月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

 

 

第26話 1918年 『第一次世界大戦 終結』

 太平洋のオーストラリア(レンタル)艦隊は、軽巡6隻の陽動に引っ掛かり、

 輸送船2隻をラバウルとポナペに入港させられる。

 この事態を重く見たイギリス海軍は、

 外洋のドイツ植民地に対する攻勢を計画。

 そして、動員されたのは、いずれも大口径戦艦。

 要塞砲台の射程外から砲撃を加え、

 根こそぎ粉砕するといった力技だった。

 砲身の換えや砲弾の貯え。弾薬に余裕がある大国ならでの戦法だった。

 イギリス海軍は、ドイツ海軍が修理改装を必要とする期間を利用し、

 ドイツ通商破壊戦隊への討伐艦隊を出撃させた。

 

 

 ドイツ軽巡洋艦部隊は、3隊に分かれ、

 洋上、補給による通商破壊作戦に切り替えていた。

  5180トン級(ヴィースバーデン 、フランクフルト )

  4900トン級(グラウデンツ、レーゲンスブルク)

  4385トン級(ブルマー、ブレムセ)

 

  

 イギリス艦隊

 第3戦艦隊(バーニー中将)

 戦艦5隻 (リベンジ、レゾリューション、ロイヤル・オーク、ロイヤル・ソブリン、ラミリーズ)

 第5戦艦戦隊(エヴァン・トマス少将)

 戦艦 (クイーン・エリザベス、ウォースパイト、マレーヤ)

 

 第1戦艦隊(ジェラム中将)

 巡洋戦艦2隻 (レナウン、レパルス)

 

 第3戦艦隊(リヴェソン少将)

 巡洋戦艦2隻 (カレジアス、グロリアス、フューリアス)

 

 パケナム少将

 巡洋戦艦(インデファディガブル、ニュージーランド、オーストラリア)

 

 オーストラリア(レンタル)艦隊

 戦艦13隻、装甲巡洋艦12隻は、3隊に分かれてそれぞれの要塞港を監視していた。

 

 

 インド洋

 日本第一艦隊

 戦艦5隻、装甲巡洋艦4隻

   戦艦(ボロディノ、アレクサンドル3世、アリヨール、スワロフ、スラヴァ)

   装甲巡洋艦(ロシア、グロムボイ、リューリック)、(バヤーン)

 

東アフリカ・インド洋方面

ダルエスサラーム要塞

装甲巡洋艦2隻 ローン ヨルク      
10000トン、210mm連装×2、21ノット、

前ド級戦艦5隻

カイザー・

フリードリヒ3世

カイザー・

ウィルヘルム2世

カイザー・ウィルヘルム・

デア・グローセ

カイザー・カール

・デア・グローセ

カイザー・

バルバロッサ

11000トン、240mm連装2基

 

 

 太平洋 ポナペ

 日本第二艦隊、戦艦4隻、装甲巡洋艦4隻

   戦艦(三笠、初瀬、敷島、朝日)

   装甲巡洋艦(八雲、吾妻、浅間、常盤)

 

 太平洋 ラバウル

 日本第三艦隊 戦艦4隻、装甲巡洋艦4隻

   戦艦(ツェザレウィッチ、レトヴィザン)、(八島、富士)

   装甲巡洋艦(出雲、磐手、春日、日進)

 

太平洋方面
装甲巡洋艦3隻 ブルッヒャー シャルンホルスト グナイゼナウ
15000トン、210mm連装×6  24.8 12000トン、210mm連装×2 210mm×4 22.5
軽巡洋艦(ライプツィヒ、ニュルンベルク、ドレスデン)3隻
仮装巡洋艦 (ヴォルフ、メーヴェ)2隻
ポナペ要塞
前ド級戦艦5隻 ヴィッテルスバッハ ウェッティン ツェーリンゲン シュヴァーベン メッケレンベルグ
11000トン、240mm連装2基
ラバウル要塞
前ド級戦艦5隻 ブラウンシュバイク エルザス ヘッセン プロイセン ロートリンゲン
13000トン、283mm連装3基

南西アフリカ・南大西洋方面
リューデリッツ要塞
装甲巡洋艦2隻 プリンツ・アダルベルト フリードリヒ・カール1世    
9000トン、210mm連装×2、20ノット、
前ド級戦艦4隻 ブランデンブルグ クルフュルスト・フリードリヒ・ウィルヘルム ワイゼンベルグ バルト
10000トン、283mm連装3基

 

 

