月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

  

第31話 1923年 『関東大震災・・・・』

 東京で、普通選挙即時断行を要求、

 二万人が集会とデモ行進

 

綾波型 小型巡洋艦

排水量

機関

重油(t)

馬力

最大

速度

航続力

(ノット×海里)

全長×全幅×喫水

(m)

武装

魚雷

爆雷

乗員

4000

ディーゼル

電気推進

1000

50000

32

16×10000

150×13×4.2

50口径120mm連装×4

4×2

48

330

50口径40mm×6

綾波、 長波、 巻波、 高波、 大波、 清波、 玉波、 涼波、 藤波、 早波

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 + 電探モドキ(基地、灯台からの無線輻射を受信して自己の位置、距離を測定)

 + ソナー一式

 + この時期、まだ、酸素魚雷は開発されていないので53.3mm魚雷

  

 総トン数の割りに、なんとも脆弱な武装で装甲もない軍艦だった。

 装甲と艦体を合わせたモノコック構造で、十分な強度を保てた。

 モノコック構造の代償は、修理改装で高度な技術を必要とされること、

 浮かせた重量が耐波性と航洋性に跳ね返る。

 日本海軍は、駆逐艦とも軽巡とも取れる扱いをした。

 米英海軍は、この艦種を軽巡として見るか、

 大型嚮導駆逐艦として見るか、頭を捻ることになった。

 巡攻艦、巡雷艦という別称もあったが、

 おおむね、小型巡洋艦で落ち着く。

 アメリカ海軍は、ベーリング海の制海権で不利になる認識と脅威を持った。

 少し時化るだけで1000トン級駆逐艦が戦闘不能になってしまう海域。

 アメリカの駆逐艦が航行不能でも

 日本の小型巡洋艦が数を揃えて突入。

 質の問題より、数の問題になってしまう海域。

 アメリカは、アラスカに至る制海権を失う危機感で慌てる。

  

  

 赤レンガの住人たち

 「陸軍が要塞防衛用の魚雷艇を建造して欲しいそうだ」

 書類がバラバラとめくられていく。

 総トン数150トン、(40m×9m×1.2m)

