第48話 1940 『嵐の前・・・』
ルーズベルト大統領の国防予算増加案が議会で拒否。
海軍拡張計画ビンソン案は、150隻から50隻に縮小される。
アメリカ ベルバーム社(ブローニング社)
イライラと歩き回る社長。
「・・・納入が4分の1に縮小したぞ」
「予算は、失業者対策に持っていかれるようです」
「働いている者から集めた金を働いてない者にやってどうする」
「仕事を作れ!」
「議会のバカどもが選挙受けを狙いやがって・・・」
「それと、政府側から警備員の装備品をアメリカ製にして欲しいと・・・」
「そんな収支が合わなくなることが出来るか!」
「警備員の半分を解雇しても良いのなら、やってもいいがね」
「取引というより儲けることしか考えていませんね」
「移民会社を作るか・・・」
「揚子江行きの・・・」
「東京オリンピックを見てから揚子江のルートで・・・」
「アメリカ政府の反発が予想されますが・・」
「失業者を減らしてやろうというのだ」
「フロンティアスピリットを忘れ」
「儲け主義に走ったアメリカは、大恐慌で足腰も立たないほどだ」
「需要さえあれば、何とかなるのでしょうが・・・」
「軍事力でフロンティアスピリットをやられても他の国が困る」
「護身用の銃で十分だ」
「しかし・・・」
「フロンティアスピリットを駆り立てられるような揚子江映画をもっと配給すべきだろうな」
「それで、揚子江移民を煽って、ガバメントを売りまくる」
「失業者は、1400万人だから100万人が移民しても100万丁が売れる」
「200万人なら200万丁」
「揚子江では、6.5mm弾、7.62mm弾、9mm弾に押されているようですが」
「11.43mm弾は、不都合なのか?」
「ガバメントは、聖ロシアでも揚子江でも生産している」
「修理も弾の心配もないだろう」
「中国人は、数が多いですから威力より弾数がモノを言うようです」
「ガバメントだと携行できる弾が少なくて、不安になるかと」
「うむぅ・・・」
「最大の理由は服の中に隠すには、大きく重過ぎることでしょう」
「・・・9mm仕様のガバメントは?」
「試作中です」
「9mm×19だったな」
「6.5mm、7.62mmに負けるようなことはないだろうな」
「同口径のP38よりは・・・」
「しかし、それぞれの口径で特色が好まれているので、なくなることはないかと」
「まぁ〜 いい」
「アメリカ人が揚子江に行く時に買っていくのなら、問題ない」
「簡単に銃器転換もないだろう」
「ええ、いまのところ、揚子江情勢は安定していますから」
「使われる機会はあまりないかと」
「ハリウッドにガバメントの宣伝をしてもらおう」
「威力があるから派手でいいだろう」
「壁ごと撃ち抜いてというのは、ガバメントくらいのものだ」
「確かに派手ですからね」
「しかし、ルーズベルト大統領も意気地がない」
「ニューディール政策も、中途半端」
「軍備拡張も、中途半端ではないか」
「どちらかというと、欧州の方が先に大恐慌から立ち直っているようです」
「3大陸搾取鉄道か・・・・」
「ええ、イギリス、ドイツ、ドナウ、ブルガリア」
「トルコ、聖ロシア、日本の7カ国がグルですから」
「大陸鉄道の維持管理は問題ないかと」
「旧世界が鉄道で結ばれるか」
「飛行場と港湾もです」
「オランダ連邦もスマトラ島とマレー半島と連結させ」
「欧州オランダと鉄道で連結させたがっているようです」
「白人の世界になってしまいそうだな」
「彼らの傲慢さには辟易するが、それでも利益は捨てがたい」
「華僑資本、印橋資本も同族を搾取しながら増大しているようです」
「ふっ 世界最大の人口を持つ民族の考えそうなことだ」
「なかなか、できることではないかと・・・」
「それでも、やるだろうな」
「同族の半分が飢えて、死んでもまだ多い・・・・・」
「同族を踏み躙っても世界に出て成功しようとする」
「揚子江は、人種、民族、宗教、貧富、文化、言語など」
「格差が大きくなれば、バルカン半島以上の火薬庫になるのでは?」
「それが望みだろう」
「イギリスの植民地経営のセンスは、列強中で最強だよ」
「それに列強のほとんどが金に目が眩んで」
「揚子江自由市場を支援している採算も難しくない」
「何より中国富裕層が昔の中国に戻るのを拒否している」
「いまさら国粋主義に戻っても」
「裏切り者で殺されるだけだからな」
「そして、中国最強のポーランド軍と最大のインド軍が揚子江に配備されている」
「小火器主体の華北軍、華南軍、共産軍とは格が違う」
