第43話 1935年 『だからって・・・・・』
アメリカで48億8000万ドルの救済事業法が成立。
$1 = ¥3.4で165億9200万円という予算が
ニューディール政策に注ぎ込まれた。
この時期、日本の国家予算の総額が55億弱。
大恐慌にあってもアメリカ合衆国は、やはり大国だった。
喜んだのはアメリカの国家予算を狙っている
ベルバーム(旧鈴木商店)社で、テネシー川流域開発公社(TVA)に
土木建設用資材を売り込み、成功。
販路を広げ、瞬く間に業績を上げていく。
ブローニング社は、土木建設工具生産へ7割シフト操業で、
いつの間にか、銃器メーカーではなく。
土木建設工具メーカーとして有名になっていた。
そして、この土木建設機械は、日本へも売られていく。
社長室
「また儲けられそうだな」
「ええ、社長。ルーズベルト大統領への全面支持表明。良かったんですか?」
「その方が儲かるだろう。効果のほどは、どうかとも思うがね」
「ニューディール政策に効果は無いと?」
「無理やり事業を興して雇用しても」
「所得に対する税収は、たかが知れていると思わないか?」
「100万円の事業を興して、お金を労働者に渡し」
「そこから税収が20万円返ってくる」
「事業は成果があるかどうかわからない・・・」
「日本の運輸省もやっている」
「しかし、人口を沿線に誘導し」
「さらに車を規制することで収益を捻り出している」
「官僚主義の日本ならともかく」
「民主主義のアメリカでは、それが出来ない」
「事業が軌道に乗らない限りは、駄目ということでしょうか?」
「そうだろうな」
「雇用者に賃金を払うための事業なんて」
「まともな経営者なら怖くて、やらないだろうな」
「運輸省でさえ利権で動いている」
「労働者へ給料を払うために動いていない」
「政治家は、面白いことをするものだ」
「そういえば営利企業から見ると本末転倒ですね」
「まあ、構わないさ、ベルバームと、その関係者が儲かれば良い」
「企業は、そういうものだ」
「アメリカの国家予算で、せいぜい、儲けさせてもらおう」
「日本へ送金しているベルバームに反発している勢力もいるようですが」
「アメリカ資本も日本や揚子江で儲けたら」
「アメリカに一部を送金しているじゃないか」
「当たり前のことを当たり前にして非難されるのは、おかしなことだ」
「たしかに・・・」
「ですが、門前の失業者にすれば面白くないでしょうね」
「またクジを引かせて何人か雇うか」
「また、ろくでもない人間に当たったら嫌な思いをしますよ」
「それが楽しみで来ている人間もいる」
「人種も老人、女、子供、学歴も関係ないのだから」
「それにウケも良い」
「それにこいつは駄目だと思っても使えたりもする」
「確率は低いですがね」
「まあ、世間受けがいいから仕方がなかろう」
48億8000万ドルの救済事業法が余程嬉しいのか、
ベルバーム社長のニヤニヤが止まらない。
途中ですが、良い感じです。ボチボチです。
ホワイトハウス
車椅子の男とテネシー州出身の男が
壁に掛けてある世界地図を見ていた。
「ベルバーム社は、寄生虫の様に我が国の予算を吸い上げている」
車椅子の男が呟く。
「揚子江から上がる収益がなければ黙っていられませんね」
「忌々しい連中だ」
「イギリス系資本やドイツ系資本なら気になりません」
「やはり、日本資本だと違和感がありますね」
「黄色人だからな」
「・・・・・・・」
「わかっている」
「いくらわたしでも」
「国民を養ってもらっているベルバーム社にケチをつけたりはしない」
「・・・・・・・」
「だが揚子江を踏み台にしても」
「ニューディール政策をもってしても」
「我が国の産業は眠ったままか・・・・」
「我が国の産業を無理やり奮い立たせ」
「インフレを喚起させられるだけの需要は、あることは、ありますが・・・・・」
「大義名分も無いのに戦争しても国民が嫌がるだろう」
「民主主義は、そういう政体だよ」
「産業効率は欲望に比例して無節操だがね」
「反面、民意が反映されるから外交は著しく制約される」
「国際連盟に加盟し損ねましたしね」
「軍艦輸出規制をダシに国際連盟加盟のはずだが」
「どうも、イギリスとドイツがアメリカの世論を動かして妨害している節がある」
「アメリカが国際連盟に加盟すれば、実質的に NO.1 ですからね」
「ふっ しかし、ドイツもメキシコに戦艦を売るというのは、かなり挑発的だな」