 南西アフリカの要塞砲台

 リューデリッツ港に埋め立てられた前ド級戦艦4隻は、

 その主砲を海上に向けていた。

 一週間ほど前まで、リュッツオウが、補給艦2隻と停泊していた。

 しかし、出航した後、静かな日々が続いていた。

 現在、軽巡洋艦(ハンブルグ、フラウエンロブ、シュトゥットガルト)、

 Uボート4隻、某国の給油船2隻が停泊しているだけ、

 中立国船が雇われると物資を運んでくるため、

 基地は、それなりの備蓄があった。

 南アフリカのイギリス軍が攻めてくることもなく。

 海上を見張るイギリス艦隊装甲巡洋艦隊も監視だけ、

 比較的、のんびりとした要塞港といえた。

 ドイツ軍の二等兵が2人、

 高台の上で、歩哨に立っていた。

 「潜水艦は、イギリス海軍の軍艦を沈めないのか?」

 「港にいるんだろう」

 「・・・軍艦が待ち受けているのにノコノコ行ったりしないよ」

 「潜水艦は、習慣化してマンネリ化しているところを狙って攻撃するんだ」

 「敵艦は気が付いたら魚雷を受けていた。というのが理想だな」

 「そういうものか」

 「そうさ、リュッツオウが港に近付いただけで、イギリスの装甲巡洋艦が消えたじゃないか」

 「相手が強いときは逃げる。当たり前だよ」

 「・・・・卑怯だな」

 「弱肉強食の世界では当たり前」

 「しかし、リュッツオウは1隻で、イギリスの巡洋戦艦3隻を大破させてる。凄いな」

 「ベディッカー少将は、大人気じゃないか」

 「モテモテだったな。確か・・・・ “窮鼠猫を噛む” というらしい」

 「何だそれ」

 「この前、来た。日本の船員に教わった」

 「ああ、あの鹿島の乗員だった?」

 「追い詰めたからと油断していると強い方がやられる、という意味だ。ねずみが猫を噛む」

 「3隻の武装商船がバルチック艦隊を翻弄したようにか」

 「やっぱり、男なら通商破壊だよな」

 「ドイツの艦長たちもイギリス艦隊を翻弄しているからな」

 「やっぱり、最有力は、シュペ艦隊だよな」

 「対抗はリュッツオのウベディッカー少将か」

 「いや、エムデンのミューラー艦長も、最初から頑張ってるぞ」

 「ゼーアドラー号のフェリクス・フォン・ルックナー伯爵は、武装帆船で頑張ってる」

 「なんか、負ける気がしな・・・」

 「・・・ん・・・あれは何だ?」

 「・・・・・戦艦だぞ」

 「なんで・・・・あんなに大艦隊がいるんだ」

 歩哨の2人は、しばらく、呆然とし、

 イギリス戦艦部隊の来襲を通報する。

 そして、イギリス戦艦部隊の砲撃が始まった。

 ドイツ要塞砲台は、射程外で沈黙するしかなく、

 要塞砲台周辺は、381mm砲弾が降り注ぎ、

 大地ごと抉り取られて吹き飛ばされていく。

 ドイツ軍将兵は、砲弾が降り注ぐ中、

 逃げ回るか遮蔽物に隠れるしかなかった。

 そして、南西アフリカの要塞砲台は、

 イギリス戦艦部隊の艦砲射撃により沈黙。

 完全に破壊されてしまう。

 停泊していた中立国船は、脱出させられ。

 ドイツ艦船は、全て撃沈されていく。

  

 

 東アフリカ

 装甲巡洋艦ヨルク。

 軽巡フランクフルト、ウィースバーデン、ピラウ、エルブロンクは、 

 南西アフリカの報を聞いた夜間になって逃げ出した。

 しかし、日本艦隊の追撃に遭うと撃ち合う事もなく降伏。

 ここで問題になったのは、レンタル艦隊の捕虜及び戦利品協定だった。

 所有権は、代金を払い終えるまで日本側にあった。

 日本の軍艦に座乗したオーストラリア将校と士官は歯噛みする。

 ドイツ海軍が日豪協定の内容を知っていたと、

 わかったのは戦後50年後のことだった。

  

 一ヶ月後

 イギリス戦艦部隊は、砲身交換を終わらせ、

 東アフリカドイツ領に来襲。

 飛行機の観測で艦砲射撃が始まり、

 埋め立てられた前ド級戦艦5隻を襲う。

 カイザー・フリードリヒ3世、

 カイザー・ウィルヘルム2世、

 カイザー・ウィルヘルム・デア・グローセ、

 カイザー・カール・デア・グローセ、

 カイザー・バルバロッサ

 11000トン、240mm連装2基。

 川の上流に埋め立てられ、

 海上から見えにくい場所だったにもかかわらず。

 水上機からは丸見えであり、

 イギリス戦艦部隊の射的の的になって壊滅していく。

 「提督、最後の1隻は、随分、上流に埋め立てられましたね」

 「ああ、内陸用だろう」

 「11000トン旧戦艦だからボートにギリギリまで引っ張らせろ」

 「なんか、みっともないですね」

 「荷物のほとんどを降ろしての前進で、副砲まで外すなんて・・・・」

 「座礁する方がみっともない」

 銃声が聞こえる

 「・・・・左舷の見張りが一人、射殺されました」

 「くそっ 撃ち返せ」

 河川の対岸のドイツ軍とイギリス艦隊の銃撃戦が行われる。

 副砲を降ろしたツケだった。

 そして、ドイツ植民地軍は、要塞砲が無力化されただけであり、

 緒戦のドイツ軍の勝利で、イギリス軍も、フランス軍も兵力不足。

 欧州戦線で苦戦しているイギリスは、上陸部隊を割り振りできず。

 ドイツ植民地軍を圧倒できるだけの陸上戦力はなかった。

  

 そして、太平洋方面

 太平洋ポナペ

 戦艦4隻、装甲巡洋艦4隻

 戦艦(三笠、初瀬、敷島、朝日)

 装甲巡洋艦(八雲、吾妻、浅間、常盤)

 

 太平洋ラバウル

 戦艦4隻、装甲巡洋艦4隻

 戦艦(ツェザレウィッチ、レトヴィザン)、(八島、富士)

 装甲巡洋艦(出雲、磐手、春日、日進)

太平洋方面
装甲巡洋艦3隻 ブルッヒャー シャルンホルスト グナイゼナウ
15000トン、210mm連装×6  24.8 12000トン、210mm連装×2 210mm×4 22.5
軽巡洋艦(ライプツィヒ、ニュルンベルク、ドレスデン)3隻
仮装巡洋艦 (ヴォルフ、メーヴェ)2隻
ポナペ要塞
前ド級戦艦5隻 ヴィッテルスバッハ ウェッティン ツェーリンゲン シュヴァーベン メッケレンベルグ
11000トン、240mm連装2基
ラバウル要塞
前ド級戦艦5隻 ブラウンシュバイク エルザス ヘッセン プロイセン ロートリンゲン
13000トン、283mm連装3基
 

 

 オーストラリア(レンタル)艦隊は、交替で監視しすることで、

 シュペ艦隊を脱出させることなく要塞港に閉じ込めていた。

 ドイツ太平洋艦隊は、オーストラリア(レンタル)艦隊に包囲されて逃げられず。

 シュペ艦隊は、イギリス戦艦の艦砲射撃で

 基地ごと袋叩きに遭うと悟る。

 シュペ艦隊は、イギリス戦艦部隊が来航する2日前に出撃。

 レンタル艦隊は、観測のため、試射こそしたが

 本格的な砲撃戦に至る前にシュペ艦隊は降伏。

 その後、イギリス戦艦部隊が到着。

 太平洋上のドイツ要塞港は、大口径砲弾の艦砲射撃で壊滅する。

  

 

 ドイツ太平洋海軍は、

 イギリス艦隊やオーストラリア海軍に降伏したのではないと満足し、

 そして、欲求不満で腹を立てたのは、イギリス海軍とオーストラリア海軍だった。

 釈然としないものを感じるものの、

 現実に起こったものは仕方がなく。

 ドイツ太平洋艦隊

  装甲巡洋艦4隻、軽巡8隻、仮装巡洋艦3隻、輸送船5隻は日本艦隊に拿捕され、

 レンタル料の支払いまで、東京湾で停泊する。

 装甲巡洋艦

   (ブルッヒャー、シャルンホルスト、グナイゼナウ、ヨルク)

 軽巡

   (ライプツィヒ、ニュルンベルク、ドレスデン)

   (フランクフルト、ウィースバーデン、ピラウ、エルブロンク)

 仮装巡洋艦 (ヴォルフ、メーヴェ)

 

