月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

第27話 1919年 『補助艦艇も必要だって、言ってるでしょう』

 世界大戦終結  (※アメリカは、欧州大戦終結と言い張っていた)

 世界は、平和になった。

 しかし、喉元過ぎれば交戦国は力尽きただけ、

 くすぶっているという状態。

 債務国のイギリス、ドイツ、フランス、ロシア帝国は、

 相対的に国際政治力が低下してしまう。

 代わりに債権国のアメリカ、日本の国際政治力が強くなった。

 日本は、シュペ艦隊に備えており、

 無制限潜水艦作戦を行わなかったUボートの脅威と直面していなかった。

 そのおかげか、安穏と国家基盤の育成に邁進する。

  

 

 呉軍港。

 山下大将は、ため息混じりに日露戦争時代の艦隊を見ていた。

 列強最強の戦艦8隻と胸を張れても、

 居並ぶ補助艦艇群には泣けてくる。

 既に時代遅れの艦隊であるだけでなく、

 年間に動かせる予算額も決まって、

 おいそれと訓練も出来ない。

 部下達のもの言いたげな目が突き刺さる。

 先任の長官もさぞ苦労されただろうと、

 自分が同じ視線を向けていたことに気付き、

 我が身になって初めてわかることもある。

 「次の南極行きの選別は終わったんだっけが?」

 「はい、選抜メンバーだけは決まりました」

 「後は、抽選メンバーだけです」

 南極開発だけは、別会計で潤沢な予算が使えるため、

 訓練もかねて水兵を振り分けていた。

 「もっど安上がりな燃料は、ないべかな?」

 「帆走にしますか?」

 「「「「ふぁあはははは・・・・・・」」」」

 冗談抜きで海軍内部で使われているセリフだった。

 たまに訓練航海に出ると船酔いする水兵が出る始末だ。

 日本商船隊の方がよほど海に慣れていると言われるほど、

 日本海軍は、酷い有様だった。

 ほかにも商船構造で巡洋艦風に建造すれば、

 見た目で騙せて良いのではないか。

 と、本気で考えている議員もいた。

 大砲さえ載せれば文句ないだろうの発想だった、

 それが、一般に通用しているほどで、

 プラットフォームの重要性をまったく理解していない発想であり、

 このままだと、そうなってしまう。

 海に慣れていない水兵など、

 どんな新鋭艦に乗せてもカモでしかならない。

 それなら採算の良い小さなディーゼル・電気推進機関の商船に大砲を乗せ、

 水兵を慣らしておくべきだ。

 そういう安直な軍艦も検討されている。

 他にも錆びないステンレス製で巡洋艦や駆逐艦を建造しようというのもあった。

 ステンレス製は高くても、沈まなければ、

 軽くて、丈夫で、燃費も良いだろう。という発想。

 ステンレスは海水に弱い(脆くなる)。

 どうやって、加工・切断(加熱は駄目よ)しようというのだろうか?

 といった問題は、さておき、

 全て軍事費を安く抑えようという意図と風潮が働いている。

 当然、艦隊乗員数も何とか減らそうとの意図も露骨だったりする。

 34000トン級扶桑型戦艦の乗員が1300名。

 かなり合理的な配置がされていても少ないといえるだろう。

 ダメージコントロールを考えると厳しいといえた。

 一方。陸軍は、装甲列車の運用や部隊移動を鉄道省の経費で落としていた。

 ケチケチ軍事予算で、

 やりくりしなければならない海軍は、たまったものではない。

 「・・・6隻でも良かったんだがもすんね」

 長官は、海軍大綱を揺るがしてしまうセリフを思わず呟いてしまうと。

 何人かが、うっかり頷く。

 「・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 もちろん、日本の政治家や財界が国防省と

 日本軍を恨んでいるわけではなかった。

 どちらかというと国民に人気がある省だ。

 しかし、国防という観点は別だった。

  1) 国防の根幹を資源で自立する、にするか。

  2) 国防を根幹を軍事的な脅威を排する、にするか。

  3) 国防の根幹を科学技術と工業の自立にするか。

  4) 国防を根幹を同盟戦略・外交戦略を軸にするか。

 予算の割り振りの重点をどこに置くか、だけの違い。

 もちろん、その時々の内閣や情勢で微妙に揺れ動いた、

 しかし、日露戦争以降、一貫して資源の自立を日本の国是としていた。

 そのため投入できる予算は必要なだけ投入。

 それ以外は、必要最小限が国の方針になっていた。

 そして、強力な軍事力で目立たないようでも、

 国力に対する軍事費の比率だとアメリカ合衆国も同じような方針だった。

 近隣に脅威が少ない場合、

 そういった悠長なことが出来た。

 しかし、軍艦が大型化していくと、

 日本に脅威が迫っているかの様にも見えた。

  

