第36話 1928年 『日露蜜月』
聖ロシア帝国の首都ハルピニスク
ニコライ二世60歳の誕生日を迎えて祝賀会が催されていた。
ロシア人が二つの国に分裂、列強にとっては喜ばしく。
ロシア人にすれば残念なことだった。
ニコライ二世は、殺されてもおかしくない状況だったが生きていた。
そして、いまでは、権威のみで権限はない。
それ相応の待遇は受けられるが政策は人任せ、楽なようで手持ち無沙汰。
日本人は、満州が寒いというが、
そうでもないような気がする。
満州は気候が良いところで、
南の朝鮮半島は暑すぎるが冬は過ごしやすい。
日本人がクレムリンに似せて建設した城は悪くない。
ロシア人も、随分、増えてきた。
しかし、本当の意味で帝国人民なのか、わからないそうだ。
たぶん、そうだと言う。
そして、ソビエト側のロシア人も共産主義人民なのか、疑っているという。
二つの違う政治体制のロシア人が、どちらに傾くか、
軍事的な側面と内政的な側面で考えられる。
日本の外交官は言う
“内政で圧倒的に勝れば、ソビエト・ロシア人は総崩れです”
ある意味正しい。
そして、内政で失敗した皇帝にすれば耳が痛い。
ソビエト連邦と聖ロシア帝国は同じロシア人、
軍事力より、内政の優劣で勝敗が決まる可能性は常にあった。
ロシア政府の高官は、日本の意図を喝破していた。
露ソ軍事対立が大き過ぎると日本も軍事費が増すことになり、
露ソ共に内政に精力を使わせるプロパガンダだと耳打ちする。
日本人は、極度に軍事負担を避けようとする傾向にある。
聞けば、日本を支配しているのは運輸省であり、
鉄道を核にした政官財の癒着で構築された利権体制だという。
予算を軍事費に取られたくないが動機らしい。
動機がわかると、意図が掴めてくるため、
付け入る方法をいくつか閃いたりする。
しかし、今となってはどうでも良いことだ。
日本人はロマノフ王朝の恩人であり ・・・・・・・ だった。
ロシア皇帝に政治的権限はない。
時折、各国の高官や貴族と社交辞令を重ね。
会食し、遠出に行き、狩りをし、釣りをする。
聖ロシア帝国の国力は徐々に向上している。
しかし、ソビエト連邦の国力に負けており、
シベリア鉄道も国境線で封鎖されている。
最近になって露ソ国境警備隊が増え、
ロシア人の行き来は、困難になった。
聖ロシアの貴族階級は、有名無実の日本華族の影響を受け、
次第に不確かなものになっていく。
確かに、この極東で貴族と威張っても、
どういう名家なのか、知っている者はいない。
欧州貴族同士なら知っているのがたしなみだが、
日本の華族とロシア貴族の間に歴史的関係性はない。
血統、家柄を虚栄と傲慢さで、ひけらかすことが出来ない人生。
なんと、つまらなく、ちっぽけなのだろうか。
太平洋の向こう側のアメリカ人も、
そういった貴族階級に嫌悪感を見せる時がある。
まったくもって、温暖な気候以外には、ろくなことがない。
ウォッカの減るペースも少しばかり早まるというものだ。
クルセーダー系戦車の行進が始まり、
ブリストル系戦闘機の編隊飛行も祝賀典の花を添える。
聖ロシア帝国軍は、日英同盟の関係と対ソ政策から
イギリス系戦車と航空機の採用が決まってしまう。
工廠は、年々、大きくなっており、
いずれ、独自開発が進むだろう。
ソビエト連邦は、ツポレフ系戦闘機を開発。
アメリカからクリスティー系戦車を購入したらしい。
効果があるのか不明だそうだ。
