月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

第28話 1920年 『国際連盟』

 アメリカで禁酒法時代が始まる。

 アメリカ合衆国は、強大な潜在能力を持ちながら、

 モンロー主義で新大陸に引き篭もる。

 欧州貴族制度とカトリックの縛りから抜け出し、

 自由と民主主義を手に入れた国民感情は根強い。

 もっとも13植民地(85万7288ku)が独立を達成したのが1783年。

 その後、膨張を続け、

 130年で北アメリカの主要な地域を押さえてしまう。

 覇権的な意欲が失われているというより、

 内政を充実させたい頃合いでもあった。

 また戦争で儲けた事と、

 北アメリカの美しい大自然は、潜在意識下でも働き。

 アメリカ合衆国を安定期に向かわせていた。

 

 ソビエトは、ロマノフ王朝を滅ぼしかねなかったほど、凶悪な毒性を持ち、

 既存の体制を破壊しかねない思想で構築されていた。

 

 この二国を除いた各国代表が集まり、

 国際連盟が発足する。

 日本、イギリス、ドイツ、フランス、

 イタリア、オーストリア・ハンガリー帝国、

 聖ロシア帝国、北中国、南中国など・・・・

 日本は、北東シベリア開発。南極開発。

 そして、フィンランド・ノルウェー投資

 イギリス・フランスは、植民地からの搾取による経済再建。

 ドイツ帝国は占領地の支配体制確立。植民地の再開発。

 列強の多くが政策で、ぶつかる部分がなかったことが幸いする。

 列強の権益で住み分けが出来ていたせいか、

 比較的こじんまりとまとまった節がある。

  

 ほかには、

 南北中国が主権回復、人種差別撤廃。

 ソビエトが国家承認

 聖ロシアが内政充実

 といった国家目標があった。

 いくつかの紛争や民族問題、人種問題は持ち上がっていた。

 比較的平穏な、1920年代を迎えていく。

  

  

 建造中の河川砲艦

 解体したド級モドキ戦艦の主砲塔を装備する予定だった。

 小型低速で燃費の良いディーゼル機関・電気推進を採用していた、

 長大な航続力を持ち、河川での操作性は、良好。

 耐波性は、それほど考慮しなくても良く軍艦というより移動要塞。

 海洋に出るとカモが日本の理想だった。

 イギリス、ドイツ、ロシア、イタリア、

 オーストリア、フランスは、戦後再建を賭けて乗り込み。

 揚子江経済圏に利権を持つ国は、日本の新型河川砲艦を購入する。

 15000トン級。20ノット。50口径283mm連装2基。

 各国の副砲・備砲を装備。

 長射程の主砲が河川砲艦に必要か、否か、

 という問題で言うと、必要だった。

 中国民衆が武装蜂起を目的に集結しようものなら、

 ピンポイントで砲撃。

 榴弾で雲散霧消させることが出来た。

 そのため45度を超える仰角を持った主砲塔が採用され、

 揚子江各地に観測所が建設される。

 揚子江に特化した艦艇であり、

 それだけに利便性に優れ良く売れた。

 ほかにも3000トン級河川砲艦、

 1000トン級河川砲艦が建造され売れていく。

 そして、揚子江沿いに装甲列車が走る。

 日本から持ってきた旧式のもので

 相手が中国民衆なら十分だった。

 中国人で優秀な人間が見つかるとイギリスはインドへ。

 アメリカは、フィリピンへ送り、

 フランス・ドイツは、アフリカへと人事移動させていく。

 そして、他の植民地の中間管理職にしていく。

 このクロス人事で植民地の支配体制を磐石にしていくのが列強の業と言える。

 そして、イギリスは、それを大規模にしようと、

 インド・中国鉄道の建設を進めていた。

  

  

 「鉄鉱石と石炭があれば自立できる」

 某省の大官僚の言葉だ。

 我田引水をそれらしい文句で装飾したものだったが

 当たらずとも遠からず。

 本当は、石炭より石油なのだが

 当時の時代的背景もあった。

 北東シベリアには、鉄鉱石、石炭だけでなく。

 石油。オイルシェール。

 希少金属。宝石の類が存在し、

 自立の道が切り開かれつつあった。

  

