月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

   

 第34話 1926年 『・・・なるほど・・・・タイミングか』

 崇明島で華北連邦と華南合衆国の代表が

 揚子江域の治外法権撤廃を訴える、

 列強の反発で挫折。

 そして、華北連邦と華南合衆国に属す住民も

 生活の保障は揚子江にあった。

 中国人の多くは生活が安定する列強資本で働こうとする。

 揚子江流域は、多くのインド人、黒人、フィリピン人が居住し、

 彼らも、自衛のため列強軍として参加していた。

 黄河流域は揚子江より規模が小さかったが似たような状況だった。

 列強は、海上と違い波が小さく、たくさんの物を運べる利便性から

 河川や運河を利用する。

 そして、水上だと、人海戦術で押し寄せる中国人の襲撃に対し強かった。

 中州や要衝に要塞が建設されると

 漢民族は川岸から内陸側へと追いやられていく。

 中国大陸で多くの労働が搾取され、資源が収奪されていく。

 交換に資本、製品、技能、ノウハウが少しずつ中国大陸と中国人に浸透し、

 中国人全体に近代文明が広がっていく。

 漢民族にすれば同族に雇われるより、

 列強に雇われる方が実入りがかった。

 後ろめたいだけで、はるかに人間扱いされる。

 少なくとも以前、無かった職場がそこにあるので働く。

 いくら、“漢民族の中国大陸だ” “資源は、我々、漢民族の物である” と叫んでも、

 職場をつくったのは漢民族の封建社会ではなく、

 列強の帝国主義・資本主義だった。

 資源の需要があるのも国内ではなく、国外であり、

 中国人は製品が欲しいだけだった。 

  

 

 モンゴルは、ソビエトに組み込まれていた、

 聖ロシアの工作員も入り込み、揺れ動いていた。

 当然、どちらかに、あるいはどちらにも雇われたモンゴル人もいて、

 複雑怪奇な諜報戦が行われる。

 黄河流域 蘭州(ランチョウ)  聖ロシア商館

 「・・・セリョージャ。随分、奥までロシア人が来ているじゃないか」 日本商人

 「華北連邦とモンゴル側の国境地帯の緊張状態を知る必要が合ってね」

 「儲かりもしない、ヤクと冬虫夏草を扱っているよ」

 「ふっ そうでもなかろう」

 「ヨシダ。ここも随分、賑やかになってきてね」

 「日本人と朝鮮人を見分けられる人間が必要になった」

 「適当な人間を探しているんだ」

 「まあ、探しては見るがね」

 「他にも注文がありそうだな」

 「なあ、どうだろう日本で建造した砲艦に聖ロシア軍の大砲を搭載するというのは?」

 「黄河だけでなく、松花江(ソンホワチアン)とアムール川でも使うつもりかな」

 「そのつもりだ」

 「やはり軍艦は日本で建造させた方が優れている」

 「まあ、大連(ターリエン)の造船所でも十分に作れそうだがね」

 「しかし、相手がソビエトになると・・・」

 第一次世界大戦で現れた戦車は強く、

 河川砲艦より自由に動く事が出来た。

 「小型砲艦でも強力な装甲が必要になる」

 「対76.2mm砲?」

 「そうなる」

 「載せる大砲は?」

 「まあ、同じだろうな」

 「100トン以下だよな」

 「もっと小さくても良いぞ。客人を乗せるわけじゃない」

 「・・・限度がある。船はね、浮力より重いと沈むんだよ」

 「装甲列車も欲しいものだな」

 「持ってるだろう」

 「最近のソビエトの国力増強は、目を見張るものがある」

 「戦車の方が使いやすくないか?」

 「そっちは、ロシアで作れる」

 「なるほど・・・」

 「それより、どうやって同じロシア人同士で敵と味方を見分けるんだ?」

 「ふっ 基本的に聖ロシアは貴族と信者が多いがね」

 「見た目はロシア人でもわからないだろう」

 「ふっ 国境越えるロシア人が本当に味方なのか、敵なのか」

 「神のみぞ知るというところだ」

 「随分と怖い話しだな」

 「お互いに疑心暗鬼に囚われているよ」

 「そして、その通りなのだから」

 「じゃ お互いに暗殺部隊を送ることも、あるわけだ」

 「無論だよ、ヨシダ。戦争が始まれば、わかるだろう」

 「お互いに身動き取れなくなるんじゃないか」

 「撃てと命令した部下に撃たれるのは怖すぎる」

 「適度な緊張感があって良いだろう。太らずに済む」

 「はは、ロシア人の図太さは、ついて行けんよ」

 「それよりキャビアはどうだ?」

 「新しいのが入ったぞ」

 「なんでカスピ海のチョウザメの卵があるんだ?」

 「ははは、食べ物が国境を越えても」

 「目くじらを立てる人間がいないだけさ」

 「金の問題だね」

 「つがいで生きたまま、日本に持ってきたら養殖してやるぞ」

 「そうしたら、2人で大儲けだ」

 「んん・・・2、3、心当たりを当たってみるか」

 

