月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

   

第35話 1927年 『おまえも悪よの〜』

 武漢 米英仏合同租界地

 中国民衆が押し寄せてくる。

 インド・黒人・フィリピン兵が城壁から銃撃。

 そして、河川砲艦6隻の砲撃。

 飛行船が武漢上空に現れると中国民衆は圧倒され始める。

 武漢島からの大口径砲撃で民衆側が撃退され、

 数千人の死傷者が転がる。

   

  

 崇明島

 米英仏が華北連邦の汪兆銘政府に対し、

 武漢事件の真相について説明と賠償を要求。

 汪兆銘大統領は、同じ黄色人種の日本人に

 救いの手を求めるような視線を向け、

 「・・・・・」 

 『やめてくれよ〜』

 中国共産軍が民衆を扇動した凶行であると弁明。

 賠償に関しては、毛沢東の犯罪が確定した後に、と苦しい答弁をする。

 日本代表も傲慢な白人列強の白人至上主義に直面する。

 しかし、日本国内の運輸省を中心とした沿線経済の政官財癒着。

 その利権構造は日本社会そのものであり、

 軍事費に予算を回せない。

 ということで白人世界と軍事的に敵対できないという情勢だった。

 「・・・・・・」

 日本の軍関係者 涙

 

 

 浦賀水道(8.6km)トンネル完成で

 東京湾160kmを全周する環状高速地下鉄道が完成する。

 この鉄道の完成により。

 関東経済圏の比重が東京の北側から

 房総半島を含んで東京湾を全周するようになる。

 この年、パラムシル海峡(3.5km)トンネル、明石海峡(5km)トンネル、

 間宮海峡トンネル(8km)が相次いで開通。

 鉄道を利用した催し物が各地で行われ、引き続き、

 三河湾海峡(9.6km)トンネル、

 鳴門海峡(10km)トンネル、

 友が島海峡(12km)トンネル、

 千島海峡(12km)トンネル、

 豊後水道(16km)トンネル、

 野付海峡(17km)トンネル、

 伊良子海峡(21km)トンネル、

 津軽海峡(25km)トンネル、

 宗谷海峡(45km)トンネルの建設計画が宣伝されていく。

 「・・・・随分派手な催し物だな」

 「しばらく、海外に出稼ぎで資金繰りに行かないと駄目らしい・・・」

 「び、貧乏〜」

 「運輸省のお役人たちは、専用車できているくせに」

 「なにが鉄道は日本の根幹だよ。ふざけやがって」

 「沿線経済効果は、ともかく、アメリカが戦艦を建造するらしい」

 「海軍予算が増えるな、鉄道も予算で圧迫を受けるだろうよ」

 「飛行機で、やるって言ってたぞ」

 「はぁ〜 飛行機だぁ〜」

 「だから飛行機をたくさん作って、魚雷を載せて戦艦を雷撃するそうだ・・・」

 「まじ?」

 「飛行場を拡張して航空機部品の生産を増やすから、もっと予算をよこせ、て」

 「また〜ぁ 我田引水かよ」

 「4発輸送機も本格的に開発するらしいよ」

 「聖ロシアの鉄道とも間宮半島から繋いで大陸鉄道にするらしい」

 「北方重視は変わらないな」

 「なんか、中国人が入ってきそうだな」

 「いやだぜ、大陸に巻き込まれるのは」

 「最近の中国人は荒れているからな」

 「聞いた話しだと華北連邦と華南合衆国の名前のせいで」

 「中国人は意識を統合しやすくなったんだと」

 「ほんとうかよ〜」

 「大戦前じゃなくて運が良かったな」

 「日本軍とアメリカ軍が中国民衆を何万人って殺すところだったぞ」

 「名前ぐらいで国家意識を持つなよ」

 「どうしようもない民族だな。漢民族は・・・」

 「まあ、日本という名称だって、元は日ノ本からで」

 「他にも扶桑、瑞穂、秋津州、敷島、大和なんて、いくつかあった」

 「他の名称になっていた場合もあるがね」

 「中国だって他にもあったんじゃないのか?」

 「支那、中華、中国、神州かな・・・」

