ・カール1世が、

 イギリス巡洋艦隊に捕捉され、

 要塞砲の射程内に逃げ込む前に撃沈される。

 

 その後、東アフリカ沖で、

 イギリス潜水艦の雷撃によってローンが撃沈。

 雷跡を避けようとしたヨルクも一時、座礁させられる。

  

 01/29 ツェッペリンがロンドンを空爆

 

 東部戦線

 ドイツ・オーストリア・ブルガリア・トルコ連合軍の攻勢でロシア軍が後退していた。

 ロシア貴族を除くとロシア軍は兵数が多いのに総じて戦意が低く、

 脅威と言えなかった。

 時折、朝鮮人部隊が叫び恐慌状態で突撃してくる。

 「民兵か・・寒そうだな」

 「止めを刺さないとかわいそうに思えてきた」

 「まぁ 取り敢えず撃て!」

 ドイツ軍が機銃掃射をすると、朝鮮人は、逃げまどい逆行する。

 そうするとロシア軍側からも機銃掃射される。

 結局、火線の弱い方に雪崩れ込み、敵と味方に殲滅されていく。

 ドイツ軍陣地

 「無理でも突撃かませて突破できれば、生き残る道もあるだろうに・・・」

 「なぜに戦場に送りこませたんだ」

 「あれじゃ 敵からも味方からも殲滅させられるだけだ」

 「朝鮮人は、たしか・・・」

 「1906年くらいにロシアに占領されたんだっけ」

 「愛国心がない民族を戦場に出すからだ」

 「いや、事大主義で体制に媚びて、恨みを平気で買えるから」

 「ロシア貴族に良いように使われていると聞いたぞ」

 「な、なんか酷いなそれ、マフィアじゃないか」

 「青島租借地も重宝して使った事があるらしい」

 「鞭を持たせれば、漢民族を締め上げてくれるから助かったんだと」

 「危ないやつらだな」

 「なんか、無償に狙い撃ちたくなった」

 

 

 西部戦線

 パリ回復のための戦力の動員が始まろうとしていた。

 とはいえ、ドイツ軍のシュリーフェン・プランが半端成功し、

 セーヌ河戦線が構築されていた。

 当然、川幅の狭く渡河しやすい上流が注目され、

 英仏軍は、対岸のドイツ軍陣地に砲弾を撃ち込んでいく、

 火炎が巻き上がり、爆煙が対岸を包み込んでいく、

 イギリス軍とフランス軍は、渡河の機会を窺う。

 仮に渡河を成功させたとしても、

 背水の陣となって全軍が危機に晒される。

 そいて、英仏軍は、何度か、渡河を試み、

 現実に渡河作戦の辛酸を舐めていたのだった。

 セーヌ川が赤く染まり、

 死臭を漂わせフランスとイギリス軍将兵が流れていく。

 英仏軍が遮二無二に無理な攻勢をかけるのも、

 それらしい理由があった。

 セーヌ川の北方には、

 いくつかのフランス要塞が包囲されたまま、取り残されていた。

 

 その一つ、ヴェルダン要塞都市は、

 フランス軍3万が立て篭もっていた。

 時折、ドイツ軍の砲弾が撃ち込まれ、

 都市の家屋が粉砕される。

 ドイツ軍の攻撃は、それだけであり、

 フランス軍の備蓄食糧が無くなるまで持久戦の構えだった。

 「このままでは、食糧がなくなるな」

 「取り残されてしまいましたね」

 「3万の将兵で5万のドイツ軍将兵を足止めさせているのなら悪くはないがね」

 「セーヌ川が戦線にされなければ」

 「ここが主戦場になったかもしれないが・・・」

 「突撃して各個撃破したくなりますね」

 「ヴェルダン要塞から飛び出せばドイツ軍の思う坪だ」

 「翻弄されながら殲滅させられるよ」

 「もう少し、米仏軍が近付いてくれればいいのですが・・・」

 

  

 05/05 米海兵隊がドミニカ共和国に侵攻

 

 05/16 英仏間でサイクス・ピコ協定を密約(オスマン帝国領分割)

 

 

 イギリスとドイツの戦艦部隊が動き始めていた。

 発端は、イギリス海軍の大規模な封鎖作戦であり、

 対するドイツ戦艦部隊の反撃だった。

 このドイツ海軍の反撃は、イギリス海軍に想定されていたことであり、

 ユトランド沖海戦 (スカゲラック海戦) は、

 独英海軍の死力を尽くした海戦となった。

 イギリス艦隊、

  戦艦28隻、装甲巡洋艦8隻、軽巡洋艦17隻、駆逐艦70隻、水上機母艦1隻

 

 ドイツ艦隊、

  戦艦16隻、巡洋戦艦2隻、前ド級戦艦5隻、軽巡洋艦9隻、駆逐艦56隻、飛行船3隻

 

 イギリス艦隊は圧倒的に優勢だった、

 しかし、ドイツ艦隊も飛行船の支援を受けていた。

  

ユトランド沖海戦(スカゲラック海戦)  05/31〜06/01

イギリス海軍(ジョン・ジェリコー大将)

ドイツ海軍 (シェア中将)

第一戦艦戦隊

フリードリヒ・デア・グロッゼ 305mm連装×5

25000

第3戦艦隊(ダフ少将)

第5戦艦隊(ベーンケ少将)
アイアン・デューク 343mm連装×5 25000 ケーニヒ 305mm連装×5 25000
スパーブ 305mm連装×5 18000 グロッサー・クルフュルスト 305mm連装×5 25000
ロイヤル・オーク 381mm連装×4 28000 マルクグラフ 305mm連装×5 25000
カナダ 356mm連装×5 28000 クロンプリンツ 305mm連装×5 25000

第4戦艦隊(スターディ中将)

第6戦艦隊(ノルトマン少将)
ベンボウ 343mm連装×5 25000 カイザー 305mm連装×5 25000
ベレロフォン 305mm連装×5 18000 プリンツ・レゲント・ルイトポルト 305mm連装×5 25000
テメレーア 305mm連装×5 18000 カイザリン 305mm連装×5 25000
ヴァンガード 305mm連装×5 19000 第1戦艦隊(シュミット少将)

第6戦艦隊(バーニー中将)

オストフリースラント 305mm連装×6 22000
マールバラ 343mm連装×5 25000 チューリンゲン 305mm連装×6 22000
リヴェンジ 381mm連装×4 28000 ヘルゴラント 305mm連装×6 22000
ハーキュリーズ 305mm連装×5 20000 オルデンブルク 305mm連装×6 22000
エジンコート 305mm連装×7 27000 第2戦艦隊(エンゲルハルト少将)

第5戦艦隊(ゴーント少将)

ポーゼン 283mm連装×6 18000
コロッサス 305mm連装×5 20000 ラインラント 283mm連装×6 18000
コリングウッド 305mm連装×5 19000 ナッソウ 283mm連装×6 18000
ネプチューン 305mm連装×5 19000 ヴェストファーレン 283mm連装×6 18000
セント・ヴィンセント 305mm連装×5 19000
前ド級戦艦部隊

第2戦艦戦隊(ジェラム中将)

第2戦隊(モーフェ少将)
第1戦艦隊(ジェラム中将) 第3戦艦隊(モーフェ少将)
キング・ジョージ5世 343mm連装×5 23000 ドイチュラント
エージャクス 343mm連装×5 23000 ポンメルン
センチュリオン 343mm連装×5 23000 シュレジェン
エリン 343mm連装×5 22000 第4戦艦隊(フォン・ダルヴィヒ・ツー・リヒテンフェルス少将)
第2戦艦隊(リヴェソン少将) ハノーファー
オライオン 343mm連装×5 22000 シュレスヴィヒ・ホルシュタイン
モナーク 343mm連装×5 22000
コンカラー 343mm連装×5 22000
サンダラー 343mm連装×5 22000 軽巡洋艦 (ロストク)(ミヒェルゼン代将)
第1水雷戦隊(先任指揮官 アルブレヒト少佐)
駆逐艦 (G39、G40、G38、S32)
第1装甲巡洋艦戦隊(アーバスノット少将) 第3水雷戦隊(先任指揮官 ホルマン中佐)
ディフェンス、ウォリアー、デューク・オブ・エジンバラ、ブラック・プリンス 駆逐艦 (S53、V71、V73、G88、S54、V48、G42)
第2装甲巡洋艦戦隊(ヒース少将) 第5水雷戦隊(先任指揮官 ハイネッケ中佐)
マイノーター、ハンプシャー、コクラン、シャノン 駆逐艦 (G11、V2、V4、V6、V1、V3、G8、G7、V5、G9、G10)
第7水雷戦隊(先任指揮官 フォン・コッホ中佐)
第4軽巡洋艦戦隊(ル=ムシュリエ代将) 駆逐艦 (S24、S15、S17、S20、S16、S18、S19、S23、V186、V189)
軽巡洋艦 (ロイヤリスト、コウムス)
巡洋戦艦
第4水雷戦隊(ウィンツアー大佐) リュッツオウ 305mm連装×4 26000
アルデント、ブロック、クリストファー、コンテスト、フォーチュン、ガーランド モルトケ 283mm連装×5 22000
ポーパス、シャーク、スパローホーク、スピットファイア、ユニティ
第2偵察群(ベディッカー少将)
第11水雷戦隊(ホークスリー代将) 軽巡洋艦 (フランクフルト、ヴィースバーデン、ピラウ、エルビング)
軽巡洋艦 (カストール) 第4偵察群(フォン・ロイター代将)
ケンペンフェルト、マジック、マンデート、マナーズ、マルヌ、マーシャル、ミッチェル 軽巡洋艦 (ハンブルグ、フラウエンロープ、シュトゥットガルト)
ミルブロック、ミニオン、モンス、ムーン、モーニングスター、マウンジー、ミスティック、オソリー
軽巡洋艦 レーゲンスブルグ (パウル・ハインリヒ代将)
第12水雷戦隊(スターリング大佐) 第2水雷戦隊(先任指揮官 シュール大佐)
駆逐艦(フォークナー、メナード、マークスマン、マルヴェル、マリーローゼ、メナス、マインドフル、ミスチーフ) B112、B97、B109、B110、B111、G103、G104
駆逐艦 (ミュンスター、ノーファル、ネッソス、ノーブル、ノンサッチ、オビーディエント、オンスロート、オパール) 第6水雷戦隊(先任指揮官 シュルツ中佐)
G86、V69、V45、V46、S50、G37
第5戦艦戦隊(エヴァン・トマス少将) 第9水雷戦隊(先任指揮官 ゲーレ中佐)
バーラム 381mm連装×4 29000 V28、V27、V26、S36、S51、S52、V30、S34、S33、V29、S35
ウォースパイト 381mm連装×4 29000
ヴァリアント 381mm連装×4 29000 飛行船12隻
マレーヤ 381mm連装×4 29000
第1軽巡洋艦戦隊(アレグザンダー・シンクレア代将)
軽巡洋艦(ガラティア、フェートン、インコンスタント、コーデリア)
第2軽巡洋艦戦隊(グッドイナフ代将)
軽巡洋艦 (サザンプトン、バーミンガム、ノッティンガム、ダブリン)
第3軽巡洋艦戦隊(ネーピア少将)
軽巡洋艦(ファルマス、ヤーマス、バーケンヘッド、グロスター)
第1水雷戦隊(ローパー大佐)
軽巡洋艦 (フィアレス)
駆逐艦 (アケロン、アリエル、アタック、バジャー、ディフェンダ、ゴーシャーク、ハイドラ、ラップウィング、リザード)
第13水雷戦隊(フェアリ大佐)
軽巡洋艦 (チャンピオン)
駆逐艦(モレスヴィー、ナーボロー、ネリッサ、ネスター、ニカトール、ノーマッド、オブデュレート、オンスロー、ペリカン、ペタード)
第9及び第10合同水雷戦隊(ゴールドスミス代将)
駆逐艦  (リディアード、ランドレイル、ローエル、リバティ、ムーアサム、モリス、テーマガント、タービュレント)
水上機母艦 (エンガディーン)

