第40話 1932年 『曇りのち曇り』
大恐慌で大西洋側の経済が低迷していた。
日本は、早々に金本位制を捨て、
国内需要に切り替え
日本円の増刷に次ぐ増刷。
そして、国際的信用度のない紙切れ、
日本円紙幣が揚子江で流通する。
アジア・太平洋経済は、日本の積極的なバーター取引が経済を支えていた。
アメリカとイギリスが揚子江経済をポンド建てにするか、
ドル建てにするかで争っていたのが大恐慌で落ち込み。
相対的な力関係で揚子江経済圏で華北元、華南元より信用があり、
ドル・ポンド資本の代用で流通してしまう。
アメリカ
ルーズベルトが、ニューディール政策を提唱。
ドイツ帝国
ポーランド人の植民地への強制移民を行い、
治安回復と植民地の開発による経済再建を行う。
イギリス
ブロック経済の兆候を僅かに見せた。
同盟国の日本は準ブロック経済の内側に入っており、
関税も数パーセント増し程度、中途半端に落ち着く。
オランダ連邦
資源の大放出で日本を潤わせる代わりに社会整備を進めていく。
フランス
ひたすらアメリカの真似をしてアフリカ領にフランス人の世界を作ろうとする、
フーヴァー大統領は、人権問題を出し懸念を表明、
フランスの野望を牽制。
イタリア
ファシズム化がさらに進み、軍拡が進む。
ソビエト連邦
スターリンの権力支配が進み、
地上の神。シベリア開発を粛清も兼ねて強行したため。
ロシア人の一部が聖ロシア帝国へと逃げ込む。
聖ロシア帝国
トウモロコシ、大豆、アワ、小麦、米、
石炭、鉄鉱石、木材の生産が軌道に乗る、
日本との取引が増大。
軍事費に余剰資本を取られながらも工業化が進む。
八木アンテナの研究と実用化が進んだ結果。
電探が運輸省で正式に採用。
そして、建造中の扶桑型オランダ戦艦
フローニンゲン、フレヴォラント、ゼーラント、リンブルグに装備される。
34000トン、(240m×32m)、
ディーゼル機関・電気推進120000馬力、30ノット。
50口径356mm連装4基、50口径120mm連装砲16基。
ボーフォース40mm対空砲20基、水上偵察機5機。
一部、オランダ風(やりすぎると割高になるため少し)の仕様。
4隻とも最新の構造一体装甲と
注排水システムによって建造されつつあった。
完成すれば、日本が保有する扶桑型8隻より洗練された艦体となり、
装甲も強靭で航続力があった。
ほかにも球状艦首、電気溶接など、
それは、それは、見事なもので、
見学したカレル・ドールマン少将は、絶句。
その場で感涙したという。
そして、綾波型オランダ小型巡洋艦20隻も140mm連装砲3基を装備。
ディーゼル機関・電気推進、球状艦首、電気溶接で建造。
続々と就役しつつあった。
列強がオランダ連邦海軍の増強を見過ごしたのは、
オランダ連邦の基礎国力の低さと、
揚子江の鉄鉱石・石炭の消費が列強の収益に繋がり。
艦体そのものは、優れていても
356mm連装4基という慎ましさにあった。
そして、オランダ艦隊建造で実験的な技術が得られ、
収益の一部は、日本海軍にも反映されていく。
むかし、欧米列強が日本に艦船を売ったのと同じ発想だった。
赤レンガの住人たち
「電探の装備は?」
「全艦隊に配備できるそうだ」
「そうか・・・」
「しかし、オランダ海軍か・・・」
「太平洋の勢力図が変わってくるな」
「一応、南極開発は、全面的に日本に協力する約束だけは取り付けている」
「それは良いけど、さすがに酸素魚雷だけは、渡せなかったよな」
「ああ、訓練費用をケチって開発したものだからな」
「あれだけは、駄目だな」
「まだ、安定していないが、あれだけが希望だよ」
「しかし、訓練費用をケチり過ぎるのは問題だぞ」
「物価高騰のせいだよ」
「本当は、それなりにあったんだ」
「給与を上げないと将兵が生きていけないか」
「だけどな〜 航空戦力は、どうなんだ?」
「航空戦力なんて、怪し過ぎだよ」
「運輸省のやつら、連絡機や小荷物運送代わりに使いやがって」
「機銃下ろして荷物を運んでくれと言われたパイロットは、泣いたそうだ」
「10mmから15mmで適当な機関銃があればな」