「我が国も無節操に地中海や聖ロシア帝国に売りましたからね」
「メキシコ人に、まともな艦隊運用なんて出来ないだろうな」
「それに低速のド級戦艦だけで動いてもカモです」
「高速で近付く駆逐艦に大砲を命中させられるかどうか・・・」
「メキシコか、石油の国有化では思うところありだからな」
「メキシコの戦艦が撃ってくれたら、それは、それで、好都合だ」
「やはりメキシコを?」
「日本でも良いがね」
「44年のフィリピン独立以前に」
「日本を戦争に引き摺り込めるような情勢に持ち込むのは困難だ」
「それに揚子江経済圏を確保するために」
「日本の協力は、どうしても必要なのでは・・・・」
「メキシコが戦艦3隻で、その気になってくれれば良いのですが・・・・」
「・・・・・・」
「余程、お気に入りで・・・」
車椅子の大統領はフィルムに挟んだ。
切手を大事そうに持っていた。
「黄色人のベルバーム社長は気に入らないが」
「この切手は気に入ったよ」
「母国が占領される前に慌てて送ったのでしょう・・・・」
「ベルギーという国が」
「この消印の日まで存在していたことを必死に伝えようとしている」
ベルギーの記念切手だった。
「メキシコに決めたのは、切手が原因じゃないでしょうね」
「ふっ まさか」
「日本の艦隊運用能力。実のところは、どうなのかね?」
「高いと。見るべきです」
「扶桑型、綾波型を就役させて」
「国民の自由献金で補填されてから訓練も武器弾薬も十分なようです」
「国民の自由献金か、国軍とはいえないな」
「いまのところ、国防費の半分は国民からの献金のようです」
「国家国民軍という感覚でしょうか」
「・・・強いかどうかだな」
「性能並みの戦力は発揮できそうです」
「実戦経験者は少ないようですが」
「アメリカとて義勇軍や傭兵を除けば、多いわけではない」
「イギリス、ドイツ、フランスの移民者が第一次世界大戦を経験しているが・・・」
「少なくとも日本より多そうだな」
「戦力に対してプラスアルファが、あるか、わかりませんが」
「日本軍の強さをイメージできないのは不安ですね」
「どんなに強くても、5倍の戦力をぶつければ、勝てるよ」
「確かに・・・」
トルコ。
ボスポラス海峡は、南北約30km。
最も狭い幅は700mしかない。
海峡の東側は、アジア大陸が広がり、
海峡近郊からオスマン帝国の覇権が始まり、
トルコ民族発祥の地ともいわれている。
狭い海峡を挟んだ西側は欧州大陸であり、
トルコ人の感情と意識に微妙な影響を与える。
欧州側にドルマバフチェ宮殿が建っていた。
その狭い海峡に3隻の戦艦が浮いていた。
23000トン級巡洋戦艦ヤウズ・セリム (モルトケ2番艦ゲーベン)
1912年製 全長186.5m×全幅29.5m
80000馬力 28ノット
(283mm連装×5) (150mm×12) (88mm×12)
21000トン級フロリダ型戦艦イズミル (フロリダ)
1911年製 28000馬力 20.7ノット
全長159.1m×全幅26.9m
(305mm連装×5) (127mm×16)
21000トン級フロリダ型戦艦アルトウィン (ユタ)
1911年製 28000馬力 20.7ノット
全長159.1m×全幅26.9m
(305mm連装×5) (127mm×16)
これらの戦艦は、日米欧諸国からすると第一次世界大戦級のド級戦艦だった。
それでもトルコ国民は、その威容に感動する。
第一次世界大戦中、ケマル・アタテュルク大統領は、アラブ圏の反乱と英仏軍との戦いで南方戦線を安定させ。
対ロシア戦でドイツ軍と共同で北進し、カフカス山脈を回復させた救国の英雄だった。
同時に大統領であり
“トルコは、遅れたアラブ・イスラム圏にいてはならない”
という、トルコ国民の総意も理解し、日本を参考に近代化を目指していた。
しかし、国情の違いも目立つ、
スルタン(皇帝・法王)制度廃止とメフメト6世の追放。
憲法からイスラムを国教と定める条文の削除。
アラビア文字を廃止してラテン文字に改める文字改革。
女性のヴェール着用禁止
新民法採用による西欧化
イスラム色の払拭。
これまでのオスマントルコ帝国の文化だけでなく。
先祖が綴ってきた歴史とトルコ・イスラムの文化を否定していた。
通常、宗教は普遍的なものであり、イスラム教は特に頑迷さを誇る。
“むかしは正しく、いまは間違っている”
そのような都合の良い、解釈が出来る聖句は限られ、
新しい解釈を否定する聖句が多い。
