月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

第39話 1931年 『搾取と癒着』

 崇明島

 揚子江国際自由市場 (別称:中国搾取同盟) 機構

 欧米露列強に日本を加えて、

 中国市場の調整が行われていた。

 「華北・華南政府が揚子江での就労を」

 「国家労働認可制にして欲しいそうだが・・・」

 「“揚子江の外国資本で働いてもいいから、少し寄こせ” ということかな」

 「つまり、中国政府も中国人から二重に搾取するというのは・・・」

 「全くもって、呆れる」

 「ところで、インド・中国鉄道は、日露鉄道と連結されるのでしょうな」

 「規格が違うので乗り換えになりますが連結だけは出来ます」

 「線路は、中国人に人海戦術で作らせているのでなんとか」

 「労働者への食料供給は、安定したようですな」

 「タイ米の増産とメコン川の輸送で良いようです」

 「インド・中国鉄道も進みそうです」

 「アメリカ本土にも送るので?」

 「まあ、少しは・・・」

 「アメリカが欲しいのは、需要で供給力ではありませんよ」

 「このまま安い商品を大量にアメリカに送り込んで」

 「アメリカの労働意欲を削いでやるのも、一興なんですがね」

 「しかし、株市場が崩壊しただけで」

 「経済全体が駄目になるのは、信じがたいですな」

 「ええ、株価が著しく低下しただけですからね」

 「資金、工場、農場が消えたわけでもなく」

 「存在しているのに国民の多くが借金地獄ですから・・・」

 「仮に500億ドル以上の需要があるとすると・・・」

 「500億ドル〜」

 「今のところ、失業者は、500万人くらいですよね?」

 「戦争しかないのでは?」

 冷たい空気が漂う・・・・・・・

 思い浮かぶのは “どこと?” だからだ。

 列強諸国の代表たちも

 援助物資とかでアメリカに10年ぐらい食料と商品を最安値で売り続ける。

 そして、勤労意欲を削ぎ落とし、

 ブラジルのような国にならないかと思ったりもする。

 禍根を断つ観点でいうと、

 軍事費を使うより合理的な気がしないでもない。

 もっとも、アメリカが風邪で寝込んだおかげで、

 欧州諸国は、肺炎で、そんな真似が出るわけもない。

  

  

