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A2-02 06.09.01 改11.01.16
1, たばこ | ||||||||||||||||||||||||||
★ たばこ火災 「たばこ火災」ほど、火災調査にとって、普遍的でありながら“難しい”火災原因もない。 火災としては本当に多くあり、事例を探せばいくらでもある。しかし、延焼火災の調査現場で最終的に「たばこ」と判定 する際には、躊躇することも多くあり、「不明にしょうかな!」と思うことがある。 火災調査員の第一歩が「たばこ火災」から始まると言っても過言ではない、しかし、最近はたばこを吸わない 調査員も多くなり、「たばこ(喫煙)の生活習慣」に対する洞察力が落ちていることも確かである。それこそ、灰かきの 途中休みに紫煙をくゆらせて、警視庁捜査員と忌憚のない議論・考察ができるのが、このタイムなのだが。今は、近隣 者等の喫煙に対する“眼”を意識して、火災現場周辺での喫煙が難しいなっている現況は、何ともいたしかたない。 さて、その火災調査の第一歩は、テキストとして昔し読まれた塚本孝一氏の「火災原因調査入門」(1981年版)で も始めのところで論述され、「たばこと布団の火災」として、たばこの着火と発炎に係わる実験写真を掲載している。 さらに、良く読まれた京都市消防局木野村健一氏「火災調査員へのアドバイス」でもたばこが紙屑入れに入れた 時の出火実験のデータが掲載され、その調査要領が記されている。 そして、今の火災調査のバイブルとなっている「火災調査教本」第6巻では「たばこ」だけで45ページ近い分量を 書き込んでいる。この中の様々な実験は、過去からの積み上げて来たもので、教本の表6のたばこと木綿製座布団 の実験は、昭和56年当時のものだ。で、今の座布団は、そのほとんどが表7のとおり「化繊混毛」なので、たばこが落 下した状態での「着火はしない」のが普通だ。 しかし、稀に、老舗の料亭、旅館の座布団、仏間の前の座布団などの 火災で、古くからの「木綿製座布団からの火災」として出くわすこともある。 さらに、屋外でのたばこの着火性挙動は別物となる。 つまり、たばこ火災ほど、着火物とその環境によりさまざまなバリエーションがあり、そのバリエーションに相当 する様々な火災現場がある。単に、実験結果から「検証により」判定するとは言えないばかりか、現場には証拠物も乏 しく、結局「焼けと関係者の供述」をたよりに、調査員の経験がものを言う世界となる。 ・・と言うことを、念頭に置いていただいて、話しを進めていきます。 |
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★ たばこの喫煙
無規制時代 昭和40年代は、電車・観光バス、飛行機とあらゆる乗り物が喫煙でき、会社の会議室では資料配布の前に灰皿 を配置するのが一般的であった。屋内で喫煙できないのは、当時から消防の指導を受けていた劇場・映画館など であった。およそ、その消防署でも火災現場が鎮火すると、ポンプ車の所で一服してから、引き揚げ作業が始まっ ていたし、派出所でたばこを燻らす(くゆらす)お巡りさんは良く見かけたものだ。 分煙導入時代 昭和50年代となって、それまで8割近い男性喫煙率は、減少し始め7割程度となり、平成になると6割と減少した。 欧米の禁煙運動の表れから、1976年8月には東海道新幹線で部分喫煙となり、1978年には航空路線も追随、 1982年地下鉄の朝夕禁煙、1987年(昭和62年)には山手線の原宿・目白の駅構内禁煙、東京・上野地下ホーム 禁煙などの規制が、交通機関の苦情対応と安全運行と相まって進められた。特に、外資系や外国との関係会社 では、WHOの勧告を受けて、社内の部分禁煙が促進されるようになり、分煙と喫煙室(席)の考えが一般化した。 そして、1987年11月のロンドン地下鉄でのたばこ火災を契機に、さらに促進され、1988年には地下鉄は全駅構内 「禁煙」、日本航空も2時間内空路は「禁煙」の措置を取るようになってきた。そして、1992年(平成4年)8月の 山手線全駅の終日禁煙により、次の時代へと移る。 分煙強化時代 1993年(平成5年)から2001年(平成13年)では、男性の喫煙率は5割となった。女性は常に1割を保持している。 室内分煙は、場所や席の指定でなく、区分を明確にして密閉室とするようになり、1998年には航空路線の全面 禁煙となった。