「あっても載せられる機体はないし。維持費がかさむな・・・・・」
「ユモは?」
「民生用だが880馬力まで向上しただろう」
「機体を開発できれば載せられるんじゃないか・・・」
「フランスが開発したっていうドボワチーヌD500。あんな感じで」
「その機体がな・・・」
「運輸省の連中。戦闘機向きの規格ぐらいもっと増やせよ」
「なにが量産性、整備性、燃費だよ」
「ふざけやがって」
「まだ、足が出るのか?」
「んんん・・・物価高騰が痛かった〜」
「こっちは、スカンピンだぞ」
「運輸省のやつら使い込んでいるくせに」
「インフレに助けられやがって、腹立つな〜」
「そういえば、沿線高速双方向通信とかいうのは?」
「あれも運輸省の沿線集約経済構想の一つだよ」
「ほら、テレビが本格化しそうだろう」
「走査線100本で電波を使うから地方でも映るだろう」
「運輸省も、これは不味いって、有線で走査線525本で巻き返している」
「テレビ、電話も兼ねているから、企業間でのテレビ会議も、可能だとさ」
「逓信(ていしん)省とやっているだろう」
引きつる一同。
「そこまで、やるか運輸省・・・」
「路線沿いの企業間同士の取引が増えて、増収間違いなしだそうだ」
「その増収は、どこに入っていくんだよ」
「利権団体に決まってるじゃないか」
「・・・・・」
「アメリカ戦艦に運輸省を砲撃してもらいたいな」
「いいねえ、それ、間違えたとか、操作ミスとかで済ませよう」
「あはは・・・・」
ベルバーム(旧:鈴木商店)は、
アメリカのブローニング社の株の多くを取得する。
そして、開発中のブローニングM2重機関銃。
「重すぎ、命数が少ない、発射速度が少なすぎる」 と難癖をつけて廃棄。
工作機械と設計図とデーターごと日本へ叩き売ってしまう。
ブローニング社の社長室。
「社長、本気で、M2重機関銃が役に立たないとお考えで」
「あいつに狙われたら、装甲兵員車は、全滅するよ」
「7.62mmのM1919機関銃でさえそうだ」
「M1919機関銃でも十分かと・・・」
「12.7mmのM2重機関銃なら」
「それなりに離れても撃ち抜かれてしまう」
「そんなことになったら、揚子江での収益が落ちるだろう」
「なるほど」
「それにM1919機関銃の方が利益になる」
「揚子江以外の植民地へ供給すれば良いだろう」
「確かにそちらの方が売れる要素はありますね」
「本当は6.5mm機銃の方を売っても良いがね」
「それだと問題が大きすぎるから、住み分けすれば良いだろう」
「そのほうが両方とも儲かるだろう」
「確かに」
「しかし、M2重機関銃を日本に売って良かったんですか?」
「さあ、ベルバーム(旧:鈴木商店)が損をするわけじゃないし」
「あんな、暴れ馬のような機銃。使い道があるとすれば固定させて使うしかない」
「せいぜい航空機ぐらいだろうな」
「こ、航空機って、日本の戦闘機って200機くらいですよね」
「それもコウノトリ戦闘機とか言われて世界中で馬鹿にされてますよ」
「地上掃討用だからな」
「あれのおかげで良く売れるし」
「輸送機も、連絡機も良く売れている」
「ブローニング社を使って代理販売すれば世界中で売れるだろう」
「良いんですかね。初速は良いですが」
「重すぎで命数も、発射速度も、少な過ぎて・・・・」
「まあ、日本人好みに改良するだろう」
「工作機械も設計図もデーターも売ったんだ。後は勝手にやるさ」
「・・・・・」
「それより、ニューディール政策は土木建築だったよな」
「少し、そっちの事業も兼ねてみるか」
「ルーズベルトが勝つと?」
「アメリカ人は職を欲しているフーヴァー大統領は駄目だろう」
「必要なのは、工具類、建設、土木類だよな」
「ええ、そうでしょうね」
「よ〜し。それで行こう」
「事業を少しばかり民生にシフトだな」
「アメリカの国家予算は、大きいぞ〜」
「大丈夫ですかね」
「外にいる。失業者に聞いてみるか?」
ブローニング社の外、
日本資本ベルバーム社(鈴木商店)に買い取られたことを聞いたのか、
失業者たちが集まってきていた。
人間は、生活を保障してくれる者の味方をする。
