月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

  

   

第32話 1924年 『民主化もね』

 日豪平和条約調印。

 欧米列強は、関東大震災後も日本の中枢が機能していることを認識させられ、

 オーストラリアは、戦闘もしていないのに降伏条約を結ぶ。

 もっとも、戦っていないのだから、

 負けていないという歪曲されたプライドを持つこともできた。

 そして、日本は白人世界と決定的に戦うという事態を避け、

 資源や金の方が良いと考える冷静な人間を除き、

 満足できうる結果を得た。

  

 関東大震災後。

 東京の創建計画を進めることにしたものの、

 国民の不平不満を吸収するため、

 段階的な民主化を約束する羽目になった。

 民主化が本当に良いのかは人それぞれ。

 しかし、議会も官僚も国民のモラルが高く。

 計画的な路線さえあれば、

 後は、民間活力を十分に生かすべきという趨勢になっていく。

  

 そして、日露戦争以後、政治的な矛盾と軋轢。

 デモクラシーの風潮で日本の政体が崩壊しつつあった。

 北東シベリア・カムチャッカ(別称:扶桑)、

 樺太道、

 北海道、

 本州、

 九州、

 四国、

 台湾(別称:敷島)

 を都道府県制度で無理やり誤魔化してきたのが破綻する。

 人の移動が少ない間は、問題も小さかった。

 ところが北方投資の拡充が進み移民の受け入れが可能になり。

 そこに、スバールバル諸島の領有。

 関東大震災で人口が大量に移動する事態になると問題が大き過ぎた。

 さらにニューギニア島(南東部の保有)。

 帝国議会や官僚の良識派は、困惑する。

 「こんなデタラメな補給線をまったく無視した領土拡張があるか!」 と反発する

 「国際情勢の都合で勝手に転がり込んできたものをどうするのか?」

 「返せというのか?」

 「金か、資源で済ませれば良かっただろう」

 「ないという者から金を取れるか!」

 「それにこれ以上、資源を払えないのだから、しょうがなかろう」

 「そもそも今回のシドニー事件も」

 「レンタル代替わりの資源輸出に端を発している・・・・」

 と与野党や官僚まで巻き込んで攻防戦が起こる。

  

  

 行政改革。

 民主化の波に煽られて、二大政党制に移行していく。

 政友会は、赤字財政を組んでも、

  農山漁村の開発を積極的に進める「積極財政」

 民政党は、収支均衡を重視する「健全財政」という性質を持つ。

 日本帝国議会も政体上の限界に達した。

  

 そして、本命の・・・・

 というより政体改革は、あっさりと議会を通過。

 諸外国が革命?

 と勘違いする。

 影が薄い大正天皇の最初にして最後の花道。

 王政復古以来、明治維新以後、

 最大の裁可が下された。

 (意識がなかったという説もあったが・・・)

 連邦制への移行。

 日本連邦 首都 [東京]

 

  扶桑州 [北斗]

    北東シベリア・カムチャッカ半島

 

  樺太州 [豊原]

    対岸の南北間宮半島も含む

 

  北海州 [富良野]

    千島列島含む

 

  東北州 [仙台]

    青森、岩手、秋田、山形、宮城、福島、新潟、

 

  関東州 [富士宮]

    茨城、栃木、群馬、長野、千葉、埼玉、神奈川、山梨、静岡、

 

  中京州 [京都]

    富山、石川、福井、岐阜、愛知、三重、

    滋賀、奈良、和歌山、大阪、京都、兵庫、

 

  西南州 [福岡]

    鳥取、岡山、広島、島根、山口、四国、九州、沖縄、

 

  敷島州 [南樹]

   旧台湾

 

 八州による連邦制は、自治権をどの程度認めるかだった。

 結局、連邦と州の予算配分は6対4とされ、税収が配分されていく。

 連邦は国家機関中枢を残し、

 州議会へ権限が分けられていく。

 国家そのものがバラバラになったり、

 統治能力を失わない程度の法整備と委譲は微妙だったものの

 巧妙に構築されてく。

 この時期、金権政治と官僚腐敗は、それほど目立たなかった。

 