聖ロシア海軍は、アメリカの支援で大型駆逐艦の建造ができるらしい。
かなり凶暴な性能だと日本人が渋い顔をしていたらしい、
どちらにしろ、たいして建造できないそうだ。
当然だろう、
わたしが統治しても、ソビエト側を正面と考える。
無駄で虚栄な予算は使えない。
聖ロシア政府がまともなバランス感覚を持ち合わせていると思うと、
寂しい反面、安堵する。
そして、最近、良く聞くのが揚子江経済圏の生産力らしい。
米英仏独露蘭伊墺8カ国が工場を連ね、
簡単な部品や商品を大量生産している。
もはや、程度の低い安価な部品を生産しても勝ち目がなくなると、
各国とも、戦々恐々としているらしい。
暴動や蜂起が起こると値段が高くなり、価格が安定する。
華北連邦の汪兆銘。華南合衆国の蒋介石も、
この状況を受けて武装蜂起をやめるように国民に訴えている。
効果は、それなりだそうだ。
搾取されても国力がつけば、
いずれ主権回復は可能になる。
欧米各国は、揚子江経済圏に異民族を大量に移民させ、
揚子江を境に大陸を完全に南北に切り分ける気でいる。
要塞化も進んでいる、
しかし、未来永劫分断できるか怪しい。
政府官僚によると、南北は、方言の関係で150年で完全に分かれるという。
本当だろうか・・・
フランスは、たくさんの地域語があるのにフランスは、フランスだ。
問題は、自国で安価な製品を生産しても収支が合わなくなる列強の方で、
戦争の口実になる可能性もあるらしい。
しかし、どうだろうか、とも思う。
中国国民が豊かになれば、賃金格差が減り、
価格も落ち着いてこよう。
華北と華南は揚子江抜きで主権を回復しても
大国になっていく可能性がある。
ロシア皇帝の家族
ニコライ二世60歳。
アレクサンドラ皇后56歳。
アレクセイ皇太子22歳は、日本某御息女を娶る。
オリガ皇女33歳の嫁ぎ先はドミートリー大公。
タチアナ皇女31歳の嫁ぎ先は、イギリス某公爵家
マリア皇女29歳の嫁ぎ先はドイツ某公爵家
アナスタシア・ロマノバ皇女27歳(6月18日生まれ)の嫁ぎ先・・・
どこかの皇族某27歳(4月29日生まれ)
ロマノフ王朝も娘たちが嫁いで行くと寂しくなる。
ロマノフ王朝に黄色人の血が混じってしまうのは気に入らなかった、
しかし、不思議なことにロシア人の評判は良いようだ。
どうやらロマノフ王朝の血は国民から疎まれている節もある。
皇帝に政略・・・と言う発想はなかった、
しかし、日露政府筋に思惑と圧力があったのは確かだ。
恋愛感情を抜きにしてやったのだろう。
血友病のアレクセイ皇太子は相手を探すもの一苦労であり、
特に爵位を持つ娘が嫁ぐのは、よほどのことだ。
これが日本人であれば良くわからない。
名家と言い張れば、名家になってしまうだろうか。
少なくとも日本の華族とロマノフ家のつながりは、
日本の国際的なステータスに繋がるだろう。
しかし、格調高い高貴な家柄をないがしろにする
アメリカ人のような外道も増えている。
粗野で下劣で支配階級に頭を垂れない、
小癪な政治制度を作る生意気なヤンキー、
おかげで日本との関係が強まったような気もする。
日本側の一部にロマノフ朝の血統と疾病に疑問を持ち、
問題ありと・・・・
確かに眉をひそめたくなる血統もいた。
女帝エカチェリーナ1世、
エリザヴェータ、
エカチェリーナ2世・・・
息子の病気もあるが聞かなかったことにしておこう。
男子誕生まで4年もだと・・・
試用期間か!!
