月夜裏 野々香 小説の部屋

  

仮想戦記 『日清不戦』

 

 第44話 1936年 『苦笑い』

 この年、

 三河湾海峡(9.6km)トンネル、

 鳴門海峡(10km)トンネル、

 友が島海峡(12km)トンネルが相次いで完成する。

 大阪湾環状鉄道と四国が連結された経済波及効果は大きく。

 淡路島と四国の地価は、一気に高騰。

 愛知県・名古屋圏も同様に地価が上がり、

 運輸省が進める沿線経済は急速に力を付けていく。

 世界中が大恐慌で苦しんでいるはずなのに日本は違って見えた。

 昼運行の客車は乗客を満載し、深夜運行の貨車は貨物を満載して行き来する。

 この鉄道の路線で日本経済の指標を判断することも出来た。

 そして、多くの大使館が、そうであるように日本経済の景気を鉄道時刻表で推測し本国に送る。

 良しに付け、悪しきに付け日本経済は沿線集約型だった。

 2人の白人がビルから電車を見下ろしていた。

 「流線型のステンレス製車体か・・・」

 「軽量化されているだけあって速いな」

 「どうやって、加工したのだろうな?」

 「プレス機に決まっているだろう」

 「世界中のどこを探しても流線型の車両なんて無いぞ」

 「わが帝国は、造ろうと思えば作れるぞ」

 「ふっ 元が取れないだけか」

 「予算がな。それに電車は、侵攻作戦で使い難い」

 「ほう、侵攻する予定でもあるのかな」

 「なくても良いのさ。そういう能力があると思わせる」

 「それだけで抑止になるし、軍事的圧力にもなるだろう」

 「しかし、日本人は、本気で大陸と繋げるつもりなんだろうな。海底トンネルを建設するなんて」

 「津軽海峡と宗谷海峡を建設で鹿児島から間宮半島まで3300kmを24時間以内で結ぶ」

 「運輸省の言い分もあながち、嘘でもなさそうだな」

 「ふっ しかし、北東ニューギニア領」

 「日本の鉄道にするんだって?」

 「くそっ! オランダ連邦とグルになりやがって。きたねぇ〜」

 「日本に植民地を取られたのかと、心配したんだがね」

 「取られるか!」

 「日本規格・・・強くなったな」

 「働き過ぎなんだよ」

 「むかしは、ドイツ人が一番働いていたのにな」

 「日本人は賃金が安い分、ダラダラ働いているに過ぎん」

 「機能的ではない。ムリ、ムラ、ムダが多い」

 「合理的でもないが協力し合って、何とかしてしまうのが優れているな」

 「優れているとは認めない」

 「日本人の近視眼と馴れ合いが、気持ち悪いだけだ」

 「結果だけは、認めるべきではないかね?」

 「結果を認めているから、ここにいるんだ」

 「いまの世界情勢の流れは日本の味方をしている」

 「流れの3分の1は揚子江経済圏。3分の1は扶桑型戦艦8隻」

 「あとの3分の1は大恐慌だな」

 「アナスタシア効果もだ」

 「彼女の外交能力は高いよ」

 「欧州人は、権威に弱いからな」

 「ふんっ!」

 「アメリカ人のように、お金に目が眩んで溺れるより健全だよ」

 「チューリップにもな」

 「ダッチは、欧州人ではない」

 「そういえば、オランダ海軍は改扶桑型4隻と改綾波型20隻で訓練が進んでいるようじゃないか」

 「維持費が資源ではな・・・・・」

 「資源も国力だろう。割り切りはオランダ人らしい」

 「上限から値引いて決めていくやり方は性に合わん」

 「ほう、ドイツ人がイギリス式オークションが好みとは知らなかったよ」

 「・・・・・・」 憮然

 「それより、日本が20000トン級巡洋艦4隻を建造しているそうじゃないか」

 「ああ、新型戦艦を建造しないのは、どういうことだ?」

 「普通なら米英独で建造している対新型戦艦を建造するはず」

 「出雲・瑞穂配備艦だろう。砲艦外交用で50口径283mm連装砲4基」

 「遠目から扶桑型に似せて建造しているらしい」

 「無駄な艦艇だな」

 「兵装は標準より小さい」

 「その分、通商破壊能力に長けていると考えて良いだろう」

 「対12000トン級条約型巡洋艦も兼ねている、というところか・・・」

 「それなら、なおのこと、45000トン級の戦艦を建造して」

 「扶桑型を出雲・瑞穂配備が戦略的な常識だ」

