第33話 1925年 『・・・・とは、思わないね』
ホワイトハウス
2人の男が世界地図を見ていた。
「大戦に参戦していたら、良かったかもしれないな」
「途中から参戦しても発言権は、たいして、ありませんよ。大統領」
「発言権がない時は、勝者無き平和で」
「発言権がある時は、勝利者による平和だよな」
「ふっ・・・」
「弱体化したイギリス連邦とドイツ帝国」
「そして、ソビエト連邦。東南アジアに移転中のオランダ連邦」
「北アフリカに人口を誘導させているフランス」
「空中分解直前だったオーストリア・ハンガリー帝国を」
「ニカワの様に繋ぎとめた自由ドナウ連邦への改称・・・・」
「そして、欧州の新参者、日本の出雲か・・・・」
「日本は、大戦景気で力をつけましたからね」
「それと、ヒューズのフライング」
「あれは、空いた口が塞がりませんよ」
「日本の首都、東京を襲った関東大震災」
「日本は弱体化し、植民地化すると思い込んだのだろう」
「インディアンか、アボリジニーなら、わからなくもないが」
「相手は、近代化したインディアンだと思って良い」
「インディアンにしては手強過ぎませんか?」
「我々は、揚子江経済圏は握っている」
「フィリピンも押さえ、インドシナの港も100年間は借りることが出来た。状況は悪くない」
「日本は、南沙群礁に基地を建設しています」
「南シナ海の抑えは、厳しいはずです」
「だが小国日本は、手を広げ過ぎだな」
「これだけ広範囲だと維持できまい」
「北東シベリアが無茶なら」
「スヴァールバル諸島は無理」
「南極大陸に至っては無謀だな」
「ところで大統領。海軍からレキシントン型の建造要請が来ていますが?」
「ちっ 日本人が一発でもいいからシドニーにぶっ放せば良かったんだ」
「根性無しのチキン民族が」
「サウス・カロライナ、ミシガン、デラウェア、ノース・ダコタの代艦には早すぎますね」
「15年だからな・・・」
「そろそろというところだが・・・・・」
「やはり、イギリスとドイツが建造しないと、難しいですか?」
「日本がド級モドキ艦を解体しなければ、建造しやすかったがな・・・・・」
「モドキ戦艦は、足並みが揃っていなかったそうですが」
「高速艦ですから、困ったと思いますよ」
「河川砲艦に大砲を載せかえられるとはな・・・・」
「日本製を買うしかなかったですからね・・・」
「アメリカも河川砲艦に改装すれば良かったんですよ」
「おかげで艦隊総数では、見劣りしていませんし」
「安かった上にメンテナンスを考えるなら」
「日本の河川砲艦を買う方が良かったそうだ」
「いまでは、前ド級戦艦を日本に送って河川砲艦にしてもらっている」
「考えようによっては、中国市場を得るための海軍であるなら」
「目的には、かなっています」
「・・・消化不良気味だがね」
「今後の世界情勢をどう見る?」
「そうですね。アメリカがトップであることは変わりません」
「次に総合的な国力で優勢なのはソビエトでしょうか」
「次がドイツ、イギリス・・・日本・・・・オランダ連邦・・・・フランス・・・」
「あとは、聖ロシア・・ドナウ連邦・・イタリア・・」
「トルコ帝国、スペイン、ブラジル、アルゼンチンでしょう」
「それと、華北連邦と、華南合衆国は、潜在能力から」
「将来的に有力な国になっていくと思われます」
「んん・・・そんなところだろうが流動的でもある」
「世界大戦のシワ寄せが、こうも世界を変えてしまうとは」
「メキシコを押さえれば、有利にはなれるのですが・・・」
「議会がな」
「国民も隣人を殺すとなると、想像力が掻き立てられて、どうしても躊躇する」
「ふっ あのホセと撃ち合うのか、ですか?」
「そういうものだ」
「確かに利権が欲しいだけで撃ち合いたいわけじゃないですから」
「アメリカ人は禁酒法を採用するほど潔癖症だからな」
「表向きはそうでしょうが禁酒法は・・・」
「欧州の戦争飢餓が抑制できれば終わりですよ」
「儲かっていますから」
「表向きの力は大きいよ」
「日本のシドニー封鎖の時、よっぽど攻撃命令を出したいと思ったがね」
「出すと思っていました」
「扶桑型がなければ・・・」
「ははは、日本の首都が地震の直撃で弱って」
「さらにオーストラリアから理不尽な扱いをされていては、参戦できるものか」
「アメリカ人は正義でなければ戦意を保てない」
「日本を倒したいからではアメリカ人を徴兵できないのだ」