など思ったが末娘だし、
忘れてやろう。
内容はともかく、本当かどうか皇族の歴史だけは負けている。
内容は、気が向いたら学んでやろう。
ロマノフ朝(男系は1730年に断絶)は、西暦1613年から始まり315年間。
天皇家は西暦201年から300年に掛け、何度か王統が断絶しながら成立。
仮に西暦300年だとしたら天皇家は1600年以上続いていることになる。
ハプスブルク伯ルドルフは、西暦1273年にドイツ王選出され655年。
それより古い。
対抗して探そうと思うなら、
ローマ帝国時代からの名家を探すよりない、
しかし、それほど長く、国家の代表を一族が占められるものなのだろうか、
よくよく聞けば、日本の皇室は、権力を世俗に任せ、
権威のみの時代が歴史のほとんどを占めており、
権力と権威を分けた武政君主制を敷いていたと言える。
何はともあれ、面積で勝っても歴史で負けている。
どちらにとって、誉になるか、
後代の歴史家に任せるとしよう。
アナスタシアも男子誕生で晴れて、某皇族の一員。
言葉を少し覚えたようだが同情する。
彼女にも思うところがあるようだが
“皇族、王族、貴族の娘は、よくあることだ。気にするな”
と伝えている。
娘も皇族だけあって、わきまえていた。
と言うわけで日露両国は良好といえる。
しかし、近代になり、
王族間の婚姻が国際情勢に与える影響は目減りしている。
アメリカのせいだろう。
小癪なヤンキーどもめ・・・
そして、共産主義などと宗教じみたことを信奉する狂信者のせいだ。
民主主義などと下賎な小物に国の統治を任せねばならないとは歯がゆい。
しかし、それなりにやっていると、ちょっとだけ認めよう。
日露の政略結婚は、心理面で与える影響が大きいようだ。
日露関係は、人種を越えて急速に良くなっているような気もする。
政略結婚自体が運輸省の日露貨客数を狙っての伏線らしい。
運輸省が狙っていたかのように対馬海峡トンネル計画を提案する。
もっとも、この駆け引きは間宮海峡トンネルで北方重視を進めて、
自己矛盾したらしく、トーンダウン。
それでも間宮海峡トンネルを核にした日露貿易は、次第に大きくなっていく。
日本の運輸省の思惑通り、
黒字幅も大きくなっているらしい。
もちろん、日本が帝国主義と共産主義に分かれたロシア人を信用できるか、
と言う点で、不安があったらしい。
しかし、白人が日本人の中に紛れ込んでもわかるだろうと、
運輸省の思惑のまま進んだようだ。
運輸省の圧力がなければ、この婚姻はなかったという話しもある。
しかし、どちらでも良いという気分だ。
お任せなのだから。
世界大戦で同盟諸国が負けず。
帝国主義が形だけでも命脈を保ち。
日露政略結婚で貴族世界が少しばかり
華やかに盛り返した1928年。
国家間の経済が強まり、
戦争することがなんとなく損をする気になった世界。
南シナ海 南沙群礁
何でこんな場所にとも思うが小島が埋め立てられ、
大きな飛行場が建設されていた。
最初は、港湾施設と要塞が中心だった。
しかし、埋め立てが進むと飛行場が中心になった。
今では飛行場も、ちょっとした要塞に思える。
台湾−南沙−シンガポール−バンドンを航空路線で繋ぐことが出来たのも、
この基地のおかげだった。
インドシナとフィリピンを経由しなくて済む、
というのも悪くない話しだ。
アメリカに敵対しているわけではない。
政略的避難とも戦略的避難ともいえる。
完全に支配権を構築される前に逃げ道を作っておく。
当然といえば当然。
それでも日本とアメリカの取引は多い。
世界最大最強の顧客。
当然だろうか、贅沢病にかかっている、お金持ちだ。
賃金格差を利用して押し売りすれば、何とか道も開ける。
日本人の移民を制限した事を追及し、
代わりに関税で善処してもらっていた。
港湾と要塞も、それなりに整ってきている。
それにしても風車?
風力発電が多い。
最近は、安定した潮流を見つけたとかで、
小型の水力発電機を設置できるかどうか、検討しているらしい。
確かに電力は欲しいが風車は飛行機の離着陸の邪魔になる気もする。
800トン船。
船殻と機関など軍部が決めて残りは、民間造船所に任せていた。
そして、哨戒艇“04号”は、元々、漁船用で発注されたものだった。
しかし、アメリカの戦艦建造と言う噂で急遽、国防省が買い上げ建造。
あとは、船殻に合わせた大砲や機雷、爆雷などのオプションを組み替えるだけ。
それなりに使える船になった。
外洋で運用するため底が深く。
ジャイロ・スタビライザーとかついて耐波性が良いようだ。
ベーリング海でも軍艦を使いたいと装備し、
装備してない船と装備した船を走り比べたらしい。
その後、装備しているのは、効果ありなのだろうか。
時折、アメリカの艦船が偵察に来るが敵対するつもりはないようだ。
こっちも太平洋を挟んで最大の顧客なのだから、敵対すべきではない。
最近は、日本と中国の貿易も増えている。
と言うより、中国経由と言う形を取っている。
節税のつもりなのか、胡散臭そうな貿易が成り立っている。
何より揚子江は領土の延長らしく関税がなく。
いくつもの理由で自由に物が動かせるらしい。
こんな小船の艇長をやるより、楽しそうなのが大陸だろう。
海軍のなり手も少なくて困っている、
しかし、扶桑型のおかげで、少し盛り返したらしい。
あちらこちらの港湾で市民を乗せ、リクルート募集に励んでいる。
破壊工作とか少しは考えているのだろうか?