 福岡空港−崇明空港

 ユモ水冷800馬力4発。

 (全長23m×全幅44m)。自重14000kg。

 乗客36人、積載12000kg。速度200km。航続力2000km

 日本航空は、4発機の92式旅客機、92式貨物機を量産。

 アジア全域の航路を支配しようとしていた。

 安全性と経済性を追求した結果。

 主翼厚を減らして主翼内客室を廃止。

 空気力学的特性が良くても生産性の悪い波板を廃止。

 洗練された機体は元ユンカースG38と思えないほど改造されていた。

 そのトン数当たりの利潤が良いことから、

 日本航空から気に入られ国外にも売られていく。

 そして、陸海航空部隊も

 民間機(運輸省)規格のエンジンを流用しなければならなかった。

 機上に弱小省庁の関係者2人が座っている。

 「ったく。運輸省は、何でユモにこだわるんだ」

 「日英同盟があるんだからイギリスでも良いだろう」

 「今のところ、有力なエンジンメーカーはないよ」

 「ブリストル、ヒスパノ。ロールスロイスとダイムラーベンツは良さそうだがね」

 「ユモと大して変わらないだろう」

 「同じものをたくさん作る」

 「これが、もっとも、楽に儲かる方法だよ」

 「そして、ユモは楽に生産している」

 「たぶん、馬力強化型も独自開発でいけるかもしれないな」

 「・・・・・・・」

 「切り替えるとすれば、よほど性能の差が開いた時だな」

 「空冷は、迷っているようだが」

 「一度、替えたら、今度は、そればかりさ」

 「まあ、問題はエンジンより機銃だね」

 「6.5mmの機銃は悪くないさ。地上で使う分はね」

 「しかし、何とかしないと・・・」

 「金がないとな」

 「陸軍もフェデロフM1916の配備で予算がないらしい」

 「予算?」

 「弾数が同じなのに減りの早い自動小銃にしてどうするんだ」

 「どうも、大勢は戦争する気がないのか」

 「それとも地上を掃討することばかり考えているようだな」

 「信じられん杓子定規だ」

 「民間ばかり金を掛けやがって、欧米諸国に迎合ばかりだ」

 「最初から掃討・爆撃機として揚子江向けに売るのが目的さ」

 「規格品が余計に売れれば相対的に価格も安くなる」

 「運輸省の考えそうなことだ」

 「現に良く売れている」

 「それで、単価が低下した分が増えているという寸法だな」

 「10分の1という法則があるようだ」

 「10個作れば、10個売れば、1個は、自分のもの」

 「人の欲望と活力を刺激する最低限の数字だろうな」

 「民間でも官僚でも・・・」

 「それで軍関係は、軍事機密も絡んでくるから」

 「それは、それは懐具合も・・・」

 「・・・・あいつら〜」

 「欧米列強も実験機や試作機で失敗したものは」

 「揚子江で使い潰しているからな」

 「失敗作だろう」

 「日本の様に最初からそのつもりで生産してはいない」

 「その方が儲かるだろう」

 「日本は、基礎の科学技術で欧米に遅れていると国民に伝えている」

 「正直なのは良いかもしれないな」

 「そんなことはないぞ」

 「きちんと生産しているじゃないか」

 「同じものを生産できているだけだろう」

 「それも、最近になって、ようやくだ」

 「工作機械の数、工員の数でフランス、イタリアを抜いたがね」

 「独自技術にまで至ってない」

 「つまり想像力で劣っている」

 「想像力か・・・」

 「強すぎると既存のものを破壊してしまうな」

 「良し悪しあるさ。」

 「しかし、陸海で使える航空機が効率的か」

 「そりゃ〜」

 「運輸省が島にも大型飛行場を建設しているからな」

 「我田引水が〜」

 「弱小省庁の悲哀が聞こえてくるね〜」

 「・・・ったく」

  

  

 運輸省は、鉄道、郵船、航空も含めた巨大な利権構造体になっていた。

 ここでなぜ、もっと技術・工業で可能な自動車産業に向かわなかったのか。

 資源を輸入して加工、

 そして、輸出。単純に費用対効果で輸出して外貨を稼ぐなら自動車は良かった。

 しかも武器と違って恨まれることは、ほとんどない。

 「自動車をなぜ作らせん!」

 「人口の集中が利潤を生むのだ」

 「沿線から人口が離れると欠損が出る」

 「欠損が出るのは鉄道だけだろう」

 「国家全体とすれば、プラスだ!」

 「そうとは限らん」

 「なぜなら燃料消費増大が日本の国防を弱体化させる」

 「オランダからの石油供給は十分である」

 「そのような心配は無用だ」

 「自動車産業を拡大すれば」

 「それ相応の産業と内需拡大を生み。国力が増強される」

 「勘違いしておられるようだ」

 「アメリカの大恐慌を見たまえ」

 「過ぎたれば逆に国難になる」

 「腹八分目が良いというではないか」

 「そんな語呂合わせで国体を語るおつもりか!」

 「自動車産業は、日本にとって有益である」

 「だから、自動車の生産は、しておるだろう」

 「ふざけるな!!」

 「レンタル電気自動車ばかりではないか」

 「我田引水も甚だしい」

 「そっちこそ、メリケンの押し売りの片棒を担ぎやがって・・・」

 「何だと!!」

 ・・・・・・・・・議場が混乱しているため中継不可・・・・・・・

   

 電気自動車は、ガソリン自動車に比べ、

 航続力、積載量、充電などの問題で不利だった。

 運輸省は、ガソリン自動車を運用したがらず、

 単発機、双発機の旅客機を開発量産していく。

 ガソリン自動車を使うことで得られる内需拡大は大きく。

 その気になれば予算を投じ、

 自動車産業を育成することも難しくない。

 アメリカの圧力と自動車を使いたがる国民の支持を当て込み、

 自動車の売込みを図ろうとする野党勢力。

 鉄道整備計画が軌道に乗るまで

 自動車受け入れを拒否する某省の攻防は

 連邦議会だけでなく、州議会でも討議される。

 日本政府は

 “移民法で、人種差別するような国の自動車など受け入れられん”

 など建前的にゴネル。

 自動車以外の製品は、移民法も人種差別も関係なく貿易しているので、

 ご都合主義な政官財癒着構造だった。

 しかし、運輸省が拒むのは、

 合理的な計算に基づいてより路線の利権がらみといえた。

 逆にガソリン自動車を入れた方が鉄道の収益につながる意見もあり、

 混迷しながら時が過ぎていく。

  

  

 一方、アメリカも、黒人を揚子江に追い出し、

 白人至上主義が強くなっているところへ。

 移民法撤廃では国民が納得しにくかった。

 “この祝福された大地アメリカに黄色人のような”

 “下等な生き物を住まわせるのは神に対する冒涜である”

 口に出さなくても心の底で思っている白人は少なくない。

 “俺は、白人至上主義者ではない、違う”