トルコ近代化は政教分離によってなされるしかなく、
ジハードの対象にも成りかねない苦渋の項目ばかりが並んでいた。
世俗と妥協もしなければならず政策も限られていた。
統治者が何もせず習慣のまま過ごすなら
変革のない時を官僚に流され生きていける。
変革のない時を至上と思うトルコ人の反発も少なくなく、命を脅かされることもあった。
それでもトルコ近代化の選択が正しいと確信し、変革を断行していく。
内憂外患は常にあり、
不確実で思わぬ災厄も、理不尽な事件も起こりえた。
人事を尽くしても結果として破局や災厄があるなら正しくても不安は残る。
トルコ国民も、わからず。
ケマル自身も、わからなかった。
しかし、わかった振りをして行動する。
既に分水嶺を越えた改革が行われ、失敗は死あるのみ。
議会から贈られたアタテュルク (父なるトルコ人) の名称も、
いつまで呼ばれるか・・・
戦場を駆け抜けた身は死を恐れるものではない。
しかし、トルコの興亡は、これからだった。
日本のように近代化が出来なければ
アラブ・イスラムと同様に遅れた地域になっていく。
世俗主義、民族主義、
共和主義、政教分離の贖罪が近代化の成功だった。
誰に対する贖罪?
アラー?
いや、近代化のため舵を切り、取捨選択し、
トルコ国民の信仰を捻じ曲げた贖罪だろうか。
イスラム色を減らし、政教分離の改革を断行していく。
トルコ国民はトルコの近代化を望み、
戸惑いながらケマル大統領に従っている。
執務室に大統領と腹心と秘書がいた。
「・・・大統領。ファーティフ大使からです」
「新クーデンホーフ伯爵は日本とのパイプ役として不足であると」
秘書が書類を大統領に手渡す。
「日本民族としての自意識に欠けるか・・・」
「ドイツとドナウなら、クーデンホーフ家に頼ることも無い」
「日本への留学制度枠。どうされますか?」 と腹心。
「出雲は、どういうところだろうな」
「現在知られている情報では2万人が生活しているとか」
「戦艦ユタとフロリダが訓練中です」
「訪問に行かせてはどうでしょう」
「ヤウズ・セリムを出そう」
「出雲にとってトルコが必要な国と思われるなら」
「日本との関係も強化できる」
「はい」
「訓練中に氷山にぶつけられては困るよ」
「了解です。エルトゥール号の二の舞だけは避けたいですから」
「しかし、フロリダとユタは使いにくそうな戦艦だな」
批判的に言う時はアメリカの艦名を使う。
「ドナウ海軍とトルコ海軍で、イタリア海軍を相殺したかったのでは?」
「ソビエトもだ。戦艦購入は、重複的な理由がいくつもある・・・・」
「それでも地中海で有力。黒海で決定的な戦力となり得ています」
「出来るなら、我が国で戦艦を建造したいものだ」
「いまだ近代化ならず。ですね」
「レパント海戦まで世界の主導権は、我々、オスマン帝国にあった」
「遅れた文化はむしろ、ヨーロッパの方だった」
「イスラム教のせいだと思いたくは、ありませんが」
「同感だよ・・・」
「そう思いたいことなど、あろうものか・・・」
苦渋に似た表情で海峡の戦艦をみる。
「いまの日本の科学技術、工業力は列強とほとんど変わらないそうだ」
「ええ」
「しかし、50年前、日本は軍艦を建造できず」
「イギリスとロシアの軍艦を指を銜えて見ているしかなかったそうだ」
「・・・・」
「トルコでは旧式化した戦艦すら建造できない」
「残念です」
「そして、戦艦の購入資金として」
「戦艦が20隻も建造できるほどの資源が国外へと流出していく」
「・・・・・」
「国民は、戦艦を喜んで見ているかもしれないが・・・」
「わたしは・・・泣きたくなるほどだ」
「・・・・・」
「50年間・・・」
「我々は、トルコ国民は、何をしていたのだろうな・・・」
「・・・・・」
「1884年から10年以上を費やした」
「この宮殿だけだとは思いたくないものだ」
「バクー油田があれば・・・」
「資源に頼っていても、いずれは枯渇する」
「国民には、科学技術」
「近代化に必要な基礎知識が必要だ」
「そうでなければ、いつまでたってもアラブ人とペルシャ人と同じ仲間にされてしまう」
「例えどう思われてもトルコを近代化させたい」
「心中さっします」
「ふっ 多くの者は、わたしに雷でも落ちてくるだろうと見ているだけなのだ」
「遠巻きに逸脱者を見るように眺め」
「そのくせ近代化を望んでいる」
「少し、ラク酒を控えられては?」
「国民の多くは、わたしのせいにすれば良い・・・」
