第2研究室〜路上の都市伝説を探る〜


レポート3 無人精米機





 A君が小学生のころです。

 ある日、家族で夕ごはんを食べているとき、お父さんが急に怒りだしました。ご飯の中に長い髪の毛が入っていたというのです。
「飯の支度をするときぐらい身だしなみに気を使え」
 と、お父さんはお母さんを叱りました。その場はお母さんが謝ったので収まったのですが、息子のA君が見る限り、その髪の毛はお母さんのものよりずっと長く、そんな髪をした人は家にいるはずがないのでした。

 翌日、今度はA君のご飯の中に、なにか固いものが入っていました。吐き出してよく見てみると、銀色のピアスでした。それを見たお母さんもお姉さんも、自分のものではない、と首を振りました。

 さらに次の日の夕食のとき、今度はお母さんが悲鳴を上げました。ご飯の中から、人の指が出てきたのです。長さは1.5センチほどで、爪には赤いマニキュアが残っていましたが、太さからして足の指のようでした。

 お父さんが米びつの中を調べると、お米に混じって、毛や手足の指ばかりでなく、細かく刻まれたいろんな部分が出てきました。

 腹を立てたお父さんが、いつもお米を買っている馴染みの農家に電話をすると、先方は「そんなはずはない」と言います。
「こっちには怪我した人なんかいないし、長い髪の女だっていない」
 と逆に怒鳴られるほどでした。

  その夜は、残っていたご飯もお米も捨ててしまい、A君とお姉さんが近くのコンビニへお弁当を買いに行くことになりました。

 家族4人分のお弁当をぶらさげて帰る途中、お姉さんが急に立ち止まり、
「もしかして、あれじゃない?」
 と言って、道端にある24時間営業のコイン精米所を指差しました。

 それは最近設置された無人式で、A君の家でも先日から使い始めたものでした。精米したてがおいしいということで、農家からも白米ではなく玄米を買うようになったのでした。

 A君とお姉さんはおそるおそる、精米所のサッシ戸を開けて、機械を覗き込みました。
 暗くてよく分かりませんでしたが、玄米投入口の下のほうに、赤黒い汚れのようなものがこびりついているのが見えました。

 家に帰った二人がそのことを伝えると、お父さんはすぐに懐中電灯を持って出て行きました。そして青い顔をして戻ってきて、メモを見ながらどこかに電話をかけ始めました。
 A君たちが電話のそばで聞き耳を立てようとすると、お父さんは「先に弁当を食べてろ」と言って姉弟を追い払いました。けれどもともと声が大きいので、キッチンまで
「スクリューに髪の毛が」
 などと怒鳴るお父さんの声が聞こえてきました。

 翌日の夕方、A君が学校から帰ると、玄関に3俵分ものコシヒカリが置かれていました。
 上機嫌なお母さんに尋ねると、精米機の設置業者が「このことは内密に」と言って金一封と一緒に置いていったとのことでした。

 問題の精米機はしばらく閉鎖されていましたが、今では営業を再開しています。もう赤い汚れも髪の毛も見当たりません。

 A君はこの出来事を早く忘れようとしたのですが、お姉さんはそれからしばらくの間、なんだか楽しそうに近所の友だちに尋ねて回っていたそうです。
「髪の毛が長くて真っ赤なマニキュアで、銀色のピアスしてるの。けっこうケバい感じかな。でもたぶん、食べ物にはこだわるタイプ。そういう女の人で、最近見かけなくなった人、知らない?」


長野県飯田市


コイン精米機なんて都会にはあまりないから、ピンと来ない人もいるかもしれませんね。ぼくの研究所の近くにはけっこう多いんですが。

それにしても、米の中に指が入ってて、どうして炊くときに気がつかないんだ?血が混じって赤飯状態になってるはずだろ。

そういう現実的なツッコミをする人、ぼくは嫌いです。

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