屋外の喫煙は、問題ないとされたが、室内では厚生省の指導指針などに基づき、明確な分煙を強 いられるようになった。会社でも、喫煙室の区画工事が進み、室内の灰皿は取り払われた。 喫煙罪悪時代 2002年(平成14年)から2007年の男性の喫煙率は、4割台となり、少数派に転落した。さらに2008年(平成20年) では3割台となり、都心部の成人男性では「吸わない人」が一般的となってしまった。ここにきて、平成14年に千代 田区が「歩きたばこ」に対する罰則の条例を制定し、平成15年厚生省の「受動喫煙禁止」の通知により、およそ公衆 の集まる所では喫煙は禁止され、喫煙室は別に必ず設置するなど、喫煙禁止が一般となってきた。 路上喫煙禁止条例は、そのももの条例は存在しないが、環境条例等にとりこんで、「歩きたばこ」を規制した。 この動きは、室内から屋外に及んだことから、公共施設などは室内からさらに進んで「敷地内禁煙」となっ来た。 さらに、2009年神奈川県の受動喫煙防止条例のように、単独の条例もできるようになった。 今(2011年1月)や、建物の喫煙が緩和されてるJTビルと会議等でもたばこを喫って、話が出来る「自民党本部ビル」 ぐらいが喫煙者に配慮(?)した建物となっている。 |
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たばこ火災の年代別推移 | ||||||||||||||||||||||||||
(火災件数、死者は年の変化が大きいので5年単位で見た)
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★ たばこの燃焼 | ||||||||||||||||||||||||||
その仕様に従ったがうまくいかず、やっとできた思いがあります。 さて、たばこの燃焼は、自然燃焼には主として紙巻き部から酸素が供給されるため、ハマキでは吸い続けないと 立ち消えする。また、灰の部分が「引火防止網」的の役割と「酸欠」状態を形成するため、高温の中心部の温度が そのまま可燃性蒸気などの雰囲気状態での「発火温度」となることない。雰囲気状態では、外周部の温度が影響 する。ただし、屋内的条件の場合であって、屋外においては「有炎火源」となり得るので、可燃性蒸気が滞留して いる場所に「たばこ」があると着火する恐れがあります。このことは、たばこ1本で、枯れ草が燃えるのと同じです。 [引火の可能性] たばこを発火源として、可燃性蒸気内で引火するかどうか? 実験と言っても、吸っている状態では、たばこの燃 焼は、不安定なので、一概にその状態を災害現場全てにあてはめることができない。 考えられることは①たばこは、電気火花(2,500℃<)のような高温でなく、せいぜい850℃程度しかない。 ②スモタ゜リング(無炎燃焼)ゆえに、火源の火種部が、局所的にバラバラの温度領域の集合帯であり、その近傍 を通過する可燃性蒸気も、吸引部に近い高温度ほど、流速も早くなるので、引火しにくくなる(可燃性蒸気の流速と 引火温度の関係グラフから、流速が早いほど高温の火球が必要となる。) ③同じく、800℃以上とされる高温領域が非常に狭く、実際は外周部で紙が燃焼している温度の250℃で代表され る温度が「火源」と見なされる対象となる。 ④スモルダリング(無炎燃焼)は、火源近傍で気体の入れ代わりが少なく、燃焼部の周囲に不活性のCO2ガスを 滞留させるため、可燃性ガスの浸透を防止又は拡散させてしまい、有効な爆発限界に至らない。 ⑤たばこは、火源周囲の「灰」の影響で、灰が火炎伝播に対して阻害要因となる。炎が金網(疎密により違う)で 火炎伝搬を阻止するように「火炎のクエンチング効果(負の複数の相乗効果)」により、火炎形成を阻害するものと 思われる。 これらのことから、屋内的条件では、可燃蒸気に対する発火源となりにくいと言えます。
高温部790℃、周辺部380℃、ニコチン6mgとなる。 水平におくと12分~13分で燃え尽きる。
