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1, 建築現場での火災 | ||||||
建築現場の火災 建築現場で火災があると、「人がいない」ことから、まずは放火が最も疑われる。次いで、作業員の ゴミに混入したタバコからの火災が疑われる。 しかし、建築現場も完成まじかに近くなると、戸締りもしっかりしており、タバコなどの始末もきっちりと されていることが多く、電気は引き揚げ時にブレーカで落とされることから、現場の調査をしても「火源」と なるものの推定ができなくなり、仕方なく「放火の疑い」または「不明火」として扱われることが多くなる。 そこで、建築現場で、よくある「自然発火の火災」に着目して、3事案を紹介する。 2事案は、防水塗料(加工剤)に関するもので、もう1事案がつや出し塗料(ワックス)に関するものだ。 これらは、専門業者に限らず、一般人がDOYショップやネットで入手可能な材料であることから、日曜大 工として施工される例もあり、新築現場だけでなく、建物の補修全体にも広がっている火災事例である。 [現場調査時での視点] ・ 「焼損物件」の火点付近とされる所に「ウエス類のゴミ」が出されていなかったか。 ・ 工事の施工として、塗料(加工剤、ワックス)が使用されていなかったか。 ・ 未使用の塗料が確認され、自然発火性の表示がなされていないか。 ・ 自然発火の条件として、時間的な経過の妥当性があるか。 これらのことについて、現場見分と供述を確認することが、火災原因調査のポイントとなる。 なお、この種の自然発火は、出火事例から見て、季節や温度などにあまり左右されていないが、どちら かと言うと、4月末から6月ころの乾燥期に発生頻度は高くなる。 以下の事例は、東京消防での火災事例を引用しているが、「住宅用塗料(ワックス)の染み込んだ布」か らの出火事例として、他の都市で報告されており、潜在的にはかなりの件数がある。 ・平成5年 1993' 9月 京都消防「ワックスからの火災」 ・平成18年 静岡市消防「住宅用ワックスの染み込んだ布の火災」 消防科学総合センター・火災原因調査シリーズ事例No41 |
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2, 防水塗料(加工剤)の火災 |
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防水塗料(加工剤) 耐火建物の屋上などではアスファルト防水、シート防水などが用いられるが、一般住宅のベランダなどで は、人の歩行が可能で耐久性のあるFRP防水が多く用いられている。 1. FRP防水は、主剤となる「液状の不飽和ポリエステル樹脂」に硬化剤を加えて混合し、この混合物をガラス 繊維などの補強材と組み合わせて一体にした塗膜防水工法である。出来上がった防水層は継ぎ目のない シームレスな構造で、灰色の表面色となる。 2. FRP防水は、強度が大きく耐久性に優れたFRP(繊維強化プラスチック)を防水分野に応用した工法で、軽 量かつ強靭で耐水性・耐食性・耐候性に優れていることが特長である。 特に、軽量かつ強靭であるという特長から、人の歩行が可能でベランダ防水として向いている。
主 剤: 不飽和ポリエステル、スチレンモノマー、(酸化チタン)等 [第四類第二石油類系] 硬化剤: MEKPO(メチルエチルケトンパーオキサイド) [第五類第二種自己反応性物質(指定数量100kg)] 不飽和ポリエステルは、液状であるが、硬化剤によりラジカルを発生させて硬化し、ガラス状の不溶不融の ポリマーとなる。 FRP(繊維強化プラスチック)用樹脂として最も一般的なものである。ラジカルの重合反応に 際して、発熱を伴う。 ( 不飽和ポリエステル樹脂は、構成分子の主鎖にエステル結合と不飽和結合を有する化合物の総称で、硬化 剤の存在下でモノマーとラジカル重合して高分子化する。 不飽和ポリエステル樹脂に対して、有機過酸物が分解 して反応性の高いラジカルが発生し、このラジカルにより重合が開始され、合成樹脂(プラスチック)となる。 この時の重合反応により発熱する。 JIS K6901(液状不飽和ポリエステル樹脂試験法)では、硬化剤の重合反応の発熱温度は、 硬化剤の添加比率と温度 ; 1%→ 123℃、 2%→ 163℃、 3%→ 170℃ とされている。 主剤の不飽和ポリエステル等は、計測値では引火点31℃、発火点490℃である。 硬化剤(MEKPO) は、メチルエチルケトンペルオキシド(メチルエチルパーオキサイド)は、商品名ではパーメックと も呼ばれる。過熱などを端緒に発火爆発する性質の危険物であり、その取扱いには注意を要する。 通常は、2%の範囲で添加して使用される。主剤と硬化剤を撹拌させる重合反応により発熱をするが、その発熱 をきっかけとして、MEKPOが単独で分解して発火することもある。引火点は72℃で、125℃~195℃で爆発の危険 性がある。40℃以上で分解し、金属・強酸・アルカリに触れて場合、急激な分解または自然発火する。 また、主剤と硬化剤と併せて「促進剤」が用いられることもある。促進剤はナフテン酸コバルトなどが用いられる。 |
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3, 防水塗料(加工剤)の発火による火災事例 | ||||||