 「支那は、英語読みのチャイナを日本風に漢字にしただけだ」

 「ふ〜ん・・・まあ、専門家に任せるとして、白人世界の中で日本だけは寂しい」

 「華北と華南が国家として主権を回復すれば、日本も寂しさがまぎれるかな」

 「そう思うのは、人の良い日本人だけだ」

 「だろうな」

 「中国人は日本やアジアを全て売り渡しても」

 「日本が占めているアジア・有色人種の盟主になりたいと思っているだろうさ」

 「ははは・・・」

 「日本は、当分、孤高の有色人種の国が続きそうだな・・・」

 「その割に豊かさを感じないが」

 「国民所得だけは、上がっているんだがな」

 「働けど働けど・・・・・か」

  

 赤っぽく塗った場所が、南北間宮半島です。日露戦争で領有した場所です。

相変わらず下手です。

他のホームページの人はどうやっているのでしょう・・・・・

日本環状鉄道を基幹にした鉄道路線は、当分無理・・・・妄想にお任せです。

  

  

 ルーマニア王国

 フェルディナント1世没

 マニウ首相が議会制民主主義に移行させる。

 ルーマニア領のオデッサは、ルーマニア人とウクライナ人が住む大都市。

 ソビエト連邦の圧力は、年々、大きくなっていく。

 ルーマニアの防衛を支えたのはドイツ帝国とドナウ連邦、ブルガリアであり、

 後ろ盾といえる。

 旧同盟国同士のつながりは、ソビエト・ロシアの報復という脅威で保たれていた。

    

 この辺境の地に日本人がいる。

 シカ、ビーバー、テンの皮革(ひかく)商売を兼ねてだった。

 「スグル。黒テンを76匹持ってくるよ」

 「ありがとう。ユンソナ。ビーバーも40匹ほど注文してくれ」

 「ええ、わかったわ、スグル」

 オビ河下流に産する良質の黒テンは、マンガゼーヤと呼ばれ珍重されていた。

 日本人の極地生活者が増え、日本でも毛皮は人気が出てきた。

 ルーマニア人のストレートな性格に少しばかり慣れ。

 ウクライナ人の静かで、もめごとを避ける一面にも慣れた。

 個人差があるが大雑把に国民気質は得てして正しい。

 日本人にすれば、列車の運行時間が合っていないと

 “ムッとする” のが一般的で、

 他の国民は、そうでないという感じだろうか。

 ただし、どこにでもいるのが犯罪、偽善、駆け引きだろう。

 皮革(ひかく)商売といえば聞こえは良いが

 扶桑州、フィンランドでも良質のモノが捕れる。

 一ヵ所で乱獲より分散すべきだろう。

 しかし、採算以外にも、

 いろいろな理由があって、この商売も軌道に乗っている。

 もう一つの理由はソビエトの脅威が西側向きなのか。東側向きなのか。

 客観的に判断するため。

 戦争の予兆というのは、いろんな方法でわかる。

 市場からあるモノが消えたり、特定のモノが高くなったり、

 そう、共産主義者でさえ、小金を溜めこむ方法を知っていた。

 戦争の準備というのは、そういうものだ。

  

 

 欧州で日本人デザイナーが有名になったらしく。

 少しばかり利益を上げている。

 外国にいても日本人同士で仲良くは、あまり期待できない。

 日本人は、民族主義というよりセクト主義らしく。

 同じ日本人でもライバル関係だと疎遠だったりする。

 そして、この地で意外に多いのが朝鮮人であり、

 どうやら大戦と革命のドサクサで流れてきたらしい。

 李氏朝鮮が清国の朝貢国から完全支配下になったのが

 東学(農民)党の乱の後で1893年。

 露清戦争でロシアの支配下に入ったのが1904年。

 その後、隷属状態のまま、

 中央アジアへの強制移民で自然消滅待ちだった。

 それが世界大戦と革命で命拾いしたらしい。

 強姦騒ぎで、時々、街中で、リンチに遭うのも彼らの特性だろうか。

 ギラギラと剥き出しにされた情欲と性欲も、

 民族絶滅を逃れる生存本能にみえた。

 朝鮮人女性の売春が目立つのも本能的なものだろう。

   