「わたしが余計に仕事をすれば、後の君が楽になるな・・・」
「しかし、メッカに向かって、アラーにいい訳を考えているうちに・・・飲みたくもなる・・・・」
「・・・・・・・・」
「宗教は、その中にいるとき楽園でも」
「外に出なければならない時は牢獄になってしまうな・・・」
「大統領。そろそろ」
「ドイツ大使とカフカス防衛に関して懇談になります」
「ああ・・・」
トルコの国際的地位は、
世界最大級の産出を誇るバクー油田によって引き上げられていた。
石油パイプラインがボスポラス海峡の海底を通り、
ブルガリア王国、ドナウ連邦、
ドイツ帝国へと伸びようとしている。
建設資金は、ドイツ帝国が負担し、
建設していたのは、
海底トンネルで世界屈指の実績を持つ日本だった。
本来ならドイツ企業だったが価格(資源)で折り合いの付いた日本企業が受注する。
そして、パイプラインだけでなく、
地下鉄も兼ね、トルコ国防でも重要な意味があった。
揚子江
山間を走る列車で唐突に銃撃戦が始まる。
一般乗客の悲鳴とパニックが広がる。
もっとも、一般乗客か、敵か、見分け難しい。
列車は走っているが、どうなるか、わからない。
なぜこうなってしまったのか?
普段どおり、金塊を載せた車両の警備に付き、
いつものごとく。それらしくしていた。
そして、いつもの様に一日が過ぎていくはずだった。
昼食後、
護衛していたインド兵、黒人兵、フィリピン兵、中国傭兵の半分。
30人くらいが突然、苦しみだした。
しばらくすると、どこともなく、銃声が聞こえ、喧騒と銃撃戦が始まる。
30分後、いくつかの車両が敵に奪われたことがわかり。
さらに30分後。
共産軍が軍用資金を狙って、20人近いスパイを送り込んだ。
中国マフィアは数が不明だが飲料水の中に毒物を仕込んだことがわかる。
おかげで、一番多いはずの中国傭兵部隊の半分が戦闘不能。
そして、共産軍の一部にも被害者がいるらしい。
列車内は、傭兵、中国マフィア、共産軍の三つ巴で混乱している。
共産軍と中国マフィアは計画通りならスマートに成功するはずだった、
それが三者三様で干渉しあったらしい。
さらに、どちらもミスを犯したらしく、撃ち合いになっている。
中国人同士が列強の金塊を巡って殺し合う。
悲しくとも、これが華南合衆国の実情だった。
たぶん、華北連邦でも同じだろう。
列車の中だと、フェデロフ自動小銃は長くて使い難い。
トミーガンか、M18だがどちらも手持ちに無い。
持っているのはタイプ14自動拳銃。
性能が良いからでなく、奪った銃がタイプ14だった。
中国マフィアは、コルト・ガバメントが多く。
共産軍は、トカレフを使っているらしい。
“武器で負けても腕で勝つ”
と意気込んでも運次第でどうにでも転ぶのが銃撃戦。
そして、車両一つを挟み、
対峙している相手は、中国マフィアに思えた・・・
なんと・・・・日本のタイプ94・・・
まだ数が少ないのに、噂になっているやつだ。
試供品だろう。
日本人の陰湿な性格だろうか、
致死率が低いのにやたらと致傷率が高い
装弾10発、全て撃ち込んでも相手が死なないと言われ、
そのくせ、良く飛ぶ。癪なことに子供が撃っても当たるという。
ニードル弾と呼ぶ人間もいる。
「ロン・ムーロン・・・」
「6.5mm弾なら痛くても我慢して・・・突っ込んで・・・」
「撃ち殺すに限るぜ」
とインド人の同僚が隣でいう。
毒に当たって虫の息のはずだが言うセリフも毒がある。
わかっているが、それは、相手の腕次第、
“頭や心臓に当たる、そしたら死ぬだろう”
後回しにしたい戦法だ。
相手は、小柄だが外套を被っている。
腕は、すこぶる良い。
というより、タイプ94なら、素人が撃っても当たる。
プロなら・・・・・
“まさか、致死性の毒物を弾丸に塗っていないだろうな” とも思う。
人が人を殺す場合、
民族性の違いで中国人は毒物。欧米人は銃。日本人は刃物をイメージする。
我が中国人も陰湿だと思う。
しかし、こういう狭い場所で銃撃戦になるとコルト・ガバメントが良い。
11.43mm弾が当たればハンマーで殴られたような衝撃で、
手足以外の身体なら一発で戦闘不能になり反撃もなく致死率も高い。
タイプ94は、この狭い場所だと不利。
心臓や頭に当たれば別だが一発当たっても相手は戦闘不能にならない。
こういう状況で “どの銃が良いな” と思うのは、女々しいか移り気な性格なのか。
突如、列車が急停車する
チャンスだ!!