 

 モルトケ艦橋

 「副長。機関の調子は?」

 「あまり良くありませんね」

 「こんな、ボロ艦を引っ張り出さなくても良かろう」

 「あちら、こちら、ガタがきています」

 「砲弾が当たれば、バラバラになって沈みかねませんね」

 「リュッツオウが、どこまでやれるかだろうな」

 「期待したいですね」

 「この海戦で、イギリス本国艦隊に大打撃を与えてもいいだろう」

 「それでイギリスが退きますか?」

 「海軍戦略は、イギリスとドイツの交戦国だけにとどまらない」

 「もっと視点を高く視野を広げなければな」

 「国際情勢を考慮すべきだ」

 「イギリスがアメリカの動向が気になって戦争終結になれば良い」

 「確かに海軍戦略のバランスが狂えば・・・」

 「ふっ イギリスも、これ以上の戦費負担には耐えられまい」

 「人的喪失で連合軍は圧倒的に負けていますね」

 「そして、ドイツは、内陸国であり、元々、海軍に頼る比重は小さい」

 「では、海戦に勝っても・・・」

 

 

 ユトランド海戦、

 イギリスの大規模封鎖作戦に対し、

 ドイツ側の反攻作戦という形で始まる。

 しかし、実態は違った。

 ドイツ戦艦部隊の目的は、封鎖艦隊への攻撃ではなく・・・

 ベディッカー少将、フォン・ロイター代将貴下。

 第二次通商破壊作戦のための陽動だった。

 巡洋戦艦(リュッツオウ)、

 軽巡洋艦6隻

  グラウデンツ級巡洋艦 2隻(1914年)

   4900トン、全長142.2×13.7×5.79、26000馬力、27.5ノット

   150mm×7、88mm×2、魚雷×2、機雷120、

   グラウデンツ、レーゲンスブルク

 

 ヴィースバーデン級巡洋艦 2隻(1915年)

   5180トン、全長145.3×全幅13.9×6.06、31000馬力、27.5ノット、

   150mm×8、88mm×2、魚雷×4、機雷120、

   ヴィースバーデン 、フランクフルト 、

 

 ブルマー型 2隻 (1915年)

   4385トン、全長140×全幅13.2×6、33000馬力、28ノット、

   150mm×4、88×2、魚雷×2、機雷400、

   ブルマー、ブレムセ

 輸送船10隻

  

 巡洋戦艦 リュッツオウと軽巡7隻の艦隊が

 ドイツ北部の沿岸を縫うように進み始めた時。

 イギリス艦隊は、その事に気付いた。

 T字戦で待ち受ける体制から、

 巡洋戦艦と水雷戦隊を通商破壊艦隊へと突撃させていく。

 それは、T字戦で待ち構えようとしていた戦況から、

 逆にドイツ戦艦部隊のT字戦に自ら飛び込む結果になった。

 ドイツ戦艦部隊は第二次通商破壊艦隊を逃亡させようと迎え撃って砲撃を開始する。

 英独巡洋艦と水雷戦隊が互いに相手の妨害のため、

 果敢に突撃を繰り返した。

 そして、ドイツ北部の沿岸から出撃してくる飛行船の群れが

 イギリス艦隊上空に押し迫る。

  

 アイアン・デューク艦橋

 「ジェリコー大将。飛行船です・・・・11隻・・・12隻・・・」

 「・・・大丈夫だ」

 「風に流されていて、爆撃コースに乗っていない・・・」

 「・・・・・・・」

 「いったん、風下側に回頭し、直前に回避しよう」

 「それでは、不利な体勢でドイツ戦艦部隊とぶつかるのでは?」

 「構わん、半包囲しつつ押し包め」

 「各隊に通達、風に狂わされる飛行船に恐れずに作戦を続行!」

 「ですが、上手くやられましたね」

 「巡洋戦艦を通商破壊に出撃させる作戦だったとは」

 「リュッツオウを追撃できる巡洋戦艦は存在しない」

 「ここで逃がすわけには行かないな」

 「第2巡洋戦艦部隊を回航させなければ捕捉出来ませんね」

 「いや、第2巡洋戦艦部隊は25ノット」

 「リュッツオウは27ノットだ。追撃は難しいな」

 「このまま、南西アフリカの要塞軍港に入られたら・・・」

 「前ド級戦艦4隻で封鎖している」

 「しかし、リュッツオウが相手だと取り逃がしてしまうだろうな」

 「不味いですね」

 「どうせ植民地だ」

 「装甲巡洋艦の整備すら困難なはず」

 「巡洋戦艦は持て余すだろう」

 「では?」

 「それでも許すわけには、いかんな」

 「ボーナスを減らされる」

 「・・・・」

 飛行船の爆撃は、風の影響でコースを離れ、

 艦隊の近くに水柱を挙げるだけだった。

 それでも、通信の不備からイギリス艦隊の隊形が乱れていく。

 そして、人類史上、世界最大の海戦が始まる。

 ドイツ戦艦部隊の砲弾がイギリス艦隊の頭上に降り注ぐ。

 イギリス戦艦の主砲より小口径でありながら

 発射速度と命中率で優勢。

 さらにT字戦で、砲数が倍。

 第5戦艦戦隊(エヴァン・トマス少将)の

  戦艦 (バーラム、ウォースパイト、ヴァリアント、マレーヤ)は、381mm砲弾。

 先に長距離砲撃が出来たが簡単に命中するものではい。

 アイアン・デュークに命中する283mm砲弾。

 艦隊の周囲に砲弾が降り注ぎ、

 水柱が吹き上がり瀑布となって艦に降り注ぐ。

 至近弾の衝撃で艦体を震わせ軋ませる。

 命中すれば、何かに捕まっていなければ、

 体ごと壁か床に叩きつけられた。

 艦隊乗員は配置された場所で全力を尽くし、

 指揮官の有能さと自らの幸運に期待する。

 あまりの気持ち悪さで、吐く水兵も出てくる。

  

 ドイツ戦艦部隊。

 戦艦フリードリヒ・デア・グロッゼ

 艦橋 シェア中将

 「バイエルンとバーデンが間に合っていたら・・・・」

 「ちっ! だから、モルトケなど後回しにしろといったんだ」

 艦橋のシェア中将が戦況を見て文句タラタラで呟く。

 「今のところ悪くありませんね」

 「良くはない・・・」

 「確かに」

 「第5戦艦隊、ベーンケ少将にイギリスの新型戦艦部隊に集中するように連絡しろ」

 「出来立ての素人だ」

 「被害が出ればボロを出す」

 「了解しました」

 「ったく。飛行船は、全然、駄目だな」

 「当たらないじゃないか」

 「天候が良くないようで流されてますね」

 「それに艦隊が舵を切ると、間に合わないようです」

 「気休めにしかならないが」

 「それでも隊形だけは、少し壊してくれたな」

 「そうですね」

 「飛行船など偵察だけで最初から、あまり当てにしていなかったよ」

 ドイツ戦艦4隻

    ケーニヒ、グロッサー・クルフュルスト、マルクグラフ、クロンプリンツは、

 イギリス第5戦艦戦隊(エヴァン・トマス少将)

    バーラム、ウォースパイト、ヴァリアント、マレーヤに砲撃を集中する。

 T字戦で砲数、発射速度で勝るドイツ戦艦部隊も、

 イギリス戦艦の381mm砲弾が命中すると、

 ひとたまりもないが実情だった。

 ケーニヒ型の305mm砲弾がバーラム型に命中し、

 衝撃が艦体を襲い、揺さぶり、軋みを上げさせ、

 紅蓮の炎と黒煙を吹き上げた。

 戦艦同士の砲撃戦は、まさにヘビー級ボクサーの殴り合いといえた。

 そこに巡洋艦や駆逐艦が雷撃のために突入を繰り返す。

 衝撃が起きるたびに多くの水兵が倒れる。   

 ドイツ海軍旗艦フリードリヒ・デア・グロッゼの艦首に343mm砲弾が命中。

 衝撃と爆発音で大破と予想できた。

 「くそっ。撃ち返せ・・・」

 「ちっ! 見えない、消火を急げ」

 「指揮が取れんぞ!」

  

 苦戦していたイギリス海軍を救援したのは、

 事前に支援を要請されていたフランス艦隊だった。

 フランスは、イギリス海軍が敗退すれば

 パリが永久に回復できなくなると考えているのか、

 必死に割り込もうとする。

 地中海でゲーベン(ヤウズ・セリム)が暴れたらどうするのだろうか、

 の戦力が投入される。

 戦艦

  (クルーベ、ジャン・バール、パリ、フランス)22000トン、305mm連装6基

  (プロバンス、ブルターニュ)23000トン、340mm連装4基

 装甲巡洋艦

  (レオン・ガンベッタ、ジュール・フェリー、ビクトル・ユーゴー)が乱入してくる。

 フランス艦隊の参戦は作戦上の混乱を招いていただけでなく。

 Uボートの待ち伏せコースにも、入っていた。

 雷撃されて、回避行動を取るフランス艦隊は、

 さらに戦場を混乱させてしまう。

 イギリス艦隊 「・・・・な、なんだ・・・フランス艦隊は、どっちに転進するんだ?」

 フランス艦隊 「ん・・・イギリス艦隊が近付いてくるぞ、どうするんだ?」

 「「ぶ、ぶつかるぞ〜!!!」」  イギリス艦隊 & フランス艦隊 

 

 モルトケ艦橋

 「艦長。フランス海軍の参戦。どうされますか?」

 「ちぃ!」

 「地中海に引っ込んでれば良いものを気取り屋が・・・・」

 「・・・どうやらイギリス艦隊とフランス艦隊の動きが合っていないようです」

 「即席の連合か」

 「本艦モルトケに与えられた命令は戦うことではない」

 「生き残ることだ」

 「これまで通り、後方から戦艦部隊に接近する軽巡洋艦と駆逐艦を支援するだけで良い」

 「モルトケは、軽巡2隻、駆逐艦2隻を撃沈しています」

 「戦果として十分報告できますね」

 「ふっ 本調子でないことと、ドッカーバンクの生き残りの功名が幸いしたな」

 「欲をかきたくなりますね」

 「駄目だろう」

 「本艦が撃沈されるとイギリスの新聞社を儲けさせることになる」

 「ふっ 確かに・・・・」

  