 

 日本 某工場内

 2人の男が口論していた。

 「だから、そんな重いもの作っても流行らないって言っているだろう」

 「あのなあ、身を守るためには装甲が必要なんだよ、装甲が」

 ため息を付く男。

 「・・・いいか、鉄が1トンある」

 「これを一枚で売るよりもな」

 「300g程度の質の良い部品をたくさん作って輸出した方が金になるんだよ」

 「日本は資源がないだろう」

 「軽くて、薄くて、短くて、小さく付加価値の高いモノが良いんだ」

 「か、金の問題か?」

 「命の問題だろう。命の!!」

 「そりゃあ、命には敬意を払うがね」

 「金を払うのは買う人間なんだ。他を当たってくれよ」

 「お、おまえなあ〜 ・・・・・・・・」

 電話が鳴る

 「・・・・・ちょっと、失礼・・・・・・・・・」

 「え、発電の関係があるからもっと軽くして欲しいって・・・」

 「話が違うじゃないですか・・・海軍さんが燃料を余計に使うって・・・」

 「・・・い、いや・・・えっ・・・・ディーゼル機関車は?」

 「・・・・・そっちも海底トンネルが前倒しになって、駄目・・・・・・・」

 「流線型でって・・・・ス、ステンレス・・」

 「・・・はぁ〜 そんな加工できません」

 「・・・ちょっ、ちょっと・・・わ、わかりました」

 「わかりましたから・・・やりますけどね」

 「は、はい・・・・はい、すぐに、はい・・・・そうしますんで・・・」

 がちゃっ 電話が切れる。

 「・・ええぇとぉ・・・なんで、したっけ?」

 「お、おまえな〜 ・・・・・」

 「と、とにかく。給料も、払っていかないといけないし」

 「いつまでも政府を当てに出来ないんだよ」

 「ちょ、ちょっとまて、軍事費が少ないのは、そうだが」

 「今まで助け合ってきただろう」

 「だから工場の一角で、作っているんじゃないか」

 「突然、追加だって言われても、すぐには対応できんよ」

 「いや、だからな・・・」

 「他を当たってくれよ、臨時だろう」

 「定期の仕事だって、装甲なんて割が合わないものを作りたくないんだよ」

 「いや」

 「新興企業が追い込んできているし」

 「そっちに当たってくれよ」

 「いや、やっぱり、命懸けだし、信頼とか、実績とか、あるだろう」

 「だから・・・」

 「急に来られても駄目だって、設備投資が終わるまで待つか、後回しにしてくれ」

 1人が冷たく言い放つと去っていく。

 残った1人は、ブツブツいいながら手帳を見て

 反対側に去っていく。

  

  

 鳳凰

 双発水冷エンジン240hp×2

 (全長15m×全幅20m)(自重2800/全備重4700)

