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2010’07/10 「第6章 震災時の火災調査」とその解説 第6章 震災時の火災調査 この第6章は、通常の規程とは異種のものとなっている。東京消防庁内の各規程の中で も通常規程の中で、章立をもって、別の運用基準を示す文書は少ない。 しかし、火災調査活動は、通常の場合には「火災予防」の視点が最優先され、また、司法 的立場を念頭にしているものであるが、震災時には「震災のり災者の保護、復興支援」を 優先した活動が必要となることから、規程で定められた事務項目等を変更させる内容とな っている。 本章は、阪神・淡路大震災の「神戸市の火災調査活動」を参考とさせていただいた。 第1節 震災時の火災調査体制 (組織的な調査の執行) 第73条 部長は,地震の発生から,東京消防庁災害活動組織規程第1条に定める震災警防本部が設置されている間(以下「震災時」という。)に発生した火災の調査に対し,組織的な執行体制の確立に努めるものとする。 (情報の収集) 第74条 署長は,地震の発生直後から災害状況の記録及び調査のための情報収集等に努めなければならない。 (震災に伴う火災の指定) 第75条 部長は,調査を円滑に実施するために,震災時に発生した火災のうち,期間及び地域を限定した火災(以下「震災に伴う火災」という。)を指定するものとする。 (火災調査活動) 第76条 署長は,震災に伴う火災の指定を受けた火災の調査については,り災証明発行のための損害状況調査を優先するとともに,出火原因,延焼拡大状況等の記録に重点を置いた震災時の火災調査活動を実施するものとする。 2 前項の震災時の火災調査活動要領については,別に定めるものとする。 第1節「震災時の火災調査体制」は、地震発生から始まる庁の震災時対応を念頭に置いた上で、震災時の「火災調査活動」 の考え方や活動内容、事務処理要領をさだめたものです。 第73条「組織的な調査の執行」として地震時の被害状況を勘案して、通常の署単位での事務処理では、不都合が生じること から、署を超えた全庁的対応を、地震災害の発生と同時に立ち上げられられる、ようにしたものです。 第74条「情報の収集」は、震災時に発生する電気遮断等を想定し、通常の事務処理では情報の収集・整理が出来えないこと を想定し、メモ書きでも写真一枚でもより多く、情報の収集として捉えて確保することを求めたものです。 第75条「震災に伴う火災の指定」は、阪神淡路大震災を踏まえて、[震災時の火災]とは、[時間的・地理的にどの範囲か]が、 様々なとらえ方があることから、部長が当庁の方針として定めることとした。例えば、[震災時]の火災と言っても、地震発生 直後の火災だけを指すのか、翌日等数日間の発災後の混乱の中で発生した火災も含まれるのか、あるいは、地理的に離れて いても「東京」と一括りにして、含まれるのか、など、[時間的・地理的な範囲]の考えたを明確にしないと「復興支援や統計]など に混乱が生じて、震災後の東京の復興活動に支障となる。 このため、東京消防庁として、時間・地理を限定して「震災に伴う火災」を定めることとした。もちろん、都、国の消防庁、 気象庁などの関係防災機関等との調整がなされることは、当然のことである。 第76条「火災調査活動」は、[震災に伴う火災]とされた場合には、主たる活動目標を「り災証明の発行」に置くことにしている。 震災により混乱しているから事前命令として、[復興]を視野に入れた、活動の目標を明確にしている。 [火災調査活動の要領]を要綱から下記に抜粋する。
(調査員の確保) 第77条 署長は,震災後の行政対応を考慮し,震災に伴う火災による被害の記録のために必要な要員を確保するとともに,調査員に対して現場の見分,写真撮影等の記録を行わせるように努めなければならない。 (ボランティアの活用) 第78条 署長は,震災時に参集した東京消防庁災害時支援ボランティアを有効に活用し,調査活動の迅速化に努めるものとする。 (調査員派遣要請) 第79条 署長は,震災による管内の被害が甚大で,り災証明発行のための損害状況調査以降の調査活動に支障が生ずると予想されるときは,部長に対して調査員の派遣を要請することができる。 (必要な資器材の確保) 第80条 部長及び署長は,震災時の火災調査活動に必要な資器材の確保に配意するものとする。 第77条「調査員の確保」は、震災の発生と同時に実施しなければならない震災時の火災調査活動に調査員をよりきめ細かく配置 するために定められている。 第78条「ボランティアの活用」は、東京消防庁災害時支援ボランティアの中に、[火災調査活動]を主たる任務とする方がおられる ことからその人達の活用を念頭にしている。その方達は、当庁OBの方が多く、損害調査業務を事前知識として備わっている ことから、震災後に直ちに「火災調査活動」に着手できる。 第79条「調査員派遣要請」は、東京消防庁管内は東西に横に長いことから、地震の被害は、西又は東のどちらかに偏重すると想 定されるので、例えば、城東地区の被害が大きい時は、立川地区や八王子地区の職員を「火災調査員」として動員する計画となり 逆に、立川地区の被害が大きい時には、江戸川・葛飾地区の支援体制を取ることとなる。 全庁職員が2部制勤務に強制変更する体制により、被害の少ない地域の毎日予防・交替制予防要員を重点的に配置して、すべて の庁内地域全体を「火災調査を終了して、り災照明の発行手続きを当該市町村と合同で同時期に実施できる。」こととなる。 第80条「必要な資機材の確保」は、写真撮影等の資機材の確保を覚書等で支援を受ける体制づくりを進めることとしている。 