 知事公選   州議会×8

 連邦議員(240人) 票率上位30人が選任されて連邦議会へ

   所得税加重票。所得税を納めている額によって票数が増える

   (脱税抑止策 兼 お金持ちは頭も良いだろう的発想)。

 州議員(240人) 30人が議員に選任されて連邦議会へ

   州議会から30人が連邦議会に派遣される。25歳以上の成人男女が選挙権を持つ。

 首相公選   連邦議会 (連邦議員240人、州議員240人)

  

 州知事には、州議員(連邦議会の30人を除く)の解散権がある。

 首相には解散権はなく、州議員の入れ替える制度になってしまう。

 権力的に弱くなる。

 しかし、支持基盤が国民投票で議会からの影響が受けにくく。

 議会の勢力に関係なく任期満了まで首相が出来るので政策的に一貫性が執れる。

 首相が議会から孤立しやすく、

 実力より人気職になってしまうが

 実力者をどうとらえるかにもよる。

 

 ほか、連邦直轄

 出雲(スバールバル諸島)

 瑞穂(ニューギニア島南東部を改称)

 大和(南極基地)

 半島南岸部、遼東半島部

 

 首都東京は、瓦礫が、まだ残って区画整理だけが進んでいた。

 欧米諸国は日本の窮状の見当をつけるが設備投資は拡大に次ぐ拡大、

 貿易黒字の記録が毎年書き換えられていく。

 それでも国内で資源を採掘。産業を育てていく国と違って、

 資源を購入、加工、輸入しなければならなかった。

 しかし、ハンデキャップは大きかったものの、

 日本人の勤勉勤労が損益分岐点を越える。

 日本の首都から瓦礫が消えていく様子を諸外国の諜報員が呆然と見詰め、

 日本の急激な高度成長を本国へ伝える。

 「・・・・・」

 「どうした?」

 「日本民族が働いています」

 「はぁ〜」

 「がむしゃらに働いて、無理やり利益を上げています」

 「このような国民は見たことがありません」

 「ばか、どこの国の国民でも働くものだ」

 「はぁ〜 老若男女、貧富に関係なく、良く働いています」

 「というより、遊び方を知らないようです」

 「・・・・・」

 労力を資源としてみれば、日本を資源大国と言えなくもない。

 さらに識字率の関係から効率の良さも加味される。

 資源がない分、余計に働いているだけだった。

 当時の欧米の価値観から日本民族の労働競争力が抜け落ちていた。

 アメリカ人が合理的に見て、

 日本人が非効率にダラダラ働いているように見えても、

 遮二無二働けば、それなりの成果が上がってしまう。

 ウサギと亀のように

 休んでいる間に日本人がゴールに立っているパターンになっていく。

 ドイツ人が、ムラの多い日本民族だと高を括っていても、

 器用に強引に列強の水準に達しているという状態だった。

  

  

 フランス人は、ドイツにセーヌ川北岸を占領され、

 意識が変化したといわれていた。

 それが事実か別にとして、

 北フランス地方からフランス人1000万が

 北アフリカや他の植民地に移民していく。

 本国のフランス人4000万と植民地の非フランス人6000万。

 単純な計算で本国フランス人3000万と

 植民地のフランス人1000万 + 非フランス人6000万という形だった。

 人口でフランス人が不利であっても、

 宗主国フランス人の大量移民はフランス連邦のあり方を大きく変えていく。

 さらにフランスは、植民地を国際市場として開放。

 搾取を人任せにし、大家さんとして定額収入を狙う。

 この選択が正しかったのかというと、

 自由貿易を好むアメリカ資本が参入し、

 植民地のないイタリア資本も進出し、

 ほかの列強も、フランス植民地に関心があるのか、

 相乗り投資で企業誘致が進み、

 フランスの戦後復興を助けることになった。

 

 