  

 国防省 情報戦略研究所

 研究されているのは、今後の軍事的脅威の兆候についてだった。

 情報を収集して、天皇や政府に報告すること。

 現在、日本の国体にとって脅威は、アメリカ合衆国。

 次に脅威とされたのが、同盟国であるはずのイギリス。

 ドイツ帝国(北東ニューギニア・ミクロネシア・ビスマルク)、

 その後、極東ロシア、北中国、南中国、ソビエト、フランスの順だった。

 資源で独立することが出来るならば、

 アメリカ合衆国以外であれば国防可能である。

 と単純に試算されていた。

 「補助艦艇は、必要だぞ」

 「・・・・」

 「8000トン級巡洋艦20隻」

 「1500トン級駆逐艦80隻」

 「1500トン級潜水艦80隻は欲しい」

 「政府は、海軍に振り分けられる鉄は年間消耗分を除いて50万トンだそうだ」

 「戦艦を除けば残り22万8000トンだな」

 「・・・・・」

 「良かったな」

 「基地や砕氷空母が別会計で」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 なんと軍事費だけでなく、鉄材にまで制約があった。

 予算内で、もっとも効率の良いトン数の軍艦を数を揃えること、が命題だった。

 波濤を押し割って、高い攻撃力と生存性を有する艦艇。

 トン数は次第に大きくなっていくが数は減っていく。

 試算と図上演習が何度もやり直される。

 同型艦が多い方が維持費の面で優位だった。

 3000トン級なら72隻で適当な数とも言える。

 「なっとくいかん!!」

 いつものように誰かが叫ぶ

 当然だろうか、

 日本海軍は、日露戦争開戦、26万トン弱の総トン数だった。

 終わってみれば、ロシア戦艦と装甲巡洋艦を捕獲し、

 70万トンから80万トンまで達していた。

 それを年々、軍艦トン数が大きくなっているのに

 艦隊総トン数を減らしてどうする、だった。

 4000トン級なら57隻。

 潜水艦を2000トン34隻で68000トンを引いて、40隻にするか。

 など、頭を抱える。

 こうなると戦艦8隻と小型巡洋艦40隻、潜水艦34隻が

 正面戦力となってしまう。

 耐波性でも、かなり不安があるトン数だった。

 しかし、広い太平洋に面し、

 最低限必要な艦隻も計算しなければならなかった。

 逆にトン数を大きくした方が

 建造費・維持費・長期作戦の点で有利であり、

 訓練も、余計にできるという利点もある。

  

  

 ほかに国防を陸軍に任せる、という発想もあった。

 海峡や要衝に配備された356mm砲、305mm砲、

 283mm砲の要塞砲台は、陸軍所属で強力な火力だった。

 海軍も、要塞砲台の射程内で迎撃作戦を展開する計画だった。

 それなら、魚雷艇ばかりで数を揃えた方が良い、

 というアイデアも生まれる、

 それだと、陸軍系海軍になってしまう。

 しかし、海軍が真価を発揮できるのは、領海内でなく。

 領土の延長とも言える艦船が公海、海外の領海を遊弋している状態。

 砲艦外交といえば柄が悪いが

 海防だけの海軍は国際政治力がないと同じ。

 この当時の軍艦の海外寄港は外交儀礼も兼ねている。

 当然、海外でも活動する商船隊は、イザという時、日本海軍が動く、

 そういう、安心感が日本の海運業界の成長を促す保険だった。

 侵攻能力と国防の関係は

 “本音という剣を建前という鞘に入れている”