 35ノット、45口径76.2mm砲1門、533mm魚雷4門。乗員30名

 「パルプ材の合板が良いね」

 「木製だと150トンが限度だろうな」

 「散々、やりあったからね・・・・」

 「この前の800トン級漁船の機関強化」

 「大砲と魚雷を載せて、というのにも、まいったがね」

 「そりゃ 政府と海軍の肝いりで軍事転用の船殻設計も限度があるよ」

 「敷設艦、掃海艇、哨戒艇、駆潜艇なら」

 「低速でも構わないから問題無しでも、魚雷艇は無理だろう・・・・」

 「しかし・・・大砲は・・・・なんに使うんだ」

 「45口径76.2mm砲だと、駆逐艦と撃ち合うつもりか?」

 「イギリスの45口径76.2mmか」

 「初速762m/sで、射程11340m。l分で13発。命数も約1400発で悪くないが・・・・・」

 「機動兵団も、45口径76.2mm砲だったよな」

 「ああ、同じ砲弾を使うだろう」

 「重たいのは嫌がっていたはずだよな」

 「どこか削るんじゃないか、世界大戦の影響を受けたようだし・・・」

 「鉄道で運ぶか、トラックで引っ張らせるようだし」

 「・・・しかし、大砲が気休めだけなら、いらないんじゃないか」

 「火力支援なら要塞砲任せで良いし」

 「80トンくらいで魚雷4本搭載、数を揃えて突入する方が発見されにくいし」

 「弾も当たりにくい。安く上がる」

 「気持ちの問題だろう」

 「悲壮過ぎて士気が低下するとか、大砲無しだと嫌だとか」

 「それに小型で数を揃えると鉄が余って費用が増える」

 「綾波型と同じ論法だな」

 「そうだろうが、わがままだな・・・」

 「結局、部隊の士気の問題だよ・・・」

 「日露戦争からまともに戦っていない」

 「日露戦争をまともに戦ったと言えるか、わからんがね」

 「世界大戦も傭兵部隊だけだろう」

 「戦訓さえ、まともにないじゃないか」

 「前線もだが、実戦で兵站の管理経験が薄いのが痛いな」

 「問題は海軍か・・・・」

 「嫌だよな・・・当然」

 「そりゃ、少ない予算だから外洋海軍らしくやりたいだろうさ」

 「外交用で訪問させるにしても」

 「最低、このくらいの大きさが欲しいと思う大きさがあるからね」

 「それも、そうか・・・75mm砲は、全部売れたのか」

 「ああ。38式野砲の在庫は一掃した」

 「75mmでも良かったんじゃないのか」

 「小銃と合わせて38コンビでゴロが良かった」

 「イギリスが76.2mm砲だから合わせたんだよ」

 「同盟国だし。聖ロシアも76.2mmだし」

 「フランスやドイツの75mmに合わせるのも不都合だって」

 「次の戦争に合わせてか」

 「将来的には、50口径か、55口径にして、対空用に改良するだろうな」

 「どちらにしても予算不足で駄目だが」

 「将来的にはね〜」

 「ところで、オランダ人のインドネシア移民が増えているそうじゃないか」

 「イギリスとドイツに挟まれて酷い目にあったからだろう」

 「ベルギーも滅ぼされて危機感たっぷり」

 「多分、3分の1も残らないんじゃないか」

 「オランダがアジアに移転か・・・・」

 「オランダ連邦になるそうだ」

 「東南アジアで白人が、のさばるな」

 「オーストラリアに」

 「揚子江に」

 「聖ロシアに」

 「インドネシアのオランダ連邦か」

 「世界で唯一、黄色人の列強、日本も、ヤバイな」

 「穴掘りも弾みがつくんじゃないか」

 「ふっ」

 「北中国と南中国に期待したいね」

 「・・・地図を見ると期待したくなるけど」

 「現実を見ると期待する気になれないね」

 「まだ、タイ王国がマシだよ」

 「タイ王国も、どうかという気にもなるが」

 「唯一、有色人種が白人世界に勝っているのは人口だけか」

 「烏合の衆だよ。日本が植民地にされないことを祈るね」

 「最近は、日本でもアジア連合派が力をつけてきている」

 「国際政治でメンタルな面を優先されても困るがな」

 「力関係で悪いと本当に白人世界に滅ぼされる」

 「列強は、大戦で大人しくなっている」

 「どちらかというとイタリアとスペインの軍事政権の方が怖そうだな」

 「アメリカも戦っていないし」

 「国際連盟に入らず仲間外れで欲求不満気味だ」

 「最低でも、あと二十年は、戦争したくないよ」

 

 

 北中国で段祺瑞(だんきずい)大統領が

 中国民衆と列強の干渉に遭って退任。

 汪兆銘(おうちょうめい)大統領が選出される。

 欧米露日諸国から支援を受けた汪兆銘大統領の北洋軍が

 ソビエトから支援を受けた毛沢東の共産軍狩りを始める。

 「劉コウトク。急げ! ここから逃げるある」

 「北洋軍か?」

 「そうだ。くそぅ〜 いい気になりやがって」

 「郭ムンソウ・・・」

 「俺は戦うある。親兄弟を家ごと焼き殺し」

 「土地を奪ったあいつらを許さないある」

 「いまは駄目ある。勝てる時に戦えば良いある」

 「・・・・・・!?」

 郭ムンソウが劉コウトクの腕を掴む

 「頼む。見逃すある! もう、我慢できないある」

 「劉! 俺の母親と姉は、白人どもに面白半分に犯されたあと殺されたある」

 「父は、足を撃ち抜かれて川に捨てられ、俺も殺されかけたある」

 「悔しいのは、おまえだけじゃないある」

 「!?」

 「劉! ここは、退いてくれ!」

 「俺たちのためにも。必ず、勝てる時が来るある」

 「・・・わ、わかった」

 十数人の男たちが谷に向かって逃げ出していく。

 そして、数百の北洋軍が峠から現れ、

 ノロノロと何かを捜索するように谷に入っていく。

  