それが日本資本であっても良かった。
数日後、
ブローニング社の門が開かれ、
新規採用の面接が始まる。
アメリカ海軍
ワシントン型戦艦(ワシントン、ノースロライナー、コネチカット、ルイジアナ)
40000トン、(270m×33m)、180000馬力、33ノット、
50口径381mm連装4基、50口径152mm連装砲6基。
イギリス海軍
ネルソン型戦艦(ネルソン、ロドネー)
40000トン、(260m×34m)、144000馬力、32ノット。
45口径381mm連装4基、50口径152mm連装砲6基、120mm単装高角砲6基
ドイツ海軍
シャルンホルスト型戦艦(シャルンホルスト、グナイゼナウ)
40000トン、(251m×36m)、138000馬力、30ノット。
47口径381mm連装4基、55口径150mm連装6基、
アメリカの戦艦建造に合わせて、
イギリス海軍、ドイツ海軍も、それぞれ2隻ずつを建造していた。
なんともやる気無しの建造だったが
大恐慌で代艦という形でしか、建造できなかった。
それでも不況に喘ぐ、国民から非難轟々の不評で、
オランダ戦艦が扶桑型の洗練しての再構築型の建造なら、
イギリス戦艦は扶桑型の拡大改良型ともいえるものだった。
白レンガの住人たち
「太平洋に回すのは、2隻だけだろう」
「らしいね」
「大西洋艦隊の連中がぼやいてたぞ」
「建造しない方がマシだったとな」
「ははは」
「そりゃ、大西洋にアメリカが2隻で、イギリス、ドイツで4隻だからな」
「そんな金があるなら」
「日本資本にブローニング社を買い取られないように株を買い支えろ。だろう」
「それに、どこも戦艦を建造しないだろう」
「適当な口実がないから、話しを合わせて建造だし」
「いや、ドイツも、イギリスも、ズルズルで建造したようなものだ」
「いやだね〜 不況は・・・」
「戦艦4隻建造したくらいで失業者から白い目で見られるし」
「日本は、何で好景気なんだ?」
「必要なものがあるからだろう」
「アメリカは全部あるから、何を作っても売れない」
「職以外に必要なものがない」
「矛盾してないか。それ」
「それより、アメリカの外貨で日本円が増えているから」
「揚子江経済が低迷すると円も目減りして大変なことになるぜ」
「うそ」
「しょうがないだろう」
「揚子江のアメリカ資本は、円で決算しているぜ。イギリス資本も」
「何で、そんな風になるんだ」
「少し前の中国人の日本製品不買運動で円が下落して」
「揚子江の列強資本が大騒ぎしたそうじゃないか」
「くそぉ〜 キツネ目の日本人め」
「それに財界が欲しいのは河川砲艦で戦艦じゃないそうだ」
「だからって、日本に発注するなよ」
「一番安上がりに建造するのが日本だろう。近いし」
「くぅ〜 どこかと戦争してぇ〜」
「ははは」
出雲(スバールバル諸島)
出雲市長宅
「いくら石炭があるからって、出雲に製鉄所を建設することはないだろう」
「火力発電所とか風力発電所とかで大丈夫なんだよ」
「扶桑州と違って鉄鉱石はないよ」
「本国からの指示で・・・」
「本国って、あのなぁ〜」
「鉄はどうするんだよ、鉄は?」
「どこにでも製鉄所を建設すれば良いというわけじゃないぞ」
「ノルウェー、スウェーデンから入るんじゃないか、ナルビク港があるだろう」
「そこだけか、完全に北欧依存だな」
「それより、缶詰工場だけじゃ物足りないのか」
「缶詰工場なら、需要があってもっと売れそうだぞ」
「イギリスが中東防衛で日本に支援を要請していたから」
「その関係じゃないのか」
「はぁ〜 イラン防衛だったっけ」
「それと、アフガニスタン」
「支援って、日本の兵隊は少ないだろう」
「日本なら極東からソビエトに圧力を掛けられるだろう」
「聖ロシア帝国とも友好関係だ」
「そ、そりゃあ、そうだが・・・」
「じゃ 出雲の製鉄所は?」
「イギリスのお墨付きだよ」
「なんで?」
「相互保障で同盟を強化しておきたいのさ」
「アメリカが新型戦艦を建造した件もあるし、日本とオランダの関係もある」
「それなら、出雲の比重を高めてしまえば、日英同盟は、強いままだろう」