 イギリス戦艦部隊は、同航戦へと移行。

 しかし、既に中破した戦艦が多く、

 戦局の主導権を取りえなかった。

 戦艦アイアン・デューク 艦橋

 「総員退艦!」 ジェリコー大将

 「はっ!」

 イギリス艦隊旗艦アイアン・デュークは、浮力を失いゆっくりと沈もうとしていた。

 2番艦スパーブも沈みつつあり、

 小破している3番艦ロイヤル・オークに旗艦を移していた。

 ジェリコー大将も、ランチで移動していく。

 依然として、砲撃戦の主導権はドイツ艦隊にあった。

 ユトランド沖海戦は、スマートさに欠けた撃滅海戦とも

 磨り潰し海戦とも酷評されるようになる。

 補助艦隊同士も接近し、砲撃の激しさが増していく、

 史上最大の海戦は、 05/31 〜 06/01 の3日間に渡って続き。

 相殺戦は、双方合わせて、艦艇67隻。

 戦艦21隻、前ド級戦艦2隻、装甲巡洋艦5隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦33隻を海中に沈めてしまう。

 イギリス海軍は、戦艦12隻、装甲巡洋艦3隻、軽巡洋艦6隻、駆逐艦19隻。

 フランス海軍は、戦艦3隻、装甲巡洋艦2隻。

 ドイツ海軍は、戦艦6隻、前ド級戦艦2隻、駆逐艦14隻を失っていた。

 沈んでいない艦艇も多くが損傷して目を覆うばかり。

 ユトランド海戦は、史上空前の損失を英仏独海軍に与えた。

 交戦国に深刻な打撃を与え、

 非交戦国にも様々な思惑をもたらせてしまう。

 

ユトランド沖海戦(スカゲラック海戦)  05/31 〜 06/01  赤字が沈没艦

イギリス海軍(ジョン・ジェリコー大将)

ドイツ海軍 (シェア中将)

第一戦艦戦隊

フリードリヒ・デア・グロッゼ 305mm連装×5

25000

第3戦艦隊(ダフ少将)

第5戦艦隊(ベーンケ少将)
アイアン・デューク 343mm連装×5 25000 ケーニヒ 305mm連装×5 25000
スパーブ 305mm連装×5 18000 グロッサー・クルフュルスト 305mm連装×5 25000
ロイヤル・オーク 381mm連装×4 28000 マルクグラフ 305mm連装×5 25000
カナダ 356mm連装×5 28000 クロンプリンツ 305mm連装×5 25000

第4戦艦隊(スターディ中将)

第6戦艦隊(ノルトマン少将)
ベンボウ 343mm連装×5 25000 カイザー 305mm連装×5 25000
ベレロフォン 305mm連装×5 18000 プリンツ・レゲント・ルイトポルト 305mm連装×5 25000
テメレーア 305mm連装×5 18000 カイザリン 305mm連装×5 25000
ヴァンガード 305mm連装×5 19000 第1戦艦隊(シュミット少将)

第6戦艦隊(バーニー中将)

オストフリースラント 305mm連装×6 22000
マールバラ 343mm連装×5 25000 チューリンゲン 305mm連装×6 22000
リヴェンジ 381mm連装×4 28000 ヘルゴラント 305mm連装×6 22000
ハーキュリーズ 305mm連装×5 20000 オルデンブルク 305mm連装×6 22000
エジンコート 305mm連装×7 27000 第2戦艦隊(エンゲルハルト少将)

第5戦艦隊(ゴーント少将)

ポーゼン 283mm連装×6 18000
コロッサス 305mm連装×5 20000 ラインラント 283mm連装×6 18000
コリングウッド 305mm連装×5 19000 ナッソウ 283mm連装×6 18000
ネプチューン 305mm連装×5 19000 ヴェストファーレン 283mm連装×6 18000
セント・ヴィンセント 305mm連装×5 19000
前ド級戦艦部隊

第2戦艦戦隊(ジェラム中将)

第2戦隊(モーフェ少将)
第1戦艦隊(ジェラム中将) 第3戦艦隊(モーフェ少将)
キング・ジョージ5世 343mm連装×5 23000 ドイチュラント
エージャクス 343mm連装×5 23000 ポンメルン
センチュリオン 343mm連装×5 23000 シュレジェン
エリン 343mm連装×5 22000 第4戦艦隊(フォン・ダルヴィヒ・ツー・リヒテンフェルス少将)
第2戦艦隊(リヴェソン少将) ハノーファー
オライオン 343mm連装×5 22000 シュレスヴィヒ・ホルシュタイン
モナーク 343mm連装×5 22000
コンカラー 343mm連装×5 22000
サンダラー 343mm連装×5 22000 軽巡洋艦 (ロストク)(ミヒェルゼン代将)
第1水雷戦隊(先任指揮官 アルブレヒト少佐)
駆逐艦 (G39、G40、G38、S32)
第1装甲巡洋艦戦隊(アーバスノット少将) 第3水雷戦隊(先任指揮官 ホルマン中佐)
ディフェンス、ウォリアー、デューク・オブ・エジンバラ、ブラック・プリンス 駆逐艦 (S53、V71、V73、G88、S54、V48、G42)
第2装甲巡洋艦戦隊(ヒース少将) 第5水雷戦隊(先任指揮官 ハイネッケ中佐)
マイノーター、ハンプシャー、コクラン、シャノン 駆逐艦 (G11、V2、V4、V6、V1、V3、G8、G7、V5、G9、G10)
第7水雷戦隊(先任指揮官 フォン・コッホ中佐)
第4軽巡洋艦戦隊(ル=ムシュリエ代将) 駆逐艦 (S24、S15、S17、S20S16、S18、S19、S23、V186、V189)
軽巡洋艦 (ロイヤリスト、コウムス)
巡洋戦艦
第4水雷戦隊(ウィンツアー大佐) リュッツオウ 305mm連装×4 26000
アルデント、ブロック、クリストファー、コンテスト、フォーチュン、ガーランド モルトケ 283mm連装×5 22000
ポーパス、シャーク、スパローホーク、スピットファイア、ユニティ
第2偵察群(ベディッカー少将)
第11水雷戦隊(ホークスリー代将) 軽巡洋艦 (フランクフルト、ウィースバーデン、ピラウ、エルブロンク)
軽巡洋艦 (カストール) 第4偵察群(フォン・ロイター代将)
ケンペンフェルト、マジック、 マンデート、マナーズ、マルヌ、マーシャル、ミッチェル 軽巡洋艦 (ハンブルグ、フラウエンロープ、シュトゥットガルト)
ミルブロック、ミニオン、モンス、 ムーン、モーニングスター、マウンジー、ミスティック、オソリー
軽巡洋艦 レーゲンスブルグ (パウル・ハインリヒ代将)
第12水雷戦隊(スターリング大佐) 第2水雷戦隊(先任指揮官 シュール大佐)
駆逐艦 (フォークナーメナード、 マークスマン、マルヴェル、マリーローゼ、メナス、マインドフル、ミスチーフ) B112、B97、B109、B110、B111、G103、G104
駆逐艦 (ミュンスター、 ノーファル、ネッソス、ノーブル、ノンサッチ、オビーディエント、オンスロート、オパール) 第6水雷戦隊(先任指揮官 シュルツ中佐)
G86、V69、V45、V46、S50、G37
第5戦艦戦隊(エヴァン・トマス少将) 第9水雷戦隊(先任指揮官 ゲーレ中佐)
バーラム 381mm連装×4 29000 V28、V27、V26、S36、S51、S52、V30S34、S33、V29、S35
ウォースパイト 381mm連装×4 29000
ヴァリアント 381mm連装×4 29000
マレーヤ 381mm連装×4 29000
第1軽巡洋艦戦隊(アレグザンダー・シンクレア代将)
軽巡洋艦 (ガラティア、フェートン、インコンスタント、コーデリア)
第2軽巡洋艦戦隊(グッドイナフ代将)
軽巡洋艦 (サザンプトン、バーミンガム、ノッティンガム、ダブリン)
第3軽巡洋艦戦隊(ネーピア少将)
軽巡洋艦 (ファルマス、ヤーマス、バーケンヘッド、グロスター)
第1水雷戦隊(ローパー大佐)
軽巡洋艦 (フィアレス)
駆逐艦 (アケロン、 アリエル、アタック、バジャー、ディフェンダ、ゴーシャーク、ハイドラ、ラップウィング、リザード)
第13水雷戦隊(フェアリ大佐)
軽巡洋艦 (チャンピオン)
駆逐艦 (モレスヴィー、ナーボロー、 ネリッサ、ネスター、ニカトール、ノーマッド、オブデュレート、オンスロー、 ペリカン、ペタード)
第9及び第10合同水雷戦隊(ゴールドスミス代将)
駆逐艦 (リディアード、ランドレイル、ローエル、 リバティ、ムーアサム、モリス、テーマガント、タービュレント)
水上機母艦 (エンガディーン)

フランス艦隊

クルーベ 305mm連装×6 22000
ジャン・バール 305mm連装×6 22000
パリ 305mm連装×6 22000
フランス 305mm連装×6 22000
プロバンス 340mm連装×4 23000
ブルターニュ 340mm連装×4 23000
装甲巡洋艦
レオン・ガンベッタ、ジュール・フェリー、ビクトル・ユーゴー

  

 

 

 

 英仏独3ヵ国とも、生き残った艦艇の多くが

 大破した状態でドック入りしていた。

 ハンブルク軍港

 シェア中将は、ドック入っていく艦艇を見て、ため息を付いていた。

 「中将。大勝利だったそうで、おめでとうございます」

 技術将校が声を掛けたが

 シェア中将は意気傷心で俯いたまま。

 「損失比で優位だっただけだ。大勝利とは言えんよ」

 「たまたま、軍港が近くて沈み損なった艦も少なくない」

 「再出撃は、来年以降になりそうです」

 「バイエルンとバーデンの艤装を優先してくれ」

 「しかし、イギリス海軍は、強いな」

 「来年は、ヒンデンブルグを通商破壊に出撃させることが出来ますよ」

 「どちらかというと・・・講和したいな」

 「確かに・・・」

 負傷者が艦から降ろされてくる、

 半分は生涯障害者として送ることになりそうだった。

  

 ロンドン

 テムズ川を遡上するイギリス戦艦群は、ボロボロだった。

 戦艦と軽巡洋艦がドックに入る前にズブズブと力尽きて沈んでいく。

 凄絶な損失に負傷していない水兵は、盲目的に仕事をこなすことで正気を保った。

 大破して10度ほど傾いた戦艦ロイヤル・オークからランチが降ろされ、

 海軍本部に向かって走り出した。

 ジェリコー大将は、煤煙で薄汚れた将校服で憮然としていた。

 「第2巡洋戦艦部隊をリュッツオウ討伐艦隊として回航させるしかないか」

 「ええ」

 「その前に進退伺いが必要だな」

 「もう辞めたいほどだが代わりがいるだろうか」

 「指揮官をかなり失いましたから」

 「T字戦に向かって突進したからな、先頭艦が狙われて当たり前だ」

 「我々が生き残っているのは運が良い」

 「まったくです」

 「被害報告を急がせてくれ。詳細を知りたい」

 「了解です」

 「それとレパルスとレナウンの就航を急がせてくれ」

 「何としてもリュッツオウをしとめないと・・・」

  