  

 

 西暦1923年・大正12年

 09/01

 関東地方は、午前3時頃、やや激しい風雨が通過する、

 夜が明けてみるとカラリと晴れる。

 さわやかな初秋の朝。

 誰もが、いつもと同じような一日になると思う。

 昼頃

 人々は、昼食の支度を整え、あるいは食卓についていた。

 不意に異様な音響と大地が波打つ。

 次第に振動が大きくなり大激震となった。

 隆起と沈降、

 地割と液状化で地表が変わっていく。

 あっという間に壁が崩れ、

 屋根が落ち、

 塀が倒れ、

 柱が折れ、

 家という家が軒並み大破して倒れ、潰れていく。

 土煙が地表高く、関東を覆い被さって、息をするのも苦しくなる。

 さらに正午で、あったことが災いする。

 東京だけでも、百数十カ所で、同時多発的に火災が発生。

 風に炎が煽られ、

 数条の炎の竜巻が町並みに沿って這い回り、

 火の海が広がっていく。

 いくつもの炎の竜巻が椅子やテーブル、看板、戸板、瓦を天高く放り上げ集まり。

 炎の巨大竜巻となって、人や物を天高く巻き上げ、大地に叩き落していく。

 ほとんどの場合、即死。

 この日、1923年(大正12年09月01日)。

 1855年(安政02年10月02日)の江戸大地震以来の惨害が起きた。

 関東大震災

 大きな家具ですら木の葉の様に空を舞い。

 時には半壊した家の一部が降り注ぎ、

 危険な落下物が逃げ惑う人々を襲う。

 火炎地獄から逃れようと

 大勢の人間が我先に押し寄せ、川に逃げ込む、

 川が浅ければ助かりやすく、

 深くなると波に押しやられる、

 子連れ、女子供が深みに入ると、

 次から次に溺れていく。

 大火は東京の大半と、

 横浜・横須賀の全部を3日間にわたって焼き尽くしていく。

 動けない者は踏み倒され、逃げ遅れた者が押し潰され、

 断末魔の悲鳴を響かせる。

 助けを呼ぶが辺りは、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 伊豆大島付近の海中を震源とする関東大震災は、

 東京湾、相模湾沿岸一帯を瓦礫に変えてしまう。

  

 大震災後も地獄が待っていた。

 生き残った者は、呆然自失でたたずむ、

 死者70000人を越える大惨事。

 全・半壊家屋24万4499戸、

 焼失家屋43万7128戸を数えた。(史実より少し減っている)

 高速鉄道のおかげか、早々と日本全国から陸軍部隊が集結。

 出没する不心得者を押さえ込んでいく。

 それでも犯罪の類は目立たない方であり、

 死体の山があちらこちらに作られて燃やされていく。

 70000人を燃やすというのは、精神的にも物理的にも大変であり、

 精神衛生上で言うと、殺人の次ぎ、くらいだろうか。

 人の焼ける臭いが東京中を覆う。

 

 大震災は、大戦景気の豊かさに対する天譴(てんけん)論とされ。

 失ったモノは多く、開き直り “質実剛健” が尊ばれる。

 良しにつけ悪しきにつけ、日本は守られていた。

 国民全体が誤っても、天災一つで意識が変わる。

 伝統的なお金持ちも、

 成金族といわれる新興お金持ちも揃って苦境に立たされる。

 もちろん、地震は、公平で、善人も、悪人も、区別しなかった。

 大震災は、善人も、悪人も、敬謙に悔い改めさせてしまう。

 少数ながら共産主義者がドサクサに殺されたりもする・・・

 かと思えば同じ東京にいても場所が良ければ・・・

 善人も、悪人も 「・・・・・・・あ・・・・地震だ・・・・」 で、終わる。

  