  

 そして、南極大陸も、

 そういった可能性を秘めていた。

 「あ、鉄鉱石だ」

 「・・・随分あっさりと」

 「氷床の圧力を受けているようだな」

 「微妙に海岸に向かって氷が動いていますから」

 鉱脈の発見。要は、採算が合うかどうかだけ、

 「モグラ生活が続きそうですね」

 「人間性を喪失しないだけの空間が欲しいものだがな」

 「南極の氷が溶けなければ良いんですけどね」

 「アイオン湾のような不凍港は造らないだろうな」

 「造らないんですか?」

 「湾に来るまでが困難だろう。夏季限定だな」

 「アイオン湾もそうじゃないんですか?」

 「無理すれば、砕氷艦がいけるだろう」

 「確かに。南極は、無理でしたね」

  

  

 日本が基地からの定期的な無線輻射を利用して濃霧の中でも航行し、

 その後、レーダーを形にしていくのも

 北極海や南極海の活動に始まる。

 当初は、寒冷濃霧域で使用するものだった。

 しかし、次第に性能が安定し、

 有用視されるようになると軍艦に装備される。

 追い風になったのは訓練不足の代わりといった意味合いが強く。

 気難しかった会計部長も見張り員を削減できて、

 濃霧で有用であることから予算が通過。

 もっとも測距儀の上に重たい大型受信機をどこに置くかで

 頭を悩ませたのは、設計陣だった。

 赤レンガの住人たち

 「そりゃ 艦体の上甲板を全て受信アンテナを置けば」

 「陸上にあるような高性能の索敵・観測装置になるだろうよ」

 「それじゃ 戦闘にならんだろう」

 「ならんな」

 「しかし、強力な受信機を装備した軽巡と駆逐艦が基地からの誘導で」

 「闇夜に高速移動。駆逐艦に魚雷戦を仕掛けさせれば悪くない」

 「少なくとも座礁はないな」

 「水雷戦隊のそれなら、迎撃だから陸上に誘導させれば良いだろう」

 「それも、そうか」

 「問題は、外洋で作戦を行う場合だな」

 「大きな受信機を載せられるのは、戦艦だがね」

 「受信機は、砲撃の衝撃で壊れる可能性もあるな」

 「いや、それ以前にまともな巡洋艦と駆逐艦が必要だよ」

 「そうだった」

 「やっぱり、4000トン級小型巡洋艦にするのか?」

 「一番離れているのは南沙群礁だが、航続力と戦力集中の観点からすると・・・」

 「ベーリング海峡の時化を乗り越えるなら、それなりの大きさにもなる」

 「それと財政的な理由だよ」

 「小型艦をたくさん作る方が予算が大きくなるか」

 「貧乏くさいな。相変わらず」

 「全部、鉄道省が悪い」

 「まったくだ」

 「ある程度、大きくなれば民間需要も重なって」

 「自然と大きくなっていくのに、あの、過保護が」

 「確か、電化を進めるんだったよな」

 「トンネルと電化で予算を維持しようとしているだけだ」

 「どいつもこいつもグルになりやがって」

 「最近、杓子定規が強すぎるよ」

 「自由な揚子江に行きたがるわけだ」

 「揚子江経済圏か楽しそうだな」

 「中国人民4億6千万の困窮によって打ち立てられた市場だよ」

 「ふっ 自業自得かもしれないが」

 「日本の総人口が6000万だから中国市場の巨大さがわかるね」

 「露清戦争で負けたのが原因だよ」

 「中国も、陸軍で負け、海軍でも負けては、格好が付かないからな」

 「しかし、日本人が揚子江に行っても、人間扱いしてくれない時があるらしい」

 「白人列強は、アジアの二大国、中国とインドを支配下に入れたからだろう」

 「人種差別撤廃も却下されてしまうし」

 「新参の日本人など、どうにかなると思っているのだろうな」

 「というより」

 「人種差別を撤廃したら揚子江経済圏も、インド支配体制も飛んでしまうからな」

 「ウィルソンは、前向きだったぞ」

 「アメリカ国内の黒人を揚子江に流して」

 「アメリカ国内の黒人は減少していたからな」

 「しかし、イギリス、ドイツ、フランスの反発を受けたらごり押しできないし」

 「得にならないだろう」

 「そうかな、英仏独とオランダの植民地を壊してしまうと」

 「自由貿易でアメリカは優位に立つぞ」

 「イギリス、ドイツ、フランスを敵に回してか?」

 「んん・・・・ないな」

 「いくらアメリカでも、欧州が結束したら悪夢だよ」

 「だけど、イギリスもフランスもガメツ過ぎだよ」

 「植民地自体の産業を育てずに搾取してばかり」

 「付加価値が低いから、上がりより植民地維持費の方が高くつくだろうな」

 「鉱物資源の搾取率は、99パーセントだそうだ」

 「いくら現地で製鉄できなくても、泥棒だな、それは」

 「ドイツは、植民地投資しているそうじゃないか」

 「そういえば、相当な額が」

 「西南アフリカ、東アフリカ、北東ニューギニアとビスマルク諸島」

 「そして、ミクロネシアに流れていたな」

 「そういえば、中国人を労働力でドイツの植民地に送っていたな」

 「見返りを考えずに投資か。日本の真似をしているのかな?」

 「日本は、搾取できる相手がいないだけだ」

 「少数部族では話しにならんし。結局、日本人が穴掘りだ」

 「機械化が進んでいるから、それほど悪くないだろう」

 「ああ、良くないだけだよ」

 「なあ・・・」

 「それより、朝刊見たが予測より税収が増えたのにどうして、軍事費に回せないんだ」

 「見ただけだろう。理由も書いてたじゃないか、読めよ」

 「朝鮮南岸要塞群の連結って」

 「ロシアは友好国で必要ないじゃないか」

 「だから、遼東半島と南岸要塞まで鉄道が連結されるだろう」

 「民需中心だよ」

 「南岸も、遼東半島も、公共投資が進んで、ちょっと潤いそうだな」

 「・・・なっとくいかん」

  

  

