cinema / 『ホワイト・プラネット』

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ホワイト・プラネット
原題:“La Planete Blanche” / 監督:ティエリー・ラゴベール、ティエリー・ピアンタニダ / 協力:ジャン・ルミール / 脚本:ティエリー・ピアンタニダ、ステファン・ミリエール / 製作:ステファン・ミリエール、ジャン・ラバディ、ジャン・ルミール / 製作総指揮:ジャン=ピエール・セール、ジョゼ・ロベルジュ / 撮影:ティエリー・マシャド、マルタン・ルクレール、ダヴィッド・レイシェル、ジェローム・ブヴィエ、フランソワ・ド・リベロル / 編集:カトリーヌ・マビラ、ナディーヌ・ヴェルディエ、ティエリー・ラゴベール / 音楽:ブリュノ・クレ / 演奏:エリサピ・イザーク、ジョラーヌ / ナレーション:ジャン=ルイ・エティエンヌ / 配給:東北新社、Comstock Organization
2006年フランス・カナダ合作 / 上映時間:1時間23分 / 日本語字幕:佐藤恵子 / 字幕監修:宮崎信之(東京大学海洋研究所教授)
2006年06月24日日本公開
公式サイト : http://www.whiteplanet.jp/
TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2006/06/30)

[粗筋]
 広大な氷原によって形成され、外界と異なる生態系を確立する、いわば地球上に存在する“白い惑星”である北極。極寒のこの地にも、ホッキョクグマ、アザラシ、セイウチ、カリブー、イッカク――様々な生命が営みを繰り広げている。季節を追うごとに変化する過酷な環境に彼らが如何に順応しているのか、如何にその命を連鎖させているのか――そして、急激に訪れつつある温暖化のなかでどう喘いでいるのかを、根気強い撮影により捉えた貴重な映像で綴るドキュメンタリー。

[感想]
 近年、自然を根気強く、時間をかけて取材したドキュメンタリー映画が年に1・2本ずつ日本に上陸している。アカデミー賞候補ともなった『WATARIDORI』、衝撃度では傑出していた『ディープ・ブルー』、アカデミー賞に輝いた『皇帝ペンギン』あたりがその代表と言っていいだろう。いずれも短期間の取材ではおよそ撮影不可能だったであろう貴重な映像を捉えており、強い印象を齎す。
 他方、こうした作品には共通した欠点がある。映像それぞれは貴重なのだが、ある程度極地の生物についての知識がないと貴重さに理解が及ばないこと。また、本来繋がりのない映像を集めて、長篇映画と認識される最低限の尺である1時間半程度にまとめているため、ストーリーというものがなく、物語としての牽引力に欠くことが多い。アカデミー賞ドキュメンタリー部門を受賞した『皇帝ペンギン』はこの点に自覚的に、ナレーションを加えることで特定の親子を集中的に追うという体裁を整え、ストーリー性を付与することに成功した。
 惜しいかな本編は、そのふたつの弱点を克服できていない。そればかりか、こうした大自然に焦点を据えたドキュメンタリーにとって最大の目玉であるはずの新鮮味、衝撃度さえ欠いている。というのも、前述の作品それぞれで既に描かれた世界と重複している箇所が多く、アングルは違っても映しているものは似通っている傾向が強かったからだ。クジラや渡り鳥の生態などは極めて精緻に追われていたものがあるし、本編のなかで最も重点を置かれている印象のあるホッキョクグマの姿にしても、狩りの様子などは、狩られる側ではあるが『ディープ・ブルー』で描かれている。そうした新味の乏しさ、牽引力の弱さが終始付きまとっていた。
 そうは言っても、やはりこれだけの映像を撮り貯めた熱意には頭の下がる思いがする。また、ホッキョクグマの子育ての様子や、海中で授乳をするセイウチ、丘をひとつ覆い尽くすほどに群居したカリブーの姿など、未体験の映像がきちんと盛り込まれていることもまた事実であり、衝撃は少なくない。
 何より、こうした未曾有の世界が温暖化によって次第に侵蝕されている現状を、押しつけがましくなく訴える姿勢には好感が持てる。もともと言葉数の多くないナレーションも無論だが、映像でもそうした現実を声高に叫ぶことをせず、最も象徴的に扱われるホッキョクグマの生態と、それが氷原の侵蝕されていくことで受ける影響とを、静かに訴える。そうしてラストで提示される、薄い氷を踏み転落しながら進もうとするホッキョクグマの映像のなんと胸を打つことか。
 整頓はされているが、あまりにあっさりとした処理は映画としての主張が弱く、率直に言って退屈する。だが、大自然を主題としたドキュメンタリーという観点からは見所もあり、映画であるか否か以前で先に挙げた作品群を好む観客や、未だこうした作品に触れた経験のない人には訴える物の多い作品であろう。

(2006/07/01)


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