撹拌時に発火した事例 事例1 経過 ○ ベランダ防水作業中に、作業員が半分ほど塗り終えた後に、塗料が足りなくなったことから、18ℓ缶に主剤を1ℓ継ぎ 足して、その中に硬化剤を適当量を入れている。 ○ 作業時には、主剤と適量の硬化剤を入れ撹拌し、ローラー(回転刷毛)と刷毛を用いて、塗装作業を繰り返し、そのう 塗料が足りなくなったので、その上に主剤を1ℓ程度を入れ、その上から硬化剤をローラーにかかるように入れ、さらに、 また同様にローラー上に硬化剤を継ぎ足しをしたところ発火した。 ○ 主剤と硬化剤にそれぞれライターを近づけたが発火は、しなかった。 原因 使用途中に1時間半に渡って継ぎ足して使用していること、ローラーなどの蓄熱されやすい物品に、さらに硬化剤を注い だことから硬化剤のMEKPOが発火し、主剤の中のスチレンモノマーなどが着火し火災となった。
経過 ○ 建築材料として使用した塗料材等が複数種類余ったので、これらをまとめて廃棄するため、18ℓ缶に無意識に主剤約4.5kg と一緒に、硬化剤を約4kg混ぜて詰め込んでいた所、「ボン」という音を立てて燃え上がった。 原因 ○ 主剤の重合反応につれて硬化剤(MEKPO)自体が分解し、さらに廃棄物内の他の不純物などにより促進され、爆発的に燃 焼した。 事例3 経過 ○ ブリキ缶容器が腐食して「硬化剤(MEKPO)」が染み出ていたのをウェスでふき取って、容器に敷かれていた新聞紙と一緒に ポリ袋内に捨てたところ約15分後に出火した。この場合は、MEKPOが鉄さびなどの不純物と反応して分解発熱して、出火している。 原因 ○ ふき取ったウエスに付着した硬化剤と新聞紙等に付着したブリキ缶の鉄さびが反応して発火した。 ★ 事例1、2、3 は、硬化剤が主剤との重合反応をきっかけとして、それ自体が分解を始めて自己反応により発火している。 硬化剤は、単独ても十分に危険であることを踏まえた取扱いが求められる。 |
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4, 防水塗料(加工剤)が染み込んだウエスからの火災事例 | ||||||
染み込んだウエス類から出火事例 経過 ○ 耐火造4階の建物で、塗装業者が防水作業で残った塗料を18ℓ缶にいれたまま地下の残材置き場に放置して 帰宅したところ、出火した ○ 18ℓ缶に主剤2kgに対し、硬化剤40g (比率2%)に混合し、中にウエス、軍手、養生テープなどを入れて、経過を観 察すると、44分20秒後に白煙が発生し、発煙から1分20秒後に発火した。 塗料の温度は199℃となっていた。 原因 防水用塗料とウエスなどを一緒にして放置したため、防水用塗料の重合反応により発熱し、その発熱により蓄熱が 促進されて発火した。
★ 本事例では、主剤と硬化剤の撹拌後の重合熱により、ウエスなどが蓄熱されて出火するもので、出火までに時間を要する。 |
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5, つや出しなどの住宅木工用塗料(ワックス)の染み込んだウエスからの出火 | ||||||
つや出しなどの住宅用塗料(ワックス)の染み込んだ布からの火災 ☆ ドイツで製造されている植物油系塗料(ワックス)や日本のゴマ油を含んだ植物油系塗料などは、ぼぼ100%自然に近い 塗料として、住宅室内の仕上げ材塗料として多く用いられている。 外国製製品は、商品名が、OSMO COLOR 、WATOCO 、 MELDOS などがある。 なお、これらの製品には、わかり易い注意表示がなされ、説明書にも「廃棄方法」の注意書きがなされている。 「注意書き」には、使用後のウエス類は必ず水に浸して、濡れた状態でビニール袋に入れて廃棄することとなって いる。 経過 1 ○ 建築作業員が床、壁等に塗布した仕上げ用つや出し塗料を使用した後、その時に使用した塗料の染み込んだウエス等 をビニール袋に入れて捨てて帰宅した。その後、10時間後に出火した。 2 ○ 建築作業員が、外壁用の木材に塗料を塗布した後、作業で使用した塗料の付着したぼろ布をビニール袋に入れて帰宅し た。その後、8時間して出火した。 原因 植物系油の染み込んだウエス類がビニール袋に入れられて8時間~10時間後に出火する。 この塗料は、アマニ油、ひまわり油、大豆油などの植物系の油が主体で、溶剤としてエチルアルコールを使用している。 アクリル系塗料と異なり、木材に浸透して塗布されことから仕上がりが良く見える。
★ マッサージ油やサラダ油などが含有したタオル類の自然発火は、いずれもが乾燥器などで高温(約60℃以上)に 「余熱され」て、その余熱を前提として、蓄熱されて発火に至る。 しかし、建物の仕上げ材用の植物油系塗料(特に外国製の場合)には、塗料の植物油(アマニ油等)の乾燥を促進させ るために、金属塩としのマンガン、コバルトなどの重合と酸化を促進させる成分が添加されていると思われることから、 「余熱がなくても」自然雰囲気の中で、自己発熱して蓄熱し自然出火する。 火災事例としては、8時間以上の長時間後に、ビニール袋に入れるなどして保温された状態で出火することが多い。 いずれにしても、余熱がなくても自然発火することから、ちょっとした注意を怠ると火災につながる。 |
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