 揚子江 武漢

 中国人の警護隊が中国人の群集に向けて発砲する。

 インド兵は、まだ遠巻き見ている。

 漢民族同士の衝突の方が白人にとっても、

 中産階級の異国人にとっても都合が良く。

 富裕層の漢民族にとっても蜂起と被害が拡大せず。

 無駄な弾薬が使われずに済む利益があった。

 大きな中華食堂があった。

 「ハン・コウ!! なぜ。白人どもの味方をする!!」

 数人の男たちがテーブルで食事をしている一人の男に詰め寄る。

 周りの客たちが慌てて逃げ出し、

 店員たちが食事中の男を守ろうと周りに集まってくる。

 食事中の男は店主だった。

 「リン・テンヒか・・・商売の邪魔ある」

 「我らが中国独立のために戦っているのがわからないあるか?」

 店主は、ぼんやりとお茶を飲んでいる。

 どちらも太極拳が使えた。

 名人ではないが相応に強い。

 ムッとするリン・テンヒ

 「金を出せば、誰もが客ある」

 「商売をしているだけに過ぎないある」

 「あの裏切り者たちに食い物を出すというのは、どういう了見ある?」

 「あのなあ、リン・テンヒ」

 「白人たちの持っている大砲の威力はみんな知っているある」

 「・・・・・」

 「どこに集まっても見つかれば、そこに砲弾が落ちるある」

 「中国が同じモノが作れない限り勝てないある」

 「白人たちを追い出して作れば良いある」

 「・・・いま作れないモノを白人を追い出して作れるわけがないある」

 「ふざけるな!!」

 「我ら中華5000年の歴史ある。作れないわけがないある」

 双方で、数人のため息が漏れる。

 「お、おまえは、白人に利用されているだけある」

 「それに、人間扱いも、されていないある」

 「それは、清朝の時代と。変わらないある」

 「蜂起する相手が変わっただけある」

 「・・・だ、だが、あいつらは、白人ある」

 「この中国を、我らが大河を占領し、良いように扱うある」

 「・・・・・・」

 「おまえの妹はどこに行ったある!」

 「おまえの従兄弟は、どこある!!」

 「妹はフィリピン。従兄弟はインドある」

 「俺の息子は、インドシナに行くある」

 「ほ、ほら見ろ!! ほらみろ!!」

 「優秀な人間は、他所の国に送られていくある」

 「利用されているだけある!!」

 「・・・・・・」

 「俺たちに残されるのは、何もないある!!」

 「しかしなあ・・・」

 「リン・テンヒ。考えようによっては我ら漢民族がインドやフィリピン」

 「そして、インドシナを実務的に支配するということある」

 「・・・・・」

 「我々は数が多いある」

 「いずれは、中国を除く世界の中間管理職を我ら漢民族が担うある」

 「・・・・・」

 「そして、中国内も豊かな中国人が増えたある」

 「それは、それで、いまより良いある」

 「お、俺は・・・」

 「俺は、そんな話しに騙されんぞ・・・」

 「騙されるものか!! ハン・コウ!!」