 スカゲラック海戦(ユトランド沖海戦)後、

 北大西洋は、ドイツ巡洋艦隊にとって狩り場だった。

 ドイツ海軍第二次通商破壊艦隊は、外洋に出るとイギリス輸送船団を探し始める、

 その策敵の主役になったのが3隻の飛行船だった。

 僅か巡洋戦艦1隻、軽巡洋艦7隻、輸送船10隻の艦隊だった。

 しかし、イギリス海軍は恐慌に陥る。

 そして、イギリス海軍は、緊急に護送船団方式を採用。

 イギリスは、ユトランド沖海戦に参加しなかった前ド級戦艦を船団護衛に編入。

 護送船団の護衛に組み込んでしまう。

 そして、ド級戦艦部隊もただちに通商破壊艦隊の追撃に入った。

 

 ベディッカー少将、フォン・ロイター代将

 巡洋戦艦リュッツオウ、27000トン、305mm連装4基、27ノット。

 軽巡洋艦6隻

   5180トン級(ヴィースバーデン 、フランクフルト )

   4900トン級(グラウデンツ、レーゲンスブルク)

   4385トン級(ブルマー、ブレムセ)

 輸送船10隻

 巡洋戦艦リュッツオウ 艦橋

 「やはり大型輸送船2隻のおかげで戦艦部隊の被害が増えたか」

 「長期で通商破壊作戦を行うなら、遅くても大型輸送船は欲しいですからね」

 「損失に見合うだけの戦果をあげないとな」

 「大型船は高速に分類されていたのですが24ノット」

 「脱出を助けたドイツ本国艦隊は大変な損害です」

 「そうだな・・・しかし、広い狩場だ」

 「飛行船の航続距離は、限度がありますから、どれだけ随行できるか・・・・・」

 「味方のUボートに撃沈されたくないな」

 「潜水艦作戦司令部には伝えているはずですから」

 「大丈夫のはずです」

 「ドイツ戦艦も、随分、少なくなったな」

 「モルトケを除くと、本国で生き残った戦艦は10隻だそうです」

 「それに建造中のバイエルン、バーデン。そして、ヒンデンブルグが加算される。たぶんな」

 「他に増艦計画は?」

 「あるにはあるが・・・損傷が多過ぎる」

 「修理改装するか、建造するか」

 「予定通りには行かなくなるな」

 「年内は身動きがとれないだろう」

 リュッツオウ艦隊は、北大西洋を南下しながら商船8隻を拿捕。

 護衛していた装甲巡洋艦ホーグ、サトレッジ、軽巡3隻を撃沈する。

 「レパルスとレナウンが完成するまで、あと3カ月から4か月」

 「慣熟訓練まで6ヶ月あるな」

 「せいぜい、楽しませてもらいましょう」

 「こっちも、まだ、操艦が怪しいがね」

 「訓練用の燃料も弾薬も削られましたからね」

 「まぁ 比較的、ベテランの乗組員が割り当てられたのが救いか」

 「ええ」

 

 パケナム少将のイギリス第2巡洋戦艦部隊も南太平洋からインド洋に移動。

 北大西洋に向かって、リュッツオウを迎え討とうとしていた。

 

 イギリス第2巡洋戦艦部隊

   インディファティガブル、ニュージーランド、オーストラリア、

 インディファティガブル 艦橋

 「遂にシュペ艦隊を仕留め損なっての移動か」

 「大英帝国海軍がこれほど追い詰められるとは思いませんせんでした」

 「Uボートもだが、巡洋戦艦まで繰り出されたら本当に日干しだな」

 「オーストラリアは、日本艦隊を購入するとか」

 「モドキとはいえ準ド級だ。吹っ掛けられるだろうな」

 「日本に参戦要請しないのですか?」

 「日本のモドキ艦隊ではドイツ艦隊に勝てまい」

 「それなら中国の利権を守ってもらった方が良いそうだ」

 「本当に酷い状態なので?」

 「そうだな。レナウン、レパルスの就役を待ちたくなるほどだ」

 「それでも、この広い海でドイツ通商破壊部隊を仕留めるのは至難の業ですね」

 「巡洋戦艦にも飛行機を乗せるべきだろうな」

 「ええ」

 「しかし、豪州が不安だな」

 「白豪主義には良い薬でもあるがね」

 「良いんですか?」

 「通商破壊を出来ても占領はできんよ」

 「確かに・・・」

 

 

 

 オーストラリア ポートモレスビー港

 第2巡洋戦艦部隊

    インディファティガブル、ニュージーランド、オーストラリア、

 

 インディファティガブル艦橋

 パケナム少将

 「・・・正式にリュッツオウ討伐命令が出たか」

 パケナム少将が伝令書を見て呟く

 「提督。シュペ艦隊は放り出すんですか?」

 「シュペ艦隊は補給待ちだよ」

 「そして、リュッツオウ艦隊の最終目的は、シュペ艦隊との合流だろうな」

 「勝てますよね」

 「リュッツオウは、27000トン、305mm連装4基、27ノット、16年度製」

 「インディファティガブル、ニュージーランド、オーストラリアは」

 「18000トン。305mm連装4基、25ノット」

 「11年度、12年度、13年度製だ」

 「どう思うね」

 「・・・リュッツオウを撃沈できても、こちらも1隻から、2隻は撃沈されるかと」

 「良い判断だ」

 「それくらいの覚悟があれば取り逃がすことはないだろう」

 「太平洋の補給難は、今後も続くはず」

 「シュペ艦隊は、ドイツ本土に寄港しようとは、考えないのでしょうか」

 「旧式の装甲巡洋艦が3隻」

 「ドイツ本国に帰還しても影響は小さいだろう」

 「シュペ艦隊の価値を高め」

 「有名にしているのは太平洋で活躍しているからです」

 「まともな要塞があれば、本国に戻るまいよ」

 「ユトランド海戦は残念です」

 「本艦隊がいれば・・・・」

 「確かにリュッツオウをむざむざと外洋には出さなかっただろうな」

 「そして、ああいった無残な状態で戦わずに済んだ」

 「巡洋戦艦の有用性は、再認されるだろう」

 「一度、シドニー港で整備すべきでは?」

 「シュペ艦隊も間抜けではない」

 「本艦隊が、ここにいることを偽装工作しておかなければ遅れを取る」

 「たかが、装甲巡洋艦のために・・・」

 「まったくだ。撃沈してもたかが装甲巡洋艦だ・・・」

 「しかし、艦隊を分けるとリュッツオウに負けるだろうな」

 「・・・ええ、たぶん」

  

 

 

 インド・太平洋

 太平洋から巡洋戦艦3隻が消えると、

 シュペ艦隊

   ブリッシャー、シャルンホルスト、グナイゼナウは、ラバウル港を出撃する。

 潜水艦の待ち伏せを夜間に高速で突破し、切り抜け脱出。

 イギリス装甲巡洋艦の追撃をくらましてしまう。

 シュペ艦隊は、南下すると、

 オーストラリアのブリスベーン港を攻撃。

 商船12隻を撃沈。

 さらに南下して、ニューキャッスル港を攻撃。

 商船10隻を撃沈。

 完成したばかりの鉄工所や製鋼所を粉砕していく。

 「提督。イギリス巡洋戦艦は、いませんでしたね」

 「そうだな、やはり、インド洋に向かったのだろう」

 「どうします?」

 「まだ弾薬はありますが」

 「いや、装甲巡洋艦が来ても面倒だ。引き揚げよう」

 「そうですね」

 「・・・提督、南から前ド級戦艦です」

 「・・・戦艦ビクトリアスとジュピターか、逃げるぞ」

 305mm砲4門は、この場合、考慮する必要はなかった。

 前ド級戦艦で17ノット。

 そして、艦齢19年から20年で、

 さらに速力が遅くなっている。

 シュペ艦隊は、22ノット以上出して逃亡する。

 「提督、北から前ド級戦艦です・・・1隻です」

 「またか・・・」

 前ド級戦艦コーンウォール。

 こちらも1904年で19ノット。

 南の2隻より速いはずだった。

 「・・・中央を抜けるぞ。最大戦速」

 シュペ艦隊は、速度を上げながら、

 南北から接近してくる前ド級戦艦3隻を振り切ろうとする。

 「艦長。少し、際どいですね」

 「最大射程で撃っても、無駄弾だ・・・・」

 「ですが燃料を使わされます」

 「南北の敵艦の速度を計算して、中央を抜ける」

 「風力と海流の計算を間違えるな」

 「今度の作戦で、燃料と弾薬。かなり使いましたね」

 「そうだな」

 「しかし、のろまな戦艦に捉まることはないと思うが・・・・」

 そして、戦艦からの砲撃が始まる。

 シュペ艦隊

  ブリッシャー、シャルンホルスト、グナイゼナウは、水柱の間を蛇行し、

 縫うように走り去っていく。

 脱出したシュペ艦隊は、大歓声。

 そして、イギリス戦艦部隊は、悔しげに呪いの言葉を呟く。

 せめて、同速の装甲巡洋艦であれば間に合っていた。

 

 

