books / 2002年02月05日〜

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板橋雅弘:文・岩切 等:写真『廃墟霊の記憶』
角川書店 / 文庫版(角川ホラー文庫) / 平成14年1月10日付初版 / 本体価格619円 / 2002年02月05日読了

 『SPY』という雑誌に連載された、廃墟を巡るフォトエッセイを1992年に『失楽園物語』として単行本化し、近年の廃墟ブームに合わせて取材先の現在の様子のレポートも追加したうえ改題したもの。
 ある人は写真がわざとらしいといい、ある人はそれ程気にするものではないといい、どちらにせよ文章的・内容的には不安がない、という感想で、イタバシマサヒロ名義でかなーり恥ずかしい恋愛漫画『BOYS BE…』の原作を手がけていたことを記憶していたが為に購入を躊躇していたのだが、読んでみるとなるほど文字から伝わるものは悪くない。いささか稚気と無邪気さとが表に出すぎてホラーとして扱うにはちと印象が明るいのが難だが。写真の方は、なるべく実際の印象に添った形での掲載が望ましかったと思う。変に演出しているために、文章の方向性とやや齟齬を来しているようにも思った。
 とは言え、読み物としては充分に楽しめるレベルにある。個人的には、本書が10年前に刊行されたものを親本としていることに触れ、そのうえで前書き・あとがきともに新規に書き下ろして「現在で過去を閉じ込める」というかたちを取って欲しかった。というのも、末尾に記されたそういう事情を知らないままだと若干いまの社会情勢との差が違和感として現れ、また文章に窺える独特の生気が頭の方から溢れている感覚もあってどうも全体に居心地が悪いのだ。そうした事情を、説明くさくないかたちでまず冒頭に提示しておけば、本文そのものに「廃墟」のイメージを添えることが出来てメタフィクション的に筋の通った仕上がりになった、と思うのだが凝り過ぎか?
 余談だが、あとがきに登場する「編集という立場で取材に参加したS氏」とは、『笑う新聞』シリーズの著者・新保信長氏ではないかと思うのだが、だからどーなんだと聞かれても困る。

(2002/02/05)


服藤早苗『平安朝の母と子 貴族と庶民の家族生活史
中央公論社 / 新書(中公新書1003) / 1991年1月25日付初版 / 本体価格700円 / 2002年02月20日読了

『源氏物語』『更級日記』『御堂関白記』『大鏡』『今昔物語集』など、十世紀から十一世紀に成立した王朝文学を元に、当時の家族観・親子観を解き明かす。
 創作の参考として購入したが、読み物としても味わい深い。まえがきで宣言しているように、朝廷文化を背景として族社会から氏族社会へ、そして更に家社会へと共同体の基礎が変質していく様を当時の文献から読み取りながら、現代の女性や子供の権利に関する提言を最後に添えている。我々の知る常識と当時の観念との大きな隔たりを浮き彫りにしながらも、その差違に問題解決への契機を見出そうという試みでもあるのだ。
 ただ、最終的には当時の母と子とのありようを描き出してはいるのだけれど、全体的には副題の「家族生活史」のほうが相応しく思えるほど家族関係の推移に紙幅が割かれている。いずれにしても、古代と中世の狭間にあって、豊富な文献資料が存在しながら一般的にその生活像が認知されていない時代の人々の暮らしぶりを垣間見るに最適の一冊。願わくばもっと多くの図版を採用して欲しかったが。

(2002/02/20)


西澤保彦『異邦人 fusion』
集英社 / 四六判ハード(集英社エンタテインメント) / 2001年10月10日付初版 / 本体価格1600円 / 2002年03月25日読了