水平線上にアメリカのクレムソン型駆逐艦1190トン級
50口径102mm単装砲4基、533o3連装魚雷発射管4基、
爆雷投下軌条2条、爆雷投射機1基、35ノット。
さすが軍艦目的で建造されただけあって気合が違う。
800トン級の哨戒艇で撃ち合いたくない、
こちらは、50口径120mm単装砲台2基。機関砲2丁、
爆雷投射機2基。20ノット。
綾波型が配備されれば気分も変わるが、要塞砲台が期待できる。
どうせなら高速魚雷艇を造れとも思うが、
お金がないらしい。
最近は “運輸省が悪い” が口癖になっている、
しかし、大型輸送機が離着陸すると意外とやるものだとも思ってしまう。
アメリカ駆逐艦が波を切って疾走する姿は格好が良いものだ。
日本の軍艦は、巡航速度で航行する場合が多く。
疾走するする姿は、あまり見られない。
実弾訓練とかも充実しているのだろうか・・・
最近、アル中で高慢ちきなロシア人と
仲良くなっている日本人が多いらしい、
同じ高慢ちきが多くても
アル中の少ないアメリカ人の方が付き合いやすい気もする。
白人連中は腹が立つことが多い。
日本人でもアジア連合派がいるのは、
彼らの態度が、あからさまに白人至上主義だからだろう。
南シナ海の南沙基地は、アメリカ、イギリス、オランダ、フランスに包囲され、
なんとも気分が落ち着かない。
インドネシアでは血生臭い出来事が起きているらしい。
揚子江流域は、漢民族とインド人、黒人、フィリピン人、インドネシア人が、
連日、小規模な衝突を繰り返している。
“白人に鉄槌を”
と言う日本人も少なくない。
それも白人と付き合っているビジネスマンや外交官の意見も少なくない。
逆に華北連邦と華南合衆国の方が接待が上手く、
思わずなびいてしまうらしい。
それでも白人世界と戦争したくない運輸省が待ったをかけ、
握り潰してしまう。
日本民族は、まるで白人世界の手先のようにも思える。
事実、白人世界との取引がなくなれば、
日本は終わりといってもいい。
アジア連合派の多くも、
それでは、白人世界と手を切って自立できるのか、
と問いただすと黙り込む。
憂さ晴らししたいだけの短絡人間に政権は渡したくないものだ。
白人の丁稚といわれても
自立出来得る資源がなければ、どうにもならない。
華北連邦や華南連邦は、僻みやっかみだけの見せ掛けの大国。
力不足で組むことが出来ない。
プライドで国を滅ぼさせるわけには行かない。
我を張って国民を飢えさせるわけにいかない。
例え、白人世界の丁稚といわれても国体を残し、
国民を食べさせるべきであろう。
勝てば良いという人間もいれば、
勝てるわけがないという人間もいる。
ランチェスターの法則を無視した奇跡的な勝利で、
同数、同トン数が沈んでも、
日本軍が先に全滅する。
常に強者が分散しているところを狙って、
戦争すれば 弱者でも勝てる。
しかし、世の中、そんなに甘くない。
敗戦すれば奴隷。戦わなければ丁稚。
それなら、丁稚が良かろう。
“サクラの花の様に潔くぱっと散れば良い”
などと言う輩は無視したくなる。
扶桑型を当てにして、などと言うが
資源もマザーマシンも白人世界にある。
供給を断たれ、通商破壊をされたら絞め殺され、
対扶桑型戦艦が建造されたら
止めを刺されるだけだ。
日本政府が扶桑(北東シベリア)開発、
大和(南極大陸)開発に傾注するのも
資源だけでも確保したいのだろう。
そして、経済至上主義者も少なくない。
国際市場の利害が絡みすぎれば戦争抑止になる発想だ。
3者を悪くううなら、死にたがり、逃げたがり、賭けたがり、だろうか。
どちらにしろ、日本の状況は楽観的になれない側面がある。
“人種差別を気にするな” と言う者もいる。