 と思っていても。

 いざ、息子や娘が日本人や東洋人を連れてくると顔をしかめたりもする。

 それでも貴族意識がなく、

 表向き自由民主制度を標榜するアメリカ人は、白人の中でもマシな方と言える。

 これが、欧州貴族ときたら鼻持ちならないほど・・・・

 そして、日本人は、そういった白人至上主義に対し。

 憤るよりも、慣れて、呆れて、冷めてしまったのか、

 無視する方が多くなっていた。

 怒るより金。

 虚栄でなく、実力が付いた余裕だろうか、

 列強が思う以上に日本連邦は、冷静に利益を追求し、

 強靭になっていた。

 人種差別を除けば、日米唯一の争点が自動車だった。

  

  

 

 ドイツ帝国

 サンクトペテルブルク港

 世界大戦でドイツが占領し、

 今ではドイツの対ソ戦略で最大の拠点になっていた。

 酒場

 貴族社会に慣れない日本人とアメリカ人は、個人同士で付き合いやすい。

 「やっぱり酒は上手いな〜」

 「アメリカは、禁酒法がまだ続いているのか」

 「ああ、フーヴァーの野郎。意気地がねえな」

 「しかし、サンクトペテルブルクまで酒を飲みに来たんじゃないだろう」

 「飲みに来たんだよ」

 「貴族連中に雑貨を持ってきたのは、ついで」

 「連中、時々、難しい言葉を使うからな」

 「ああ、気取りやがって、なにが、伝統と格式と格調だ。ムカツクだろう」

 「はは、しかし、そっちも先祖は、欧州に住んでいたんだろう」

 「貴族様の領地で慣習にまみれてな」

 「自由な新天地の方が良いよ」

 「しかし、自由に穀物を作っても売れないだろう」

 「ああ、欧州の穀物が回復しているし」

 「ソビエトが安値で食料を叩き売って過剰供給で値崩れ」

 「酒を造れないと大変だろう」

 「そうだよ」

 「禁酒法を排して利益の大きい酒を作って売る」

 「これが一番だよ」

 「酒なら日持ちする上に高値」

 「食料と需給バランスも取りやすいからな」

 「自由を束縛するから大恐慌になるんだ」

 「やっぱり、WASPの意向が強いのか?」

 「東部エスタブリッシュメントとか?」

 「WASPや東部エスタブリッシュメントが全能と言わないが」

 「アメリカ開拓者の直系だからな」

 「主役は、アングロサクソンからドイツ系に移っているのか?」

 「ん・・・」

 「たしかにアングロサクソン(AS)は、怪しいな」

 「大恐慌で失業者800万も出したら、WASPの威光も弱くなっているかもな」

 「ドイツ系が勢力を伸ばしている?」

 「というよりドイツ系が多いだけ」

 「白人と清教徒というのは、いえるがね」

 「ドイツ語を話している村もあるし」

 「ほう・・・」

 「アメリカが欧州大戦に参戦してなかっただろう」

 「義勇兵や傭兵は、参加していたがドイツ語は、それなりに使われている」

 「それじゃ アメリカとドイツとの関係は、強いということか・・・」

 「どうかな、生まれ故郷が祖国か、生まれた民族が祖国か」

 「都合の良い方を選べるのは、良いかもしれないな」

 「言語闘争は?」

 「んんん・・・英語有利だろうな」

 「カナダの様に英語とフランス語という風には、割れそうにない」

 「ドイツ人は、頭が良いから」

 「フランス人と違って、英語くらい簡単に覚えてしまうのさ」

 「やはり、アメリカも独ソ国境に興味があるのか?」

 「そりゃ 戦争になってくれたら儲かるからな」

 「自分で起こそうとは思わないのか?」

 「まさか、危ない思いをしてまで稼ごうとは思わないよ」

 「日本人もそうだろう」

 「弾が当たったら痛そうだし」

 「出来れば自分たちは、血を流したくないね」

 「同感」

 「ところで日本は、フィンランドにやたらと肩入れしているじゃないか」

 「フィンランドは、関税や法整備で良い方に差別してくれるからね」

 「ありがたいことだよ」

 「そういや、ドナウ連邦も、日本に差別しているな」

 「最近、どこぞの国が起こした大恐慌で関税が上がっているから」

 「こういう国があると助かるよ」

 「へっ! 弱者同盟というんだ」

 「日本の同盟国はイギリスだよ」

 「それに欧州の新参者に友好的な国があるのは、ありがたいね」

 「独ソ戦が始まれば、ここが前線になる」

 「フィンランドに工場を作っている日本は、儲けやすいという発想か」

 「合弁だよ」

 「合弁か・・・」