 シュペ艦隊のオーストラリア艦砲射撃が、

 日本参戦に反対・消極的だった対応を一変させる。

 オーストラリア政府の日本参戦要請。

 イギリスからの参戦要請なら無碍なく参戦だろうが

 オーストラリアの要請など無視できた。

 というより、感情的に無視したかった。

 オーストラリアの日本人ビジネスマンに対する制約は、敵性国家ドイツ以下の扱いであり、

 オーストラリア人の傲慢さは、日本の政官財とも呆れていた。

 それが、いまさらの参戦要請。

 まだイギリス人の方が日本人を少しだけマシに扱う。

 イギリスは、世界の海運の3分の1を持ち。

 イギリス本土の10倍もあるインドを支配している大帝国だった。

 紳士であろうとし、傲慢さの中にも、

 それなりの品性と理性があった。

 オーストラリアは、元をたどれば流刑地で、

 犯罪者の子孫も当然、混ざっている。

 もちろん、犯罪者の子供にも人権はあるだろう。

 しかし、オーストラリア人は、傲慢の上に品性がなさ過ぎた。

 もう少し、紳士的な姿勢も対応もあるだろう・・・

 と日本政府は、思ったりもするが白豪主義に貫かれている。

 日本の外交官がシドニーの公館に呼ばれる

 「日本は、イギリスと同盟国のはず」

 「なぜドイツに宣戦布告をしないのですかな」

 「オーストラリアが日本の参戦を反対されたから、と記憶していますが」

 詭弁だった。

 オーストラリアの参戦賛否は一切考慮されていない。

 「・・・日本の戦艦は、ドイツの装甲巡洋艦より速いのではありませんか?」

 「ええ、速いでしょうな」

 改装で、もっとも力を入れたのは機関だった。

 「現状・・・どの程度ですかな」

 「戦艦13隻が50口径283mm連装砲3基。23ノットから25ノット」

 「装甲巡洋艦12隻が50口径203mm連装砲4基。25ノットから27ノット」

 「巡洋戦艦リュッツオウと7隻の巡洋艦が豪州に向かっているのかもしれないのです」

 「通商破壊作戦は、輸送航路が好きなはず、豪州はそれほど・・・」

 「とにかく、同盟国であるのなら協力していただきたい」

 「・・・・」

 艦体の不都合は、ともかく、

 ドイツの装甲巡洋艦を追撃できる程度の性能があった。

 もっとも艦隊運用という点でいうと怪しい。

 それぞれの機関が違い。

 舵の利きも違う。

 艦隊運動など、名人とか、冗談の域に達している。

 さらに、設計ミスなのか、

 中心軸線から砲塔がずれているのか、

 撃つ度に反動で艦体が軋み、

 震動が続く艦艇もある。

 イギリスが日本の高速戦艦を購入しなかった理由の一つだ。

 「・・・どうでしょう。日本の戦艦を売って頂きたい」

 日本の外交官は、面食らう。

 オーストラリア政府は、イギリス海軍か、オーストラリア海軍の意見を聞いていない・・・

 と勘違いしたくなった。

 日本人以外は、乗りこなせないだろうが、

 国際常識になっているほど癖のある艦隊だった。

 既に新型戦艦8隻は、艤装の段階に入っていた。

 別段売ったところで悪い話しではない。

 むしろ、好都合だが道義的な問題は残る。

 実のところ日本政府内で、そういう話しが出ると想定し、

 擦り合わせが済んでいた。

 「売るのは軍艦のみで?」

 「はい?」

 「オーストラリア海軍の意見を聞かれてませんか?」

 「!?」

 「古い軍艦ですし癖の強い軍艦です」

 「たぶん、オーストラリア海軍の水兵は、使いこなせないと思いますよ」

 「・・・・」

 「仮に動かせるとしても一年後。でしょうか」

 「・・・・」

 どうやら、政治家の発想であり、

 オーストラリア海軍の意見を聞いていなかったらしい。

 たぶん、イギリス海軍の意見も聞いていない。

 「・・・・・」

 かわいそうになるくらい、政府筋の役人が苦慮する。

 どうやら、オーストラリア本土が砲撃され、

 かなり慌てたようだ。

 オーストラリアの与党は、次の選挙で敗北だろうか。

 砲撃による被害は、経済的観点で、たいした損失ではない。

 単純に再建すれば済むだろうと外交官は計算する。

 どうせ、シュペ艦隊の燃料も、弾薬も、残り少ないはず。

 耐久年数や減価償却、命数はどうだろうか

 オーストラリア本土砲撃という冒険は、もう、出来ないと見当が付く、

 しかし、オーストラリアの政治家は、死活問題だった。

 数字でなく、抽象的な人間味のある世界。

 再建に金を出し、

 さらに軍艦を買うために金を出すより。

 再建だけに金を出すべきだ。

 左の頬を打たれたら、右の頬を出せ、

 というのが聖書の世界にある。

 自己満足で損してまで仕返しすることはない。

 負け犬が得することもある。

 「・・・・・」

 日本側で準備していた代案を出そうか逡巡する。

 本来なら、向こう側から出すべき提案。

 イギリスなら間違いなく、提案するだろう。

 「・・・・・・」

 「艦隊ごと長期契約でリースするという手もあります」

 「短期契約だとレンタルという手も・・・・」

 政府筋の役員が はっ! と気付く。

 どうやらクビが繋がる提案だったらしい。

 晴れ晴れとしている。

 この分なら、自分のアイデアだと宣伝するだろう。

 呆れるが、その方が都合が良かった。

 「・・・そのう。どの程度の代金でしょうか?」

 「一月当たり・・・・・」

 「ドイツの装甲巡洋艦1隻につき・・・・」

 「ドイツの巡洋戦艦1隻につき・・・・・・」

 「こちらの損失につき・・・・・・」

 「そして、一応、オーストラリアに売却したという形を取りますので・・・・」

 オーストラリア政府に呼ばれたとき、

 既に本国で詰めていた内容を伝える。

 役人は、次第に青くなっていく。

 たぶん、次の会合でさらに妥協するだろうか、

 既に推考済みだった。

 あとは、全権を委任された大使に任せれば良い。

 イギリスも台所事情が苦しいらしく。

 オーストラリアが日本艦隊をレンタルするのなら、

 あえて口を出さないことにしたらしい。

  

 北太平洋の狩り場を荒らしまわったドイツ艦隊は、

 文字通りイギリスを日干しにしていく。

 戦果は撃沈30隻、拿捕60隻。

 イギリスは、Uボートだけでなく、

 強力な水上艦艇に備えて戦艦を配備しなければならず。

 最悪でも軽巡洋艦以上が求められた。

 南西アフリカ リューデリッツ湾

 巡洋戦艦リュッツオウ

 軽巡洋艦6隻

   5180トン級(ヴィースバーデン 、フランクフルト )

   4900トン級(グラウデンツ、レーゲンスブルク)

   4385トン級(ブルマー、ブレムセ)

 輸送船10隻が停泊していた。

 この港に拿捕された船舶の一部が停泊。

 また、中立国船から運ばれてくる物資もリューデリッツ湾に集められていた。

 青島租借地が石炭と鉄鉱石を放出した収益で中立国船を雇ったのであり、

 いくつもの国の手を経由した後、到着する。

 その中にイギリス資本も絡んでいたり “経済に戦線なし” と言えた。

 そして、ドイツの弾薬輸送船が入港し合流する。

 リュッツオウ 艦橋

 「艦長、どうやら輸送船は、無事に到着したようです」

 「弾薬を補給したら軽巡部隊を北上させ」

 「リュッツオウは荒らし回りながら南下しよう」

 「それでは?」

 「巡洋戦艦3隻が迫っている」

 「リュッツオウが囮になって、軽巡部隊に手柄を立てさせるしかないだろう」

 「もう少し、荒らし回りたかったですが残念です」

 「なぁにイギリス巡洋戦艦3隻を連れて、豪州に行くと思えばいい」

 「では、シュペ艦隊と合流ですか?」

 「シュペ中将にとっておきの地ビールを振る舞ってやろう」

 「イギリスの日干しは軽巡部隊にでもやらせればいい」

 「軽巡洋艦隊司令のフォン・ロイター代将が喜びそうですな」

 「そうだろうな」

 

 

 

 ノルウェー ナルビク港

 北極航路の開発をしている日本の砕氷貨客船 “北斗” が停泊していた。

 東洋の新参者は新しい可能性を示していた。

 日欧北極海定期船の就航で、

 欧州列強が気付かない取引が可能になり、利益も見込めた。

 日本に招待されていた北欧諸国の要人たちは、

 日本との交易に期待する、

 という結論に達していた。

 日本は、日露戦争でロシアを敗退させ、

 北欧諸国の評価も高かく、

 フィンランドは、ロシアの支配下にありながら、

 ノルウェーを経由し、日本との交易を図ろうとしていた。

 北斗の船橋

 「やれやれ、北極航路が出来そうでも肝心の欧州が平和でないのが問題だな」

 「欧州の平和は、日露の緊張悪化に繋がるよ」

 「日本に飛び火しないのであれば歓迎するよ」

 「北極航路は夏季限定でもあるし小規模なままだろう」

 「そうだった、北欧諸国は地下資源がソコソコだが中立しても消費能力も小さいか」

 「意欲が削がれるな」

 「ロシアが日本の参戦を要請している」

 「北極海航路は大丈夫だろうか?」

 「戦争に影響があったのはドッカーバンク海戦とユトランド海戦だろう」

 「北極海航路を妨害できるような情勢になっていない」

 「イギリスは、日本海軍を当てにしているだろうか」

 「いくら日本の造艦技術を低く評価しても」

 「新型戦艦は頼りにするだろう」

 「しかし、改装戦艦の方は雨漏りしているって評判じゃないか」

 「本当に大丈夫なのか」

 「優秀な人間は、みんな官僚や財界に取られて、海軍は、それなりって話しだぜ」

 「雨漏りって、いうのはな」

 「電気溶接した時、結合部分が盛り上がったらしくてな」

 「それが見栄えが悪いからって、削って亀裂が入ったらしい」

 「ははは。冶金も駄目だな」

 「ところで、あの大きな積荷は何だ」

 「フェッティンガーとか、フェットィンガーとかいう機関の部品じゃなかったかな」

 「タービンとディーゼルの併用だそうだ」

 「良くわからないがドイツ製らしい」

 「中立国は、何でもありだな」

 「できれば中立国でいたいな」

 「そうか?」

 「親父は、日露戦争のおかげで、家や親族に大きな顔が出来ると喜んでいた」

 「それまで、町内一のバカ次男坊で家族から持て余されていた」

 「それが日露戦争で出征して、町内の顔役だと」

 「ははは・・・」

 「そうそう。父権回復は、戦争だよな。わかるわかる」

 「親や奥さんや子供に尊敬されていなかったり」

 「人に、やかましく言われて劣等感の強いやつに限って戦争したがるからな」

 「戦争の動機なんて、そんなもんだろう」

 「女ってやつは、そういうのをわかっていないからな」

 「表面的にでも夫や息子を立てていれば戦争なんて起きないのに」

 「日露戦争だって、そんな感じだっただろう」

 「妻や子供に尊敬されたいとかで始めたんじゃないか」

 「いや、あれは、巨済島が攻撃されたのが元々の発端だろう」

 「日本人をやっつけて、妻や子供に尊敬されたいと思った朝鮮人が悪い」

 「だが、後ろでロシアが手を引いていたんだろう」

 「それでも、そうしたいという朝鮮人の動機が利用されたんだろう」

 「今では、見る影もないようだが」

 「東部戦線では、それなりに活躍しているそうじゃないか」

 「東部戦線では、ドイツ軍相手に戦っている」

 「戦っているね〜 戦わされているのさ」

 「前から撃たれるか、後ろから撃たれるかの違いだけさ」

 「ロシア軍にすれば、銃を撃つ地雷程度にしか思っていない」

 「満州族や回族。漢民族も、そうらしい」

 「もう、満州・朝鮮は、完全にロシア人。白人の世界だな」

 「しかし、漢民族もよく、義勇軍で東部戦線に行くよな」

 「貧しいからだろう」

 「揚子江、黄河流域は発展しているが白人支配で中間管理職は異民族」

 「そして、裏切り者の中国人に支配されて、鬱憤が貯まっているのさ」

 「東部戦線で、戦争のやり方を教わって、中国復権を狙っているんだろう・・・」

 「しかし、教わるのは後ろから逃亡兵を撃つ方法だろうけどね」

 「はぁ〜 いやだね〜 戦争は」

 「景気が良いときは、みんなそう思うだろうな」

 「景気が悪くなると自暴自棄になって戦争したがるんだ」

 「イヤだね、道連れ根性丸出しで」

 「エゴも、民主主義も、国粋主義も、程ほどじゃないとね」

 「行き過ぎれば、醜悪になって周りを地獄に引き摺り込んでしまうよ」

   