押さえ付けられ、磨り潰され、踏み躙られ、
キレたくなるような人種差別を受けたことがないか、
こいつが一番豪胆だろう。
ニューヨーク ウォール街
生牡蠣(カキ)のレストラン。
数人の男たちが昼食をたべていた。
「国家間の対立は、それほど酷くないよ」
「フーバーの言うように “鍋に鶏1羽を、ガレージに車2台を” だ」
「その気になれば、アメリカは世界を買う事だって出来るさ」
「フーバーも良い時に大統領になるだろうな」
「アメリカ合衆国の繁栄は大きい」
「世界中の富が集まっている」
「しかし、気になるのは揚子江の生産力が」
「急速に大きくなってきていることだ」
「ああ、我が国の工場を脅かそうとしているし」
「日本製品も安価な割に性能が良い」
「それに欧州の経済再建も気になる」
「農業も回復しているようにも思えるが」
「構わんさ、それも買ってしまえば良い」
「アメリカ合衆国は、どこかの国の様に資源も土地もなく」
「四苦八苦している小国じゃない」
「そりゃ アメリカは、一つの世界として独立している」
「どこにも頼らずにやっていけるし」
「世界は、アメリカの生産力を当てにしている」
「ふっ 富はアメリカに集まり続けるよ」
「確かにそうだが世界連盟から仲間外れは気に入らんな」
「言いだしっぺがアメリカなのにな」
「世界も、いい加減なものだ」
「加盟国はアメリカに特許料を支払うべきだね」
「日本と聖ロシアの関係が良くなっているのも気になるな」
「ふん 性格の不一致で、わかれるさ」
「民族的な気質、と言うより人種的な相違は、大体わかっている」
「上手くいかないと思うね」
「しかし、アメリカの建造する高速戦艦が話題になっているようだが」
「あははは、高速戦艦なんて、金がかかるばかりで見返りが少なかろう」
「高速戦艦より、河川に浮かべる河川砲艦が欲しいな」
「揚子江、黄河、メコン川、コンゴ川、アフリカのフランス領・・・」
「投資先は良いんだがね」
「河川砲艦なら日本製が良いようだ」
「ふん、労働者の国が・・・」
「ソビエトのような資源大国が山師のくせに」
「労働者ぶっても説得力に欠ける」
「労働者で団結したいのなら」
「普通の人間の3倍以上働かないと」
「列強になれない日本人が先頭に立つべきだろうな」
「まあ、日本こそ真の労働者の国だよ」
「しかし、戦艦を建造するより、河川砲艦の建造が助かるがね」
「それでも日本海軍が最強の高速戦艦8隻を揃えているのが我慢できないのさ」
「まあ、難しくないだろう。アメリカは世界一裕福な大国だ」
「いや、違うな、大国ではない、超大国だ」
「ははは・・・」
ドイツ
ウィルヘルム2世は渋い顔。
帝政とはいえ、随分と権力を失っていた。
最近は、ヒットラーと言う詐欺師のような男が自分に取り入ってくる。
そして
“純粋なドイツ民族による帝政復権”
など言う始末。
あまり信用できる男ではない。
議題で話されている内容は国債とアメリカ新型戦艦のことだ。
「産業も農業生産も回復傾向にある」
「戦艦建造はありえるだろう」
「「「「・・・・」」」」
消極的な沈黙。
金のかかる戦艦の建造にしり込みするのは普通の感覚だった。
言った当人にも熱意が足りないような気がする。
ソビエトの軍事的圧力が強まっている時期。
共産主義が浸透してきている時期。
サンクトペテルブルクの要塞化も
国境線防備にも金が必要だった。
ソビエト戦車の詳細は、わからない。
世界的に性能が公にされているのは揚子江警備用に開発し、
列強の警備軍に爆発的に売れた日本の装甲歩兵車両くらいだ。
機関砲や手榴弾に耐えて、
6.5mm機関砲2丁を装備、歩兵10人を乗せられる。
高性能と言うわけではない、
相手が中国民衆や中国軍ならば、費用対効果で断然優れていた。