 「どうせ、日本の運輸省の横槍だろう」

 「国際的な緊張を生み出してしまうような戦艦は、不味いとか」

 「建艦競争は国益に反すとか」

 「けっ! 日本の国防省も意気地がない」

 「ふっ おかげで、アメリカの新型戦艦も12隻建造で打ち止めになりそうだよ」

 「ドイツも、イギリスも、半分の6隻ずつで済むんで助かっているだろう」

 「ふん そっちも大恐慌で、それどころでないくせに・・・」

 「どちらかというと、出雲は、潜水艦基地だな」

 「出雲も随分と身の丈が大きくなったものだ。イギリスの計算外だな」

 「北欧、オランダ、トルコ、ドナウから資源が送り込まれたら身の丈も大きくなろう」

 「シベリアに。南極に。出雲。仕事熱心で、ご苦労なことだ」

 「日米和親条約(1854年3月31日)の開国から82年で」

 「これだけの外交が出来る人間がいるとはね」

 「まさか、外交上の選択肢でこうなっただけだ」

 「人の住めない環境に人を住まわせるのは費用対効果で尋常ではないな」

 「確かに開発にかかかる費用対効果も程度が低い」

 「しかし、日本人の人件費は安いのだろう」

 「それに残りは白人世界が占めていて、日本に選択の余地は少ない」

 「そして、日本人が必死に努力しても」

 「気付くと周りは、全て白人世界で固められていることに気付くのさ」

 「どうかな、日本は、軍事費で手抜きしているだろう」

 「日本の海外州は意外と進んでいるかもしれないな」

 「だが目にみえて、ではないな」

 「沿線は、目にみえて近代化まっしぐら、だろう」

 「長中短距離鉄道を地下を含めて三層構造で建設するなど・・・・・」

 「日本人が黄色人種なのが信じられんよ」

 「ニューヨーク、ベルリン、ロンドンと並ぶ大都市が沿線上に連なるなんて・・・・」

 日本縦断高速鉄道は中距離都市間路線と短距離都市区間路線が併設されていた。

 「狭い土地の有効利用なんだろう」

 「それに日本の高速双方向通信システムは、技術的に荒いが良く出来ている・・・・・」

 「アメリカとイギリスも遅れをとったな」

 「ドイツもだ」

 「日本は、無線で映像を飛ばす技術が無いのだ」

 「考え方としては、沿線集約型でケーブル放送で官庁・企業を結び」

 「個々の民間へ展開は、わかりやすいよ」

 「有線映像は無線より走査線が多くて綺麗だよ」

 「それにテレビ会議。あれは便利だ」

 「日本の経済成長率も頷けるよ」

 「日本は、欧州からもアメリカからも離れている」

 「軍事費をケチって、やりくりしているに過ぎんよ」

 「そうだな・・・」

 この時代、日本に対する評価は、いろいろあった。

 “銃を保持携行しなくても済む文化的な国” (アメリカに対する嫌味)

 “時刻表が守られている国”

 “運輸官僚の国”

 “白人の真似をしている国”

 “無資源。労働者の国”

 “人間関係で不自由な国”

 などなど

 しかし、認めたくないものもあった。

 産業革命がイギリスから始まり、

 情報革命が日本から・・・・

   

   

   

 ロンドン

 ジョージ6世の戴冠式

 アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、ドナウ、トルコなど各国が軍艦を訪問させていた。

 そして、日本は出雲の “クシナダ” は、不味いだろう、で扶桑型を訪問させる。

 戦艦 扶桑

 提督と副官が双眼鏡を覗いていた。

 「戴冠式そっちのけで、戦艦品評会になったな」

 「ええ、これだけ揃うと見ものですから」

 岸壁は、ロンドン子だけでなく。

 観光客が各国の戦艦群を見ていた。

 「アメリカのワシントン型戦艦」

 「イギリスのネルソン型戦艦」

 「ドイツのシャルンホルスト型戦艦か・・・」

 「どれも40000トン級で381mm砲搭載艦です」

 「大恐慌でスッカラピンのくせに良く建造したものだ」

 「代艦と付き合いですからね」

 
艦型 排水量 寸法 馬力 速度 主兵装 副兵装 同型艦 備考
扶桑 35000 240m×32m 140000 32 50口径356mm連装×4 50口径120mm連装×12

8

 