 列強として、常任理事国に名を連ねている日本人でさえ、

 欧州にいる日本人は “ふん! 日本人か” だった。

 中国人や朝鮮人が、どういう扱いをされるか、察して知るべしだ。

 日本という国家が存在している間は、少なくとも日本人は人間として扱われる。

  

 “日本と日本人が朝鮮半島と中国大陸を清国とロシアに売り渡した”

 “日本は有色人種を見捨てた”

 と、日本と日本人を責め立てる時がある。

 かと思えば擦り寄ってくる朝鮮人女性もいる。

 日本人といれば差別されても人間扱いされる。

 日本人といれば冷遇されても人間として扱われる。

 一緒にいたいと思う朝鮮人女性がいてもおかしくない。

 ユンソナも、そういう女性だった。

 引っ掛かったのか。

 引っ掛けたのか。

 そんなことは、どうでも良くなっていた。

 自分の半分も若い娘がそばにいれば楽しいだろう。

 彼女は必死に日本人になろうとしていた。

  

 日露戦争の原因になった朝鮮人の入国は憲法で禁止されていた。

 しかし、別項で日本人と婚姻すれば入国可なのである。

 なぜって・・・

 キムチと焼肉が好きな大阪出身の議員がいて、そうなったらしい。

 それが支持されたのは、キムチと焼肉好きな議員が、それなりにいたのか。

 それとも配偶者の日本人が困ったことになるから、ということだろう。

 しかし、最大の理由は、北海道での牛肉の解体。

 税収になる獣肉・皮革作業は、日本人が苦手とするところで、

 政府官僚の後押しで、牧畜業者が北海道で牧畜業を始めた。

 アイデアとしては悪くない。

 乳牛は良かった。

 しかし、いざ、牛肉を解体する段になって怖気づく。

 牛の目を見ると殺しにくい。

 政府官僚も財界も、いまさら後に引けず。

 朝鮮人に解体を頼んだというから間抜けな話しだ。

 経済や現実的な本音を隠し。

 人道的な官僚の言い分を押し切るのは世の常だろう。

 政治家は、偽善者が多い。

 というわけで日本国内にも朝鮮人が居たりする。

 白い目で見られたりするが・・・・

 誰しも肉は食べたいのだった。

 

 ユンソナに聞けば黄色人や有色人は白人世界で人間扱いされない。

 人間扱いされるなら白い目で見られるくらい良いそうだ。

 日本人でさえ、白人至上主義に思うところがある、

 人間扱いされなければ、もっと怒るだろうか。

 ユンソナは、学校に行ってない。

 知性的に劣っているのに言葉は速く覚える。

 言うことに疑問を抱かないようだ。

 そして、捨てられないように必死に良くしてくれる。

 一緒にいるのは悪くない・・・

   

  

 出雲(スバールバル)諸島

 日本海軍出雲常備艦隊旗艦

 “クシナダ” (旧イギリス海軍H型駆逐艦マーティン)