 「おまえは、必ず後悔するぞ!!」

 「必ず後悔するぞ!!」

 男たちが出て行くと食堂に静寂が戻る。

 「・・・お茶を入れてくれないか」

 ハン・コウが店員に呟いた。

 この北中国も、対岸の南中国側も状況は変わらない。

 中国は支配されつつあった。

 特権階級は白人。

 そして、白人が連れてきた異民族と協力者。

 日本人は別格だった。

 日本人は、白人たちからも白人格として扱われていた、

 しかし、疎外感は大きいようだ。

 日本人が、もっと白人の言葉に堪能であれば、

 もっと強い立場に立てるだろう。

 日本は、大陸に干渉せず、助けようともしない。

 それどころか、白人相手に武器弾薬や軍艦を売って儲けている。

 日本人に聞くと日本人が白人に売らなくても、

 白人は、もっと優秀な軍艦を建造できるそうだ。

 しかし、日本人がアジア人を助けなかったため、

 朝鮮人は中央アジアに消えようとしている。

 そして、中国人も揚子江を境に分裂。

 日本人が悪いというより、

 日本人が中国や朝鮮を助けなかったのは事実。

 彼らがもっと欲が深く。

 自尊心が強く、

 野望が強く、

 中国資源を自分たちの物にしようとしていたら。

 あるいは歴史が変わっていたかもしれない。

  

  

 メコン川流域

 フランスが日本製1000トン級河川砲艦を浮かべている。

 乗っているのは、ドイツを除いた各国代表団。

 ベトナムではアフリカ人や漢民族を中間管理職に置いていた、

 しかし、中間管理層とベトナム人の間は、次第に悪化していくと負担が増していく。

 フランスは、これ以上の負担にフランスは耐えられず。

 戦後復興のため維持費の削減を考えていた。

 メコン川を揚子江化することで、利権分譲を検討していた。

 興味を持ったのがメコン川上流に中国・インド鉄道を建設中のイギリス。

 米の生産で日本。

 そして、戦略的な観点でアメリカ。

 「いやあ、アオザイを着た女性は、なかなか魅力的だな〜」

 少しオタクが入った日本代表がベトナム人のメイドを見て呟く。

 「なんなら、若い娘を都合をつけましょうか?」

 とフランス代表が囁く、

 「あははは、魅力的な話しだが他省混成で監視されてね」

 「堕落させないでくれよ」

 「では、他省の方々も御一緒に・・・・」

 「あはは、話してみるよ」

 『日本人は一緒じゃないと踏み出せないのか・・・』

 フランスも条件の良い形で投資をしてもらおうと必死だった。

 「・・・そういえば、日本人の傭兵部隊は勇敢でした」

 「西部戦線では随分と助けられましたよ」

 「そうですか?」

 「わたしも傭兵隊長として行ってましてね」

 「フランス第34旅団にいました」

 「おや、奇遇ですな」

 「わたしは37旅団で、すぐ第34旅団なら隣の戦線にいましたよ」

 「では、会っていたかもしれませんね・・・・」

 事前に調査していることだった。

 戦友ともなれば、さらに有効だった。

  