 巡速145km/h、航続力700km。乗客8

 ドイツの影響を受けた全金属製の機体で、

 この当時としては、進んだ輸送機だった。

 この機体は、性能が優れているというより、

 生産性、安全性、稼働率に優れた機体として重宝がられた。

 そして、日本最初の量産型航空機となる。

 「運輸省は、自動車で散々に邪魔しておいて、飛行機は、随分、積極的だな」

 「敷島(台湾)への定期便か」

 「バス、トラック、トラクター、ブルドーザーは、列強並みになってきているし」

 「自動車も最近は、規制緩和しているじゃないか」

 「けっ!」

 「駅前のレンタル電気自動車用だろう日本のモータリゼーションは遠いな」

 「結局、運輸省の基幹は鉄道なんだろう」

 「自動車社会になると生活が脅かされる」

 「自動車を鉄道の付属にしたんだ」

 「日本は油田が出ない限り」

 「民間自動車の制限は筋が通って、ありかもしれないな」

 「自動車に客を奪われるのが嫌なだけだ」

 「赤字に転落したら運輸省に突き上げが来るだろうから」

 「海底トンネルが完成するまで待ったをかけるだろうな」

 「いまは、採算割れが怖くて後回しにしているが沿線人口が増えている」

 「海底トンネルも掘るかもしれないな」

 「列車集中制御装置も形になってきているし」

 「予算がつけば一気に進めていくんじゃないか」

 「自動車愛好家は、日陰者か」

 「1676mmの広軌なんかにするから、制限しないといけなくなるんだ」

 「1435mmの標準軌でも良かったんだろう」

 「どうせ、狭軌を広軌にするんだから、どっちも大して変わらないぞ」

 「器が大きい方が利権も大きくできるんだよ」

 「その方が大きな大砲を乗せて速く移動できる」

 「陸軍と組めた理由だな」

 日本の鉄道総延長13万kmは、

 列強のそれと比較しても遜色の無いものだった。

 扶桑州、樺太州、北海州、東北州、

 関東州、中京州、西南州、敷島州・・・

 日本鉄道は鉄道による侵攻作戦を考えておらず、

 世界で、もっとも電化が進んでいた。

 日本鉄道の総延長が13万kmも国土の広さからすれば、少し寂しい。

 しかし、圧倒的な広さを占める扶桑が寒冷・極地であり、

 それを割り引けば、列強と比べても遜色ないといえた。

 軍事費をケチらせながら

 運輸省(旧鉄道省)が作り上げた巨大利権構造体だった。

  

  

 運輸省

 「おい、なんで国内の路線計画を後回しにするんだ」

 「インドネシアに業者を送ってどうするんだ」

 「資源が必要だからだろう、金も入るし」

 「だ、だからってな」

 「文句を言うなら地震と資源供給計画の御破産にさせたオーストラリアと」

 「予算を持っていった海軍に言ってくれよ、腹が立つ」

 「じ、地震は、ともかく・・・・シドニー事件か」

 「くそぉ〜 ヒューズのバカが余計なことをしやがって」

 「土地なんかいらん、金と資源をよこせ」

 「ったく。貧乏は嫌だよな」

 「他の国から資源を買うため自国分を後回しだ」

 「それも鉄道、発電所、造船所やら建設して」

 「相対的に相手の国力を高めてしまう」

 「日本は、つくづく損な国だよ」

 「扶桑州の開発を進めろよ」

 「凍土開発を進めるには金が要るんだ」

 「どこか国内に石炭と鉄鉱石が埋まってなのか」

 「ニューギニア南東部を探しているがね」

 「山師って疑いの目で見られやすいから今のところ期待薄だね」

 「当たり外れの落差が大きすぎてだろう」

 「日本人は、賭博するより、地道が好きなんだ」

 「そういえば、アメリカがレキシントン型の建造を進めているらしい」

 「不味いな」

 「イギリス海軍とドイツ海軍の大量損失で建造見送りだったのだろう」

 「それも巡洋戦艦でなく、扶桑型と同系統の高速戦艦だ」

 「おいおい。冗談じゃないぞ」

 「都合、45000トン級で4隻らしい」

 「ぐぁ〜 扶桑型の34000トン級より大きいじゃないか」

 「建艦競争が始まるぞ」

 「海軍も慌てているらしい」

 「イッ、イギリスとドイツは?」

 「情報を集めているが詳しいのは海軍だろうな」

 「イギリスとドイツで2隻ずつ建造してくれれば相殺できる」

 「イギリスとドイツで?」

 「まさか、アメリカとイギリス・ドイツ」

 「そんなに上手くいかないだろう」

 「だよな〜」

  

  

 この頃、アメリカが旧式戦艦を河川砲艦に買い換え、

 海軍の更新を早めることに成功。

 新型戦艦の建造計画が着々と進んでいた。

 煽りを受けたイギリス、ドイツも渋々と対抗策を講じ始める。

    