  

 軍隊は統制上、個人が勝手に射撃できない特性があった。

 早い話し上官の “撃て!” の命令待ち、

 命令後は、“撃ち方止め!” まで好きに撃てる。

 この時代の指揮系統は、

 指揮官の声が兵士全員に届く中隊(200人)規模であり。

 “撃て!” の命令が出せたのは、中隊長だったのである。

 06/04 ブルシーロフ攻勢開始

 東部戦線ウクライナ西方で、ロシア軍の反撃が開始された。

 ロシア歩兵40個師団と騎兵15個師団 VS

 オーストリア軍は歩兵39個師団と騎兵10個師団

 ブルシーロフ将軍は、三重の防衛線を構築していたオーストリア・ハンガリー軍に攻勢を掛けた。

 これまで、ほぼ同兵力で敵の塹壕に突撃する愚行は、何度も繰り返され。

 攻撃側は、その度に大損害を出していた。

 このロシア軍の攻撃で注目されたのは、

 浸透戦術が初めて執られたことにあった。

 支援砲撃、霧、雨、雪、夜間などなど・・・

 指揮系統上、十数人の突撃を取りこぼす可能性があった。

 そして、砲兵の支援砲撃の下、

 小集団(10〜20人)で戦闘能力の高いロシアの歩兵部隊が散発的に襲撃する。

 機敏な戦闘指揮が可能な小集団の攻撃に、

 中隊(200人)規模の指揮系統は後手に回る。

 地名でなく将軍名で名付けられたブルシーロフ攻勢で

 オーストラリア軍は寸断され崩壊し、150万の損失を出し、

 ロシア軍は50万を失ってしまう。

 ドイツ軍が駆け付けて戦場を立て直すまで、

 東部戦線は崩れ続けた。

 この戦いでオーストラリア帝国は、軍事的主導権を喪失してしまう。

 

 

 07/01 ヨンヌの戦い(〜11月18日)

 西部戦線

 ヨンヌ川の対岸、英仏軍陣地から砲弾が撃ち出され、

 放物線を描いて、ドイツ軍陣地に砲弾が降り注ぐ。

 英仏軍19個師団がドイツ軍10.5個師団に対し攻勢をかけた。

 ドイツ軍は予備師団を呼び寄せ、陣営を厚くしていく。、

 英仏軍は、作戦通り部隊を移動させ、

 川を挟んで攻防の焦点となっていく。

 上空では、双方の戦闘機が空中戦を繰り広げていた。

 複葉機と三葉機の編隊が入り乱れ、固定した機関銃を撃ち合い、

 互いに背後に回り込もうと、ドックファイトを繰り広げていた。

 総攻撃を予兆させるだけの砲撃の後、僅かな沈黙。

 金属音とエンジン音が震動とともに伝わってくる。

 「どうした!!」

 「中隊長。なにか、音が聞こえます・・・」

 「な、何か大きなものが向かってきます」

 双眼鏡を覗いていた兵士が応える。

 「・・・何だ、あれは?」

 「じ、自動車? でしょうか?」

 「う、撃て!」

 「川を渡らせるな、砲兵部隊に伝令を送れ、支援砲撃を要請しろ!」

 巨大な車両が砲撃しながらフランス軍、イギリス軍とともに川を渡河し向かって来る。

 巨大な車両は、小銃や機関砲を弾き返した。

 新兵器の登場で、戦場に驚愕と恐怖が広がり、戦線が押し潰されていく。

 「くっ! 撃て、撃て、近付けさせるな」

 戦車の登場は、戦線の様相を一変させる」

 「川を渡り、鉄条網を押し倒し、小銃や機関銃の弾丸を弾いた。

 そして、大砲の砲弾も直撃さえ受けなければ、

 そのまま動き続ける。

 この時、小火器を戦車に集中して、一気に突破された戦線もあり、

 戦車に随行する歩兵を狙うように指示し、

 後退する目聡い少数の指揮官もいた。

 明暗が分かれるものの、

 ヨンヌ川防衛線は突破されていく。

 イギリス軍は、ヨンヌ川防衛戦線に対し、

 史上初めて戦車を投入し、ドイツ防衛線を240kuも食い込んだ。

 しかし、この史上初の戦車戦。

 補給、修理、運用、足並みが揃わないなど問題も起こる。

 そして、ドイツ軍の反撃を受けると押し返され。

 こう着状態に戻っていく。

 この新兵器は、擬装用に付けられていた名称通り。

 “タンク”  と公称される。 

 

 

 

 

 ロシア軍はブルシーロフ攻勢でオーストラリアを半身不随にする、

 しかし、その後もドイツ軍の攻勢に遭い、ロシア軍は後退していた。

 ルーマニアは、オーストリア領の山岳地トランシルバニアを熱望していたが思いとどまり、

 東のモルドバでも良いと考え始める。

 09/01 ルーマニアが史実と逆にロシアに宣戦布告。

 ルーマニア軍20万は、モルドバを攻撃し、

 ロシア軍を後退させてしまう。

 しかし、まともな輸送部隊がないことから兵站で行き詰まり、

 ロシア軍の反撃に遭い戦線は崩壊、

 ドイツ軍の救援を仰ぐ事になった。

 ルーマニア軍は、自衛戦闘ならともかく、

 侵攻作戦が可能な軍隊ではなかった。

 ドイツ、オーストリア、ルーマニア、トルコ、ブルガリアは連携し、

 同盟軍は、東部戦線を押し進めていく。

 

 

 北中国で袁世凱大統領が病死。

 南中国の孫文大統領は中国統一を画策するが失敗。

 北中国は、兵を動かさず静観。

 逆に列強と南中国を戦わせようとまでする。

 紆余曲折を経て、中国の暴動は沈静化していく。

 中国を南北に分けている揚子江一帯は、欧米諸国の支配下のまま、残され。

 北中国は、イギリス・フランスが支援する段祺瑞の安徽(あんき)派。

 ドイツが支援する王士珍。

 日本・アメリカが支援する馮国璋(ふうこくしょう)の直隷派。

 ロシア帝国が支援する張作霖の奉天派に分裂していく。

 日欧米諸国の調整が進むと、

 段祺瑞(だんきずい)、王士珍、馮国璋は、

 結束させられ、段祺瑞大統領でまとまってしまう。

  

 

 ニューイングランド

 ラバウル港

   装甲巡洋艦 ブルッヒャー、シャルンホルスト、グナイゼナウ

 ブリッヒャー艦橋

 シュペ中将

 「石炭がもっと欲しいな」

 「ええ、木炭では、火力が弱すぎますね」

 「戦争が始まって、2年が経過している」

 「イギリスの冷やかし艦隊のおかげで要塞砲の弾薬と命数を使わされた」

 「そろそろ引き際ですか?」

 「いや、リュッツオウの艦隊は、十分な物資を積んでいるはずだ」

 「たぶん、第2巡洋戦艦部隊も追撃に入る」

 「では、第2巡洋戦艦部隊の出撃に合わせて、こちらの艦隊も・・・・」

 「無論、出撃だろうな」

 「支援に向かうより、通商破壊の方が陽動で成功しやすいだろう」

 「もっとも、イギリスの潜水艦が港湾を見張っているかもしれないがね」

 「本国は、勝てるでしょうか?」

 「戦況は、悪くなさそうだ」

 「ドッカーバンク海戦、ユトランド海戦でも、イギリス海軍の主力艦に大打撃を与えている」

 「陸軍は、一部戦線が食い込まれたようだが」

 「アメリカが参戦しないのであれば負けはないな」

 「日本は?」

 「新型戦艦8隻は怖い」

 「しかし、陸軍は、正味30万しかいない」

 「そしてほとんどは要塞兵団か、鉄道兵団で、欧州大戦だと使えない」

 「予備役の一部を動員し始めているらしいが」

 「元々失業者は少ない上に、生産からも引き抜けない」

 「兵力が少な過ぎて役に立たないだろうな」

 「いっそ、こちらから攻撃を仕掛けるというのもありでは?」

 「日本に宣戦布告か・・・」

 「中国の監視国をアメリカ単独にして、アメリカに貸しを作ろうという計画が、あったらしい」

 「しかし、例の日本の新型戦艦で流れたよ」

 「それにこれ以上、ドイツの敵を増やすのは得策でない」

 「という判断になったようだ」

 「それに日本のド級モドキ戦艦も、少し評価している」

 「東アフリカのヨルクと合流しては?」

 「いや、分散していた方がイギリスも余計に艦船を振り分けなければならない、困るはずだ」

 「戦力の集中は決戦で必要だが、戦略的分散も必要だろう」

 「提督、イギリスがレナウンとレパルスを就役させたそうです」

 「そうか、リュッツォウも大変かな」

 ジャングルの向こうで銃声が聞こえる。

 

 

 インド・太平洋域

 ドイツ帝国海軍が作戦で使用できる基地は限られていた。

 最大最強の青島租借地の海軍要塞は、中立地帯で使えず。

 太平洋のシュペ艦隊の基地は、ニューブリテン要塞とポナペ要塞だった。

 さらに作戦域を広げてもインド洋のダルエスサラーム要塞になる。

 オーストラリアの偵察部隊がニューブリテン島に上陸した。

 「まず、新しい観測所に基地を設営した後、連絡を絶った観測所に部隊を派遣する」

 「ドイツ軍に見つかったのでしょうか?」

 「ラバウル港を見張れる場所は限定される」

 「掃討されてもおかしくはない」

 「北東ニューギニアに基地を作ってくれたら楽でしたのに・・・」

 「石炭が採れるならまだしも開発されていないし」

 「陸続きだから警戒したのだろう」

 「どの道、シュペ艦隊のせいで侵攻は失敗したがね」

 後方から砲撃が聞こえる。

 「どうした!」

 「ドイツの巡洋艦です」

 「ちっ! 急いで物資を持って内陸に移動するぞ」

 上陸部隊を運んだ800トン級輸送船は、拿捕されつつあった。

 「・・エ・エムデンです」

 3660トン級軽巡洋艦エムデンは単独で通商破壊作戦に就いていた。

 イギリス海軍全体で注目されるシュペ艦隊は、

 研究され、推測され、予測されやすかった。

 シュペ艦隊と別行動を執るカール・フォン・ミューラー中佐は意識されておらず、

 結果的に神出鬼没。

 インド・太平洋を奔放に動き回り、商船を拿捕して要塞基地に入港させたり、

 無人の島に捕獲船を置いて、補給船代わりに使ったり、

 軍艦というより海賊船だった・・・

 結果としてシュペ艦隊の拿捕船は43隻。撃沈65隻。

 エムデンの拿捕船は17隻。撃沈21隻と、費用対効果で断然優れていた。

 エムデン 艦橋

 「停船しました」

 「捕獲するぞ」

 エムデンからランチが降ろされていく。

 「何でこんなところにイギリス商船が・・・」

 「偵察部隊との連絡ですかね?」

 「ちょっと、ラバウルに休息に戻ったら手土産付きになったな」

 「シュペ中将へのお土産ですか?」

 「スコッチウイスキーくらい積んでるだろう」

 

