第45話 1937年 『花の色は?』
中国大陸は、混乱していた。
華北人が政府軍と共産軍に分かれ
漢民族同士で内戦を戦う。
欧米露諸国の離反・弱体化工作とソビエト共産主義拡大の結果だった。
中国富裕層も欧米列強と与し、
揚子江で私腹を肥やし、莫大な富を築いていく。
大量の武器弾薬が華北と華南に出回り
“同族相打つ” で治安は、悪化していた。
匪賊、軍閥系マフィア、共産ゲリラ、馬族。
滅びた王朝の末裔、山賊、盗賊などなど、
真っ当な生産活動を阻害する中国不穏分子に武器弾薬が行き渡る、
大陸は欧米列強の揚子江権益圏を境に、
華北連邦と華南合衆国に分断され、
沿岸部の主要港も列強に支配されていた。
最大は奪われた満州域の聖ロシア帝国であり、
次は、青島であり、山東半島全土はドイツ領と化していた。
揚子江など、
統一を阻害するインド人、ポーランド人、黒人など、
異人種、異民族勢力も多過ぎた。
揚子江・青島は、列強権益の勢力圏であり、
中国大陸の内憂外患、不統一は、収まりそうにないものの、
治安と安全性は高まっていた。
しかし、不穏分子が揚子江圏に飛び込み、火種になることもあった。
列強は、河川砲艦と要塞、租界地で、華北連邦と華南合衆国の分断を強め、
インド・中国大陸鉄道で分断を補強する。
山東半島ドイツ領と聖ロシア帝国は、
日本圏と連結させるべく、路線の建設も進められていた。
華北連邦
汪兆銘(54)率いる華北政府軍と。
毛沢東(44)率いる共産軍の内戦は、激しさを増していた。
合衆国の中で華北政府軍は本命で共産軍は対抗であり。
華南合衆国
蒋介石(50)が率いる華南政府軍が最大勢力であり、
対抗を敢えて出すとすれば列強権益地であり、華北連邦であり、
国内の不穏分子と言えた。
華北連邦より、優位に見えるものの、
東南アジアから浸透するアヘンにより内情は、ボロボロだった。
軍閥
昔の日本で言うと戦国大名などで独裁制があり、
力が弱いところは無政府状態だった。
揚子江を機関車が走る。
イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、
聖ロシア、イタリア、日本、オランダの役人が特別車両に乗っていた。
「・・・本気でインド人と中国人をインド・中国大陸で掻き混ぜるつもりなのか?」
「インド人3億5000万と中国人4億5000万を合わせて、8億人」
「別々に統治するのは、困難だ」
「そういえばインド独立運動も」
「どこかの民族のおかげで盛んになっていたな」
「・・・・・・・・」
「中国人とインド人を掻き混ぜてしまうのは、賛成だな」
「大陸にへばりついている半島としては、華北連邦の圧力を軽減させたい」
「しかし、取り分がな・・・」
「イギリスのインド全部は、仕方がないとしても・・・」
「揚子江の4割は。ずるくないかね」
「インド人がそれだけ多いということだ」
「統治で楽ができるのなら、少しくらい妥協しても良いがね」
「問題は、中国人の反発だな」
「インド人と違ってバラバラではない」
「バラバラにするんだよ」
「中には “進んで” という連中もいる」
「植民地の中間管理職で中国人勢力が増せば」
「世界的に一大勢力となる華僑的な発想だ」
「定着した後、中華圏ネットワークを形成すれば世界の主流民族だな」
「ネットワークを利用できれば、支配層にもなれるだろう」
「人口が多い民族でなければ思い付かない発想だ」
「ふっ 確かに中国人をアフリカ、インドに1億ずつ移民させても」
「中国人の利益になるだけだ」
「中国人は死ぬ人間より生まれてくる人間が圧倒的に多い」
「そんなことになったら世界は、漢民族に征服されてしまわないか」