 北パリ 日中料理店サクラ・ボタン

 テーブルに2人の白人が座っている。

 「ここも、酷い洪水だったが随分良くなったな」

 「ああ、セーヌ川も意外と暴れてくれる」

 「ライン川を見習って欲しいものだ」

 「おかげで、ドイツ風の建物が増えたな」

 「華やかさばかり、追い求められても中身が無かろう」

 「質実剛健で機能的なのは悪くないさ」

 「この辺は、ドイツと違って温暖なんだよ」

 「それでドイツ建築にケチをつけに来たのか?」

 「いや、ドイツは、何隻建造するんだ?」

 「マッケンゼンの強化型を2隻」

 「アメリカはレキシントンを4隻だそうだ」

 「それも4年ごとに4隻ずつ建造して戦艦を一新させるつもりのようだ」

 「金持ちは違うね。イギリスは?」

 「フッドの強化型を2隻」

 「そんなところか」

 「しかし、不味いんだ」

 「金が無いのだろう。こっちも同じだ」

 「お互い、国力を磨り潰して天文学的な国債だからな」

 「ドイツの方が回復が早そうだな」

 「ふっ いつまでも植民地経済に頼っても負担が大きくなるだけだろう」

 「搾取をやめて、まともに働いたらどうだ?」

 「ふんっ 無理やりインフレを起こして国債償還もないだろう」

 「何人、餓死させたんだ」

 「「・・・・・・・・」」

 「アメリカの戦艦建造を止めさせる手立てが無いものか・・・」

 「イギリスの世論操作は、お手のものだろう、何とかしろよ」

 「ドイツ系アメリカ人を何とかさせろ」

 「知らんよ。自由主義。民主主義でドイツ帝国を見限ったん連中だ」

 「南極にでも、目を向かせれば良いんだ」

 「揚子江でボロ儲けしているのに、そんな寒い場所に行くものか」

 「だよな〜」

 「ちっ ドイツ系は、戦争が好きだからな」

 「ヒューズほどイカレていないがね」

 「・・・・」

 「あのバカのせいでアメリカの戦艦建造が2、3年は早まったんだぞ」

 「まさか半年くらいだよ」

 「こっちはソビエトの圧力を受けて、それどころじゃないんだよ」

 「まだ、それほど強くはないだろう」

 「それにドイツは帝政が色濃く残って」

 「国民の総合力を結集する点で劣っている」

 「連邦自治は、元々、強かったんじゃなかったのか?」

 「自治は強いが個を優先する民主主義というわけではない」

 「連邦としての自治でね」

 「そういえば、貴族社会のイギリスも」

 「アメリカ自由主義を信奉するが増えつつあるな」

 「権威主義的な社会構造と自由を求める人間の欲望は相反するよ」

 「そして、軋轢と矛盾は年々強まっている」

 「イギリスとドイツは、個を優先するか、全体を優先するかの違いがあっても貴族社会は同じか」

 「階級の弱いアメリカと日本が伸びていくのも道理だな・・・」

 「ところで、その階級の矛盾を突いてくる伍長さんは元気そうだね」

 「ふっ あのチョビ髭か」

 「扇動は上手いがイタリアのムッソリーニと程度が変わらんね」

 「自由もイヤ。共産もイヤで」

 「民族・国粋主義者と軍人が手を組んだ権威修正主義か」

 「あのチョビ髭がヴィルヘルム2世から独裁権を得ようとしているが時期早々だよ」

 「ファシストによる立憲君主制か」

 「イギリスは、スペインのプリモ・デ・リベーラの独裁もウンザリしているんだがね」

 「軍事的緊張は緊張感の伴う賭けだ」

 「気持ちの良いものじゃない」

 「ここでドイツも、ということには、ならないだろうな」

 「チョビ髭は、それほど支持を集めていないよ」

 「ドナウ連邦側でも民族主義的な大衆誘導は難しいだろうね」

 「ドナウ連邦の方は持ち直しているようだが」

 「セルビア人の大虐殺が効いたかな」

 「それでもカール1世は権力を縮小せざるを得なかった」

 「ヴィルヘルム2世より、はるかに権力が縮小している」

 「民族問題で混乱しているが君主制民主主義は進んでいる」

 「自由ドナウ連邦が聞いて呆れるな」

 「大虐殺は珍しくないだろう。北アイルランドでもやっている」

 「まあ、規模の問題だけだがね・・・大陸側は殺しすぎだよ」

 「そう望んでいる島国があるからだろう」

 「不満の捌け口を外に向けるべきだが金がないな」

 「軍艦どころじゃないか」

 「ソビエトの軍事的圧力に加え、建艦競争なんかしたくはないね」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

  

  

 30000トン級砕氷空母 熊襲(Kumaso)

