2001年6月中旬の日常

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2001年6月11日(月)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day11

 まーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーったり。だって仕事がないんだもん。しかも三時頃、営業中の社長から電話があって、銀座の方は雨が降り始めたから、職場の方に雨雲が行く前に帰っていいと言われてさっさと帰宅する。実際に降り始めたのは四時過ぎであったが。
 そんなわけで空き時間は全部執筆に……費やしてません。職場に用意してある本置き場に保管するつもりで持ってきた、最近購入した書籍の一つに思わず手をつけてしまい、100ページほど読んでしまったため、それほど進捗はない。大分全体像は見えてきたが、って今まで見えてなかったのか。見えてませんでしたはい。未だにパッチワークを続けていて、傍目には断片しか存在していないのが実状だろう。でも進んでるぞまだ望みは捨ててないぞ。

 本日のお買い物
1,夏樹静子『最後の藁』(文春文庫)
 だけ。ベテランの中では数少ない、純然たる本格を今でも書き継いでいると信じている作家なので新刊・文庫化折に触れてチェックしているが……実際どうなのか、買うだけで読んでいない身には不明のまま。ぼちぼち埋もれている中から発掘して検証してみたいとも思うのだが、無論私の場合思うだけで終わるのが殆どなのだった。自分でオチを付けるのもどうかと思う。

 夕方、父親の元をアー○ネ○チャーの方が訪れた。随分前にちらっと言及した記憶があるが、父は一時期ここの発毛研究部門でモニターを務めていたことがある。今回、その発毛・育毛事業から撤退することが決まったとかで、会社の方が挨拶に見えたらしい。詳しい理由・話の内容などは私の与り知らぬこと故これ以上の言及は避けるが、この話で私にとって一番重大なのは、その余慶に預かって何故か図書券5000円分を頂戴したことだ。ラッキー。

 友人からPHSに電話がかかってくる。用件は6日の続きだったが、それ自体は問題ではないわけでもないが取り敢えず脇に置く。途中で不意に通話が途切れた。何事かと思ってPHSの液晶画面を見ると、時計がリセットされている。1999年1月1日まで戻されているのだ。この電話機を購入したのは1999年11月19日。約一年半以上だ――そろそろ電池の寿命が来てもおかしくない。そもそもいい加減交換の効かないウェイティングキャラや単音の着信メロディに飽きてきたところでもある。近々カタログだけでも貰ってきて交換を検討することにしよう、と思った。……そんだけ。その後友人はまたかけ直してきたが、問題は向こうで一方的に解決してしまったのだった。ことパソコンに関しては、初心者に電話越しに説明されても大抵困るだけなんだってばっ。

 ――しかし本当に大丈夫なのかこんなに暢気で。


2001年6月12日(火)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day12

 大阪行き確定。同人長篇冬まで延期。まあ、作業的にはだいぶ楽になる。……収入的にもね。同人誌は現在手許にある原稿を中心に編むことにしました、がとてもとても焦点を欠く内容になるためいよいよ委託先が問題になるような。置いてもいーよ、という夏コミ当選サークルの方募集します(かなり本気)。
 しかし、編集人の原稿がないというのも変なので、やっぱり自前で短篇ぐらい新たに用意した方がいいのかしら、とも思う。……『LOVEマシーン』でいいという方が十人いたらそーしよーかなー……

 倉阪鬼一郎『ワンダーランド in 大青山』(集英社)読了。元々倉阪氏の文章は読みやすいのだが、今回は輪をかけてつるつると読めたので、昨日・今日の空き時間で楽々終わりました。相変わらず書いているものは異形なのだがその所業を切実にだがコミカルに描写、雰囲気はいつも通りだが処理はファンタジックになっている。随所に盛り込まれたギャグも、ギャグとしてはあまり成功していないのだが、深刻な内容やグロテスクな実際をよく隠していっそ快くさえ感じさせる。問題は終盤で、倉阪ファンなら「やっぱりこー来たか」と北叟笑むところだが、今回はいつにも増して唐突の感があり、恐らく慣れていない読者の大半はただただ戸惑うばかり、珍しいほど完璧なハッピーエンドもあまり得心がいかないのでは、と思われる。
 描写の癖や悪戯、展開の反パターン(だが倉阪作品の愛読者にとってはお馴染みと言える)も、結局のところ慣れと理解が必要な分、やはり初心者相手に損をしている作風ではなかろうか。しかし、純然たるホラー(或いは怪奇小説)に苦手意識のある読者、衒学趣味的な文体を好まないライト嗜好の読者にとっては、明らかに他の倉阪作品より読みやすく、氏の作品に興味があるならここから入ってみるのも一興だろう。あれこれ辛辣な書き方をしているが、私自身は楽しみました。はい。