「しかし、植民地開発では潰しが利いて有用だぞ」
「確かに有用だがね」
「中国人の識字率は増加傾向を示しているし」
「知恵をつけてきているのは確かだ」
「識字率が低くても、経験からでも学べるからね」
「知識を高めるのは、識字率だよ」
「我々の意図に気付いている者も少なくないよ」
「華北連邦は、内戦で識字率が低い状態でやりやすい」
「しかし、華南合衆国は識字率が上がってきている」
「識字率が高いと個人の能力だけでなく」
「民族全体で知識が補完されてしまうからな」
「植民地化が不可能になるよ」
「確かに知性のある人間に対しては、相応に敬意を払う必要がある」
「無碍に扱うわけにはいかない」
「華南合衆国で内戦は?」
「蒋介石大統領は、それなりだな」
「不正腐敗は多いが統制が取れている」
「それに内戦を起こしたいからといって共産主義勢力の蔓延は、不味い」
「文盲率を増やす方法を考えないとな」
「元々、中国の上流階級を保護するため漢字が難しくなった経緯がある」
「当然、その体制を保護すれば良いのだが・・・・」
「それは、もう利かないだろう」
「欧米に学んだ就役者が内陸部で工業を興して産業が広がりつつある」
「たしかに中国の民族資本も増大している」
「華南と華北は、庶民レベルで教育熱が芽生えつつあるよ」
「・・・人の良い日本人が手助けしている場合もあるし」
「・・・・・・」
「日本の支援で中国大陸の支配を可能にしたのだ」
「ここに来て、裏切ることもなかろう」
「い、いえ ・・国策でなく、民間人の行動ということで・・・・・」
「そんなに黄色人種や有色人種から良く見られたいのかね」
「こ、古来から付き合いもあるし・・・成功報酬もあるようで・・・・」
「エチオピアの慈善事業も古来からの付き合いかね」
「じ、持参金代わりかな・・・」
「揚子江の収益がなければ黙っていないところだよ」
「ほうイタリアも日本を敵に回すなんて」
「ドナウ、ブルガリア、トルコと事を構える気になったらしい」
「気前が良いな」
「やれやれ♪」
「応援するぞ。カタログと注文書を送るからな」
「・・・・・・」 憮然
当初、バスを装甲化してキャタピラをつけた車両は、
相手が小火器であれば有効な兵器であり。
中国民衆が満足な武器を持っていない間、揚子江で力を発揮した。
しかし、荒地などを移動する上で少しずつ改良、馬力が向上していく、
装甲バスの延長から兵員装甲車として独立。
各国に兵員装甲車が波及。
さらに改良されていく。
そして、その戦訓は、スペイン内戦や揚子江で確認される。
日米欧とも兵員装甲車両であれば売却しても簡単に撃破できる、
という思惑があってか、遠慮なく輸出する。
戦線 1
華北連邦第3師団に日本製の兵員装甲車が配備されていた。
日本の兵員装甲車は、装甲5mm〜8mmしかなかった。
シモノフ自動小銃、モシン・ナガン小銃の(7.62mm×54R)など、
近距離であれば小銃でも貫通できそうな装甲だった。
逆に言えば斜めから撃つと跳弾してしまう、
それで十分だった。
装甲車側は、装甲に正対する方向を集中して、監視すれば良いことになった。
おかげで適度な安心感と緊張感が保てた。
それでも、不安なのか、停止するとすぐ、
土嚢袋を装甲車の回りに吊り下げる。
こういう発想は悪くない。
兵員装甲車は、軽くて移動しやすく。
移動した後は、土嚢で被えば、ソコソコに防御力が増す。
正面は、できたてホヤホヤの八路軍。
編成は、かなりいい加減で、軍編成の感じでもなく、士気だけは高い。
武器弾薬は、ソビエトから供給され、重火器はない。
しかし、大戦後、武器弾薬の大量処分場であり、
新兵器の実験場でもある。
「ル・シュン大佐。共産軍は、広陵沿いに展開しているようです」