「民主主義国家は、道義的に己の行為を正当化し、誇れるものが必要だ」
「困った気質です」
「大統領は人気職でね」
「国民から非道で白人至上主義と思われると退かれてしまう」
「世界征服では、票は取れませんからね」
「ふっ そういうことだ」
華南合衆国大統領孫文死去。
蒋介石が大統領に就任。
赤レンガの住人
数人の将校が通路をドタドタと歩き去っていく。
「今度は、かなりむくれているらしい」
「海軍増強案が刎ね付けられたからな」
「少しだけ増えたがね」
「海軍大綱が戦艦8隻」
「小型巡洋艦40隻」
「潜水艦40隻で」
「総トン数512000トンだと少ないからな」
「増えたのは12000トンだけだろう」
「しかし、良かったじゃないか、ドイツが港を貸してくれて」
「兵站は、まったく支障なかった」
「ドイツは、日本と上手くやっていきたいのさ」
「しかし、増強案が駄目は、厳しいな」
「儲かっているんじゃなかったのか」
「儲かっているのは、企業だろう」
「まあ、国民も所得が増えて手放したくないのだろうがね」
「お金を民間にか、日本も随分とやさしくなったものだ」
「庶民は昔から、ふてぶてしいよ」
「江戸時代の隠し田は、1割近く、あったそうだ」
「それもあるが政府と運輸省が大震災を利用して断っているのさ」
「なにが地震対策だ。税金泥棒が」
「頑丈に作った地下鉄で壊れているところなんて、たかが知れているのに」
「都合の良い連中だよ」
「それに都市計画が進んでいないだろう」
「わざと、難しい都市計画にして、予算を都合よく配分しているように見えるね」
「なるほど・・・ありえる」
「オースラトリアが一発でも艦隊に向かって撃っていたら」
「もう少し軍事予算が取れていたはずなのに」
「ヒューズの根性無しが」
「そうそう。扶桑型を見ただけで怖気づきやがって」
「派遣するのは4隻じゃなくて、2隻くらいで良かったんだ」
「そうすれば、一発ぐらい撃ってきただろうに・・・」
「そうすれば、もっと建造できたな」
「ふっ そういえば海軍局の連中」
「今度、同じようなことがあったら相手が撃つように」
「宗教団体に祈祷団を組織させるとか言ってたぞ」
「よほど予算が欲しいんだな」
「現場は、小型巡洋艦と潜水艦を、あと40隻ずつ欲しがっている」
「それと空母かな」
「空母か・・・・」
「無理だろうな」
「無理だね」
「海峡トンネルか、扶桑縦断鉄道が完成すれば、そういうこともあるだろうがね」
「広軌なんかにするから手間暇と時間がかかるんだ」
「大砲を運ぶんだからしょうがないだろう」
「地下鉄なんだぞ、装甲列車の意味ないだろう」
「装甲列車は、南側で使うし、中国大陸に売り込んで」
「日本は、軽量車両の速度と輸送量で勝負するそうだ」
「そういえば蒋介石大統領が日本の首相と会談したと言ってきているようだが」
「どうせ日本を利用して欧米諸国を排し、独立したいに決まっている」
「オーストラリアのことで、日本が利用できると思ったんじゃないか」
「孫文大統領の国葬の儀礼訪問だから無碍にできないだろう」
「ふっ 孫大砲とどっちが大きいかな?」
「孫文大統領の誇大妄想は、中国人を十分に惹き付けたがね」
「蒋介石は、日本の陸軍士官学校に留学している」
「孫文ほど人を惹き付けないが現実路線だな」
「孫文より宋教仁に近い」
「宋教仁は、揚子江経済圏を利用した都市革命だったからな」
「孫文の辺境根拠地革命とぶつかって、暗殺されている」
「袁世凱が暗殺したか、わからんが実質的に都市革命は進んでいる」
「どうせ、日本人を利用しようと思っているに決まっている」
「なにが大アジア主義だ」
「中華思想で固まっているくせにホラ吹きが」
「だけど、華南合衆国は、どうするんだろうな」
「識字率が低すぎて民主化も簡単じゃない」
「華北連邦もな」
「漢字が難し過ぎるんだ。ひらがなとカタカナを輸出してやろうか」
「ローマ字表記でやっているよ」
「自国の文字なのに読み方をローマ字表記に頼るというのは、どうもね・・・・」
日本の某造船所
15000トン以下の艦体に小型ディーゼル電気推進機関。
隣のアメリカ前ド級戦艦から主砲塔を載せ換える。
「栄光あるホワイトフリートも解体。年貢の納め時かな」
「アメリカが前ド級戦艦の主砲を河川砲艦に転用すると、中国の締め付けも強くなるな」
「中国民衆の武装蜂起は多い」
「装甲列車も良いがね」
「やはり、河川砲艦の大砲は圧倒的だよ」