 「提督、どうやら、アメリカが高速戦艦の建造を決めたようです」

 副官が電文を見ながら呟く。

 「高速戦艦? 空母を建造すれば良いのに」

 「空母ですか?」

 「もちろん、搭載するのは輸送機ではなくて雷撃機だがね」

 「雷撃機ですか、撃ち落されませんかね」

 「何機か落とされても、何機か雷撃し、何機か魚雷を命中させられる」

 「そういうものだ」

 「ピンと着ませんね」

 「艦載輸送機ばかり見ているからだ」

 「それしか載っていませんから」

 「まあ、次の空母も別会計で建造できれば、文句はないさ」

 「次ぎは、もっと大型砕氷空母になるそうですが」

 「財政難で2隻分を1隻にしたんだ」

 「双発輸送機を載せるためだがね」

 「鳳凰ですか?」

 「それか、次期輸送機」

 「オートジャイロか、ヘリコプターは難しいのでしょうか」

 「もっと強いエンジンか、軽い材質が必要だ」

 「制御も困難で積載量もたかが知れている」

 「港がないのが辛いですね」

 「それよりはハード島あたりから大型輸送機で、という気にもなる」

 「最も遠すぎて天候が変わるとアウトだがね」

 「やはり、飛行船?」

 「飛行船は、さらに天候の影響を受ける」

 「ドイツは飛行船に力を入れているようです」

 「集客率の良い航空路線だけでなく」

 「南西アフリカや東アフリカの開発でも使っているようだ」

 「そちらの方が良いかもしれませんね」

 「日本もドイツから飛行船を買うのは良いが」

 「戦争に使えそうにないな。水素は怖すぎる」

 「戦争しないのであれば使えるということでしょうか?」

 「戦争しないのであればな・・・」

 「あると使いたくなりますからね」

 「南西アフリカ、東アフリカ、ニューギニア・ドイツ領への投資は」

 「プランテーションより移民に近いな」

 「ポーランド人を揚子江へ、優先的に送っているようですね」

 「祖国を取るか、自由を取るか、君なら、どっちを取るね」

 「想像もつきませんね」

 「祖国はありますし」

 「自由は、制限されていますが不自由ではありませんから」

 「日本は、まだ異民族の支配を受けていない」

 「同族同士の差別はあるが、それほど深刻ではない。幸福なことだ」

 「ええ」

 「最大の幸福は、日本は不自由だと思っていないことだろうな」

 「それでも、アメリカ型自由民主主義の影響は強いですからね」

 「民主化の影響はあるかと」

 「ソビエト型共産民主主義と、どっちが強いだろうか?」

 「共産主義は、全体主義のような気がしますが」

 「一応、選挙はしている」

 「私有の財産を認める資本主義か」

 「全体で財産を管理する社会主義。極端じゃないか」

 「個人の権利と社会の公益は両立しにくいのでは?」

 「矛盾しても二面性があるからな」

 「日本人は、個人を必要以上に殺し、家族意識が強いですから、中庸では?」

 「ふっ 孝と忠だから」

 「もう一つは、セクト主義だな」

 「運輸省の独善は、いい加減に呆れるね」

 「まったくです」

 「運輸省あっての日本など傲慢過ぎますよ」

 「少なくとも国民が移動で利用しているから」

 「我慢しているだけだろうがね」

  

  

 大正天皇没

  

  

 フランス

 フランスの状況は表面上、悪くなかった。

 欧州とアフリカに連なる領土を活用すれば

 大国としての地位を回復出来た。

 フランス型植民地経営は、宗主国言語の普及と同化政策。

 イギリスが現地人の不和と対立を利用した間接統治を行ったのに対し。

 フランス人が直接、行政や経済活動の

 補助要員を養成するためにフランス語を普及させた。

 しかし、フランス人のイスラム圏やアフリカ人に対する人種差別は根強く。

 反発する現地の反発も激しい。

 フランス植民地政策の根幹である同化は失敗しつつあった。

 もっともフランス本国の地域語は75もあり説得力が欠ける。

  

 そして、肝心のアルジェリア、モロッコ、モーリタニアの支配が弱い。

 しかし、世界大戦後は状況が少しばかり変わる。

 1000万近いフランス人が民地へ移動していく。

 そしてアルジェリアの現地民の揚子江への強制移民など、

 フランス人と現地民の比率を変えていく。

 そして、植民地を国際自由市場を租借地・租界地として認めていくと、

 アメリカとイタリアが興味を示して参入する。

 大航海時代は、フランスを散々妨害したイギリスも自由航行を信望し、

 国際情勢も、対立から共闘へと、

 少しばかり状況が変化していた。

  