 ようなもので、

 奇麗事でなく攻防一体、実用的なものだった。

 要は、国防の線引きをどこにするかであり。

 もちろん、人それぞれな上に日露戦争時の思い入れもある。

 そして、軍官僚が組織拡大傾向を是とするは、他省となんら変わらない。

 「なっとくできん!!」

 と叫ぶ軍官僚が出てくるのは、自然で当たり前だった。

 当然、武器商人は外国に軍艦を売りたがる勢力もあり、

 それを危惧する者もいた。

 「軍艦を売って、軍艦の値段を安くすれば良い。税収も、慣熟技術も大きい」

 「売った国が、こちらに銃口を向けたらどうする」

 という者もいれば、

 「いや、相対的に米英海軍を弱体化できる」

 という者。

 「バカめ、強い方に付くに決まっている」

 という者もいる。

 基本は、経済優先、しかし、少しばかり迷走気味の日本だった。

   

   

 国際連盟の言いだしっぺ。

 アメリカ合衆国大統領ウィルソンはモンロー主義が台頭し、

 アメリカ合衆国不参加に追い込まれる。

 常任理事国(日本、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア)と

 非常任理事国が選ばれて国際連盟が構成される。

 そして、極東ロシア、オーストリア・ハンガリー帝国など主要国が加盟。

 ここで唯一、大戦に参加しておらず。

 それなりの国力を持ち、

 是非は、ともかく。

 ソビエト干渉戦争を防いだ日本は調整役になってしまう。

 そこに北中国と南中国が代表団を送る。

 国際連盟は、まだ形作られておらず、

 欧州(ジュネーブ)側と

 南北中国推薦のアジア(上海・崇明島)側の綱引きが少しだけ起きた。

 しかし、第一次世界大戦で国勢・国力が落ちても、

 世界の比重は欧州側にあった。

 日本は、勢力的に分が悪いとあっさりと退いてしまい、

 国際連盟の本拠地は、スイスのジュネーブになってしまう。

  

  

 崇明(チョンミン)島

 揚子江の河口にある中州。

 欧米主要各国のアジア国際政治の中心ともいえる島で、

 この島を根拠地に揚子江経済水域を支配下に入れていた。

 大陸は、安い労働力が一杯いるから、

 死んでいいや的に資源を採掘し日本へ輸出。

 日本が加工した製品を欧米国内で販売することで

 大きな利益を上げていた。

 日本も天文学的な投資を必要とする凍土開発より、

 国内で設備投資を充実させて生産を拡大、

 海外に販路を築く方が合理的。

 とする勢力も増えていく。

  

  

 時折、聞こえる中国民衆の蜂起と銃声。

 永久租界地と呼ばれるこの地域に中国の主権はない。

 欧州大戦で血を血で洗うような激戦が行われても、

 租借地と租界地では、欧米風の国際法が整然と適応され、

 経済活動が続けられていた。

 低賃金で酷使されても、

 中国人は、働き口を求めて揚子江流域に集まってくる。

 そして、人海戦術で、あっという間に

 揚子江岸沿いの鉄道路線が建設されていく。

 それを見物する

 アメリカ人、イギリス人、ドイツ人、

 日本人、インド人、ロシア人は驚嘆するばかり。

 「いやはや、中国民衆の力は脅威ですな」

 「ええ」

 「資源もある、労働力もある」

 「資本と設備さえ用意すれば巨万の富か、実に素晴らしい」

 「彼らが近代化すると」

 「あっという間に地球上の資源を食い尽くすでしょうね」

 「海軍力がない間は、大丈夫でしょう」

 「極東ロシアは、心配です」

 ロシア人は青い顔をする。

 「大丈夫ですよ」

 「有史以来の伝統で」

 「これまで通り中国人同士で勝手に間引きし合ってくれるでしょう」

 「だと良いのですがね」

  

  