   

  

 ここで日本の経済力が高かったことが大震災後の復興計画から、

 再建計画を飛び越え、創建計画へと向かってしまう。

 ちょうど良いとばかりに、

 偉い学者と比較的健全な官僚が青写真を作ってしまい。

 それが、内閣の審議を通り予算が通過していく。

 「・・・本当に、これだけの予算を投資しても大丈夫なんだろうな」

 「問題ありません」

 「耐震建築が厳しすぎないか、軽量金属が多いようだが」

 「設備投資には、ちょうど良いかと」

 「・・・・・・・・・」

 「市場は、拡大傾向にあります」

 「北中国、聖ロシア、南中国、インドネシア(オランダ連邦)も購入が増えていますから」

 「んんん・・・・良いだろう」

 なんと、大戦後、

 不況になると思われていた日本経済は、民需転換が功を奏したのか、

 持ち堪えるどころか逆に経済成長を増していく、

 欧米各国は、首都東京の災厄で、10年ほど停滞すると見込んでいた、

 しかし、区画整理で逆に発展していくことになる。

 耐震用の建築法は、官僚側も、供給側も間に合うはずがなかった。

 そして、それが政府の狙いでもあった。

 地方移民への誘導は、北方に向けて加速度的に進められていく。

 それまで、地方への予算に追随していた企業と人材だった。

 しかし、ここで初めて予算に見合うだけの移民が急増した。

 帝都に集中していた人材が

 政府が思惑に沿った地方へと流れていく。

  

 北方は、地下鉄を核にした地下経済で表面上わかりにくかった。

 日本の総生産量が実質伸びているのに首都再建が進んでいないと、

 日本経済の沈滞、または、停滞と勘違いする。

 都市人口の集中が生み出す生産効率と生産性の高さは大きかった。

 しかし、空間の持つ整理性も生産に寄与すること大だった。

 そして、この関東大震災は、一時的に日本経済を低迷させた、

 日本経済を再構築させて、押し上げる転換点の一つにもなった。

 震災後、関東の土地を安値で買い上げ、

 数倍の広さの地方土地へと移転を進めて区画整理を強行していく。

  

  

 ブーベ島

 南アフリカのケープタウンから南南西へ約3000km。

 南緯54度26分、東経3度24分の南大西洋上に位置。58.5ku。標高780m。

 南大西洋上の寒風吹き曝しの氷河に覆われた何の変哲も無い孤島だった、

 日本船団を乗り付けてから変わっていく。

 港湾が作られ、巨大な格納庫が建設され、

 南極開発の基地となり、捕鯨基地となっていた。

 南半球が冬の間、ここに物資を備蓄し、

 夏になればここから砕氷空母が南極大陸へと突進していく。

 日英同盟が継続されている限り他にも整備された代用港が利く、

 しかし、スバールバル諸島の領有が決まると、

 この島の重要性も高まった。

 北極海航路が使えなくなった場合、

 中継基地がブーベ島になってしまうからだ。

 そして、スバールバル諸島の領有が

 白人世界の罠でも日本政府は乗ってしまう。

 日本が白人世界全体から受ける圧力を軽減させるためであり、

 敢えて引き受けた。

 極地地方の濃霧と、強風と、雹など、劣悪な環境下でも自衛し、

 自給自足体制を確立しつつあった。

 日本のディーゼル発電、風力発電、保温技術は、

 世界屈指と言えるレベルに到達していく。

 ドイツから購入した飛行船を最も有効に運用していた日本だった、

 しかし、事故はおきる、

 飛行船が氷河に叩きつけられて落ちていた。

 乗組員こそ救出されるものの、

 飛行船の持つ弱さに気付かされる。

 それでも、飛行船の運送能力や滞空能力は捨てがたいものがあった。

  

  