「結局、イギリスもまだ、日本の扶桑型8隻を当てにしているのさ」
「んんん・・・そういうことなら構わんが・・・」
「出雲は、寒すぎるよ」
「人が住んで良い場所とは思えないな」
「それは言えなくもないが」
「だから製鉄所を作って、暖まりたいのもある」
「凍土が熱で溶けても知らんぞ」
「扶桑開発と南極開発で十分に習得したらしいよ」
「ところで、いい加減、出雲に艦隊を配備しろよ」
「あんなお飾りじゃなくてな」
“クシナダ”(英、旧型駆逐艦)がフィヨルドに浮び。
そばで、最新鋭の20000トン級輸送船が積荷を下ろしていた。
「・・・・金がなくてな」
「嘘付け、別のところに使っているからだろう」
「ははは・・・・」
「運輸省は、日本の竜骨だ。どうにもならんよ」
ドナウ連邦
ドナウ連邦オットー皇帝(20歳)
セルビアの半分とモンテネグロを抱え込んで、
帝政が維持できず連邦制となっていた。
ドイツ人も、ハンガリー人も、権力を縮小。
セルビア人の大半を強制的に揚子江に追放した。
おかげで民族紛争は、少しばかり低迷する。
戦争になれば帝国は空中分解する危険性もはらんでいた。
そうなれば、皇帝も象徴的な存在となってしまう。
今のところ、華やかな宮廷生活だけは存続させられていた。
ドイツ貴族、イタリア貴族、
ブルガリア貴族、ルーマニア貴族が華麗に舞っている。
少し、違和感があるのは、日本人と、トルコ人だろうか。
貴族世界は、国家に寄与しているのだろうか?
といえば、ほとんどなかった。
彼らの存在価値は、社交界のついでに外交を済ませてしまうことだろうか。
しかし、そんなものは、政府機関同士の役目だ。
民主化が進んで、寄生虫の様にしか見られなくなっても、
それなりに敬意を表されて、革命はないと思えた。
「クーデンホーフ伯爵夫人」
「これは、トルコの・・・・ファーティフ大使」
「一曲、どうでしょうか?」
「おや、こんな、おばさん(58歳)とですか?」
「いえいえ、まだお美しい」
「お上手ね。何か、企みでもあるのかしら」
「ええ、社交辞令も兼ねて・・・・」
曲が始まる・・・・
ドナウ連邦クーデンホーフ伯爵家が、
日本に与える影響力は、日本の大使館と並ぶ。
日本の商社の多くも、クーデンホーフ伯爵を経由する場合が多く。
大恐慌にあってもクーデンホーフ家は安定した収入があり、
ドナウ連邦内でも有力な貴族になっていた。
一方、トルコ帝国は、世界大戦後。
南部域の離脱で、アラブ的な因習、足枷がなくなり、
コーランをトルコ語にするなど、
日本をモデルとした西洋化を目指していた。
そして、唯一、白人世界と同等の近代化で並ぶ
有色人の日本人に親近感を持った。
オランダ連邦海軍の増強は、トルコに刺激を与える。
コーランは、コーラン。
しかし、近代化は、近代化だった。
例えトルコの資源、半分を投げ出しても
近代化しなければならない。
ドイツ帝国と取引している。
アメリカとも、それなりに取引がある。
イギリス、フランスとは疎遠。
白人は、利用するだけで助けないだろう。
しかし、ここで、日本と取引が大きくなれば近代化に弾みがつくと思えた。
日本人は、純粋に取引をしてくれる期待があった。
「・・・ところで、伯爵夫人」
「日本人の中国に対する扱いは温情を感じないような気がするのですが」
「どう思われます?」
「中国は、日本より大国です」
「小国の日本が大国の中国を助けるのは変ではありませんか?」
「なるほど」
「どうでしょう。クーデンホーフ伯爵夫人」
「トルコとも取引していただけませんかな」
「そうですね。ブルガリアとも取引をしていたはずですから・・・」
「あそこも鉄鉱石と石炭が取れますのよ」
「我が国の方が多いと思いますよ。伯爵」
「それに他にも、たくさん・・・」
「そうでしたわね。なにが、お望みでしょう」
「近代化ですよ。伯爵夫人」
「そんな気がしてましたわ」
「そうでしょう。わたしも気付いていると思っていましたよ。伯爵夫人」
トルコだけではなかった。
欧州諸国で遅れた国、
ドナウ連邦、ルーマニア王国、
ブルガリア王国、ギリシャ王国などなど、
欧州列強との歪んだ取引より、