  

 日本という黄色人種の国。

 日本民族を別格扱いする白人国家と国民は多かった。

 扶桑型(扶桑、山城)、給油艦2隻が

 欧米諸国を砲艦外交した後は、特に顕著だった。

 火力は、356mm8門。

 予算さえあれば列強も建造できるもので最強ともいえない。

 長大な航続力と速度は、圧倒的で

 日本の造艦技術の粋が結集されているらしく。

 トータルバランスでいうと、

 同じ戦艦を同じトン数で建造できる列強はなかった。

 この時、日本の戦艦がオーストラリアに来訪していたら良かったという者は少なくない。

 日本から購入したレンタル艦隊が

 ドイツ艦隊を捕獲したにもかかわらず。

 ヒューズ首相の熱望する強いオーストラリアは、

 西部戦線でのオーストラリア軍35万の活躍で白豪主義に傾倒していく。

 そして、世界情勢はヒューズ首相が

 思うような観念的な白豪主義でなく、

 国力と軍事力、同盟戦略、地政学など

 複雑な背景で帝国主義世界が成り立っていた。

 日本が中国大陸に地場を作らず。

 欧米諸国を介した資源の輸入と製品の輸出で、

 やりくりをしているのは欧米列強との対立を避けるためであり、

 弱小国を恐れているためではなかった。

 

 ソビエトは、モスクワを中心に勢力を拡大しつつ、

 南部域のオーストリア・ルーマニア・トルコ連合軍を排除していた。

 臨時政府を打倒して、共産主義政府を打ち立てていく。

 ソビエト連邦は、開戦前の国土より狭められても、

 ロシア人の熱狂的に支持されていた。

 大量の戦死者を出し、ロシア貴族社会が倒され、

 資産の再配分により、

 ロシア国民の生活は、一時的にせよ楽になっていた。

 この時期のロシア人は、希望を持ち、

 以前よりはるかに世界が広がっていた。

 

  

  

 ドイツ帝国は、セーヌ川北岸から東はバルト3国。

 そして、サンクトペテルブルク(旧ペトログラード。ロシア帝国首都)にまで達していた。

 ペテルゴーフ宮殿。

 サンクトペテルブルクの西郊約30kmの要衝ペトロドボレツ。

 ドイツは、ソビエトの圧力に対し、

 フィンランドとの共闘を計画していた。

 そして、対ソ包囲網という地政学的な観点で日本代表がいる。

 日本は、日露友好関係と日英同盟で国際的に安定していた。

 ドイツ人にとって日本との関係は、重要なものとして認識させられる。

 この場所を会談に選んだのは日英同盟というより、

 対ソ協力の観点を強調したかったからといえた。

 もちろん、日本の傭兵部隊は、東部戦線で活躍していた。

 しかし、現状の共産主義拡大は、そういった怨恨より、

 より深刻な問題といえた。

 出される食事がロシア風なのも、

 ロシア人の統治に成功しているとでも言いたげであり、

 確かに外を歩けば、安定している。

 