扶桑、山城、伊勢、日向、長門、陸奥、加賀、土佐

フローニンゲン 35000 240m×32m 120000 30 50口径356mm連装×4 50口径120mm連装×16

4

改扶桑型

フローニンゲン、フレヴォラント、ゼーラント、リンブルグ

ワシントン 40000 270m×33m 180000 33 45口径381mm連装×4 50口径152mm連装×6 4 + (8)  

ワシントン、ノースカロライナ、コネチカット、ルイジアナ

ネルソン 40000 260m×34m 144000 32 45口径381mm連装×4 50口径152mm連装×6 2 + (4)  

ネルソン、ロドネー

シャルンホルスト 40000 251m×36m 138000 30 47口径391mm連装×4 55口径150mm連装×6 2 + (4)  

シャルンホルスト、グナイゼナウ

               

 

 「我が国も新型戦艦が欲しいものだ 」

 「オランダ海軍にさえ、負けるぞ」

 「改扶桑型でディーゼル・電気推進ですからね」

 「装甲も微妙に強いようですし・・・」

 「日本は、数で補っているだけですから」

 「それも時間の問題だよ」

 「運輸省が邪魔しなければ・・・」

 「あんっの国賊どもが〜」

 「運輸省は、海底トンネルが好きですからね」

 「ぬぁあにが」

 「“津軽・宗谷海峡トンネルは、戦艦30隻分の価値だ”」

 「国防費を維持費ギリギリまで減らしやがって」

 「論点のすり替えで国民ウケする上に、妙に説得力がありますからね」

 「それでも、増強分が “思いやり口座” だけは、さすがにクサるわい」

 「たしかに・・・」

 「それに比べて、欧米列強は、植民地を踏み躙っての戦艦建造か」

 「羨ましいものだ」

 「しかし、国防省も戦艦のような正面戦力は後回しにしていますから」

 「“思いやり口座” の性質上。そうなるだろうな」

 「おかげで、わけのわからない空母と」

 「中途半端な20000トン級巡洋艦の建造ですからね」

 「まだ、扶桑型2隻を建造していた方が良かったよ」

 「迎賓・訪問用の大型巡洋艦で、4隻くらいは揃えておきたいのでは?」

 「ったく。海軍力で侮られなければ外交など、どうにでもなるんだ」

 「確かに米英独の新型戦艦を見ると」

 「日本にとっては軍事的危機なんですがね・・・・」

 「カメラで撮っているだろうな」

 「上手く対比させて扶桑を弱そうに撮るんだぞ」

 「ええ、専門家に撮らせていますから放送後の “思いやり口座” は期待できそうです」

 「だと良いが運輸省の連中、維持費も削りかねんからな」

 「いくらなんでも、国軍に、それは、無いでしょう」

 「下水道を造りたがっていたから、どうかな・・・」

 「げ、下水道ですか?」

 「地下鉄を掘るついでだと。ふざけた連中だ」

 「し尿は作物にとって宝だぞ」

 「それを下水で流すとは、あんの非国民どもが・・・・」

 「戦艦と下水道と天秤に掛けるなど信じられませんね」

 「国防をここまでないがしろにするとは嘆かわしい」

 「末世ですかね」

 「まったく。平和ボケもいいところだ」

 「大型巡洋艦を扶桑型に似せて建造するのは、扶桑として写すつもりでは?」

 「まさか、外電で間違えることはあっても国内は間違えないだろう」

 「・・・外電なら・・・ありえるでしょうね・・・」

 「無修正で載せるんですか?」

 「誰にでも、うっかりはあるだろう。似ていたら」

  

  

 巨大な飛行船が霞ヶ浦で改装されていた。

 船殻も兼ねたアンテナが張り巡らされた結果。

 強力な電子の目を持つ電子索敵飛行船が完成する。

 この時期の電探は、それなりだった。

 方向や位置がわかっても、

 大きさと数は、電測員の感覚に頼らなければならなかった。

 当然、頻繁に飛ぶ民間機は観測され、

 電測員の能力向上に役立てられる。

 少しくらい曇っても、雨でも、夜でも、

 目視より遠くを観測できる利点は大きかった。

  

  全長×直径 浮遊ガス ユモ 速度 積載量(t) 装備
(水素)
月光 245m×41.2m 約20万㎥ 1200hp×6 130km/h 30 電探・逆探・通信機
月影

  