 本日のお買い物
1,早川書房編集部・編『星界の紋章フィルムブック2』(ハヤカワ文庫JA)
2,八神 健『ななか6/17(2)』(秋田書店・少年チャンピオンコミックス)

 前巻が4話分だったのに対して、5話も押し込んだ分内容が詰まりすぎてダイジェストの傾向が強まってしまってますの1。目当ては寧ろ書き下ろしの短篇で、アニメ第5話〜9話の間に登場するある脇役の出自に関するエピソードを扱っている。あくまでファンサービスという内容だけど、それはそれで良し。
 それにしてもジャンプで描いていたときより伸び伸びしているような気がする2。個人的には鬱陶しいだけだった大量のナレーションが無くなった分、絵柄と筋が快適に追えるのが嬉しいのです。

 帰途、上野の某電化製品店に立ち寄り、PHS交換のための下見を実施する。今利用しているサービスの内容全般を記載したパンフレットを手に取りかけ一度戻し、顰めっ面をして展示されている機体を眺めていたら、女性店員が話しかけてきた。まだ交換を検討している段階なので、と言うとあっさり引き下がった。呼び止めて、機種ごとのパンフレットがないか訊ねたところ、先刻見ていたサービス全体としてのパンフレットしかないのだという。「これしかないのですけど」と応える店員に、私は告白した。
「……表紙が嫌いなんですけど」
 苦笑いしながら店員は「じゃあ、裏返してお持ち下さい」と言った。
 ……しかし、この人が出ているCMを目にしなくなったので、こっちのサービスへの切替を検討したんだけどなー……ま、いいけど。


2001年6月13日(水)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day13

 ……だからね、忙しいときに玩具買い与えちゃ駄目だよ自分に。仕事が止まるの目に見えてるでしょう? しかもあとの料金請求のこと考えてる?
 つまりはPHSの機種交換を行いました、という話。H”から feel H”に変更しました。……これで昨日、私が何を深刻に厭がっていたのか気づかれた方も多いと思うが。
 仕事を終えたあと、雨の気配が近付く中をちょっと急いで昨日の電化製品店を訪れて、予めパンフレットを見て決めていた機種を指定して交換して貰う。色も念願のブラック。腹黒のブラック。一緒にUSB接続用ケーブルも購入する。
 しかし、帰宅後に試しに弄ってみると、やはり慣れない機械故に操作がすぐに呑み込めない。まずPCに接続し、電話帳の取り込みと修正作業を行う、つもりがこれがやっぱり意のままにならない。そもそもケーブルの取扱説明書に依れば、USBはUSBでもハブではなくPC本体に直接差さなければいけない、というのがあって、設置環境の問題から私にはこれからして不可能で、有無を言わさずハブのコネクタに差し込んでいるのだ。しかし説明書を参照しつつあちらこちらの設定を調整しているうちにどうにか成功。無事に電話帳の取り込みに成功する……が、特に変更する箇所が思い出せなかったのでそのまま。
 ついで、PHS本体を弄り始める。定番で待ち受け画像とメロディから手を入れようとするが、どこにどう登録されているのか解らない。しかし初期登録されているものは多分ろくでもないものだろう、という認識があるので、ここに至って初めてH”対応ネットコンテンツを閲覧して、そこからダウンロードしてみようという気になる。手間取りながらも『Fry Me To The Moon』のメロディデータを入手する。が、待ち受け画像の方は公式メニューから辿れるコンテンツにまともなものが見つからず、ちょっと屈折した手段を用いることにした。パソコンでi-mode対応ホームページから幾つか画像を引っ張り出し、それをPHSのアドレスに添付ファイルとして送信したのである。しかし、見つけた画像は大抵gif形式で、そのままだとH”では利用できないので、bmp方式に変換した上で送らなければならない。当然、アニメーションgifであってもこうなると静止画にしかならないが、まあそれは致し方ない。そもそも見つけだした画像自体静止画だったので再現性の点では今回問題はなかったのだから。
 ――しかし、一番欲しかったのは、どこかで誰かが触れていたちよちゃんのgif動画だったんだが……発見できません。どなたか御存知でしたら在処教えて下さい。