 オランダは、欧州からベルギーが消えたことで危機感を強め、

 本国ごとインドネシアへの遷都を決める。

 オランダ人の大半をインドネシアに移民させ、

 インドネシアの近代化のため

 資源を放出し、値崩れを起こしてしまう。

 これが資源を売却し、

 戦後再建を図るイギリスの妨げになった。

 この状況では売ることも出来ないといった状態だった。

 新生オランダ連邦のおかげで、

 日本は、安価な資源を輸入し、

 高騰した製品を売って潤い始める。

 インドネシアの主要な要衝は、

 オランダ本国の雰囲気を移すような形で開発され、

 オランダ人が入植していく。

 生活必需品を日本に発注。代価として莫大な資源を日本に輸出する。

 オランダは適当な距離にある日本と組むのは有益だった。

 造船・製糖・出版・大型機械・製紙・衣料繊維・

 陶磁器・ガラス・航空機・自動車・化学製品などなど、

 設備投資を日本に発注。

 オランダ連邦を近代化させていく。

 もっとも、オランダの総人口が800万強。

 その内、600万が、インドネシアに移民しても、

 インドネシア人は、6000万弱。

 フランスより状況は厳しかった。

 ここで、ベルギー人や東欧や南欧の白人系移民を募るり、

 アメリカが移民制限した分を吸収していく。

  

 ドイツ帝国とオーストリア・ハンガリー帝国は、

 オランダ連邦とフランスの移民政策によって助けられた向きが強い。

 国内の不満民族の大移動が起こると、

 その煽りで、低価格の製品を量産できる日本経済は、さらに潤っていく。

  

 本国を失ったベルギーの亡命政府は、政策を統一する力が弱く、

 ベルギー人800万は、オランダ連邦とフランス側に吸収される。

 コンゴへの移民を進めるが

 コンゴ原住民1000万を抑えきれず。

 列強と共同で国際自由市場にするしか手立てがなかった。

 

  

 パプアニューギニア島 南東部 ポートモレスビー

 日本という国は、温帯で四季があり、

 過ごしやすい気候だという。

 否!! そうではない。

 寒過ぎず。

 季節の変動がない。

 水があれば良い。

 それが人間にとって過ごしやすく、素晴らしい気候。

 日本の総督は、そう思い込む・・・

 しかし、ひたすら暑く、暑かった。

 心頭滅却しても暑いものは暑い。

 朝と夜は、涼しい風も吹いてくる。

 しかし、日中は、蒸し風呂に入っているような気分にもなる。

 こんなものが着れるかと背広を脱ぎ捨てる。

 日本の地元で懇意にしていた村長に羽織で

 過ごしやすそうな政務服を作ってくれと野暮なことを打診する。

 後にそれがアロハシャツと並んで熱帯の服装になり。

 さらに、この地での正装になって、

 世界中の熱帯域に広がるのだが後の話し、

 赤痢、腸チフス、食中毒などの消化器系疾患。

 A型肝炎などの感染症が1年中発生し、

 12から4月に流行する。

 なんという地域だろうか、暑すぎる。

 “寒ければ、服を着ればよかろう”

 などと某地域で袋叩きに遭いかねない言葉が出る。

 ここに来る時は羨ましがられた。

 バカめ、金もないところに追いやって何を言う。

 しかし、近代的な施設をオーストラリアが残していったからやっていける。

 欧米各国の伝道所との交渉があり、

 これまで通りで良い、ということにした。

 欧米諸国の植民地政策と教会伝道は、持ちつ、持たれつの関係といえた。

 何のことはない、

 白人と現地民を繋いでいるのは、伝道所の無私で聖なる勤めだった。

 日本では、政府の仕事として現地民を教育していくことになる。

 彼らが現地民を教育し、

 別の場所に連れて行くのなら、

 それは、それで都合が良い。

 自分で労働することを厭わない日本人は、そう思ったりする。

 現地人に働かせて貴族気分で過ごすのは麻薬に近い。

 資源のない日本人に、その思想が蔓延すると、

 同じ国とは思えないほど簡単に潰れてしまうだろう。

 つまるところ、召使や奴隷民族に当たる人種は不用であり、

 持っていってくれ、だった。

 それでも、土砂降りのスコールと、

 風土病がなければ水田に良い場所だった。

 生産した穀物を南極に持っていくのにも都合の良い場所だろう。

 南極開発局も少しずつ資本投下を始めていた。

 もっとも、南極の自給自足体制は進みつつあり、

 所在不明の燃料と食料で手抜きできるらしい・・・・噂だ。

 石炭だか鉄鉱石を発見して・・・・噂だ。

 小型の発電所と製鉄所を建設したらしいが・・・・・噂だった。

 聞けば、地下鉄も建設しているらしい・・・・・これも噂だ。

 では、どうして?