 「・・・日本代表は、共産主義を、どのように考えておられるか?」

 「むろん、反対です」

 「日本国内に浸透して欲しくないですな」

 「例えば、共産主義がフィンランドやノルウェーに浸透したら、どうでしょうか?」

 フィンランドは、戦後、飢饉と失業で革命派が増大。

 一時は、権力側の資産階級と革命派の小作農・労働者で内戦が起きていた。

 マンネルヘイム将軍は、ドイツの支援を受けて共産軍を鎮圧。

 革命軍を一掃することに成功していた。

 その後、自国の自立のため、

 日本の漁業船団の海産物輸入など日本の利権浸透を許し、

 欧米諸国の浸透を防ぐ政策を取っていた。

 「むろん、戦いたいですな。共産主義と」

 「どういった形で戦われるお気持ちでしょうか?」

 「軍隊を派遣してまでとは言いません」

 「しかし、武器弾薬は供給できますよ」

 「現在、フィンランド国軍の小銃は日本製のタイプ38のようです」

 「我がドイツと互換性がありませんな」

 「日本人は、ごらんの様に身体的に小柄でしてね」

 「小銃も小物になりやすいですな」

 欧州で最大の日本商館が、同盟国イギリスでなく。

 フィンランドに建設されているのも、

 日本の欧州支店の本拠が建設されているのも、

 フィンランドの日本と日本人に対する優遇策が原因だった。

 フィンランド語が日本で流行するのも、

 日本鉄道がフィンランドに建設されている事が背景になっていた。

 「「・・・・・・」」

 「もし、ドイツがソビエトと戦争状態になった場合」

 「日本は、どういった形で介入されるおつもりですか?」

 「そうですな。武器を購入されるのであれば輸出するでしょう」

 「しかし、共産主義者には売却したくありませんね」

 「我がドイツも日本も帝政を敷いています」

 「今後は、両国で共通の利益を構築していけるのではありませんか?」

 「ドイツが共産主義者に武器を売ることがなければですがね」

 「むろん、我がドイツも共産主義者に武器を売ることはないでしょう」

 日独関係が反ソという形で関係が改善されていく。

 

 

 フランスのメコン川の国際化は、

 植民地の独占による帝国主義の終焉の切っ掛けになっていく。

 裏を返せば植民地を独占しなければ防衛負担を減らせる、

 帝国主義を延命できることだった。

 植民地防衛の負担を単独で抱え込むより、

 大家として植民地を解放し、

 利銭を稼ぐ方が防衛負担が少なく済む。

 利益が目減りしても、

 借家も共同で植民地維持をする支配体制が構築される点で優れていた。

 さらに揚子江のように、

 列強同士の相乗効果であがる利益は、大きいと予測され、

 国際連盟が列強クラブという様相を持ち始めたのもこの頃だった。

 第一次世界大戦の列強同士の戦いは、国際連盟を誕生させ、

 植民地権益の相互補助という形で達成されていく。

 イギリスでさえ、アフリカのように収益性が小さく、維持費の負担が大きくなると、

 フランス同様に国際自由市場体制に移行したがる一派も現れる。

  

 

 ドイツ本国は、大戦前の2.4倍の大国になっていた。

 ベルギー人、フランス人、ポーランド人、

 エストニア人、リトアニア人、ラトビア人を内包していたが、

 民族移動が進むにつれ、

 ドイツ領側のフランス人は、少数派になっていく。

 帝国の支配体制は、混乱していながらも徐々に安定に向かい、

 国力が増強していく。

  

  

 北パリ市

 ルーブル美術館の建て直しが行われていた。

 セーヌ川の北側にもドイツ人が住むようになり。

 南側にフランス人が住むようになった。

 国際中立セーヌ川河川法が適用され、

 セーヌ川を行き来する船舶は、急増し、

 羽振りの良い者が出てくる。

 「・・・矢沢。もっと、表に出ないと駄目あるね」

 「メイリン。だけど、日本人が表舞台に出て行って良いのかな」

 日本人男性の矢沢(34歳)が迷っていると、

 中国人女性のメイリン(26歳)がイライラとする。

 国際社会で認められる実力不足の日本人と、

 国際社会で認められていない実力者の中国人の組み合わせ。

 矢沢は、傀儡だった。

 2人が出会ったのは、揚子江。

 リ・メイリンにすれば人の良い矢沢は利用できた。

 そして、矢沢もリ・メイリンと一緒にいることで羽振りが良くなっていく。

 中国人が国際的な表舞台に出て行くことは出来ない。

 しかし、日本人なら出て行くことが出来た。

 日本人に対する人種差別は、命懸けの中国人より程度の低いもので、どうにでもなった。

 歪な二人三脚でも、お互いにないものを補うことが出来た。

 表面上、メイリンは矢沢の娼婦と思わせて矢沢を操り。

 南北セーヌ川の両方に日本・中華料理店を開いて儲けようとしていた。

 北パリの日本・中華料理店 “サクラ・ボタン” 