勢い良く、飛び出した、
状況は、わからない
車両の向こうにいるやつに銃を向ける。
が、向こうが一瞬早く撃ち。
がっ!
次の瞬間、タイプ14が弾かれる。
仕方なく、そのまま、相手に体当たりを食らわし、
相手を壁とサンドイッチに・・・・・
30分後
輸送列車は停止し、
共産軍と中国マフィアは消え去っていた。
残っているのは10人弱の護衛部隊。
20人が毒で苦しみ。
15人が重軽傷。
15人が死んでいた。
一般人の死傷者も20人ほどいるようだ。
そして、近くのインド駐屯兵が集まってくる。
翌日。
揚子江自由経済機構(列強搾取クラブ)から割り増し警護料金を貰い、
西域行きの列車に乗っていた。
目の前は17歳くらいの娘が一人。
チベット系でミンマというらしい。
父の死後。
分家に本家を乗っ取られ、さらに口減らしで売られ。
その後、銃を盗んで逃げ出し、転々としながら生きてきたらしい。
この種の財産に目が眩んだ遺産親族争いは
古今東西、人種、民族、宗教、文化に関係なく起こる。
ミンマは銃を手に入れると故郷に戻るため無賃乗車すると、列車強盗に出くわし、
孤軍奮闘していたらしい、
“金塊護送車両が混じっていると知らなかった”
護衛の兵士が間抜けで小娘に潜り込まれたのか・・・・
実は、裏があり、
中国マフィアか、共産軍のアルバイトで引き受けたか・・・・
それなら無賃乗車じゃなく、金を払って乗客として入るはず・・・
どちらでも良いような気がしていた。
聞けば、それなりにお金持ち。だそうだ。
敵は、父親の弟夫婦と妹夫婦でグルになっている。
仕事が終われば、財産の半分をくれるそうだ。
今頃、しめしめと思いながら暮らしている叔父夫婦、叔母夫婦。
拳法はソコソコできるらしく、
武器は持ってないらしい。
大の男が銃を持って、
後ろに控えていたら向こうも理解するだろう。
大人しく家と土地を明け渡すか。
有り金全部と交換で、家と土地を買わせるか。
連中が財産に目が眩んで抵抗すれば、死神になり。
状況を理解して出ていくか、金を渡すなら、貧乏神になるだろう。
財欲に目が眩んで遺児から財産を簒奪したとしても両家族で10人が殺されるのは不憫でもある。
いくら殺す口実があっても寝覚めが悪い。
できれば話し合いで、解決したいものだ。
彼女は、94式自動拳銃を持ち。
俺は、死んだインド人の同僚のトカレフとタイプ14を交換していた。
彼女、ミンマが殺しでなく、
復讐を望んでいるとしたら94式自動拳銃は、ぴったりだろう。
赤レンガの住人たち
赤レンガの建物で鼻歌が聞こえるのも珍しくなくなっている。
宣伝の効果が上がっていた。
ただ単にジェーン年鑑の簡易版を編集して書店に並べ。
新聞に載せるだけだったが効果覿面だった。
扶桑型、綾波型をいかにも弱そうなバックアングル。
米英独の戦艦群をいかにも強そうなフロントアングル。
日本海軍が弱そうに見せれば、
思いやり口座への振込みも増える。
当然、将校と将官は貧乏くさそうな服装を心がけ、
他省の役人が車でも、国防省の役人は自転車通勤。
武士は、食わねど・・・というが質は上がっていた。
惣菜の見かけは同じでも素材が一ランク上、という感じだ。
そして、95式戦闘機は悪くなかった。
というより良かった。
それまで民間需要に支えられてきた航空技術が軍用機で花開いたとも言える。
あとは、数値を低めに書き込めばよく、
問題は、どうやって弱そうに写すかで、
引き込み脚が見えないように後ろから・・・・・
|
発動機 ユモ水冷 |
重量 |
最高速度 |
航続力 |
武装 |
爆弾 | 乗員 |
全長×全幅×全高 |
翼面積 |
95式戦闘機 |
880馬力 |
1800kg |
500km/h |
1200km |
12.7mm×2 |
− | 1 |
7.90m×12m×2.60m |
19u |
95式爆撃機 |
880馬力 |
2800km |
390km/h |
1200km |