 東京湾の堤防で、シュペ中将は、自分の艦隊を見詰めていた。

 「・・・釣りですか? シュペ中将殿」

 日本の武官が英語で声をかける。

 「これは、秋山中将。暇なものですからね」

 「中将のドイツへの貢献は敬服に値しますよ」

 シュペ中将は苦笑いする。

 日本艦隊が要塞港を包囲していなければ、もっと活躍していた。

 それでも、世界最強のイギリス海軍を翻弄したのだから

 良しとすべきだろうか。

 いまでは、シュペ艦隊より、

 ドイツ巡洋戦艦(リュッツオウ)と軽巡6隻を指揮し、

 洋上補給で戦うベディッカー少将の人気が高くなっている。

 巡洋戦艦は、装甲巡洋艦より航洋性がある、

 しかし、考え方の違いでもある。

 「日本の新型戦艦。実に素晴らしい艦隊ですな」

 扶桑、山城が東京湾に浮かんでいた。

 「戦艦だけでは、戦争出来ませんがね」

 「確かに・・・・」

 「オーストラリアに売った日本艦隊は、買い戻されたのですか?」

 「ええ、もう旧型ですので解体しました」

 「砲塔を河川砲艦に載せ換えて、売りに出すそうです」

 「日露戦争時の救国艦艇を売り渡してしまうろは、日本人も随分、リアリストですな」

 「三笠だけは、記念艦で残すことが決まりました」

 「まだ使えるのでは?」

 「新型戦艦とは、次元が、まったく違いますから」

 「もう誰も乗りたくないでしょう」

 「なるほど・・・新しもの好きですな」

 「ええ、おかげで欧米諸国の技術の導入が上手く成功したようです」

 「日本は、シベリアに出兵されないのですか?」

 「確か、日本は、シベリア出兵に反対したとか」

 「ロシア帝国の質的な問題を皇帝に指摘しましてね」

 「皇帝の権威をもう一度、安定させるため」

 「善政を敷くことを提案しただけです」

 「首都陥落で混乱している状態なら」

 「ソビエト共産主義を倒せたはずでは?」

 「民衆の支持を受けていない権力は、維持するのは困難ですよ」

 「それに皇帝も、貴族も、民衆の襲撃で臆病になっていましたから」

 「なるほど・・・」

 「アムール州・満州・朝鮮だけで、ロシア帝国を再建させる。ですか」

 「その方が、日本にとって、望ましいわけですな」

 「貴族社会は、華やかに見えて、機会が与えられず」

 「競争がなく社会全般で停滞しやすく、効率が悪いですから」

 「日本としては、好ましい状態ですよ」

 「朝鮮半島ぐらい取るべきでは?」

 「南岸要塞が確保されているので、何とかなるでしょう」

 「それにロシア帝国は、友好国ですから」

 「・・・よほど、北東シベリアの開発が進んでいると見受けられる」

 「ええ、期待できそうですね」

 「アメリカ資本が、ロシア帝国に入ろうとしているようですが?」

 「日本資本も入ってますよ」

 「アメリカ資本の100分の1程度ですが」

 「今後、太平洋でも、アメリカ勢力が強くなっていきそうですが」

 「大丈夫ですかな?」

 「かなり心配ですが扶桑型8隻がある間は、何とかなるでしょう」

 「・・・扶桑型8隻の減価償却が過ぎるまでには、北東シベリア開発が軌道に乗ると?」

 「ふっ まだわかりませんがね」

  

  

 ロシア皇帝は、日本の提案を受け入れ、

 ソビエトに対する干渉戦争を停止。

 そして、極東を中心に権力・支配構造を構築していく。

 欧州ロシアは臨時政府やソビエトの支配していた、

 皇帝派の貴族と民衆がアムール州・満州・朝鮮半島に向かって移動していく。

 その逆もあった。

 皇帝を捨て、人民による政治に可能性を見出す者もいた。

 そして、混乱している間は、どうにでもなるもので、

 当然、どちらもスパイがいる。

  

  

 欧州大戦とか、世界大戦とか、言われる戦争は、膠着状態のまま続いていた。

 ドイツ、オーストリア、トルコは、東に向かって、支配域を大きく広げていく。

 オーストリア帝国は、大戦の切っ掛けになったセルビアの大部分を占領。

 ブルガリアは、セルビア、アルバニア、ギリシャの一部に対し、支配域を広げる。

 そして、圧倒的なのはドイツ帝国だった。

 工業力で他の同盟国の工場であり続け、

 イギリス・フランス軍は、

 東部戦線からドイツ軍が西部戦線に戻ってくる前に大攻勢を掛けた。

 しかし、110万を越える死傷者を出して英仏軍は敗北。

 あまりの被害にイギリスも、フランスも、戦意が低下。

 ドイツ軍は、30万の死傷者を出したものの、

 戦線は維持され、

 講和の直接の原因に繋がる。

  

 

 リュッツオウ艦隊以外の通商破壊艦艇も生き残っていた。

 3440トン級軽巡洋艦エムデン

 1571トン級三本マスト・クリッパー帆船ゼーアドラー

 好運というべきか、不幸というべきか、

 2隻はオーストラリア(日本)レンタル艦隊に閉じ込められる前に出航しており、

 通商破壊を継続中だった。

 イギリス主力艦隊は要塞を破壊したあと満足したのか

 北大西洋に回航されていく。

 インド・太平洋に残ったイギリス艦隊は僅かだった。

 インド洋

 武装帆船ゼーアドラー

 いい加減に船を乗り換えれば良いものを、

 いまだに武装帆船だった。

 全長83.5×全幅11.81×吃水5.5は、高速帆船であり、

 900馬力エンジンの推進力も加算できた。

 機帆船がいいのは、風を利用して、海を航行できることであり。

 風速さえ良ければ、25ノットを超えることもあった。

 ザンジバルを襲撃したゼーアドラーは、20ノットで北上していた。

 「大したものはなかったな」

 イギリスの武器弾薬、食料、財宝を山積みしていた。

 「ザンジバルは資源というより」

 「東アフリカを塞ぐ地理的な戦略的価値でしたからね」

 「しかし、ザンジバルは思ったより油断していたな」

 「要塞を破壊してシュペ艦隊を拿捕したので」

 「きっと欧州戦線に徴兵されたのでしょう」

 「そんなところか」

 「総督も幽霊でも見ているような表情だったからな」

 「「「「あはははは」」」」

 

 