 南パリの中華・日本料理店 “ボタン・サクラ”

 メイリンは矢沢を社交場に押し出そうとする。

 矢沢は、テレながらも、

 ため息混じりにヨーロッパ社交界に入っていく。

 列強の有力者を店に呼び込むことで繁栄していく、

 列強各国の思惑は、セーヌ川を挟んだ姉妹店を利用していた。

 そして、川を行き来する艀のように策略や陰謀が交錯していく。

  

 どんなに実力や能力があっても中国人と朝鮮人は、国際社会で相手にされない。

 しかし、日本人は、差別されても無視されなかった。

 実力や能力。

 才覚さえあれば人の良さそうな日本人を捕まえて、発揮出来た。

 しかし、白人は、利用できない。

 どんなに人が良くても白人は黄色人の傀儡にならず、

 少しでも実力がつくと簡単に裏切っていく。

 そして、人が良く、裏切らず信頼できる日本人は揚子江に転がっていた。

 そう、中国人も、朝鮮人も、ベトナム人も、

 実力さえあれば日本人を表に立て、

 国際社会で、羽振りを利かす道があった。

 幸運にもリ・メイリンは、実力を発揮するための傀儡を見つけ・・・・

 「まあ・・・いいあるか」

 同時に将来の伴侶も見つけていた。

 頼りになる祖国を持つと、国民は、政府に飼われて弱くなっていく。

 頼りにならない祖国を持つと、国民が野生化して逞しくなっていく。

 どちらが良いのか、リ・メイリンにはわからなかった。

 そう、日本人がマシなだけで、

 国際社会で黄色人種は差別されている。

 矢沢セイジとこの店を守らなければならなかった。

 人の良い矢沢では店を守れない。

 成功に比例して誘惑は大きく、また多くなり、

 各国の諜報戦に巻き込まれていく。

 しかし、中立であることが店の繁栄を約束した。

 どこかの機関に付けば客が離れていく。

 そうなってはならない。

  

  

 国際連盟 ジュネーブ総会

 ノルウェーと北極点のほぼ中間に位置する北極海、

 スバールバル諸島が点在していた。

 スピッツベルゲン諸島とも呼ばれ。

 北緯74度〜81度、東経10度〜35度、

 最大のスピッツベルゲン島、

 そして、ノールエウストランネ島、バレント島、エドゲ島と多数の小島。

 総面積6万2049km2の半分以上が氷河におおわれ。

 スピッツベルゲン島は、

 石炭の採掘に従事するノルウェー人、スウェーデン、ロシア人が定住している。

 スバールバル諸島は、古くからノルウェーの物語にも登場する。

 1596年 オランダ人バレンツのひきいる探検隊が達しており、

 1890年代 ノルウェー人が石炭の採掘するまで無人島だった。

 その後、石炭の採掘権を巡って、

 ロシア、スウェーデン、ノルウェーが領有を主張した。

  

 ヤンマイエン島

 グリーンランドとノルウェーの間のほぼ中央に小さな島がった。

 (北緯71度 西経8度)に位置する長さ55km、幅14km、面積373kuのヤンマイエン火山島

 1607年 イギリスの航海士ヘンリー・ハドソンが島を発見し、

       ハドソンズタッチーズと名付け。

 1614年 この島の領有を主張。

 捕鯨基地としたオランダの船長ヤン・マイエンにちなみ、

 ヤンマイエン島とされて紛争地になっていた。

  