「それに伝道所。地道だが着実に列強と民衆との関係を強化している」
「しかし、不確定要素があるとすれば、華北政府、華南政府の不正腐敗だな」
「あまり酷いと共産化もありえる」
「華北、華南政府とも農村部を圧政しているようです」
「各地で共産軍と結びついて蜂起」
「政府側の鎮圧が起きているようですが・・・」
「選択の余地がないのだろう」
「華北、華南とも国家主権を確立するため」
「弱者から搾取して国力をつけるしかない」
「そして、華北も、華南も列強を悪者にしなければ、政権が崩壊する・・・・」
「中国民衆も口減らし方法として」
「政府や列強を利用しなければ自分たちが食えなくなる」
「じ、自己責任というか、自浄能力がないですね」
「他者を悪者にする」
「一番楽で、一番始末に終えない方法だな・・・」
「まぁ、どこの国も似たような悪癖はあるがね」
「日本も穢多(エタ)・非人(ヒニン)を作って」
「農民層の優越感とモラルを維持したことがある」
「揚子江は、まだ大丈夫でしょうか?」
「搾取する側が5パーセント以下なら何とかなりそうだがね」
「政府官僚と富裕層で5パーセント」
「んん・・・中国大陸の人口4億5000万人なら2250万人以下だ」
「貧富の差こそ小さくても、この比率は日本も同じだろう」
「最近は、中国大陸とインド大陸をまたいで」
「中国人とインド人が、かなり混ざっているようです」
「中国のインド化か、自分の手を汚さずに利権と金だけを手に入れる」
「国営でアヘンを売った事もあるイギリス人の考えそうなことだ」
「アメリカ資本は、揚子江にダムを建設し」
「重慶まで10000トン級船舶を乗り入れる計画を立てているようです」
「3大陸鉄道に対抗してというより、合わせてだろう」
「しかし、アメリカ国内産業が欲しているのは内需だよ」
「一部の財閥のための利益ではない」
「3大陸鉄道の東の端の日本も利益が大きいのでは?」
「大きいだろうが・・・」
「海峡トンネルは、東京オリンピックに間に合いそうにないな」
「ええ、肝心の津軽海峡トンネルと宗谷海峡トンネルがまだですからね」
「それでも、すぐに3大陸鉄道と連結できる樺太産業は、急速に拡大している」
「いま一番成長率の高い州だろう」
「ええ、半島南岸部と遼東半島も急速に工業力が増大しているようです」
「旧大陸は、大恐慌を脱したかな・・・・」
「ええ、アメリカ大統領も焦っているようで・・・」
「・・・戦争したいだろうな」
「ええ・・・」
半島南岸 高興半島
半島南岸にへばり付いた日本領土。
露清戦争で清国が敗北。
ロシアに全朝鮮半島を占領されることを恐れた日本政府は、
半島南岸の半島と島の一部を占領。
この地に対露南進を阻む要塞が建設。
日露戦争で激戦地となった。
その後、第一次世界大戦で日露接近。ロシア共産革命後、露ソ分割。
ニコライ二世救出。
そして、皇族間婚姻で日本と聖ロシア帝国は、実質、同盟関係となっていく。
南岸要塞がようやく、形になったとき、
要塞の価値は最安値になっていた。
代わりに日露貿易のための産業がこの地に興る。
地峡を挟んで日本風の家屋とロシア風の家屋が並ぶ。
半島南岸領は鉄道、自動車だけでなく、徒歩で聖ロシアに行くことが出来た。
地峡の最も狭い場所でパスポートを見せれば国境を簡単に越えられる。
歩いていける距離に白人世界があるのも慣れた。
半島全体は、朝鮮半島と呼ばれておらず、
青い目をした白人たちは、聖ロシア半島と呼んでいる。
半島にいる朝鮮人は、わずかな有力者ばかり、
朝鮮半島と呼ばれていたことを知る者も少ない。
ロシアは、日本人に気を使い、
朝鮮民族の多くを満州側に強制的に移民させていた。
ロシアの食料が日本へ運ばれ、
日本の工業製品がロシアに流れていく。
当初、聖ロシア帝国の工業化は進み、
日本の工業製品の輸出が減ると危惧されていたがさにあらず。
ロシア産業の多くが軍事部門に取られ、
民製品は日本から入る。
そして、状況は、東洋の小ドイツ帝国も同様だった。
労働力と資源はともかく。狭い領土で工業化は不利。
基幹産業こそ、伸びていくものの、
近代生活は裾野の広い産業で支えられなければならない。
日本の工業製品が必要だった。
日本産業は、揚子江、聖ロシア、小ドイツ帝国、
オランダ連邦の需要で経済は右上がり傾向にあり、
3大陸搾取鉄道が建設されれば大きな需要が見込めるのか、
日本産業界も設備投資が続いていた。
大恐慌でありながら日本の失業者は少なく、