 オーストラリア首相

 ヒューズは、不機嫌だった。

 日本の南極大陸占領維持が面白くないのだ。

 かといって、白豪主義に燃える彼も、

 海軍力がないのでは何も出来なかった。

 イギリスから貰った軍艦が上陸作戦部隊ごとドイツ海軍に沈められ、

 駆逐艦が数隻しか残っていない。

 イギリスに追加の艦隊を派遣するように要請するが埒も明かず。

 自国で建造しても、二線級艦艇になってしまう。

 日本海軍をレンタルして、ドイツ太平洋艦隊を捕獲。

 しかし、条項に従うとレンタル代を支払わない限り、

 ドイツ艦隊は日本の物など日本には腹が立つことばかり。

 ドイツ植民地は、現状維持で残され、

 さらに日本が南極域の島と南極大陸を占領しつつあることが面白くなかった。

 日本船舶が、オーストラリアの港から資源を載せては運んでいく。

 そして、商店には日本製品が並ぶ。

 イギリスから持ってくるより、

 はるかに安価な日本製品で、オーストラリア産業は育たず。

 オーストラリアの資源は消えていく。

 資源でレンタル代を払い、

 ドイツ艦隊を購入できると思えばさにあらず、

 日本製品の購入で利益が日本へと流れ。

 一部の資本家の懐に利益が転がり込むだけで、

 オーストラリアの生産性は阻害され、産業が破壊される。

 そして、インドネシアとの資源価格競争も始まろうとしていた。

 オランダは、インドネシアに本国ごと遷都してくる。

 日本から土木建設機械や製品を大量に必要としていた。

 ドイツも青島地区、ミクロネシア、ビスマルク諸島、

 北東ニューギニアの植民地へ投資を増大。

 資金力に任せて日本製品を購入。

 ついには、日本製品の価格単価が高騰し、

 資源は、さらに安値になっていく。

 これまで、レンタル代を資源で払ってきたのも、

 東京湾に浮かぶドイツ艦隊の購入のためだった。

 対立候補のブルースは、捕獲艦隊の購入反対を叫び始める。

 ブルースに言わせれば、レンタル代も払いたくないという。

 アボリジニーが相手ならともかく、

 日本は、国際連盟の常任理事国。

 レンタル代の不払いができるわけがない。

  

  

 ここで、日本の首都東京が大震災で機能停止という。

 ヒューズは、港にいる日本商船の拿捕を命じる。

 理由はどうでも良かった。

 日本政府が弱腰外交を見せれば、

 無し崩しに有利な条件に持っていけると考えた。

 しかし、一部の日本船 “くじゅうくり丸” が脱走を図り、

 砲撃によって撃沈、死者を出した。

 全欧米諸国は、関東大震災の義援金を送ろうとしていた矢先で慌てる。

 海軍戦力を持っていないオーストラリアが日本の天災を利用し、

 凶行に及ぶなど、誰も思いもしなかったからだ。

 そして、日本政府と日本海軍は、機能していた。

 なにより、日本国民全体が “卑劣なオーストラリアを打倒せよ” と叫ぶ。

 さらに欧米諸国がオーストラリアを助ける道義的理由もなく。

 聖ロシア帝国はオーストラリア政府を非難。

 当然、欧米諸国も、揚子江保持のため、

 オーストラリアの味方は、イギリスを除いて皆無。

 そして、イギリスでさえ、道義上、オーストラリアを助ける口実がなく、

 オーストラリアの非道を追求する。

 何しろ、日英同盟違反どころではなく。

 強化された日英同盟条項に従うなら、オーストラリアは敵国になってしまう。

 ドイツは、面白げにビスマルク諸島の港を期限付きで日本海軍に賃貸。

 物資供与を認める。

 ヒューズ首相が期待していた。

 白人世界が一致して日本を破滅へ追い込むような世界情勢にならなかった。

 34000トン級 扶桑型高速戦艦

   扶桑、山城、伊勢、日向、

 4000トン級 綾波型軽巡

  綾波、長波、 巻波、 高波、 大波、 清波、玉波、 涼波、 藤波、 早波、

 ほか40隻がシドニー港湾に姿を現した時、

 ヒューズは、後悔する。

  

