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4. 婦人科専門医の立場から

婦人科専門医の立場から
市立砺波総合病院 産婦人科 野島 俊二

骨盤は排尿・排便・性交・分娩など人間生活を営む上で極めて重要な役割を担う部分です。女性骨盤に関する医学的アプローチをするのが産婦人科であり、お産やガンだけを扱うものではありません。その骨盤の不都合な状態のひとつに骨盤臓器脱があります。そのため婦人科を受診する機会が多い疾患です。
ただ、ガンのように命にかかわらず、身体的に深刻な激痛があるわけでもなく、産婦人科医からもその専門性が低く見られがちであり、片隅で扱われてきた領域でもあります。しかし、むしろ精神的苦痛は大きく、熟成すべき人生の後半に暗雲立ち込めることにもなりかねない疾患です。特に日本人女性は世界で名立たる長寿であり、更年期以降には第2の人生が開かれているとまでいわれ、その扉を開く頃にちょうど現れる疾患でもあります。
経膣分娩や更年期以降の低エストロゲン状態により骨盤内臓器の支持機構が破綻することが成因とされていますが、それだけでは説明できないこともあります。治療法としては、子宮脱に対しては膣式子宮全摘術、さらに前後の膣壁縫縮を加えた手術がなされてきました。性交が無いと思われる場合には膣閉鎖術も行われ、膣脱には仙棘靭帯固定術などが行われています。
手術不適格例や手術を望まない場合には、エボナイト製やポリ塩化ビニル製装具(ペッサリー)を膣内へ入れる方法も行われています。補助療法としてはホルモン補充療法やKegel体操などもありますが、本来産婦人科は外科の一専門分野であり、その手技に慣れており短期間で効果が高いことを知っている外科的治療法を選択することが多いのです。
しかし、婦人科で扱う手術のもっとも多い子宮全摘術後に起こる腟脱は10〜15%あり、特に子宮脱のために子宮摘出した場合はそれ以外の場合の約5倍リスクが高くなると言われています。良かれと思い行った手術での術後膣脱は長期予後を考える上でも悩ましい問題です。従来法は形態的に修復をなすことを主眼とし、短期予後は十分評価できる方法ではあります。機能的評価や長期予後に関しては充分なデータが取られているわけではなく、術後数年しての再発や新たに尿失禁を呈する場合もあります。
TVM手術も長期予後はまだ検討段階であり、過大評価されているかもしれませんが、いずれにしても婦人科医にとっては従来の伝統的な手術方法だけでは対応できないのは事実です。まずは、性器脱という限定した表現を止めて、骨盤臓器脱という診断名を用い、病状を適正に評価し、子宮摘出にこだわるのではなく個別化した対応が必要と思われます。
女性が明るい社会は健全です。まずは女性の健康のために、骨盤に関する専門家‐産婦人科医・泌尿器科医・直腸肛門科医が共同して診断・治療を継続していくことが女性の明るさにつながるのではないかと考えています。

文責:市立砺波総合病院 産婦人科 野島 俊二

 
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