 国際連盟 ジュネーブ総会。

 なんと・・・・

 スバールバル諸島とヤンマイエン島の日本の領有権が

 連盟で認められてしまう。

 ノルウェー、フィンランド、スウェーデンの支持で、

 日本は、スバールバル諸島とヤンマイエン島の領有を宣言する。

 なぜそうなってしまったかというと、理由はいくつかあった。

 揚子江経済圏が、日本によって支えられていたこと。

 そして、ノルウェー、フィンランドが日本の更なる欧州増資を狙ったからだった。

 さらに二つの島で、

 一番利権の大きかったノルウェーとスウェーデンは、

 揚子江経済圏参入が代償で与えられ、

 創設された国際連盟銀行からの融資が入る。

 欧米諸国は、紛争地帯で戦略資源も価値もなく、

 さらに縁のない島なら、それほど痛くない。

 揚子江経済圏から上がる権益は、

 これら二つの島から上がる収入よりはるかに大きく、

 ここに日本資本と日本人を誘致することで人質とし、

 代わりに揚子江利権が安泰という目論見だった。

 これが、大戦後に扶桑型8隻を建造させた強国日本に対する

 欧米列強の回答だった。

 それ以外にも、南極海に位置する小島も、

 実質日本が占領しているため、領有が認められていく。

  

  

 最大の問題は、ドイツに占領されたベルギーの植民地。

 コンゴ。面積は234万4885ku。

 鉱物資源、コバルト(世界総埋蔵量の半分近くを占める)、

 銅、ウラン、金、宝石用・工業用ダイヤモンド。

 動植物、木材など豊富だった。

 ドイツが、一時占領し、

 その後、イギリス軍がコンゴ領を制圧して、紛争地帯。

 イギリスも国際的 (アメリカ、ドイツ) な圧力に耐えながら

 維持していくのは困難であり。

 ドイツも、制海権の不利さを悟っているのか、

 強行手段は取れず。

 国際連盟は、揚子江と同様、国際中立地帯とすることで、議会一致。

 常任理事国とアメリカの共同管理地域になってしまう。

 この地域は、交戦国となった場合、揚子江経済圏と同様、

 自動的に監視国の資格を失うことになった。

 そして、日本も大手を振ってコンゴへと参入していく。

  

  

 日本 首相官邸

 「・・・・縁もゆかりもない島を貰ってもな」

 「元々、係争と関係なかったが都合が良いと思われたんだろう」

 「石炭が取れたよな」

 「鯨もな」

 「じゃ 缶詰工場を作って欧州諸国に売るか、食糧不足だそうだ」

 「白人は、鯨を食べたかな」

 「人肉よりは、マシだろう」

 戦後の欧州で流れている噂だった。

 それほど酷いのだろうか。

 「・・・それも、そうか」

 「しかし、負担が大きくないか、予算がなかろう」

 「鉄道省に鉄道を敷いてもらうか」

 「・・・・・・・・・」

 「コンゴも、あったよな」

 「・・・・ああ」

 「・・・・予算がないな」

 「・・・・ああ」

 世の中、予算ありき、

 金だった。

  

  

 某大臣宅

 「補助艦艇ばいる、いったべ!」

 「そげんこつ言われてもな〜」

 「なしてんだなや?」

 「わかっとるけん」

 「わがってねえべ〜」

 「わかっとるが、ないもんは、なかけん」

 「やくそぐが、ちがうっべ。いったべ。補助艦艇ば、いるって、いったべ」

 「そげんこつ言われても、予算は決まってしもうたけん」

 「し、しゃがますい!!」

 「戦艦ばっかで、んまぐねぇ。どげんもできんだば〜」

 「だから言うとろうが」

 「国際連盟の総会で新しい土地が入ったけん、しょうがなかろうもん」

 「おらえんどご、から、すこだま、もぐんでも・・・」

 「ごしゃげる!!」

 「ば、ばかいうなや、おまえんところばっかやなかぞ」

 「あっちもこっちもたい。しぇからしか」

 「なして?」

 「国の国防ば、根幹んだべ?」

 「ど、どやんばい・・ほだなごど・・」

 「・・・もういっぺん、折衝ば、してみるけんが、もうちょっと待ってろ」

 「ほだなごど・・たのみます」

  

 

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第27話 1919 『補助艦艇も必要だって、言ってるでしょう』

第28話 1920 『国際連盟』

第29話 1921 『人種差別かよ』

海軍力

 

 各国軍艦状況