そして、妙に大きく黒いものを見つける。
「あれは・・・・戦車だな」
「毛沢東に戦車を渡すなんて、ソビエトも、キチガイですかね」
「多砲塔か・・・・T35じゃないのか」
「新型ですか? まさか」
「一両だけだ」
「よくもまあ、あんな、でかくて、重そうなものをここまで・・・」
「ソビエト兵もいる・・・」
「こっちは、話しにならないか・・・」
戦力は、兵員装甲車4台。
歩兵砲2門(20口径76.2mm)を引っ張っていた。
あとは、ドイツ製の迫撃砲3つ。
戦車さえなければ、
兵員装甲車の6.5mm機関銃8丁とプラス20丁で掃討できた、
しかし、共産軍に戦車が1両あるだけで旗色が悪くなる。
「ソビエトは、新型戦車を試しに使ってみようということでしょうか」
「たぶんな」
「長征後、ソビエトから安定した支援が得られるのだろう」
「だが運が良かった」
「高速のBT戦車だったら、こっちが全滅していたな・・・」
インド傭兵部隊が本国への戦訓報告で、あれこれ算段し、
ル・シュン大佐は、面白くなさそうに見つめる。
高初速で貫通力に優れた対戦車砲はなかった。
T35戦車1両の一人勝ち。
歩兵砲や迫撃砲が上手く当たれば良いが、
元々、動く相手を狙う大砲ではない。
高速で移動されたら当たるものでもない。
仮に当たったとしても低初速。
装甲の薄い上面でも破壊できるか怪しかった。
歩兵砲をT35戦車が進みそうな方向に向け、
あらかじめ射線を合わせておく。
しかし、撃ち漏らせば全滅する可能性もある。
脳内で絶望的な戦闘シミュレーションを組み立てて行く。
兵員装甲車両が囮。
歩兵砲が運任せで戦車相手に使われ、
あとは、歩兵同士のオーソドックスな撃ち合い・・・
「中尉! 本部からです “戦車を捕獲せよ” です」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・増援は?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「増援を要請して来い! 対戦車砲か、航空部隊だ!」
通信兵が敬礼して慌てて走っていく。
華北連邦の士気は低下していた。
貧富の差も大き過ぎた。
欧米諸国も、日本も。
近代化は、弱者を搾取することで行われた。
華北も、華南も選択の余地はなかった、
中国の不運は、悪辣な社会に絶望した国民がアヘンに蝕まれ、
欧米列強の侵食が清国最悪の時期に重なったことにあり、
近代化で失速するだけでなく、国益すらも売却されてしまう。
利に聡い漢民族が国益より私腹を選択し、
中国人富裕層の多くは、列強と組み、利害を一致させていた。
莫大な資源と財宝が国外へ流れ、相当分が日本国内に流されていた。
しかし、植民地化されつつも、
私腹を肥やした一部の資本が近代化に使われ、
華北連邦と華南合衆国の産業、国力として反映される。
日本が羨ましかった。
日本人を搾取しているのは日本人だけ、
しかし、他にどんな選択があるのだろうか。
正義の味方ぶって、
列強資本に挑んだ華僑資本家は、ことごとく利益を失い。
脆弱な状態で貧しい中国民衆に取り残され、
守ろうとしたはずの中国民衆から簒奪される。
それなら、民族資本は、欧米資本と組むしかない。
共産主義勢力は、民衆の間で少しずつ支持されつつあった。
共産主義の考え方は中国の伝統になかった。
儒教にも馴染まず。
中国人の商魂とも合わない。
もし、共産勢力が中国大陸で主流になれば揚子江域を巡り、
欧米露列強と全面戦争になる。
世界最大の人口を有する中国人とインド人が殺し合うことになる。
動員される兵力なら、
それだけで世界大戦の動員数を超えてしまう。