 本日のお買い物
1,中山かつみ『CYNICAL ORANGE.』(FOX出版・FOX COMICS)
2,涼元悠一『青猫の街』(新潮社)
3,澁澤龍彦『悪魔の中世』(河出書房新社・河出文庫)
4,フランク・J・ブルノー『実例 心理学事典[新訂版]』(青土社)

 1と2はbk1より。帯が破けたものを平然と送ってくるのは勘弁してくれ。1は絵柄だけで何となく買ってみたが、サイレント手法を用いた作品が多くなかなかの出来映え。モノクロ部分の紙をオレンジ色にしたのもいい発想ではなかろうか――と書いてアップロードした直後に、増刷分から以降は白い紙での印刷になっているという情報が届く。成る程、これは何処かの店頭から返品で一旦戻り、それから私の手許に来たらしい。破れているのも納得……するけどしたくない。ともあれ、店頭でオレンジ色の造本のものを発見したら「買い」なのだそうだ。弱点としては、台詞付きの作品が全般に「だからどーした」的な顛末に終わっているのが勿体ない気も、いやだからこれでいいような気もする、ちと矛盾した気分を齎すことか。2は色々と切羽詰まった事情があって慌てて購入。これとそれとあれとそれを早く読まないと。
 3と4は折角図書券があるんだから、と資料として使い回しの利くものを選択。4などは以前店頭で見かけて「いつか買ってやるんぢゃー」と内心歯噛みしていたものだったりする。要は、心理学用語にそれぞれの用例・実例を添えた、ありそうでなかった類の事典である。今はこういうのが欲しくて堪らない時機なのだ。3の方は、私のような書き手は多分持っていて損をすることはないだろうな、という実際的判断から。澁澤龍彦だから、というのも無論ある。

 待望の『新耳袋 第六夜』遂に刊行。情報源はここです。で、恒例の発刊記念トークライブ……23日。個人的に佳境。行けるだろうか……目処が立っていないと無理だよなぁ……タイミング悪いなぁ……


2001年6月14日(木)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day14

 軽く行こう、軽く。そろそろ本格的にやばいです。

 本日のお買い物
1,木原浩勝・中山市朗『現代百物語 新耳袋 第六夜』(メディアファクトリー)
2,山田南平『オトナになる方法(3)(4)』(白泉社文庫)

 昨日の今日で早くも捕獲の1。仕事の事情から早めに読まなければいけない本とか色々あるのに早速手をつける。やはり、類書と較べて抜きんでて優れたシリーズと言えよう。夾雑物のない叙述が内容の圧倒的な、あるいはひっそりとした恐怖を効果的に表現しているのだ。昨年何度かライブを訪れたときに著者自らが語ったエピソードが収録されているが、当時と印象が変わらない点にも両者の信念が感じられて興味深い。投げ込みチラシに依れば、来月には二度目の漫画版が発行されるという。こちらもまた、所謂ホラーコミック雑誌の殆どと比しても特にクオリティが高い(やや冷淡な見方をすると、あくまで比較として、という注釈を付さねばならないが)。――実は本巻第十一話として収録されたエピソードは昨年のライブで聞いたときからビジュアル化の価値がある、と感じていたのだが、さて。
 ……で、さっさと読み終えてしまうところだったのだが、今夜は『アンビリーバボー』の放送があり、御多分に漏れず心霊譚も番組に加わっている。『新耳袋』は第一巻を最初の版元で発行した際に全100話あったそうだが、一夜で読み終えた読者に現実に怪異が訪れた、という報告が幾つも寄せられ、その為に版元を移す際に手心を加えて全99話としその形式が現在まで保たれている――即ち、仮に今日中に読み終えたとすると、私は一日で百の怪奇譚に接することとなり……
 なんかやな予感がするので、ちょっと休憩を挟むことにしたのであった。

 定期購読誌『Jazz Life』にて新盤のチェック。熱帯Jazz楽団のニューアルバムが意外に面白そう(『11PM』のテーマなんてのが入っている)とか、verveからデビューする日本人女性ヴォーカリストにもちょっと興味があるぞとか細々と発見があったが、最大の朗報は、パット・マルティーノのMuseレーベル時代のアルバムがPony Canyonより順次復刻される、という話。
 パット・マルティーノは1967年に最初のリーダーアルバムを発売し、かなり初期から唯一無二のスタイルを誇るギタリストとして評価を安定させていた人物だが、1976年に脳動脈瘤を発症、大手術から生還するも記憶の大半を失い、自らのアルバムを聴きながら記憶と演奏スタイルを取り戻し1989年に奇跡的な復活を遂げた、というとんでもない経歴を持つ。今なお第一線で活躍する名手だが、しかしリタイヤ以前の作品も今なお評価が高く、ジャズギター愛好家がお薦めの作品として挙げるものの中には、殆ど必ず彼のMuse時代のアルバム『Exit!』が加わる。だというのに、以前私が店で注文したときには「廃盤」と言われ異様に腹立たしい想いをしたものだった。その渇も、8/10を以て癒えることとなったらしい。あな嬉しや。