 とも思うが民間からの資本投下は予定より増えている。

 南極開発に流用も出来ると、ふんだのだろう。

 オランダ連邦がジャポニカ米が気に入って、

 この地に購入を申し入れた噂も聞く、

 オランダ人は、パン食で信憑性は疑わしい。

 日本領土ニューギニア東南部域 “瑞穂” という名称が決まったらしい。

 本当の意味で瑞穂になるのは、

 感染症を何とか押さえられるまで、何十年か先だろう。

  

  

 オーストラリア人宣教師が日本の政務は、素晴らしいと褒める。

 以前の植民地政策がどんなものだったか、研究中だった。

 日本は、瑞穂を植民地にするつもりはなかった。

 第二の日本、祖国創国を目標にしていた。

 敷島(台湾)の日本化は著しく進んでいる。

 原住民のほとんどは揚子江経済圏に流れており、

 人口の9割5分が日本人になっている。

 ここも、そうなっていくだろう。

 もっとも投下できる資本はなかった。

 やるとすれば、民間企業誘致。

 当然、利権も絡んでくる、

 政府は、税の優遇策で進めていくらしい。

 ここでの利益は税金をかけないというものだ。

 所得税加重票制度が導入されると

 その効果が低くなるが、世の中金だという者もいる。

 とりあえず、税金を払いたくない者は来るようだ。

 政府が有能であれば、政府にお金を集めるのも悪くない、それも怪しい。

 お金を民間に分散した方が個々の実力や能力を発揮できる。

 実力や能力がなければお金が失われ。

 実力や能力があればお金が集まる。

 規制の強弱にもよるが民間資本が自由に動く方が

 無分別・無秩序でも競争が生まれ、発展しやすい。

 膨大な水田分配予定地。

 日本人で比較的多い農家で次男坊、三男坊は、こちらに来やすいだろう。

 少ない予算で農政に力を入れる。

 しかし、植民地防衛は、どうするのだと思うのだが・・・

 イギリス、ドイツ、フランスとも同じ悩みを抱えている。

 国防で比較的楽なのが、アメリカ。

 しかし、いざ、国外の覇権・権益維持となると日本の扶桑型8隻は強い。

 フィリピン、揚子江防衛は、楽ではない。

 植民地防衛不可の状態が列強の歩み寄りと妥協につながり、

 軍縮に繋がっているといえた。

 そして、列強各国とも戦後不況で戦艦建造は計画倒れしている。

 日本が、オーストラリアに向け、一発でも撃っていたら・・・

 戦艦建造競争が始まったかもしれない。

 日本の扶桑型戦艦の設計図がイギリスに高値で売れたとも聞く。

 作りもしないのに買うのは、どうだろうと思う。

 しかし、日本の高速戦艦8隻は脅威らしく。

 イギリスは、日本のオーストラリアへの砲艦外交に

 圧力をかけられなかった。

 そして、各国とも代艦建造になれば、高速戦艦という相場になっている。

 日本の装甲と船殻を兼ねた造りは興味をもたれているようだ。

 綾波型小型巡洋艦第2陣10隻が完成したのか、

 瑞穂に4隻が港に並んでいる。

 現実問題として、港に海軍力があるのと、ないのでは気分がまったく違う。

 オーストラリアが何かしてくるとは思えないが、気分的なものだ。

 極楽鳥が、つがいで、木にとまっている。

 宗主国が変わっても自然の営みは、ほとんど変わらない。

 それでも瑞穂は、白人の牧畜業から

 日本の農業を核にした第一次産業に変わっていく。

 この地域も変わっていくだろう。

 日本人の山師も何人か入っている。

 日本での山師の評価は、その印象通りだろう。

 それでも、一攫千金は男の夢らしい。

 砂金取りもいる、石油、鉄鉱石、石炭が当たれば助かる。

 日本の国体が勤勉勤労と加工貿易で成り立っていることを思えば、

 やれやれという気にもなる、

 しかし、資源が取れたら大きい。

 温泉堀りも、来ているのは嬉しいが・・・・・

 