 「フィンランドで、日本製の武器弾薬の効果を試すのかな」

 「まさか、寒い地域なら日本でも使っている」

 「日本人が血を流したくない」

 「それでも戦略・戦術で遅れたくなければ」

 「戦場がフィンランドでも良いだろうさ」

 「ははは、確かに」

 「ドイツ帝国は、南西アフリカに800万、東アフリカに800万」

 「揚子江・太平洋域に800万を移民させるつもりのようだな」

 「ドイツが人口を減らしているのなら戦う気があるのか、怪しいな」

 「いや、移民の8割が、ポーランド人だろう」

 「なにを考えているか、わかるよ」

 「面倒だから、厄介払い?」

 「ああ・・・」

 「しかし、聖書では、家造りの捨てた岩が、頭岩になるそうだ」

 「? どういう意味で?」

 「捨てられたものが主役になることが起こり得る」

 「アメリカ合衆国が、その代表だよ」

 「そうならない場合の方が多いがね」

 「なるほど、ということは、海外に国民を移している」

 「フランス、オランダも可能性は、高いのかな」

 「どうかな、フランスは大恐慌で落ち込んでいる」

 「オランダも、インドネシアは、良くても欧州が落ち込んでいる」

 「フランスは、植民地を租界・租借地として、売ったお金で少し立て直していないか」

 「買ったアメリカは、大損だったな」

 「しかし、社会整備が進めば、将来的に持ち直しそうだな」

 「銃声の聞こえない日はないとか、聞くぞ」

 「まあ、そういうこともあるさ」

 「フランスも、オランダも」

 「現地民と人口比が入れ替われば将来的に伸びるだろうな」

 「強国になると?」

 「50年から100年は、必要だがね」

 「欧州に閉じ込められていた白人が世界に出ようとしている」

 「悪くはないさ」

 「フランスも、オランダも、台風の目になるかもしれないな。他は?」

 「スペインは、帝政が強すぎて発展する要素が少なかった」

 「ブルボン王朝が倒れてから、どうなっていくか、見ものだな」

 「イギリスは?」

 「イギリスは、インドだけでなく」

 「中国まで手に入れようとして、欲張り過ぎだな」

 「カナダ、オーストラリア、ニュージーランド。それで、十分だろう」

 「それでいて、オランダの様に身の丈を変えることが出来ない」

 「息切れしたイギリスに残るモノは、好きな “名誉” だけだろうな」

 「日本は?」

 「ふ 上手いことやっている感じだな」

 「揚子江に手を出さなければ伸びるだろう」

 「アメリカ合衆国が大恐慌の間、どこまで伸びて行けるか・・・」

 「大恐慌が終わったら?」

 「さぁ〜」 にやり

    ※ WASP(ワスプ) 白人エリート支配階層

        White (ホワイト)

        Anglo・Saxon (アングロ・サクソン)

        Protestant (プロテスタント)

  

 日本連邦予算は、アメリカ大恐慌の煽りを差し引いても、

 揚子江景気、オランダ景気。

 さらに内需拡大景気で、50億の税収を出していた。

 それでも、納得できない省があり、

 国防予算は、4パーセントで、2億。

 物価高騰で、

 維持費+ちょっとだけ、という悲惨さだった。

 

 某大臣宅

 「・・・・約束が違うばい。5パーセントは、行けるはずやなかか」

 「・・・すまん」

 「す、すまんじゃ、すまんやなかか!」

 「すまんで、すむんなら、警察はいらん」

 「すまん。物価高騰で目減りしてもうた」

 「くそぉ〜 どいつもこいつも、腹ん立つ〜」

 「鉄道屋が悪いに決まっとうたい」

 「なにが上越線開通じゃ」

 「輸送機に魚雷吊るして雷撃機じゃ」

 「爆弾積んだら爆撃機じゃ」

 「ふざけるな」

 「陸軍との調整は?」

 「なにが調整じゃ 鉄道省とグルになりやがって」

 「戦闘機と爆撃機だけは、何とか規格を合わせて都合つけたわい。はらん立つ」

 「少ない予算で、陸海軍で共有できるといったら航空機やからの・・・・」

 「・・・・・・・・」

 長官は苦々しそうにブツブツ呟く。

  

  

 寒い国の城。

 日本女性がロシア風の町並みが造られていくのを見下ろしていた。

 大きな室内で双子の息子と娘が、なにがおかしいのか、

 きゃー、きゃー騒ぎながら、走り回っている。

 「・・・孫たちは、元気にしているな」 ニコライ二世(63歳)