 南太平洋

 3440トン級軽巡洋艦エムデン

 日本商船が検閲される。

 「行き先は中立国のポルトガルですか」

 「ええ」

 「積みには・・・いろいろですな」

 「ええ」

 「まぁ 良いでしょう」

 「我が国向けの方が多そうだ」

 将校が積荷目録を船長に渡す。

 ドイツの通商破壊を混乱させていた元凶がこれだった。

 イギリス向けだけの船を選んで撃沈するのは困難だった。

 一緒に撃沈すれば、青島から積み込まれている物資も海の底。

 そして、物資の量は、資金力がものをいう・・・

 「幸運を・・・」

 「ありがとう」

 商船隊は、時代に従い戦場を突っ切っていく。

 危険手当が増せば起死回生で人生を賭け、

 船出する者が現れた。

 味方の積み荷が届けば祖国の利益になり、

 同時に敵の積み荷が届けば、災厄をもたらす。

 ドイツ武装商船隊は、イギリス艦隊の疲労を突き、

 大西洋、インド洋の全域で展開していた。

 ドイツ帝国は、無制限潜水艦作戦の誘惑を受けながらも

 それが出来なかった。

 全ては、青島から中立国船で送られてくる戦略物資のためであり、

 潜水艦は危険を冒して浮上し、

 武装しているかもしれない商船を臨検し、

 敵と確認した後、撃沈する。

 大戦中期になるとどの商船でも大砲くらい積み始める。

 これでは潜水艦は戦えない。

 強力な大砲を乗せた武装艦艇でなければ活躍の場が狭められていく。

 

  

 南大西洋上

 巡洋戦艦リュッツオウ艦橋

 ベディッカー少将

 軽巡洋艦6隻

 5180トン級(ヴィースバーデン 、フランクフルト )

 4900トン級(グラウデンツ、レーゲンスブルク)

 4385トン級(ブルマー、ブレムセ)

 輸送船10隻

 洋上補給を受けたのち、

 某国の輸送船が離れていく。

 イギリスの大口径戦艦部隊は、まだ、太平洋上にいるはずだった。

 大口径の主砲で射程外から砲撃し、

 堅固な要塞砲台を叩き潰す戦略は悪くない。

 ただ、命数切れの砲身を何本も出しているはず、

 どれほど砲弾と弾薬を消費したかわからない無茶な作戦といえる。

 命中率次第だが、たいしたものだ。

 それとも、日本に砲身や弾薬を作らせたのだろうか。

 イギリス戦艦部隊の命数切れを狙って攻撃する手もあった、

 しかし、そう都合の良いことは、起こるまい。

 巡洋戦艦リュッツオウは、通商破壊作戦中に救われたようなもので、

 要塞港に停泊していたら、要塞と一緒に破壊されていた。

 今では、イギリス戦艦部隊と擦れ違いに

 南大西洋で戦果をあげていた。

 

 「提督。2時の方向からイギリス戦艦です・・・」

 「コンカラー・・・モナークの二隻のようです」

 343mm連装10門が2隻、21.5ノット。

 重要なのは、火力でなく、航続力と速度だった。

 「7時の方向に逃げるぞ。面舵」

 リュッツオウは、損傷こそしていたが

 相手が低速戦艦や装甲巡洋艦程度なら問題なかった。

 それでも、船団護衛に前ド級戦艦2隻以上いたら正面攻撃は止める。

 勝てないわけではなく、

 これ以上、損傷したくないだけといえる。

 夜間を利用して、適当に回り込んみ、

 数隻の輸送船を沈めるだけで良しとしていた。

  

  

 数週間後、

 アルゼンチン船籍の船から洋上で補給を受ける。

 ドイツ本国が支払っている金額は、相当なものだろう。

 中立国は、結構な小遣い稼ぎで、やめられない。

 たぶん、イギリスが払っている支払っている金額は、もっと多いはず。

 同型艦のヒンデンブルグも、

 通商破壊作戦に投入されるはずだった。

 しかし、封鎖機雷に当たって、

 もう一度、修理改装になったらしい。

 ケルン型巡洋艦 (1916年) だけが

 イギリス艦隊を振り切って通商破壊作戦に出ていた。

  6195トン、全長150m×全幅14.2×吃水6.22、10000馬力、29.5ノット、

  150mm×8、88mm×3、魚雷×4、機雷200

  ケルン、ドレスデン

 商船隊を沈めるだけなら軽巡洋艦2隻で十分と言えた。

 しかし、大規模輸送船団に中型の護衛艦が配備されると、

 手が出せなくなっていた。

 

  

 債権国アメリカの介入

 ウィルソン大統領は国際連盟を提唱し、

 和平会談を唱え、日本も道義的に賛同する。

 アメリカと日本の本音は

 “もっと戦え! 金が欲しい!” だった。

 しかし、世の中、本音でなく建前が勝つこともよくある事で、

 自由航行の方が金になる場合もあって、戦時特需も潮時だった。

 日本にすれば “余計な真似をしやがって” であり、

 ウィルソン大統領は、歴代大統領として名前を残し、

 次の選挙対策という命題が大きい。

 “今まで、散々稼いで、いまさら、偽善者ぶるな”

 と当事者、関係者、誰もが思ったものの、

 しかし、連合軍と同盟軍は、心底疲れていた。

 

 パリ

 瓦礫しか残されていないシテ島、

 中立国アメリカの工兵部隊が議場を建設し、

 和平会談が行われる。

 ここで、どちらか、一発撃てば、

 和平は、遠のくはずだった。

 しかし、そんなことを考える者がいないほど、両勢力は疲れ切っていた。

 交戦国の死傷者数は、ドイツを除き、軒並み史実を越え、

 参戦していないアメリカ、日本は相対的に国力を増大させていた。

 イギリス、フランス、ドイツは、これ以上の消耗を危険と判断する。

 アメリカも事前の調査で限界を見極めていた。

 イギリス・フランス、ドイツの主導者の顔は、戦争貧乏のそれであり。

 現在の戦線を国境線にすることで話しが決まる。

 フランスは反対する気力もない。

 賠償金も無し、捕虜交換規定が決まる。

 戦争が終結すると、国境線に向かって民族移動が始まる。

 そして、表面上は、勝者も敗者もなく。

 無粋な見かたをするなら、

 債権者と債務者の間でパリ平和条約が調印された。

  

  

 列強各国のソビエト共産主義に対する干渉は行われなかった。

 ロシア皇帝が極東ロシアに引き篭もると

 口実を失って無視される。

 国際連盟は、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアが加盟していく、

 しかし、肝心のアメリカは、モンロー主義のおかげで入れず。

 最大の債権国が、おかしな真似をと思うのだが、

 後でイギリスの世論工作だとわかる。

 世界最大の債務国でありながら

 イギリス、ドイツは、世界最強国だった。

 そして、世界最大の債権国アメリカに対し、

 債務国のイギリスとドイツが手を結んでも、

 おかしいことはなかった。

 実質、債権国側と債務国側で交渉が多くなると国際情勢も

 「貸した金を返せよ」

 「ちょっと待ってくれよ」

 「じゃ 植民地を渡せよ」

 「ちょっと、待て、って、言ってるだろう」

 「代金が遅れてるぞ、我が国の企業を潰す気か」

 「だから、ちょっと、待て、って、言ってるだろう」

 「逆ギレするなよ」

 「うるせ!!」

 と、そうなっていく。

 協議の多くを端的に端折ると、これだった。

 しかし、戦後、国内に未亡人や孤児が大量に溢れ、

 食べていくのに役に立たない武器弾薬が残り、

 欧州列強は、生活苦の戦傷者を腐るほど抱え。

 天文学的な借金で疲弊すると、

 こんな感じだろうか。

 ロシア帝国の借款返済は、

 ソビエト革命勢力と極東ロシア帝国に分かれてしまったため。

 各国とも両国に対し、取り立て交渉を開始する。

 この場合、国家を承認するか、

 各国間の思惑が密接に絡んでいたが、

 借款をどっちが払うかで決まる。

  