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たばこの燃焼 居室内のたばこによる火災は,始めから炎が立ち上がるのではなく,布団やゴミなどの着火物に燃え込んでから,炎と なって立ち上がる。たばこの燃焼を、古くは“おき火”とも言われるような燃焼で、火災調査では“無炎燃焼”と呼ぶが, 火災燃焼分野ではこのような燃焼形態を“スモダリング(Smoldering)(くん焼)”と表記している。 たばこと紙屑の 出火研究は古くは昭和22年当時に東京大学などで行われているように,古くて新しい課題でもある。たばこ火源として は,このスモダリングとしての性格とマッチと同様の“有炎燃焼の火源”としての性格がある。 (「くん焼(スモルダリング)と火災被害」火災学会誌Vol.39 No.5(182)、東邦大学佐藤研二先生(と平野先生) 「くん焼(スモルダリング)の発生、伝ぱ機構と性質」火災学会誌Vol.39 No.6(183)、茨城大学鈴木鐸士先生の論文を) 一般の火災では,固体(可燃物)は“熱”により熱分解し可燃性ガスに酸素と反応した炎が形成されて,火炎伝ぱが進行 することになるが,スモダリングでは熱による固体残留分が直接,酸素と反応して固体表面で燃焼することになる。 たばこや線香などの燃焼の特徴であり,燃焼している炭素を含んだ固体残留分がその熱を下方に伝え,熱分解を伝ぱ させることにより燃焼を継続させる。スモダリングとしては,他に布団の燃焼も最適な事例である。 スモダリングは可燃性ガスによる発炎燃焼でなく,固体表面での燃焼であることから,空気の通気性が燃焼の継続に 影響する。紙巻きタバコはそのまま燃えつづけるが,通気性のない葉巻では消えてしまうことでも分かる。
燃焼による一酸化炭素等の有害ガスを発生させ,これらの有毒ガスが大気中に放出されて液体の微粒子を形成し多量の 煙がでる。このため,スモダリングの煙は,タバコの“紫煙”や線香の“お香”と呼ばれている時はよいが,一般的には人体へ の危険性が高いガス又は微粒子である。 タバコによる布団の着火・燃焼実験をすると頭痛を訴える実験員が多くでるのは周知のことである。 |
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参考資料 1) 「新火災調査教本」 第6巻 2) 書房「たばこデータパル」(旧専売公社)丸善出版 3) 火災学会誌 No182~ 186の「スモダリング」の連載記事 4) 秋田一雄「火のはなしⅡ」 5) 防炎ニュースNo125 「羽毛布団のスモルダリング 特性に関する研究」概要 6) 岩澤昭一,橋本武彦「たばこの温度測定結果」92'3 東京消防庁調査課 7) 塚本孝一著「火災原因調査入門」 8) 木野村健一著「火災調査員のアドバイス」 9) 東京消防庁監修「火災原因調査事例集」昭和56年版 10) 東京消防庁監修「火災原因事例集」昭和59年版 |
2,たばこと着火物の関係 | |||||||||||||||||
着火物の出火時間帯
件数を示したものです。少し古い統計数値ですが、着火の関係は今(2011年)と大きく相違することはないと考えます。 上・左図から、布団は1時間程度の時間をおいて、出火することが最も火災件数が多く、1時間以上2時間未満 がピークとなる。上・右図では、布団は30分以上45分未満も多いが、全体の件数では、1時間を超えた時間帯に「出火 (覚知)」している。衣類も似たような傾向です。 火災現場では、朝、たばこを吸って布団を片づけて、外出した10時頃 に出火する火災事例であり、寝る前にすった場合は、就寝して夜中の1時頃に出火する火災事例となる。 紙屑、ゴミ屑などは1時間以内の出火がほとんどで、2時間を超えると少なくなる。その1時間の内訳を見ると、紙屑な どは15分以上から45分未満がピークとなっている。 火災現場では、外出前にたばこを吸って、ゴミ箱に捨てて、 外出後30分程度の出火となる。 つまり、火災調査上は、家人が外出して、1時間を超えていれば「布団類」、30分前後なら「紙屑類」からの出火の可能 性が高いと言うことになる。 もちろん例外はいくらでもあるが、たばこを発火源とした場合の「着火物」の出火時間 は、おおむねこのような時間帯で出火すると考えると分かりやすい。 タバコは、屋内では捨てられた状態での経過時間に注意
の実験を通して、火災現場調査のコツを教わると始めての現場でも、スムーズに対応出来るようになる。 ① 「紙屑入れ」ゴミ類 無風環境下における「発炎」の実験として,ゴミ箱にたばこを入れた実験では,「新聞紙,ちり紙等を切り裂いて入れる」 「紙屑と綿ごみ等を入れる」「吸殻を数十本と新聞紙等を入れる」など,たばこによるスモダリング(無炎燃焼)と相性の よい綿や吸殻,糸屑などを入れると立ち消えることなく燃焼を継続し,ある程度の大きさとなり周囲の可燃物を着火・発 炎させ,炎として立ち上がる。 火災調査教本等の文献や再現実験では,その場合のゴミ箱の発炎経過時間は,8分~17分で,だいたい「15分 前後がゴミ箱からの火災事例の発炎に至る時間」とされる。ほぼ、統計上の数値とも一致する。たばこによるゴミ箱の 火災は、火災現場での関係者の供述に従って実験することが重要である。それは、どのような状態でたばこがゴミ箱 の中に捨てられたか、と言うことに尽きる。