2001年6月15日(金)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day15

 突然ながらテンション低。ちょっと疲れてるのか? でも休んでいる暇はないので騙し騙し作業進行。

 木原浩勝・中山市朗『現代百物語 新耳袋 第六夜』(メディアファクトリー)早くも読了。安定した内容に満足。危ないのでラスト二十話ほどは日付が変わってから読んだのは秘密だ。
 そして久弥直樹『ONE's MEMORY』(Cork Board)も読了。何がいけないって『ONE』の設定をかなり記憶から損なっているために、こいつは原作にもいたキャラなのかオリジナルなのかとか、原作との関連が思い出せないために却って虚心に楽しめなかった気がするのだ。物語としてはなんの変哲もなく、原作のアウトラインに属するエピソードを淡々と綴るのみだが、表現の瑞々しさとキャラクターの鏤め方により興味を繋ぎ楽しませてくれた。ところどころ叙述が冗長になっている嫌いはあるが、クオリティはなかなか。

 本日のお買い物
1,『GIALLO No.4 2001.SUMMER』(光文社)
2,吉住 渉『ランダム・ウォーク(2)』(集英社・りぼんマスコットコミックス)
3,『To Heart 4コママンガ劇場(7)』(ENIX)
4,藤原伊織『雪が降る』
5,若竹七海『船上にて』
6,津原泰水『妖都』
7,芦辺 拓『地底獣国(ロスト・ワールド)の殺人』(講談社文庫)

 細々とコメントしている余裕がないので省略。取り敢えず、帰宅してから購入予定表を見たら5は入れていなかったことを知って慌てる。やべ。今月は点数が多いからセーブしていたはずなのにー。

 やっと仕事絡みのラフイラストが届く。役得役得。……しかしテンション低下と全知力が長篇に集中している現状のために咄嗟にインスピレーションが湧きません。どのみち担当氏が明日から出張のはずなので、月曜日まで保留させてもらおっと。