 780トン、(83.8m×7.8m×2.7m) 102mm45口径単装砲2基、76.2mm単装砲5基。

 都合、20隻ほど建造されたイギリス駆逐艦の1隻だった、

 解体寸前で日本政府が買い取った。

 中古で酷いが内装と外装は、しっかりと磨かれて、河川砲艦並み。

 河川砲艦も、この “クシナダ” も戦う軍艦ではない。

 兵装は等閑で、内装(外交施設・迎賓室)だけは、しっかりと造る。

 動くかといえば小さな機関に換装したので、

 航行能力があっても戦速といえない。

 この種の小型艦艇は生意気にも領事館も兼ねており、

 乗艦しているのは佐官で、

 任地によっては少佐、中佐、大佐など・・・・・・

 “クシナダ” には、少将が座乗していた・・・旗艦だから、

 少なくとも階級だけは、欧州列強にバカにされまいとの配慮であり、

 船の大きさを見ると滑稽に思える。

 もっとも、これは、揚子江の河口、上海で良くあることらしい。

 10000トン級巡洋艦に乗っている艦長が中佐で、

 1000トン級河川砲艦に乗っている艦長が大佐だったり。

 ごちゃごちゃと列強の利権が絡んだ租界地は、責任上、

 そういった階級を持つ高級将校の判断が必要になった。

 人間は、つくづく社会的地位に影響される。

 尉官では、どんなに高度で緻密で政治的配慮があっても

 会話に辿り着けない。

 というわけで、この世界で河川砲艦は、高級将校が乗っている、

 というのが一般的に認知されている。

 巨大商船が荷を降ろし、

 小さな軍艦に少将が乗って、

 将官旗が高々と翻っているのも変なものだ。

 “クシナダ” 艦橋

 「寒いな」

 「ええ」

 「暇だな」

 「そうですね」

 「こんな辺境に軍艦を置いてどうするつもりだ?」

 「揚子江の代わりに貰ったのでは?」

 「割に合わんよ。揚子江は黒字。こっちは赤字だ」

 「投資に見合うだけの収益は、まだ上げていませんからね」

 「だいたい、天候が悪すぎる」

 「今のうちに荷を降ろさないと、酷いことになりそうですね」

 「はぁ〜」

 「こんな僻地に投資するから海軍予算が削られるんだ」

 「何万トンだ。あの輸送船は?」

 「積荷無しで20000トンですかね」

 「二重船殻で、ちょっと良い船ですよ」

 「くそぉおおお〜」

 「国防をここまでないがしろにするとは・・・」

 「政府はなにを考えている」

 「体面上は、将官を置いているのですから、それなりでは?」

 「ふざけるな」

 「20000トンの船と780トンの軍艦が日本政府の答えだ」

 「それも解体寸前の駆逐艦で誤魔化しやがって、予備の弾薬すらない」

 「う、撃つんですか?」

 「いや、撃たないが・・・・」

 「実戦・・・・ほとんどないですよね。日本軍って・・・・」

 「無いな」

 「図上演習では良い感じなんですけどね」

 「実弾演習も悪くないぞ。たまに撃つ割には当たる」

 「人に向けてというのが無いだけですかね」

 「なに陸さんと違って、人が見えない距離で決着がつくから問題ないよ」

 「そういえば、陸さんも射撃精度より投射面積がどうたら言ってましたが」

 「あれもメクラ撃ちですかね」

 「揚子江で使われているやり方だろう」

 「人が集まっている場所を効率よく狙う方法だな」

 「世界大戦でやり始めたんですよね」

 「揚子江で成熟したんじゃないか」

 「かわいそうに・・・」

 「そういえば、狙撃銃で指揮官を狙うのと投射面積の」

 「どっちが良いかで騒いでいましたよ」

 「だんだん、直接、狙ってより、数撃ちゃ 当たるになってくるんだろうな」

 「少し人間味に欠けますね」

 「情緒に欠けるというか・・・」

 「狙って、ドンピシャっていうのがないと・・・・」

 「人間味のある狙撃銃に狙われて、撃たれるのと」

 「数撃ちゃ当たる砲弾に当たるのと・・・・どっちが良い?」

 「どっちも嫌ですよ。痛そうですし」

 「そういえば傭兵部隊で行った人間を知っているが」

 「撃たれた人間は、あまりいないな・・・」

 「退役しますからね」

 「そう言えば、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの使節団が来るんですよね」

 「北欧諸国か・・・」

 「極地ですが一応、北欧諸国の中に入っているのでしょうか?」

 「まあ、人によるだろう」

 「その、人の住む世界じゃないと思いますよ」

 「俺が生まれた江戸時代の頃は、こんな地球の果てに立つと思わなかったな」

 「たった四杯で夜も眠れず。ですか?」

 「そんな、むかしではない・・・」

 「その10年後に生まれたんだったな」

 「隔世の感。ですかね」

 「そうだな」

  

  