欧米諸国にすれば、それでも良いと思うのだろう、
しかし、中国人とインド人にすれば不幸といえた。
日本
某駅に近い工場
お偉いさんたちが電気バス生産工場のテープカットのために集まってくる。
リムジン、ロールスロイス、ベンツ・・・・・・・自転車・・・
ケーブルテレビ局が撮影し、
総理大臣が国民に人気取りを始める。
首相公選で解散権を失った。
しかし、議会勢力(自民・民主・ほか2)から独立できて、
任期満了まで総理が出来る。
比較的、外面の良く、奇麗事を言う者が選出されやすく。
選択が正しいか、正しくないか、別にして、
国民が自分の判断で総理大臣を選ぶことが出来た。
もちろん、総理大臣は、好き勝手できるわけでもない。
議決を握っている議会と根回しをしながら政策を進めていくことになる。
ということで議会の多数派を味方につけようと、
相応に大人の付き合いが必要になってくる。
「これは、これは、海軍長官。海軍演習は、どうでした?」
と。某省高級官僚が声を掛ける。
「んん・・・・まあ、なんとか」
「戦艦と小型巡洋艦。戦隊を組んでの演習は、初めてですよね」
「ええ、戦艦が通商破壊で小型巡洋艦が遠征艦隊への襲撃で分担していましたから」
「新たな可能性というところです」
『衝突しなくて良かったですね』
『まったく。クビがかかっていましたから、冷や冷やものでしたよ』
「あ、飛行船も参加したんですか?」
「ええ、3次元的な展開が、確認できました」
「天候も良く」
「今回は、ありがたいことに砕氷空母も特別参加させていただきましたから」
「いやあ、日本の国防を図る。実弾演習ですから当然です」
「品質保証期限間近の弾薬は、一掃しましたよ」
『次期予算の復活折衝で折込詰みですのですから安心してください』
「頼みますよ。本当に・・・」
「いや、わかっていますよ」
「しかし、近代国家としての体面がありますからね」
「今回は、本当に申し訳ないと思っているんですよ」
「別に下水道に負けたとは思っていませんよ」
「いやいや、次ぎは必ずですから。必ず」
「酸素魚雷・・・」
「わかってます」
工場から電気バスが出てくるのを見ると拍手して向かえる。
前輪2つ、後輪4つあるのは、車輪の中にモーターが組み込まれ、
タイヤが多いとパワーが強くなるため、合理的なのだろう。
運輸省が我田引水の限りを尽くして培った技術が、ここに結実していた。
国防省も泣く泣くだった。
しかし、潜水艦の蓄電池の性能向上にも反映され、
さめざめまでは、いかない。
車体も、最新のアルミニウムで作られて軽量。
国防省の航空機が少ないと思われていたら、
ここに使われている、という感じだろうか。
沿線集約型経済だからこそ可能な量産型電気バスだった。
結局、利権を生むのは、既得権益の強さと、
予算と人の数で補完し合っている勢力といえた。
発電所−電車−電気バス−電気自動車とラインをおさえている。
利用者数を増やし、
沿線集約型経済圏を維持できるなら運輸省は、安泰だった。
郵政省とも組んで宅配業務も一新させていく。
サービスが良くなるのも
不正腐敗のミソギ代わりであり、
利権の外堀でしかない。
当然、路線から外れた地域は過疎化が進む。
地域格差が生まれるが地価の値下がりは、路線拡大に好都合だった。
ガソリン自動車を追い出せば、
利潤を阻害するものはなかった。
土木建設用にディーゼル・ガソリン車が残るだけで、
それすらも電化できる。
国民の一部に拒絶反応が起こり、
海外に移民する者がいる、
ほんの一部だ。
そして、不穏分子は行ってもらおうと、
海外移民制度も整えられていた。
時折、不正腐敗で叩かれるがトカゲの尻尾きりでも、
本体だけは難を逃れていた。
“総理大臣より、運輸大臣になりたい”