② 「布団」綿など 布団の上に落下した場合には、出火までに数時間以上、あるいはそれ以上の時間を必要とする。 たばこを布団表面に落とした実験結果では、座布団で(表地 100%綿、中綿 100%綿)で11~12mm/min、布 団で(表地 100%綿、中綿 100%綿)で6.5~12mm/minと計測されている。 また、他の実験結果でも布団では(表地 100%綿、中綿 100%綿)6~7mm/minと報告されている。まさに、 スモダリングそのものである。ただし、実験条件として布団の乾燥度により時間の長短が生じるので、室内の雰囲 気温度・湿度と被試験体の状態をチェックする必要がある。 「たばこの布団上での落下では、概ね、1時間に直径が30~40cmで水平方向に延焼していく」こととなる。 さらに、垂直方向では4mm/minの速度で炭化が進むとされており、1時間弱で布団の下の畳が焦げてくる。 この下の畳の焼損を実験した時間経過の資料は見当たらなかった。多分、根太まで達するには、3~4時間を要 すると推定される。 なお、現在、座布団は表地が化繊を、中綿もポリエステル混綿の綿を使用しているため、たばこを座布団の表面に 落下しただけでは燃焼が継続しない。 現在は「材質のすべてが綿」である布団は、婚礼布団などを除き、あまり販売されていない。 布団も羽毛、羊毛混毛、化繊混毛などさまざまなタイプがあり、一言で「何時間ぐらいで燃える・燃えない」とは言 えない。ただし、布団は、混毛あるいはマットレスなどと記載されていても、表層部に「真綿」を使用していること が多くあり、羊毛混毛やマットレスだと言っても「燃えることがある。」 また、たばこは、上に静置した実験では着火しないが、火災現場の再現のように、巻き込こむと「着火しやすく なる」。 ③ 「畳み」の場合 畳みは、畳みおもてにたばこを静置させた状態では、燃焼していかない。そのため、畳の合わせ目に静置くと燃焼して いくと記載(火災調査教本)されているが、これも現在では井草の中に折り込んでいる化繊などの影響で、実験すると 「燃えていかない」ことが多い。 もちろん、畳縁(長い方の端をまっている生地)に置くと、ほとんど化繊が使用されて いるので、燃えることはない。また、畳みも「井草畳み」だけでなく「発泡スチロール入り」「合板ボード入り」「段ボール紙 入り」などがあり、厚さもマンションサイズだとわずか2cm程度のものもあり、実験により、たばこで独立燃焼に至ること は難しい。 実験で、たばこで畳みに着火させるには、①と同様に、火災現場での供述内容を参考にすると「着火」させ ることが可能となる。つまり、たばこと着火物の相性を踏まえて、無炎燃焼が継続されるようにすることだ。 なお、「畳みの燃焼」としては、1991年8月に東京消防庁消防研究所から、1992年6月に京都市消防局研究課から 実験報告がなされている。それらは、燃焼時の挙動と有毒ガスの発生に関することである。特に畳にサンドイッチされた 材質の燃焼が問題とされる。 ④ たばこと紙 たばこと「紙」だけを取り出して着火実験している報告として、平成14年全国消防技術者会議で「たばこによる可燃物 への炎症性状わ解明するために行った委託研究成果について」として東京消防庁から報告されている。紙として、 クラフト紙、新聞紙、雑誌紙、コピー紙を用いて、たばこにどんな状態で置いた時、炭化する経過である。火災調査的 にはあまり必要とされない。として、4 ★ タバコの火災は、着火物と環境により、燃焼形態が有炎・無炎に別れ、また出火時間も非常に広いひろがりがある ため、燃焼現象だけを見ても原因の特定が難しい面がある。 |
