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非常用自家発電設備の火災
                               A1-52   11’11/12

1, 非常用自家発電設備
 
   今年(2011年)は、東日本大震災とその後の計画停電などにより、非常用自家発電設備に多くの関心が寄せら
  れた。しかし、消防用設備の非常用発電設備の容量は、原則30分であることから、長時間となると機能的には難し
  い問題も生じることがあり、また、電気設備の取扱は電気主任者が実施するもので、一般従業員が触れることがな
  いことから、緊急時の取扱などに齟齬を来すこともある。
   阪神・淡路大震災時においても非常用自家発電設備の「不始動問題」があり、設備損傷、冷却水の損傷(断水)、
  メンテナンス不良、操作不良などが報告されて、最も多いのが「メンテナンス不良と操作不良」による人的原因が占
  めていたことが報告されている(1996年日本内燃力発電設備協会・報告)。 つまり、非常用の設備としては、そのメ
  ンテナンスによほど注意を向けていないと緊急時に適切な稼働ができないことになってしまう。また、非常用である
  ことを前提とした設計となっており、長時間の一般用に向けた稼働運転をすると冷却や制御などでトラブルを発生し
  て思わぬ事故を招くことにもなってしまう。
   
ディーゼルエンジンの非常用自家発電設備
   非常用自家発電機は、スプリンクラーや自動火災報知設備などの消防用設備と非常用照明など建築基準法上
  の設備に用いられる非常用電源としての「防災用発電設備」とコンピュータのサーバーなどの必要最低限の電
  源としての「保安用発電設備」の両方を兼ねていることが一般的(90%以上)である。 その非常用発電設備の原
  動機は、ディーゼルエンジン・ガスエンジン・ガスタービンの3種類がある。
   2009年3月現在では、17万2000台の設置累計となっており、阪神・淡路大震災後には、冷却水のいらないガス
  タービンが増えたようだが、最近は、屋外設置のパッケージ式ディーゼルエンジン自家用発電機設備が、法令上
  の設置基準とは関係なく設置される傾向にある。
 

 左図 ディーゼルエンジンの非常用
 自家発電設備の室内の配置状況。
   この図は標準的な非常用自家発電機室のレイアウトで、デイーゼルエンジンと発動機(モータ)を中心として、様々
  な設備と配管が設置され、出入口を甲種防火戸とした専用室となっている。
 
2, ディーゼルエンジンの火災事例

 
2002年に発生した「ディーゼルエンジン式非常用自家発電設備」の火災
   火災となった施設は、耐火造7/2 延べ数万㎡の建物に設置されているディーゼルエンジンの非常用自家発電
  設備で、施設の電気系統図の概要は、図2のようになっていた。 
            図2 結線図の概要
   商用電源が「停電する」と、商用電源側「
遮断機」と発電機から一般負荷への「遮断機」は、「OFF」となり、発電
  機側から消防用設備と、充電器経由の蓄電池への回路の「
遮断機」が「ON」となる。
   これらの制御系と発電機起動用電源は、停電と同時に「蓄電池」から供給され、さらに、蓄電池の電源低下を防
  ぐために、稼働した発電機からの電源が充電器を経由して蓄電池に直流電源として供給されるようになっている。
 
  火災の発生経緯
  
1) 出火前日の23時頃に当該施設付近一帯が「停電」となった。このため、制御起動して、自動起動装置が働き、
    自家用発電設備が正常に起動した。
  2) その後、30分ほどで、商用電源が復旧したが、電気主任技術者が夜間不在であったことから、警備員が自家
   用発電設備を停止して、商用電源に切り替えることができなかった。
  3) 翌朝6時30分に電気担当者が出社し、その間、すでに7時間以上自家用発電機が運転していた。

    この長時間の運転により、設置してすでに11年を経過した蓄電池が“機能低下”を来した。
   もともと蓄電池の設計容量は、単独では最大80分程度であり、放電分を自家発からの充電でまかなうように
  なっていたが、長時間となって放電が大きくなっていた。さらに、すでに平均5年で取替える蓄電池を11年以上
  にわたって使用し、セル間の電位差も生じるなど「劣化」していた。 
   このため、制御装置を稼働させる正常の電源供給とはなっていなかった。しかし、自家発から充電器を経由す
  る電源が確保されていたため「非常用照明」が点灯しており、その点で蓄電池からの電源供給が正常とみなさ
  れる状態となっていた。