第2節 調査結果の報告及び活用 (震災に伴う火災発生状況の速報) 第81条 署長は,震災に伴う火災の発生状況について,別に定める時期に第63条に定める火災調査速報原票(別記様式第14号及び第14号の2)により送付するものとする。 2 前項に規定する時期までの間においては,東京消防庁震災警防規程第38条による報告をもって第63条に定める速報に代えるものとする。 (震災に伴う火災調査書類の作成) 第82条 署長は,震災に伴う火災においては,第64条に定める調査書類の一部を別に定める基準により省略し,作成することができる。 (震災に伴う火災調査書類の報告) 第83条 署長は,前条の規定により作成した調査書類のうち,火災調査書(別記様式第15号及び第15号の2)の写しについては,火災覚知の月の翌月の末日までに,その他の書類については,3か月後の月の末日までに部長に報告しなければならない。 (調査記録等の集計及び活用) 第84条 部長は,情報の収集及び調査記録の集計等にあたり,必要により他の部長に協力を要請することができる。 (り災証明事務の対応要領) 第85条 署長は,震災時における火災調査の結果に基づき,管轄区域の区市町村長と連携して,迅速なり災証明事務の対応に努めるものとする。 第2節「調査結果の報告及び活用」は、震災時の調査の事務の概要を定めたものです。 第81条「震災に伴う火災発生状況の速報」は、火災件数と被害規模の早期把握が、報道機関等を通じて直ちに求められる ことから、リ災証明の発行の調査に入る前に、本庁に速報することにしている。本庁においても震災対策本部の設置により 火災等の情報が早期収集される態勢となっているが、これらの情報とリンクさせて、より性格な「震災によるり災の実態」を統括 するが、報告が通常のように機能しないことを想定し、「震災対策本部」に入力された報告により替えることも事前指定している。 第82条「震災に伴う火災調査書類の作成」は、震災時には、通常のように「火災調査書類」の作成を義務付けていては、職員 の負担が大きく、結果として「り災者の支援、復興」に結びつかないことから、予め省略できることにしている。
第83条「震災に伴う火災調査書類の報告」は、震災時の調査書類の報告期限を緩和している。 第84条「調査記録等の集計及び活用」は、情報の収集と整理により、早い発表が、復興への道となることから、他の部員の 協力を受けるなど必要な措置により、早期の収集と活用を定めた。 第85条「り災証明事務の対応要領」は、り災証明の発行は、区・市町村の建物倒壊等のり災証明の発行事務と共同して同 時に、震災による証明事務として実施することを定めている。 |
考え方 同時多発する多数火災と大規模火災の 発生に際して、予め決められた規程に 従い、着実に迅速に対処する必要があ る。 全体の把握 2万5千分の地図におおよその焼損地 域を書き込んで、必要な人員と資機材 を準備する。実際的には、全焼している 建物地域よりも、半焼や部分焼の建物 の把握がより困難であり、地図の外周 部付近の調査に力点が置かれる。 |
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現場の見取り 全体を高所から撮影する。必ず、早い 時期に、かつ、多くの写真を撮影する。 左写真は、地域の全体の焼損状況で ある。これだけで、この地域は、「全焼 の判定」が可能となる。 右写真は、中央の木造建物が焼失し、 周囲耐火建物が延焼防止の役割とな つている。 |
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写真は基本に沿って 膨大な写真となることから、基本どお り、写真撮影時には、左写真のように 「撮影コメント」を写し込み、後日の混 乱を回避する。ここは、耐火建物内に 外周部から延焼している。 右写真は、焼損付近現場での「火源」 となる物件の撮影である。火災出火 付近で当時どのような火源が使用され ていたかなどより多くの写真を残して おく。 |
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原因調査も考慮 時間が経過するほど、火災原因調査 の資料が散逸する。り災証明発行が 重点であっても「火災原因」を念頭に 置く。石油ストーブの転倒防止の作動 状況確認である。 地震などの防災関係者は、このよう な「火災調査」上の観察能力が低い ので、消防の調査の立場から、見分 して撮影する。 右写真は、屋根からの延焼を呈して いる。瓦がずれて、野路板に「飛び火」 で延焼したことが見分できる。 |
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住宅地図への落とし込み 調査した結果は、建物一枚ごとの調査票で整理し、合わせて、住宅地図に色分けで落 とし込みをする。 り災証明時に、分かりやすい。また、写真番号などとリンクさせておき、事後の検証に 役立たせる。 区・市町村の「倒壊建物被害」の調査表との整合性を図る。 |
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震災時の火災調査 火災調査規程で、震災時の調査を「章」立てで明記されているものは少ない。 しかし、震災時の火災調査活動は、「震災時の消防部隊運用計画」と同様に、直ちに、かつ、正確に実行 に移行しなければならない活動であり、消防の必須の計画である。 企業に対して、BCP(災害時等の事業継続計画)の作成を呼びかける防災機関の立場からは、当然に市 民の災害時復興への支援活動計画を持っていなければならないと言える。 |