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たばこは屋外では「有炎火源」となる。 たばこの内部の温度は800℃近くとなるが、外周部は250℃のため、上記載のように、屋内ではこの250℃と言う微妙 な温度ゆえに、着火物に着火する場合もあるが、着火しない場合もある。つまり、たばこの温度よりも「着火物に対 する燃焼時の形態」が原因調査上のポイントとなる。 屋外では、例えば、1本のたばこが転がって側溝のゴミに落ちた時、枯れ草の上に転がった時、河川敷の枯れ草の中に 放り込まれた時、また、トラックの車窓から投げ捨てたばこが荷台に入って荷台から出火する時など、容易に火災になる のが「有炎燃焼物としてのたばこ」です。 屋外を想定した実験では,タバコから紙への着火に際しては1.7m/s の風速時に10回試験中7回が発炎している, ひき粉への着火では微風で10回試験中2回が発炎している。 乾燥し、適度の風があればたばこは微小火源と言うより 有炎火源として捉えるべき発火源となる。 全国統計でもたばこ火災全体の約8%が林野火災で、山林下草・落ち葉に投げ捨てられたタバコから出火している。また、 東京消防庁の統計でもその他の火災として計上されているたばこ火災の着火物が、枯れ草・落ち葉・芝生・立木であり、 平成21年(2009年)で32%を占めている。 たばこ火災は、屋外でこのような着火物に対して裸火として作用している。 |
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★火災研究との相違性 「たばこの火災」ほど、実際の現場と相違する研究報告が多いのには、びっくりする。 例えば、平成14年火災学会「初期火災における着火物とその燃焼性状」の報告(消防総プロの調査)では、ゴミ箱の 火災は、6分から10分となっている。また、平成16年火災学会「住宅における初期火災の典型パターンとその再現」 も同様に考え込んでしまう。ただし、いずれも、発煙量などを計測することが主眼であるから、着火方法はどうでも 良いとは言えるが。 着火方法は、「ゴミ箱のたばこによる火災」としての実験では、「火の点いたたばこ4本をまと めてテッシュで包んでゴミ箱の中に入れる」、「布団とたばこ」では「火の点いたたばこ5本を敷布団とかけ布団の 間におく」とある。 こんな条件は、「放火火災」以外にはあり得ない。 過去の研究機関の多くの実験は、それが「住宅火災の出火の火災性状」などと言われると、色あせたこじつけの ような実験で、ほとんど「現実的にはありそうにない、放火火災のような実験」となっている。 さらに、その実験結果から、「避難時間」の計算式を立てている例もある。 最近は(2010年12月)消防研究所センターの低燃焼性たばこの「ゴミ箱火災」は、ラウンドロビン試験として、「火の 点いたたばこ1本と点いていないたばこ15本を、テッシュと入れる」着火方法としている。これなら、火災現場と一致 する。 なぜ、今までの研究機関はこのような実験をしていたのであろうか? 上のグラフのような、たばこと各着火物との出火時間別火災件数などの統計結果を利用しないで、単に「たばこと 着火物」の火災件数とか、「経過」を集計しているだけの資料を基にしたため、火災の実態に対する視野が狭い実験 となっていた、と思われる。 |
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参考資料 1) 「新火災調査教本」 第6巻 2) 東京消防庁統計書 「たばこ火災の着火物と出火時間」1984年~1993年 3) 東大 防火研究室「たばこによる紙屑の出火に関する研究」 災害の研究 第1巻 4) 東京消防庁 第三期鑑識技術研修「実験レポート集」 5) 東京消防庁「火災データパル」1995'03 6) 東京消防庁「火災による死者の実態」平成20年版 7) 第50回全国消防技術者会議資料 8) 火災学会 研究発表会概要集 平成14年、平成16年 9) 月刊消防 1997年7月、8月号 |
3, たばこ火災の事例 | ||||||||||||
「外出前にはガス器具は全て止めていた。居室で吸っていたタバコをガラスの吸殻に入れ,その中には十数本の吸殻が あった。これを流し台の水道で水を入れ,側のゴミ入れに捨てた。」との供述であった。 出火原因の判定 流し台の手前の床板の燃え抜けがあり,台所全体の焼損をその部分を基点とすると焼けのつながりが説明できること, 出火前の関係者の供述によるタバコを捨てたゴミ入れの位置と一致し、捨てたとされる時間と出火時間との間は20分で あり出火を推定させるに十分な時間であり、また,台所内の他の火源となる器具の使用が否定され,施錠状況から内部、 外部からの放火も否定されることから,たばこによる火災と判定する。 |