6.5mm×6 |
350kg | 2 |
9m×13m×2.80m |
23u |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
他にも空冷式で格闘戦に優れた戦闘機もあった。
しかし、単純に500km越える戦闘機が欲しい。
ということで陸海軍が一致。
海運1000機。陸軍1000機で2000機の大量発注となった。
そして、爆撃機型は、全長を伸ばして2人乗り、
主翼面積を増やし、機体を頑丈にしてエアブレーキを装備。
急降下爆撃も可能にする。
それぞれ、500機ずつの生産が決まっていた。
海軍用 350kg爆弾1発。
陸軍用 350kg爆弾1発。あるいは、60kg爆弾6発(水平爆撃)
と微妙に設計が違った。
日本製の戦闘機と爆撃機が並べられる。
軍関係者が涙ぐむほど壮観なものだったらしい。
しかし、民間機の方がはるかに多く。
4発旅客機、4発輸送機が悠然と離着陸をしていた。
「なあ、軍独自の飛行場が欲しいな」
「路線沿いに?」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
フリーズする。
一度安楽な生活をすると、軍隊の性質も変わる。
利便性の良い生活と娯楽施設から離れた場所に基地を移動するのは、気持ち的に避けたい。
というわけで運輸省主導で建設された基地に依存してしまいやすい下地ができていた。
ドイツ領 山東半島
独清条約(1898/03/06)、当初、552kuだった租借地、
膠州湾の周囲50kmを中立地帯としていた。
その後、清露戦争の武器売却を利用しながら一気に租界地を押し広げ。
清露戦争の敗北で難癖つけ、義和団の乱の賠償を利用し、半島を分断。
その後、囲い込みながら青島半島全土をドイツの権益圏に組み込んでいた。
米英仏が黄河沿い、揚子江沿いに権益を増やしていったのに対し、
ドイツ第3帝国は、あくまでも山東半島に拘って膨張し続け、
その核になる部分は552kuにもかかわらず、
租借地・租界地の権益面積は30000kuとも言われ・・・
半島のほとんどを支配していた。
エルヴィン・フォン・ウィッツレーベン(54)総督は、建設されている製鉄所を見ていた。
ドイツといえば、鉄鉱石と石炭で、
この地でも同じ、とは行かない。
石炭はあるが鉄鉱石は、それほどでもない。
代わりに金と石膏があるが揚子江から銑鉄を輸入して加工する。
山東半島も、随分と白人が増えていた。
大半がポーランド人だが中国人より親近感が持てる。
青島はドイツ帝国と同様、製鉄産業を営もうとしていた。
日本と政治外交政策で利害を一致させ共同歩調もとっていた。
華北と敵対しても滅ぼされることはないが日本と事を構えれば滅ぼされる。
そして、青島は聖ロシア帝国と並び、アジアの欧州というイメージが作られていた。
白人と裕福な黄色人種の観光客は多く、
労働力も腐るほどいる。
この山東半島だけの中国人人口だけでもドイツの総人口に迫る数字になった。
ここに住むドイツ人は彼らの労働によって支えられ、
皇帝のような生活環境も可能だった。
100万(白人) / 2500万(中国人) ⇒ 1人 / 25人。
これは直接、仕えている数字ではない。
しかし、白人が何もしなくても生きて行ける比率にもなる。
そして、ここから上がる収益の一部が太平洋・東アフリカの植民地にまで送金され、
中国人の労働力は太平洋、東アフリカ、南西アフリカ、カメルーンまで送り込まれていく。
問題は、基幹産業に中国人労働者を入れるかだった。
安い労働力。
そして、過酷な労働を嫌がるのは人間の性でドイツ人も誘惑されやすい。
植民地を持たない日本は、自国民を安い労働力で扱き使うしかない。
日本人は、低賃金で高い生産性を維持したまま、成長していくだろう。
ドイツ領 山東半島では、
簡易産業の労働者を中国人任せ、
ポーランド人任せになっている。