 オーエンスタンリー山脈の向こう側、

 ドイツ領総督とは、仲良くやっている。

 グラーフ・マクシミリアン・フォン・シュペー(63歳)は、

 引退前にこの地の総督にさせられたらしい。

  

  

 揚子江河口の崇明島

 第一回、東アジア局長会議が行われる。

 各国の河川砲艦が居並ぶ中。

 日本連邦、

 北中国、南中国、

 聖ロシア帝国、イギリス、フランス、ドイツ、アメリカ、

 オランダ、イタリア、オーストリア・ハンガリー帝国、北欧諸国などなど

 中国大陸に利権を持つ国が、

 事務レベルの利害調整をするために創設。

 中国大陸に直接利権を持たず。

 最大の影響力を持つ日本連邦が議長役を務めることになった。

 日本代表が北中国を “華北” 。

 南中国を “華南” と別称を使っていた、

 それが、そのまま、公式に使われるようになり。

 北中国の汪兆銘大統領が華北連邦、

 南中国の孫文大統領も華南合衆国と公称し、

 世界中で承認されてしまう。

 元々、国家としての体をなしていないのだが

 国名がしっかりとしてくると気分が変わる、

 諸外国の圧力も微妙に変化する。

 中国大陸の列強と中国行政と漢民族の意識を変え、

 最大の貢献をしてしまったのが日本という、皮肉な結果になる。

  

  

 日本人の議長が報告書を検分する。

 「麻薬取締りにおける」

 「国家間の相互協力体制は、全会一致で、採択・・・」

 「犯罪者引渡し要綱は・・・」

 「言葉のニュアンスだけでなく、微妙な修正があるな・・・・」

 「白人至上主義も、絡んでますね」

 「まったく。一戦、やりたがっている日本人が増えたこと、増えたこと」

 「シドニー事件は、取りすぎだな」

 「金や資源というのでなく、土地で解決というのが悪かったのでは?」

 「そうは思ったがね・・・」

 「交戦国は、どこも貧乏で、オーストラリアは、これ以上、金も、資源も、駄目だと」

 「政府は、瑞穂をアメリカに売ってやろうかと考えたらしいですが・・・・」

 「イギリスとドイツの反対と、軍事負担の方が大きいからと、やめたそうだ」

 「いくらで売れたか、の方が興味がありますね」

 「・・・非公式な打診だったが、凄いぞ、4億ドルだそうだ」

 「ふぇ〜 1ドル45円なら180億円ですか」

 「何で、売らなかったんですか?」

 「さあな・・・」

 「南極投資が無駄にされると思ったんじぁないか」

 「しかし、南極投資も元が取れますよ」

 「日本の国家予算は、25億で・・・」

 「別に新規に国債10億の発行でしょう」

 「北方開発も100億もあれば、一気に進むはずですよ」

 「だよな。日本の実体は、北方にありだからな・・・」

 「ったく、封建的な土地神話には呆れます」

 「ふっ まあ、どこの国も似たようなものだ」

 「本国が苦しくても植民地を保持しようという輩もいる」

 「た、確かに・・・・」

  

  

 オーストリア・ハンガリー二重帝国

 トリエステ軍港

 オーストリア・ハンガリー海軍

 21000トン、305mm連装4基、20ノット。

 ド級戦艦4隻

  フィリブス・ウニーティス、テゲトフ、プリンツ・オイゲン、シュツェント・イストファン、

 前ド級戦艦9隻

  エルツヘルツォーク・フランツ・フェルディナント、

  ラデツキー、ズリーニ、

  エルツヘルツォーク・カール、

  エルツヘルツォーク・フリードリヒ、

  エルツヘルツォーク・フェルディナント・マックス、

  ハプスブルク、アルパード、バーベンベルク、

 