2001年6月16日(土)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day16

 本日の映画鑑賞は、待望のJSA 共同警備区域』(AMUSE PICTURESCinequanonほか・配給)
 とある夜、北朝鮮と韓国の緊張状態の象徴である板門店共同警備区域の北朝鮮側歩哨所で11発の銃声が鳴り響いた。銃弾が飛び交う危機状態ののち、「帰らざる橋」と呼ばれる共同警備区域内に架かる橋の、国境を示すコンクリートの真上で倒れている韓国側の兵士・イ・スヒョク(イ・ビョンホン)が、問題の歩哨所では北朝鮮軍の上尉とチョン・ウジン兵士(シン・ハギュン)の屍体が発見される。事件後、韓国側からはスヒョクの、北朝鮮側からは事件でひとり軽傷で生き延びたオ・ギョンピル士官(ソン・ガンホ)の陳述書が提出されたが、前者は北朝鮮側の拉致から逃れるための犯行、後者は韓国側のテロ攻撃とする、全く矛盾した内容であった。真相究明のため、中立国監督委員会からスイス国籍にして父を朝鮮民族に持つ女性将校・ソフィー・チャン(イ・ヨンエ)が派遣される。彼女は現場に残された銃弾の数、スヒョクの拳銃に残った弾丸の数、スヒョクの拳銃の扱いに関する習慣の食い違いから、現場に未知の五人目が存在した、と推理し本人達の再尋問と同時に関係者に事情聴取を繰り返す。
 ――物語は遡り、ある出逢いの情景が描かれる。その日、スヒョクは演習中に部隊共々誤って38度線を越えてしまった。たまたま用足ししていたため撤退に遅れ、慌てていた拍子に地雷を踏み身動きが取れない状態となる。助けを求める彼の前に現れたのは、こともあろうに北朝鮮側の兵士二人だった。恐怖に屈し二人に助けを求めたスヒョクの足の下の地雷から信管を抜いた兵士は、スヒョクにその信管を譲り、何の手出しもせず立ち去っていった。本来それだけで終わるはずだった出逢いは、しかし雪空の演習中に再び、そしてスヒョクが板門店に配属され覗いた双眼鏡の向こう側でみたびと繰り返され、そして人知れぬ南北の交流を生んだ。最初は夜間、石に手紙をくくりつけ互いの歩哨所に向けて投げ合うという文通の形で行われた交流だったが、遂に北側の兵士・ウジンが戯れに書き記した招待の言葉を真に受けたスヒョクが宵闇に身を潜めて歩哨所に二人を訪ねるにまで至る。更に、あと三ヶ月で除隊となるスヒョクに羨望と寂しさ混じりの慨嘆を漏らす弟分・ナム・ソンシク(キム・テウ)をも招き入れ、南北の青年達は夜の歩哨所で友情を深めていたのだった……だが、もうじきスヒョクが除隊し、これを最後の訪問にしようと心を決めた夜に、その悲劇は唐突に齎された……
 監督はもともと韓国でも屈指の映画マニアであり、先に撮った二作品はどちらかというと芸術的で通好みな作品だったそうだ。だが巨額の制作費を得たことにより敢えてエンタテインメントを志向した作品に仕上げたそうだが、これは確かにお見事。物語としても映画作品としても殆ど非の打ち所が見当たらない。先に原作を読んでいたお陰で、必要以上に物語に感情移入せず見ることが出来たのだが(研究するとか隅から隅まで鑑賞し尽くすという意図がない限りやるこたありません)、原作よりも緻密な計算が行き届いた筋回し、細かな描写に絡めた文化的・社会的認識の妙、そして痛ましい場面の直接表現を避けながら切ない情感を齎さずにおかない演技とカメラワークなど、物語とそのテーマ処理の巧みさにも増して映画としての完成度の高さが窺われた。原作同様、南北分裂というテーマをイデオロギーとしてでなくある悲劇の大きな要素として描き、純然たる人間ドラマに仕立て上げたことこそが本編の勝利だろう。特に、ソフィーの前で並んで訊問の場に現れた二人の微妙な表情、そしてソフィーの推理を耳にして遂に真相を暴露しかかったスヒョクに、唾を飛ばしながら詰め寄るギョンピルの姿は、ことその顛末を知っていればいるほどに胸に迫るものを感じるはずだ。繰り返すが、本編においてイデオロギーも南北分裂も、重大な一部ではあるが決して主役とはなっていない。現代に作られる意味と「娯楽として通用する作品を撮る」という意志とが重なったからこその名作である。
 因みに、この映画版は原作をほぼエッセンスのみ留め極端に変更を加えている。事件の主体となる悲劇の推移も無論それに付随する発覚の過程も異なるが、最大の潤色は中立国監督委員会の調査官を男性から見目麗しい女性に変えたこと。併せて原作では事件とオーバーラップして語られていた調査官の出自が、映画版では終盤、調査員が解雇される場面でさらっと示されるのみとなっている(無論、よくよく考えると登場人物の心理や全体の展開にちゃんと影響を及ぼしているが)。こういう大幅な改竄は多く非難の対象となるが、本編では国境を越えた友人達の悲劇に主眼を移すことで焦点が散漫になることを防ぎ、寧ろ原作よりも純粋な形になった分、質で上回ったと言えるだろう。――性別を変えたのは多分に彩りを添えたかっただけ、と思われたが、でもイ・ヨンエ美人だからいいや。
 最後に、もしこの映画を見てプログラムを購入しなかった方があるなら、後悔してください、と付け加えておきます。裏表紙は、映画のラストで提示されたあの意味深長な写真が採用されているのです。私は習慣で鑑賞前に購入し、映画館を出た後で見直して、震えました。最近のプログラムは様々な趣向を凝らしたものがあるが、これほどシンプルで効果的なものもちょっと珍しい。

 久弥直樹『SEVEN PIECE』(Cork Board)読了。あくまでファンサービス的な内容、エピソードも全般に散漫だし誤魔化しめいたあとがきもちょっと、という気はした。描写は綺麗なのだが、ヒロイン格の友人二人(雪見と詩子)が非常に似通っているために時々混乱させられるのもちょっと問題ではなかろうか――致し方のないこととは言え。『夏日』というエピソードが一番整っていた、という印象。……で、結局タイトルの「PIECE」は何故単数形だったのでせう。

 夜、友人が中古のノートパソコンを携えて来訪。どーにかトラブルを解消してくれ、という相談だったがシステムのスペックが解らなくてOSのバックアップCDもなくて私にどうしろと。取り敢えずざっと出来ることだけやって別のもっと詳しい知り合いに頼れ、と匙を投げる。初心者にこんなパソコンは荷が重すぎなんじゃい。