ここで、基幹産業まで異人種、異民族に任せてしまうのは危険だった、
ドイツ本国とまったく違う文化圏になってしまう。
ドイツ人といえなくなる可能性もあった。
いや、既にドイツ人といえない発想をする子供もいる。
植民地を得ると同時に失っていく意識と意欲もある。
イギリス人とフランス人の様に現地民の安い労働力に頼ってはならない。
ここは、東洋のドイツ帝国なのだから・・・・
日本の某・新型要塞砲台
簡易テント。
国防省の将校たちが頬杖を付きながら、
500m先の砲台をぼんやりと見ていた。
テーブルの上
国防科学雑誌「機械化」があり、「怪力線戦車」の図が広げてあった。
誰かが嫌味半分、面白半分に持ってきたものだ。
356mm要塞砲台が静かに動き、
海上の目標に向けて大砲を旋回させていく。
そして、主砲弾が発射される。
轟音と共に黒い物体が目標に向けて飛んでいくのがわかる。
目標の近くに着弾する。
技術者たちが、あれこれ動き回り、
調節して砲撃を続ける。
4斉射目に目標に命中し、
廃船前の木造船が吹き飛んだ。
一部の勢力が歓声を上げて喜ぶが、
「「「「「・・・・」」」」」
もう片方からは、何の感慨も無い。
「どうです? 大臣」
「あ、あああ。いや、驚きのあまり、開いた口が塞がらないよ」
「無人の要塞砲台ですよ」
「電探と連動して命中率でも遜色ないはずです」
運輸省の魂胆は、わかっていた。
電力を支配した運輸省は、要塞砲台を動かす電力だけでなく。
砲塔制御も外部電力に依存させようとしている。
「し、しかし・・・」
「もし、敵に砲台が占領されてしまうといった場合もあるのでは?」
「優秀な要塞守備隊がいるはずです」
「・・・・・・・・」
「それに万が一、その時は、電力供給をカットすれば良いでしょう」
「自家発電用ディーゼル油がなくなれば動かなくなります」
“それが本音かよ”
「そ、そうですな・・・」
「前回の無線電気戦車より、良いかもしれませんな」
国防省が開発中の50口径40mm砲装備の97式戦車に対し、
運輸省は、マイクロ波充電の電気戦車を提案していた。
少なくとも電源コードがなく、
大砲だけは本物を使っているのでホッとする。
そして、兵士が白内障や中枢神経障害にならなければ、どうなっていたか・・・・・
“こいつら兵士で人体実験しやがった” としか思えない。という代物だ。
資金力があるだけでなく、蓄電池を底に敷き詰め、
モーターと繋げるだけで簡単に作りやがる。
そして、ただの発明狂というわけではなく
“思いやり口座”
で増大した国防費を狙っている連中が背後にいて始末に悪い。
「しかし、もう少し、実験を重ねて実績を積んでから検討ということで・・・・・」
「わかりました。良い返事を期待していますよ。大臣」
「ああ・・・そうだな・・・」
「そ、それと孫たちのことで気を使わないでくださいと」
「上に伝えておいて貰えますか」
「ええ、わかりました」
“揚子江に行きたいな・・・”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です
史実では、陸軍だけで97式戦闘機(キ27)を3300機以上量産していました。
日清不戦の陸海軍は、志が低いようです。
それぞれ、以前と二桁違うので1000機だけ、
鬼の首を取ったかのように大喜びです。
日清不戦で川崎?
キ28系が選択されたのは、単に500kmを超えたからが原因です。
それと民間でも同じ水冷エンジンを使っているので稼働率も生産効率も悪くなかったようです。
モノコックで構造で引き込み脚が採用できたのは民間技術でした。
空気抵抗を抑え、経済的に有益なので研究が進められていたものです。
そして、同時期の戦闘機。
ドイツ(メッサーシュミット、ハインケル)、
イギリス(ホーカーハリケーン、スピットファイア)、
フランス(モラン・ソルニエ)と並びます。
爆撃機は、史実で250kg爆弾でしたが日清不戦は350kg爆弾でした。
なぜ?