 

  

 横須賀にイギリスの戦車5両が上陸して人だかりが出来ていた。

 欧州大戦は停滞。

 イギリス、フランス、ロシアの戦果は、良いものではなかった。

 しかし、ドイツの防衛線を突破したという戦車に関心が集まる。

 「陸上を走る戦艦だな」

 「どうかな、装甲は小銃と機関砲に堪えられる程度なら巡洋艦くらいだろう」

 「いや、6.5mm弾では無理だが7mm以上なら近くで撃つと貫通できるそうだ。造れそうか?」

 「さあ、装甲列車の方が強いと思うぞ」

 「あれは120mm砲が載っている」

 「それ以前に目的が違うから、比較できないだろう・・・」

 「これ塹壕を乗り越えるんだよな」

 「試しに塹壕と保塁を乗り越えさせてみるか」

 「量産できるとは思えんが」

 「戦艦を減らして、その分を戦車に回せないか」

 「海軍は、かなり怒っているから無理だろう」

 「それ、言わない方が良いぞ」

 「わかっているって」

 「しかし、陸戦で機関砲から身を守れて大砲を乗せて走れるとすれば、心強いよな」

 「近付かないで撃ち抜こうとすれば20mm弾くらいで装甲を貫けないか」

 「んんん・・・そのくらいあればな」

 「しかし、戦車が大砲を乗せているなら、離れた場所から狙った方が良いな」

 「40mm弾くらい欲しい」

 「40mmは、対人用で合理性に欠ける。75mmは、欲しい」

 「75mmだと走っている戦車を狙うときに困るだろう」

 「対人用で不利益でも40mmを中隊で1門は欲しいな」

 「いや、対人用で使い難い40mm砲を誰が、どうやって運ぶんだ」

 「砲兵は嫌がるだろう」

 「しかし、戦車の数が増えたら、40mmも一般化しないか?」

 「・・・・・・・」

 「・・・・・・・」

 「・・・金・・・なかったな」

 「ああ・・・」

  

  

 鉄道省

 背広組の男たちが地図を睨みながら、なにやら話し合っていた。

 「まず、飛行場を駅を挟んで建設するのが得策だろう」

 「飛行船も、併用するんだよな」

 「・・・・・・・・」

 「やはり、広めに土地を取得すべきだよ」

 「エンジンをたくさん装備すれば、乗客も多く乗せられるし」

 「離着陸で滑走路も大きくすべきだから」

 「空港間の距離は、航続力を計算して決めた方がよくないか」

 「いや、距離に関係なく、大都市に空港を建設すべきだろう」

 「客層を増やせば、鉄道の集客にも繋がる」

 「しかし、大都市の近く、駅の周辺で広い敷地を購入できるところは少ない」

 「空港建設も良いようで、飛行機が大都市に落ちた場合、不都合もある・・・」

 「言い訳が、いるな」

 「・・・先に軍にやらせよう」

 「そうだね、予算を一部出すことで軍民共同で建設して・・・」

 「先に軍用機が落ちれば民間の連絡機が落ちても目立たないだろう」

 「それに欧州大戦で軍は、航空戦力を欲しがっていたから渡りに船だな」

 「軍用機の安全性を見てから民間機を増やしていけば良いし」

 「軍用機の生産で価格が落ちて、民間機を量産すればいいか」

 「開発も、土地収用も軍にやらせて」

 「空港の実権だけは、こっちで握らないとな」

 「飛行機に将来性がなくても軍民併用なら、あとで軍に押し付けることも出来る」

 「んん・・・・それで行こう」

 「土地取得で、もっと安く購入できないだろうか」

 「土地に縛りつくより、資本というような風潮を広めては?」

 「実質、資産家は、土地を半分売ったお金を流用した結果だろう」

 「今時、土地にしがみついても駄目だろう」

 「まだまだ封建的だからな、日本の土地自体が狭いから土地に価値が出てくる」

 「固定資産税を増やして、借家住まいを増やすか」

 「やりすぎると、愛国心が薄れないか」

 「じゃ 程々か・・・」

 「いっそ、道路法を作って、袋小路で入れない土地を国で強制徴収するか」

 「いや、囲い込みで土地を取得しようとしている財閥は困るだろう」

 「まあ、抜け道は作るから、何とかなる」

 「それに道や鉄道を延ばせば資産価値も上がるから無理やりにでも、やるべきだろう」

 「そうなんだよな。治安が悪くなるとか言うが、結局、若者は都市に集まる」

 「それなら、田舎を都市にすべきだ」

 「何とか、予算を削って鉄道を延ばすか」

 「でも都市の集客が減ると商店がブスくれるぞ」

 「貧民層が多いと治安が悪くなるやないか」

 「でっ どこの予算だ」

 「・・・軍事費」

 「もう、無理だろう」

 「いい加減にクーデターものだ」

 「んん・・・・・」

 予算上の関係で優秀な人材は、財閥や官僚に集まっていく。

 そして、ヤクザか?

 と思うほど、えげつない極悪系の会話は、

 その後、3時間にわたって続いた。

 

  

 Uボート

 U56号は、闇夜を利用して船団に近付いていた。

 船団の方からから迫ってくる場合は、幸運で楽だった。

 ドイツの潜水艦戦略は、Uボートを機雷の様に数をばら撒き、

 たまたま、通りかかった艦船は、不幸という発想だった。

 決して、潜水艦の性能自体を高め、

 追い掛け回して沈めるというものでない。

 甲板の高い商船の方から、甲板の低いUボートは見え難く。

 Uボートからは、水平線上に浮かぶ船団は良く見えた。

 「運が良いな、獲物の方から向かってきた」

 「艦長、発射準備は完了しています」

 「いつでも発射できます」

 「今度は、やれそうだな」

 「しかし、護送船団方式を取られてから、攻撃が難しくなってきたな」

 「リュッツオウのおかげですよ」

 「全体でみると護送船団方式の採用で戦果が低下していますから」

 「船団待ちの効率を含めると微妙かな」

 「無制限潜水艦作戦だと楽なんだが・・・」

 「アメリカが怖いのですかね」

 「怖いのは、アメリカ軍でなく、艦船数や武器弾薬の量だろう」

 「ドイツが生産する武器弾薬より多く作られたら、お手上げだな」

 「アメリカの生産量は、そんなに凄いんですか?」

 「世界地図を見ろよ。副長」

 「アメリカ合衆国の中に丸々、欧州が入るだろう」

 「しかも、南アメリカを経済植民地にしている」

 「・・・・なるほど」

 潜水艦から魚雷が発射され、

 護衛艦1隻、輸送船3隻。さらに輸送船2隻が撃沈。

 そして、潜水艦は、さっさと逃げていく。

 

 

 

 南大西洋

 27000トン級巡洋戦艦リュッツオウ、

 50口径305mm連装4基、27ノット。

 ベディッカー少将は、発見されるように無電を発信。

 インド洋を西進していく。

 リュッツオウ 艦橋

 ベディッカー少将は、望遠鏡で北東を覗いていた。

 時化の中、

 3隻の巡洋戦艦が見え隠れしながら向かってくる。

 「どうやら、パケナム少将の部隊に見つかったようです」

   イギリス第2巡洋戦艦部隊 パケナム少将

    インディファティガブル、ニュージーランド、オーストラリア、

     18000トン、45口径305mm連装4基、25ノット。

 「どの道、巡洋艦隊の囮になって、逃げるつもりだからな」

 「ジェラム中将のイギリス第1巡洋戦艦隊に見つからなかったのは幸いでしたね」

 「向こうの方が速いからな」

 「そうなると、就役したばかりのレナウンとレパルスの居所が気になりますね」

 「慣らし運転しながら捜索するなんて、よっぽどのベテランを乗せてるようだ」

 「イギリス艦隊の無線は?」

 「リュッツオウを発見したと。海域と方向を送信しています」

 「北東から真っ直ぐ向かってきている・・・」

 「レナウンとレパルスは、ケープタウン側にいるということかな」

 「南西に逃げない方が良いと?」

 「いや、そういう風に思わせている場合もある」

 「それにリュッツオウの方が速い」

 「ええ、時化の上に11年から13年製」

 「こちらは、16年製で元からこちらの方が速いですから」

 「暴風圏を振り切ったら、大西洋に戻るか」

 「フォン・ロイター代将が積荷を届けてくれれば良いのですが」

 「そうだな。随分使ってしまった」

 「あちら、こちらで拿捕できたから、それで何とかやっていけそうだ」

 「問題は日本海軍だな」

 「オーストラリアが購入した艦隊ですか?」

 「そんな名目・・・」

 「中身は、日本人だろう」

 「立派な日本艦隊だ。無事に行き着けるかどうか・・・」

 「アメリカか、日本の中立国船に運ばせた方が良かったのでは?」

 「心意気だよ。心意気」

 「本国から直接物資が送られたというのが戦意向上に繋がるんだ」

 「ははは・・・」

 「戦意を失えば、ロシア軍の様に崩壊するのみだ」

 「確かに」

 「波が荒れているな」

 「この先は、もっと荒れてますよ」

 「暴風圏だからな・・・」

 「そう言えば、あの艦隊、燃料は、どのくらいあるのかな」

 提督は、北東を覗きながら呟く

 「こちらが無電を発したのが3日前」

 「北西から真っ直ぐ来たということは・・・」

 「この辺でしょうか」

 「洋上補給が3日前だとすれば本艦より多いかと」

 「それは巡航速度の場合だろう」

 「速度を上げていた場合は、燃料消費も増えるはずだ」

 「確かに」

 「こちらの補給船と合流、洋上補給を受ければ燃料を最小限で十分に引き離せそうだな」

 「上手くいけば逆に戦えるかもしれない」

 「イギリス巡洋戦艦が燃料切れで停まっていれば確かに楽勝ですが・・・」

 「燃料分だけ軽い方が災いすることもある」

  

 

 イギリス第2巡洋戦艦部隊

  インディファティガブル、ニュージーランド、オーストラリアは、

 リュッツオウを追撃していた。

 暴風圏を抜けようとした時。

 リュッツオウの反撃を受けた。

 インディファティガブル艦橋

 パケナム少将

 「提督・・・リュッツオウです・・・T字戦です」

 リュッツオウから砲撃が始まった。

 「撃ち返せ!」

 「全艦隊、暴風圏を脱出して同航戦に入るぞ」

 「撃て!!」

 リュッツオウの砲弾は、イギリス艦隊の近場に落ちて水柱を上げる。

 しかし、イギリス巡洋戦艦3隻の撃つ砲弾は、とんでもない場所に落ちる。

 そして、何度、修正しても、

 暴風圏内のイギリス艦隊から撃ち出される弾道は安定しない。

 リュッツオウの弾道は、的確にニュージーランドを捉えていた。

 降り注ぐ砲弾。

 そして、命中。

 暴風圏に近く、時化気味であることから

 両艦隊とも平均より命中率が低い程度の差だった。

 イギリス第2巡洋戦艦部隊が305mm連装4基×3隻だと24門。

 リュッツオウが305mm連装4基で8門。

 通常なら圧倒的にリュッツオウが不利。

 しかし、このときは違った。

 重要なのは、イギリスの巡洋戦艦が18000トンで暴風圏側。

 しかも燃料消費で艦の重心が上に上がっていた。

 一方、リュッツオウは、27000トンで時化側だったこと。

 イギリス第2巡洋戦艦部隊が

 305mm連装4基×3隻で艦首側の12門しか使えず。

 リュッツオウは、T字戦で8門すべて、使えた。

 そして、プラットフォームの違いは、命中率の差だった。

  