 ……さて、明日はどうしよう。この時期に二日続けて映画を見に行くのもどうかと思うのだが、調べてみると、どうしても見たい『誘拐犯』は次にかかる『A.I.』の先行オールナイト上映が始まる関係で、思いの外早く次の金曜日に終わってしまうらしいと判明し悩む。……デル・トロの演技が見たい、というのが主目的のため、どうせDVDも出たら購入するのだろうがやはり一度は劇場で見てみたい。しかし、先週食い逃した行き付けの蕎麦屋のうどんにも未練があるのだなあ……。どーしたもんか。


2001年6月17日(日)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day17

 ……ほいでね、結局、両方取りました。丸の内まで映画を見に行き、それから本屋に寄って、我が家を挟んでちょうど正反対の位置になる行き付けの蕎麦屋までバイクを走らせて。最後は当たって砕けろの気分だったが、ギリギリで念願のうどんにありつけたのだった。やってみるもんである。
 さて、ということで二日連続の映画鑑賞は、こちらも待望の誘拐犯』(Asmik Ace・配給)である。上映が次の金曜日で終わるというのは私の誤解だと判明したが、思い立ったが吉日と観に行った次第。
 アメリカ社会の底辺で流浪に明け暮れながら生き長らえてきたロングボー(ベネチオ・デル・トロ)とパーカー(ライアン・フィリップ)は、精液提供者となるべく資格検査に出向いた大病院で漏れ聞いた電話の内容からとんでもない企てを思いつく。大富豪のチダック(スコット・ウィルソン)の若い後妻・フランチェスカ(クリスティン・リーマン)が妊娠を厭っているために雇われた代理母のロビン(ジュリエット・ルイス)を誘拐し、胎児の身代金を要求する、というものだった。ペインター医師(ディラン・カスマン)の許で定期検診を終え病院を出る途中を二人は襲撃するが、思いの外に鍛え抜かれた護衛二人の対応に二進も三進もいかなくなり一時的に撤退、外部から銃撃しおびき出す作戦に出る。ジェファーズ(テイ・ディッグス)とオベックス(ニッキー・カート)の護衛二人はロビンにエレベーターで屋上に向かうよう指示し応戦に出向くが、ロビンは従わずに逃走を企てた。しかし脱出直前に舞い戻ったパーカーが彼女を拉致し、静かなカーチェイスが始まった。緩急自在の駆け引きで護衛を翻弄し、病院駐車場での銃撃戦に警察が出動したどさくさに紛れてパーカーとロングボーはどうにかその場を逃げおおせる。
 しかし、休憩を取っていた場所でロビンが脱水症状を起こし、やむなく二人はペインター医師を呼び出す。治療ののち、パーカー達はペインター医師の口から危険な事実を知らされた――チダックは石油王であると同時に、組織の資金浄化に手を染める人物であり、つまり彼の金は綺麗なものではなく、警察の介入は有り得ない代わりに決して一筋縄でいく取引ではなかった。ロングボーはペインターに、彼を仲介として身代金の取引を行うことを告げ彼を帰すが、ことにはまだ裏があった――中立と思われたペインター医師は、その実チダックの隠し子であり、ボルチモアでの失態を父と組織とにフォローされた過去がある。また、チダックの部下の間にも様々な思惑が蠢いていた。フランチェスカとジェファーズは密通しており、ただ胎児の無事だけを望む理由があり医師も代理母も邪魔だった。唯一、最もチダックに近い場所にいる運び屋・ジョー・サーノ(ジェームズ・カーン)は身代金要求のために公衆電話に出向いていたロングボーに早々と接触し、安全な取引を持ちかける。ロングボーは頷かなかったが、二人は近くの酒場で杯を酌み交わしながら歓談し、敵同士ながら奇妙に打ち解けた空気になる――だが、平穏な時間を終えて、パーカーとロビンが待つモーテルの一室に戻ったとき、ロングボーはロビンの口から衝撃的な事実を知らされることになる……
 ――で、結局誘拐事件としては何処に話を持っていきたかったんだろう、というのがシナリオに対する素直な感想。確かに登場人物の細かな台詞、表情の変化、場面転換などに精緻な企みは窺えるのだが、それが結末に於いて収束するわけでもなく解明されるわけでもないから、いまいちカタルシスに乏しい。要は、全体としての整合性よりも、暴力的な表面に隠れたそうした細部の仕掛を読み解き緊張感に身を委ねるのが本編の正しい味わい方なのだろう。だが、予告編での宣伝文句からシナリオ全体の纏まりを期待していただけに、若干当てが外れたような気分になったことは否めない。
 しかし、部分部分の緊張感、曰くありげな台詞と策略の応酬、そして西部劇を彷彿とする映像感覚と銃撃戦など、承知の上でならば楽しめる部分は多く、その辺りの拘りは高く評価したい。特に、妊婦を拉致した直後の、時速ひと桁台で行われるカーチェイスのアイディアなどは、観ていて興奮を覚えるほど傑出したアイディアである。実際にこの場面のアイディアを提供したというベネチオ・デル・トロの存在こそ、本編の魅力の大半を占めている、と言っても過言ではあるまい。そして、登場人物の大半が悪党ながら、その行動に迷いはなく、決してハッピーエンドとは言えない結末にも不思議な清々しさを感じさせる(実際には、更なる波乱を予想させるワンシーンがテロップ直前に挿入されているのだが)のも、その透徹した哲学の為せる業に他ならない。万人に薦められる性格の作品ではないし、お世辞にもベスト級とは言い難いが、一概に切り捨てられない奇妙な魅力に満ち満ちた一篇。
 気になるのは、プログラムに依れば監督は映画で蔑ろにされがちな「死のリアリズム」を体現するために本編を作ったそうだが、ではお訊きしたい、登場人物達は一体どこからあの大量の弾薬を調達しとんねん。昨日、その弾丸の数が大きな鍵となった『JSA』なんて映画を見た所為もあるかも知れないが、その奔放大胆な撃ちっぷりが鑑賞中気になって気になって仕方なかったのであった。最終的に何発撃ったよ君たち。ついでにその銃撃戦の始末は誰がつけるんじゃい。……まあ、美学の所在がはなから違っているのだから、許容できないわけじゃないんだけどね。そもそも原題は『the way of the gun』なのだから推して知るべし。
 ……で、あれこれ言ったが、結論としてはベネチオ・デル・トロの味わい深い演技は『トラフィック』同様に堪能できたので、ひとまず私は満足しております。検証してみた結果、見直すだけの価値はありそうだし。繰り返しますが、他人様には強いてお勧めしません。独特の美学を具えたノワールや、丁々発止の駆け引きと緊張感を作品に求める向きになら、という程度か。