 装甲巡洋艦4隻

  サンクト・ゲオルグ、カイザー・カール6世、

  カイゼリン、ウント ケイニギン・マリア テレジア、

 

 防護巡洋艦

  ツェンタ、アスペルン、シゲトヴァール、

 

 軽巡洋艦

  サイダ、アドミラル・スパウン、

 

 駆逐艦タトラ級6隻 フサール級12隻、 

 海防戦艦(モナーク、ウイーン、ブダペスト)

 防護巡洋艦(カイザー・フランツ・ヨーゼフ1世)

 水雷巡洋艦パンター、ほか多数

 地中海海軍としての性質を持ち、

 イタリア海軍、フランス海軍とも、

 なんとか並ぶことが出来る海軍だろうか。

 設計もドイツの影響を受けるようになると洗練してくる。

 もっとも、財政難で増強は、されていない。

 日本海軍の綾波型2隻が外交でトリエステに入港する。

 多民族国家の海軍というのは困ったもので、

 艦隊内で、いくつもの言葉が使われる。

 公用語こそあるが同言語族なら思わず話してしまうものだ。

 というわけで外見上、艦隊を揃えても実質的な面で、どうかという戦力。

 イタリアが参戦しなかったため、

 世界大戦でも、ほとんど動いていなかった。

 もちろん、役に立っていないわけでなく。

 フランス海軍を動けないようにし、

 イタリア海軍を牽制したという点で存在価値を証明したといえる。

 最も効率的で割りの良い使い方だろう。

 考え方によれば使わないのが最高の使い道だ。

 

 イタリアが参戦しなかった事を、

 どちらにとって不幸だったか評価が分かれていた。

 イタリアの軍事力に疑問を持つ者は少なくない。

 もっともそれは、日本も同じだった。

 巨済島沖海戦は奇襲、旅順港閉塞も強襲。

 シュペ艦隊ポナペ封鎖も謀略の疑いあり、

 日本海軍の実力は証明されていない。

  

 

 首都ウィーン シェーンブルン宮殿

 カール一世(37歳)

 皇帝の肩書きの他、

 ハンガリー(ウンガルン)王。

 オーストリア(エスターライヒ)大公もついている。

 ハプスブルク(鷹の城)・ロートリンゲン王朝は存続していた。

 華やかな晩餐。

 しかし、帝国は、民族、宗教、文化、教育、言語など問題を抱え込み、

 国中に過激な暴力を噴出させ。

 オーストリア・ハンガリー帝国は、ソビエト共産主義の影響からか、

 ストライキが増加している。

 政治も、経済も、停滞気味で崩壊寸前。

 オランダ連邦とフランスが東欧・南欧欧州人の移民を受け入れなかったら、

 さらに状況が悪化していた。

 皇帝が帝国内を散歩することも出来ない世情を晩餐で誤魔化し、

 ワインを口に含む。

 綺麗に着飾った宮殿という牢獄に閉じ込められ、

 城内と外を自由に行き来する小鳥が羨ましいと思う時もある。 

 オーストリア・ハンガリー帝国を維持できるのだろうか、

 外の世界は・・・

 といっても城外は、民族独立を掲げ、

 血生臭い活動をする者は多く。

 治安は悪化し、

 ロシア革命に近い状態とも言う。

 カール一世皇帝は、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世(36歳)を羨んだ。

 少なくともドイツ帝国の治安は、少しずつ良くなっているという。

 ロシア人に支配されたポーランド人とバルト人は、

 ドイツ人に支配されている方が少しマシだという。

 ドイツ帝国の過半数はドイツ人だけで超えている。

 ポーランド人の倍以上の人口で、異民族を海外の植民地へ追いやっている。

 オーストリアでは、支配民族が過半数を切っていた。

 異民族に寛容なハプスブルク家は必要に迫られて、そうしている。

 もちろん、相手の家柄が王侯貴族であるか、

 芸術家であるという前提で寛容だった。

 欧州の新参者、日本人が出雲(スバールバル諸島)から挨拶に来る。

 どうしたものか? 前例がなかった。

 聞けば華族?