 対扶桑型高速戦艦。

 列強国の海軍が次期主力艦で目指した性能が

 対扶桑型の高速戦艦という艦種だった。

 これは、世界大戦中のドイツ巡洋戦艦(リュッツオウ)、

 シュペ艦隊(装甲巡洋艦3隻)の活躍で、影響を受けたといえる。

 戦艦を通商破壊に投入するのは、費用対効果で面白いといえない、

 潜水艦だけの方が費用対効果で上。

 しかし、敵国に護送船団を編成すると潜水艦は苦戦する。

 敵国に非効率な護送船団を取らせただけで有利と言えなくもない。

 さらに戦艦を通商破壊に投入すれば、

 敵国も護送船団に大型艦の護衛を強制で来た。

 当然、ローテーションは最悪となり、

 損益比もさらに勝ちになった。

 日本が高速戦艦8隻を保有しており、

 列強は、それを座視出来ない、というのが結論だった。

 なにしろ列強各国海軍は、

 逃げようとする扶桑型戦艦を撃沈できる戦艦が存在しない、

 それが最大の問題になっていた。

  

 むろん、この世界。

 日本が中国大陸から手を退いたため、

 揚子江自由経済圏が支障なく使え、

 フランスも財政難で植民地を租界地・租借地で放り出し、

 イギリスとドイツが海軍が弱体化した状態であり、

 天文学的な国債に戦艦を建造できず、

 アメリカ国民も “戦艦は、いらない。社会整備が欲しい” など・・・

 国家間の経済が密接に絡み過ぎて・・・

 などなどの理由で軍縮条約も結んでいないのに、

 なんとなく、軍艦の必要性が低下していた。

 それでもアメリカが減価償却に合わせ、

 イギリスとドイツが仕方なくお付き合いでという具合で建艦競争が始まる。

 そして、日本も、扶桑型って艦齢10年だっけ・・・

 と。ボチボチと考えたりもする。

    

   

 国際連盟ジュネーブ会議

 数人の男たちがテーブルを囲み、

 トランプに興じながら談笑していた。

 「アメリカの新型戦艦は、ワシントン型4隻だそうだ」

 「性能は?」

 「今検討中なのが40000トン級ワシントン型で高速戦艦だ」

 「406mm3連装3基。30ノット。45000トンになるかもしれない」

 「パナマ運河は通すそうだ」

 何人かがため息を付く。

 単純に1隻いくらで検討し、計算して隻数を掛ける。

 後は、国家予算の比率と軍事費の枠を考えれば大体の見当が付いてしまう。

 総トン数と大砲と速度が、わかれば、あとは概算で性能もわかる。

 むろん、技術的な問題など、

 造艦技術の差を脳内で補正し、

 ほとんど近似値で収まる。

 特にパナマ運河を通すため、

 全幅33m制限があるなら、かなり正確になる。

 「世界最強の高速戦艦ですね」

 「余裕だな、日本は」

 「いえいえ、十分に脅威ですよ」

 「ふん。扶桑型が8隻もあれば、数で余裕だよ。こっちはゼロだからな」

 「・・・・・」

 「日本は、建造するのか?」

 「いえ。一応、次世代戦艦の設計図だけは、ありますがね」

 「国際連盟でアメリカの建造に圧力をかけられないのか?」

 「無理だろう」

 「国際連盟の列強の国力を全部足してもアメリカに軍配が上がりそうだね」

 「それに代艦の建造だし」

 「トン数で制限するのは?」

 「アメリカが望まない限り無理だね」

 「アメリカは、ともかく、イギリスも、ドイツも、まだ建艦競争は厳しい」

 「フランス、イタリア、ドナウ連邦もだ」

 「オランダ連邦も・・・」

 ため息と沈黙。

 しばらくトランプのめくられる音が続く。

   

  