が一般的な総理の感想だった。
そして、各政党も運輸大臣だけは手に入れようとし、
議決で総理大臣と妥協したりもする。
華北政府(汪兆銘)は、手続きを踏み、
華北連邦の近代化と国力増加で主権を回復しようとしていた。
これは、明治以来、日本が行った対外・内政政策であり、
近代化と工業化による独立だった。
一方、共産軍(毛沢東)は、ソビエトの力を利用し、
華北政府を打倒し、共産主義体制を作るつもりだった。
どちらの勢力も金の生る木である揚子江を、そのまま欲しがる。
北京から東へ約12km 通州。
主流派の華北政府、反主流派の共産軍。
主流と反主流の思惑とは別に、イレギュラーが起こることもある。
通州事件。
白人支配に対する盲動的な中国人の逆襲が起きた。
というより、現地の中国指揮官が、
インド人か、黒人の役人にバカにされたのだろうと見当が付く。
冀東防共自治政府保安隊(中国人部隊、約3000人)が、
この地域の列強勢力を襲撃した。
420人が次々に襲撃され、
インド人、少数民族系、黒人、フィリピン人の商人、役人、民間人など、
230人が殺害され、
数人の白人も混じっていた。
一番、慌てたのは、列強の力を知り、
利益分配関係にある中国人富裕層だった。
真っ青になって、汪兆銘政府に冀東防共自治政府討伐を要請。
列強軍2個師団(インド兵9割)が冀東防共自治政府に
最後通牒を突きつけようとしたとき。
華北軍 第29軍が自治政府軍を攻撃。
列強軍2個師団が呆然と見守る中、目を覆いたくなるような虐殺が行われる。
列強は、怒りの矛先が消えてしまい、
仕方なく華北連邦政府に損害賠償を請求。
そこに身の安全を図る中国資本家層の思惑が絡んでくる。
北京から12kmにある通州(縦4km×横6km)が、
列強共同の租借地になってしまう。
日本で言うと横浜がそっくり列強に取られるようなもので、
売国行為なのだが、
中国民衆は、意外にも歓迎し沈黙していた。
中国官僚の不平腐敗より、
列強の支配下の方がマシと思われていたのだった。
戦線 2
華北軍 第3師団のル・シュン大佐は、戦場を呆然と眺めていた。
血と火薬の匂いが戦場に漂う。
あまりの痛ましさと息苦しさで、
丘を中心に自然と中立地帯がつくられる。
T35戦車と交換したのは、戦力より兵力。兵隊の命。
何のことはない。
弾が尽きれば戦車もただの箱。
重鈍なT35戦車は逃げ切れず捕獲された。
犠牲者が弾の数より少なく済んだのは、
戦闘機の援護射撃と幸運だろうか。
ソ連兵も中国軍の数に圧倒され、
射撃も定まらなかったらしい。
これ以上殺せば、絶対に殺される。
という限度を越えている彼らは、戦車運用の鍵だった。
華北連邦の技術力、工業力では持て余すだろう、
しかし、戦車の基本設計は、学べるだろう。
エンジンや大砲は無理でも、買えば良い。
車体くらいは、真似事で作れるはずだ。
それが簡易版で例え軟鉄でも・・・・
この場に居たくもないが
T35戦車を持ち帰らなければならなかった。
性能が低くても華北国産戦車が量産できれば
主権回復に一歩近付くことができる。
中国人は主権回復のための血なら
白人どもを溺死させるほど流してみせるだろう。
出雲 (スヴァールバル諸島)
日本海軍出雲常備艦隊旗艦
“クシナダ” (旧イギリス海軍H型駆逐艦マーティン)
780トン、(83.8m×7.8m×2.7m)
102mm45口径単装砲2基、76.2mm単装砲5基。
小さくても旗艦だった。
通信設備が地上施設と有線で直接繋がって強力なのが口実であり、
普通の軍艦と違って迎賓用も兼ね。
内装が贅沢なのが本音。
4000トン級綾波型4隻(綾波、涼波、磯波、巻波)。