日本との実直な取引を望み始める。
日本にすれば、遠くても、
採算さえ合えば国際情勢に煩わされずに済んだ。
関係国にとって困ったことになっても、
軍事的で、ないものなら反発も少なかった。
そして、日本にとって、少しばかり、
困ったことがおきようとしていた。
揚子江に米英仏露の揚子江自由経済機構が
共同出資で発電所と製鉄所を建設。
鉄鉱石、石炭の山に製鉄所とくれば、
あとは、加工工場を建設し、大規模生産が可能になった。
列強の中国支配は、さらに強固になり、
日本経済にとって脅威であり、
良し悪しあって判別がつきにくい。
列強が揚子江経済圏で共同出資で公共投資は、
中国を南北に分断する意志表示だった。
中国民衆が、どう足掻こうと、
華北連邦と華南合衆国の統合はなくなる。
そうなれば、東アジアは、
日本連邦、聖ロシア帝国、華北連邦、華南合衆国の4カ国。
そして、揚子江自由経済圏を合わせて、
5勢力で干渉し合うことになった。
大陸諸国は、常に国境で緊張を強いられる。
これなら、島国の日本は、大国中国に脅かされずに済み。
対米、対ソ戦略を構築できればよかった。
島国の日本連邦は、資源で自立することさえ出来れば、優位に思えた。
首相官邸
「青島と揚子江に製鉄所か」
「いよいよ、来るときが来た。ということか」
「青島がドイツ製、揚子江はアメリカ製ですね」
「製鉄競争か、日本は勝てると思うか?」
「向こうは、近場に鉄鉱石の資源があって」
「最新鋭の製鉄所ですよ。負けますね」
「もっとも、当面は、銑鉄とコークスを日本に売るだけのようですから」
「日本の製鉄所で製鋼すれば利益も大きいかと」
「国内市場も弾みがつきますね」
「安い鉄が入るのならインフレの抑制になるのでは?」
「揚子江で加工工場が建設され、中国人が仕事を覚えるまでか・・・」
「中小企業が心配だな」
「それまでには、シベリア開発を軌道に乗せたいものです」
「しばらくは、大丈夫だろう」
「しばらくは、ですね・・・・・」
ルーズベルトが民主党大統領候補で選出され、
ニューディール政策が高まる。
ベルバーム社の子会社ブローニング社の工場が
建設関連部品の生産で回りだす。
アメリカの裏通り。
ある寂れた店スピークイージー
アウトローの溜まり場。
「・・・ルーズベルトは、禁酒法を改正するだろうな」
「嬉しいような、悲しいような」
「俺たちは、それなりに儲けたが、次はどうする?」
「今度は、禁煙法をやらないかな」
「税収を捨てるわけないだろう」
「そうだよな」
「しかし、まじめに働くのも刺激が無いしな〜」
「揚子江にでも行ってみるか」
「揚子江?」
「揚子江では、黒人連中が貴族生活で、白人だと王族生活らしい」
「本当かよ〜」
「こっちじゃ、白人が浮浪者やっているのにか」
「揚子江で禁酒法で稼いだお金で、面白おかしく暮らせるぜ」
「良いねぇ〜 それ」
「失業者も結構、揚子江に流れて行ってるらしい」
「仕事も即、見つかって、中国人女も、うじゃうじゃいるそうだ」
「何で?」
「暴動で殺すといえば男だろう」
「女が余るに決まってる」
「そ、そっかぁ〜 行こう」
「よ〜し、決まりだ」
「ムーンシャイン(酒)を500箱捌いてから、揚子江へ行くぞ〜」
「おお〜!」
揚子江自由経済圏は、不況から逃れるように白人たちが集まりだした。
そして、揚子江自由経済圏は、
中国資源と中国人4億人を踏み躙りながら搾取し、
世界で、もっとも、活気ある地域になっていく
この時代の飛行機です
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です
鈴木商店は、会社名を英語の鈴(bell) + ドイツ語の木(Baum)を足して。
ベルバーム社に変更。
欧米風の名称に変えて、アメリカ大陸に乗り込みました。
アメリカ側にすれば、“人の弱みに付け込みやがって!”
ですが、資本主義世界では、良くあることです。
第40話 1932年 『曇りのち曇り』 |
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