  

 この頃、日本は、戦後経済に乗り遅れまじと民需転換を図っていた。

 軍隊に優秀な人間をとられておらず、

 その辺の目端は、利いて、国政も、そちらへ誘導されていく。

 というより、軍隊官僚が弱く、

 邪魔しないだけで民需転換は、混乱しながらも上手くいく。

 軍需景気で儲けた多くの資本が民需転換され、

 北東シベリア開発と南極開発へ流れていく。

 日本の土木建設技術が列強レベルに達したのは、この時期であり。

 大規模な建設計画が進んでいた。

  

  

 南沙群礁

 日本の大型輸送船20隻以上から土砂が流し込まれ、

 小さな島が埋め立てられていく。

 「こんな小さな島を埋め立ててどうするんだ」

 「日本が領有するんだろう」

 「フランスに貸しがあるんならインドシナを貰えよ」

 「埋め立てなくても良いだろう」

 「さあな。政治家が決めたことだからわからんよ」

 「なにを作るんだ」

 「港湾、飛行場、要塞砲台、ほか、自給自足用施設一式」

 「はぁ〜」

 「南極や北東シベリアより楽だけどね」

 「台風が来る前に終わらせようぜ」

 空は、晴れていた。

 台風が来るのは2日後の予定だった。

  

  

 イギリス、ドイツ、フランスは、疲弊していた。

 植民地経営で借款を返済する為、さらに搾取が過酷になっていく。

 植民地の暴動は増え、戦艦を建造できる状況になかった。

 そして、欧州での平和は、当然、アメリカにも波及する。

 “戦争が終わって、いまさら戦艦を建造してどうする”

 欧米諸国の軍事関係者の話題を独占したのは、

 戦後完成した日本の扶桑型高速戦艦8隻だった。

 日本政府は、28ノットと公式発表していた。

 しかし、イギリスも、アメリカも、嘘だと見抜いており、

 30ノットは出せるだろうと見当をつけていた。

 実は、32ノット。

 さらに航続力はアメリカ戦艦並みで作戦能力も高く、

 扶桑、山城、伊勢、日向、長門、陸奥、土佐、加賀を追撃し、

 交戦可能な戦艦は少ない。

 同盟国イギリスのレナウン、レパルス、カレジアス、グロリアスだけが辛うじて追跡出来た。

 しかも、1対1で撃沈できる戦艦は皆無。

 比較的、標準的な火力と装備でありながら

 無敵の高速戦艦部隊だった。

 そして、この戦艦8隻が通商破壊を行った場合の損失は・・・

 シュペ艦隊とベディッカー艦隊を合わせたより、大きいと推測された。

  

  

 赤レンガの住人たち

 「新規の巡洋艦と駆逐艦。そして、潜水艦の建造費は?」

 「ほら、例のボロ艦隊が売れてからだろう」

 「はぁ〜 貧乏くせぇなあ」

 「そのままじゃ売れないのか?」

 「無理だろう。機関はバラバラ、艦体はボロボロ。癖がありすぎ」

 「共通している283mm連装砲台39基は、まだ使えるな」

 「今度は、耐久年数を計算してだな」

 「通商破壊の軍艦や河川砲艦を建造して、大砲を載せ換えるのは?」

 「2基は、駄目になっただろう」

 「砲塔を固定していた台座が安定していなくて衝撃で、やられただろう」

 「そ、そうだった。37基か」

 「じゃ 河川砲艦だと1隻2基で18隻」

 「通商破壊用の軍艦なら1隻3基だと12隻建造できるな」

 「4基だと9隻か・・・・」

 「本当に売れるのか?」 

 「戦争が終わって、どこも戦艦の建造を中止しているじゃないか」

 「南米が買うんじゃないか、リュッツオウ型は、人気があるぞ」

 「ほら、債務国が支払いを渋っているだろう」

 「ん・・・南米も、リュッツオウ型を配備して、債務国に圧力をかけたいんじゃないか」

 「それに揚子江も中国人の暴動が大きくなっているから河川砲艦なら売れる」

 「通商破壊なら潜水艦の方が良いだろう」

 「戦果も良いし」

 「扶桑型8隻も潜水艦で建造していたら良かったんだ」

 「それ、無制限作戦の場合だろう」

 「売れなければ自国用で使うか」

 「海軍は、それを望んでいるようだがね」

 「八八艦隊だろう」

 「・・・補助艦艇なしだな」

 「もっと予算をくれだとさ」

 「無理だろう」

 「それを計算して訓練費用をケチることが出来る通商破壊用の戦艦にしたのに」

 「しかし、射撃訓練の費用もケチられるとな」

 「うん、いくら最新の射撃管制が出来ても」

 「日露戦争の時の命中率は酷かっただろう」

 「それより、新型戦艦の台座は、大丈夫なんだろうな」

 「三笠型6隻を建造してから随分たつからな」

 「改装で繋いできたから実績不足だろう」

 「そりゃ 継ぎ接ぎじゃなくて最初から設計したものだし、何とかなるだろう」

 「慣熟訓練は、問題なしと報告が来ていた」

 「しかし、南米に売るとアメリカがうるさいぞ」

 「潜水艦ほどうるさくないさ」

 「今度は、ディーゼル・電気推進艦なのか」

 「輸送船用の小型エンジンなら問題ないがね」

 「河川砲艦も、小型のエンジンで良いだろう」

 「問題は、通商破壊用の軍艦だな」

 「ディーゼル機関だと、トン数は25000トンくらいだな」

 「そいつは、連装3基か?」

 「通商破壊なら速度と航続力と居住性があれば連装3基でも十分」

 「装甲は薄くても良いし」

 「水上機をたくさん載せて・・・」

 「しかし、こうも予算が少ないと、ろくな海軍大綱もないな」

 「扶桑型を8隻も建造するからだ」

 「半分の4隻でも良かったんだ」

 「欲しかったんだろう。戦艦が・・・」

 「男の夢だよ」

 「確かにシュペ艦隊とリュッツオウの通商破壊と海戦」

 「ドッカーバンク海戦、ユトランド海戦の戦いは血湧き肉踊るね」

 「男の夢より、穴掘りに夢をかけている人間が多い」

 「日本人の悪いところだな」

 「資源で自立するのは悪くないよ」

 「国家は、鉄と石炭で作られているんだ」

 「石炭の替わりに石油でも良いがね」

  