 「思ったより、船体が重くなったそうじゃないか」

 「強力な電探と通信装置を載せたからな」

 「真空管がもっと軽ければ良いんだがね」

 「早速で悪いんだが輸送を頼むよ」

 「結局、運輸省の宅急便か?」

 「ふっ そういうこと」

 「やれやれ」

 「雷雲には、近付かないでくれ」

 「大枚出したのに壊されたくないからな」

 「わかっているさ」

 月光と月影の武器は、索敵能力、航続力、速度だけだった。

 当初は、偵察機を装備するはずだったが空中収容の危うさ、

 発火を恐れた運輸省が強硬に反対し、電子索敵飛行船となっていた。

   

 飛行船1隻に艦載機10機配備。

 空中機動部隊を夢見ていた “綾波” 艦長、山口多聞は、自棄酒を飲んでいた。

 結局、海軍は、地上施設の多くを運輸省に頼らなければならなず、

 運輸省の言い分を通してしまう。

  

  

 スペイン内戦始まる

  

  

 ベルリン・オリンピック開催。

 来期の東京オリンピックで柔道が正式種目となっていた。

 ラウンジで数人の東洋人が地ビールを飲んでいた。

 「ったく。ドイツ帝国もいい加減だな」

 「聖ロシアのソン・ギジョンとソ連のナム・スンヨンを日系人と紹介したら駄目だろう」

 「見た目、似ているからな・・・」

 「海外に進出している東洋人で成功しているのは、日本人が圧倒的に多い」

 「うっかりとも言えるし、聖ロシアとソ連は、日本に気を使ったんじゃないか」

 「まあ、そういうのは、あるだろうな」

 「で・・・次の選考種目で “ナギナタ” というのは、どこから出てきたんだ?」

 「競技人口は剣道の方が多いだろう」

 「剣道は、フェンシングと被りそうなんで嫌なんじゃないか」

 「それに海外だと “ナギナタ” の競技人口は多いし」

 「しかしな・・・」

 「アナスタシア皇后とナガコ皇后が面白半分にやっているところを写真に撮られて海外に広まったのは良いとしてもだ」

 「ルールが流派によって、まちまちだからな」

 「女性競技がウケているようだが」

 「いいのか?」

 「オリンピックは、元々、男性の競技だろう。IOCもいい加減だな」

 「白人で、そんなことを言っているやつはいなかったぞ」

 「娘と奥方と母親を敵に回したくないのかな」

 「とりあえず。ルールをまとめて形にしないとな」

 明治以降、日本がオリンピック競技種目にと力を注いできた柔道が4年後の東京オリンピックで正式種目になり、

 日露皇后2人が面白半分にやった “ナギナタ” (薙刀) が海外で急速に競技人口を増やし、

 選考競技の一つとなっていた。

 「ところで、スペイン内戦でフランスは、介入しないのか?」

 「狙っているんだろう」

 「イギリスとドイツを敵にして?」

 「ソビエトとアメリカが味方するのなら、わかるがね」

 「ソビエトは粛清中で。アメリカは大恐慌で身動きとれず」

 「右翼のファシズム。左翼の共産主義」

 「どっちの味方をして良いか、悩むしな」

 「確かに・・・」

 「このまま内戦で疲弊していてくれた方が儲かって良いような気もするし・・・」

  

  

 大恐慌時代

 日本は、金本位制を捨てても経済成長していた。

 日本資本は、国内に収まらず。

 資本の海外流出を懸念する勢力を押し退け、

 いくつかの企業が先行したベルバーム(旧・鈴木商店)に追随していた。

 そして、日本の慣習、村社会に嫌気がさした日本人の海外進出と合わせ、

 海外投資は、急速に拡大し増加していく。

 フィンランド(ヘルシンキ)に日本人街が造られると。

 南・北パリ、

 アムステルダム、

 青島、

 ウィーン、

 ロンドン、

 崇明、

 サンフランシスコ、

 ニューヨーク、

 イスタンブールにも日本人街が造られていく。

 鎖国前の海外進出と似ており、

 勢いと規模で言うなら歯止めが利かないほどだった。

 日本資本は、賃金格差を利用した国際競争力で勢いを増し、

 欧米諸国の基幹産業と結び付いて行く。

 そして・・・

 「日本人は例外にする」

 白人至上主義者も日本人に対してのみ、儀礼的な姿勢を取るまでになっていた。

 列強各国も日本人街を国内に造ることで大恐慌対策とし、

 対日外交で有利と判断すると日本人街を保護していく。

   

   