総中流層といった国民意識が作られていく、
しかし、警告を発する者も多い。
アメリカの様に株投機が進み、貧富の格差が大きくなり、
大恐慌を起こすのではないかと。
その兆候はあった。
政府はアメリカ大恐慌と同じことが日本で起こるのではないかと
警戒して連日のようにコラムに警告が書かれている。
それでも株投機熱は収まらない。
株投機をする者が新聞を見ないわけがない。
人の欲とは実に見境なく恐ろしいものだ。
株投機に忙しく散漫になれば生産と開発が遅れ日本産業自体が低迷する。
わかっていても目先の利益があると止められないのだろう。
あとは、ババ抜きと同じ、
最後に引いた者が破産するまで続く。
それとも潰れない企業があるのだろうか。
損失補填?
そういえば、一時期問題になって叩かれた。
レストランに入る
テレビが流れている。
この辺は、日本の有線が敷かれ、
ロシアの有線放送会社が間借りし、鉄道沿いに視聴者を伸ばして成長している。
東京オリンピックの柔道で小柄な日本人選手が体格の良い白人選手を投げ飛ばしていた。
重量差別も少し幅があるようだ。
日本料理、ロシア料理、中華料理がメニューにあり、
日本人の就業者も珍しくない。
いや、多い。
ビーフストロガノフ、ボルシチ、ピロシキを頼む。
日本の新聞が置いてある。
“中国人と朝鮮人が反日運動を展開”
“有色人有力者とアジア連合派が接近”
と書かれている。
有色人種のヤッカミは強い。
日本人が、ほかの有色人種の中に行くと、ろくなことがない。
遠くの席で中国人らしい男と朝鮮人らしい男が白人選手の応援をして騒いでいる。
アジア連合派も、ああいうのを見れば少しは冷静になるだろう。
まあ、お互い様と言えなくもないが・・・・
日本人は揚子江より、聖ロシアやドイツ領に行く場合が多い。
日本人は白人世界で何とか泳げる、
というより日本人だけは特別扱いされ利益が大きかった。
他の有色人種は利用され、溺れさせられたりもする。
それが有色人、黄色人種の反日に拍車を掛ける。
確かに鼻持ちならない白人は多く、
日本のアジア連合派の勢力も増している。
日本と日本人は、
有色人種のために・・・・
黄色人種のために・・・・
アジアのために・・・・
主流でないが美辞麗句に共感してアジア派の日本人も少なくない。
しかし、金と利権の力は大きく、圧倒的に欧米派が多い、
有色人種、黄色人種の正義も、勇気も、プライドも、誇りも、色褪せる。
とはいえ、有色人と黄色人が日本に対して何か恩恵を与えただろうか。
日本史を紐解けば、アジアから得られたものは、あったにせよ。
古い話しであり対価は貢物で払っている。
苦労という代償も払っている。
空海と最澄も二分の一の確率で命拾いし、帰国している。
もっとも、その考えは正しいとはいえない、
“運が良かった”
というのも、どうかという気がする。
残りの船にも空海、最澄クラスの逸材が乗っており、
彼らの犠牲で日本が成り立っていると考えるべきだ。
朝鮮半島から中国へいければ良かったのだが・・・・
中国の威を借る朝鮮は、日中関係の密接を許すはずもなく。
日本は、どれほどの多くの逸材と人材を失ったのだろうか、
ピロシキ | ボルシチ |
料理が並べられていく、ロシア料理にも慣れた。
ボルシチは、ロシア料理でなくウクライナ料理らしい、
腹に入れば、どうでも良いような気がする。
・・・・新聞・・・・
“日本と日本人は、アジアの長男の所領を割いて白人世界に売り渡し”
“身包み盗られる次男を見捨てた”
と非難している。
この言い分は、正しいのだろうか、
当時、次男を実行支配していたのは三男の日本でなく、長男の清国だった。
露清戦争で清国が負けたのも日本のせいではない。
清国側に立って武器弾薬を売り渡し、
清国より正当に半島南岸の領有を得ていた。
そして、日露戦争。
日本は、ロシアと戦い、民族、国家、祖国を守り、
不平等条約をなんとか撤回し、ようやく国際法上の独立を果たしたのだ。
それ以前は言い掛かり、
それ以降は、中国人や朝鮮人の言い分の通りだろう。
日本は、白人列強の大陸支配を支え続けて、列強の末席。
第一次世界大戦で欧州諸国の弱体化で列強の中堅となり、
軍需利益で日露戦争の借款を返済し、欧米に並ぶ工業国家、近代国家になっていた。
日本の国力は、大恐慌のおかげでアメリカ、ソ連に次ぎ、ドイツ、イギリスを抜いていた。
ドイツとイギリスを中核にした欧州諸国の巻き返しが三大陸搾取鉄道といえた。
日本に他の選択があっただろうか?