  

 扶桑艦橋

 竹下長官は、双眼鏡から、シドニー港湾を覗き込んでいた。

 「オーストラリアからの反応は?」

 「・・・まだ、ないようです」

 「密使は行ってるだろう」

 「ええ」

 「出来立て、ほやほやの綾波型10隻は、慣らし運転中だぞ」

 「大丈夫なのか?」

 「す、少し、危なかったですが・・・・」

 「出来立てで、ぶつけてみろ」

 「始末書では済まん、クビが飛ぶ。沈めでもしたら切腹だ」

 「まったくです」

 「やれやれ、オーストラリアも、とんでもないことをしてくれる」

 「関東大震災で大変な時期だというのに」

 「だからでしょう・・・ヒューズも非常識な男です」

 「白豪主義も、あるだろうが」

 「もう少し、正々堂々と紳士的にやろうとか、思わんのか」

 「各国とも介入しないという約束だけは取り付けています」

 「しかし、長引けば不利になるかも知れんな」

 「洋上補給は、いまのところ順調です」

 「捕鯨船団と南極開発船団の輸送力はたいしたもんだな」

 巨大な捕鯨船団が、艦隊の日常生活と補給を支えていた。

 「2万トン級から3万トン級ですからね」

 「それも軍艦と違って容積率も大きいですし」

 「何より、海軍よりベテランが多く」

 「戦場を行き来して、海軍将兵より練度が高い」 涙々

 「ええ・・・」 涙々

 「オーストラリアは、攻撃してくるつもりがないようだが・・・・・」

 「駆逐艦が、2隻から3隻ですから・・・」

 「イギリスの第1巡洋艦戦隊は、洋上で様子見のようです」

 (アーバスノット少将)