 赤レンガの某所

 将校同士が対立している。

 「・・・な、なにが飛行機だ」

 「貴様! 運輸省の回し者が!!」

 「あのなぁあ。飛行機は、年々、性能が向上しているだろう」

 「そうそう、戦艦の方は、10年前に建造されたものが主力艦として収まっている」

 「これからは飛行機を主力にすべきだろうが」

 「ふざけるな!!」

 「あいつらのやっていることは積載量と航続力と安全性とか」

 「経済性とかじゃないか!!」

 「いや、人が乗るんだから安全性は重要だよ」

 「そんな飛行機で戦争できるか」

 「それに貴様が10年前の戦艦というが」

 「それは、たまたま国際情勢で、そうなっただけだ」

 「いや、飛行機だったら、地上に対して攻撃できるし」

 「海上も攻撃できる」

 「それは、それは、汎用性があるだろう」

 「ちんたら飛ぶ飛行機や飛行船で爆撃だ?」

 「人殺しか貴様! 軍人なら戦艦で戦え、ばか者!!」

 「ば、ばか者だと・・・・」

 将校同士の取っ組み合いのケンカが始まる。

 みっともなくて下士官以下、兵士に見せられたものではない。

 アメリカの戦艦建造が本格的になると、こればかりが多くなる。

 そして、運輸省系将校は多く。

 いろんな口実で航空戦力拡充を狙って我田引水。

 予算を運輸省に誘導したがる。

  

  

 ユンカースG38

 エンジン出力 ユンカース L88a水冷V型12気筒エンジン800hp×4基。

 最高速度 210km/h。航続距離 2000km 乗客 34名 乗員 7名

 総重量21200kg。(全長23.2m×全幅44.0m)

 運輸省が注目していたのがドイツで開発中のユンカースG38旅客機だった。

 なにしろ飛行船は良いのだが、どうも使い勝手が悪く。

 主流は飛行機に向かったりする。

 「どう思う?」

 「主翼に客席は、要らないだろう」

 「主翼の強度の問題じゃないか?」

 「いや、客寄せだよ。眺めがいいからね」

 「眺めはいらないだろう」

 「それは飛行船に任せて、飛行機は、たくさんの人間を遠くに運ぶ方が良い」

 「ジュラルミンは?」

 「何とかなりそうだ」

 「もっと機体をスリムにした方が良いな」

 「ああ」

 「ところで、戦闘機屋が来ているぞ」

 「お茶でもだして、帰ってもらうか」

 「怒るんじゃないか」

 「お茶菓子も出す」

 「子供のお使いじゃないだろう」

 「空冷9気筒ジュピター型で450馬力だっけ?」

 「そう、イギリスのブリストル社のエンジン」

 「はぁ〜 悪くないよ」

 「空冷は経済的だからね。整備性で言うと悪くない」

 「しかし、800馬力の方が魅力的だからな・・・」

 「450馬力4発だと小さくなるよな」

 「重量当たりの馬力がな。空気抵抗もあるし・・・」

 「いくらお役所仕事でも採算は重要だからね」

 「まあ、次の仕事にも直結している」

 「だけど、この飛行機で戦艦建造を誤魔化せるかな」

 「でかく作って、たくさん並べる」

 「それで国民は凄いと思って落ち着く」

 「時間が稼げる」

 「そして次ぎの旅客機を開発する」

 「で、その繰り返しか?」

 「飛行場をもっと拡張したほうが良いな」

 「そうだな」

 「そうだ、艦載輸送機は?」

 「どうせ、4、5機しか搭載されていないし」

 「ほかで使っても100機あれば足りる」

 「機体は、独自開発で良いとして」

 「エンジンは生産するより買うのが良いだろう」

  

  