有色人種、黄色人種、アジアのため、
日本と日本人に犠牲になれという者がいる。
日本と日本人を危険に晒してもアジアから白人列強を叩き出せと言う。
・・・素晴らしい。
美しくサクラと散って日本人好みの世界観であり、
右翼でなくとも惹かれる。
露清戦争前に日本が半島に進出していたら半島や大陸の利権を守るため、
そうなっていた可能性もある。
・・・・程度の低い支配欲。
自己満足やくだらない感傷と
正義感で祖国や家族を犠牲にすべきではない。
ナギナタを振るう白人女性が画面に映る。
様になっているがワザ・巧妙さで日本人女性の方が勝っているようだ。
漢民族と朝鮮民族が白人選手の応援で騒ぎ出した。
そう、スポーツは、国境と人種を超え・・・
今度は、気持ち的にスタイルと美貌で勝る白人選手の味方をしてしまう。
いや、金髪美人は得だ。
ナギナタ種目は、オリンピックでも男子禁制になったらしい。
最近流行っているウーマンリブというやつで “薙刀” は、女性自立の象徴になっている。
“太古の昔。女性は太陽だった” と・・・・
本来、ナギナタの意義と違うような気もする、
国際的な男女事情で日本の伝統文化が捻じ曲げられる、
やれやれだ。
どちらかというと日本人は、個人的に月の様な女性が好みだ。
とはいえ、東京オリンピック。
欧米から遠いため大成功とは言いがたい。
それでも、聖ロシア帝国、小ドイツ、オランダ連邦、揚子江の富裕層。
そして、アメリカ人の移民関係者がオリンピックに立ち寄り、
そのまま揚子江行きとかで、なんとか、成功といえる。
白人のウェートレスと目が合う。
良くある話しだ。
それだけではなさそうだが、年相応になると互いに求め合う。
白人世界では、日本人が魔法を使える噂が広がっている。
そうでなければ、黄色人種の日本人が白人列強と肩を並べるはずが無いと・・・・・
ばかばかしい話しだが真顔で言われることもある。
ちょっとした目配せと、誘いで交渉が成立する。
ロシア人の性格は、大体わかってカルチャーショックも少ない。
最近は、日本ナイズされ、
日本風の畳敷きの家に住むロシア人もいる。
壁に日本の着物。
日本人でも着なくなった着物を着る白人も珍しくない。
着るのが大変だろうと感心したりもする。
一番困るのが大和撫子が、どんな娘だといわれることだろうか。
日本人で探して見つかるものでもなく。
直接、会った事も見た事もない。
むかしは、大和撫子が多かったとも聞くが本当かどうか・・・・・
仕方なく、男の理想的な女性像を思いつくままに話す。
すると、聖書の蔵言にも似たような女性像が書かれているらしい。
どうやら古今東西、男の理想とする女性像は、似てるようだ。
聖書ならユダヤ教、キリスト教、イスラム教でも公認されている。
とはいえ、ロシア女性でも珍しく、
めったにいないそうだ。
男の願望かと作為的なものを感じ、
思わず苦笑いする。
ロシア正教は、聖ロシア帝国と日本で少ないながら定着している。
バルチック艦隊を日本に引き渡した損失分は、バルチック教会が稼ぎ。
ロシア本国に送金したとも言われている。
主要9都市の一等地に大教会があるのだから、それくらいは稼ぐだろうか。
ロシア正教の財源でも日本は重要な国といえる。
ロシア正教教会
「セルゲイ神父」
「日本人画家に教会の宗教画を描いて欲しいとのことでしたが」
「ええ、日本風の絵で、お願いしたいのですが」
神父が天井を指差す。
「・・・・・・・・・・」
日露国境近くの教会。
日本風の宗教絵も悪く無いと考えたのだろう。
「どうでしょう」
「天地創造から堕落。洪水審判」
「モーゼの十戒。キリスト誕生」
「そして、復活まで」
「できれば、日本画風で、お願いしたいのですが・・・」
ロシア正教は、犠牲の十字架より奇跡の復活を重視している。
日本人画家で宗教画を描ける者は、ソコソコいる。
しかし、洋画。日本風ともなると悩む。
さらに手の空いている画家。
そして、この規模の宗教絵を描ける者で・・・襖絵絵師で誰か・・・探すか・・・
「・・・わかりました」
「神父。何人かいるので声を掛けてみます」