 ニューヨーク 日本人街

 最近、造られた町で、3000人ほどの日本人が住んでいた。

 今後は、もっと増えそうだ、で、交番がある。

 トーマス・ヘンリックは同僚三人と、交番勤務だった。

 交番システムはアメリカに無い。

 アメリカの保安官は、選挙で選出されるため事情が違い。

 アメリカの州警察は、銃に対処しなければならないことから出店のような小屋にいることはなく、

 署で統括され、そこに集まっていた。

 しかし、日本人街があるのなら試しに交番を作ってみたらしい。

 そして、この区画。

 自由の国アメリカで銃が規制されていた。

 アーミッシュ(自然派のキリスト教徒)並みの異端と思う反面。

 大恐慌の割には治安が良く。秩序が保たれている。

 日本人同士で互助会が作られ、勝手にやっている。

 日本人の表面的な愛想笑いにむかつくが平和なのだ。

 日本人たちの多くは、日本が嫌でアメリカに来たというが日本人で集まって小日本を造っている。

 矛盾しているぞ。

 と思いきや、区画外に出て行く日本人も少なくない。

 そして、アメリカ側の事情もあった。

 大恐慌の鬱憤を緩和させ、

 需要と雇用があるのならと日本人の移民を認めていた。

 遠い日本の観光の代わりに白人観光客が集まって賑わう。

 おかげで平和な割りに忙しく。

 横柄で、あつかましく、

 自己主張と権利ばかり主張するアメリカ人が鼻に付いて、閉口する。

 そして、観光客が集まるだけあって、

 桜並木、神社仏閣、日本庭園があり。

 日本風の民家があり、日本の工芸品や民芸品が売られていた。

 日本の城郭も建設されるらしく。

 ハリウッド映画会社も撮影フリーを条件に出資している。

 他にも日本人の丁寧な仕事が気に入られているのか、

 クリーニングや理髪店が目的で来る者もいる。

 銃の預かり所は大きくなるものの、

 拳銃を持っているのは警官だけ、は悪くない。

 どうせ犯罪が起きても日本人以外に決まっている。

 たまに黄色人種を捕まえ、

 日本人かと思えば中国人や朝鮮人だったりする。

 最近は、殺人でも新聞に載らないが日本人が泥棒をすれば新聞に載る。

 人種差別というより、嫌味半分で殺人より珍しい。

 しかし、大人しい日本人でも銃を撃ちたいのか、

 区画外の射撃場に出かけ、試し撃ちする者も少なくない。

 トレーナーの言うことを忠実にやるそうで腕は、すぐに良くなるらしい。

 中国人とも、フィリピン人とも、インド人とも違う変わった民族だ。

 欧米人並みの高い水準で教育を受けているのに寡黙。

 英語が苦手だから寡黙なのかとも思えば日本人同士でも、あまり話さないように思える。

 話しているのは、婦人ばかりという感じで、

 こればかりは、世界共通で安心したりもする。

 「トーマス。昼飯だぞ」 同僚

 テーブルの上に “うな重” が置かれる。

 最初は “こんなものが食べられるか” だったが、

 最近は、好んで食べるようになった。

 他の日本食も多く。

 ラーメン (中華ソバが言い難く、ラーメンが定着してしまう)、

 すし、うどん、ソバ、すき焼きも人気があった。

 「明日、ハリウッドが撮影に来るそうだ。また忙しくなるぞ」 同僚

 「またか」

 「映画が封切られるたびに観光客が増えて忙しくなる」

 「日本人より白人の方が多くなるぞ」

 「あと、区画を広げて、日本人の移民も増やすそうだ」

 「移民法で規制したのが嘘のようだな」

 「経済が動くなら大統領は、なんでも利用したいのさ」

 「ついでに交番も増やせばいいんだ」

 「・・・たぶん、そうなるだろうな」

  

  

 メキシコ国境

 大恐慌のためか、国境警備は、厳しかった。

 アメリカ人の労働者を守るためだが警備隊は、数倍になっていた。

 「ちくしょ〜う」

 「ったく」

 賭けに負けた方がパラパラとお金を払う。

 密入国者の数当てゲームで近い方が総取りだった。

 「へへへ。わるいな」

 「ヨシ! 次の週末までは、何人だ」

 「20人」

 「24人」

 「33人」

 「28人」

 パラパラと10ドル札が賭けられていく。

 「そうだ。メキシコ大統領が鉄道を国有化するかどうか、賭けようぜ」

 「・・・国有化したら戦争だよ」

 「じゃ 鉄道の国有化に10ドル。戦争になる方に10ドル」

 「んんん・・・国有化に10ドルに、戦争しない方に10ドル」

 「国有化も、戦争も、期限付きだよな」

 「んんん・・・国有化も、戦争も1940年以内でどうだ」

 「乗った。国有化しない方に10ドル」

 「ば〜か。国有化に10ドル、戦争に10ドル」

 「俺も国有化に10ドル、戦争に10ドル」

 「んん・・・国有化に10ドル、戦争に10ドル」

 「そんなに戦争がしたのか?」

 「いや、賭けに勝ちたいだけだよ」

  