 貴族で公爵に当たるらしい、

 日本の歴史は、わからないので比較のしようがなかった。

 クーデンホーフ伯爵ミツコ夫人に聞いてみると、島津公爵家だそうだ。

 まったく想像の枠から出ている。

 見るからに貴族格というものに欠けている、

 没落貴族のそれだが名家らしいので、それらしい待遇をする。

 この時代、華族と言いながらも日本は没落貴族ばかり。

 この日本の没落貴族の人事も欧州事情に合わせ、

 畑違いの部署から引っ張り出してきたに過ぎなかった。

 見かけから欧州での宮廷貴族ロマンスと、ほど遠い気もする、

 ミステリアスに引かれる貴婦人は、出てくるかもしれなかった。

  

 旧態依然とした貴族意識を捨て切れていない

 ハプスブルク家の行く末は、どうだろうか。

 それ以前にオーストリア・ハンガリー帝国は、

 総生産の多くを国内問題に削がれている。

 国際政治の渦中になっても、

 国際社会で主導権を取れないであろうという予測が付いた。

 「出雲(スバールバル諸島)に日本人が集まってきますの?」 某夫人

 「ええ、石炭が採れるらしいので、ちょっとした産業が興せるそうです」

 「それと欧州の代理店のようなものですから」 没落貴族

 「日本は、オーストリアとの関係をどう考えておられるのですか?」

 「これといって、なるようになるまま。というところです」

 「そうでしょうね。それにしても日本人が、こんなところにまで・・・・・」

 「商業上の利益が大きければ、この帝国に、もっと来るかもしれませんね」

 「そう、出雲にとって、帝国の価値が上がれば対応も変わるということね」

 「・・・たぶん。そうなるかもしれませんね」

 その後、オーストリア帝国と出雲が定期航路で結ばれ、

 貿易量が少しずつ増えていく。

 クーデンホーフ伯爵家は、欧州内陸ボヘミアのロンスペルク城にいながら

 日墺貿易の仲介ができるようになり。

 オーストリア・ハンガリー帝国貴族の中でも、力を付けていく。

  

  

 皇帝カール一世は、オーストリア・ハンガリー帝国の崩壊を防ぐため、

 自由ドナウ連邦への移行を認めざるを得なくなっていった。

 権勢は、ドイツ皇帝のヴィルヘルム2世より劣り。

 聖ロシア皇帝ニコライ二世より、

 はるかに条件が悪かった。

 ベルギーのサクス・コーブルク家からブルガリアに呼ばれた。

 フェルディナント1世王の方が、まだ権力として安定している。

 ドイツ皇家系列のホーエンツォレルン家からルーマニア王になった。

 カロル1世の方がまだ安定している。

 セルビアの呪いだろうか、

 占領して勝ったはずのオーストリア・ハンガリー皇帝から

 権力が失われていく。

 それでもドナウ川水系であることを強調した連邦を冠することで

 体制を繋ぎとめようとした。

  

  