「きっと良い返事ができると思いますよ」
「楽しみに待っています」
酒場というのは、いろんな話しが聞ける。
この近辺は、ベラルーシ人やウクライナ人も多い。
ドイツに占領された領土から、こっちに移民してきたらしい。
暑い揚子江より温暖な半島が良いのだろう。
温暖すぎてウォッカを飲む量が減っていると。
酒場のウクライナ人がぼやく。
なんとなく、人間のための酒か、酒のための人間か、
本末転倒しているような気もするが、
本人はそれでいいようだ。
「聖ロシア帝国の戦略は、日本・小ドイツ・イギリスとの連携と」
「アメリカとの友好関係の二本立てだよ」
「地勢学的な要素」
「文化的な要素など考えれば当然の帰結だ」
「日本は、どのくらい強いのだろうか」
「日露戦争だけではイメージできないが・・・」
「いや、強い弱いという問題ではないだろう」
「聖ロシア帝国は、外周を強国・潜在的強国に囲まれている」
「そりゃ 外周の一角と同盟に近い関係を築いて」
「アメリカと一定の距離を保つのは、外交戦略上の常識といえるな」
「聖ロシア帝国は、国土で広いのだが近代化で遅れている」
「油田でも見つかればいいのに・・・・」
「ロシア人が住み着いて、まだ40年もたっていないだろう。これからさ」
「東アジアで聖ロシアと小ドイツだけがキリスト教を国教にしている」
「いざというときは、欧米列強も支援してくれるだろう」
「しかし、そのキリスト教徒同士で大戦をやったからな・・・」
「聖ロシアの近代化はこれからだが、そんなに悪くはないさ」
「東京オリンピックの次は、ハルピニスク・オリンピックだから」
「景気が良くなれば良いがね」
「3大陸鉄道が引っ張られてくれば聖ロシア帝国も近代化で弾みが付くようになるさ」
「西は欧州。南はケープタウン。東は日本まで」
「マレー半島まで下って、オランダ連邦にも繋げるらしいからな」
「テレビ電話も見られるようになったし」
「あれは、日本の有線だろう」
「3大陸鉄道と一緒に引っ張られるんじゃないか」
「んっ・・・そうなのか」
「日本も意外とやるもんだ」
「どうせなら鉄道もイギリス方式じゃなく。日本方式にすればいいんだ」
「少なくとも時刻表どおり動かせる」
「・・なんだ〜 それ、本当だったのか」
「おうよ。日本に行ったことがあるからな」
「時間通りに来て時間通りに出発しやがった」
「・・・へぇ・・・・・・・・zzzz」
男は、テーブルにうつ伏せに酔い潰れる。
酒場でも有線テレビが放映されている。
マラソンで日本人選手が、がんばっているようだ。
調子さえ保てれば、メダルは確実らしい。
無線のテレビが勝つか、有線テレビが勝つか、
いまのところわからない、
共存していくような気もする。
少なくとも電話回線も兼ね、
双方向通信が可能な日本の有線は、産業に与える影響が大きい。
鉄道は、イギリス(利権)。ドイツ(管理・運営)。ポーランド(維持・保安)が決まっていく。
基本的にイギリス型鉄道方式だが中央制御の一部で日本式が流用される。
本当は、時刻表通り運行できる日本鉄道方式と各国の動きもあった、
しかし、イギリスが時刻表通りに運行できると強硬に反発。
そうも行かなかったらしい。
有線は、日本で決まる。
航空業界は、激しい交渉が行われているらしい。
何しろ三大陸鉄道と有機的に結ばれた飛行場を行き来する旅客・貨物便だ。
便数や時間帯を決めるだけで大騒ぎだろうか。
白人スチュワーデスは有色人種を見下し、人間扱いしない場合がある。
しかし、日本航空業界は、サービスで自信があるらしい。
少なくとも人種・宗教・民族・文化・言語に関係なくサービスできるとか。
日本人は、白人の世界に行くと、いまだに末席扱い。
ロシア皇族と婚姻関係になっていなかったら扱いは、もっと悪かった。
今では、欧州王族・貴族と日本華族の婚姻も珍しくなく。
ごく普通の政略結婚として定着している。
良いか、悪いかわからないが小金持ちの日本人と一緒になりたがる白人女性もいる。
基本的に有色人種は、サル。
日本人は、遊びで、やっても良いと思われている節もある。