 「ええ、本当に・・・・」

 「君には、済まない事をした」

 「結婚した時には、息子は、もう・・・・」

 「わかっています」

 「本当にありがとう」

 「孫は、必ず聖ロシア帝国の皇帝になる」

 「アレクセイ皇子は、良くしてくださいました」

 「良い人に巡り合わせていただいて・・・」

 「それで、十分です」

 「日本女性ほど、無私になれる民族をわたしは知らない」

 「本当にありがとう」

 ニコライ二世が世を去れば孫息子(ウラジミール)の年齢次第で

 彼女が皇帝になった。

 彼女は、エカチェリーナ1世、エリザヴェータ、エカチェリーナ2世の要素のない。

 ロシア女帝になるだろうか。

  

  

 揚子江で起こる排日不買運動。

 しかし、日本は、直接関わっていない。

 アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、

 北欧、ドナウ、オランダ、インド、イタリアの店があっても、

 日本の店は存在しない。

 外国店に日本商品が置かれているだけだった。

 当然、日本商品が売れなければ欠損を出す列強はたまらない。

 あれこれと手を回して追い散らす。

 大きい暴動を起こして → 統制が利かず → 死傷者をたくさん出す。

 が少し減って。

 小さい暴動を頻繁に起こして、ガス抜きをする。

 が少し増えていく。

 中国は、暴動を起こして民衆が憂さ晴らし、

 どこかの頭目の懐が良くなる。

 列強は、ある程度のお金を渡す。

 統制された暴動は、流れる血が少なく。

 統制が保てるという点で都合が良い。

 それでも統制が効かないこともあった。

 山東省の青島で中国人暴動が大きくなりすぎて収拾がつかず。

 砲撃と銃撃が行われる。

   

 ドイツ領 山東半島 膠州湾 青島

 日本領事館

 「今度は、何の暴動だったんだ?」

 「たしか、朝食の時間を5分延ばしてくれ」

 「はぁ〜」

 「華北側でやれば良いのに。向こうの工場は、もっと悪いだろう」

 「華北では、首謀者と一族郎党が残忍に殺される」

 「列強なら、少なくとも家族は殺されずに済むし」

 「懐が温まるかもしれない」

 「どっちを選ぶ?」

 「ったく。イギリスが金本位制を停止してから、ろくなことがないな」

 「華北・華南協定か」

 「揚子江を挟み撃ちにして共同歩調をとろうということかな」

 「名目上は、反毛沢東か」

 「ん・・・中華ソヴィエト共和国臨時政府の樹立宣言に対する」

 「不承認宣言らしいが、どうもな〜」

 「天津の暴動事件でも聖ロシアが銃撃したんだろう」

 「中国側も統制が利かないな」

 「5回に1回は、失敗だろう」

 「不完全燃焼より悪くないさ」

  

  

 ドイツ皇帝ウィルヘルム2世は、新型車両を謁見していた。

 ルノーFT17/FT18軽戦車の影響を受け、

 それらしい形になっていた。

 世界大戦時、突如、現れ

 ドイツ防衛線を崩壊寸前まで追いやった化け物。

 運用、そして、数が揃っていれば、

 西部戦線を押し返していた新兵器。

 時をへて、ドイツも試行錯誤しながら戦車を開発していた。

 ドイツがA7V突撃戦車から数え、

 6番目の試作戦車だった。

 A7V突撃戦車は、英仏連合軍の最後の大攻勢が限界に達した時。

 120両を突入させ、

 イギリス・フランス連合軍の戦意を挫く切っ掛けになった。

 しかし、同時に “使えね〜” という感想も強かった。

 200馬力に対し32トンは重すぎた。

 戦車開発も戦時省から

 国防省陸軍兵器局(Die Armeewaffe Entwicklungsstation)に改称しDAE。

 ドイツも戦争が終わると財政難で戦車も軟鋼で開発。

 100両程度が生産。

 戦車兵を慣れさせて、実験配備で終わる。

 そして、戦雲の兆候でもない限り装甲で生産されることもなく。

 安価な軟鋼で製造され、

 そのまま、消えていく。

 ここで、問題になったのは戦車の運用だった。

 集中して運用するか、

 分散して運用するか。

 戦車を中隊に配備するか、大隊に配備するか、

 旅団に配備するか、師団に配備するか。

 当然、師団で、集中して管理・配備する方が指揮、整備・補給で優れてくる。

 しかし、別の見かたもあった。

 分隊同士で戦わせて、勝った軍隊が強いという考え方であり。

 それが、日本のフェデロフM1916突撃銃。

 アメリカのガーランド自動小銃(1936年)、といった。

 歩兵の火力重視にも反映される。

 当然、集中配置か、分散配置かで、戦車の性質も変わってくる。

 歩兵と連携なら速度は遅くても良い。

 しかし、騎兵隊の扱いをすれば、話しは変わってくる。

 ここだという、一点を突入させて戦線を突破。

 後方撹乱させれば、ほとんどの戦線は崩壊する。

 ドイツは、騎士身分の称号を持った人間も多く、

 相反する塹壕戦の思い入れと綱引きになる。

 東部戦線を経験した者は戦車運用を騎兵的に考え。

 西部戦線を経験した者は戦車運用を歩兵支援的に考える。

 他にも戦車を動かしやすい大砲。

 火力支援の砲兵部隊と考える者も少なくない。

 そして、機能主義のドイツ人らしく。2種類の戦車を開発した。

   