「揚子江は、世界で、一番刺激的な世界だそうだ」
「列強は、前ド級戦艦や河川砲艦を並べて競合、鉄道も内陸に入り込もうとしてるのか・・・」
「おかげで儲かるわけだ」
「そうでもないさ」
「列強の前ド級戦艦の河川砲艦改造は、代艦建造が近いということだ」
「じゃ 日本も?」
「出し抜くと嫌われるが付き合いが悪くても嫌われる」
「しかし、建造計画はないな」
「海軍大綱が揃えば、当面、代艦は、必要ないから他の方じゃないか」
「ほか?」
「航空機とか、工廠とか、要塞とか、訓練とか」
「あはは・・・造船所と関係ないな」
「代わりに砲艦整備計画が一杯だよ」
「列強の揚子江支配は、日本が支えている」
「やっぱり、目玉は揚子江の上流まで行ける800トン級河川砲艦だろうか」
「重慶より、もっと先か」
「そんな内陸まで800トン級の河川砲艦が行けるとは、とんでもない国だな」
「欧米列強は、揚子江水系を全て支配下に入れるつもりだろうな」
「そういえばフランスとイギリスは、揚子江水系とメコン水系を運河で結ぼうとしている」
「ますます儲かりそうだな」
「いや、揚子江の中州でインド人、黒人、フィリピン人の人口を増やせば」
「自然に自衛本能が働く」
「じゃ 要衝を要塞化して飛行場や鉄道が整備されたら」
「中型や小型砲艦でも良くなるか」
「まあ、見栄のために大型河川砲艦を何隻か持つぐらいだろう・・・・」
「華北連邦と華南合衆国は、南北に分断されて心中穏やかじゃないだろう」
「名目だけの独立国家に過ぎないし、主権も侵害されているからな」
「しかも、漢民族の半数が中国政府を信用できず、その状態を望んでいる」
「宦官や纏足(てんそく)が無くなって、良かったと思うがな」
「列強に支配されなければ、続いていただろう」
「いや、纏足(てんそく)は、あれは、あれで、そそるというか、魅惑的だそうだ」
「じかに見ると、興醒めするらしいがね」
「また、従兄弟から変な知識を教わったな」
「ははは」
揚子江 洞庭(トンティン)湖
800トン級河川砲艦(70m×9m×2.4m)、50口径120mm2基。40mm砲3門。
ディーゼル電気推進2000馬力、16ノット、4000海里。乗員100人。
河川砲艦2隻のフリッツ傭兵艦隊は、
スポンサーに頼まれて入り組んだ場所に来ていた。
基本的に、いくつかの租界地の市長に頼まれて動く。
最近は、租界地というより、租界市といって良かった。
防衛や護衛。
荷物運びなど、何でもやって租界地から維持費がでる。
他に・・・海軍に頼めない仕事もある。
傭兵艦隊の全存在理由がこれだろう。
強盗というわけではない。
トレジャーハンターは、眉をしかめるような仕事が多い。
こういった傭兵艦隊は、揚子江で少なくない。
きっと日本人が、河川砲艦を安く建造しているからだろう。
それとも、欧米諸国が揚子江に入り込み過ぎたのだろう。
国籍は、いろいろ、一番多いインド人に合わせて英語に統一している。
租界地の防衛がない時は、中国内陸部のお宝を漁りに行く。
敵対勢力は、中国民衆だったり、強盗団だったり、共産ゲリラであったり。
誘拐された子息・令嬢の奪還というのもあれば、その逆もある。
気をつけなければならないのは、相手が同業の傭兵部隊だった場合。
あっさり勝てるのなら良いが
被害が出たら損益分岐を割ってしまう。
相手が同業者なら話し合いが一番。
しかし、うまみは、ほとんど無しで、
次の仕事に繋ぐためだけの仕事になる。
日本製河川砲艦は、合理的で機能性に優れている。
50口径120mmは、命数を考えると、どうかとも思うが
命中率が良いせいか、あまり気にならない。
威力が小さいような気もするが
相手の中国民衆からみると、大口径砲で射程外から狙い撃ちできるのが良い。
最近は、ソ連製の大砲が流れ込んできているらしい、
それでも、76.2mm砲がせいぜいで射程は短い。
岸に近付く場合、油断できないが
見張りさえきちんとしていれば大丈夫だろう。
もちろん、無駄弾を使うつもりはなかった。
夜になってバッテリーだけで一気に岸辺に近付き、
要件を済ませる。
もう一つ怖いのは、機雷で運次第・・・
中国人が相手なら無敵の河川砲艦といえる。
先に先行している部下から無線が入った。
・・・異常なしだそうだ。
もっとも、暗号を言うか、言わないかで判断している。
夜を待って高速で近付き、ボートで陸戦隊を降ろす。
このときが、一番、ヤバイ・・・・・・・・