2000トン級潜水艦4隻
800トン級補助艦艇6隻が常駐配備された。
そして、同型列の綾波型4隻が停泊していた。
スウェーデン艦2隻、ノルウェー艦1隻、フィンランド艦1隻。
基本的に同じ艦体だった、
大砲は、イギリス製50口径140mm連装4基が装備されていた。
無理して載せているというより、
ローカルパワーに徹し、航洋性を減らして載せている。
「最新鋭の綾波型が売られていくのか・・・・」
「我が国も140mm砲くらい。採用すれば良いんですがね」
「増強分が不安定な “思いやり口座” ではな・・・」
「新規格の火砲なんて、おいそれとは、採用せんよ」
「この前の予算でボフォース40mmを採用したから当分ないな」
「2ポンド砲と被るのに大英断でしたからね」
「次ぎの予算は、雷撃機にするという噂ですが」
「雷撃機だと・・・運輸省の?」
「はは・・・最近は、そればっかりですね」
「安心してください。国防省規格ですよ」
「だと良いが・・・」
「どうせ、運輸省の飛行場を使うのですから」
「・・・ったく」
「鉄道直結で便利なんですけどね」
「いつまでも間借り生活とは、航空隊も不憫だな」
「そういえば出雲も穴を掘っていますからね」
「炭鉱探しついでに地下鉄建設なのか」
「地下鉄建設ついでに炭鉱探しなのか・・・」
「出雲も運輸省の支配下になるんでしょうかね」
「どこかで戦争でも起きないか」
「そうすれば、軍事費も増える」
「そうですね。やはり、中国辺りで起きない限り難しいでしょう」
「華北や華南も海軍ぐらい創設すれば良いのだ・・・」
「内陸部の産業保護で、それどころではないのでは?」
「そういえば通州事件。収まってしまったな」
「華北連邦政府に対する。中国人の反発は少なかったようです」
「政府官僚が見限られているのだろうな」
「運輸省もそうなればいいのに・・・」
「それで、中国民衆の列強の矛先が収まって、一息というところですか」
「白人をほとんど殺されていないから、列強は、損害賠償目当てだよ」
「本当に金でも良かったんじゃないか」
「華北連邦は中国民衆を引き締めて、同じような武装蜂起を牽制したのでは?」
「だが、汪兆銘政権がある限り通州の租借地が保護される」
「列強も歩み寄るだろう」
「中国民衆が反動で共産主義勢力に向かわなければ良いのですが」
「そうだな・・・」
「それは不正腐敗が、どれくらい少ないかにもよるな」
「不正腐敗が多ければ、政府を不信任ですか?」
「どこの国でも同じだよ」
「限度を越えれば、倒閣運動も起こるよ」
出雲
17年掛けた設備投資で、炭鉱、漁業、発電所、港湾が整備されていく。
ここで、スウェーデンの鉄鉱石を溶かし、
銑鉄にして日本に持っていく、算段で高炉製鉄所が建設される。
日本企業の欧州支店も進出してくる。
極地で不便な場所なのだが
夏季航路で北極海航路が使えて採算も悪くなかった。
さらに日本製品の修理回収用の工場が進出すると。
不足がちだった生活用品が増え、
輸入していた生活用品は潤沢になり、
逆に一点集中で生産する魚介類の缶詰で黒字転換していく。
大恐慌中でも、おなかが減るらしい。
というより、日本人の欧州進出が増えているのが原因といえた。
たんに日本本国が遠いから日本人街を造り、
そこで観光しようという発想だった。
おかげで、相乗効果があるのか、
欧州・アメリカ東海岸の日本人街と出雲は、密接な関係が作られていく。
しかし、同じ日本人でも環境の違いで感性や雰囲気が違っていた。
知覚認識の違いで日本、出雲、扶桑、敷島、瑞穂の文化に分かれていく、
スペイン バルセロナ
共和党派の勢力圏
フランコ国民戦線軍の傭兵の中に日本人がいた。
茂潮ケンジ
持っている銃は、タイプ94。