突き詰めていくと矛盾するのだが人種・民族差別の優越感は、理屈で割り切れない感情的なものだ。
瑞穂州
瑞穂人はドイツ人とオランダ人の間で苦労するケースが多い。
これは、日本・瑞穂人の自己主張の少なさと没個性的なところに起因していた。
それでも経済的に自立している瑞穂州は、魅力的で近代生活を送りやすい。
ニューギニア島オランダ領とドイツ領はプランテーションで、やりくりしている。
むかしのアメリカの南部連合州に近く。
瑞穂州は、工業化されて、アメリカの北部連合州に近い。
オランダとドイツの本国はニューギニア島に期待しておらず、
策源地程度にしか考えていない。
それに比べ、日本連邦は欧米列強と違い植民地が少ない、
瑞穂州は第二の日本であり、重要な人口増加の捌け口になっていた。
フライ水系を利用した農業・熱帯作物で成功を収めると工業化が始まり。
基幹産業が作られていく。
日本は、直接、揚子江経済圏に入れず。
汗水流して開拓しなければならない地域を開発していくしかなかった。
運輸省が開発の青写真を作り、
ドイツ・オランダをまとめ、
ニューギニア島の国際鉄道路線が敷かれていく。
安い労働力・資源・土地など、単純に利益を上げる植民でなく。
日本人は、土着し、瑞穂人化したことで土地に愛着があり。
いったん基幹産業が作られてしまうと、近代化が加速していく。
こんな地域と思っても、
近くにオランダ連邦や豪州という策源地と消費地があり。
豪州、オランダ連邦、ドイツ領への輸出先が確保されると生産も伸びていく。
ドイツとオランダが後回しにしていた地域だった、
しかし、瑞穂が近代化していくにつれ、渡りに船と瑞穂と取引で薄利を得ようとする。
この瑞穂州は50万近い先住民がいた。
瑞穂州政府は、人食い人種を問答無用で淘汰していた。
もちろん、人食い人種側の価値基準もある。
“食べもしないのに人間を殺すのは、ただの殺戮ではないか”。
“食べることで同化し、一つになり、もっと強くなる”
“何万人も一度に殺しあって、土に返すなど”
“まして燃やすなど死者を本当に殺すことだ”
といった人食い人種側の言い分は、闇に葬られた。
少なくとも子供が外で遊べないようでは、近代化以前の問題である。
日本人も、白人から散々に差別されていた、
しかし、差別は、ある程度の知性と教養さえ身に付けると、緩和されていく。
日本の学校で幼少から勉強する先住民は、知識が詰め込まれていくと粗野な部分が減り、
次第に品性が身に付いて来る。
部族社会は歩けるほどの小さい範囲の意識しか育たず。
民族意識が小さく知的レベルで孤立しやすかった。
意識外に知識が広がると日本人に同化しやすく、
ニューギニア先住民は、創始改名してしまう。
彼らは、ドイツ領、オランダ領の先住民と違って日本人に帰化する。
国外に出ても日本人として扱われるため、大儲けであり、
ドイツ領やオランダ領のニューギニア先住民から羨望の眼差しで見られたりする。
土人が白人の中に入っていけば差別され、下手すれば殺される。
しかし、日本人であればリンチの可能性は低い。
法律的な保護が受けられ、命も保障もされそうだった。
土砂降りのスコールで、少しばかり涼しくなる。
一面に広がるマンゴ、パイナップル、アセロラの出来は良く、
収穫も順調で物価も安定し、今年も生活していけそうだ。
「オリンピックのサッカーは、華北チームが2位です」
新聞を見てニューギニア先住民の瑞川トモチカが呟く。
面容から黄色人種系なのだろうが日本人ではない。
勤労意欲は、それほどでもない、
しかし、見ている間、一生懸命に働く。
休息時間、少年は新聞を見つめる。
「ポーランド人ばかりのチームは、ドイツ人を負かせて大喜びらしい」
マンゴをざっくりと切って食べ始める。
「でも・・・華北合衆国の栄誉なんですよね」
「それでも嬉しいのさ」
「ポーランド人は、ドイツ人に欧州から叩き出された恨みがあるからな」
「でもポーランド人は、楽な生活をしていると書いてますよ」
「4億5000万の中国人を働かせれば、生活も楽だろうよ」
「そんなことしても、大丈夫なんでしょうか?」