  

 元々、左翼系ラサロ・カルデナス大統領は、傀儡だと思われていた。

 しかし、大統領に就任すると本性を表わし、不正腐敗を摘発。

 農政改革を断行して豪農から土地を取り上げ、農地を農民に分配してしまう。

 外資鉄道と外資石油の国有化も進めようとしていた。

 そして、資源と交換で無節操に工業品を輸出してくれる日本と接近する。

 とはいえ、採掘会社も外資であり、

 メキシコ資本といえるものは限られていた。

 それでも、日本資本の参入を足し可能な限り近代化を進めていた。

 メキシコシティーの酒場

 日本人とロシア人がテキーラを飲んでいた。

 「ウォッカとテキーラは、どっちが?」

 「むろん、ウォッカに決まっている」

 「しかし、こうやって、合わせて飲むのも一興」

 ロシア人が半分飲み干したテキーラにウォッカを足す。

 「今後のソビエトの展望は、どうです?」

 「上手くないな」

 「ロシア民族がソビエト派と皇帝派に分かれている」

 「スターリンの恐怖政治は激しいようです」

 「一歩間違えば、ソビエト崩壊を生み出してしまうな」

 「年々、酷くなるようです」

 「一度、恐怖政治をやると、やめられない」

 「列強が干渉戦争を仕掛けていたらソビエト・ロシアの結束は、もっと強かったのだ」

 「日本政府がニコライ二世を救出し、ソビエト干渉を止めた影響ですか?」

 「日本も余計なことをしてくれた・・・」

 「第一次世界大戦が終わってもスペイン風邪と痛手続き。正気なら戦争を止めたくもなるでしょう」

 「日本という国は、厄介だな」

 「官僚は内向き、資本家は外向き」

 「政府は小さいながらも軍部を統制している」

 「付け入る隙が無い上に墓穴も掘りそうにもない」

 「それでいて、大恐慌にあっても経済成長を続けられる」

 「ソビエトの計画経済とは違うが見事な統制経済だ」

 「個人所得も欧州並みに近付いて、私財を守りたいから金持ちケンカせず」

 「無分別な方向に行くこともない」

 「しかし、資源が・・・」

 「資源は、重要だがね」

 「国家と国民の状態でどうにでもなる」

 「教育水準が高く勤労意欲もある」

 「異民族を抱えておらず」

 「白人世界に囲まれて、政治的な分裂も小さい」

 「近代科学技術を持ち、工業力の水準も悪くない」

 「必要とする資源の入手先も確保している」

 「他の列強に比べ」

 「国民は、余計に苦労しても独立した主権を欲している」

 「それでいてアナスタシア皇后の外交能力も高い」

 「現在の国際情勢から日本が窮地に追い込まれる可能性は低いよ」

 「海外に武器輸出していることで国際緊張を高めているようですが」

 「それは、国情で仕方がないことだ」

 「資源が腐るほどあれば他国を支援する必要などない」

 「他国がどうなろうと自国の利益を優先すればいい」

 「しかし、どうしても必要な資源があり」

 「戦争という手段を取らないのなら、加工したのモノを売るよりほかない」

 「その結果どうなるかは、外交努力、外交能力によるだろう」

 「そして、日本の外交は、受身の割りに無節操だが毒がないのか敵が少ない」

 「露ソ戦争の可能性は?」

 「ソビエトが・・・」

 「いや、スターリンが望んでいるのはソビエト・ロシアを思想的に結束できる侵略だよ」

 「どこでも良いから、ソビエトを侵略して欲しいのさ」