  

 南パリ、セーヌ川  

 フランス側の日中料理店 “ボタン・サクラ”

 「・・・フランス人も随分思い切ったことをする」

 「主権が行使できないだけだ」

 「100年後に主権が回復して統治権が戻ってくる」

 「フランス人は気楽で大らかで少しばかり緻密だったが」

 「随分と気長になったものだ」

 「気長にさせられたんだ」

 「オランダのようなやり方もあったんだがな」

 「アフリカ大陸に引越しか?」

 「まさか、地中海を挟んで隣だ」

 「そこまで深刻じゃないさ」

 「涙のセーヌ川か・・・」

 「100年後には立場も変わるさ」

 「気をつけろよ、共産主義者も入り込んでくるぜ」

 「租借地の中なら、どうしようと構わんさ」

 「イスラム教と上手くやっていけそうなのかい」

 「いや」

 「もう、いやというほど血を流したのに」

 「また血が流れそうだな」

 「血という燃料が歴史を動かす。必要なことだ」

 「誰の言葉だい」

 「歴史を動かしたいと思っている、拗ねたフランス人だ」

 「ふっ・・・」

 「・・・・・・・」

 「やったり、やられたりの歴史だろう」

 「歴史の本を見ないと分からないような事は、忘れてやるよ」

 「しかし、記憶の淵にある思いは別だ」

 「100年後なら少数派だな」

 「俺は、凱旋門の手前に住んでいたんだ・・・」

 「行けないわけじゃないだろう」

 「ああ、ドイツ人の法の下でだな・・・」

 「フランス本国を橋頭堡にするつもりがないのなら、勝てないだろうな」

 「オランダ人の様には割り切れなかったな・・・」

 「国土の大きさが違うからな」

 「モロッコのアガディール」

 「・・・・・」

 「俺ならここにフランスの首都を移すだろうな」

 「大西洋に面して地中海、欧州のゴタゴタと、おさらばしたいね」

 「なんにしてもアフリカ原住民にしたら迷惑な話しだな」

 「大丈夫だろう」

 「迷惑に思うアフリカ人は随分と減ったそうだ」

 「白人同士のシワ寄せがアフリカ人というのも不憫だな」

 「ふっ アメリカ先住民の殲滅」

 「アメリカ人が北アメリカでやったことに比べれば、まだ思いやりがあるね」

 「しかし、フランス人に本当に出来るのか」

 「フランス本土から線路を引っ剥がして、アフリカに持っていくようなものだ」

 「国策でもあるが1000万のフランス人が国を追われて植民地に行く」

 「少しくらいの予算なら目を瞑るさ」

 「少しね〜」

 「日本人のおかげで白人至上主義が白い目で見られるようになった」

 「しかし、日本人が黄色人全体の利益を白人に売り渡していることも事実だ」

 「そして、白人世界に対する恐怖心の現われが扶桑型戦艦8隻なんだろうな」

 「それでも彼らは軍事偏重しなかったな」

 「それは豪胆さ以上に運輸省という巨大利権に日本国民が酔っているからだろう」

 「日本の鉄道は、本当に世界一なのかね」

 「ああ、鉄道だけじゃない」

 「鉄道を核にして通信、電力、都市、港湾」

 「工場、学校、住宅、商業地、飛行場が建設されている」

 「鉄道の電化も早い」

 「車の方が便利だろう」

 「ふっ 鉄鉱石と石炭、石油がないだろう」

 「公共機関を優先せざるを得ないのさ」

 「そういえば何をするにも、外国から資源を買わないと何も出来ない国だったな」

 「どちらにしても軍国主義化するより付き合いやすい」

 「じゃ 資源のない間、日本は安全な国ということか」

 「まあな」

 「そのくせに良い戦艦を持っている」

 「性能なんて、たいした意味はない」

 「もっと強力な戦艦は建造できる」

 「しかし、あのタイミングで扶桑型8隻を建造できたというのが大きい」

 「なるほど・・・タイミングか」

 男は、パリの北側を悠然と浮かぶ、

 ツェッペリン飛行船を苦々しく見詰めた。

  

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  

微妙に近い雰囲気で、かなり違うかも。

日本語になってない・・・

 

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第33話 1925年 『・・・とは、思わないね』
第34話 1926年 『・・・なるほど・・・タイミングか』
第35話 1927年 『おまえも悪よの〜』

海軍力

 

 各国軍艦状況