  

 ハルピン

 満州域のほぼ中央。

 大動脈ソンホワチアン(松花江) から

 アムール(黒竜江)川を経由し、

 間宮海峡の外海(日本)へと通じる要衝。

 世界主要都市の多くが大河川か海に面している。

 ハルピンはロシア帝国の新首都として不足はなかった。

 気候の良いウラジオラード(ソウル)、

 大都市のハバロフスク、

 日本海に面したウラジオストック、

 日本海と東シナ海に面した釜山など有望な都市は、いくつかあった。

 しかし、もっとも、重心が高いのがハルピンだった。

 そして、巨大な土木建設工事が始まる。

 オリガとアナスタシア皇女は、日本バルチック教会を見ており、

 日本人にハルピン新宮殿の建設を発注するように

 父ニコライ2世に勧めたのが原因。

 外見上はロシア風で、欧米諸国の機能性を取り入れ、

 日本人のきめ細かい利便性の高い様式が気に入られたらしい。

 そして、極東ロシア帝国は、あくまでもロマノフ王朝であり封建的だった。

 新たに極東に逃れてきたロシア貴族と民衆の土地配分が決まっていく。

 漢民族、満州民族、朝鮮民族の多くは、外周域に移動させられ、

 消えていく運命にあった。

   

 戦争終結と同時にシュペ艦隊の乗員は、捕虜の身から解き放たれ、

 ドイツへと帰還していく。

 オーストラリア政府は、国威掲揚するため日本に契約金を払い

 シュペ艦隊

  装甲巡洋艦(ブルッヒャー、シャルンホルスト、グナイゼナウ、ヨルク)

 軽巡

  (ライプツィヒ、エムデン、ニュルンベルク、ドレスデン)

  (フランクフルト、ウィースバーデン、ピラウ、エルブロンク)

 仮装巡洋艦

  (ヴォルフ、メーヴェ)

 オーストラリア国民に時代遅れのシュペ艦隊を見せるために・・・

 ブリスベーンとニューキャッスルの港に係留するために・・・

 

 どこかの港

 日本商船に資源と穀物が次々と積み込まれる。

 こういった光景は、戦後、交戦国と、

 その植民地の港でしばらく見られた。

 もちろん、行きがけの駄賃で日本製品が日本商船から降ろされていく。

 日本の工業製品の品質と技術は主要なものだけなら列強の水準に達していた。

 価格は、欧米諸国に比べて安く人気もあった。

 主要各国は国内産業が育たないと不平が出る、

 しかし、戦後復興や再建を進めなければならない。

 ということで、とんでもない利益が、日本にもたらされる。

  

 不確定要素もあった。

 北中国と南中国が揚子江経済圏から養分を吸い取りながら徐々に、

 そして、隠然と経済力を高めていた、

 北中国、段祺瑞(だんきずい)大統領(北洋軍閥)

 南中国、孫文大統領(西南軍閥)