 騎兵的な扱いをする

  20トン級機甲戦車(高速・軽防弾)

  (全長6.6m×全幅2.8m×全高2.3m)

  BMW300馬力、時速50km、航続距離150km、

  24口径75mm、7.92mm2丁、装甲13mm

  

 歩兵と連携しながら戦う

  27トン級重甲戦車(低速・重防弾)

  (全長6.6m×全幅2.8m×全高2.3m)

  BMW300馬力、時速20km、航続距離150km、

  24口径75mm、7.92mm2丁、装甲22mm

   

 見かけ上は、ほとんど同じで装甲の厚みだけが違う。

 これは敵を騙そうという発想で味方すら騙される。

 ところが、ここに日本の装甲歩兵車が登場する。

 名称は、カッコいいが

 密閉した車高の低い10人乗り小型バスに

 キャタピラがついた車両で、

 6.5mm機関砲2丁で辺りを掃射できる。

 装甲は、5mmで、ライフル銃弾であれば貫通できるものの、

 それは、角度次第であり、進入角度が悪ければ、弾かれてしまう。

 直撃でなければ、手榴弾にも堪えた。

 何より、戦場で負傷するといえば、破砕による破傷がほとんどであり、

 それなら、装甲5mmで生存性は飛躍的に高まった。

 ここで問題になるのは戦場で出会う口径の確率だった。

 戦車と装甲歩兵車の組み合わせなら・・・

 と想像力を働かせる気にもなる。

 エンジンをBMWに換装するなら、性能は飛躍的に向上する。

 中国民衆から歩兵の身を守る最低限の装甲輸送車が

 各国の戦車戦術に新風を巻き起こす。

 問題は、そう、唯一の問題は、お金がかかることだった。

   

 日本の様に要塞兵団が主役で、

 機甲兵団の総数が6万程度なら、どうにでもなる。

 しかも、常時配備8000人の半師団で、

 事が起こってから予備役8000を加えて師団にするという。

 なんとも貧乏くさい編成法は島国だからできた。

 陸地で国境を接する大陸陸軍だと、そうも行かない。

 しかも各国とも

 “大恐慌で軍事費にお金なんか出せるか!”

 という情勢で、

 軍事費は、維持費+ちょっと。

 というお寒い状況だった。

 どこか、狂犬のような国がいて、

 軍拡しているのならイザ知らず。

 この世界で軍拡気味なのは、

 イタリアとスペイン、ソビエトだけ、それもスロースタート。

 オランダが、一個海軍を丸ごと購入しているものの、

 経済波及効果が大きく。

 そして、欧州オランダは人質に近く、

 人口が少ないオランダが怖いわけもない。

  

 「・・・陛下、装甲兵員輸送車の開発・生産の暁には」

 「より機動的で革命的な運用が可能になると思います」

 「議会は? わしが動かせる予算など、5パーセントしかないぞ」

 「重要性を理解していただければ、十分です」

 「どうしたものかの・・・」

 「空軍もくれと言うし、植民地の連中も理にかなったことを言いよる」

 「むろん、聡明な陛下に置かれましては」

 「私どもの人知を超える判断をしていただけるものと信じております」

 「ふん。上手いこと言いおって、人知を越えても、予算は超えられんわい」

 「御意のままに」

 この時期、ドイツ皇帝の権限は、

 国家予算の5パーセントという形で定められていた。

 それ以外の特権もソコソコにあるが予算の分配が、ほとんどと言える。

 皇帝・王家の世界で最大権力を持っているドイツ皇帝でさえ、

 権限は著しく制約されている時代。

 民主主義は、近代科学技術文明、産業、資本の手綱を捌く点で有利であり。

 制度として増えていた。

 この新型戦車が、正式採用されるかどうか、まだ未定だった。

     