 某メーカ

 空冷9気筒ジュピター7型450馬力、

 総重量:1530kg、(全長:7.27m×全幅:11.00m)。

 最大速度:300km/h、6.5mm×2丁は、難航していた。

 「7.7mm機銃は?」

 「予算が降りないそうだ」

 「6.5mmじゃ 撃墜できないだろう」

 「もっと大きくても良いんだがな・・・」

 「とりあえず、6.5mm機銃で作って、次の予算で何とかしてもらおう」

 「軍人たちは、なにを考えているんだ」

 「いや、一応、努力していたぞ」

 「結果として7.7mmが採用されなければ意味がなかろう」

 「だよな・・・」

 「もっと航空戦力に金を回せないのか」

 「戦艦屋が邪魔している」

 「バカどもが」

 「戦艦屋は戦闘機を対地上用の掃討機程度にしか考えていないようだ」

 「6.5mmを4丁積めだと」

 「自分たちは、巨艦巨砲で行きたいとか言ってるくせしやがって」

 「むかつく連中だ」

 「連中も予算が出ないとかで騒いでたからな」

 「運輸省のおかげで亡国ものだな」

 「運輸省は?」

 「戦艦より潜水艦をたくさん建造して通商破壊した方が良いだと」

 「鋼材のトン数当たりの予算で割高だろう、鋼材を狙っているのさ」

 「くそぉ〜 あいつら、どこまで・・・帰り道に襲ってやりたい」

 「村八分覚悟でやってくれ」

 「路線沿いに人口を集めて味方ばっかり作りやがって、きたねぇ〜」

 「農家に農業機械までレンタルしているからな」

 「くぅう〜 何様のつもりだ、あいつら」

 「一応、農林水産省のレンタルで輸送が運輸省だろう」

 「収支をギリギリ黒字にしているという点で良い方法だがね」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 図が駄目駄目でご迷惑をかけています。

 妄想頼りです。

 戦記の方は、史実とちょっと雰囲気が違います。

 なにが違うって、雰囲気ですね。

 社会全般というか、

 日本軍の軍人の意識も戦意がちょっと低い。

 というより経験が伝承されていない感じです。

 周りや上官や同僚に人を殺傷した人間がいないなど

 自衛隊に近いです。

 ですが、自衛隊より、国民に意識され、

 頼りにされているというところです。

 本当に戦ったら強いんでしょうか?

 不安です。

  

 もう一つ、白人至上主義です。

 オーストラリアのシドニー事件、

 少しばかり白人至上主義が問題視されるようになりました。

 こちらの世界では、日本が日清戦争と世界大戦で戦っていないのか、

 日本人が大人しくしているせいか、

 白人が揚子江を完全支配しているせいか、

 白人至上主義は、史実より微妙に強いです。

  

 もう一つ、軍事費に回っていた分が公共投資に流れています。

 ケインズ経済学は、最近、信用されなくなりました。

 しかし、日本の場合、短期の政府経済誘導策でなく、長期の経済誘導策です。

 おかげで日本全体にピラミッド状の様に利権構造が作られてしまいました。

 恐ろしい限りです。

 運輸省もかなり浪費に近くなりました、

 軍事費と違うのは、沿線経済で庶民と直接、利益が共有されてしまう、でしょうか。

 もちろん、鉄道に関係ない部分で民間独自で投資が行われています、

 やはり、圧倒的なのは運輸省でしょうか。

 陸軍省・海軍省なら戦争に負ければ、解体できるのですが・・・・・・

 運輸省は保身だけ、戦争なんか望んでいませんから。

 どうやって解体するのでしょうか?

 官僚組織が肥大化し、贅肉が付く過ぎて豚になる前に民営化、

 少しスリム化した方が良いのでしょうが、

 ちょうど良いタイミングがあればです。

 今のところは癒着構造はがっちりですが、

 不正腐敗の金額は、少なめで、国債など史実より少なく、

 やや健全な国家運営です。

  

 因みに青函トンネルの建設総工費約6900億円。

 コンクリート151万。火薬2860t。鋼材16万8000トン。

 掘り出した土砂の量は633万㎥。

 埋め立てて出来た国土が約18万3000u。

 とりあえず6900億円は、物価、レート、技術レベルが違うから、

 抜きにして・・・・・・

 資材は、どうでしょう。

 史実と違って、この世界では広軌のまま乗り換え無しで全通で行ってします、

 さらにたくさんの資材と資金を使います。

 しかし、史実でも海軍の総トン数を減らしても建設したかった・・・・・・

 もっとも青函トンネルは資金繰りがつかないので、もっと先の話しです。

   

 そうそう、この年です。

 リンドバーグの大西洋横断 “翼よ、あれがパリの灯だ” です。

 ツェッペリンも真っ青。飛行機も発達しました。

  

  

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第34話 1926年 『・・・なるほど・・・・タイミングか』

第35話 1927年 『おまえも悪よの〜』

第36話 1928年 『日露蜜月』

海軍力

 

 各国軍艦状況