 両国は、反発しながらも中国再建に向けて政策を進めていく。

 欧米諸国に支配された揚子江経済圏から

 近代化の波が揚子江の流域に広がっていた。

 商魂たくましいリアリストの中国人は、少しずつ欧米の方式を取り入れていた。

 もっとも、人間関係で言うと欧米人と漢民族は最悪だった。

 欧米諸国人は中国人を人間扱いしない。

 というより実務段階で中間管理層にいる

 インド人、黒人、フィリピン人がそういう扱いをする。

 中国人は、中国を世界の起源。世界の中心。

 周囲を蛮族とする中華思想に浸っており、

 我慢ならないことだろう。

 欧米諸国人と異民族の中間管理層は借金返済のため、

 中国人に過酷な労働を強要する。

 そして、中国人は裏切り者に対し爆発する。

 おかげで、日本の6.5mm小銃(5発・10発)の売れ行きは、

 すこぶる良かった。

 揚子江の港に日本製の装甲兵員輸送車と

 装甲列車車両と武器弾薬が降ろされていく。

 装甲兵員輸送車は、大型でライフル弾、手榴弾には耐えられた。

 それ以上の武器弾薬を中国民衆が入手しなければ鎮圧できる。

 これらは、欧米諸国の揚子江経済圏支配強化のため

 日本が輸出したものだった。

 「奏大人」

 「これが装甲兵員輸送車あるか。遅かったあるね」

 「待っていましたよ。宮本さん」

 「申し訳ありません。奏大人」

 「戦艦が完成したので、ようやく、こちらに資材が回ってきた次第で」

 奏大人が車両に触る。

 「なるほど、これなら、大丈夫そうある」

 彼は、欧米諸国から雇われた護送隊の中国人だった。

 中国人から見れば裏切り者。

 しかし、彼らに言わせれば、しばらく我慢し、

 欧米から技術を導入すれば良く、

 中国は、日本の様に近代化できる。

 そして、必ず世界的な大国になるだろうと確信していた。

 そう、日本が最も恐れているのが彼らだった。

 「手榴弾にも堪えられるあるか? 湖洋斗」

 「はい、確認済みです」

 一緒に日本から来た奏大人の部下が応えた。

 「そうあるか。結構ある。どんどん持ってくるある。宮本さん」

 「大丈夫ですか?」

 「奏大人。銃口を向けるのは、あなたと同じ、漢民族ですよ」

 「漢民族は、たくさんいるある」

 「全員は食べていけないある」

 「・・・・」

 「だから必ず争いが起きるある」

 「でも、我々が勝てば漢民族はいずれ」

 「大きな国、なれるある」

 彼等は、確信犯だった。

 彼らの様な中国人は、少数派だった。

 しかし、決して、弱くない。

 例え、中国民衆から裏切り者の様に思われても、

 彼らこそ、虚栄心でも、中華思想の思い込みだけでなく、

 冷静に本心から中国の行く末を心配している男たちだった。

 彼らは、血も、涙もなく、同胞に銃口を向けている、

 しかし、彼らの心は、愛国の涙に濡れていた。

 もちろん金だけという、連中もいたが・・・

 宮本は冷静に判断していた。

 中国を揚子江で分断するのは成功するだろう。

 しかし、これ以上の大陸分割は困難に思えた。

 大陸は、ロシア帝国、北中国、揚子江圏、南中国の

 4勢力で構成されていくだろうと。

 出来れば欧米人の中国人に対する扱いが惨く。

 中国民衆の暴動がもっと続いて欲しいだけだ。

 露天掘りで資源を採掘できる国土が羨ましく、

 中国は、日本製品より安価な製品を作ることが出来、

 次第に国力を強くしていくだろう。

 その前に北東シベリアの開発をしておきたかった。

 「奏大人。南中国は大国ですよ」

 取ってつけたような社交辞令。

 欧州の国々に比べれば、大国で資源も人口も多い。

 しかし、真に受けるような人間はいない。

 「日本のような戦艦を建造できるようになりたいある」

 本質を突いた解答だった。

 国力のピラミッドの頂点に位置する戦艦を建造できるだけの国力を持つ。

 これは列強である証拠といえた。

 「日本の戦艦は世界最強。素晴らしいある」

 「み、見よう見まねで建造しただけです」

 「現実に撃ち合うわけでは、ありませんから」

 これは事実だ。

 通商破壊作戦を目的として建造された戦艦であり、

 アメリカ海軍が攻めてきても迎撃は、要塞砲と水雷戦隊任せ。

 日本戦艦は、アメリカ戦艦をやり過ごして背後に回り護送船団を根こそぎ・・・

 という計画だった。

 「そういう戦艦でも建造したいある」

 少し引きつる。

 「それより北中国人との関係は、どうです?」

 「言葉が通じる間は大丈夫ある」

 北中国は北京語。

 そして、揚子江の近辺から南中国は、6つの方言があった。

  1) 広東語 (粤(えつ)方言)は、香港や広東省、海外の華僑。

  2) 湖南省の住民は湘方言、湖南語

  3) (びん)方言は福建省・台湾

  4) (かん)方言は江西省

  5) 呉方言は江蘇省や浙江省

  6) 上海語をふくむ。客家方言は、華南各地に点在する客家。

 方言といっても相互の理解は困難であり、

 揚子江で分断されてしまうと、北京語がわかる者がいなくなる。

 そして、現実問題として揚子江の北側で

 上海語を話すものは南側に移動していた。

 これも日本にすれば好都合だった。

 相互の言語不通が一定率を越えると、

 相互不信が増大し敵対関係が持続する。

 南北中国の対立なら

 例え中国海軍創設でも日本は、軍事費で手抜きが出来た。

 「中国が統一すれば、この揚子江経済圏は世界最大ある」

 “そうならないことを、心から希望しますね”

 「中国の安寧は、望むところですよ」

 安寧 (社会の秩序が保たれ、平和なこと)

 決して、統一や強国という意味ではない。

 「宮本。日本兵は、中国に駐留しないあるか?」

 「欧州で戦争が終わったら日本兵。みんないなくなったあるね」

 「一時的に雇われていただけですから」

 「もったいないあるね」

 「利権は、収益に直結しています」

 「日本と欧米諸国の力関係で言うと」

 「海外に植民地と市場を得るのは、力不足のようです」

 「戦争中は、依頼を受けて監視軍を置いていただけでした」

 「不足あるか〜」 疑いの目。

 政府は利権がなくとも

 安いところから買う、という方針だった。

 世界各地の日本商館で物流価格が本国に伝えられていた。

 欧米各国も相互に釣り上げようとする。

 しかし、すぐに金が欲しい国や地域は、

 需要と供給さえ合えば日本と取引した。

 カルテルの相互不信を募らせ、値を切り崩すことが出来た。

 この状況が続けば、何とかなる。

 日本は、海外から資源、食料を購入するために働き。

 資源を加工し、

 その輸出による利益を当てにしていた。

 さらに家族を養い。

 社会整備のためにも働かなければならなかった。

 アメリカや中国など資源を露天掘りできる国とは、

 働かなければならない絶対量が違う。

 本音を言うなら、

 大戦中に中国揚子江を日本のモノにしたがる勢力も存在していたのである。

 もし、日本に戦争需要に対応できるだけの工業力がなかった場合。

 アメリカが参戦して揚子江から抜けた場合。

 日本軍の揚子江占領という可能性は、十分にあった。

  

 

 電波の歴史

  1888年

    ドイツの物理学者H.R.ヘルツが電波の存在をはじめて実証。

    電波が直進して反射することを発見。

 

  1900年

   ロシア出身でアメリカの電気技術者テスラが

   電波をつかったレーダーの概念を発表。

 

  1904年

   ドイツのヒルシュマイヤーは

   船舶衝突防止用のレーダーの特許を取得。

 

 必要は発明の母だという。

 日本が、北東シベリアを占領してから11年が過ぎていた。

 そして、南極大陸に基地を建設してから7年が過ぎようとしていた。

 どこも濃霧、暴風、ブリザード、荒海など

 人間の視界を遮る世界が広がる。

 日本は、島や海岸線沿いに灯台に無線塔を併設。

 船からも、無線を発信。

 無線の輻射を利用し、自己の位置と距離を測定する。

 また方向を測定する技術が進み始めていた。

 そして、次第に自分から電波を発信し、

 それを受信することで、電探(レーダー)として形造られていく。

 もう一つ、ディーゼル機関電気推進も南極大陸開発で必要だった。

 最初小型だったディーゼル機関電気推進も

 次第に大型になっていく。

  

 

 それらしい武器を装備していない

 “蝦夷(Emishi)” は、30000トン新鋭砕氷艦だった。

 南極大陸に向かって氷を押し割っていく。

 平甲板は、空母のそれ、

 空母としての機能があった。

 砕氷空母とでも言うのだろうか、

 しかし、戦闘機や爆撃機、雷撃機の類は搭載されておらず。

 開発や越冬用の物資と、

 基地に物資を運ぶため

 連絡機が4機から5機載せられていた。

 また、飛行船や気球を係留させるための器具がついていた。

 「ここまでのようだな」

 「はい」

 「機関停止。飛行船は、まだ使えそうか」

 「ええ、今のところ風も弱いようです」

 “蝦夷” は、天候の良い時を見計らって発艦を進める。

 艦載輸送機が停船した空母から飛行甲板を滑走して飛び立って行く。

 飛行船は輸送船と南極基地で物資を運搬する、

 南極に向かう途中からでも機会があれば、必ず往復した。

 そのため、砕氷空母が南極に到着する以前に

 資材を基地に運び込むことが出来た。

  

  