 南パリ

 セーヌ川南岸の日中料理店 ボタン・サクラ

 矢沢セイジ(45)。リ・メイリン(37)は、夫婦となり、子供2人を育てていた。

 山あり谷あり、いろんなことがあっても、

 2人は力を合わせ店を大きくしていた。

 中立であることが最大の存在価値だろうか、

 従業員も外国人が多い。

 なんと言葉が流暢でないということが最大の魅力だそうだ。

 ドイツ語も、フランス語も、

 聞く分は、わかっても話すのは、それなりの2人。

 人種差別は、相変わらず。

 さらに、いやらしい目付きで見る白人もいる。

 人間という生き物は、差別で優越感に浸り、

 情欲的で、なければ生きていけないのだろうか。

 夫の矢沢セイジは従業員からも慕われていた。

 見せ掛けだけ一生懸命な有色人種の従業員もいる。

 同じ立場で共感しているだけあって素振りだけで一発でわかる。

 漢民族と朝鮮民族は、揚子江、植民地、租借地で、

 日本人に批判的・侮蔑的な態度を取る、

 しかし、白人世界では事情が変わり、

 日本人と一緒にいなければ危険だった。

   

 フランス人は、変わったという。

 パリっ子は消えたとも、

 パリジャンヌはいなくなったとも。

 どう変わったかは、わからなかった。

 矢沢セイジ(45)とリ・メイリン(37)が、ここに来たのは世界大戦のあと、

 夢と希望のパリは、セーヌ川を挟んで、

 ドイツ帝国とフランス共和国の国境線で割かれていた。

 両国を結ぶのは許可を受けた艀(はしけ)だけ、

 橋のない珍しい国際河川は、意外と発展している。

 艀を所有するのは、外国人ばかり、

 互いに川を挟んだドイツ人とフランス人の疎遠で意識し合う関係が面白い。

 そして、表面的に戦争の兆候はなかった。

 印象としては精悍で厳ついドイツ人。

 むかしは気取ってカッコ付けだったらしいが、

 おっとりと物静かなフランス人。

 これは、比率の問題で、どっちが多く、どっちが少なく、という気もする。

 南側の町並みは、芸術性と快適さに長け、

 北側の町並みは、機能美と威厳を追求している。

 そこから推測するなら、

 フランス人の本性が気取ってカッコ付けは正しいと思えた。

 

 店のつくりは、店内が日本・中華料理。

 外は、カフェテラスという感じで、

 少しばかり違和感があるが客入りは良い。

 客の中に何人スパイがいるだろうか?

 諜報戦に明け暮れていながら、パリの治安は、意外に保たれている。

 どちらの警官も目つきが違い、治安で勝つという闘志も感じる。

 というわけで “世界一治安の良い都市パリ” とも言われたりする。

  