 揚子江が欧米諸国のアジアに対する窓口であり、

 北欧は日本の欧州に対する窓口になろうとしていた。

 採算上。夏季限定だった。

 しかし、北欧はソビエトに対する恐怖感からか、

 他の欧米諸国に対する優位性を確立するためか、

 日本と北欧の間で貿易が増えていく。

 フィンランドは、魅力のない土地だった、

 しかし、破格の条件を用意して誘致していた。

 日本人は、何もない極寒の雪原に震える。

 フィンランドの役人が、あれやこれや説明する。

 食指は動く・・・

 しかし、フィンランド内部で

 共産主義勢力がうごめきソビエトの動きも不透明だった。

 巨大な国土を有する大国ソビエト・ロシアは、

 第一次大戦と共産革命で混乱期。

 強大であるがゆえに、

 その軍隊が向かってくるなら

 弱小国フィンランドは、ひとたまりもない。

 北欧に窓口に日本の対ソ戦略拠点があれば、

 それは、それで役に立った。

 問題は、設備投資にかかる費用の大きさ。

 今後の日本の世界戦略を考えると、

 日英同盟だけでなく、北欧にも窓口は欲しかった。

 しかし、使える資本は少ない。

 最低でも、戦艦1隻分くらいだろうか、

 外交戦略といえば聞こえが良い、

 しかし、それだけの予算を海外に投資できるかであり。

 予算額しだいで話しも変わってくる。

 日本の社会基盤はまだ弱く、

 欧米と違って基礎になる国力が違う。

 できれば、もっと温暖な場所といいたいが、

 これほど好条件では無理だろう。

 誰も見向きもしない場所。

 そして、日本だからこその好条件だった。

  

  

 平民出の宰相は、日本で、初めてだった、

 それだけ実力がある、ということだろうか。

 軍部の台頭がなく。

 政府と民需主導の日本の舵取りは、やりやすいだろうか。

 しかし、軍部の代わりに台頭したのが国鉄。

 少なくとも、軍部より国民生活にリターンが感じられる。

 「車は、燃料を余計に消費する」

 「海外の資源に対する依存度を高めるだけであり」

 「日本の国防を弱体化せしむるものである・・・・・」

 鉄道省の大官僚が長々と演説をするのも、

 日本の議会では良くある話しだ。

 言っていることは、わかる。

 しかし、国鉄官僚の多くが車を使用しているのでは、

 はなはだ説得力に欠ける。

 利便性だけで言うと鉄道より車の方が良いに決まっている。

 さらにいくつもの省に対し、

 あれこれ難癖をつけては、予算の増額。

 そして、利権を手放そうともしない。

 当然、南極の凍土の下にも地下鉄を通そうとしていた。

 そうでなければ、海軍と別枠で南極開発費が、ひねり出せるわけもない。

 史実で軍部。

 日清不戦の世界は、鉄道省。

 内閣も、不承不承に予算審議の素案に修正を加え、

 官僚の確認を得て署名する。

 内閣そのものが利権の上に成り立っており、

 官僚が決めた予算を内閣が修正出来うる範囲も僅かだった。

 ピラミッドの頂点でも、底辺を動かすのは大変な労力であり、

 下手をすると首相でも言う事を聞かない官僚に干されてしまうほど。

 それでもフィンランド・ノルウェー投資予算が通過してしまう。

 国防省や他の省が指を銜えて羨ましがるほどの金額だった。

 総理大臣や大蔵大臣に言わせれば、

 シベリアに出兵するよりましだね的な発想らしい。

 シベリア出兵がなくなった状態では根拠がない。

 日本は、それほど欧州に地歩が必要なのか。

 それでも一度、政府支出が決まってしまうと、

 民間資本も誘導されていく。

 欧州では、戦傷者の補償、スペイン風邪に合わせて食糧事情が悪化。

 日本の漁船や捕鯨船団が北欧を基地に動き回ることになった。

 そして、日本資本の鉄道が初めて北欧に建設される。

 それは、欧米が揚子江に建設している鉄道とほぼ同じ利権とだった。

 当然、欧州各国は、日本の欧州参入に慌てる。

 しかし、戦後のこともあり、

 フライをお見合いするようにポトリと日本資本が北欧に収まってしまう。

  

  