これが好きというわけでなく。
官給品で貰って、そのまま使っているだけ。
教育過程でタイプ94の戦術を教え込まれ。
イザ実戦配備段階になって好きな武器を選べといわれたら・・・・
“教育に問題あり” だろう。
と思うのだが他にもいろいろカリキュラムがあるから、
後は実践からということだろうか。
任務は、フランコ軍への参戦でフランコ将軍との顔繋ぎ。
共和党派にも日本人傭兵が当然いる。
勝つ側に付いたのなら運が良い。
勝った後、日・スペイン間の関係を有利にするためにいる。
軍艦1隻も売れば元が取れるのだろうか。
他にもいろいろと、うまみがあるのか
“死して屍拾うもの無し” は面白くない。
成功報酬も、それなりにある。
とりあえず任務は、共和軍の後方撹乱。
偽の情報(ある丘を総攻撃)を送り、
敵の正しい情報(戦力・作戦)を持ち帰る。
互いの戦力が拮抗していたら、
片方の戦力を7割を集め一気に投入する。
ランチェスターの法則で戦線は、簡単に崩壊する。
世界大戦でドイツ軍が使った手で、
戦場の指揮官になれば、そういった大規模な賭けを夢想したくなり、
成功すれば一躍、歴史に残る名将軍になれた。
しかし、事前に情報がばれていたら、
逆に弱そうな戦線を突き崩せば良い。
いまのところ、どちらの戦線もそういった誘惑に駆られず。
均衡は、破られていない。
夜、木陰に隠れ、
十字路にドイツ製兵員装甲車が止まっているのを確認する。
いま注目の戦闘車両の兵員装甲車で、
装甲は6mm〜15mmほどあるらしい。
ドイツ帝政は、スペインの共産化、ファシズム化とも望んでおらず。
恐慌対策のためか、どちらにも兵器を売っている。
なんとなく、タイプ94にしたことを後悔したり、
敵がタイプ94を持つと厄介な銃に見えたり、
というより、うっかり顔も出せない。
戦闘車両の銃眼を狙って撃ち込める気もする。
フランコ軍と共産軍は、空手形を奮発している、
共産軍は、装甲車を何と交換したのやら、
もっとも、どちらも勝ったとたん、後悔するに決まっているが、
当事者同士は、それどころでないのだろう。
スペイン国民は、そういった空手形を後から回収されること知っているのだろうか。
内輪揉めしている場合ではないのだろうが、
深刻に考えないのがラテン系なのだろうか。
とりあえず大きく迂回し、やり過ごして諜報活動を続ける。
手帳に日本語をさらに暗号にして、書き込む。
単純な暗号だが日本人が見てもすぐに解読できないだろう。
一応、報道関係者で入国していることになっている、
だからといって、命が保障されているわけでもない。
ちょっとした町に入るが静かだ。
共和軍の兵士たちがチラホラと目に付く。
持っている装備は列強各国の武器。
まちまちだがソビエト製が半分以上を占めている。
しばらくすると突然、銃声が聞こえ、銃撃戦が始まり、
戦闘に巻き込まれた。
思わず短機関銃を持って来れば良かったと後悔する、
もっとも、そんなものを持っていたら、
いきなり撃たれても文句を言えない。
拳銃なら護身用で言い訳が出来た。
捕まれば、捕まったで、
例のフィルムに相手が引っ掛かってくれるかも知れず。
捕まらなければ、そのまま、諜報活動が継続できる。
どちらでも良いが、できれば捕まりたくはない。
とんでもない巻き込まれ損で逃げ回ることになった。
どこかの家に逃げ込み、若い娘とラブロマンスなら嬉しい、
しかし、親父に撃ち殺される可能性の方が高いだろう。
サブマシンガンの掃射が足元を掠めていく。
音からすると日本製の短機関銃。
すぐに遮蔽物に隠れる。
自国製の短機関銃に狙われるのは理不尽だ。
遮蔽物から出たら確実に狙い撃ち。
他の国の小銃や機関銃なら、