 「ドイツでも、ドナウでも、ルーマニアでも」

 「トルコでも、聖ロシアでも、日本でも、どこでも良い」

 「そして、アメリカも戦争を望んでいる」

 「こっちも侵略してくれることを望んでいる」

 「産業界の要請と失業対策のためだけにね」

 「それは困りましたね」

 「日本は、軍事費を削るだけ削って経済投資をしているのだから」

 「今後は、綱渡り外交になるかもしれないな」

 「軍事費を増やした方が良いと?」

 「どうだろう。同盟戦略で固める手もある。日本の味方は多いよ」

 「そう言えなくもありませんね」

 「メキシコにも資本投機する予定があるのかね」

 「資源開発に協力して欲しいそうで。日・メキシコ合弁で・・・・」

 「ふっ メキシコの大統領は、外資の国営化を狙っていたはずだがな」

 「日本だけは、別格にすると」

 「メキシコより、近い聖ロシアの開発に投資しないのかね」

 「油田でもあれば喜んで。ですがね」

 「露天掘りで鉄鉱石や石炭が採掘できる国が羨ましいですよ」

 「わたしは、ウォッカに溺れない国民がいる日本の方が羨ましいがね」

 「極地では、それなりに飲まれていますよ」

 「どぶろく、焼酎、泡盛、日本酒、ウォッカ、ウィスキー、ブランディー」

 「大吟醸は?」

 「あれは美味かったぞ」

 「高いですからね。今度持ってきますよ」

 「それは嬉しい」

 「お安い御用ですよ」

 「今後とも世界情勢で貴重な意見が聞ければ助かりますから」

 「なあに、構わんよ・・・」

 「しかし、日本人は、極地でも酒に溺れていないそうじゃないか」

 「少し生真面目すぎて」

 「羨ましいことだ」

 「ロシア人が日本人の半分でも働けば世界を征服していただろう」

 「ご冗談を・・・ソビエトに凱旋する予定は?」

 「ふっ 簒奪者スターリンが失墜してからだろうな」

    

 

 

 スペイン

 スペイン革命(1931年)によりアルフォンソ13世が亡命。

 王制が倒れた後、左翼と右翼が拮抗。

 左翼系マヌエル・アサーニャが政権を執った。

 列強から失墜していたスペインは、近代化、貧富の差など改革が必要だった。

 しかし、改革を行おうとすると、カトリック、資本家、地主階層など既得権益と衝突。

 そこにスペイン領モロッコのフランコ将軍が反乱を起こした、

 内戦は、一気にスペイン本国に飛び火して拡大した。

 このスペイン内戦に介入したのがソビエトとイタリアだった。

 ソビエト連邦とメキシコは、左翼のアサーニャ政府を支援し、

 イタリアと聖ロシアは、右翼のフランコ将軍を支援した。

 アメリカは、中立を宣言し、

 ドイツ、イギリス、フランスは、金払いの良い贔屓の勢力を支援した。

 もっとも、世界大戦への拡大を恐れての、曖昧で投げ遣りな支援であり。

 列強各国は、新兵器の実験と戦訓を得る場としてスペイン内戦を注目し、

 直接でなく、間接的に武器が手渡されていく。

 スペイン内戦も華北連邦の内戦と同様、

 列強が火に油を注ぐかのごとく、武器弾薬が送り込まれた。

 内戦の原因が何であれ、

 両者の言い分が何であれ。

 列強の目的は、戦訓を得るためであり。

 失われていく命を哀れむ気持ちはなく、戦場を覗いていた。

 フェデロフM1916とガーランドM1が初めて交戦したのもこの国だった。

 