 ソビエト連邦 クレムリン宮殿

 イ・ヨンチャンは、朝鮮民族だった。

 革命のドサクサにまぎれ、

 スターリン直属の政治将校に納まっていた。

 イ・ヨンチャンにすれば、スターリン以外に頼る者がいないだけで、

 スターリンの信頼を勝ち得ただけ、ともいえる。

 機関紙プラウダ(真実)、

 ソビエト政府の機関紙イズベスチャ(ニュース)を見ると、

 状況は、良くもなく悪くもなく・・・・

 「日本人が、華北連邦と華南合衆国の名付け親・・・・・・バカが・・・・」

 「イ・ヨンチャン。どうした?」

 同じ政治将校トレープレフが声をかけた。

 「いや、日本人が余計なことをしたからさ」

 「余計なこと?」

 「華北連邦と華南合衆国。国名をはっきりと決めただろう」

 「これで漢民族は固まってしまう」

 「・・・・・そうなのか?」

 「当然だ。氏名がなかったのに氏名が付けられ」

 「落ち着いたようなものだ」

 「これで、中国大陸は、安定していく」

 「毛沢東の共産革命は苦戦するぞ」

 「まあ、毛沢東は、表向き相手にしていないが武器だけは、送っている」

 「しかし、日本人は、なにを考えているのかわからんな」

 「漢民族を弱体化させたいのか、それとも安定させたいのか」

 「安定していない方が良いんだろう」

 「もちろんだよ」

 「中国大陸の安定を望んでいる国は、地上に一つもないね」

 「それなのに日本人は、利己主義の中国人の意識を国家にまで放り上げてしまった」

 「バカなことをする」

 「中国が強国になっていく?」

 「弱者が生き残っていく道は、強者に付くことだよ」

 「白人に対して遅れた民族は、どうしたら良いか・・・・」

 「どうするんだ?」

 「一、共産主義者として、ソビエトと共産主義者を味方に非共産主義者と戦う」

 「二、キリスト教徒として、キリスト教圏を味方にして、非キリスト教徒と戦う」

 「三、民主主義者として、民主主義国家を味方にして、非民主主義者として戦う」

 「なるほど、民族は?」

 「民族の味方はしない。弱い民族についても負ける」

 「ほう、すると共産主義とキリスト教を味方にする二つの民衆に」

 「中国大陸が分かれていくということか・・・・」

 「そういうこと、そうすれば、強い国から援助を受けられ、強くなっていく」

 「後は、常にナンバー1を味方することだな」

 「んん・・・それ・・・習ったな・・・・なんだっけ」

 「事大主義」

 「そうだった。東洋の思想だったな」

 「まあな」

 「ところで勝つのは、スターリンだろうか?」

 「ああ・・・トロッキーは、負けるだろうね」

 「それは良かった」

 「ふっ」

 「ところで日本は、事大主義ではないのか?」

 「あの国は、わからん」

 「野心があるのかないのか、領土欲があるのかないのか・・・」

 「無いのに国土が増えているような気もするし」

 「新規の植民地は、随分と遠い場所だがな」

 「遠い場所だから列強も見逃しているのさ」

 「その気になれば、すぐにでも潰せるし」

 「負担を強いることが出来る」

 「脆弱だから見逃されている?」

 「これが朝鮮半島や満州域、中国大陸のどこかなら」

 「列強も黙っていないだろう」

 「確かに」

 「日本人は、上手いことやったものだ」

 「日本の福沢諭吉は、アメリカの民主主義を真に受けて」

 「“天は人の上に人を作らず、人の下に人を造らず” といったらしいが」

 「馬鹿な男だ “天は、人の上に人を作り、人の下に人を造った” に決まっている」

 「日本人は儒教も忘れている。西洋かぶれが」

 「・・・・黄色人というのは、不思議だな」

 「なにが?」

 「日本人、朝鮮人、中国人、インド人・・・いろいろいる」

  

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 連邦制の区分けと州都は、適当です。

 1時間くらいで決めてしまいました。

 因みにオホーツク海は、自然に扶桑海に改称されてしまいました。

 

 さて、日本の経済力ですが、

 軍事費を可能な限りケチって、

 国を富ませているという点で、

 史実とまったく違うレベルです。

 それも国債は少なめで、

 比較的健全な状態です。

 戦前戦中の造船投資が、

 戦後10年目にしてになって花開きイギリスに追いつくという偉業。

 当時の国際情勢から見ても、

 日本の軍事費は、首を傾げたくなるほど国力を削いでいたと思います。

 人的資源を経済に転用していたらと・・・・・・・

 もちろん、海千山千の帝国主義世界ですから。

 割り引いて考えても、相当な工業化が出来たと思います。

 

 中国は、歴史的に黄河を境に華北、華南とするのが、

 一般的だった様です。

 中国史に拘りのない、

 日本人は、わかりやすいと短絡的につけたようです。

 

蚊取り線香が開発されました。

 

 

 

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第31話 1923年 『関東大震災と・・・』

第32話 1924年 『民主化もね』

第33話 1925年 『・・・とは、思わないね』

海軍力

 

 各国軍艦状況