 リュッツオウ艦橋

 ベディッカー少将

 「艦長。もういい! 右の戦艦を狙え」

 「・・・とどめは?」

 「暴風圏を出られる前に敵艦隊に損害を与えて、士気を挫く」

 「了解です」

 リュッツオウは、イギリス巡洋戦艦が暴風圏を脱出する前に可能な限り打撃を与える。

 インディファティガブルに4発。

 ニュージーランドに3発。

 イギリス艦隊が暴風圏を出た後、

 オーストラリアに4発を命中させ大破させる。

 リュッツオウと第2巡洋戦艦部隊は、

 その後も撃ち合うが巡洋戦艦部隊が不利を悟った。

 暴風圏に逃げ込む。

 ベディッカー少将は概算で計算した後、

 暴風圏内で第2巡洋戦艦部隊を追い掛け回すより。

 撤退を決める。

 それは、リュッツオウの主砲弾減少、燃料消費。

 そして、艦中央に2発命中したこと。

 パケナム艦隊は撃沈に至らなくても、3隻とも大破であり、

 修理改装は本国に帰還しなければならず。

 国力を消耗するはずだった。

 こちらが2発受けていたとしても

 総トン数が9000トンも違えば抗堪性がまったく違う。

 当たりどころにもよるが

 リュッツオウは程度の低い中破であり。

 パケナム艦隊は、致命的な大破を受けて尚、火災の鎮火も兼ね、

 危険な暴風圏入りを選択した。

 もう一つの理由は、レナウンとレパルスが

 第2巡洋戦艦部隊の危急を知り無電を打ったためだ。

 無線輻射の関係で、レナウンとレパルスのだいたいの方向と距離がわかる。

 「提督。今度は暴風圏で取り逃がしですね」

 「良いも、悪いも、暴風圏のおかげだな」

 「イギリス巡洋戦艦3隻と撃ち合って、命中弾が2発なら勝ちだろう」

 「確かに」

 「レパルスとレナウンを大西洋に引っ張っていくか」

 「それで良いので?」

 「さっきの艦隊が、レパルスとレナウンだったら」

 「他にもやりようがあったが・・・・」

 「勝てたので?」

 「いや、練度の低いレパルスとレナウンなら」

 「同じ条件で砲数同じトン数同じで計算して・・・」

 「相撃ちでも良いような気がしてな」

 「たしかに、こういう、チャンスは二度とないですね」

 「軍艦は、潰し時を失うと惨めだからな」

 「本国がヒンデンブルグを出せば、2対2でやれませんか?」

 「それでも、今回のような好条件がなければ、無理だな」

 「まともに戦えば負ける場合もある」

 「ええ」

 「どうします?」

 「そうだな」

 「リューデリッツ港で一度、応急修理と補給を受けるべきだろうな」

 「ケープタウン港と近いですね」

 「確かにそうだな」

  

  

 フォン・ロイター代将率いる艦隊は、リュッツオウと分かれインド洋を東進していた。

 軽巡洋艦6隻

 5180トン級(ヴィースバーデン 、フランクフルト )

 4900トン級(グラウデンツ、レーゲンスブルク)

 4385トン級(ブルマー、ブレムセ)

 輸送船10隻

 フランクフルト 艦橋

 「せっかく、大西洋に脱出できたのだ」

 「エムデン以上の戦果を上げたいものだな」

 「3660トン級エムデンに負けると何を言われるか分かりませんからね」

 「せめて孫に誇りたいものだ」

 「その前に戦争が終わらなければ良いのですが」

 「それは困るよ。老後の楽しみがなくなる」

 「多くの他人の不幸が己の幸福になるのですから、人間は救われませんね」

 「積極的に考えたまえ、副長」

 「ベディッカー少将のリュッツオウが囮になって、我々に手柄を与えてくれるのだ」

 「それに一概に利己的なばかりが世の中とは言えまい」

 「犠牲者に感謝することにしよう」

 「なんとなく独り善がりですな」

 「そんな事はなかろう」

 「我々が吹き飛ばされる時は、やはり相手に感謝されるのだ」

 「なるほど、我々の犠牲のおかげで出世できたと?」

 「どうだ。死に甲斐があるだろう」

 「・・・ちっとも・・・」

 

 

 そして、イギリス第1巡洋戦艦隊。ジェラム中将

 レナウン、レパルスが北大西洋側から南大西洋へと追撃戦を開始する。

 レナウンとレパルスが並走する標的艦に向けて砲撃していた。

 当然、弾薬補給船も引き連れている。

 レナウン艦橋

 「まだ慣熟訓練中なのにな。出会わない事を祈るばかりだ」

 「2対1でも、まずいですね」

 

 

 南極大陸

 砕氷艦2隻が物資の荷揚げしていく。

 時間との戦いは命がけであり、

 武器弾薬を消費しなくても、それに近い緊迫感が漂う。

 日本は、世界で、もっとも南極投資していた。

 それも、圧倒的なほど大きかった。

 氷原にドーム上の建造物が、いくつも作られ。

 アーチ状の通路でドーム状の建造物が連結され、

 南極基地の敷地は、広がっていく。

 そして、地表より大きな施設が凍土のさらに地下に伸びていく。

 北東シベリアと同様の方式だった。

 トンネル掘削用電気機関車が南極大陸の沿岸に沿って東西に伸びようとしていた。

 そして、数人の男たちが、掘削中の先端部に集まっていた。

 「石炭層があるぞ」

 「ああ、これで油田や鉱物層とぶつかれば、自立の道は、もっと、開けるだろうな」

 「これで予算も、獲得できる」

 「しかし、北東シベリアの予算を切り崩すのは、困難だろう」

 「なあに国家予算は、年々、急増している。欧州大戦が続いている間は、大丈夫だろう」

 「そうだな・・・」

 「しかも、ここで、資源があったことは最高機密だ。世論はりになりそうにない」

 「・・・議院内閣制だろう。世論なんか、押し切れるさ」

 「世論を押し切れても、議院内閣制は利権が幅を利かせる」

 「残念ながら海軍のそれは、弱いからな」

 「それに中国大陸から相当量の資源が入る」

 「そして、北東シベリアは南極より小さいが、はるかに近く。まだ利便性が良い」

 「不利か・・・」

 「まぁ 自立できれば自己増殖できるだろうよ」

  

 

 12/21

 ドイツ帝国 ヴィルヘルムスハーフェン港

 その日、1571トン級三本マスト・クリッパー帆船が出航する。

 全長83.5×全幅11.81×吃水5.5、900馬力、

 105mm砲2門、重機関銃二挺。

 武装帆船はゼーアドラー(海の鷲)と名付けられ。

 フェリクス・フォン・ルックナー伯爵指揮下で通商破壊に投入された。

 「こんな帆船で通商破壊とは・・・」

 「スカゲラック海戦でまともに動く艦艇がなくなったからな」

 「こんな帆船でも役に立つだろう」

 「アメリカ製は、悪くないですね」

 「贅沢言ってもしょうがないだろう」

 「シュペ提督やエムデンのミューラー中佐の様に活躍できますかね」

 「伝説を作る気がある者は、そうでない者の10倍は、伝説を作れるだろうな」

 35歳のルックナー伯爵は、ほほ笑んだ。

 

 12/29 ロシアでラスプーチンが暗殺される

 皇帝のお気に入りである怪僧の死は、ロマノフ王朝に暗い影を落とした。

 ことの是非はともかく、

 既に皇帝に対する誠意は貴族からも失われ。

 ロシア皇帝は外堀も内堀も埋められていた。

 

 

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 月夜裏 野々香です

 09/01 ルーマニアが史実と逆にロシアに宣戦布告、です。

 

 

 ドイツの巡洋艦です。

 エムデンは良くやったと言えるでしょう。

 

 ドレスデン型巡洋艦 1907年

 3440トン、全長118×全幅13.4×吃水5.3、16000馬力、23ノット

 105mm×10、魚雷×2

 ドレスデン 、エムデン 、

 

 マグデブルグ級巡洋艦 4隻(1911年)

 4362トン、全長130.5×全幅14×吃水5.48、25000馬力、27ノット、

 105mm×12、魚雷×2、機雷120、354人、

 マクデブルク、ブレスラウ、ストラスバーグ、シュトラールズント

 

 ピラウ型軽巡洋艦 2隻 1914年

 4390トン、全長135.3×全幅13.6×吃水5.64、30000馬力、27.5ノット

 150mm×8、88mm×2、魚雷×2、機雷120、

 ピラウ、エルビング

 

 カールスルーエ級巡洋艦 2隻(1914年)

 4900トン、全長139×全幅13.7×吃水5.79、26000馬力、27.8ノット

 105mm×12、魚雷×2、機雷120、

 カールスルーエ 、ロストック 、

 

 グラウデンツ級巡洋艦 2隻(1914年)

 4900トン、全長142.2×全幅13.7×吃水5.79、26000馬力、27.5ノット

 150mm×7、88mm×2、魚雷×2、機雷120、

 グラウデンツ、レーゲンスブルク

 

 ヴィースバーデン級巡洋艦 2隻(1915年)

 5180トン、全長145.3×全幅13.9×吃水6.06、31000馬力、27.5ノット、

 150mm×8、88mm×2、魚雷×4、機雷120、

 ヴィースバーデン 、フランクフルト 、

 

 ケーニヒスベルク級巡洋艦 4隻(1915年)

 3400トン、全長115.3×全幅13.2×吃水5.29 馬力13200 24ノット

 105mm×10 52mm×10 魚雷×2 乗員332

 ケーニッヒスベルク、ニュールンベルク、シュトウットガルト、ステッチン.

 

 ブルマー型 2隻 1915年

 4385トン、全長140×全幅13.2×吃水6、33000馬力、28ノット、

 150mm×4、88×2、魚雷×2、機雷400、

 ブルマー、ブレムセ

 

 ケルン型巡洋艦 1916年

 6195トン、全長150m×全幅14.2×吃水6.22、10000馬力、29.5ノット、

 150mm×8、88mm×3、魚雷×4、機雷200

 ケルン、ドレスデン

  

 

 

 

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第23話 1915年 『第一次世界大戦 2』

第24話 1916年 『第一次世界大戦 3』

第25話 1917年 『第一次世界大戦 4』

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