 日本と極東ロシアとの関係は、すこぶる良かった。

 革命時、ロシア帝国の皇女2人の保護。ニコライ二世の皇族救出。

 その後、対ソ干渉戦争を防ぎ、

 極東ロシア需要は、武器弾薬から始まり、

 民生品まで輸出できて好調。

 日本経済は、欧州大戦の軍需から民需へと転換しつつ、経済を切り替え、

 戦後経済の波に乗っており、

 さらに利益を上げていた。

 ソビエトの混乱は続いており、

 そこから逃げ出そうとする者も少なくなく。

 極東ロシア帝国は、徐々に国家然とした帝政を形成しつつあった。

 数人のアメリカ人が怒ったように、ロシア帝国兵器局から出てくる。

 「・・・スプリングフィールド小銃の方が良いに決まっている」

 と呟きながら

 「やっぱり、皇女二人の保護と皇帝一家救出が大きいな」

 「理屈は通用せんよ」

 「日本のタイプ38も悪くないからな」

 「この寒い地域で兵隊は、厚着しているんだぞ」

 「そうだがね・・・」

 「命中率だけの弱装6.5mm弾の威力など、たかが知れているだろう」

 「7.62mm弾の方が良いに決まっている」

 「タイプ38のストックが相当あるようだ」

 「ロシア製のモシン・ナガン小銃も7.62mm弾だったのに・・・・・」

 「大戦末期のロシア東部戦線はモシン・ナガンとモーゼルの戦いでなく」

 「タイプ38とモーゼル小銃の戦いだったのさ」

 「満州・朝鮮にもタイプ38の生産工場はあったが」

 「まだ軌道に乗っていないようだ」

 「合理的な判断とはいえないね」

 「威力が小さくても戦場で弾数が多いと嬉しいさ」

 「確かタイプ38の改良型は10発入りだ」

 「経験からということか?」

 「さあ、少なくとも西部戦線で、インド兵が使っていたよ」

 「補給で混乱したらしい」

 「それでも師団を間違えなければ届いたそうだ」

 「日本人め、荒稼ぎしやがって」

 「アメリカは大戦の武器生産と輸出で出遅れたからな」

 「ロシア革命でも日本に良いところを取られた」

 「アメリカも参戦したらよかったんだ」

 「それで揚子江の監視を日本一国に任せるのか」

 「揚子江経済は潜在能力こそ高いがね」

 「ところで、日本が大型河川砲艦を建造するそうだが」

 「本国は、買うかもしれないそうだ」

 「何でも日本から買うことないだろう」

 「旧式戦艦ならアメリカにもある」

 「だが、最初から河川砲艦で建造するからな」

 「運用も整備も日本の河川砲艦を買う方が安いし良いに決まっている」

 「そうだよな」

 「日本製の小型ディーゼル・電気推進機関の品質はアメリカ製と比べても遜色ない」

 「わざわざアメリカ本土で建造して、太平洋を横断する必要もないし」

 「アメリカ製だと使っていくうちに整備と維持費で不利になっていくからな」

 「ったく、良いようにしてやられているのが面白くない」

 「アメリカ政府も南極に基地くらい建設すれば良いんだ」

 「採算が悪すぎる。フィリピンに投資する方がましだ」

 「それより、日本が北欧に取り付いたようだが。政府に動きは?」

 「ないね。少なくとも大西洋を挟んだ大国に欧州の領土を貸す国はない」

 「日本と戦争にならんよ。扶桑型8隻は脅威だ」

 「撃ち合ってくれるのなら構わないがね」

 「そういえば日本の補助艦艇が駄目駄目で、まともな訓練も受けていないようだが」

 「戦争するには大義名分が必要だ」

 「日本が中国市場を欧米諸国に開放しているなら、戦争することもないだろう」

 「それに北東シベリアと南極は凍土開発だから利益は小さいよ」

 「だが、日本は強国になるのではないか」

 「軍事力はともかく、国際政治力があるようだが」

 「だが資源がないだろう」

 「北東シベリアの開発が進めば、わからんぞ」