  装甲巡洋艦  アキリーズ、コクラン、ナタル、ウォーリアが、遊弋していた。

 「撃って来ないだろうな。イギリスと戦争したくないぞ」

 「ええ、どの国も、そのはずですよ」

 「アメリカは、わかりませんが」

 「第2戦隊は、待機しているだろうな」

 「ええ、アメリカが仕掛けてきたら、すぐに通商破壊作戦です」

 「・・・来ると思うか?」

 「ほかの理由なら来るかもしれませんが、今回は難しいでしょう」

 「クーリッジが大統領になったのは最近だからな」

 「前任者ハーディング大統領は、歴代最悪の大統領として有名ですから」

 「アメリカは内政建て直しで忙しいか・・・」

 「ハーディング大統領は」

 「“恐ろしい秘密を知ってしまったら、君はどうするかね?”」

 「と周囲に漏らしていたそうだ」

 「どんな秘密だろうな」

 「遊説先のサンフランシスコで、謎の死らしいですね・・・」

 「それも在職中の死は予言されていたとか」

 「不思議な国だな。日本史では聞いたことがない」

 「ええ、せっかくモンロー主義に引き篭もっているのですから」

 「世界に目を向けて欲しくありませんが」

 「適当な形でオーストラリアに妥協してもらわんと」

 「日本も引っ込みが付かないし、下手すると倒閣ものだな」

 「日本国民が、あんなに怒るところを見たのは初めてだ」

 「首都再建で忙しいと世論を誘導していないのに・・・」

 「白人に対する恐怖感の裏返しですね」

 「国民は、無責任に言いたいこと言うからな」

 「結局、責任は政府と官僚だよ」

 「大震災ですからね」

 「政府も、いちいち国民の言うことを真に受けると大変なことになるからな」

 「財源は、有限で国民からだ」

 「ですが無視すると、国民の声が届いていない、ですから」

 「国民も、いい加減だからな」

 「政府に我が侭を言えるくらいが良いのだろう」

 「そのくせ失策だと手のひらを返したように倒閣ですから」

 「政府は、大震災の上に戦争などしたくないだろうが」

 「国民は戦争も辞さずか・・・」

 「熱しやすく冷めやすいですから、御しにくいですよね」

 「どちらにせよ。政官財は戦争を嫌がっている」

 「関東大震災と戦争では、予算配分も合わんよ」

 シドニー事件。

 シドニー港内の日豪協議は、3日にも及んで決着が付いた。

 日本が白人世界に対し、

 砲艦外交を強行した最初の出来事といえる。

 日本艦隊は、一発の主砲も撃たなかった。

 これは、白人世界との対決をギリギリまで避けようという姿勢だった。

  

 日豪の仲介に入ったイギリス外交部は、

 オーストラリア首相ヒューズの白豪主義ぶりに泣きたくなるほど、だったという。

 日本艦隊は、弾薬補給船だけでなく。

 交換用の砲身すら持ってきていた。

 撃ちたくないだけで撃てないわけではなかった。

 最後は、イギリスがオーストラリアに対し、最後通牒を突き付け、

 ようやく、首相ヒューズは、日豪平和協定にサインする。

 マックウォーリー島、ニューギニア島南東部、

 ハード・マクドナルド諸島の日本領有が決まってしまう。

 白豪主義に根ざしたヒューズ首相の終わりだった。

  

  

 首相官邸

 「損害賠償とレンタル代とドイツ艦隊の代償が」

 「マックウォーリー島、ニューギニア島南東部、ハード・マクドナルド諸島か・・・」

 「損した気分だな」

 「日本国民のオーストラリア打倒が一気に冷めてしまった・・・」

 「領土は、受けが良いのだな」

 「金か、資源の方が良かったがな」

 「日本人は、封建的な意識から抜けていないのだろう」

 「日本に必要なのは、資源か、金なのに」

 「イギリスに上手いこと丸め込まれたという感じでしょうか?」

 「開発するのに時間のかかりそうな場所だな」

 「元を取るまで何年かかるか・・・・・」

 「土地を渡して開発させれば」

 「日本の国力を削ぐ事が出来ますからね」

 「しかも場所が悪い・・・・・」

 「ああ、あそこは、ドイツ領と豪州に包囲されている」

 「南極開発は好都合で、海軍が喜んでいるようだが」

 「どうでしょう。結局、一発も撃たせませんでしたから」

 「外交交渉で片付けられるのなら、武器を使うこともない」

 「相手は、未開人ではなく。白人なのだ」

 「白人世界と戦う気はない」

 「しかし、開発予算は絞り出せんよ」

 「南極開発資金でやれば?」

 「予算の増額してくれるのか」

 「まさか」

 「・・・いやだ。別の予算でやってくれ」

 「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 「じゃ 運輸省・・・・」

 「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 「アメリカに売るか?」

 「・・・ははは」

 関東大震災の上に領土獲得。

 日本政府の苦しい台所事情から問題が多かった。

 いくら儲けていても、そう簡単に右から左へと資金が出るわけもなく、

 さらに国債を発行せざるを得なかった。

  

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 なんと、日本は、財政上の理由で、

 数と質の最大公約数? 最小公倍数? で、

 巡洋艦と駆逐艦の中間種が量産。

 列強各国が

 “世界で、もっともバランスが取れた海軍”

 と賞賛した連合艦隊は予算の都合でお別れです (ーー)/~~

 もう一つ、小型巡洋艦(巡攻艦? 巡雷艦?)の名称は、綾波型にしました。

 こればかりは譲れません。

 はてさて、彼女は、活躍できるでしょうか?

 か、活躍させたい・・・

 それも美しく、暴虐無尽かつ、血も涙もなく凶暴に・・・

 それでいて、冷徹に・・・・・・・

 

 

 

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第30話 1922年 『ちょっと落ち着いたかな』

第31話 1923年 『関東大震災と・・・』

第32話 1924年 『民主化もね』

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