 赤レンガの住人

 「なあ、そろそろ補助艦艇も揃えないと不味いからって」

 「アメリカやイギリスから買うのって、どうかと思うがな」

 「政府筋だろう」

 「なんか戦争が終わったから売りたがっているとか聞いたんじゃないか」

 「日本人は、日本人に合う軍艦を建造しないと後々、問題にならないか」

 「政府と財界も、商船建造に弾みがついて、そっちに意識が行ってるらしいぞ」

 「ったく。戦争の回復なんて、20年もいらないんだぞ」

 「そうかな、結構、死んでるぞ」

 「女が余っているそうだ」

 「そ、そうなのか〜」

 「一番死んでいるのはロシアだっけ、フランスだっけ」

 「ロシアが190万、フランスが160万、イギリスが110万、ドイツが130万だったかな」

 「ということは、同じ数だけの女が余るのか〜」

 「いや、戦傷者が死者の3倍前後だから・・・もっと、余るだろうな」

 「良い女が余る・・・い、行こうかな」

 「参戦していない白人諸国も、そう思っているから無駄だよ」

 「くそぅ〜 そうだった」

 「それより、巡洋艦と駆逐艦を何とかしないとな」

 「日露戦争の時のを使っているんじゃ話しにならんよ」

 「まさか、借款の回収待ちじゃないだろうな」

 「借款のカタに植民地を貰うという話しはどうなったんだ」

 「くれないものは、しょうがないだろう」

 「ケチが」

 「債権国同士で今度、話し合いをするそうだ」

 「日露戦争の時は日本も、随分とやられたからな」

 「立場が逆になると気分的に楽だよ」

 「ある程度、産業基盤を育てていたから大戦需要に乗れたんだ」

 「だからって軍事費をケチられてもな」

 「でも、イギリスとドイツの軍のライセンス生産は」

 「借金のカタに使えるから、何とかなりそうだろう」

 「だけど、設計図だけを貰ってもな〜」

 「工作機も貰わないと」

 「・・・いや、現場は、できると報告を受けているぞ」

 「そうか〜 面子で、そう言って、ないだろうな」

 「まあ、設計図貰ったのに作れませんは、ちょっと恥ずかしいな」

 「だが設備投資と工員育成で、随分、裾野が広がったからな」

 「じゃ 良さそうな、中小口径砲は模倣できるのか」

 「できても配備となると、管理、保管、整備、補給で足が出そうだな」

 「はぁ〜」

 「飛行機の方は、しばらく模倣が必要らしい」

 「そういえば、ガソリンエンジンは、遅れていたよな」

 「鉄道省が陸軍と組んで大型飛行場を建設しているから」

 「これから増えるかもしれないな」

 「航空機にまで手を出すのか」

 「最初は、自動車に警戒していたがね」

 「飛行場と港湾や工場、官庁を鉄道で有機的に連結して」

 「主導権を取るつもりなのさ」

 「誰も反対できないように」

 「えげつない連中だな」

 「便利だけどね」

   

 

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 月夜裏 野々香です。

 史実と日清不戦(仮想戦記物)の

 第一次世界大戦の各国死傷者数の比較です。

 不参戦国の義勇軍や傭兵は、かなりいますがカウントしていません。

 ドイツは緒戦の作戦が成功した後、

 迎撃防御になったので死傷者が少なめです。

 フランスとイギリスはセーヌ川北岸を取り戻そうと

 遮二無二攻勢をかけ悲惨な結果になりました。

 というより、それなりの割合を占めるインド兵も、かわいそうかもです。

 首都まで占領されたロシアも悲惨な状態です。

 タイミングを外した開戦したが実は戦える状態でなく。

 日清不戦はルーマニアがドイツ側に付きました。

 主要国以外は面倒なので史実通りで辻褄を合わせます。

 

国名

動員数

死者

負傷者

捕虜・行方不明

総死傷者数

ロシア

12,000,000

1,700,000

4,950,000

2,500,000

9,150,000

仮想戦記版(ロシア)

同上

1,900,000

5,700,000

2,700,000

10,300,000

フランス

8,410,000

1,357,800

4,266,000

537,000

6,160,800

仮想戦記版(フランス)

同上

1,600,000

4,800,000

620,000

7,020,000

大英帝国

8,904,467

908,371

2,090,212

191,652

3,190,235

仮想戦記版(大英帝国)

同上

1,100,000

3,050,000

211,000

4,361,000

イタリア

5,615,000

650,000

947,000

600,000

2,197,000

仮想戦記版(イタリア)

不参戦

アメリカ合衆国

4,355,000

126,000

234,300

4,500

364,800

仮想戦記版(アメリカ合衆国)

不参戦

日本

800,000

300

907

3

1,210

仮想戦記版(日本)

不参戦

ルーマニア

750,000

335,706

120,000

80,000

535,706

セルビア

707,343

45,000

133,148

152,958

331,106

ベルギー

267,000

13,716

44,686

34,659

93,061

ギリシャ

230,000

5,000

21,000

1,000

27,000

ポルトガル

100,000

7,222

13,751

12,318

33,291

モンテネグロ

50,000

3,000

10,000

7,000

20,000

連合国合計

42,188,810

5,152,115

12,831,004

4,121,090

22,104,209

仮想戦記版(連合国合計)

30,668,810

4,673,938

13,772,585

3,738,935

22,185,458

ドイツ

11,000,000

1,773,700

4,216,058

1,152,800

7,142,558

仮想戦記版(ドイツ)

同上

1,300,000

3,900,000

800.000

4,642,558

オーストリア・ハンガリー二重帝国

7,800,000

1,200,000

3,620,000

2,200,000

7,020,000

オスマン帝国

2,850,000

325,000

400,000

250,000

975,000

ブルガリア

1,200,000

87,500

152,390

27,029

266,919

仮想戦記版(ルーマニア)

750,000

335,706

120,000

80,000

535,706

同盟国合計

22,850,000

3,386,200

8,388,448

3,629,829

15,404,477

仮想戦記版(同盟国同型)

23,600,000

3,248,206

8,192,390

3,257,029

14,697,625

総計

65,038,810

8,538,315

21,219,452

7,750,919

37,508,686

仮想戦記版(総計)

54,268,810

7,922,144

21,964,975

6,995,964

36,883,083

  

 世界大戦の死傷者。

 史実でも死者850万、負傷者2100万を越えて大変な死傷者です、

 かわいそうがってもいられない。

 実のところ、人間同士の殺し合いも、

 大自然を前にすると見劣りしてしまう。

 この年から、スペイン風邪 (インフルエンザの一種) 真っ盛り。

 1918年から翌19年にかけ、全世界的に猛威を振るって・・・

 感染者6億人、死者4000〜5000万人。

 発生源は、1918年3月米国シカゴ付近。

 大元は、1918年8月15日頃、

 アフリカ西海岸の英国保護領シエラレオネの首都フリータウン付近とされる。

 人間殺すのに弾薬はいらない、のだろうか。

 米国発生でスペイン風邪なのは、

 情報が中立国のスペイン発でスペインにすれば迷惑な話し、

 

 

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ 

第25話 1917 『第一次世界大戦 4』

第26話 1918 『第一次世界大戦 終結』

第27話 1919 『補助艦艇も必要だって、言ってるでしょう』

海軍力

 

 各国軍艦状況