 「ふん、凍土の開発が、そんなに簡単に出来るものか」

 「100年先のことだよ」

 「・・・・だと良いがね」

 「問題か?」

 「日本の国家予算は、20億で成長率が以上に高い」

 「3年前が14億だった」

 「国債発行も多くない。これだけの税収を上げるのは異常だよ」

 「軍事費をケチって公共投資を繰り返したんだ」

 「それは、アメリカの方が日本より徹底している」

 「モンロー主義で引っ込んだからな〜」

 「アメリカは、アジア。揚子江で積極的なはずだ」

 「海南島やインドシナ利権に食い込んでる」

 「だが国際連盟不参加は痛かった・・・・」

 「議会で駄目だったものは、しょうがないさ」

 「だいたい、ウィルソンは、もっと議会への根回しを考えるべきだ」

 「日本の総理大臣を見習えば良いんだ」

 「大統領は、アメリカから選ばれ、議員は州から選ばれるからね」

 「アメリカ大統領に、合衆国議会だろう」

 「日本の総理大臣は国民でなく、議員の利益代表に過ぎないし」

 「議員も利権で積み重ねられた代表に過ぎない」

 「言いたいことも言えないだろうよ」

  

  

 

 扶桑型と同等の356mm砲搭載戦艦は、

 (ニューヨーク、テキサス)10門。

 (ネバダ、オクラホマ)10門。

 (ペンシルバニア、アリゾナ)12門。

 (ニューメキシコ、ミシシッピー、アイダホ)12門の9隻で100門。

 建造中の(テネシー、カリフォルニア)12門を合わせれば11隻。

 主砲数は124門に達し、

 世界最強の戦艦部隊と言えた。

 そして、日本の扶桑型戦艦8隻は、(356mm8門)64門。

 

 白レンガの住人たち

 あちらこちらから、ため息が聞こえる。

 原因は、日本の扶桑型高速戦艦8隻に対する戦略が

 まったく立たない事だった。

 高速&長大な航続力で扶桑型に背後に回られた場合、

 アメリカ海軍は、全艦艇を投入しても対抗できなかった。

 何度、図上演習をしても、

 東太平洋上で暴れる扶桑型8隻に

 商船隊と巡洋艦以下の艦艇が殲滅される。

 日本海軍の訓練が行き届いていないこと。

 そして、運良く潜水艦に艦体側面を見せてくれること。

 幸運にも、機雷にぶつかってくれること。

 など撃沈を運任せに期待するしかなかった。

 戦艦では追撃不能。

 巡洋艦以下では返り討ち。

 かといって、新型高速戦艦の建造は、

 国民感情と財政問題で見送られている。

 「んん・・・・ドイツは、新型戦艦を建造しないのか?」

 「イギリスは?」

 「建造する兆候はないです」

 イギリスも、ドイツも、新型戦艦の建造を見送っている。

 代わりに建造していたのは植民地防衛用の哨戒艦。

 そして、欧州列強が新型戦艦を建造すると、

 アメリカが対扶桑型の高速戦艦を建造するのは目に見えていた。

 それでは、シーソーゲームになり、

 国力のあるアメリカが勝つに決まっている。

 それなら、イギリスとドイツは、日本海軍にアメリカ海軍を任せ、

 国力が回復するまで戦艦建造を見送る方が良かった。

 結局、欧州諸国と日本は、戦艦の建造は見送り、

 アメリカは、新時代型の高速戦艦を建造できず。

 日本海軍と正面から向き合うアメリカ太平洋艦隊は、

 サジを投げるしかなかった。

 撃ち合えば勝つとしても、

 日本艦隊が撃ち合わないのは明らかだった。

 完全な造艦計画のミス。

 建造中の(テネシー、カリフォルニア)も、

 いまさら高速戦艦に改装できるような艦体でなかった。

 そして、日本より冶金技術が優れていたこともアダになった。

 まだ使える305mm砲装備の戦艦が8隻もある。

 “日本海軍がド級モドキ戦艦13隻を解体するのに”

 “何で新型戦艦が必要なのか”