他の遮蔽物に移動することも考える、
しかし、日本製は、素人でも、ほぼ狙い通りのところに当たるため、不味い。
身動きが取れなくなる。
足音が近付いてくる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
その時、銃撃が聞こえる。
すぐに飛び出し、目の前の兵士4人を撃って逃げ出す。
後ろから撃ってくるが
4人とも負傷しているせいか、当たらず。
遮蔽物に隠れ、そのまま、逃走する。
教会に逃げ込むと肩の痛みで、
掠めた銃創から血が流れていることに気付く。
緊張が解けたせいか、痛みが強くなっていく。
予備のカートリッジと交換し、
不意に気付くと倒れ込んでいる男が自分に銃を向けていた。
訓練通り、咄嗟に避けるが死を覚悟する。
男は、撃たなかった。
気になって覗き込む。
白人の男は、ぼんやりと一点を見詰め、死にかけている。
見たところ、ドイツ人だ。
「よう・・・日本人」
「こんなところで、何をしているんだ」
「報道でね」
「ふっ 傭兵だろう・・・俺もそうだ」
「なぜ撃たなかった?」
「おまえの後ろ・・・」
「後ろ・・・・」
白い花が飾ってある。
さすが教会だけあって、内戦中に酔狂なことをする。
「俺の銃だと・・・花が台無しになるからな」
ワルサーP38。
「俺の献花を・・・血で汚すのも・・・つまらないだろう」
「おまえの国の花か?」
「ふっ・・・・ふっ・・・ははは・・・・ははは・・・」
男は、笑いながら死んでいった。
その後、散々逃げ回って、本隊に辿りつき、
共和軍の戦力を報告する。
あの白人にカメラとフィルムを持たせ、
代わりに彼の荷物を貰ってきた。
共和軍がフィルムの罠にかかるか、わからなかった。
しかし、上手くいけば成功報酬が入る。
白人の荷物の中に化学式と製造法らしきドイツ語の文書がある。
彼がドイツのスパイなのか、アメリカのスパイなのか、わからない、
彼も巻き込まれたのだろう。
近くで飛行機が不時着したという情報もある。
この文書が本物か、フェイクどうか、わからない、
日本に持って行けば役に立つだろう。
酒場で、フラメンコの踊りを見ると生きていることが嬉しくなる。
あの時の白い花が飾ってあった。
スペイン人に聞くと、テッポウユリという、日本の花だそうだ。
聖母マリアの花だとも言われている。
“扶桑生まれ、扶桑育ちの俺が知るわけないだろう”
と思うのだがスペイン人は、仲間と一緒に笑い転げている。
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月夜裏 野々香です。
この時期の戦車・艦船・航空機の様子を一覧表にしました。
重たいので分けました。
運輸省のピラミッド利権構造は、産業全体を巻き込んでの圧政?
で、まだまだ続きそうです。
日本の、国防省は、“思いやり口座” で何とか凌いで、
列強の軍隊らしく見せていますが、アラだらけです。
もっとも列強も大恐慌で、日本と同様に軍装備は、アラだらけ。
国民の多くは、明日の仕事、明日の食べ物。
戦争なんて・・・・・という感じです。
中国の近代化に関しては、史実というより。
現代中国でも貧民層の犠牲によって成り立っているので、
選択の余地はない気もします。
イギリスの産業革命も紡績工場の女工さんたち。
そして、日本の近代化も紡績工場の女工さんたちなど。
女工さんだけを強調するつもりはありませんが、
貧民層の犠牲があってのこと。
善悪を問うつもりはありませんが、
繁栄の陰に光と影と言うところです。
第45話 1937年 『花の色は?』 |
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