 フィリップ・ペタン元帥(75歳)と、

 シャルル・ド・ゴール少佐(41歳)は、

 角のテーブルで昼食を取っていた。

 「ド・ゴール少佐。来年は、中東赴任から戻れそうだよ」

 「中佐として、軍事最高会議事務長に就任だ」

 「お、お力添え、あ、ありがとうございます。ペタン将軍」

 「今度は、上官とぶつからないでくれたまえ、頼むよ」

 「は、はぁ〜 わ、わかっていますが・・・」

 「まぁ 40代というのは、そういう年代なのかもしれないな」

 「あきらめるには若すぎる。待つには年を取りすぎてる」

 「し、しかし ・・・・」

 「ふっ そういえば、君の書いた 『剣の刀』 と似たような本があったな」

 「ドイツのヒットラー党首。まだ野党だが 『わが闘争』 も民族主義を追求している」

 「そういう時代的背景、欲求なのかもしれないな」

 「フランスは・・・・フランスの生存圏を確立すべきです」

 「そういえば、ヒットラーも42歳だったかな・・・」

 「今は戦うよりも力をつけるときだ」

 「アフリカの現地民3000万をどうするか考える時じゃないかね」

 「3000万を切ったそうですよ。将軍」

 「ほう・・・そうだったかな」

 「アメリカのようにやっていけば、アフリカも白人の世界です」

 「だろうな・・・」

 どうして、人口が減っていくのかは、想像せず。

 ニヤリと微笑む2人は、紛れもなく、白人の総意を示しているかのようだった。

 「将軍、マジノ線は、どうされるので?」

 「先の大戦でフランスは、160万人もの大量の若者を失ってしまった」

 「ドイツは130万人を失ったそうだ」

 「その上に、スペイン風邪だ」

 「こっちは、差別抜きで公平だったようだが酷かった」

 「ドイツとは、基礎になる若者比率と数が違う」

 「ドイツ軍と平野部で、まともに戦えばランチェスターの法則が当てはまる」

 「勝ち目はないな」

 「要塞はセーヌ川から、高原地帯を抜け、スイス国境まで要塞線を建設する」

 「現在、フランスの兵員数からすれば、道理だ」

 「・・・そうですか」

 「ふっ 君は戦車が好きだからな」

 「ランチェスターの法則ぐらい知っていますよ」

 「将軍。ドイツ軍が3倍以上の戦力で来たら。いくらわたしでも勝てません」

 「2倍なら勝てますがね」

 「ふぁはははは・・・・」

 「・・・・・・・」

 「結構だ。それぐらいの気概があって然るべきだ」

 「フランス防衛の選択の枝は限られている」

 「要塞を分散するか、連結して並べるか。大詰めだが・・・」

 「本当なら、ナポレオンの様に砲兵や戦車を駆使して戦いたいものだ」

 「だいたい、ドイツ民族は、多過ぎるんですよ」

 「ふっ 寒いと家に引き篭もりたくなるし、人肌も恋しくなるものさ」

 「まじめな振りしやがって、あの・・・・ムッツリ助平どもが」

 「メリハリが良いのだろうな」

 「ああいう、人生を楽しめない白人が」

 「この地上に増えていくのは面白くありませんよ」

 「神様は、人間を祝福して・・・地を従えよ。といわれた」

 「できればフランスを祝福して、そう言ってもらいたいものだ」

 「4個機甲師団があったら」

 「ブルボン王朝を助ける名目でスペインに侵攻し」

 「フランス・スペインとアフリカを連ねる大帝国になったのですよ」

 「4個機甲師団どころか、機甲師団なんてないだろう」

 「せめて砲兵旅団が20・・・・」

 「ははは・・・・動かす金もない」

   

   

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 月夜裏 野々香です。

 日本陸海軍は、38式小銃(6.5mm×50)を

 そのまま流用できる突撃銃と機関砲が配備されてます。

 性能、威力は、ともかく、同じ弾薬が使える点が注目です。

 聖ロシア帝国、揚子江、メキシコ、フィンランドでも正式に採用され、

 良く売れています。

 因みに38式小銃は、芸術品から工芸品へ、

 そして、工業品となって、

 イギリスやドイツのレベルで互換性が良くなりました。

 なんと!

 製品番号が同じなら、運が悪くなければ合います。

 さらに突撃銃の配備が進むと38式小銃は、

 狙撃銃へと役割を変えていきます。

 命中率が良いので射撃の名人に狙われると怖いです。

 他に揚子江への輸出用(10発装填)が美観は、

 今ひとつですが大戦でウケたようで売れまくりです。

 重機関砲は、要塞兵団が多いので少し重たいです。

 機動兵団は、トラックや装甲兵員車が使え、機械化が進んでいるようです。

 

 そして、恐ろしいことに92式6.5mm重機関砲は、

 戦闘機にも使われているというデタラメぶりです。

 敵機は落とせませんが対人掃討用で揚子江で重宝されています。

 ・・・・・せめて6.5mm×70くらい・・・・・予算がなくて却下されました。

 

日清不戦の世界です

項目

38式小銃

フェデロフM1916突撃銃

6.5mm重機関砲

航空用

全長

1280mm (+銃剣) 990mm (+銃剣)

1280mm

1280mm

銃身長

797mm

480mm

797mm

797mm

重量

3.96kg

4.40kg

52kg

10s

使用弾薬

6.5mm×50

弾頭重量

9g

装弾数

5発:10発

25発(箱型弾倉)

ベルト給弾

ベルト給弾

初速

762m/s

654m/s

762m/s

762m/s

発射速度

人力

400発/分

550発/分

550発/分

射程

4000m

約3000m

約4000m

約4000m

 

 

 

 

 

 

 あと他の砲熕兵器、

 40mm、76.2mm、120mm、(283mm、305mm 廃止予定)、356mmなどありますが、

 海軍と同じ砲弾を使っています。

 陸軍の一部が

 “重たいからと銃身や砲身を切った”

 ・・・・噂です。

 中口径砲が少ないのは、予算不足が原因で正式採用になっていません。

 規格外の大砲も少しはあります。

 史実では、満州事変の年です、

 日清不戦では、同じ列車で殺人事件があったようです。

 露ソ諜報合戦でしょうか、事件は闇の中です。

 当然、日本も陸軍は、暴走できません。

 

 

 ユンカースG38

 問題ありの機体です。

 当時とすれば、それなりでしょうか。

 ハードルも高いようですが魔改造して、延命。

 費用対効果で怪しいのですが、国民に見せる機体という感じです。

  

  

 ※皇族で重要なのは、血を残すことでしょうか、

    ここは深く追求しなくても良いでしょう。皇帝も、天皇も、脇役ですし。

  

 この時代の自動車です。

デリバリートラック

USメールトラック

 

 

 

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第38話 1930年 『つかえねぇ〜』

第39話 1931年 『搾取と癒着』

第40話 1932年 『曇りのち曇り』

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