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たばこ火災の統計分類について 本件火災事例では【発火源:たばこ 4201 ,経過:不適当なところに捨てる 64 ,着火物:ごみ類(紙類)282 】 発火源はもちろん「たばこ」です。 経過としては、「消したものが再燃32,不適当なところに捨てる64,消し忘れ・放置65」などが考えられるが,「再燃」 は、火災(人の意に反して出火した)となった対象に対して消火した場合であって、たばこは「火を点けて消している。」 がもともとは「火災」ではないので、たばこ火災で「再燃」の経過コードをとることは誤りです。 同様に、廃材などを 燃やして、消したつもりでいたが又、燃え上がって他の立ち木や建物を燃やした場合も消した行為はあっても「再燃」で はなく、「残火処理の不十分67」です。たばこ火災の統計で、経過に「再燃」を入れているのは全て誤りです。また、 「放置・消し忘れ65」も火災危険が通常存在することを知りながら放置した天ぷら火災などに適用されるもので,本 火災のようなたばこ火災では「不適当なところに捨てる・投げ捨てる 64 」を適用する。 経過分類は、原則として「現象・状態・行為」の順で取り扱うことを建前としており、「投げ捨て64」の行為より、上位 の熱的現象の「再燃32」を取りたいところですが、もともと「火を取り扱っている事象」に対しては、その直接の原因とな った「行為」を経過分類とするとなっています。これらは、たばこ、タイマツ、炭火、など「裸火」に起因する対象では、 「行為」が直接の火災原因となることが大部分であることから、それらの発火源コードの「42 たばこ・マッチ」の場合 は行為者の行為に着目した統計分類となる。 着火物はゴミの紙類です。 |
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★ 火災原因調査の留意点 これらのゴミ箱のたばこ火災などは、いずれも「灰皿の吸殻」を入れたことによる。 火災原因調査でのポイントは、繰り返すが無炎燃焼となるべき「着火物」の存在であり、たばこ火災の多くが、「吸殻」を 第一着火物として、1本のたばこの火が継続して“数本以上の吸殻”を火の塊りに拡大させ、その後に、紙やゴミに着火 するのがプロセスである。 このことは、「1本吸ったたばこ」だけををゴミ箱に入れたからと言って、火災にまで至ることはほとんどない。たばこの火 が燃えて広がるのに最も相性の良いのが、たばこである。 つまり、隠れたばこにる火災などと言う、高校生が吸うたばこは、密かに吸った「1本のたばこ」でなく、数本以上を吸って、 その吸殻をまとめて、捨てることによって起こる。それは、行為者に「喫煙習慣」があることが前提となる。 |
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布団のたばこ火災事例
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★ 原因判定上の留意点 ・着火物の存在とたばことの着火性の関係 ・喫煙習慣〔行為者の喫煙量,灰皿,ライター等火源〕 ・喫煙と出火までの経過時間(着火物との関係で) ・焼損状況(焼け込み等) |
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屋外のたばこ火災
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参考資料 東京消防庁 「火災の実態」平成19年、20年、21年版 |
たばこ火災 長い論文におつきあいいただき、ありがとうございました。 たばこ火災は、始めに記したように、火災調査員の第一歩であり、そして、最も難しい退職まで続く課題です。 自分の経験と知識に従って、ズバット判定してください。 迷って、「不明」などとしないことです。 特に、行為者が男性の高齢者の場合は、必ず言い逃れします、「吸っていない!」と、しかし、現場の見分 をしっかりやって、現場から「喫煙習慣」を探り、この2つをテコに真の供述を引き出してください。 あきらめない、ことです。 ま、できたら、自分でたばこを吸って、味わってみることも必要かも? 少し古いですが、随筆「パイプの煙」の本なども読んでみてください。 |