books / 2002年01月08日〜

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J・さいろー『SWEET SWEET SISTER』
コアマガジン / 新書版(コアノベルス・所収) / 平成13年10月12日付初版 / 本体価格1300円 / 2002年01月07日読了

 いじめられっ子の姉と、彼女に弄ばれる弟の奇妙な恋愛物語。
 要素ひとつひとつは過激だが、その目指すところは実はシンプルな恋心の表現だった、という感じ。要求に応じて性愛描写をふんだんに盛り込みながら、恋愛物の押さえるべき曲折と苦悩とのバランスを保っている。その結果、性描写に幻惑されない読み手からすると小綺麗に纏めすぎた、という印象を与えてしまうかも。取り敢えず、ちゃんとそーいう要求にも応えられる好編と評価するにやぶさかでなし。

(2002/01/08)


ヒュー・ミラー『殺人データ・ファイル 科学捜査が捕えた殺人犯たち』
新潮社 / 文庫版(新潮OH!文庫・所収) / 2000年10月10日付初版 / 本体価格771円 / 2002年01月09日読了

 主に関係者からの聞き取りを元にした、各国で実際に発生した事件のルポルタージュ。
 鑑識・検屍官など遺留品や事件の痕跡を科学的に分析し証拠を発見する人々が主役となって解決した事件のみを取り扱っているため、整然とした事件展開と知的なスリルとが楽しめる。若干お粗末ではあるが現実に発生した密室殺人をも取り扱っており、随所に登場する法医学知識や捜査技術、犯行トリックを含めてミステリ実作者にとっても色々とためになる一冊だろう。元々こーいう実録犯罪もの(それも、犯罪者側であれ捜査側であれ、非常に細やかな計画性と洞察を感じさせるもの)には弱く甘い質なので、文句の出せるはずもないのです。

(2002/01/09)


三谷幸喜『三谷幸喜のありふれた生活』
朝日新聞社 / 四六判ソフト / 2002年2月1日付初版 / 本体価格1200円 / 2002年01月11日読了

 朝日新聞に2002年1月現在も連載中のエッセイを纏めたもの。本来のシナリオライト以外にも舞台演出・映画監督と大忙しの著者が、実のところ単なる小心者であることをあからさまにしている――でいいのか。どんな舞台で作品を著しても、常に基本はコメディにある著者だけに、僅か三ページ程度のエピソードそれぞれに複数の笑いどころを埋め込んである。女優であり完璧主義者である妻の才能に怯え、作品の出来不出来・毀誉褒貶に一喜一憂し(あー表現が鬱陶し)、愛犬のやんちゃと病に右往左往する様を描きながら、筆致は常に安定していて楽に読めるのがいい。それにしても、本人はもとより妻・小林聡美もテレビで見ているのとイメージがあまり変わらないのは……戦術だったら天才的だよな。

(2002/01/11)


新保信長『もっと笑う新聞 21世紀初の“ゆるゆる事件簿”
メディアファクトリー / B6版ソフト(MFペーパーバックス・所収) / 2001年12月21日付初版 / 本体価格950円 / 2002年01月11日読了

 2000年秋に発売された『笑う新聞』の続編。どこか珍妙な三面記事を集め、ツッコミを入れまくる。「笑う」と言っても愉快痛快怪物くんな「笑い」ではなく、「嘲笑」と表現したくなるネタや、聞くや脱力するようなエピソード中心である。約10年に亘る記事から厳選した(……単に著者のスクラップに残っていたから、というだけかも知れないが)前巻と異なり、約一年程度の記事から取材したもののためどうしても密度が低くなった印象を抱く。ところどころツッコミが不徹底な気がしたが、そのこと自体楽しめたので良し。
 それにつけてもお役所ってどーしてそんなにアホなのだ、と思わせる話が少なくない。ちょっと例を挙げるとp142、関東財務局の職員が下着ドロで逮捕された記事に関する部分。ツッコミの目玉については読んで笑ってやって欲しいが、出来れば本文で突っ込んで欲しかったのは上役のコメント。「(前略)誠に遺憾で、再発防止のために職員の指導を徹底したい」……どう指導するつもりなのでしょうこのお方は。朝礼で「下着ドロは止めよう」という訓辞でも垂れるつもりなんだろうか? しかしこの程度はまだ可愛い方で、p172の記事に登場するのは他人の品位を問うたはずの議会が実は全員下品だった、という始末に負えない話。私はこの議会、全員解雇した方が市の未来のためにも有益だと思う。親記事の掲載が2001年6月、ってきっとこの議会まだ現役だぞ。本当にいいのか?!

(2002/01/11)


山口 博『王朝貴族物語 古代エリートの日常生活
講談社 / 新書版(講談社現代新書) / 1994年6月20日付初版 / 本体価格700円 / 2002年01月22日読了

 主に奈良時代から平安時代、藤原北家が権勢を誇った十一世紀あたりまでの貴族――古代エリートの日常生活を、現代の事物に置き換えながら紐解いた著作。
 耕作・諸産業の経営も諸外国との公益も国家が独占しており、入浴の日が限られていれば洗濯もしない、日々の移動でさえ禁忌によって雁字搦めにされた、いまとはまるで異なる価値観・習俗に支配された時代なれど、内裏を頂点に末端までの傾斜が極めて著しい「官僚ピラミッド」を登坂する人々の苦心惨憺ぶりそのものは現代とあまり変わりない、という話。こと、官僚と呼ばれる人々が当時も現代もその行いに大差がないのを認識させられてやたら苦笑いが湧いてくる。
 全般に読み物としての軽さを狙ったようで、丁寧に置き換えられた用語が資料や勉強の目的としてはやや不適当だが、当時の常識や生活様式を理解するには恰好の一冊ではなかろうか。特に、文献から貴族の心理に踏み込んだ第五章は読み応えがある。

(2002/01/22)


近藤勝重『となりのハハハ 笑う生活のすすめ
光文社 / 文庫版(知恵の森文庫) / 2002年1月15日付初版 / 本体価格552円 / 2002年01月28日読了

『サンデー毎日』などの編集長を歴任し、現在は毎日新聞論説委員を務めながらラジオにも出演する著者による、笑いの実践と教養の本。
 後半に置かれた教養編は雑学として非常に刺激になるのだが、困ったことに本題であるはずの実践編がいまいち面白くない。店頭で部分的に覗いたときには笑えた文章も、続けて読むとどうにも白けた印象を与えるのだ。多くのネタが有名人の断片的な話や他人の経験談に依り、当人の経験談もいささか独りよがりの感がある。多分に感性がずれている所為もあると思うのだが、著者と同年代(50代前後)のみを対象にした書き方が目立ちすぎているのが恐らく最大の原因だろう。あまり楽しめなかった。

(2002/01/28)


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