「どこの国も、どの民族も近代化のために犠牲を払っている」
「それが自国民であれ、異民族であれ・・・」
「善悪より近代化を優先させてしまう」
「それに4億5000万人分の仕事を作ってやっていると考えることも出来る」
「列強が揚子江に投資しなければ仕事もなく、生きていけない中国人は多い」
「こんな風にマンゴやパイナップルを育てて」
「生きていけば良いと思います」
「人間が一番安心するのが土と共に生きることだろう」
「しかし、土地から収穫できる以上に人間が増える場合もある・・・」
「瑞川・・そういえば、都会に行ってなかったな」
「ええ」
「今度、州都に行ってみるか、鉄やコンクリートは食べられない」
「しかし、便利な生活を支えるのは、大変なことだ」
「食べ物を作らない連中が便利な生活を支えている」
「そして、ここで生産されるマンゴやパイナップルを買って食べてくれる」
「・・・喜んで先生」
本当は、地主様なのだが。なぜか先生と呼ばれている。
何かを教えているわけではない。
しかし、先生と呼ばれると、
それらしいことをしなければと強迫観念に駆られる。
こいつも相応の年齢になれば、結婚相手が必要になるだろう。
まだ、思慮で粗野な面があるが若くて機転も利く。
そういえば、隣村に日本人の未亡人がいたっけ。
日本人は、年齢より若く見えるから少しくらい年齢が上でもかまうまい。
瑞穂州で年の差が離れた夫婦は、たいていがそうなのだから。
イギリス領パレスチナ テルアビブ
公共組織の作り方、あり方、運用を見て
地域と国を判断する方法がある。
時に弱点も見えてくる。
また、地元の犯罪組織と交流、取引し、組織上の弊害や弱点を探る方法もある。
危険のないレベルの諜報活動もあって、それなりの成果もある。
数人のユダヤ人が公園から役所と警察所の様子を見ていた。
「もう一つ移民が進まないな」
「欧州で独裁者が現れ、ユダヤ人を排斥しないからだろう」
「だれでも未開の土地に住みたいとは思わないさ」
「排斥は、されているさ。もっと・・・」
「そう、死ぬかもしれないような状況にならないとな」
「ユダヤ領のラタキアでも似たようなものだ」
「ユダヤ資本の投資は進んでいるが移民は遅れている」
「ヒットラーには期待していたんだがな・・・・」
「しかし、中東は、暑過ぎて合わないかもしれないな」
「アシュケナジー(白人)系ユダヤ人は、元々 黒海やカスピ海の北にあった」
「アブラハムの血統と関係のない改宗した第13支族のハザール出身だ」
「それを言うとアブラハムと関係がなくなってパレスチナに対する占有権を失うだろう」
「ふっ キリスト殺しと関係ないのに俺らが迫害されるのも迷惑な話しだ」
「それがユダヤ教を捨てたアブラハム直系10支族末裔・・・」
「パレスチナ人を追い出して占領か」
「歴史の皮肉だな」
「まじめな外戚が不貞の長男を叩き出し」
「ユダヤ教を再興する。神の思し召しだよ」
「世界中に離散して差別されるアシュケナジー(白人)系ユダヤ人がまとまり」
「中東の要になるのは、悪くないがね」
「問題は、正統なアブラハム直系のスファラディ(東洋)系ユダヤ人だな」
「少なくとも彼らはユダヤ人だ。それも有神論者」
「俺らも一応、有神論者だろう」
「ふっ アイデンティティがユダヤ教しかないからさ」
「アイデンティティがなければ地域に同化していたはずだがね」
「どっちが幸せだったかな」
「幸せは、自我が確立されて初めて感じるんだ」
「つまり、集団としてのアイデンティティだ」
「それよりスポンサーは付いている」
「あとは、世界情勢次第だな」
「いや俺たち次第だ」
「移民が増えれば、ロスチャイルド家も金を出すさ」
「私財5000億ドルのほんの一部でも使わせれば、目的は達成される」
「ロスチャイルド家は、どっちでも良いのさ」
「世界的なネットワークで、ユダヤ人を利用している」
「金が動かないとユダヤ人は動かない」
「人が動かないと金も動かないか」
「意志が大切ってことだ」
「本当は、共産主義者より唯物思考なんだよな」
「国もなく迫害されて生きたからな、拝金主義になるよ」