少し騒音があるらしいがディーゼルエンジンで燃費も良く稼働率も高い。
もっとも、列強同士の間では、装甲が薄過ぎる、
費用対効果に疑問があるらしい。
それでも歩兵ならトラックに乗るより、
こいつに乗りたがる新種の装甲歩兵戦車。
戦場で大中口径砲弾に出くわす可能性は、
小銃や機関銃、手榴弾より少なかった。
こいつを量産すれば
他の国に対人用で効率の悪そうな口径の機関砲を配備させるのも一興。
配備する方と配備させる方、
どちらが得か損かは専門家の計算になるだろう。
植民地用に売れまくって儲かっているそうだが、
いまでは列強でも開発が検討されている車両だ。
と言うわけで海軍に回わす予算を減らしたい気もする。
それでも海外領土の問題もあり、
戦艦を建造しなければも、道理だ。
ロンドン
イギリス経済も、国債に喘いでいた。
ドイツと状況が似ても海洋国で、さらに深刻らしい。
世界中に植民地を有する海洋国家なのだから当然であり、
高速戦艦の必要性も、まったく違う。
対米政策上、同盟国日本の高速戦艦8隻に頼っていた面は大きく。
それが危ういともなれば戦艦建造しかなかった。
「扶桑型の設計図は?」
「良く出来ている」
「何度、検討しても、このトン数なら最高峰の高速戦艦といえるな」
「建造できそうかね」
「むろんだよ」
「予算さえあれば、もっと良い戦艦だって設計できるがね」
「30000トンじゃ無理だよな」
「む、無理に決まっているだろう」
「・・・・・・・」
「魔法使いじゃあるまいし」
「せめて33000トンは必要だがね」
「それだって扶桑型と互角という意味だ」
「・・・・・・・」
「アメリカの新型高速戦艦には勝てんぞ」
「・・・・・」
「それで、アメリカの戦艦は何トンだね」
「40000トンから45000トン」
「それじゃ、わからんと言うのと同じだろう」
「45000トンで設計図を作るぞ」
男が引きつる。
戦艦の価格は1トン当たりの金額を掛ければ近似値で引き出せる。
詳しい人間になると建造期間や物価指数まで含め、
簡単に建造費を試算してしまう。
「・・・・・」
結論 “金持ちにケンカを売るな” という事だろうか。
大国なら、相手が破産するまで掛け金を載せ続けることが出来る。
イギリスも、ドイツも、
アメリカ相手の建艦競争でしり込みするのは、当然といえた。
某国沿線の土地。
軍人たちが
“誰かあの男を止めろ” “いや殴ってくれ”
と思いながら、
新型戦車を見ていた。
この戦車は、路線から電線が延びて、それに繋がれている。
“金があれば、なにをやっても許されるとでも思っているのか、貴様”
“このキチガイが戦場を知らんのか、ボケが!!”
“雷に撃たれて死にやがれ”
“今日は、やけに引き金が軽く感じるな・・・・”
“ふざけんな! 絶対に! お蔵入りにしてやる”
口には出さないが思っていることは、同じ、
目を見れば、以心伝心で気持ちが伝わる。
しかし、利権で肥え太っている人間は届かない。
とある国では、もっと酷い、箱物などが造られているそうだが、
バカらしさだけなら髣髴させてくれる。
それでも、その戦車。静かに動き、
凹凸のある広陵を走って、
6.5o機関砲2丁を撃った。
そして、電線を抜くと次のコンセントがある場所まで走って、
コンセントを入れて、充電しながら走って、また、撃った。
それをしばらく繰り返すと実験が終わる。
兵士が感電死せずに済んで良かったの安堵感と、
感電死してくれていたら、
そのまま潰せるのにという気持ちが交錯する。
「どうです、転輪にモーター内蔵した優れものですよ」
「静かだったでしょう」
「それに思ったより速かったのでは?」
“バカか、貴様、こんな紐付き戦車が使えるか!”