待ち伏せされていたら最悪だ。
インドの某藩国の王子だそうだが誘拐されるとは間抜けだ。
どうせゾウに乗っているから安心だとでも思ったのだろうか。
生きて彼を助ければ印橋から金が入る。
インドは、11の直轄州と562の藩王国がある。
意識しても良いのはインド諸侯会議参席できる109藩国。
その中の一つの藩国の王子らしいが、この際、どうでも良い。
印橋も、揚子江に入り込んでいる。
インド人が中国人に対して、どう思っているのか、わからない。
しかし、揚子江経済圏にインド人が増えてから、
さらに治安が悪化している。
消音銃は、1900年には、特許が取られていた。
よこしまな人間は、どこにでもいるらしいが信頼性が低くかった。
ということで使うのは、ボーガンとか、クロスボー。
二時間後
気付かれたのか、中国人組織と撃ち合いになる。
そして、無線が入る。
照明弾を中国人側の後ろに向け発射する。
これは警告で、次の無線が入ると榴弾4発を撃ち込む。
その後、小競り合いが沈静化していく。
ボートが砲艦に寄せられ、
藩王の息子が生きて助けられた。
めでたし、めでたしだが、
こちらの負傷者が三人で死者はなし。
すぐに船を出港させて岸から離れる。
けが人を見ると、もっと撃ち込んでやりたくなったが弾が高いからやめる。
損益分岐点で言うと黒字だ。
いくつかの租借地は、
99年など期限付きでいろんな法整備が、きっちりと決められている。
しかし、租界地は曖昧だった。
中国主要都市の小さな商館と出店の権益を守るため
地場が少しずつ拡大していった。
そして、開発と称し、権益を奪いつつ資源を漁り、
市場を拡大し租界地にしていく。
漢民族も、元々、満州族である異邦民族が作った清国に絶望し、
治安の良い列強側と与する者は多い。
露清戦争で清国が負けると、
列強の商人と結託した中国人により、租界地が一気に拡大。
租界地は列強と “裏切り中国人” のおかげで食い荒らされ、
要塞化されたことで、さらに実行支配が強まっていく。
租界地にとって最悪の時期は、世界大戦だった、
しかし、日本とアメリカが中立監視軍を派遣し治安維持に成功。
戦っているはずの列強が手を組み、
租界地の欧米諸国人も結束し、権益を維持して乗り切った。
そして、中国を半植民地化して行く過程で、中国軍閥と与し。
揚子江国際自由経済圏が形成されていく。
さらにインド人、黒人、フィリピン人など入植させ、
異民族で揚子江で中国大陸を南北に分断。
列強諸国の思惑通り、
中国大陸は、北と南で分断して独立してしまう。
華北連邦、華南合衆国は、
揚子江国際自由経済圏を認めるしかない状況に追いやられていた。
漢民族も羞恥心がなく、忍耐心さえあれば
列強の資本家に雇われている方が都合が良かった。
列強に雇われた中国人は、資本主義経済、工場生産、事務処理、損益計算など、
ノウハウを実地で、経験し習得していく、
そして、元々、商人の才覚を持ち合わせていた中国人も多く。
能力と実力をつけ資本を貯め、
租界地の外で中国風資本主義を開花させていく。
そう “裏切り中国人”
が華北連邦と華南合衆国の国力を底上げし、
中国資本を拡大させる原動力になっていた。
日本資本も欧米列強の租借地と租界地に間借りしては利益を上げていく。
直接現地で取引していないため割高だった。
しかし、この頃になると進出してきた列強各国で競争が起こってしまう。
日本企業を最上級の顧客として欲し、租借地、租界地への誘致が、
存続、維持、販路として有効であると認められていた。
資源を適正価格に落とし、
さらに誘致競争をすることになった。
なので日本企業は、直接、中国と取引しないものの、
租界地と租借地に大勢いた。
オランダ連邦のヴィルヘルミナ女王(45歳)
バンドンへ居城を移し、オランダ連邦を宣言。
ドイツ帝国とイギリスは、オランダ連邦成立をそれぞれの思惑から支援する。
ヴィルヘルミナ女王の夫は、
ドイツ帝国のメクレンブルク=シュヴェリン大公国ヘンドリック大公だった。
イギリス王家とも、少なからず縁がある。
実質、欧州の王族は、ほとんどの場合、縁戚関係にあった。
この時期、アメリカの国力は、列強を合わせたより大きくなり、
欧州各国とも、危機感を覚えていた。
ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、ドナウ連邦は、アメリカの動向を気にするようになり。
