絵画悠々TOPに戻る
次章(22)に進む
前章(20)に戻る
|

最近油彩画の評のなかで「透明感のある絵」と言う表現を屡耳にします。多分に褒め言葉として使われているようですが、以下その意味について考えて見ます。
絵の透明感とは、淀みも霞みも無く澄んだ空気のもとで、情景が鮮やかに映されている状態のことだと思います。そこでは実景の明暗や色の濃淡がありのままに忠実に表現されるのです。
油彩画が風景をそのように描くのはごく当然のことです。「明暗の奥行き」の章で、絵具が表現可能な濃淡や鮮明度の幅に限界があることを書きましたが、できればその限界を一杯に使いきって絵を描きたいものです。しかし現実の作品は必ずしもそうはなっていないことがよくあるのです。
その第一の原因は、絵筆の洗浄が十分でなかったり、パレット上で絵具の処理がまずかったりなどで、絵具に別の色が混入し、発色を悪くしているからです。たとえば暗黒の部分が十分黒く描かれていなくて、霞がかかったような、あるいはうっすらと粉をまぶしたような黒になることがあります。それは黒の絵具に白とか、他の色が多少とも混入していることが原因です。また同様の理由で、際立って鮮明な色とすべき所が、鈍い色に化けてしまったりします。混入する量が少なければ、色の変化も見かけ上少ないので、周囲の色との比較だけでは問題に気付かないことが多いのです。
一枚の絵を纏めるには、原色と混色との適切な使い分けが重要です。原色だけではけばけばしい絵になってしまいます。構図上の主役には当然ながら原色を適度に使って際立たせることが必要ですが、周囲に鈍い混色系があってこそ、原色がハイライトとして強調されるのです。
ただし使うべきでないところ、混色してはならないところを混色すれば、絵全体がぼけた感じになったり、もや越し、あるいは汚れた眼鏡越しの風景になってしまいます。 また風景画の場合、遠景が多少霞んで見えるのは当然ですが、近景が理由無く霞んだのでは、画面の奥行きや遠近感が失われてしまいます。
透明感のある絵にするは、要するに原色と混色との使い分けを上手に行うこと、さらに原色を使う箇所では、絵具の純度を保ち、別の色が混入しないよう細心の注意を払うことが必要だと思います。
なお最近化粧品の業界でも美肌の表現に透明感と言う言葉がよく使われます。この場合は、皮膚が抜けるように白く、皮膚の下の血管や組織がうっすらと透けて見えるような状態を指しているのだと思います。さらに音楽に対しても透明感と言う言葉が使われることがあります。これらの例のように、透明感は言葉は同じでも、対象ごとにそれぞれ意味が異なるようなので注意が必要です。
2009/5/1
|