 中央通りはところどころ歩行者天国となっているため、手前で左折して迂回気味に移動しようと思ったところ、某政党の街宣カーに複数の黒塗りの車が、車線変更禁止ライン手前までぎっしりと左折レーンを埋め尽くしていて、明らかに渋滞を助長していた。……ごきげんようさようなら。あなた達に票なんか絶対入れてやるもんか。しかしこうやって消去法を積み重ねていくと、結局政党単位で入れるところが消えてしまうんだけどね。

 本日のお買い物
1,ジェフリー・ユージェニデス『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』(早川書房・ハヤカワepi文庫)
 フランシス・コッポラの娘ソフィア・コッポラ初監督の映画『ヴァージン・スーサイズ』原作。ある季節に立て続けに自殺した姉妹の謎を追う物語。既に映画はDVDで発売されており、粗筋を見たときからずっと気になっているのだが、原作があるならまずそちらから目を通してみようと購入。……待っているといつまで経っても見られないので、多分遠からずDVDも購入するでしょう。はあ。


2001年6月18日(月)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day18

 選挙広報の葉書の住所が間違ったままで届いたので、また私のなかで候補者がひとり消えました。候補者の所為じゃないのは百も承知だが、もっと繊細になろーよー。

 本日のお買い物
1,たかしげ宙・皆川亮二『スプリガン[愛蔵版](2)』(小学館・少年サンデーブックス)
2,椎名高志『MISTERジパング(5)』
3,河合克敏『モンキーターン(17)』
4,藤田和日郎『からくりサーカス(18)』
5,高橋留美子『犬夜叉(21)』
6,安西信行『烈火の炎(29)』(以上、小学館・少年サンデーコミックス)
7,細野不二彦『Blow Up!』(小学館文庫)
8,スコット・フィリップス『氷の収穫』(早川書房・ハヤカワ文庫HM)
9,神坂 一『スレイヤーズすぺしゃる(17) 小さな濃いメロディ』(富士見書房・富士見ファンタジア文庫)