“戦場を冒涜しやがって!! 死ね!!”
「・・・ああ、し、しかし、路線沿いでしか使えないのでは?」
「戦略的に支障がありますから・・・」
「もちろん、実験です」
「しかし、十分に手ごたえを感じました」
““““はあ〜!””””
「今は、5分ぐらいですが」
「今後は、蓄電池を研究したいと思っています」
“ふ、ふざけんな、そんな金があるなら、こっちへよこせ!! ボケが!”
「・・・実験ですから。ははは、そうでしょう」
「将来が楽しみだ」
「実験ですよね。あくまでも実験ですよね」
そう、戦車の電化を実験する国はあるだろう。
あくまでも試しにというレベルだ。
しかし、日本では違う。
運輸省は、鉄道の電化にあわせて発電所も握っている。
当然、電気で戦車を動かせるなら利権も拡大できる。
半分、本気なのだ。
スペイン、ポルトガル、イタリアは、軍事独裁だそうだ。
なんと羨ましい世界だろう。
軍人が大手を振るって敬愛される世界。
何かの手違いで日本は、軍部でなく、
運輸(鉄道)が支配する世界になっていた。
アメリカが高速戦艦を20隻も建造すれば、
もう少し軍事費を増やせるのに、
利権構造も作れるのに。
ヒューズの腰抜けが扶桑に大砲を撃っていれば、
こんなことにならなったのに。
「・・・将軍、次は、30分を目指しますので、今後ともよろしく、お願いします」
“誰が、よろしくするか!”
「・・・あっ! たっ! 楽しみにしていますよ。局長」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です
なんとなく踏んではいけない、
踏み絵を踏んだような気もします・・・・・・
この辺で書かないと “なんでこうなるの” となるので書きます。
とりあえず、誰とアナスタシアが結婚したか、
読まれる方の妄想にお任せして・・・
妄想するまでもないか・・・
なんで、こうなったのかと言うと。
ロマンチックな出来事はないです。
初めて会って、目と目が触れた瞬間、運命を感じたとか・・・
金閣寺を案内している時、不意に手と手が触れてからとか・・・
社交辞令でダンスを踊った時、感じたとか・・・
男性が美しい高貴な白人女性を熱烈に求めたとか・・・
アナスタシアが、東洋の神秘に弱くて誘惑したとか・・・
はっきり言って、ロマンスは皆無です。
日本女性でさえ
花嫁修業で根を上げそうな某皇族。
民族、文化、言語が違うのですから自分から進んではないでしょう。
仮想戦記でも史実でも、
天皇家に基本的人権はありません。
「陛下・・・結婚の儀が整いました」
「へっ・・・・・誰と?」
「とある、高貴なお方です。こちらへ」
「うむ」
「ご祝賀いたします。陛下」
「よきに、はからえ」
政略結婚です。
現実は、もっと複雑ですが選択の余地がないので・・・
それでも不幸といえないような。
元気な男子誕生と両国国民が喜んでいれば好き嫌いに関わらず。
嬉しいかと・・・
明確に嫌いというわけでもなく、
高貴でも男と女ですし。
やって、やれないことは、ないでしょう。
露清戦争以来の隣国同士、
言葉は、たしなみ程度、勉強していると仮定して・・・・・・・
言葉の壁を越えて、歴史上・・・・
よくある話しです・・・・
健康な男子さえ生まれれば、
どうにでもなる世界ですから。
資本主義経済では利益追求のため
商品を大量生産しながら人件費を最小限にする。
当然、生産が増大して商品が溢れても
大多数の所得者は買えない。
商品の過剰生産は、価格暴落、破産、失業を招き。
切っ掛けは、いろいろで、
景気循環の崩壊(クライシス)が起きる。
史実とは違いますが、
この世界でも、
いくつかの理由で同じ時期に同じイベントが起きます。
大恐慌のことです。
H0Nなびランキングに参加。
第36話 1928年 『日露蜜月』 |
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