A君には、幼なじみの友人がいました。その友人は明るい性格なのですが、調子に乗ると少し乱暴になるたちでした。 とくに登下校や遠足では、道端のガードレールを叩いて大きな音を出し、周囲が嫌がるのを見て喜ぶくせがありました。 中学1年のある雨上がりの夕方、二人は学校から塾へ向かうまっすぐな道を歩いていました。 その日は学校で何か嫌なことでもあったらしく、友人はガードレールにしつこく傘をぶつけて遊んでいました。傘の柄が当たるたびにガードレールは遠くまで振動して、 ゴーン ゴーン と騒々しい楽器のようにこだまします。 「やめなよ。怒られるよ」 A君がたしなめても、友人はますます調子に乗って ゴーン ゴーン と鳴らし続けていました。 道路沿いには住宅も多く、そのうち誰かに怒鳴られるのではないかとA君は気が気でありません。 いらいらしながら少し離れて歩いていたとき、すぐ背後から、友人が立てていた音とは比べものにならないほど大きな ガアー―ン! という音が聞こえ、ガードレールの振動がビリビリと伝わってきました。 「ほらみろ」 A君は、怒った誰かがレールを殴り返したのだと思い、後ろを振り向きました。 「あれ……?」 道には人も車もありません。何かがぶつかったような様子もありません。 A君は変だなと思いましたが、友人はその音にムキになり、傘を両手に握り直してレールを打ち鳴らしはじめました。 カン、カン、カン。 A君はまた「あれ」と思いました。傘が壊れそうなほど強く叩いているのに、レールの音は少しも響かず、まるで指で押さえた鉄琴のようにすぐ消えてしまうのです。 友人の体はレールに触れていないし、あたりを見渡してもガードレールに寄りかかっているものはありません。 「なんだ、これ」 友人も音の変化に気がついたらしく、気味悪そうにA君に振り返りました。 「見た? あそこ、誰もいなかったよな」 A君がそう言ってさっき音がした方を指すと、友人は 「うそだ」 と言ったきり、黙り込んでしまいました。 塾を終えて、二人は同じ道を帰りました。すっかり大人しくなった友人に代わって、A君は手の甲でガードレールをそっとこづいてみました。 コーン と、いつものようにいい音がしました。 やがて、あの大きな音がした場所に来ました。ガードレールは最近になってそこだけ付け替えられたものらしく、キズもサビもない新品でした。 A君はあらためてあたりを見回しましたが、歩道はレールと高いブロック塀に挟まれいて、人が逃げたり隠れたりする場所はありません。車道を渡っていれば、あのとき振り向いたA君に見えたはずです。 首をかしげていると、友人が 「音が出んかったの、これのせいかな」 と言ってガードレールの一部分を指しました。 見ると、レールの縁が10センチほど、妙な形に曲がっていました。 それは、明らかに五本の指の痕でした。まるで、熱で軟らかくなったプラスチックを握り締めたかのように、鉄がぐにゃりと曲がっていたのです。 友人が言いました。 「さっきはこんなの、絶対なかった。おれ、覚えてるもん」 以来、友人は二度とガードレールを叩かなくなったそうです。
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