  4) 出社した電気担当者は、発電機室の制御盤の「停止ボタン」を押したが、蓄電池電源系の制御が機能低下しており、
   発電機は停止しなかった。電気担当者は、エンジン本体についている燃料供給を停止する緊急停止レバーを操作し
   てエンジンを停止した。エンジン停止により「冷却水ポンプも停止」したが、緊急停止レバーは、数分後に自動復旧し
   て燃料供給弁を「開」とした。
  5) エンジンが停止したことから、非常用の電源供給回路関係は切り離されていると錯覚し、商用電源に切り替えた際
  に、そのまま商用電源回路
遮断機を「ON」とした。このため連動している消防用設備等への遮断機も「ON」となった。
  非常用発電機が正規に停止すると発電機からの消防用設備等に供給される
遮断機は「OFF」となるが、変則的な
  緊急のエンジン停止と制御系の蓄電池の電源停止により、
「ON」状態のままとなっていた。
  6) 商用電源がそのまま非常用発電設備の発動機に印加されたことから、発動機(モータ)が回転を始めた(車両のセル
  モータと同じ原理)。
   このため、発動機の回転により、エンジン部がモータリングを起こして稼働し、燃料供給により無負荷の過運転と冷却
  水の供給停止により、エンジンが過熱して爆発的に破損した。
  発電設備室内の54㎡が焼損し、エンジンを止めようと室内に入った電気担当者が高熱のオイルによりやけどの負傷を
  した。
              焼損した非常用発電設備室の焼損状況。
                 発動機周辺の設備や配管は、破壊的な損傷と焼損を呈している。
       破損したエンジン部のコンロッド付近の状況      破損したエンジンヘッド付近の状況
  [原因]
   停電より起動した非常用発電設備が、長時間稼働したことにより制御系の蓄電池設備からの電源が供給不足と
  なっていた所で、強制的にディーゼルエンジンを停止したため、非常用電源回路が切り離されたと錯覚して、商用
  電源を通電させ、電動機がモータ回転したため、エンジンが稼働し、冷却水断水と無負荷運転により過熱して潤滑
  油が噴出し焼き付きを起こして破損、火災となった。

  [その後]
  1) 復電時の速やかな復旧体制がとられていない。電気担当者がいないと非常用発電機の稼働も停止もできない
   体制であったことから見直しを進めた。
  2) 電気担当者が復旧時のチェック事項を順守した手順を守っていなかった、ことからチェック処理方法を作成。
  3) 蓄電池設備が適切に維持管理されていなかった。通常は5年程度で交換するが、非常用自家発電設備の定期
   運転時に稼働すると「交換しない」ことが多いことから、定期点検の徹底と取り替えの遵守をした。
  4) 蓄電池の各セル電圧のバラツキのチェックをしていなかったことから、定期点検の励行をした。
   なお、今回の施設は本事故を教訓として、全て電気系統の見直しと配線系統の改修を実施し、さらに、社員等の
   教育とマニュアルの作成を行っている。

3, ガスタービンエンジンの火災事例
   ガスタービンエンジン
   ガスタービンは、ディーゼルと異なり、冷却系の水設備を必要としないが、空気圧縮部の設備や排気系設備など
  特徴的な設備を必要とする。また、ブレードなどのエンジン部内部部品がチタンなどの特殊金属を使用することか
  ら「高価」であるものが多いが、最近は、パッケージ式などの比較的節地が容易で値頃感のある製品もあり、設置が
  進んでいる。


  火災の発生経緯
  
 自家発電の定期点検中に、目視点検を終えて異常のないことを確認後、制御盤でう「手動起動」をかけて、運転
  を開始した。
   計器類の確認作業をしている時に、突然、排気筒部分から「ドーン」と言う音とともに爆発して、火炎が消音器室で
  確認された。
   焼損は、格納庫(エンクロージャー)内部のガスタービンの原動機側が焼損しており、原動機の排気筒内部は、
  ベアリングケースなどの金属部品が消音器室まで飛散し、消音器室は内部から膨れ上がって爆発した形状となって
  いた。
   さらに、原動機の排気筒側の株に取り付けられている「潤滑油一次側供給配管」と「二次側戻り配管」は脱落して
 していた。この二次側戻り配管を見ると、焼損痕跡がなく、爆発と同時に抜け落ちものと推定され、緩んでいたと認め
 られた。
  関係者供述から、直近の点検時に潤滑油系統の配管から漏油が認められたことから、修理していたことが判明した。
  自家発電設備室 火災はエンジン排気部    格納庫(エンクロージャー)内の設備配置図
    ガスタービンの断面図と潤滑油配管     エンクロージャー内の焼損部と漏油箇所

 [出火原因]
 
   発電設備のガスタービン出力軸の軸受け部分の潤滑油の二次戻り配管の取付けが、点検等により接続が不完全な
  状態となり、その状態で発電設備わ起動させたことから、運転中に漏油し、その潤滑油が冷却用空気取入口から消音
  器に至る排気筒内に吸引されて滞留し、運転後の高温の排気熱で気化して、この可燃性蒸気が排気熱により発火し、
  ミスト爆発した、ものと判定された。
   この爆発で、一次側供給潤滑油配管から漏油した油が着火して、火災となったもの。


                    
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