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3. 大腸肛門科専門医の立場から

大腸肛門科専門医の立場から
市立砺波総合病院 大腸肛門科 中島 久幸

骨盤臓器脱(特に直腸瘤)と排便障害(骨盤底出口閉塞症) ・直腸脱について

直腸瘤(レクトシール)は骨盤臓器脱のひとつで、膣後壁から直腸が脱出してくる病気です。症状は脱出のほかに、排便異常(排便困難、残便感、便意頻数など)があり、骨盤底出口閉塞症のひとつにも分類されています。ときに同部より大腸や小腸が脱出する場合もあり、それぞれS状結腸瘤(シグモイドシール)・小腸瘤(エンテロシール)と呼ばれます。
治療法は、まず過度の息みをやめ便通調整を行います。大きな瘤だったり膣に指を入れて排便する人には手術が有効です。手術方法には、恥骨直腸筋縫縮術やメッシュを使った新しい補強手術があります。
骨盤底出口閉塞症とは、直腸や骨盤底筋群の機能異常・脆弱化により直腸肛門から便がうまく出せない病気です。直腸瘤以外に、直腸重積や会陰下垂症、アニスムスなどがあり(別紙1・2参照)、いくつかが重複することもあります。診断は排便造影で行います。治療は便通調整・肛門トレーニング(バイオフィードバック療法)・手術治療などがあります。

直腸脱は、肛門から直腸が脱出する病気で直腸瘤や脱肛とは別の病気です。他の骨盤臓器脱(膀胱瘤、子宮脱)や便失禁を合併することが多く、泌尿器科・婦人科との連携や直腸内圧検査などの機能検査が大切です。治すためには手術が必要ですが、診察・検査・他科受診の結果を総合して手術方法を検討します。当科で行っている直腸脱手術は主に3種類あり、個々に最も適した方法を選択しています(別紙3参照)。大腸肛門科医が関わる骨盤臓器や骨盤底筋群の異常に伴う上記の病気は、症状もさまざまで病気が複合することも多く、症状にあわせた治療や泌尿器科医・婦人科医との連携が重要と考えています。よく病態を理解して、適切な治療法を選ぶことが大切です。

(別紙1)主な骨盤底出口閉鎖症
直腸瘤(レクトシール): 息み時に直腸が膣の後壁に向って膨隆突出する状態
アニスムス: 息み時でも直腸肛門管が開かない状態
直腸重積: 息み時に直腸粘膜が畳まれて内腔が狭くなってしまう状態

(別紙2)病状説明書(排便障害)
患者名:        様      説明年月日:   年  月  日
説明を受けられた方:本人,配偶者,子(   ),父,母,その他
診断名:                         
【排便造影検査】点線は正常の場合
安静時
<骨盤底出口閉塞症>
1. レクトシール(直腸瘤)
2. 直腸重積
3. 会陰下垂
4. 前方粘膜脱
5. アニスムス(恥骨直腸筋症候群)
息み時
【直腸肛門内圧検査】     
・最大静止圧      mmHg
・最大随意収縮圧    mmHg
・最小便意出現量    ml
・最大耐容量      ml 
・陰部神経機能
正常 障害 
片側 両側
【腸管通過時間測定】時間 (正常/遅延)-治療法-
A. 便を硬くしない
B. 長い間息まない
C. 内服薬(酸化マグネシウム・緩下剤・漢方薬・ポリカルボフィルカルシウム・その他)
D. バイオフィードバック療法
E. 骨盤底体操
F. 手術治療

(別紙3)直腸脱の手術と問題点
直腸脱は息み時や排便時に直腸が肛門から外へ翻転・脱出する疾患で、多くの場合肛門括約筋不全を合併しています。根本治療は手術療法で、100種類を越える術式が報告されていますが、当科では以下の4種類を行っています。それぞれに利点・欠点があり、麻酔法・入院期間にも差がありますので次項に一覧に示しました。
スデック手術
開腹・直腸挙上固定術(同時にS状結腸切除併施)

麻酔法 全身麻酔+硬膜外麻酔
手術時間 約2時間
再発率 1%未満
入院期間 約2週間
問題点 開腹手術必要・腸閉塞や排便障害など
アルテマイアー手術
直腸切除 + 恥骨直腸筋縫縮術

麻酔法 全身麻酔 + 硬膜外麻酔
手術時間 約2時間
再発率 5%未満
入院期間 約2週間
問題点 直腸が短くなる・便意頻回・縫合不全
デロルメ手術
粘膜環状切除 + 筋層縫縮術( + 恥骨直腸筋縫縮術)

麻酔法 硬膜外麻酔あるいは全身麻酔
手術時間 1.5時間
再発率 12-13%
入院期間 1-2週間
問題点 再発率がやや多い・便意頻回
ガント・三輪手術
注1: いずれの手術においても、肛門括約筋不全を完全に治すことは難しい。


文責:市立砺波総合病院 大腸肛門科 中島 久幸

 
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