 20世紀最後の大晦日、帰郷するために飛行機に搭乗した「わたし」は、どういうわけか23年前にタイムスリップしていた。それも、「わたし」たちの運命を狂わせた、養父の殺害される僅か4日前に。
 西澤氏が多用する、独自ルールに基づく謎解き物語。が、今回は正直なところ、ルールが特異すぎて結論は読めた。が、展開は終始意外な方向を目指し、最後にこちらの想像よりも綺麗なところに着地した印象がある。ただ、今回ばかりはその方法論と展開の恣意がちょっと目立ちすぎ、「論理で閉じる」というより「論理を開く」作品――ミステリよりも、西澤氏がルールに援用するSFにより近付いた作品、という風に感じた。
 それでも、ルールと仕掛けが不可分に溶け合ったミステリがあればこそ、の作品であるという作風に揺らぎはない。ただ、旧作よりもジャンルへの拘りは若干薄いと評価するべきだろう。いずれにしても、丁寧な纏まりを感じさせる佳品。
 ……で、結局どうして村下孝蔵だったんですか……?

(2002/03/25)


西澤保彦『ナイフが町に降ってくる』
1) 祥伝社 / 新書版(NON NOVEL) / 
2) 祥伝社 / 文庫版(祥伝社文庫) / 平成14年3月20日付初版 / 本体価格562円 / 2002年03月25日読了

 疑問を抱くと自分と無作為のもうひとりを除いた世界の時間を止めてしまう男・末統一郎。彼の目の前でナイフを腹に突き立て倒れた男、その謎を解かない限り女子高生・岡田真奈もまたこの“時間牢”から出られない! 町中に降り注いだようなナイフの謎を解き、ふたりは無事元の時間に戻れるのか?
 相変わらずの特異な設定と緻密な論理構成、だが本編の弱点は、その設定が特異すぎるために、一番最初に検討されて然るべき事実がほとんど無視されたままに登場人物が推理を展開させ、紆余曲折の果てにいちばん最初に思いつきそうなところへ着地してしまうことだろう。過程そのものは決して不自然ではないと評価するものの、読者と登場人物との認識の温度差がそのまま仕掛けの効果を奪ってしまったような感がある。
 しかし、この作家特有の非常に穿った人間洞察と狂騒的なストーリーテリングの巧さは健在で、実質僅かふたりしか登場人物のいない制約のなかでリーダビリティを保ちつつ、読み物として楽しめる作品に仕上がっている。ベストと呼ぶことは難しいが、不思議な安定感がある。
 親本も持っているが読むより先に文庫化されてしまい、手頃さに負けて文庫本で読んだ。カバーイラストが「なつこシリーズ」と同じ方になっているが……このイラスト、ちょっとおかしくないかい? どこがおかしいのかは、本文を読んでご想像下さい。

(2002/03/25)


西澤保彦『聯愁殺』
原書房 / 四六判ハード(MYSTERY LEAGUE) / 2002年3月22日付初版 / 本体価格1700円 / 2002年03月26日読了

 ある晩、見知らぬ少年に襲われ命を落としかかった女性の悲劇。全く同じ手口で殺害された、年齢も地位も繋がりのない3人の人々との関わりは何なのか? 少年は何故、彼女を襲わなければならなかったのか? ミステリ作家、私立探偵、心理学者という犯罪に一家言を持つ人々で構成された「恋謎会」がこのミッシング・リンクに挑む。
 粗筋を書くのが微妙に大変です。ある点を軸にひっくり返すだけで成立しているプロットなので、ちょっとでも正確を期そうとすると途端に未読の方にヒントを齎してしまうので――と書くことさえも実は危険。
 作品の軸となるシチュエーションと決着に微妙な齟齬が見受けられるが、大元となる絡繰りはこの著者の面目躍如であると同時に、最も成功した一例ではないかと思う。ある意味、骨髄までミステリファンに捧げられた作品とも言えるだろう。SF的設定こそないが、やはり特定の縛りの元で本格ミステリを実現しようとする姿勢はここに置いても揺るぎない。氏の初期の作品群に愛着がある人へこそお薦めの一冊。キャラ萌えする余地あんまりないし。

(2002/03/26)