 という明確な説明が必要であり、

 造艦計画の失敗などといえば自殺と同じでクビが飛ぶ。

 そして、日本も戦艦を建造する動きはなく、

 いや、建造する必要すらなかった。

 日本海軍の補助艦艇が

 日露戦争時代の代物という気休めが、

 どこまで通用するか、だった。

 「扶桑型の命中率は、どの程度だろうか」

 「弱装で長砲身のようですから訓練をケチっても命中率は良いですね」

 「最初から通商破壊を狙って、建造されたものだと思います」

 「ぬぬ・・・ムカツク、戦艦が、それも8隻か・・・」

 「フィリピンを戦艦基地に反復攻撃で」

 「日本本土を直接叩くしかないですね」

 「日本の要塞砲と撃ち合えってか」

 「図上演習では大破した後、扶桑型に良いように沈められたわ」

 「アメリカ太平洋艦隊が日本の要塞砲と命数切れまで撃ち合ってたら」

 「扶桑型に切り込まれて全滅したな」

 「・・・確かに厳しいですね」

 「当たり前だ」

 「日本の水雷戦隊が旧式のうちは攻撃も、退却も、自由自在なんですがね」

 「日本の要塞砲台と水雷戦隊の組み合わせも相当なものになる」

 「日本が、まともな補助艦隊を整備したら、お手上げだな」

 「攻守ともにお手上げか」

 「扶桑型の冶金と設計に関する情報は、依然と同じだったな」

 「実質、大型戦艦の新規建造は、日露戦争以前の1904年」

 「13年ぶりの建造か」

 「ド級モドキ艦への改装分を含めた蓄積がある」

 「列強でいうと標準的な技術水準かな」

 「イギリスの巡洋戦艦タイガーと戦艦アイアンデューク」

 「ドイツ巡洋戦艦モルトケの設計を参考にしているはず」

 「いや、独自に改良されている節もある」

 「高速戦艦の建造を申請するしかないな」

 「既に何度もやってる」

 「通っても8隻は無理だね」

 「代艦建造でなければ無理だ」

 ため息が漏れてくる。

 「ところで日本の砕氷空母は?」

 「戦力とはいえない」

 「構造そのものは大型で頑丈」

 「しかし、砲撃戦より」

 「砕氷能力や耐圧構造に比重が置かれている」

 「こちらは、ディーゼル機関電気推進を採用しているな」

 「稼働率は良いようだ」

 「主砲塔がないからできることだろうな」

 「武装は、120mm格納砲が4門」

 「艦載機は?」

 「輸送機と偵察機で、通常は、4機から5機」

 「改装すれば、90機は、搭載可能」

 「現段階だと攻撃能力は低い」

 「こちらは、対抗できる砕氷艦を建造できるかもしれないな」

 「南極占領に参戦するのですか?」

 「どうかな」

 「アメリカは、モンロー主義が強くなってきているし」

 「欧州に穀物を輸出して不足気味だし」

 「厳しいな」

 「禁酒法が採択される可能性もある」

 「酒抜きですか?」

 「戦後で食糧不足だから欧州に売って、一儲けしたいんだろう」

 「国内向けも品不足なら、物価も安定するからね」

 「ちっ いけすかねぇ」

 「ふっ 禁酒法が採択されれば、その分、穀物輸出で儲かる・・・」

 「政治的な取引も大きいのだろう」

 「イギリスとドイツに比べ、遅れている技術分野も、これで、追いつけるだろう」

 「宗教的な意味合いはないんですか?」

 「キリストだって、ワインは飲んでいただろう」

 「宗教的意味合いは口実で、アクセントのようなものだ」

 「たしかに、そんなもので大統領や議会は動かないな」

  

  

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 月夜裏 野々香です。

 世界大戦の死傷者。

 史実でも死者850万、負傷者2100万を越えて大変な死傷者です、

 しかし、かわいそうがってもいられない。

 実のところ、人間同士の殺し合いも、

 大自然を前にすると見劣りしてしまう。

 この年から、スペイン風邪 (インフルエンザの一種) 真っ盛り。

 1918年から翌19年にかけ、

 全世界的に猛威を振るって感染者6億人、

 死者4000〜5000万人。

 発生源は、1918年3月米国シカゴ付近。

 大元は、1918年8月15日頃、

 アフリカ西海岸の英国保護領シエラレオネの首都フリータウン付近とされる。

 人間殺すのに弾薬はいらない、のだろうか。

 米国発生で、スペイン風邪なのは、情報が、

 中立国のスペイン発で、スペインにすれば、迷惑な話し、 

 

 

 

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第26話 1918年 『第一次世界大戦 終結』

第27話 1919年 『補助艦艇も必要だって、言ってるでしょう』

第28話 1920年 『国際連盟』

海軍力

 

 各国軍艦状況