「ユダヤ人を中東の要として集めて利用すれば、世界のネットワークが弱くなるな」
「今後、華僑ネットワーク、印橋ネットワークが強くなる」
「日本資本も独自のネットワークを作ろうとしていたな」
「国家レベルも3大陸鉄道を使えば独自にネットワークを構築できる」
「今後の展開は、グローバルになっていくだろうな」
「アメリカとフランスがやっかんでるからな」
「マダガスカルの移民でも良かったのにな」
「中東の要である方が金が出るのさ」
「アメリカ側から?」
「それとも欧州側から?」
「金を余計に払った方を代弁する」
「ふっ だよな」
「どの道、フランスの影響を受けそうだな」
「ラタキアも、マダガスカルも、フランスの植民地だからな」
「しかし、軍編成が遅れている」
「租借地を購入しても、すぐには設備は整わない」
「それにパレスチナのイギリス軍と事を構えるのも、いまのところなしだ」
「ちっ! イギリスの二枚舌が」
「アラブと事を構えたくないのさ」
「俺らもいまのところ構えたくない」
「大人しくパレスチナをよこせば、荒立てなくても済むんだ」
「十字軍を起こさないとな」
「キリスト教が?」
「ユダヤ教で」
「十字架はないだろう」
「そうだったな」
「契約の箱と角笛がいるな」
「角笛だけならすぐに都合が付くよ」
「武器弾薬も・・・ しかし、借り物でない本物の国土が欲しいな」
「ああ」
日本とエチオピアの関係は、日本の農業技術を導入と軍需面の両輪で行われていた。
低地は、ツエツエバエ (伝染病を運ぶ場合がある)が多く。
環境も悪く、エチオピア人が嫌う地域だった。
日本人は、風土病やマラリアに無頓着だったのか、
河川沿いに水田が進み定着。
そのせいか、医療関係も日本人が増えてしまう。
勢力が次第に高原地帯へと伸び小麦など作られていく、
作物の種類が急速に増えエチオピア人の食卓も彩りが増えていく。
これらは、日本人入植者によるところが大きかった。
エチオピア農民は、収益の大きなコーヒー栽培が好きなようだ。
そして、モカが日本へと輸出され、
日本の兵員装甲車が輸入される。
港に日本製兵員装甲車が降ろされた。
山岳地帯でも運用できるようにエンジンが強化されたものだ。
「兵器・武器とかじゃなく」
「もっと産業を支えるような機械類を輸入すればいいのに」
「イタリアの気が変わるのが怖いのさ」
「良い商売じゃないか」
「嗜好品は、利益が大きいから日本の利益も大きい」
「イタリアのエチオピア侵略は、国際連盟から警告されている」
「大丈夫だと思うがね」
「イタリアも揚子江から叩き出されるくらいなら」
「エチオピアに手を出したりはしないよ」
「エチオピアも強国になりたいのだろうな」
「イタリアより東アフリカの方が怖そうだな」
「東アフリカは近代化が進んでいるからイギリスも警戒している」
「石炭と鉄鉱石があれば、近代化しやすいさ」
「ドイツの植民地経営は、イギリスの搾取と違って日本の投機に近い」
「時間さえかければ、東アフリカも南西アフリカも延びる要素はあるさ」
「特に3大陸鉄道と結ばれればね」
「そういえば、東アフリカのビクトリア湖付近にロケット実験場があったな」
「フォン・ブラウンの?」
「ドイツ本国の方が資金繰りが得やすいのに・・・・」
「赤道に近い方がロケットを衛星軌道上に打ち上げやすいのさ」
「標高も1600m近くあって打ち上げる燃料もケチることが出来る」
「資金を募っていたから、試しに援助するのも悪くないな」
「はぁ〜」
「宇宙ロケットは、まだ海のものとも、山のものともわからんよ」
「そうか、しかし、宇宙ロケット打ち上げ成功と見出しが出てたぞ」
「○菱協賛と新聞に出たら少しは、実入りが良くならないか」
「んん・・・技術的なリターンがあればな・・・・」
「資金援助すれば、少しは、うまみもあるだろう・・・・」
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第48話 1940年 『嵐の前・・・』 |
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