オランダ連邦もアメリカと良好である方が良いと結論を出していた。
国際情勢を客観的に判断すればアメリカの独走と圧力は、
欧州にとっても大きな問題だった。
ジャカルタ日本総領事館から港湾に並ぶ各国の大型艦艇が見える。
日本も、砲艦外交というべきか、
たんに儀礼的なものだが伊勢、日向を訪問させて注目されていた。
伊勢 艦橋
「やれやれ、オランダ人も、思い切ったことをする」
「ええ、ベルギーが地図上から消えてしまったショックは大きいでしょうから」
「だが日本にとっては追い風だよ、オランダ人は面白い提案をする」
「スンダ海峡海底トンネルですか?」
「キチガイ沙汰だな。火山があるのに・・・・」
「5年前にジャワ島のメラビー火山が大噴火を起こしたのを忘れているようです」
「わからなくもないがね」
「1883年にスンダ海峡の中央にあるクラカタウ島が大噴火を起こしているのに・・・・」
「海峡は、30kmじゃないか」
「無理ですよ」
「遠回りすれば?」
「まあ、地質調査をすればルートが見つかるかもしれないですが・・・」
「どうせ、金を払うのはオランダ連邦で、日本は資源が入れば良い」
「まあ・・・・確かに」
「状況的には、日本と似ていますからね」
「その通りだ。そして、日本よりオランダの方がお金持ちといえるな」
「お金持ちなのは、日本の方ですよ」
「ただ、オランダは、支払う資源が、あるということでしょう」
「羨ましいものだ」
「資源の上に胡坐をかけるというのは」
「確かに。羨ましいですね」
「しかし、インドネシア人は多い。どうするつもりだろうか?」
「揚子江に送るんじゃないんですか」
「インド人700万、黒人200万、フィリピン人150万が、揚子江に移民したそうですよ」
「揚子江も、国際色豊かだな」
「インド・中国鉄道が開通すれば、さらに移民が増えるはずです」
「中国人も、中間管理職で、インドに行く可能性が高いですから」
「白人世界は、中国とインドを完全に支配するつもりのようですね」
「おかげで、日本民族は、黄色人種、有色人種全体の裏切り者になるな」
「・・・黄色人種や有色人種全体のため白人世界と戦争しろと?」
「ふっ まさか、黄色人種や有色人種全体のため」
「日本を滅ぼしたいとは思わないね」
極地
地球上には、居住不可能(アネクメネ)地域というものがある。
白夜も、極夜も珍しくない。
そこに住んでいる。
自然の摂理に逆らうのは畏敬なのだが快感でもある。
人間の欲望の一つでもありそうだった、
窓の外は、極夜のブリザード。
神が造りし前人未踏の汚れなき聖地。
この地域で経済活動、いや生産活動が出来ると冒涜に感じる。
なぜ、このような環境下で、世俗的な産業を維持するのだろう。
日本民族は、狂った民族なのだろうか、
神と大自然の驚異を恐れる場所で、なにをしようというのか?
このような場所で働く必要があるのだろうか、
愚かな行為と思えると同時に誇らしさも感じる。
生存さえ困難な場所で、これだけ働かされる、
奇跡の様に思えてならない。
地下空間は、衣食住をまかなう最小限の空間から、
生産活動が出来うる最小限の空間にまで広がろうとしている。
この地で生産加工されたものが日本へ輸出されていくのだろうか?
だとすれば、この地球上で人が生きていけない場所は無いのであろうか、
これほどまでに人を傲慢にさせていく発露は何か?
せめて、神と共に、この地に存在することを楽しみたいものだ。
八百万の神か、一神教なのか、わからないが、
神にも、いろいろな側面があり、
そう思えるのかもしれない。
そう、この地は、人類が立つアネクメネの最先端なのだから。
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月夜裏 野々香です。
日本のちょっとした予算編成から、
とんでもない世界情勢になってしまいました。
日本が軍事費をケチり始め、
ロシアが極東満州・朝鮮を手に入れて、しまったことで、
世界大戦でロシアの動員が遅れ、
戦況が、まったく変わって、講和に至りました。
なんとなく腑に落ちない方は、ご連絡ください。
何とか、辻褄を合わせます・・・・・・あうかな??
第33話 1925年 『・・・とは、思わないね』 |
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