篠田真由美『龍の黙示録』
祥伝社 / 新書版(NON NOVEL) / 平成13年4月10日付初版 / 本体価格876円 / 2002年03月27日読了

 失業した柚ノ木透子が紹介された職場は鎌倉、美貌をサングラスに隠した奇矯な博物学者の邸宅であった。その日を境に、透子は自らの血筋にも絡む二千年の争いに巻き込まれてしまった――
 建築探偵シリーズで知られる著者の伝奇小説である――とは言え、日本を舞台にしながら素材は概ね西洋的、しかも伝奇物の主体となるべき因縁因果よりも、甘美なるものへの執着と人間的な情念のほうが主旋律となっており、血の現実的な鉄分臭よりは甘い芳香を感じさせる。取り分け、主人公の係累に纏わるロマンスを語る部分が作品全体に与えるインパクトが大きく、味わいは柔らかい。
 導入となる100ページほどがいささか冗長と感じるが、それ以降、伝奇物らしい怪異が明確となってからは早い。ゴシックの芳香を纏いながら鋭さと現代的なスピード感も備えた、巧みな娯楽長篇。この感想を書いている時点で続編は『東日流妖異変』が出ているのみだが、先が気になる作品である。

(2002/03/27)


光原百合『遠い約束』
東京創元社 / 文庫判(創元推理文庫) / 2001年3月30日付初版 / 本体価格560円 / 2002年03月28日読了

「わたし」こと吉野桜子が浪速大学に入学して選んだサークルは、ミステリ研究会。合わせて四人の小所帯が春先から夏のはじめまでに巡り逢い、解き明かしていく幾つかの事件を綴る、連作集。
 軸となる連作「遠い約束」にしても他の3作品にしても、仕掛けそのものは軽い。全て、とは行かなくとも謎の提示段階で概ね絡繰りは読めてしまうので、その点での興趣はやや物足りないと感じた。ただ、語り手の優しい眼差しと一人称視点ゆえ解りづらいがそーとーな天然ボケらしい言動、彼女も含めて互いにフォローし合う3人の先輩「名探偵」組の思慮に富んだ表情が巧みに描かれており、その巧みさが謎そのものより解き明かす過程を愉しいものに見せている。
 人の善意をそのまますとんと受け入れてしまっている世界観が、却って独特の灰汁を出してしまっているきらいもあるが、あとに痼りを残さない、春風のような爽やかな作風の完成度は特筆に値するだろう。ただ、やっぱりミステリファンでないと解りにくい部分も多々あります。
 ところで前述の通り、物語は春から夏までの四ヶ月を追っており、最終話「遠い約束III」は夏休みのお話なのだが、扉絵はどーしてだか冬の風景。何故でしょう光原さん或いは野間さん。漠然と想像できることはあるんだけど。

(2002/03/28)


浅暮三文『左眼を忘れた男 I wanna see you』
講談社 / 新書版(講談社ノベルス) / 2002年3月5日付初版 / 本体価格940円 / 2002年03月30日読了

 夜、突如背後から襲われた男。病院のベッドの中で意識は確然とし、まわりの言葉は聞こえるのに指先ひとつ動かせない。その代わりに、眼窩から事件現場に抜け落ちた左眼だけが、彷徨いながら男に事件の真相を告げようとする――彼の身にいったい何が起きたのか?
 最後までおよそ体験したことのない物語が展開する。目ひとつで眺める世界の奇異さ、それだけでも着想として作品として優位に立っており、おもわず「卑怯だー!」と叫びたくなるくらい。目玉の親父でもあるまいし、手足がついているわけでもないのに宛ら己の意志で動いているかのようにいちいち危機を脱するさまは、本当なら御都合主義的と映るところだが、それすらも「謎」として作品に空気と牽引力とを与えている。
 ただ、終盤にかけて、次第にさまざまな事実が明らかになってくると、更に謎が増えるような心地がし、最後まで充分に解消されないのもまた本編の一風変わった特徴でもある。きちんと解釈し尽くすには最低二度は読むか、余程精読しないと難しいか――或いは、作者自身明確な答など備えていないのかも知れない。
 魅力的な設定を、達者な文章で語りあげた疑似ミステリ。とりあえずそう捉えて、この奇妙な幻惑に身を浸すだけでも愉しい。はっきりした決着を物語に求める向きには、やや反りが合わないかも知れないけれど。

(2002/03/30)


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