 各国とも傭兵部隊を送り、戦場の様子を事細かに研究していた。

 こういった戦訓は、戦争していないと決して得られないため各国とも必死だった。

 数人の男たちが高台からゲロニカの市街戦を双眼鏡で見下ろしていた。

 「市街地はサブマシンガンが有利だな」

 「市街戦ではな」

 「遮蔽物が少ない郊外だと、ライフル弾の方が有利だ」

 「中途半端で、どちらでも」

 「というのはフェデロフM1916だな」

 「性能は、良くもなく悪くもなく」

 「利便性で優れているような気がする」

 「ところで日本の短機関銃は、何というんだ?」

 「試作生産中で、名称無しだ」

 「不便だな。なんか付けろよ」

 「スペイン兵は、ペケニョ (小さい)とか」

 「トカール(当たる)とか、呼んでいるが」

 「じゃ トカニョ・ガンだな」

 「おい!」

 「シモノフは、あまり良くなさそうだが」

 「んんん、平原で使うことしか考えてないな」

 「しかし、ガーランドは威力があり過ぎないか」

 「あれでも歩兵用の武器か」

 「トミーガンも派手だ・・・」

 「げっ! 扉ごとズタズタにしやがった」

 「・・・アメリカ人の性格だな」

 「堅実で威力があって良い銃だ」

 「どこかの国の様に奇をてらわず。信頼性も高い」 うんうん♪

 『・・・生産と補給のことを考えてないな』

 『無駄弾を勿体無いとか思わないのか』

 『扉を壊して自慢してどうするんだよ』

 「よし! そこで突撃だ〜」

 大混戦の市街戦がさらに混沌としていく。

 「・・・・あれ?」

 「詰めが甘いな。手榴弾ぐらい投げ込めよ」

 「スペイン人の性格じゃないのか」

 「いや、慣れていないだけか」

 「手榴弾を送ってないんじゃないのか」

 「ドイツの手榴弾は良いぞ」

 「確かに威力があって投げやすいが、かさばりそうだな」

 「卵形なら3倍箱に入る」

 「手榴弾は、遠くに投げられる方が良いだろう」

 「体格に自信がある民族は良いな」

 「ドイツ人は、そういうのが好きだからな」

 「擲弾筒を使えよ」

 「もっと、かさばるだろう」

 「ふっ ロンドン砲とか、モスクワ砲は作ったのか?」

 「あ、あれは、あれで良いぞ。心理的な影響力はある」

 「飛行機で爆弾を落とす方が良くないか」

 「一発撃つごとにライフル溝が磨り減るだろう」

 「少しずつ砲弾が大きくなっていくそうじゃないか」

 「命数も短いし、苦労の割には・・・・」

 「世界一を自慢して、自己満足に浸りたいんだろう」

 「相手の士気を削ぐのだから戦略的に意義あるだろう」

 「少なくとも、砲弾は戦闘機で迎撃できない」

 爆音が聞こえてくると、

 双発機が爆弾を落とし、

 町並みを破壊していく。

 「市街戦で敵味方が入り乱れているのに爆弾落としてどうするんだよ」

 「そうそう、だいたい、落としたいところに落とせるかなんて」

 「爆撃は、あやふやだな」

 「やっぱり、急降下爆撃だな」

 「単発機は、航続力が短いからな・・・・」

 「建物の陰に隠れたら機銃掃射も当たらないしな」

 「・・・タイプ38は、まだ残っているみたいだな」

 「欧州大戦のが、まだ使われているのか」

 「「「世界大戦!」」」

 「欧州大戦だよな」

 「・・・・・・・・・・」 苦笑い。

 「「「「・・・・・・・」」」」

 「日本人がニコライ二世を担ぎ上げてソビエト政府を打倒しなかったから」

 「世界中に共産主義が蔓延しているんだぞ」

 「・・・・・・・・・・」 苦笑い。

 「「「「「・・・・・・・」」」」」

 

  

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 2.26事件は、起きませんでした。

 運輸省統制下の日本。

 不自由であっても小金持ちの日本人は、殺伐とした状態を望まなかったようです。

 アジア連合派の将校がその気になっても、

 兵士たちは、そういった雰囲気になれなかったみたいです。

 国際情勢は、華北連邦とスペインの内戦で、きな臭く、小康状態。

 共産主義の浸透はじわじわ、という感じでしょうか。

 ソビエト発生とその対応で日本外交の功罪が問われてしまいますが、

 どちらの言い分も、ありという感じです。

       
  アメリカ製 ソビエト製 日本・聖ロシア製  日本製  アメリカ製 ドイツ製
項目 ガーランドM1 シモノフM1936 フェデロフM1916 短機関銃 トミーガン M18
全長 1108mm 1235mm 990mm 800mm 813mm 818mm
銃身長 600mm 615mm 480mm 200mm 267mm 201mm
重量 約4.30s 4.05kg 4.40kg 3.90kg 4.74kg 4.35kg
使用弾薬 7.62mm×63

7.62mm×54

6.5mm×50

6.5mm×25

11.43mm×23

9mm×19
弾頭重量 9.72g 9.53g 9g 4.5g 14.9g 7.5g
装弾数

8発

10・20発

25発

30発

20・30発 32発
初速

848m/s

768m/s

654m/s

380m/s

315m/s 355m/s
発射速度      

550発/分

700発/分 350〜450発/分
射程          

   

  

   

  

    

 

 

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第43話 1935年 『だからって・・・・・』

第44話 1936年 『苦笑い』

第45話 1937年 『花の色は?』

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