予算不足で雷撃機が開発されていないので海軍側の要望が通っただけです。
それと運輸省。我田引水は、相変わらずです。
運輸省という名称だけでは収まりきれなくなってしまいました。
国民生活と直結しているだけあって、戦前・戦中の軍部をはるかに上回っています。
この時期、揚子江域で、多用されていた銃器の一部です。
日本製 | アメリカ製 | ドイツ製 | 日本・聖ロシア製 | 日本・聖ロシア製 | 日本・聖ロシア製 | |
項目 | 短機関銃 | トミーガン | M18 | 38式小銃 | フェデロフM1916突撃銃 | 6.5mm重機関砲 |
全長 | 800mm | 813mm | 818mm | 1280mm (+銃剣) | 990mm (+銃剣) | 1280mm |
銃身長 | 200mm | 267mm | 201mm | 797mm | 480mm | 797mm |
重量 | 3.90kg | 4.74kg | 4.35kg | 3.96kg | 4.40kg | 52kg |
使用弾薬 | 6.5mm×25 |
11.43mm×23 |
9mm×19 | 6.5mm×50 | ||
弾頭重量 | 4.5g |
14.9g |
7.5g | 9g | ||
装弾数 | 30発 |
20・30発 | 32発 | 5発:10発 | 25発(箱型弾倉) | ベルト給弾 |
初速 | 380m/s |
315m/s | 355m/s | 762m/s | 654m/s | 762m/s |
発射速度 | 550発/分 |
700発/分 | 350〜450発/分 | 400発/分 | 人力 | 550発/分 |
射程 |
|
|
4000m | 約3000m | 約4000m | |
試作生産中 |
|
短機関銃は、試作生産中に付き。まだ名称がありません。
南部14式 | ワルサーPPK | ガバメント |
デザインでワルサ―PPKでしょう。
日本製 |
ソビエト製 |
ドイツ製 |
聖ロシア・アメリカ製 |
日本製 |
|
項目 | 94式自動拳銃 | トカレフ | ワルサーPP | コルト・ガバメント | 南部14式自動拳銃 |
全長 | 187mm | 193mm | 173mm | 216mm | 230mm |
銃身長 | 90mm | 116mm | 99mm | 106mm | 120mm |
重量 | 720g | 830g | 660g | 1100g | 890g |
使用弾薬 | 6.5mm×25 |
7.62mm×25 |
9mm×17 |
11.43mm×23 |
8mm×21 |
弾頭重量 | 4.5g |
5.6g |
6.2g |
14.9g |
6.61g |
装弾数 | 9+1発 |
8+1発 |
7+1発 |
7+1発 | 8+1発 |
初速 | 400m/s |
430m/s |
291m/s |
264m/s | 315m/s |
発射速度 |
|
||||
射程 |
|
||||
|
|
|
※因みにBB弾は、0.2gで98m/s。
94式自動拳銃は、意外と初速が速く。
威力が劣るだけで貫通力がありそうです。
もちろん、威力で、トカレフやコルト・ガバメントに負けそうです。
特異な性質なので、それなりにファンが付くかもです。
サド系殺し屋とか・・・
仕返し業者とか・・・
“なんだ。簡単に頭や心臓に当たるじゃん”
という人・・・
“人殺しは、したくないの”
という人・・・
拳銃で、ざっと見た感じ、
大威力でコルト・ガバメント。
射程・貫通力でトカレフ。
利便性と軽さでワルサー。
射程・命中率で94式という感じでしょうか。
もっとも、94式自動拳銃の場合。
致命傷を与えない限り、撃ち返されてしまうので、
当たったからといって、不用意に近付かない方が身のためです。
その代わり、命中率が良く。
例え相手が大威力の拳銃でも、
射程で負けていないので撃ち返せます。
ワルサーだと、市街戦用で、しょうか、
威力はありそうですが、隠れて近付かないと駄目です。
平野部の多いソ連がトカレフなのも納得しやすいです。
アメリカのガバメントは・・・・性格ですかね (笑)
というわけで、史実の94式駄目拳銃は、特色を持たせることで、名? 迷? 拳銃の仲間入りです。
聖ロシア帝国で、38式小銃が生産されているのは、フェデロフM1916突撃銃が正式採用され
38式小銃が狙撃銃として生産されてしまったからです。
第43話 1935年 『だからって・・・』 |
|
|
||