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1. 疾患の全体像について
疾患の全体像について
市立砺波総合病院 泌尿器科 江川 雅之
女性の骨盤内には、膀胱/子宮/直腸という3つの臓器があります。それぞれの臓器が膣から飛び出してくる病気を、それぞれ膀胱瘤/子宮脱/直腸瘤と呼んでいます。これら3つを総称して骨盤臓器脱と言いますが、別名性器脱とも呼ばれています。肛門から直腸が直接脱出してくる病気は直腸脱と呼ばれ、これは男性にも起こる病気であり、骨盤臓器脱とは別の病気に分類されます。
骨盤底を支える膣周囲の筋肉(骨盤底筋)や膣を体の内部に固定する靭帯が緩むことによって、骨盤臓器脱が起こります。出産(特に難産)や閉経後のホルモン環境の変化によって骨盤臓器脱は起こりやすくなりますが、他に肥満やコルセットの使用、重い物を持つような仕事は症状を悪化させる原因となります。
鼠蹊(そけい)ヘルニア(いわゆる脱腸)は腹壁のヘルニアの一種ですが、骨盤臓器脱は、言葉をかえれば膣からのヘルニアと言えます。体の支持組織の弱い部分(膣およびその周囲)に重みがかかって、弱い部分に接している臓器(膀胱/子宮/直腸)が飛び出してくる病気です。飛び出してくる臓器とその程度によって症状は多彩であり、受診先が泌尿器科であったり婦人科であったり、また外科であったりします。明らかに何かが膣から脱出している場合は、通常婦人科を受診されると思います。しかし、最も脱出し易い臓器は膀胱であり、次に子宮、直腸と続きます。単に子宮を摘出するだけでは治らない場合があります。
通常生命に直接関わる病気ではありませんし、羞恥心が先にたって多少不都合があっても、病院へ行くのは大変勇気がいると思います。
受診のきっかけは、何かが膣から出てくることに関連した症状であることがほとんどです。何かが下がってくる感じがする、何かが触れる、歩きにくいという症状以外に、膀胱では切迫感(急に尿意をもよおして漏れそうになる)や尿失禁が、直腸では高度の便秘や排便時に会陰部や膣のあたりが膨れてくる、会陰部を手で圧迫しないと排便できないといった症状が起こります。さらに、これら症状のいくつかが重なって起こることもあります。このため、何科を受診したらよいかが分からなかったり、受診したとしても、受診先の医療機関に骨盤臓器脱の診断や治療に精通した専門科がいないため、適切な治療を受けられないことがあります。
最近では、骨盤臓器脱の診断と治療を専門に扱う医療機関が徐々に増えてきました。また、メッシュを使った再発率の低い新しい手術方法も普及しつつあります。しかし、メッシュ手術も万能という訳ではありません。まずは正しく診断し、病状に応じた治療法を選択することが重要です。
疾患の性質上、膀胱を扱う泌尿器科、子宮を扱う婦人科、そして直腸を扱う外科それぞれの専門的知識と技術を結集して診療にあたる必要があります。一人の医師が3つの臓器すべての専門家というわけではありませんので、治療にあたっては、ご自身の症状に関わる臓器の専門的意見を良く聞いた上で、治療方法を選択することをお勧めします。
文責:市立砺波総合病院 泌尿器科 江川 雅之
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