 マンガばっかり。7は連載当時に読んでいた、ジャズをモチーフにした作品。全二巻のオリジナル単行本もリアルタイムで入手している(この単行本、幾つかのエピソードが削られた状態で発行されており、かなり不満があった)。当時はジャズ関連の描写はさっぱり理解できなかったのだが、今読むとどうなるのかと思い購入してみた。……うん、当時よりもよく解るぞ流石に。以前この日記で『Memories of You』という曲について触れたのも、本書の記憶があったからでした……読み直すと、ちゃんと本文に出所が書いてあった。
 8は本年度MWA最優秀新人賞ノミネート作品。今回は早川書房で受賞作を全て刊行すると聞いた途端、マニアの血が「全部揃えろ」と騒ぎ始めたのである。その端緒として。ユーモア精神も具えた凶悪なサスペンス、というのも私の嗜好の範疇にある。9は……タイトルが最高。それだけで嬉しい。

 仕事帰りの夕方、本を借りに行くだけのはずが一時間ほどあーだこーだと打ち合わせ含む四方山話をしてしまう。そのため長篇がやっぱり進んでいないので今日の日記はこの辺で終わります。
 ちなみに借り物は
1,久弥直樹『if』(Cork Board)
 関係ないが今から夏の心配をしております。……なんか、知らないうちに廻りたいところが増えてるんですけど……


2001年6月19日(火)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day19

 最早ネタに走っている余裕すらありません。長篇書きながら来月半ば締切の気づけば30枚程度にまで枠が巨大化していた短篇を煮詰めております。何だかんだで大阪訪問中も進めなければ間に合わない気もする――つまりこれはノートパソコンを買えという啓示か、などと変な方向に妄想を拡げていたりする。無論普通それを逃避と呼ぶのだが。

 本日のお買い物
1,倉田英之・山田秋太郎『R. O. D.(2)』(集英社・ウルトラジャンプコミックス)
2,中条比紗也『花ざかりの君たちへ(15)』(白泉社・花とゆめコミックス)
3,『MISSION: IMPOSSIBLE』(CIC-VICTOR Video・DVD Video)

 1……設定とか話運びはそれなりなんだが、どちらも充分に活かされていない、という気がしてならない。まあ、本気で素材にしようとしたら愛書狂ほど手に負えないものもないのも事実なんだけど。2はいい加減一区切り欲しくなってきました。この方も、どちらかというと短篇や短めのシリーズに巧さを感じるタイプの描き手なので。
 3は正確には買い物ではなく、『M:i-2』のDVD発売時に行われた全員プレゼントキャンペーンに応募したものが漸く返ってきたのである。ジャン・レノも出ていることだし、と早速見ると……2を先に見てしまうとこれほど戸惑う代物もない。2が完璧なジョン・ウー流アクションムービーだったのに対して、こちらは所謂テレビドラマ版『スパイ大作戦』の方向性により忠実な作りなのだ……と思う。オリジナルには興味がなかったから断言は出来ません。2はひたすら極限状況を生みだして、それに付随する超人的なアクションで魅せていたのが、こちらはミッションの性格とそれによる窮地から脱出する様を描いている。ミステリ的な仕掛もある――と言ってもかなりバレバレだが、物語としての深みと企みは2よりも上、但し元々狙っている部分が違うのだから当然なのだけれど。2同様、エンタテインメントとしてはなかなかの出来。

 ……さ、書き物に戻るべ。


2001年6月20日(水)
http://www7a.biglobe.ne.jp/~tuckf/Diary/20010611~.htm#Day20

 定期購読の『DVD&ビデオでーた』で今後購入するDVDをチェックする。最新の情報を羅列したページを戯れに開いて、ちょっとショックを覚えた。
 新作紹介のページは、冒頭の見開きで注目作が1ページずつを占め、そのあとは1ページを四分割して紹介しているのだが、その見開きの次のページから並ぶ八作中、四作を劇場で見てました私。トップの二作品も無論のこと。しかも未見の四作も、うち二作品はギリギリまで見に行こうと考えていたものだったりする。いやー、なんつーか、もう。しかもその見た作品の殆どをまたDVDで買おうと目論んでるに至っては病気としか言えますまい。
 で、それ以外に買うものがないか、念入りにチェックしているうちに、洗脳されました。

 本日のお買い物
1,野間美由紀『パズルゲーム☆はいすくーる(4)』(白泉社文庫)
2,『ダンサー・イン・ザ・ダーク Special Edition』(松竹ホームビデオ・DVD Video)

 そして早速、劇場予告編・TVCMで頻繁に流れていた曲を、特典ディスクの方で鑑賞する。いいねえ。現状で本編を見ると凹みそうなので、執筆がひと段落するまではお預けにしようかなと。


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温泉にでも行きたいわ。作業が終わったら。

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